特許第6428622号(P6428622)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6428622過酸化水素製造に使用される作動溶液の再生方法、並びに再生した作動溶液を用いた過酸化水素の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6428622
(24)【登録日】2018年11月9日
(45)【発行日】2018年11月28日
(54)【発明の名称】過酸化水素製造に使用される作動溶液の再生方法、並びに再生した作動溶液を用いた過酸化水素の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 15/023 20060101AFI20181119BHJP
   B01J 23/86 20060101ALI20181119BHJP
【FI】
   C01B15/023 T
   B01J23/86 Z
   C01B15/023 Z
【請求項の数】10
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2015-532808(P2015-532808)
(86)(22)【出願日】2014年8月8日
(86)【国際出願番号】JP2014070973
(87)【国際公開番号】WO2015025735
(87)【国際公開日】20150226
【審査請求日】2017年3月30日
(31)【優先権主張番号】特願2013-173292(P2013-173292)
(32)【優先日】2013年8月23日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100110663
【弁理士】
【氏名又は名称】杉山 共永
(74)【代理人】
【識別番号】100156476
【弁理士】
【氏名又は名称】潮 太朗
(74)【代理人】
【識別番号】100104282
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 康仁
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 浩
(72)【発明者】
【氏名】小澤 祐加子
(72)【発明者】
【氏名】竹内 基晴
【審査官】 浅野 昭
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−034663(JP,A)
【文献】 国際公開第2007/129769(WO,A1)
【文献】 特開平06−135705(JP,A)
【文献】 特開2008−087992(JP,A)
【文献】 特開2008−120631(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 15/01−15/037
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アントラキノン法による過酸化水素の製造に連続使用される作動溶液の再生方法であって、作動溶液より、アルコール、および前記アルコールのケトン体を含有する有機溶媒成分を蒸留・分離する工程と、得られた有機溶媒成分を金属触媒の存在下で水素化処理して前記ケトン体からアルコールを再生する工程を有することを特徴とする作動溶液の再生方法。
【請求項2】
前記有機溶媒を金属触媒の存在下で水素化処理することにより有機溶媒中のケトン体の残存率(=ケトン体/有機溶媒成分×100)を10質量%以下とする請求項1記載の作動溶液の再生方法。
【請求項3】
前記金属触媒が、パラジウム、ロジウム、ルテニウム、白金、銅またはクロムから選ばれる1種類以上を含む金属化合物である請求項1記載の作動溶液の再生方法。
【請求項4】
前記金属触媒が、銅および/またはクロムを含む金属化合物である請求項1記載の作動溶液の再生方法。
【請求項5】
前記金属触媒の添加量が、前記有機溶媒の質量に対して0.05質量%〜10質量%である請求項1記載の作動溶液の再生方法。
【請求項6】
前記水素化処理の圧力が大気圧〜10Mpaである請求項1記載の作動溶液の再生方法。
【請求項7】
前記水素化処理の水素化温度が140℃〜230℃である請求項1記載の作動溶液の再生方法。
【請求項8】
前記水素化処理の時間が0.5時間〜100時間である請求項1記載の作動溶液の再生方法。
【請求項9】
前記水素化処理後の前記有機溶媒成分を水および/またはアルカリ水溶液と接触処理する工程を含む請求項1記載の作動溶液の再生方法。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれかに記載の方法により再生された作動溶液を用いることを特徴とするアントラキノン法による過酸化水素の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はアントラキノン法による過酸化水素の製造に使用される作動溶液の再生方法に関する。さらに詳しくは、該作動溶液中の極性溶媒由来の変質物を金属触媒下で水素化処理することにより、元の極性溶媒成分に再生する作動溶液の再生方法、および該処理方法で得られた作動溶液を用いた過酸化水素の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在工業的に行われている過酸化水素の主な製造方法は、アントラキノン類を反応媒体とする方法が採用され、一般的にアントラキノン法と呼ばれる。アントラキノン類は適当な有機溶媒に溶解して使用される。有機溶媒は単独または混合物として用いられるが、通常は極性溶媒と非極性溶媒の2種類の混合物が用いられる。アントラキノン類を有機溶媒に溶かして調製した溶液は作動溶液と呼ばれる。
【0003】
アントラキノン法では還元工程において、上記の作動溶液中のアントラキノン類を触媒の存在下に水素化し、アントラヒドロキノン類が生成する。次いで酸化工程においてそのアントラヒドロキノン類を空気もしくは酸素を含んだ気体によって酸化することによりアントラキノン類に戻し、同時に過酸化水素を生成する。作動溶液中に生成した過酸化水素は通常水を用いて抽出され、作動溶液から分離される。過酸化水素が抽出された作動溶液は再び還元工程に戻され、循環プロセスを形成する。このプロセスは実質的に水素と空気から過酸化水素を製造するものであり、極めて効率的、且つ有効なプロセスである。既に、この循環プロセスを用いて過酸化水素が工業的に製造されている。
【0004】
作動溶液中の有機溶媒も水素化・酸化の循環を繰り返すうちに変質し、副生成物として蓄積する。この副生成物は、主として作動溶液中の極性溶媒である高級アルコールが脱水素され、ケトン体となったものである。ケトン体を多く含有する作動溶液は、その中に取り込める所望の水分含有量を低下させる。その結果、触媒活性の悪化を招き、安全・安定運転への障害の原因となりうる。また、副生成物には有機溶媒成分の酸化物や分解物も含まれる。具体的にはカルボン酸類、ポリオール類、フェノール類などが検出されている。これらの副生成物は作動溶液の比重や粘度、表面張力等のさまざまな物理的化学的性質を変化させるため、作動溶液の還元・酸化・抽出工程を通じて過酸化水素の生産効率の低下の原因となる。
【0005】
従来、経年使用された作動溶液中の種々の副生成物の除去や作動溶液の再生方法が提案されている。例えば、還元されたアントラキノン類をアルカリ水溶液と接触させ、過酸化水素生成に寄与しないアントラキノン類の副生成物を除去する方法が知られている。
同様に薬品処理を行うものとして、アルミニウム、アンモニウム等のハロゲン化物の固体または水溶液を用い、100〜170℃にて作動溶液を処理し、アントラキノン類の副生成物を再生する方法が知られている。
また、作動溶液をオゾンで処理し、その後アルカリ金属水酸化物水溶液で抽出し、抽出分離後の作動溶液を活性アルミナまたは活性マグネシアと接触させる方法も知られている。
【0006】
一方、作動溶液中の有機溶媒を分離するために第1段の蒸留をおこない、次いでアントラキノン類及びモノアントラセン系の低沸点物質を分離する第2段の蒸留をする際に、留出物の結晶化による閉塞を防止する方法が知られている。
また、特許文献1では、作動溶液を大気圧またはそれ以下の圧力下で蒸留することにより有機溶媒を回収する第1段蒸留と、次いでより低い圧力下で、200℃以上、滞留時間が1時間以上の蒸留することによりアントラキノン類を回収する第2段蒸留を有し、全留出物より調整した作動溶液を再生触媒で処理することを特徴とする過酸化水素の製造方法が記載されている。
【0007】
特許文献2には、有機溶媒由来の低沸点の変性物をアルカリ水溶液で共沸蒸留して除去する方法が記載されている。
また、特許文献3には、作動溶液を蒸留し、得られた有機溶媒を水と接触処理することにより、有機溶媒由来の変性物を除去する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開第2007/129769号
【特許文献2】特開2008−87992号公報
【特許文献3】特開2008−120631号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
以上のように、提案されている技術では、反応媒体中の副生成物を抽出・除去する方法、溶媒由来の変質物の除去方法は報告されているが、有機溶媒の内、極性溶媒である高級アルコール成分がケトン体になったものを再生・除去する方法に関する提案はない。作動溶液中へのケトン体の増加は、作動溶液の水分含有量を低下させ触媒活性の悪化を招き、さらに安全運転への障害の原因となりうる。
本発明の目的は、アントラキノン法による過酸化水素の製造に経年使用された作動溶液中の極性溶媒由来のケトン体を元のアルコール成分に再生し、過酸化水素の生産効率を向上する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
使用に供された作動溶液中のケトン体を含有する有機溶媒成分を蒸留分離し、これを金属触媒の存在下で水素化することで元のアルコール成分に再生することにより、効率的に過酸化水素を製造できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
即ち本発明は、以下のとおりである。
1.アントラキノン法による過酸化水素の製造に連続使用される作動溶液の再生方法であって、作動溶液より、アルコール、および前記アルコールのケトン体を含有する有機溶媒成分を蒸留・分離する工程と、得られた有機溶媒成分を金属触媒の存在下で水素化処理して前記ケトン体からアルコールを再生する工程を有することを特徴とする作動溶液の再生方法。
2.前記有機溶媒を金属触媒の存在下で水素化処理することにより有機溶媒中のケトン体の残存率(=ケトン体/有機溶媒成分×100)を10質量%以下とする第1項記載の作動溶液の再生方法。
3.前記金属触媒が、パラジウム、ロジウム、ルテニウム、白金、銅またはクロムから選ばれる1種類以上を含む金属化合物である第1項記載の作動溶液の再生方法。
4.前記金属触媒が、銅および/またはクロムを含む金属化合物である第1項記載の作動溶液の再生方法。
5.前記金属触媒の添加量が、前記有機溶媒の質量に対して0.05質量%〜10質量%である第1項記載の作動溶液の再生方法。
6.前記水素化処理の圧力が大気圧〜10Mpaである第1項記載の作動溶液の再生方法。
7.前記水素化処理の水素化温度が140℃〜230℃である第1項記載の作動溶液の再生方法。
8.前記水素化処理の時間が0.5時間〜100時間である第1項記載の作動溶液の再生方法。
9.前記水素化処理後の前記有機溶媒成分を水および/またはアルカリ水溶液と接触処理する工程を含む第1項記載の作動溶液の再生方法。
10.第1項〜第9項のいずれかに記載の方法により再生された作動溶液を用いることを特徴とするアントラキノン法による過酸化水素の製造方法。
11.第10項に記載の製造方法で製造された過酸化水素。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、作動溶液中の極性溶媒由来の変質物を再生・再利用することが可能となり、溶剤使用量の削減が期待でき、結果として製造コストの低減を実現することができる。さらに、触媒の失活する危険性が減ることが期待でき、効率的なプロセスを実現することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に本発明を詳細に説明する。以下の実施の形態は本発明を説明するための例示であり、本発明をこの実施の形態にのみ限定する趣旨ではない。本発明はその要旨を逸脱しない限り種々の形態で実施をする事ができる。
【0014】
先述のように、アントラキノン類を有機溶媒に溶解させ調製した溶液は、作動溶液と呼ばれる。本発明で使用するアントラキノン類としては、アルキルアントラキノン、アルキルテトラヒドロアントラキノンあるいはそれらの混合物が好ましい。使用するアルキルアントラキノンおよびアルキルテトラヒドロアントラキノンは、各々が複数のアルキルアントラキノンおよびアルキルテトラヒドロアントラキノンの混合物であってもよい。アルキルアントラキノンとしては、エチルアントラキノン、t−ブチルアントラキノン、アミルアントラキノンなどが例示される。また、アルキルテトラヒドロアントラキノンとしては、エチルテトラヒドロアントラキノン、t−ブチルテトラヒドロアントラキノン、アミルテトラヒドロアントラキノンなどが例示される。
【0015】
有機溶媒としては、非極性溶媒と極性溶媒のいずれも使用可能であるが、これらををいずれも含むものが、好ましい。非極性溶媒としては、芳香族炭化水素類が挙げられる。例えば、ベンゼンまたは炭素数1〜5のアルキル置換基を含むベンゼン誘導体などである。極性溶媒としては、高級アルコール、カルボン酸エステル、四置換尿素、環状尿素、トリオクチルりん酸などが例示される。
【0016】
本発明においては、経年使用した作動溶液より蒸留回収した有機溶媒を水素化触媒(金属触媒)の存在下に水素化する。該金属触媒は担体に担持され、金属化合物は少なくとも銅、クロム、パラジウム、ロジウム、ルテニウムまたは白金より選択される1種類以上を含む金属化合物が好ましく、特に銅および/またはクロムを含む触媒が好ましい。
また、該触媒化合物は、通常金属の状態であるが、反応条件下で容易に還元されて金属となるような酸化物の形態でもよい。また、これらの金属は担体に担持された形であっても良い。触媒量は、本発明の効果に決定的ではなく、水素化反応が十分に進行するのに必要な量であれば良い。
【0017】
本発明の過酸化水素の製造方法は、連続繰り返し使用で有機溶媒成分が酸化・劣化したものであって長期間使用していた作動溶液を、蒸留操作で、アルキルアントラキノン類および/またはアルキルテトラヒドロアントラキノン類を含む反応媒体と、ケトン体を含む有機溶媒成分に分離し、更にこの有機溶媒成分を金属触媒下で水素化処理することにより有機溶媒成分中のケトン体を元のアルコール成分に再生し、上述の通り分離したアルキルアントラキノン類および/またはアルキルテトラヒドロアントラキノン類と混合して過酸化水素の製造に再利用する工程を有するものである。
なお、酸化工程の排ガスから回収される有機溶媒など、過酸化水素製造プロセス各所から回収された有機溶媒成分も、前記作動溶液または有機分溶媒成分と混合し、蒸留・水素化処理しても良い。
【0018】
本発明において用いられる作動溶液は、連続繰り返し使用で有機溶媒成分の酸化・劣化物が多くなったものである。ただし、反応媒体と有機溶媒成分に分離するための蒸留操作を行う際、作動溶液中に過酸化水素が残留していると異常分解を起こすことが懸念される。このため、前記作動溶液は蒸留操作を施される前に水と十分に接触させることにより、過酸化水素が取り除かれた状態であることが好ましい。ここで用いられる水としては、蒸留水、イオン交換水、逆浸透法などの精製された水が好ましい。上記以外の方法で精製された水も好ましく用いられる。特に、洗浄に用いられる水として純水が好ましい。
前記作動溶液と水との混合手段には一般に知られる方法を用いる事ができる。例えば撹拌、振とう、および不活性ガスによるバブリング、並流および交流接触法などがあるが、これらに限定されるわけではなく、前記作動溶液と水とが効率よく接触できる方法であればよい。
【0019】
接触させる水の容量に重要な上限はなく、接触させる装置や作業の都合で適宜選択すればよい。作動溶液と水との接触時間に重要な上限はなく、接触させる装置や作業の都合で適宜選択すればよい。また、作動溶液と水との接触温度は0℃〜70℃、好ましくは10℃〜60℃、特に好ましくは20〜50℃の範囲で作動溶液と接触させる。この範囲であれば、過酸化水素を効率的に除去できる。また、作動溶液と水との接触処理中の圧力については特に限定はないが、通常、常圧に保たれることが好都合である。接触を終えた水は作動溶液から分離され排出される。
【0020】
長期間使用された作動溶液は、蒸留操作によりアルキルアントラキノン類および/またはアルキルテトラヒドロアントラキノン類を含む反応媒体と、有機溶媒成分とに分離される。本発明における蒸留操作においては、常圧もしくはそれ以下の圧力で作動溶液中の有機溶媒成分を蒸留することが好ましいが、装置としては一般的に用いられる蒸留設備が使用でき、特に制限は無い。例えば、バッチ式蒸留装置、連続式蒸留装置、薄膜蒸留装置などが挙げられる。具体的な操作条件は、国際公開2007/129769号に開示された条件が適用できる。蒸留条件である温度と圧力は、作動溶液に用いられている溶媒により適宜選択されるので一概には規定できないが、以下のような条件から選択される。圧力は1kPa〜100kPa(大気圧)が適しており、5〜80kPaがより好ましく、さらに5〜30kPaが好適である。温度は、残留溶媒量が5質量%以下になるまで蒸留する条件として決定される。通常は、溶媒の留出開始の釜温度から50〜100℃程度の温度上昇した時点を蒸留終了とみなす。例えば、13kPaの減圧下、釜温度130℃で溶媒が留出し始めた場合には、釜温度200℃に達した時点で蒸留を終了すれば良い。
【0021】
<作動溶液の再生>
本発明で蒸留回収された前記有機溶媒成分を、金属触媒下で水素化することにより、有機溶媒成分の酸化・劣化物が元の有機溶媒成分に再生される。装置としては、一般的に用いられる加圧可能な反応設備が使用でき、特に制限は無い。例えば、バッチ反応装置、連続反応装置などが挙げられるが、バッチ反応装置が好ましい。ただし、有機溶媒成分、水素化触媒と水素が十分に混合される方が水素化反応に有利である。混合手段には一般に知られる方法を用いる事ができる。例えば、撹拌、振とう、および反応液の循環などがあるが、これらに限定されるわけではなく、前記有機溶媒成分、水素化触媒と水素が効率よく接触できる方法であればよい。
【0022】
<蒸留回収した有機溶媒の水素化>
本発明において、蒸留回収された有機溶媒は水素化反応に供される。水素化触媒の添加量については、水素化反応が進むのに十分な量があれば特に制限はないが、有機溶媒成分の重量に対して、水素化触媒は、金属成分量として0.05〜10質量%であることが好ましく、さらに好ましくは0.1〜8質量%であり、特に好ましくは0.2〜5質量%である。
同様に、水素化温度および水素化圧力に関しても特に制限はないが、水素化温度は100℃〜230℃が好ましく、さらに140℃〜230℃が好ましく、特に好ましい温度は150℃〜210℃である。
水素化圧力は大気圧以上、好ましくは0.8MPa以上、さらに好ましくは1.2Mpa以上であり、特に好ましくは1.8MPa以上である。上限圧力は水素化装置に依存するが、10MPa以下が安全上好ましい。
水素化時間についても、水素化反応が終了するまでであれば特に制限はないが、0.5時間〜100時間が好ましく、さらに1時間〜80時間が好ましく、特に2時間〜50時間が好ましい。水素化反応の終点は、例えば有機溶媒中のケトン体の残存率が10%以下となったところを反応終了とするが、この値は低い方が好ましく、適宜選択すればよい。より好ましくは8%以下、さらに7%以下が好ましい。
【0023】
本発明において、水素化処理を終えた有機溶媒は反応器から取り出され、水素化触媒と分離される。分離手段には一般的に知られる方法を用いることができる。例えば、ろ紙、焼結金属フィルター、金属繊維フィルター、樹脂製フィルター、遠心分離であるが、これらに限定されるわけではなく、分離のための部材の形状を含めて、前記有機溶媒成分と水素化触媒が効率よく分離できるものであればよい。
【0024】
本発明において、上記の方法により分離された水素化処理後の有機溶媒成分は、アルカリ水溶液で共沸蒸留もしくはアルカリ水溶液または水で接触処理することがより好ましい。これによりケトン体以外の変質物であるジメチル安息香酸、アルキルフタル酸無水物、脂肪族カルボン酸類、トリメチルフェノールおよび2,6−ジメチル−4−ヘプタンジオールなどの蒸留および水素化反応により容易に除去できない酸化・劣化物を除去することができる。具体的な操作条件としては、特開2008−87992号公報や特開2008−120631号公報に開示された条件が適用できる。
【0025】
本発明において前記操作で得られた有機溶媒成分は、前記蒸留操作で回収した反応媒体若しくは新しい反応媒体と混合され、作動溶液として過酸化水素製造プロセスに戻され再利用される。
【実施例】
【0026】
以下、実施例により本発明について更に詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、本発明では、作動溶液中の非極性溶媒である芳香族炭化水素としてプソイドクメン(PSC)を、極性溶媒である高級アルコールとしてジイソブチルカルビノール(DIBC)を用いた。ジイソブチルカルビノール由来のケトン体はジイソブチルケトン(DIBK)であり、各有機溶媒成分をガスクロマトグラフィー(GC)を用いて測定した。各有機溶媒成分の内、その他成分として水素化処理では再生不可能な有機溶媒の変質物であるジメチル安息香酸、アルキルフタル酸無水物、脂肪族カルボン酸類、トリメチルフェノールおよび2,6−ジメチル−4−ヘプタンジオールなどが確認された。
【0027】
<溶剤の酸価測定>
溶剤の酸価測定は、JIS−K0070に準拠して行った。具体的には、以下の通りである。まず、フラスコに、溶剤の試料40mLとN/10 炭酸ナトリウム水溶液20mLをそれぞれ加え秤量し、50℃にて15分間抽出した。抽出した内容物を分液ロートに静置し、生成した炭酸ナトリウム溶液層(下層)をプソイドクメン20mlで洗った後、炭酸ナトリウム溶液層5mLに純水を加えて40mlの試料とし、N/20塩酸にて滴定した。そして以下の式に基づき、溶剤サンプルの酸価Aを求めた。
A=(B/R−C/S)×N×F×U/V×1000
(式中、A:酸価(酸成分測定値(mmol/L))、B:ブランク滴定量(mL)、C:試料滴定量(mL)、R:ブランク体積(5mL)、S:滴定試料体積(5mL)、N:滴定液濃度(0.05mol/L)、F:滴定液ファクター、U:抽出時の抽出液の体積(mL)、およびV:抽出時のサンプルの体積(mL)である。)
【0028】
<作動溶液の水分量測定>
調製した作動溶液の水分量測定には、京都電子産業(株)製カールフィッシャーMKS−520を使用した。具体的には、以下の通りである。まず、調製した作動溶液を2mlのホールピペットに採取し、京都電子産業(株)製カールフィッシャーMKS−520の滴定容器内に注入した。滴定剤としてアクアミクロン滴定剤 SS 3mgを用いて滴定し、容量滴定法にて水分量を測定した。
【0029】
<作動溶液の活性試験>
上記処理により得られた作動溶液の性能確認試験を、撹拌翼を取り付けたバッチ式の評価装置を用いて以下のように行った。上記バッチ式の反応槽に触媒1重量部と作動溶液20重量部を投入した。反応槽を気密にした後、反応系内を水素置換した。撹拌翼を1000rpmで30分間、撹拌して、単位触媒当たりの水素吸収量を測定した。反応温度は30℃、反応圧力は常圧に制御した。ここで用いた触媒は、特開平9−271670号公開に開示されたシリカ担持パラジウム触媒であった。
【0030】
参考例1
<処理原料である有機溶媒成分の回収>
本発明における第1の蒸留工程で使用する作動溶液として、実際の過酸化水素製造装置で経年使用されたものを用いた。過酸化水素製造装置より作動溶液2000mlを抜き出した。作動溶液内の反応媒体はアミルアントラキノン、アミルテトラヒドロアントラキノンである。第1段階の有機溶媒成分の回収においては、蒸留装置を備えた1000mlフラスコ内に400mlの作動溶液をあらかじめ仕込み、13kPaに真空度をコントロールして室温から温度を上げていった。釜の温度が130℃になった時点で留出が始まり、フラスコ内の液量が減少していくので残りの作動溶液を逐次追加していき総仕込み量が2000mlとなった時点で追加を停止した。作動溶液の追加を停止した後、蒸留釜の温度が200℃になるまで蒸留を継続し、その間2時間を要し、有機溶媒成分を回収した。このとき、蒸留釜のフラスコ内に残ったアントラキノン類を、「分離した反応媒体」と呼ぶ。この分離した反応媒体中の有機溶媒成分をGCにて分析した結果、合計で1質量%以下であった。
一方、回収された有機溶媒成分は1400mlであった。これを蒸留回収溶剤と呼ぶ。この蒸留回収溶剤中の有機溶媒成分をGCにて分析した結果、プソイドクメン/ジイソブチルカルビノール/ジイソブチルケトン=62.4質量%/11.8質量%/25.4質量%であった。また、この蒸留回収溶剤の酸価は84mg−KOH/gであった(表1)。
【0031】
<作動溶液の調製>
上記の「分離した反応媒体」(蒸留回収した際の釜の残渣)と蒸留回収溶剤を、固形分(アミルアントラキノンとアミルテトラヒドロアントラキノン)濃度が250g/Lになるよう混合し、さらに純水5g添加し撹拌後、室温(20℃〜25℃)で約2時間静置し作動溶液を得た。得られた作動溶液の水分量は2.4g/Lであった(表1)。
なお、作動溶液中には適量の水分が含まれていることが好ましい点を踏まえて、予め、飽和水分量を超える純水5gを上記混合液に添加した後、実際に混合液に含まれた水分量(飽和水分量)についても測定した。以下の各実施例および参考例においても同様であり、これらの実施例等の水分量の評価結果については後述する。
【0032】
<作動溶液の活性試験>
上記で調製した作動溶液の活性試験を行った。ここで得られた水素吸収量を基準とし、相対水素吸収率100%とした(表1)。
【0033】
実施例1
<蒸留回収溶剤の水素化>
オートクレーブに上記の蒸留回収溶剤900gと触媒として日揮触媒化成(株)製N203SD(Cu−Cr系触媒)9g(蒸留回収溶剤に対して1質量%)を添加し、7時間水素化反応させた。反応温度は200℃で、反応圧力は2.0MPaに制御した。水素化反応終了後、室温になるまで静置し、その後、触媒はアドバンテック製フィルターNo.1で濾別した。蒸留回収溶剤に水素化反応を施したものを水素化溶剤と言う。この水素化溶剤成分をGCにて分析した結果、プソイドクメン/ジイソブチルカルビノール/ジイソブチルケトン=62.4質量%/30.8質量%/6.4質量%であった。水素化反応の時間経過に伴う水素化溶剤成分のGC分析結果を表1に示す。また、この水素化溶剤の酸価は81mg−KOH/gであった(表1)。
【0034】
<作動溶液の調製>
上記の「分離した反応媒体」(蒸留回収した際の釜の残渣)と水素化溶剤を固形分(アミルアントラキノンとアミルテトラヒドロアントラキノン)濃度が250g/Lになるよう混合し、さらに純水5g添加し撹拌後、室温(20℃〜25℃)で約2時間静置し作動溶液を得た。
得られた作動溶液の水分量は3.6g/Lであった(表1)。
【0035】
<作動溶液の活性試験>
得られた作動溶液の活性試験を行った。この作動溶液の相対水素吸収率は153%であった(表1)。
【0036】
実施例2
<蒸留回収溶剤の水素化>
触媒量は蒸留回収溶剤に対して0.4質量%、反応温度は160℃、反応圧力は1.6MPaと制御した以外は、実施例1と同様の条件で蒸留回収溶剤の水素化処理を合計で80時間行った。水素化溶剤成分はプソイドクメン/ジイソブチルカルビノール/ジイソブチルケトン=62.2質量%/30.3質量%/6.9質量%であった。水素化反応の時間経過に伴う水素化溶剤成分のGC分析結果を表1に示す。また、この水素化溶剤の酸価は82mg−KOH/gであった(表1)。
【0037】
<作動溶液の調製>
実施例1と同様の方法で作動溶液を調製した。この作動溶液の水分量は3.5g/Lであった(表1)。
【0038】
<作動溶液の活性試験>
実施例1と同様の方法で、得られた作動溶液の活性試験を行った。この作動溶液の相対水素吸収率は151%であった(表1)。
【0039】
実施例3
<蒸留回収溶剤の水素化>
反応温度を160℃、反応圧力を2.0MPaと制御した以外は、実施例1と同様の条件で蒸留回収溶剤の水素化処理を9時間行った。水素化溶剤成分はプソイドクメン/ジイソブチルカルビノール/ジイソブチルケトン=62.3質量%/31.1質量%/6.1質量%であった。水素化反応の時間経過に伴う水素化溶剤成分のGC分析結果を表1に示す。また、この水素化溶剤の酸価は82mg−KOH/gであった(表1)。
【0040】
<作動溶液の調製>
実施例1と同様の方法で作動溶液を調製した。この作動溶液の水分量は3.6g/Lであった(表1)。
【0041】
<作動溶液の活性試験>
実施例1と同様の方法で、得られた作動溶液の活性試験を行った。この作動溶液の相対水素吸収率は152%であった(表1)。
【0042】
実施例4
<蒸留回収溶剤の水素化>
蒸留回収溶剤量を実施例1の2倍量、すなわち1800gと触媒14.4gを仕込み、反応温度を160℃で開始し、反応開始から2時間経過後に反応温度を200℃に昇温制御した以外は実施例1と同様の方法で、蒸留回収溶剤の水素化処理を合計で8.5時間行った。水素化溶剤成分はプソイドクメン/ジイソブチルカルビノール/ジイソブチルケトン=62.3質量%/30.6質量%/6.6質量%であった。水素化反応の時間経過に伴う水素化溶剤成分のGC分析結果を表1に示す。また、この水素化溶剤の酸価は81mg−KOH/gであった(表1)。
【0043】
<作動溶液の調製>
実施例1と同様の方法で作動溶液を調製した。この作動溶液の水分量は3.5g/Lであった(表1)。
【0044】
<作動溶液の活性試験>
実施例1と同様の方法で、得られた作動溶液の活性試験を行った。この作動溶液の相対水素吸収率は151%であった(表1)。
【0045】
実施例5
<蒸留回収溶剤の水素化>
反応温度を220℃、反応圧力を1.0MPaと制御した以外は実施例1と同様の方法で水素化を12.5時間行った。水素化溶剤成分は、プソイドクメン/ジイソブチルカルビノール/ジイソブチルケトン=62.4質量%/30.8質量%/6.4質量%であった。水素化反応の時間経過に伴う水素化溶剤成分のGC分析結果を表1に示す。また、この水素化溶剤の酸価は82mg−KOH/gであった(表1)。
【0046】
<作動溶液の調製>
実施例1と同様の方法で作動溶液を調製した。この作動溶液の水分量は3.6g/Lであった(表1)。
【0047】
<作動溶液の活性試験>
実施例1と同様の方法で、得られた作動溶液の活性試験を行った。この作動溶液の相対水素吸収率は152%であった(表1)。
【0048】
参考例2
<作動溶液の調製>
まず、未使用のプソイドクメン60容量%とジイソブチルカルビノール40容量%からなる混合溶液を調製した。この混合溶剤の成分はプソイドクメン/ジイソブチルカルビノール/ジイソブチルケトン=60.8質量%/38.1質量%/1.0質量%であった。また、この混合溶剤の酸価は0mg−KOH/gであった(表1)。
この混合溶剤にアミルアントラキノンの濃度が0.6 mol/Lになるように新品のアミルアントラキノン83gに溶解して、さらに純水5g添加し撹拌後、室温(20℃〜25℃)で約2時間静置し作動溶液を得た。得られた作動溶液の水分量は4.1g/Lであった(表1)。
【0049】
<作動溶液の活性試験>
実施例1と同様の方法で、得られた作動溶液の活性試験を行った。この作動溶液の相対水素吸収率は168%であった(表1)。
【0050】
参考例3
<蒸留回収溶剤の水素化>
反応温度を120℃とした以外は、実施例1と同様の方法を用いた。しかし、反応は進行しなかった。
【0051】
参考例4 <蒸留回収溶剤の水素化>
触媒種を日揮触媒化成(株)製SN−750(Ni系触媒)、反応温度を120℃とした以外は、実施例1と同様の方法を用いた。しかし、反応は進行しなかった。
【0052】
参考例5
<蒸留回収溶剤の水素化>
触媒種を日揮触媒化成(株)製SN−750(Ni系触媒)、反応開始温度を100℃とした以外は実施例1と同じ方法を用いた。しかし、反応は進行しなかったため、反応開始から2時間経過した後、反応温度を160℃とした。反応温度上昇に伴い水素吸収が観測されたため、170℃でも2時間反応させたが、同時に低沸分も増加が起き、ジイソブチルケトン残存率は14.3質量%だった(表1)。
【0053】
実施例6
<水素化溶剤のアルカリ共沸処理>
実施例1と同様の条件で蒸留回収溶剤を処理して得た水素化溶剤を特開2008−87992号公報で開示された方法でアルカリ共沸処理した。すなわち、メラパックを充填した精留塔と撹拌機を備えた蒸留装置に1.0%水酸化ナトリウム水溶液100mlを仕込み、実施例1と同様の条件で蒸留回収溶剤を処理で得た水素化溶剤を連続的に添加し、加熱して水素化溶剤と水の混合物を留出させた。この混合物を分離層で分液し、留出水は還流水として蒸留釜に戻し、留出した精製された水素化溶剤のみを回収した。水素化溶剤は連続的に供給し、総量が1000mlとなった時点で供給を停止した。この精製された水素化溶剤の酸価は0mgKOH/gであった(表1)。
【0054】
<作動溶液の調製>
上記の方法により得られた精製された水素化溶剤を用いて、実施例1と同様の方法で作動溶液を調製した。この作動溶液の水分量は3.6g/Lであった(表1)。
【0055】
<作動溶液の活性試験>
実施例1と同様の方法で、得られた作動溶液の活性試験を行った。この作動溶液の相対水素吸収率は159%であった(表1)。
【0056】
実施例7
<水素化溶剤のアルカリ洗浄>
実施例1と同様の条件で蒸留回収溶剤を処理して得た水素化溶剤をアルカリ水溶液で洗浄した。アルカリ水溶液として、0.5%水酸化ナトリウム水溶液を用いた。水素化溶剤250mlと上記の0.5%水酸化ナトリウム水溶液100mlを分液ロートに仕込んだ。水素化溶剤およびアルカリ水溶液はあらかじめ30℃になるように温度調整を行った。この分液ロートを振とう器(ヤマト科学製ShakerSA31)に据え付け、振とう強度は280回/分の強度で5分間振とうした。その後60分間静置し、水素化溶剤と水酸化ナトリウム水溶液を上層と下層に分離させた。分液ロートより分離した上層の水素化溶剤を回収した。
【0057】
<水洗処理>
上記のアルカリ洗浄後、回収した水素化溶剤の水洗処理を以下のように行った。分液ロートに該水素化溶剤と純水100mlを入れ、前述の方法で5分間振とうした。また振とう後は60分間静置し、水素化溶剤と水層を分離した。下層の水層を除去し、また新たに純水を90ml追加し、同様の振とう操作を行った。振とう後は同様に水層を除去した。再度水洗を行い、水洗を合計で3回行った。この時の水温はあらかじめ30℃となるように温度を調整した。精製された水素化溶剤の酸価は31mgKOH/gであった(表1)。
【0058】
<作動溶液の調製>
上記の方法により得られた水素化溶剤を用いて、実施例1と同様の方法で作動溶液を調製した。得られた作動溶液の水分量は3.5g/Lであった(表1)。
【0059】
<作動溶液の活性試験>
実施例1と同様の方法で、得られた作動溶液の活性試験を行った。この作動溶液の相対水素吸収率は158%であった(表1)。
【0060】
実施例8
<水素化溶剤の水洗処理>
実施例1と同様の条件で蒸留回収溶剤を処理して得た水素化溶剤を純水で洗浄した。水洗処理には、向流式5段ミキサーセトラー抽出器を用いて水素化溶剤の体積比5倍の純水を用いた。精製された水素化溶剤の酸価は64mgKOH/gであった(表1)。
【0061】
<作動溶液の調製>
上記の方法により得られた水素化溶剤を用いて、実施例1と同様の方法で作動溶液を調製した。この作動溶液の水分量は3.5g/Lであった(表1)。
【0062】
<作動溶液の活性試験>
実施例1と同様の方法で、得られた作動溶液の活性試験を行った。この作動溶液の相対水素吸収率は155%であった(表1)。
【0063】
【表1】
PSC;プソイドクメン
DIBC;ジイソブチルカルビノール
DIBK;ジイソブチルケトン
【0064】
以上のように、各実施例においては、経年使用されていた作動溶液の有機溶媒成分(蒸留回収溶剤)中のケトン体(DIBK)をアルコールに還元させることにより、水素の吸収効率が高まった。すなわち、有機溶媒成分中に25.4質量%のケトン体が含まれていたままの参考例1においては相対吸収効率が100%であったのに対し、各実施例においては、有機溶媒成分中のケトン体を10質量%以下、具体的には6〜7質量%まで低下させたことにより、相対吸収効率が150%以上に改善された(表1参照)。この値は、未使用の作動溶液を試料として用いた参考例2における168%に近いものといえる。
そしてアントラキノン法において、水素の吸収効率は過酸化水素の生産効率に比例するものであるため、有機溶媒中のケトン体の残存率を10質量%以下とすることにより、作動溶液による過酸化水素の生産効率が改善されることが確認された。
【0065】
そして、過酸化水素の生産効率の改善が可能になったより具体的な理由として、以下のことが考えられる。
有機溶媒成分中にケトン体が多量に含まれていた参考例1においては、有機溶媒成分(蒸留回収溶剤)中に水分が2.4(g/L)しか含まれなかったのに対し、ケトン体の含有量の低い各実施例においては、未使用の作動溶液を用いた参考例2の値(4.1(g/L))に近い3〜4(g/L)まで含まれることが確認された。このように、ケトン体の含有量の低い作動溶液中には適度な量の水分が含まれ得るため、過酸化水素製造に悪影響を及ぼし得る遊離水の発生を抑制できる。このように遊離水の発生を抑制したことにより水素の吸収効率が高められたのであり、このことが、過酸化水素の生産効率の向上を可能にした主な理由であるといえる。
さらに、有機溶媒成分をアルカリ水溶液、または水と接触させた実施例6〜8においては、参考例1および他の実施例に比べて、酸価の値が大幅に低下した(表1参照)。この結果から、有機溶媒成分をアルカリ水溶液、または水と接触させる処理工程により、ケトン体以外の酸性の不純物をも除去できることが確認された。
【0066】
また、本願発明によれば、ケトン体を効率的にアルコールに再生させることが可能である。この理由として、本願発明においては、ケトン体のみを選択的に作動溶液から分離する工程が不要であり、例えば非極性溶媒などを含んだままの有機溶媒成分を作動溶液から分離させ、有機溶媒成分をそのまま触媒に反応させれば良いことが挙げられる。アントラキノン法において一般に用いられる有機溶媒成分は、アントラキノン類とは容易に分離可能であり、このような有機溶媒成分の分離は、ケトン体のみの選択的な分離に比べて非常に容易である。