特許第6428811号(P6428811)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6428811
(24)【登録日】2018年11月9日
(45)【発行日】2018年11月28日
(54)【発明の名称】エンジンの制御装置
(51)【国際特許分類】
   F02D 41/20 20060101AFI20181119BHJP
   F02M 51/00 20060101ALI20181119BHJP
   F02M 51/06 20060101ALI20181119BHJP
【FI】
   F02D41/20 325
   F02M51/00 A
   F02M51/00 F
   F02M51/06 M
   F02D41/20 330
【請求項の数】5
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2017-40950(P2017-40950)
(22)【出願日】2017年3月3日
(65)【公開番号】特開2018-145857(P2018-145857A)
(43)【公開日】2018年9月20日
【審査請求日】2018年3月23日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】特許業務法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】和田 好隆
(72)【発明者】
【氏名】横畑 英明
(72)【発明者】
【氏名】植木 義治
(72)【発明者】
【氏名】野村 健太郎
【審査官】 二之湯 正俊
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−196228(JP,A)
【文献】 特開2005−307758(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02M 39/00−71/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
気筒内の燃焼室で燃料を噴射するインジェクタを備えたエンジンの制御装置であって、
前記インジェクタは、
前記燃焼室に先端部が露出するボディと、
前記先端部の内部に形成されていて燃料が流入する空間からなるサック部と、
前記燃焼室と前記サック部とに連通する噴射孔と、
前記ボディの内部にスライド可能に配置され、前記サック部へ燃料を流入させない閉じ位置と、前記サック部へ燃料を流入させる開き位置とに変位するニードルと、
を有し、
前記制御装置は、
前記エンジンの運転状態に応じて、吸気行程中に行われる燃料の噴射を制御する燃料噴射制御部と、
前記燃料噴射制御部によって設定される燃料の噴射条件に基づいて、前記ニードルの動作を制御するインジェクタ制御部と、
を有し、
前記燃料噴射制御部によって設定される燃料の噴射期間の終了時に、前記インジェクタ制御部の制御により、前記ニードルが、前記開き位置から前記閉じ位置に所定速度で変位し、
前記所定速度が、前記エンジンの運転状態に応じて変更されるように構成されており、
前記エンジンの運転状態は前記エンジンの回転数であり、当該回転数が低くなるほど、前記所定速度が速くなるように変更されることを特徴とするエンジンの制御装置。
【請求項2】
電流制御によって気筒内の燃焼室で燃料を噴射するインジェクタを備えたエンジンの制御装置であって、
前記インジェクタは、
前記燃焼室に先端部が露出するボディと、
前記先端部の内部に形成されていて燃料が流入する空間からなるサック部と、
前記燃焼室と前記サック部とに連通する噴射孔と、
前記ボディの内部にスライド可能に配置され、前記サック部へ燃料を流入させない閉じ位置と、前記サック部へ燃料を流入させる開き位置とに変位するニードルと、
前記ニードルに前記閉じ位置に向かう推進力を与えるバネと、
電流の供給により、前記ニードルに前記開き位置に向かう推進力を与える開き駆動部と、
を有し、
前記制御装置は、
前記エンジンの運転状態に応じて、吸気行程中に行われる燃料の噴射を制御する燃料噴射制御部と、
前記燃料噴射制御部によって設定される燃料の噴射条件に基づいて、前記開き駆動部へ供給する電流を制御するインジェクタ制御部と、
を有し、
前記燃料噴射制御部によって設定される燃料の噴射期間の終了時に、前記ニードルが、前記エンジンの運転状態に応じた所定速度で前記開き位置から前記閉じ位置に変位するように、前記インジェクタ制御部が、電流値を変更しながら前記開き駆動部に減速電流を供給するように構成されており、
前記エンジンの運転状態は前記エンジンの回転数であり、当該回転数が低くなるほど、前記所定速度が速くなるように変更されることを特徴とするエンジンの制御装置。
【請求項3】
請求項2に記載のエンジンの制御装置において、
前記減速電流は、前記噴射期間の開始時に前記開き駆動部に供給される開き変位電流よりも小さく設定されていることを特徴とするエンジンの制御装置。
【請求項4】
気筒内の燃焼室で燃料を噴射するインジェクタを備えたエンジンの制御装置であって、
前記インジェクタは、
前記燃焼室に先端部が露出するボディと、
前記先端部の内部に形成されていて燃料が流入する空間からなるサック部と、
前記燃焼室と前記サック部とに連通する噴射孔と、
前記ボディの内部にスライド可能に配置され、前記サック部へ燃料を流入させない閉じ位置と、前記サック部へ燃料を流入させる開き位置とに変位するニードルと、
を有し、
前記制御装置は、燃料の噴射期間の終了時に、前記ニードルを前記開き位置から前記閉じ位置に所定速度で変位させ、前記所定速度をエンジンの運転状態に応じて変更するように構成されており、
前記エンジンの運転状態は前記エンジンの回転数であり、当該回転数が低くなるほど、前記所定速度が速くなるように変更されることを特徴とするエンジンの制御装置。
【請求項5】
電流制御によって気筒内の燃焼室で燃料を噴射するインジェクタを備えたエンジンの制御装置であって、
前記インジェクタは、
前記燃焼室に先端部が露出するボディと、
前記先端部の内部に形成されていて燃料が流入する空間からなるサック部と、
前記燃焼室と前記サック部とに連通する噴射孔と、
前記ボディの内部にスライド可能に配置され、前記サック部へ燃料を流入させない閉じ位置と、前記サック部へ燃料を流入させる開き位置とに変位するニードルと、
前記ニードルに前記閉じ位置に向かう推進力を与えるバネと、
電流の供給により、前記ニードルに前記開き位置に向かう推進力を与える開き駆動部と、
を有し、
前記制御装置は、燃料の噴射期間の終了時に、前記ニードルが、エンジンの運転状態に応じた所定速度で前記開き位置から前記閉じ位置に変位するように、電流値を変更しながら前記開き駆動部に減速電流を供給するように構成されており、
前記エンジンの運転状態は前記エンジンの回転数であり、当該回転数が低くなるほど、前記所定速度が速くなるように変更されることを特徴とするエンジンの制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気筒内の燃焼室で燃料を噴射するインジェクタを備えたエンジンの制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
このようなインジェクタの場合、燃料を噴射する噴射孔は、燃焼が行われる燃焼室に位置している。そのため、燃焼によって発生するカーボン等の固形分が噴射孔やその周辺に付着して堆積し、いわゆるデポジットが形成されることで、適切な燃料噴射が妨げられるおそれがある。
【0003】
この点、図1を参照しながら具体的に説明する。図1は、この種のインジェクタでの、燃焼室に露出した先端部を例示したものである。図示のインジェクタ100の先端部の内部には、加圧された燃料が流入する空間(サック部101と称する)が形成されており、そのサック部101が、複数の噴射孔102を介して燃焼室103と連通している。
【0004】
インジェクタ100の内部には、サック部101へ燃料を流入させない閉じ位置と、サック部101へ燃料を流入させる開き位置と、にスライド変位可能なニードル104が配置されていて、ミリ秒レベルの高速でニードル104が変位制御されるようになっている。
【0005】
図1の(a)に示すように、燃焼の噴射時には、ニードル104は開き位置に保持され、加圧された燃料がサック部101に流入するため、その燃料が噴射孔102を通じて燃焼室103に噴射される。そして、図1の(b)に示すように、燃料の噴射が終了し、ニードル104が変位して閉じ位置に達すると、サック部101への燃料の流入は止まるが、サック部101の燃料は、慣性力によって引き続き燃焼室103に噴射される。
【0006】
そうして、サック部101から燃料が流出すると、図1の(c)に示すように、サック部101が負圧になるため、燃焼室103からサック部101に逆流する流れが形成される。その結果、噴射孔102やその周辺にデポジットが形成されてしまい、デポジットによって燃料の流れが妨げられる結果、燃料の噴射量や噴射状態が適切に行われなくなるおそれがある。
【0007】
このような問題に対し、特許文献1には、サック部への逆流を抑制する様々な方法が提案されている。
【0008】
具体的には、燃料の噴射終了後に、サック部だけが燃料で満たされるようにニードルを再度リフトさせる方法(方法1)や、燃料の噴射終了時に、サック部に燃料が残留するようにニードルの閉弁速度を小さく調整する方法(方法2)、アウターニードルとインナーニードルからなる特殊なニードルを用いる方法(方法3)、噴射孔の開口の外側に開閉可能な弁を設ける方法(方法4)が提案されている。
【0009】
インジェクタの作動機構には様々な方式があるが、特許文献1では、その中でも、ディーゼルエンジン用の、油圧でニードルを開閉させる方式(フロート式)を採用したインジェクタが対象とされている(図2)。
【0010】
具体的には、そのインジェクタ21のニードル214は、スプリング216によって閉じ方向に付勢されており、ニードル214の基端側には、ニードル214の先端側にあるサック部220と共に、高圧の燃料が導入される制御室215が形成されている。制御室215には、導入した燃料を排出するリリーフ通路218が接続されており、そのリリーフ通路218はソレノイド弁219で開閉制御されるようになっている。
【0011】
ソレノイド弁219が閉じると、制御室215及びサック部220の燃圧が共に上昇し、ニードル214の基端側と先端側で圧力差が無くなるので、スプリング216の付勢力により、ニードル214は閉じ方向に移動する。一方、ソレノイド弁219が開くと、制御室215の燃圧が低下し、ニードル214の基端側が先端側より低圧になるので、スプリング216の付勢力に抗して、ニードル214は開き方向に移動する。
【0012】
すなわち、引用文献1のインジェクタ21では、ソレノイド弁219の開閉によって得られる燃料の圧力差を利用して、ニードル214の動作が制御されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2011−196228号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
特許文献1の方法1は、指示された適量の燃料を噴射した後に、再度ニードルをリフトさせ、サック部だけを燃料で満たして燃焼室に燃料が漏れないように、ニードルの動作を制御しなければならない。しかし、サック部の容量は僅かであるうえに、超高速かつ高精度な制御が求められる。加えて、ニードルの先端が弁座に着座して閉じられる瞬間、ニードルは若干バウンドする。そのため、現実には、そのようなニードルの制御は難しく、燃料が燃焼室に漏れて不具合を生じるおそれがある。
【0015】
方法2についても、ニードルの閉弁速度を小さく調整するためには、スプリングの付勢力を特定の強さに減じる必要がある。そのためには、変位している最中のニードルの基端側と先端側と(双方の容積が変化している状態)で、燃圧に一定の圧力差が生じるように、ソレノイド弁の開閉を調整しなければならない。このような制御もまた、現実には難しい。
【0016】
また、方法3や方法4は、構造が複雑で、その他の不具合を生じるおそれもあり、実用化するのは容易でない。
【0017】
更に、吸気行程で燃料が噴射される場合、最適な噴霧状態が得られるように、燃焼室内の流動を考慮して燃料噴射の条件が設定されているが、ニードルの開弁速度を小さくすると、噴射速度が遅くなり、適切な噴霧状態が得られずに、燃費等に影響を与えるおそれがある。
【0018】
そこで、本発明の目的は、実用可能な容易な制御で、燃料噴射後のインジェクタ内への逆流を抑制し、吸気行程中の、燃焼室での適切な燃料噴射が、長期にわたって安定して行えるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
ここで開示するのは、気筒内の燃焼室で燃料を噴射するインジェクタを備えたエンジンの制御装置である。
【0020】
前記インジェクタは、前記燃焼室に先端部が露出するボディと、前記先端部の内部に形成されていて燃料が流入する空間からなるサック部と、前記燃焼室と前記サック部とに連通する噴射孔と、前記ボディの内部にスライド可能に配置され、前記サック部へ燃料を流入させない閉じ位置と、前記サック部へ燃料を流入させる開き位置とに変位するニードルと、を有している。
【0021】
前記制御装置は、例えば、前記エンジンの運転状態に応じて、吸気行程中に行われる燃料の噴射を制御する燃料噴射制御部と、前記燃料噴射制御部によって設定される燃料の噴射条件に基づいて、前記ニードルの動作を制御するインジェクタ制御部と、を有している。そして、前記燃料噴射制御部によって設定される燃料の噴射期間の終了時に、前記インジェクタ制御部の制御により、前記ニードルが、前記開き位置から前記閉じ位置に所定速度で変位し、前記所定速度が、前記エンジンの運転状態に応じて変更されるようになっている。
【0022】
すなわち、この制御装置によれば、燃料の噴射期間の終了時に、ニードルの閉じる速度を、所定速度に制御できる(可変できる)ので、減速して、閉じ位置に達するニードルの変位動作を緩やかすることができ、サック部が負圧になるのを抑制してサック部に燃料が残存するようにできる。ニードルがバウンドすることも抑制できる。
【0023】
その結果、燃料噴射後のサック部への燃焼室からの逆流が抑制されて、噴射孔やその周辺にデポジットが形成され難くなり、適切な燃料噴射が長期にわたって安定して行える。ニードルを、開き位置から閉じ位置、すなわち閉弁動作の全域で所定速度にするだけであるので、複雑な演算処理が不要であり、実用化も容易である。
【0024】
そして、吸気行程中の燃料噴射では、燃料の噴霧状態によっては燃費等に悪影響を与えるおそれがある。例えば、減速する閉じ制御を行った場合、燃料噴射の終了時に、燃焼室に噴射される燃料の噴射速度が遅くなって燃料の噴霧状態に悪影響を与えるおそれがある。それに対し、この制御装置では、エンジンの運転状態に応じてニードルの閉じる速度が変更されるので、閉じ制御によって燃費等に悪影響が及ぶのを抑制することができる。
【0025】
前記インジェクタには、電流制御によって駆動するインジェクタを採用するのが好ましい。すなわち、前記インジェクタは、前記燃焼室に先端部が露出するボディと、前記先端部の内部に形成されていて燃料が流入する空間からなるサック部と、前記燃焼室と前記サック部とに連通する噴射孔と、前記ボディの内部にスライド可能に配置され、前記サック部へ燃料を流入させない閉じ位置と、前記サック部へ燃料を流入させる開き位置とに変位するニードルと、前記ニードルに前記閉じ位置に向かう推進力を与えるバネと、電流の供給により、前記ニードルに前記開き位置に向かう推進力を与える開き駆動部と、を有するものとするのが好ましい。
【0026】
そうして、前記制御装置は、例えば、前記エンジンの運転状態に応じて、吸気行程中に行われる燃料の噴射を制御する燃料噴射制御部と、前記燃料噴射制御部によって設定される燃料の噴射条件に基づいて、前記開き駆動部へ供給する電流を制御するインジェクタ制御部と、を有するものとし、前記燃料噴射制御部によって設定される燃料の噴射期間の終了時に、前記ニードルが、前記エンジンの運転状態に応じた所定速度で前記開き位置から前記閉じ位置に変位するように、前記インジェクタ制御部が、電流値を変更しながら前記開き駆動部に減速電流を供給するようにするとよい。
【0027】
そうすれば、ミリ秒レベルの超高速な制御であっても、レスポンスよくインジェクタを作動させることができ、高精度な制御が安定して行える。
【0028】
その場合、前記減速電流は、前記噴射期間の開始時に前記開き駆動部に供給される開き変位電流よりも小さく設定するのが好ましい。
【0029】
そうすれば、ニードルの減速を適度に行えるうえに、供給する電流量を過不足なくできるので、効率的な制御が行える。
【0030】
前記エンジンの運転状態が、前記エンジンの回転数である場合には、当該回転数が低くなるほど、前記所定速度が速くなるように変更するのが好ましい。
【0031】
エンジン回転数が低い運転領域では、燃焼室で形成される流動が弱くなる。そのため、燃焼室に噴射される燃料の噴射速度が遅くなると、その影響を受け易い。それに対し、このような設定を行えば、減速閉じ制御による燃料の噴霧状態への悪影響を抑制することができる。
【発明の効果】
【0032】
開示するエンジンの制御装置によれば、燃料噴射後のインジェクタ内への逆流を抑制することが実用化できる。その結果、燃焼室での燃料噴射が長期にわたって安定して行えるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1】燃料噴射後のインジェクタ内への逆流を説明するための図である。
図2】実施形態のエンジンの構成を示す概略図である。
図3】インジェクタの制御に関するブロック図である。
図4】インジェクタの構造を示す概略図である。
図5】燃料噴射の制御に関するフローチャートである。
図6】通常の場合での、噴射パターンの一例を示す模式図である。
図7】減速閉じ制御を行った場合での、噴射パターンの一例を示す模式図である。
図8】エンジンの運転状態を考慮した制御を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。ただし、以下の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物あるいはその用途を制限するものではない。
【0035】
<エンジン>
図2に、本実施形態で開示するエンジン1を示す。このエンジン1は、動力源として自動車に搭載される多気筒ガソリンエンジンである。ガソリンエンジンではあっても、このエンジン1の燃料は、ガソリンを主成分とするものであればよい(例えば、ガソリンにエチルアルコール等を含有させたものでもよい)。
【0036】
このエンジン1では、シリンダブロック1aと、その上部に組み付けられたシリンダヘッド1bとで、その主体が構成されている。シリンダブロック1aには、複数の円筒状の気筒2(図2では、その1つを示す)が紙面に直交して並ぶように設けられている。各気筒2には、ピストン3が往復動可能に挿入されていて、これらピストン3は、コネクティングロッド4を介してクランクシャフト5と連結されている。
【0037】
これらピストン3の往復動作に応じてクランクシャフト5が回転する。クランクシャフト5の回転動力は、変速機(図示せず)を介して出力されるようになっている。変速機は、ギヤ段(例えば1速〜6速)の変更が可能な機構を有しており、設定されたギヤ段で、回転動力が車輪に伝達されるようになっている。変速機は、自動変速機(いわゆるAT)や手動変速機(いわゆるMT)でもよく、このエンジン1では、その種類は問わない。
【0038】
各気筒2の内部上方には、シリンダヘッド1bの下面とピストン3の上面とで上下が仕切られた燃焼室6が形成されている。図示しないが、ピストン3の上面には、燃焼室6に噴射された燃料の流動を誘導するキャビティ(凹部)が形成されている。燃焼室6の上部には、シリンダヘッド1bに形成された吸気ポート7の吸気口及び排気ポート8の排気口が開口している。これら吸気口及び排気口を開閉する吸気弁9及び排気弁10が、シリンダヘッド1bにそれぞれ設けられている。なお、吸気弁9及び排気弁10の個数は問わないが、このエンジン1では、各気筒2に、吸気弁9及び排気弁10が、それぞれ2つずつ設けられている。
【0039】
吸気弁9及び排気弁10の各々は、シリンダヘッド1bに設置された動弁機構11により、クランクシャフト5の回転に連動して開閉駆動される。動弁機構11には、弁のリフト量や開閉タイミングが固定されたものや可変できるものなど、様々な機構があり、使用するエンジンの制御に応じて適宜選択される。
【0040】
シリンダヘッド1bには、点火プラグ12及びインジェクタ40が、各気筒2に設けられている。点火プラグ12は、その先端部に火花を発生する放電端子を有しており、その先端部が燃焼室6の上部中央(上下方向から見た中央)に突出するように、シリンダヘッド1bに配置されている。
【0041】
インジェクタ40は、燃料を噴射する軸形状をした部材である。エンジン1の運転時には、図外の燃料供給経路を通じて、燃料が所定の燃圧でインジェクタ40に供給されるようになっている。インジェクタ40は、その先端部が吸気側から燃焼室6の上部側方(上下方向から見た側方)に露出するように、斜め下向きに延びた状態でシリンダヘッド1bに配置されている。すなわち、このインジェクタ40は、燃焼室6で燃料を噴射する、いわゆる直噴型のインジェクタである(インジェクタ40の構造の詳細については後述)。
【0042】
シリンダヘッド1bの一方の側面に開口する吸気ポート7の導入口には、吸気通路14が接続されている。これら吸気通路14及び吸気ポート7を通じて、外気(新気)が燃焼室6に供給される。また、シリンダヘッド1bの他方の側面に開口する排気ポート8の導出口には、排気通路15が接続されている。これら排気ポート8及び排気通路15を通じて、燃焼室6で生成された排ガス(燃焼ガス)が排出される。
【0043】
吸気通路14には、アクセルの開度(運転者がアクセルペダルを踏み込み操作することによって変化)に応じて外気の流量を調整する電子制御式のスロットル弁16が設けられている。スロットル弁16は、アクセルペダルの開度から独立して開閉制御することも可能である。
【0044】
排気通路15には、触媒コンバータ17が設けられている。触媒コンバータ17には、三元触媒が内蔵されており、排ガスが触媒コンバータ17を通過することで、排ガス中の有害成分(NOx,CO,HC)が浄化されるようになっている。
【0045】
<制御装置>
エンジン1の運転は、主に、PCM(パワートレインコントロールモジュール)20によって総合的に制御されている。例えば、PCM20には、エンジン1の運転状態を検出するために、各種センサ類から様々な情報が絶えず入力されるようになっており、PCM20は、これら情報に基づいて、動弁機構11や点火プラグ12、スロットル弁16、インジェクタ40等がエンジン1の運転状態に応じて適切に作動するように制御する。
【0046】
図3に、インジェクタ40の制御に関連したブロック図を示す。PCM20には、エンジン回転数センサ21、ギヤ段検出センサ22、車速センサ23、アクセル開度センサ24などが電気的に接続されている。エンジン回転数センサ21は、エンジン1の回転数を検出し、ギヤ段検出センサ22は、変速機のギヤ段を検出する。車速センサ23は、自動車の車速を検出し、アクセル開度センサ24は、アクセルの開度を検出する。エンジン1の運転時には、これらセンサから、常時、PCM20に情報が入力されるようになっている。
【0047】
PCM20は、エンジン1の運転状態とエンジン1の出力指示に応じて目標とするトルクを設定し、設定した目標トルクをインジェクタECU30に出力する。具体的には、PCM20は、これらセンサから入力される情報に基づいて、エンジン回転数やエンジン負荷がどのような状態にあるのかを判断し、その状態とアクセルの開度とから、次に目標とするトルクを設定し、インジェクタECU30に出力する。
【0048】
インジェクタECU30は、インジェクタ40に付設された制御装置であり、インジェクタ40の制御に特化した機能を有している。インジェクタECU30は、PCM20で設定される目標トルクとエンジン1の運転状態とに基づいて、インジェクタ40の後述するニードル42の動作を制御する。具体的には、目標トルクの設定値に対応した燃料の噴射量(要求噴射量)を設定し、その要求噴射量とエンジン1の運転状態とに基づいて、インジェクタ40に所定の電流が供給されるように制御する。
【0049】
インジェクタECU30には、制御が高速過ぎて、フィードバック制御では間に合わないために、エンジン負荷及びエンジン回転数に応じて燃料噴射のパターンが設定された、複数の制御用のマップが実装されている。インジェクタECU30は、これらマップの中からエンジン1の運転状態に応じたマップを選択し、その噴射パターンに従って燃料が噴射されるように、インジェクタ40に供給する電流を制御する。
【0050】
このようなインジェクタECU30の設置により、燃料噴射の制御に関する演算処理が独立して行えるので、PCM20の処理負担が軽減され、燃料噴射の制御が、より高速かつ高精度に行える。
【0051】
このように、このエンジン1では、PCM20とインジェクタECU30との協働によって燃料の噴射が制御され、インジェクタECU30によってインジェクタ40の動作が制御されるように構成されている。すなわち、このエンジン1では、PCM20及びインジェクタECU30が「制御装置」に相当している。そして、PCM20及びインジェクタECU30によって「燃料噴射制御部」が構成され、インジェクタECU30によって「インジェクタ40制御部」が構成されている。ただし、インジェクタECU30は必須ではない。PCM20にインジェクタECU30と同等の機能を設け、PCM20だけで「燃料噴射制御部」を構成してもよい。
【0052】
<インジェクタ>
図4に、インジェクタ40の構造を具体的に示す。このインジェクタ40は、直動式の多噴孔型インジェクタであり、電気制御によって駆動するように構成されている。具体的には、インジェクタ40は、ボディ41、ニードル42、コア43、ソレノイドコイル44、コイルバネ45、コネクタ46などで構成されている。なお、本実施形態の開き駆動部は、コア43及びソレノイドコイル44によって構成されている。
【0053】
ボディ41は、略円筒軸状の部材からなり、通常は複数のパーツを組み合わせて構成されている。ボディ41は、その先端部が燃焼室6に露出するように、シリンダヘッド1bに取り付けられている。ボディ41の基端部には、燃料を導入する導入口41aと、導入した燃料を収容する基端側燃料室41bとが設けられている。導入口41aと基端側燃料室41bとの間には、異物を除去するストレーナ41cが取り付けられている。ボディ41の先端部には、ボディ41の内部の中間に挿嵌されたコネクタ46を介して先端側燃料室41dが設けられている。
【0054】
コネクタ46は、その中心に貫通した軸孔46aを有する円柱状のパーツである。軸孔46aの基端側には、円筒状のバネ止め47が固定されている。軸孔46aの先端側にはコイルバネ45が挿入されており、コイルバネ45の基端側がバネ止め47によって支持されている。
【0055】
先端側燃料室41dには、コイルバネ45の先端側を受け止めるように、軸状のニードル42と、ニードル42の基端部に固定されたコア43とが配置されている。これらニードル42及びコア43は、インジェクタ40の中心線Aに沿って所定のリフト量でスライド可能であり、コイルバネ45によって先端側に付勢されている。
【0056】
コア43の外周面は、ボディ41の内周面に沿って摺動するように形成されており、コア43の外周部には磁石43aが埋設されている。また、コア43の内部には、コア43で仕切られた先端側燃料室41dの基端側の部分と先端側の部分とを連通させる液流路43bが形成されている。
【0057】
従って、基端側燃焼室6に導入された燃料は、軸孔46a及び液流路43bを通じて先端側燃料室41dにも導入される。エンジン1の運転時には、基端側燃料室41bに燃料が供給されるので、基端側燃焼室6及び先端側燃料室41dは、常時、所定の燃圧の燃料で満たされた状態となる。
【0058】
ボディ41の先端部の内部、つまり先端側燃料室41dの末端には、外方に僅かに凹む空間からなるサック部48が形成されている。サック部48の周囲には、ニードル42の先端が圧接して液封される環状の座部48aが設けられている。ボディ41の先端部には、複数の噴射孔49が形成されており、サック部48は、これら噴射孔49を介して燃焼室6と連通している。
【0059】
ニードル42は、その先端が座部48aに圧接する位置(閉じ位置)へと向かうように、コイルバネ45によって推進力が与えられており、外部から力が作用しない限り、サック部48と先端側燃料室41dとの間は閉じられ、サック部48に燃料を流入させないようになっている。
【0060】
ボディ41の内部に位置するコア43と対向するように、ボディ41の外部にソレノイドコイル44が設けられている。図示しないが、ソレノイドコイル44には、インジェクタECU30の指示に従って、所定のタイミングで所定量の電流が供給されるようになっている。ソレノイドコイル44に電流が供給されることで、磁界が形成されてコア43の磁石43aに磁力が作用する。それにより、コア43に、コイルバネ45の弾性力に抗して基端側にスライドさせる推進力が与えられ、ニードル42は、その先端が座部48aから離れてリフトし、サック部48に燃料を流入させる位置(開き位置、図4の拡大図に仮想線で示す)へと向かうようになっている。
【0061】
すなわち、このインジェクタ40の場合、ソレノイドコイル44へ所定の電流(開き変位電流)を供給することで、磁力の作用で、ニードル42が開き位置に変位し、サック部48へ燃料が流入して燃料噴射が開始する。そうして、ソレノイドコイル44へ所定の電流(開き保持電流)を供給することで、ニードル42が開き位置に保持され、燃料噴射が継続される。そして、ソレノイドコイル44への電流の供給が停止されることで、コイルバネ45の弾性力の作用で、ニードル42が閉じ位置に変位し、サック部48への燃料の流入が停止して燃料噴射が終了する。
【0062】
従って、このインジェクタ40であれば、燃料噴射の開始時には、ソレノイドコイル44への電流の供給により、直ちに開弁動作が行え、燃料噴射の終了時には、ソレノイドコイル44への電流の供給の停止により、直ちに閉弁動作が行える。そのため、燃料の圧力差を利用したフロート式のインジェクタと異なり、タイムラグがほとんど無しに制御できるので、ミリ秒を超えるような高速であっても、高精度な制御が安定して行える。
【0063】
また、一般に、ニードル42がリフトする際、ニードル42に作用する力Fは、次の式(1)で表現できる。
【0064】
(1)F=k・x+ΔP・S−Mag
ここで、kはコイルバネ45のバネ定数、xはリフト量、ΔPは閉じ位置に向かってコア43に作用する燃圧差、Sはその燃圧差が作用するコア43の面積、Magはソレノイドコイル44によって発生する磁力、を表している。
【0065】
引用文献1のような、ディーゼル用のフロート式のインジェクタと比べると、このガソリン用の直動式のインジェクタ40は、圧縮行程でなく吸気行程で噴射されるので、k・xやΔP・Sは小さくなる。そのため、このインジェクタ40によれば、比較的小さい電流で制御できるので、バッテリーの電力消費も抑制できる。
【0066】
<燃料噴射の制御>
次に、図5のフローチャートを参照しながら、燃料噴射の制御について具体的に説明する。PCM20は、図3に示したように、自動車の運転中は常時、各種センサが検出する値を読み込んでエンジン1の運転状態を判断しており(ステップS1)、要求されるエンジン1の運転状態となるように、燃焼サイクルごとに目標トルクを設定し(ステップS2)、インジェクタECU30に、エンジン回転数やエンジン負荷の情報とともに、その設定した目標トルクを出力する。
【0067】
インジェクタECU30は、PCM20から目標トルク等の情報が入力されると、それに応じた要求噴射量を設定する(ステップS3)。インジェクタECU30は、エンジン1の運転状態、すなわち、その時のエンジン回転数及びエンジン負荷に応じたマップを選択してその噴射パターンを読み出す(ステップS4)。そうして、インジェクタECU30は、その噴射パターンで要求噴射量が噴射されるように、インジェクタ40を電流制御する(ステップS5)。
【0068】
図6に、通常の場合での、噴射パターンの一例を模式的に示す。(a)は、ソレノイドコイル44に供給される電流の変化を、(b)は、ニードル42のリフト量の変化を、(c)は、サック部48の差圧(サック部48の内圧−燃焼室6の内圧)の変化を、それぞれ表している。
【0069】
横軸は時間(msのレベル)を表している。このエンジン1では、吸気行程中に燃料が噴射される。噴射パターンによっては、複数回に分けて噴射される場合もあるが、ここでは1回で噴射される場合を表している。
【0070】
リフト量が「0」の位置が閉じ位置に相当し、リフト量が最大の位置が開き位置に相当する。ニードル42が閉じ位置から離れて、再度閉じ位置に戻るまでの期間が、PCM20及びインジェクタECU30によって設定される燃料の噴射期間(理論的にインジェクタ40から燃焼室6に燃料が噴射される状態にある期間)である。従って、(b)において台形の面積で表される部分が要求噴射量に対応する。
【0071】
このインジェクタ40では、上述したように、燃料噴射の開始時には電流制御によって開弁動作が行われるので、ニードル42を高速で変位させることができ、噴射パターンに対して僅かなタイムラグでニードル42のリフトを追随させることができる。すなわち、高精度な開弁動作が行える。開弁動作では、コイルバネ45や燃圧に抗してニードル42を高速でリフトさせる必要があるため、インジェクタECU30は、ソレノイドコイル44に比較的大きな電流(開き変位電流)を供給する。
【0072】
そして、開き位置に達すると、インジェクタECU30は、ソレノイドコイル44に開き変位電流よりも小さい電流(開き保持電流)を供給する。それにより、ニードル42は開き位置に保される。
【0073】
そして、所定期間が経過すると、インジェクタECU30は、ソレノイドコイル44への開き保持電流の供給を停止し、閉弁動作が開始される。このとき、電流制御により直ちにコイルバネ45による閉弁動作が行える。なお、閉弁動作ではコイルバネ45の弾性力によってニードル42が変位するため、開弁動作よりもニードル42の変位速度は小さくなっている(傾きが緩やか)。
【0074】
そうして、ニードル42が閉じ位置に達することで噴射期間が終了し、燃料の噴射が停止する。ところが、このとき、(c)に拡大して示すように、サック部48への燃料の流入は止まるが、サック部48の燃料は、慣性力によって引き続き、燃焼室6に噴射されるため、サック部48が負圧になる。
【0075】
特に、吸気行程は、圧縮行程と異なり、燃焼室6の内圧が低くいため、燃料が流出し易くなっており、よりいっそう負圧になり易い。
【0076】
それにより、噴射期間の終了後(ニードル42が閉じ位置に達した後)に、直前の排気行程で燃焼室6に残留した既燃ガス(カーボン等を含んでいる)がサック部48に逆流し、噴射孔49やその周辺に、デポジットが形成されるおそれがある。
【0077】
(減速閉じ制御)
そこで、このエンジン1では、燃料噴射の終了後に発生し得るサック部48の負圧化が抑制できるように工夫されている。すなわち、レスポンスに優れたインジェクタ40を活用し、噴射期間の終了時に、ニードル42が開き位置から閉じ位置に変位する速度を減少させるようにした。
【0078】
具体的には、開き保持電流の供給が停止して閉弁動作が開始すると、本来であれば、ニードル42は、コイルバネの弾性による推進力により、一定の速度で閉じ位置に向かって変位する。それに対し、このエンジンでは、インジェクタECU30により、ニードル42の速度を減速させる減速電流が、ソレノイドコイル44に供給されるようになっている。
【0079】
図7に、減速閉じ制御を行った場合での噴射パターンを例示する。(a)は、ソレノイドコイル44に供給される電流の変化を、(b)は、ニードル42のリフト量の変化を、(c)は、サック部48の差圧の変化を、(d)は、サック部48の燃料量の変化を、それぞれ表している。
【0080】
(a)に示すように、通常の噴射期間が終了して、開き保持電流の供給が停止されると、減速電流がソレノイドコイル44に供給される。減速電流は、コイルバネの推進力に抗してニードル42の速度を所定の値まで減速させればよいため、開き変位電流よりも小さい電流である。減速電流は、減速量に応じてその大きさが調整される。
【0081】
減速電流の大きさを調整することで、所望する大きさで、コイルバネの推進力に抗する逆向きの推進力をニードルに与えることができるので、ニードルの変位速度を自在に調整することができる。電流制御であるため、高精度な制御が行える。
【0082】
インジェクタECU30は、要求噴射量が一定となるように、減速された変位速度に合わせて、開き保持電流を停止するタイミングを調整する。電気制御であるため、そのような調整が可能であり、変位速度を可変させても要求噴射量を精度高く維持できる。
【0083】
更に、減速電流は、一定の値とするのが好ましい。微小空間からなるサック部48を対象とした高速下での制御であるため、閉弁期間中に減速電流を可変すると、制御が複雑になって処理負担が増加する。ニードルの動作も安定するため、より高精度な制御が行える。
【0084】
そうすることで、(b)に示すように、仮想線で示す、コイルバネのみの推進力による変位速度に比べて、減速された一定の変位速度でニードルは変位する。その結果、弁座に着座するニードル42の変位動作が緩やかになり、(c)や(d)に示すように、サック部48に燃料が残存して、サック部48が負圧になるのが抑制される。ニードル42がバウンドすることも抑制される。
【0085】
その結果、燃料噴射後のサック部48への燃焼室6からの逆流が抑制されて、噴射孔49やその周辺にデポジットが形成され難くなるので、適切な燃料噴射が長期にわたって安定して行える。ニードル42を減速させるだけであるので、複雑な演算処理が不要であり、インジェクタECU30の処理負担も軽減できる。
【0086】
(エンジンの運転状態の影響)
このような減速閉じ制御を行った場合、燃料噴射の終了時に、燃焼室6に噴射される燃料の噴射速度が遅くなるおそれがある。
【0087】
吸気行程で燃料を噴射する場合、燃焼状態を制御するために、噴射のタイミングや、ピストン3のキャビティの形状等との組み合わせにより、タンブル流やスワール流等、所定の流動が燃焼室6で形成されて、最適な噴霧状態が得られるように、燃料噴射の条件が設定されている。それに対し、燃料の噴射速度が遅くなると、最適な噴霧状態が得られずに、燃費等に影響を与えるおそれがある。
【0088】
特に、エンジン回転数が低い運転領域では、エンジン回転数が高い運転領域に比べて、燃焼室6で形成される流動が弱いため、その影響を受け易い。そこで、このエンジン1では、エンジン回転数が低くなるほど、ニードル42の変位速度が速くなるように設定されている。
【0089】
具体的には、図8に示すように、エンジン回転数が高い運転領域では、ニードル42の変位速度が相対的に遅くなるように(傾きが緩やか)、ソレノイドコイル44に供給する減速電流の値を大きく設定する。そして、エンジン回転数が低い運転領域では、ニードル42の変位速度が相対的に速くなるように(傾きが急)、ソレノイドコイル44に供給する減速電流の値を小さく設定する。
【0090】
そうすることで、減速閉じ制御による燃料の噴霧状態への悪影響を抑制することができるようになる。
【0091】
同様に、エンジン温度の影響も受け得る。すなわち、エンジン温度が低いと、燃焼室6で噴霧された燃料が気化し難いため、燃料の噴射速度が遅くなると、最適な噴霧状態が得られずに、燃費等に影響を与えるおそれがある。
【0092】
そのため、エンジン回転数と共に、エンジン温度が低くなるほど、ニードル42の変位速度が相対的に速くなるように設定するのが好ましい。例えば、冷間始動後に、エンジン温度が所定の温度に達する、いわゆる暖気運転の完了の前後で、ニードル42の変位速度の大きさが切り替わるように設定することなどが考えられる。
【0093】
なお、本発明にかかるエンジンの制御装置は、上述した実施形態に限定されず、それ以外の種々の構成をも包含する。
【0094】
例えば、燃料噴射が複数回に分けて行われる分割噴射の場合は、最後の燃料噴射の時にのみ、減速閉じ制御を行うのが好ましい。
【0095】
ニードル42の変位速度を減速するだけでなく、加速させてもよい。電流制御であれば容易に行える。
【符号の説明】
【0096】
1 エンジン
2 気筒
3 ピストン
6 燃焼室
12 点火プラグ
20 PCM(制御装置)
30 インジェクタECU(制御装置)
40 インジェクタ
41 ボディ
42 ニードル
48 サック部
49 噴射孔
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8