【文献】
Suzanne M. Bal et. al.,Microneedle-Based Transcutaneous Immunisation in Mice with N-Trimethyl Chitosan Adjuvanted Diphtheri,Pharm Res.,2010年,27(9),p.1837-1847,特にABSTRACT
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
皮膚から薬剤などの送達物を浸透させ体内に送達物を投与する方法である経皮吸収法は、人体に痛みを与えることなく簡便に送達物を投与することが出来る方法として用いられている。
【0003】
経皮吸収法を用いた経皮投与の分野において、μmオーダーのサイズの針が形成された針状体を用いて皮膚に穿刺を行い、皮膚内に薬剤などの送達物を投与する方法が提案されている(特許文献1参照)。
【0004】
針状体の製造方法として、機械加工を用いて原版を作製し、該原版から転写版を形成し、該転写版を用いた転写加工成型を行なうことが提案されている(特許文献2参照)。
また、針状体の製造方法として、エッチング法を用いて原版を作製し、該原版から転写版を形成し、該転写版を用いた転写加工成型を行なうことも提案されている(特許文献3参照)。
【0005】
針状体を構成する材料は、仮に破損した針状体が体内に残留した場合でも、人体に悪影響を及ぼさない材料であることが望ましい。このため、針状体材料としてキチン・キトサン等の生体適合材料が提案されている(特許文献4参照)。
【0006】
キチンはカニやエビなどの甲殻類の殻に含まれる成分であり、キトサンはその脱アセチル化物である。キチンとキトサンとの間に明確な境界線はないが、一般的にキチンの脱アセチル化が70%以上のものがキトサンと呼ばれる。
【0007】
キトサンは水に不溶であるが、酸性水溶液には溶解するという特徴を有しており、このような水溶液から水を蒸発させることでキトサン製の針状体を作製することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の一実施形態について、
図1から
図4を参照して説明する。まず、本実施形態で製造される針状体の構造について説明する。
本実施形態の針状体1は、
図1に示すように、支持基板10と、支持基板10上に形成された針部20とを備えている。
【0020】
支持基板10は、樹脂で形成されたフィルムである。支持基板10は、針部20を十分支持可能な程度の機械強度を備えていれば材料に特段の制限はなく、例えば、セロハン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリイミド等を用いることができる。
支持基板10の材質は樹脂には限られず、針部20と同組成のキトサン誘導体を含む材料で形成してもよい。支持基板と針部とを同組成の組成物で形成することにより、支持基板と針部とを一体成形にて好適に形成することが出来る。
【0021】
支持基板10は、異なる複数種類の材料が積層された多層の構造であってもよい。複数種の材料を積層することにより、複数の材料の物性を活かした基体を形成することが出来る。
例えば、(1)針部20側に位置する上層を針部20と同組成の組成物で形成し、下層を可撓性に富んだ材料とした支持基板や、(2)上層を、反対側の下層よりも展性の大きい材料で形成した支持基板、(3)上層を下層よりも収縮の小さい材料で形成した支持基板等は、好適にロール状に曲げることが出来る。そのため、円筒状あるいは円柱状の支持体の外周面に貼り付けることで、複数の針部が立設したローラー等を形成することも可能である。
また、(4)基板の最下層を柔軟性を有する層として支持基板を形成すると、多数の針状体を、支持基板を重ねるように保管する際に、針部の破損を抑制出来る等の利点がある。各層の積層にあたっては、層間を固定するため粘着シート等の粘着層を用いてもよい。
【0022】
針部20は、キトサン誘導体を含んで形成されており、皮膚に穿刺された後に溶解して消失する。針部20には所望の送達物が含有あるいは配置され、針部が皮内で溶解することにより、送達物が皮内を経由して体内に導入される。
【0023】
針部20を形成するキトサン誘導体としては、キトサンサクシナミド、カルボキシメチルキトサン、トリメチルキトサンを用いることができ、1種あるいは複数種類を混合して用いることができる。これらキトサン誘導体は、溶解するために酸性化合物や酸性水溶液が必要なく、水に容易に溶解することができる。
キトサン誘導体は、蟹、エビなどの甲殻類由来のキトサン誘導体、菌糸類・微生物産生の植物由来のキトサン誘導体、およびそれらの材料を出発原料として用いて、生成されたキトサン誘導体であってもよい。キトサン誘導体は、皮膚に対して美容効果を示すとともに殺菌効果、抗菌効果を有するという利点もある。
【0024】
針部20は、キトサン誘導体を主成分として含むことが好ましい。針部20は、キトサン誘導体を針部に対して60wt%以上含むことが好ましい。針部20は、キトサンサクシナミドを針部に対して60wt%以上含むことが好ましい。針部20は、カルボキシメチルキトサンを針部に対して60wt%以上含むことが好ましい。針部20は、トリメチルキトサンを針部に対して60wt%以上含むことが好ましい。
【0025】
針部20は、キトサン誘導体で本質的に構成されることが好ましい。針部20は、キトサン誘導体を針部に対して90wt%以上含むことが好ましい。針部20は、キトサンサクシナミドを針部に対して90wt%以上含むことが好ましい。針部20は、カルボキシメチルキトサンを針部に対して90wt%以上含むことが好ましい。針部20は、トリメチルキトサンを針部に対して90wt%以上含むことが好ましい。
【0026】
各針部20の形状は、皮膚に穿刺できれば特に制限はなく、例えば円錐、角錐、円柱、角柱、鉛筆形状(注状の胴体部と錐形状の先端部とを有する形状)等の各種形状から選択されてよい。
針部20は支持基板10上に一本存在してもよいし、支持基板10上に複数本林立してもよい。複数の針部20を立設する場合、各針部20はアレイ状に配列されることが好ましい。ここで、「アレイ状」とは各針部が所定の態様で並んでいる状態を意味し、例えば、格子配列、最密充填配列、同心円状配列、ランダム配列、などを含む。
【0027】
針部20の先端部には、孔が設けられてもよい。孔は、支持基板10を厚さ方向に貫通してもよいし、しなくてもよい。
【0028】
針部20の寸法は、皮膚に穿刺孔を形成するのに適した細さと長さを有することが好ましい。具体的には、針部20の高さHは10μm以上1000μm以下の範囲内であることが好ましい。なお、高さHは、支持基板10の面上から針部20の先端部までの距離を意味する。
針部20の高さHは、上述の範囲内で針状体を穿刺した際に形成される穿刺孔を皮膚内のどのくらいの深さまで形成するかを考慮して決定すればよい。
例えば、針状体1を穿刺した際に形成される穿刺孔を「角質層内」に留める場合、高さHを10μm以上300μm以下、より好ましくは30μm以上200μm以下、の範囲内にすることが好ましい。
穿刺孔を「角質層を貫通し、かつ神経層へ到達しない長さ」に留める場合、高さHを200μm以上700μm以下、より好ましくは200μm以上500μm以下、さらに好ましくは200μm以上300μm以下、の範囲内にすることが好ましい。
穿刺孔を「穿刺孔が真皮に到達する長さ」とする場合、高さHは200μm以上500μm以下の範囲内にすることが好ましい。
穿刺孔を「穿刺孔が表皮に到達する長さ」とする場合、高さHは200μm以上300μm以下の範囲内とすることが好ましい。
【0029】
針部20の幅Dは、1μm以上300μm以下の範囲内であることが好ましい。幅Dは、上述の範囲内で針状体を穿刺した際に形成される穿刺孔を皮膚内のどのくらいの深さまで形成するか等を考慮して決定すればよい。
幅Dは、針部を支持基板10の面と平行に投影した際の、支持基板と接している部位の最大寸法を意味する。例えば、針部が円錐状または円柱状である場合、針部と支持基板とが接している面の円の直径が幅Dとなる。針部が正四角錐または正四角柱である場合、針部と支持基板とが接している面の正方形の対角線が幅Dとなる。
【0030】
針部20のアスペクト比は、1以上10以下の範囲内であることが好ましい。アスペクト比Aは、針部の高さHと幅Dを用い、A=H/Dにより定義される。
針部20が錐形状のように先端角を有し、角質層を貫通させる場合、針部の先端角θは5°以上30°以下、より好ましくは10°以上20°以下の範囲内であることが好ましい。なお、先端角θとは、針部20を支持基板10の面と平行に投影した際の角度(頂角)のうち最大の角度を意味する。
【0031】
針部20に含有される送達物としては、各種ワクチン等のペプチドやタンパク質、薬理活性物質、化粧品組成物等が挙げられる。
【0032】
薬理活性物質は、用途に応じて適宜選択してよい。例えば、インフルエンザなどのワクチン、癌患者向けの鎮痛薬、インスリン、生物製剤、遺伝子治療薬、注射剤、経口剤、皮膚適用製剤等であっても良い。本実施形態に係る針状体は皮膚を穿刺することから、従来の経皮投与に用いられる薬理活性物質以外にも、皮下注射が必要な薬理活性物質にも適用することが出来る。特に、注射剤であるワクチンなどは、針状体を用いた場合、投与に際し痛みがないため、小児への適用に適している。また、従来の経口剤の投与では、小児は経口剤を飲むのが困難であるが、針状体を用いた場合、投与に際し薬剤を飲む必要がないため、小児への適用に適している。
送達物がワクチン等の場合は、キトサンの有するアジュバント作用による送達物の効果増強も期待できる。
【0033】
化粧品組成物とは、化粧品および美容品として用いられる組成物である。例えば、保湿剤、色料、香料、美容効果(しわ、にきび、妊娠線などに対する改善効果、脱毛に対する改善効果など)を示す生理活性物質、などが挙げられる。化粧品組成物として、芳香を有する材料を用いた場合、針状体の使用に際して良い香りを付与することができ、美容品として用いるのに好ましい。
【0034】
送達物は、キトサン誘導体の側鎖官能基に結合させて配置してもよい。側鎖官能基に送達物を結合させることで、難溶性の薬剤、不安定な薬剤であっても好適に生体内に送達することができる。送達物とキトサン誘導体側鎖官能基との結合はエステル結合であることが好ましい。エステル結合を用いることで、生体内に溶解後、エステラーゼ等の生体内酵素により結合が切断され、薬剤が効能を発揮する、すなわちプロドラッグ化することができる。
この他、後述する針部形成溶液に送達物を混合することにより送達物を含有する針部を形成してもよいし、形成した針部の表面に塗布等により送達物を配置してもよい。
【0035】
上記の構成を備える針状体1の製造方法の一例について説明する。
まず、針部を形成するための凹版を準備する。各針部20の形状を決定する原版を作製し、原版の形状を凹凸反転させた凹版を作製する。原版は、針部の形状に応じて公知の方法で製造することができ、微細加工技術を用いて形成してもよい。微細加工技術の例としては、例えばリソグラフィ法、ウェットエッチング法、ドライエッチング法、サンドブラスト法、レーザー加工法、精密機械加工法などが挙げられる。原版から凹版を形成するには、公知の形状転写法を用いることができる。例えば、Ni電鋳法によるNi製凹版の形成や、溶融した樹脂を用いた転写成形等が挙げられる。
以上の手順により、
図2に示すように、各針部20に対応した形状の凹部30aを有する凹版30が形成される。
【0036】
次に、針部材料としてのキトサン誘導体を含有する針部形成溶液を調整する。キトサン誘導体は酸を用いることなく水に溶解するため、水を溶媒として簡便に針部形成溶液を調製することができる。針部形成溶液の流動性は、溶質の量等を適宜調節して、凹版30の凹部30a内に好適に充填できる程度に設定されるのが好ましく、針部形成溶液は、ゲル状であってもよい。
【0037】
次に、
図3に示すように、凹版30上に針部形成溶液20aを供給する。供給方法は、凹版30の形状や寸法等を考慮して公知の方法から適宜選択することができる。例えば、スピンコート法、ディスペンサーを用いる方法、キャスティング法、インクジェット法などを用いることができる。凹版30への針部形成溶液20aの供給は、常圧下で行われてよいが、針部形成溶液20aをより好適に凹部30a内に充填するために、減圧下または真空下で供給を行ってもよい。針部形成溶液20aの量は、すべての凹部30aを覆う程度が好ましい。
【0038】
次に、針部形成溶液20a中の液性成分を除去して固化し、針部20を形成する。
この工程は、常温で凹版30を保持して針部形成溶液20aを乾燥させることで行える。凹版30を加熱する等により針部形成溶液20aを加熱乾燥すると、所要時間を短縮することができ、好ましい。加熱の方法には特に制限はなく、例えば凹版30を載置するホットプレート等を用いることができる。
【0039】
針部20の形成後、
図4に示すように、支持基板10となるフィルム10Aを凹版30上に配置する。フィルム10Aの表面に粘着層等を設けておくことで、針部20がフィルム10Aに粘着され、フィルム10Aを凹版30からはがすと、フィルム10Aとともに針部20も凹版30から除去される。こうして、支持基板10および針部20を備えた針状体1が完成する。
上述の剥離に代えて、化学的溶解等により凹版30のみを溶解して針部20を取り出すことも可能である。
【0040】
針状体1は、完成後に用途等に応じて所望の大きさおよび形状に打ち抜かれてよい。打ち抜きはトムソン刃などの抜き刃を用いて行えばよい。あるいは、フィルム10Aを凹版30から剥離する前に凹版30ごと打ちぬくこともできる。
針部の周囲に粘着剤を貼り付けると、皮膚等に貼り付け可能な針状体となる。粘着材は皮膚貼付に適した材質を用いることが好ましく、滅菌工程に耐えられるものがさらに好ましい。
【0041】
上述した製造方法はあくまで一例であり、様々な変更が可能である。
例えば、フィルム10Aを用いずに、凹部30aから溢れて凹版30上に層状となる程度の量の針部形成溶液を供給してもよい。このような状態で針部形成溶液を固化すると、針部20と同等の材料からなる支持基板10を備えた針状体を形成することができる。ここで、支持基板を形成する材料は、必ずしも針部と完全に同一である必要はなく、上述のキトサンと還元糖とを含む材料等を、針部形成溶液供給後に、さらに別途供給し、針部形成溶液と一緒に固化させてもよい。
【0042】
送達物をキトサン誘導体の側鎖官能基に結合させて配置する場合は、針部形成溶液に送達物を混合して溶解させる。ここで、送達物の溶解にDMSO(ジメチルスルホキシド)等の有機溶媒が必要な場合は、送達物を溶解させて側鎖官能基に結合させた後、透析等により有機溶媒のみを除去することで、形成された針部に有機溶媒が残留することを抑制することができる。
【0043】
以上説明したように、本実施形態の針状体の製造方法によれば、キトサン誘導体を用いて針部が形成されているため、生体適合性の高いキトサンを用いながらも酸を用いずに針部形成溶液を調製して製造することができる。その結果、組み合わせ可能な送達物の範囲が広く、汎用性の高さと生体適合性とを両立することができる。
【0044】
本実施形態に係る針状体は針部を皮膚に穿刺することにより、薬剤などの送達物を浸透させ体内に送達物を投与することができる。針部がキトサン誘導体を含んで形成されている本実施形態に係る針状体は、針部を硬質とすることができ、液体に触れても即座に溶解することがないため、皮膚への穿刺性に優れる。したがって、本実施形態に係る針状体は、皮膚の表面に水分が付着した等の状態であっても、確実に針部を皮膚に穿刺することができる。したがって、例えば、入浴直後の皮膚であっても、確実に皮膚に送達物を浸透させ体内に送達物を投与することができる。
【0045】
また、針部がキトサン誘導体を含んで形成されている本実施形態に係る針状体において、針状体を皮膚に穿刺する前に予め針部に水分を供給することにより、皮膚に穿刺したあとの針状体の針部の生体内での溶解スピードを向上させることができる。本実施形態に係る針状体に用いられるキトサン誘導体は、他の針状体に用いられる針状体材料と比較して生体内での溶解スピードが遅い傾向にある。そのため、針状体を皮膚に穿刺する前に予め針部に水分を供給したり、皮膚表面に水分が付着した状態で針状体を皮膚に穿刺したりすることにより、針状体の針部の生体内での溶解スピードを調節することができる。
【0046】
本発明の実施形態に係る針状体の製造方法について、実施例および比較例を用いてさらに説明するが、本発明の技術的範囲は、各実施例及び比較例により何ら限定されない。
【0047】
(実施例1)
<凹版の作製>
シリコン基板に精密機械加工を用いて、正四角垂(高さ:150μm、底面:60μm×60μm)が、1mm間隔で、6列6行の格子状に計36本配列された針状体原版を形成した。この針状体原版に、メッキ法によりニッケル膜を500μmの厚さに形成し、90℃に加熱した重量パーセント濃度30%の水酸化カリウム水溶液によって前記シリコン基板をウェットエッチングして除去し、ニッケルからなり、36個の凹部を有する凹版を作成した。
<針部形成溶液の調整>
水にキトサンサクシナミドを溶解し、重量パーセント濃度5%(5wt%)のキトサンサクシナミド水溶液を調整した。
【0048】
<針状体の作製>
スピンコート法を用いて、針部形成溶液20aを、凹版30の凹部30a内に充填し、さらに凹版30上に層状となる程度に供給した。熱源を用いて凹版30を120℃、10分間加熱し、針部形成溶液20aを乾燥、固化させた。熱源13としてはホットプレートを用いた。
固化後、層状に固化した針部形成溶液を支持して凹版30から剥離し、針部形成溶液の成分からなる支持基板10および針部20を備えた実施例1の針状体を作製した。
【0049】
(実施例2)
針部形成溶液として、5wt%のカルボキシメチルキトサン水溶液を用いた点を除き、実施例1と同様の手順で実施例2の針状体を得た。
(実施例3)
針部形成溶液として、5wt%のトリメチルキトサン水溶液を用いた点を除き、実施例1と同様の手順で実施例2の針状体を得た。
(参考例1)
針部形成溶液として、キトサンと水との混合物(キトサン5wt%)を用いた点を除き、実施例1と同様の手順で参考例1の針状体の作製を試みた。しかしながら、キトサンが水に溶解しないため、針状体を作成することができなかった。
【0050】
実施例4および5は、送達物をキトサン誘導体にエステル結合させた、プロドラッグ化した針状体の例である。
(実施例4)
<凹版の作製>
実施例1と同様の凹版を用いた。
<針部形成溶液の調整>
水にキトサンサクシナミドを溶解し、5wt%のキトサンサクシナミド水溶液を調整した。
DMSOにクロラムフェニコール(薬剤)を溶解し、5wt%のクロラムフェニコールDMSO溶液を調整した。
キトサンサクシナミド水溶液とクロラムフェニコールDMSO溶液を混合、攪拌した(攪拌時間:2時間)。
攪拌した溶液について、透析膜を用いて、透析液としてDMSO/水の溶液を用いて未反応のクロラムフェニコール、すなわちエステル結合していないクロラムフェニコールを除去した。その後、透析液として水を用いて、DMSOを除去し、針部形成溶液を得た。
その後、実施例1と同様の手順で実施例4の針状体を得た。
(実施例5)
針部形成溶液を調製する際に、5wt%のカルボキシメチルキトサン水溶液を用いた点を除き、実施例4と同様の手順で実施例5の針状体を得た。
(実施例6)
針部形成溶液を調製する際に、5wt%のトリメチルキトサン水溶液を用いた点を除き、実施例4と同様の手順で実施例6の針状体を得た。
【0051】
(比較例1)
針部形成溶液として、キトサンを0.1%塩酸に溶解したキトサン溶液(キトサン5wt%)を用いた点を除き、実施例1と同様の手順で比較例1の針状体を得た。
【0052】
(確認試験1)
各実施例、および比較例の針状体を、pH7.5のリン酸緩衝溶液(PBS)および、人工皮膚を用いて溶解の確認試験を行なった。
実施例1から6の針状体は、PBSに浸漬後、針部が形状をとどめることなく溶解した。また、実施例1から6の針状体は、人工皮膚に穿刺後10分経過後に剥離して針部の観察を行ったところ、針部が形状をとどめることなく溶解している様子が確認された。
比較例1の針状体も溶解したが、製造にあたって酸性水溶液や酸性化合物が必要であった。
【0053】
(確認試験2)
実施例4、5および6の針状体を水に溶解させた。この溶解液を「試験液1」と称する。別途、実施例4、5、および6の針状体を水に溶解させた水溶液にエステラーゼを加え、2時間放置した。この液体を「試験液2」と称する。
得られた試験液1および試験液2について、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で分析したところ、実施例4、5および6のいずれも、試験液2におけるクロラムフェニコールの検出量は、試験液1のクロラムフェニコールの検出量の10倍以上の値を示した。
なお、クロラムフェニコールを水に添加し、溶解させようとしたが溶解せず、水溶液を調整できないことを確認した。
以上より、本発明では、難水溶性の送達物を用いても、水に溶解可能な針状体を作製可能なことが示された。また、送達物が針状体に含まれるキトサン誘導体にエステル結合しており、エステラーゼの作用によりキトサン誘導体から遊離することが確認された。
【0054】
(確認試験3)
実施例1で用いたキトサンサクシナミド水溶液にエバンスブルー(青色色素)を数滴添加し、その他は同様にして作製した針状体を2個用意した。菜園用の霧吹きにより表面に水分を付着させたブタ皮膚、及び上記処理を行わず表面が乾燥したブタ皮膚に対し、それぞれ針状体を穿刺し、30秒後に針状体を取り外した。取り外した後の針状体の針部の観察及び穿刺後のブタ皮膚表面の観察をおこなった。予め表面に水分を付着させたブタ皮膚に穿刺した針状体は、針部が跡形もなく消失している様子が確認された。一方、表面が乾燥したブタ皮膚に穿刺した針状体は、針部の一部が残存している様子が確認された。また、予め表面に水分を付着させたブタ皮膚の穿刺後の表面、及び表面が乾燥したブタ皮膚の穿刺後の表面を光学顕微鏡で観察したところ、いずれも針部の穿刺痕を確認することができた。
一方、比較試験として、10wt%のヒドロキシプロピルセルロース水溶液にエバンスブルー(青色色素)を数滴添加し、針部形成溶液を調製した。その他は実施例1と同様の製造方法により、実施例1と同一形状の針状体を用意した。菜園用の霧吹きにより表面に水分を付着させたブタ皮膚に対し、ヒドロキシプロピルセルロースからなる針状体を穿刺し、30秒後に針状体を取り外した。取り外した針状体において、針部は跡形もなく消失していたが、穿刺後のブタ皮膚表面を光学顕微鏡で観察したところ、針部の穿刺痕を明確に確認することができなかった。比較試験に用いた針状体は、ブタ皮膚に付着した水分に針部が触れることにより、皮膚に穿刺する前に針部が溶解してしまったと考えられた。
【0055】
以上、本発明の各実施形態および実施例について説明したが、本発明の技術範囲は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において構成要素の組合せを変えたり、各構成要素に種々の変更を加えたり、削除したりすることが可能である。
【0056】
例えば、本発明の針状体において、針部はそれぞれ独立している必要はなく、支持基板側の下部が層状につながった形状であってもよい。