(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
同軸的に配置された前記クラッチプレート及び前記第二クラッチプレートに対し、軸方向一方側に配置された第一押圧部材及び軸方向他方側に配置された第二押圧部材を備え、
前記第一押圧部材及び前記第二押圧部材は、前記クラッチプレート及び前記第二クラッチプレートを軸方向に挟持することで前記回転力伝達可能な状態を形成し、前記クラッチプレート及び前記第二クラッチプレートを軸方向に挟持しないことで前記回転力伝達不可能な状態を形成する請求項8に記載の駆動力伝達装置。
【発明を実施するための形態】
【0019】
次に、好ましい実施形態を挙げ、本発明をより詳しく説明する。本実施形態では、本発明のクラッチプレートを、電子制御4WDカップリングのパイロットクラッチ機構のクラッチプレートとして用いた場合を一例として挙げる。ただし、本発明のクラッチプレートは、他のクラッチ機構にも適用できる。また、電子制御4WDカップリングは、駆動力伝達装置の1つに相当するため、以下、駆動力伝達装置と記載する。
【0020】
(駆動力伝達装置)
ここで、
図1及び
図2を参照して、駆動力伝達装置91について説明する。まず、四輪駆動車90は、
図1に示すように、主に、駆動力伝達装置91と、トランスアクスル92と、エンジン93と、一対の前輪94と、一対の後輪95と、を備えている。エンジン93の駆動力は、トランスアクスル92を介してアクスルシャフト81に出力され、前輪94を駆動する。
【0021】
また、トランスアクスル92は、プロペラシャフト82を介して駆動力伝達装置91に連結されている。そして、駆動力伝達装置91は、ドライブピニオンシャフト83を介してリヤデファレンシャル84に連結されている。リヤデファレンシャル84は、アクスルシャフト85を介して後輪95に連結されている。プロペラシャフト82とドライブピニオンシャフト83が駆動力伝達装置91にてトルク伝達可能に連結された場合には、エンジン93の駆動力は後輪95に伝達される。
【0022】
駆動力伝達装置91は、例えば、リヤデファレンシャル84とともにディファレンシャルキャリヤ86内に収容され、且つディファレンシャルキャリヤ86に支持され、同ディファレンシャルキャリヤ86を介して車体に支持されている。
【0023】
図2に示すように、駆動力伝達装置91は、主に、外側回転部材としてのアウタケース70aと、内側回転部材としてのインナシャフト70bと、メインクラッチ機構70cと、パイロットクラッチ機構70dと、カム機構70eと、を備えている。
【0024】
アウタケース70aは、有底筒状のフロントハウジング71aと、フロントハウジング71aの軸方向の一方側(
図2の右側)端部の開口部に螺着され且つその開口部を覆蓋するリヤハウジング71bと、から構成されている。フロントハウジング71aの軸方向の他方側(
図2の左側)の端部には入力軸60が突出形成され、同入力軸60はプロペラシャフト82に連結されている。
【0025】
入力軸60が一体に形成されたフロントハウジング71a、および、リヤハウジング71bは、磁性材料である鉄で形成されている。リヤハウジング71bの径方向の中間部には、非磁性体材料あるステンレス製の筒体61が埋設され、この筒体61は環状の非磁性部位を形成している。
【0026】
アウタケース70aは、フロントハウジング71aの前端部外周において、ディファレンシャルキャリヤ86に対してベアリング等(図示なし)を介して回転可能に支持されている。また、アウタケース70aは、リヤハウジング71bの外周において、ディファレンシャルキャリヤ86に対して支持されたヨーク76にベアリング等を介して支持されている。
【0027】
インナシャフト70bは、リヤハウジング71bの中央部を液密的に貫通してフロントハウジング71a内に挿入され、軸方向への移動を規制された状態でフロントハウジング71aとリヤハウジング71bに対して相対回転可能に支持されている。インナシャフト70bには、ドライブピニオンシャフト83の先端部が挿入されている。なお、図においてドライブピニオンシャフト83は図示していない。
【0028】
メインクラッチ機構70cは、湿式多板式のクラッチ機構であって、鉄からなりその摺動面にペーパ摩擦材が貼付されたインナクラッチプレート72aと、鉄からなるアウタクラッチプレート72bと、を多数備えている。インナクラッチプレート72aおよびアウタクラッチプレート72bは、フロントハウジング71aの径方向の内側に配設されている。
【0029】
クラッチ機構を構成する各インナクラッチプレート72aは、インナシャフト70bの外周にスプライン嵌合されて軸方向へ移動可能に組み付けられている。一方、各アウタクラッチプレート72bは、フロントハウジング71aの内周にスプライン嵌合されて軸方向へ移動可能に組み付けられている。各インナクラッチプレート72aと各アウタクラッチプレート72bは、軸方向に交互に配置されており、互いに当接して摩擦係合可能であるとともに、互いに離間して非係合の自由状態になることもできる。
【0030】
パイロットクラッチ機構70dは、電磁石73、摩擦クラッチ群74、及びアーマチャ75を備えている。電磁石73とアーマチャ75により電磁式の駆動手段が構成されている。
【0031】
ヨーク76は、ディファレンシャルキャリヤ86に対してインローにて支承され、かつリヤハウジング71bの後端部の外周に対して相対回転可能に支持されている。ヨーク76には環状をなす電磁石73が嵌着され、電磁石73は、リヤハウジング71bの環状凹所63に配置されている。
【0032】
摩擦クラッチ群74は、鉄製の1枚のインナパイロットクラッチプレート74a及び鉄製の2枚のアウタパイロットクラッチプレート74bからなる多板式の摩擦クラッチとして構成されている。なお、後述する実施形態では、本発明のクラッチプレートの例として、本発明を当該インナパイロットクラッチプレート74aに適用した場合を挙げている。
【0033】
インナパイロットクラッチプレート74aは、カム機構70eを構成する第1カム部材77の外周にスプライン嵌合されて軸方向へ相対移動可能且つ周方向に相対移動不可能に組み付けられている。一方、各アウタパイロットクラッチプレート74bは、フロントハウジング71aの内周にスプライン嵌合されて軸方向へ相対移動可能且つ周方向に相対移動不可能に組み付けられている。第1カム部材77に連動するインナシャフト70bが「第一回転部材」に相当し、フロントハウジング71aが「第二回転部材」に相当する。
【0034】
インナパイロットクラッチプレート74aと各アウタパイロットクラッチプレート74bとは、軸方向に交互に配置され、互いに当接して摩擦係合可能であるとともに、互いに離間して非係合の自由状態になることもできる。
【0035】
カム機溝は、第1カム部材77、第2カム部材78、及びカムフォロア79を有している。第2カム部材78は、インナシャフト70bの外周に軸方向へ移動自在にスプライン嵌合されており、インナシャフト70bに対して一体回転可能に組み付けられている。第2カム部材78は、メインクラッチ機構70cのインナクラッチプレート72aに対向して配置されている。第2カム部材78と第1カム部材77の互いに対向するカム溝には、ボール状のカムフォロア79が介在されている。
【0036】
駆動力伝達装置91において、パイロットクラッチ機構70dを構成する電磁石73の電磁コイルへの通電がなされていない場合には、磁路は形成されず、摩擦クラッチ74は非係合状態にある。この場合、パイロットクラッチ機構70dは非作動の状態にあって、カム機構70eを構成する第1カム部材77は、カムフォロア79を介して第2カム部材78と一体回転可能であり、メインクラッチ機構70cは非作動状態にある。このため、四輪駆動車90は、二輪駆動の駆動モードを構成する。
【0037】
一方、電磁石73の電磁コイルへ通電されると、パイロットクラッチ機構70dには磁路が形成され、電磁石73はアーマチャ75を吸引する。この場合、アーマチャ75は摩擦クラッチ群74を軸方向に押圧して摩擦係合させ、カム機構70eの第1カム部材77をフロントハウジング71a側と連結させ、第2カム部材78との間に相対回転を生じさせる。この結果、カム機構70eではカムフォロア79が両カム部材77、78を互いに離間する方向へ押圧する。
【0038】
この結果、第2カム部材78はメインクラッチ機構70c側へ押圧され、メインクラッチ機構70cを摩擦クラッチ群74の摩擦係合力に応じて摩擦係合させ、アウタケース70aとインナシャフト70bとの間のトルク伝達を行う。このため、四輪駆動車90は、プロペラシャフト82とドライブピニオンシャフト83が非直結状態の四輪駆動の駆動モードを構成する。
【0039】
つまり、インナパイロットクラッチプレート74a及びアウタパイロットクラッチプレート74bが係合することでフロントハウジング71とインナシャフト70bとが回転力伝達可能な状態となり、インナパイロットクラッチプレート74a及びアウタパイロットクラッチプレート74bが離隔することでフロントハウジング71とインナシャフト70bとが回転力伝達不可能な状態となる。アーマチャ75及びリヤハウジング71b(又は筒体61)は、「第一押圧部材」及び「第二押圧部材」に相当し、インナパイロットクラッチプレート74a及びアウタパイロットクラッチプレート74bを軸方向に挟持して摩擦係合状態を形成する。「押圧部材」には、クラッチプレートを間接的に押圧するものも含まれる。
【0040】
また、電磁石73の電磁コイルへの印加電流を所定の値に高めると、電磁石73のアーマチャ75に対する吸引力が増大する。そして、アーマチャ75は強く電磁石73側へ吸引作動され、摩擦クラッチ群74の摩擦係合力を増大させ、両カム部材77、78間の相対回転を増大させる。この結果、カムフォロア79は第2カム部材78に対する押圧力を高めて、メインクラッチ機構70cを結合状態とする。このため、四輪駆動車90は、プロペラシャフト82とドライブピニオンシャフト83が直結した四輪駆動の駆動モードを構成する。インナパイロットクラッチプレート74a及びアウタパイロットクラッチプレート74bのトルク変化率は、運転フィーリング等に影響を及ぼす。
【0041】
(クラッチプレート)
本実施形態のクラッチプレート1について、
図3〜
図10を参照して説明する。クラッチプレート1は、一例として上記インナパイロットクラッチプレート74aに適用させている。
【0042】
クラッチプレート1は、
図3に示すように、環状の磁性体金属板からなり、軸方向一端面11および軸方向他端面(図示せず)の両端面にはそれぞれ潤滑溝2が形成されている。軸方向他端面には、軸方向一端面11と同様の潤滑溝2が形成されている。なお、軸方向は、クラッチプレートの中心軸Oに平行な方向であり、入力軸60に平行な方向ともいえる。
【0043】
端面11は、潤滑溝2と、プレート同士が摩擦係合する摩擦係合面13と、を有している。さらに詳細には、端面11は、主に、潤滑溝2と、窓3と、ブリッジAと、摩擦係合面13と、連結部(図示せず)と、で構成されている。つまり、摩擦係合面13は、端面11においておよそ潤滑溝2と窓3とブリッジAと連結部を除いた部分であり、端面11のうち係合相手のクラッチプレートに摩擦係合するための部位(摩擦係合部ともいえる)である。摩擦係合面13は、複数のランド(「丘部」に相当する)14で構成されている。ランド14は、潤滑溝2を構成する溝21で囲まれた部分であり、実係合面141と、複数の小溝15と、を有している(
図5参照)。ランド14についての詳細は後述する。連結部は、潤滑溝2を構成する溝21と、ランド14とをつなぐ部分である。連結部は、クラウニング(ダレ)であっても、溝21の側面の一部(延長部分)であっても良い。本実施形態の連結部は、クラウニングとなっている。
【0044】
潤滑溝2は、上記の両パイロットクラッチプレート74a、74b間に介在する余分な潤滑油Zを受け入れるように構成されている。つまり、クラッチプレート1は湿式のクラッチプレートである。潤滑溝2は、プレート間の潤滑油Zを受け入れるとともにプレート間外へ逃がす役割も果たす。これにより、プレート同士の係合がスムーズに行われる。
【0045】
また、クラッチプレート1の端面11の径方向略中央には、軸方向に貫通した円弧状の貫通穴である窓3が同一円周上に複数配置されている。窓3は、パイロットクラッチ機構において、適切な磁気回路(磁路)を形成するために必要である。また、クラッチプレート1の内周縁には、スプライン4が形成されている。
【0046】
潤滑溝2は、
図3〜
図5に示すように、複数の溝21からなっている。溝21は、一方側の側面と、底面と、他方側の側面とにより構成されている。溝21の側面は、連結部を介してランド14につながっている。詳細には、クラッチプレート1をその軸方向に切断した断面で見ると、溝21の底面が溝21のうち最も軸方向内側に延在し、溝21の側面が底面から軸方向外側に延び、連結部が溝21の側面から軸方向外側に延び、ランド14が連結部の軸方向外側端部につながっている。潤滑溝2は、両端面11上に全体的に延在し、表面中央部から外周縁および内周縁(スプライン4の縁)にまで延在している。潤滑溝2は、窓3および窓3同士の間(ブリッジA)を除いた表面全体に形成されている。なお、連結部は無くても良い。
【0047】
本実施形態では、潤滑溝2は、格子状(メッシュ状)に形成されている。溝21は、外周側では外周縁から窓3またはブリッジAまで延び、内周側では窓3またはブリッジAから内周縁(スプライン4の縁)まで延びている。つまり、潤滑溝2の溝21は、両端面11上において、周方向に交差する方向に延伸している。そして、潤滑溝2は、溝21同士が接する(ここでは交差する)交点22を複数有している。上述のように溝21の両縁は、連結部(クラウニング)につながり、連結部はランド14につながっている。
【0048】
ランド14は、複数の溝21と連結部とにより囲まれて画定された部分である。連結部がない場合、ランド14は複数の溝21により囲まれて画定された部分になる。複数の溝21は、溝の中央線により規定されている。溝の中央線は、それぞれ「微分可能な線」に一致し、複数の微分可能な線が交差する点である「微分可能でない点」を有する。各溝の幅は、各微分可能な線の接線に垂直な方向で且つクラッチプレート1の軸方向に垂直な方向(以下、溝幅方向とも称する)の、溝21の一方側の側面と底面と他方側の側面とを合わせた距離である。換言すると、各溝の幅は、一方側の側面と他方側の側面との溝幅方向における離間距離の最大値である。ランド(丘部)14は、複数の溝の中央線上にある少なくとも2点の微分可能でない点と、当該微分可能でない点を結び複数の溝の中央線に一致する複数(微分可能でない点と同数)の微分可能な線により、囲まれて画定される。
【0049】
具体的には、
図4に示すように、複数の溝21による溝中央線の交点(22)が微分可能でない点p1〜p4となり、点p1と点p2を結ぶのが微分可能な線q1となり、点p2と点p3を結ぶのが微分可能な線q2となり、点p3と点p4を結ぶのが微分可能な線q3となり、点p4と点p1を結ぶのが微分可能な線q4となる。本実施形態におけるランド14は、4点の微分可能でない点p1〜p4と、4つの微分可能な線q1〜q4と、により囲まれて画定されている。本実施形態において、線q1〜q4はほぼ同じ長さである。
【0050】
さらに具体的に、溝21は、クラッチプレート1の周方向(回転方向)に交差するように、クラッチプレート1の内側(スプライン4よりも内側)に中心を持つ仮想円(又は仮想球)の軌跡に沿って形成されている(
図3の点線参照)。互いに中心が異なる複数の仮想円に対応して複数の溝21が形成されている。上記仮想円の中心は、クラッチプレート1の中心を中心とする第二の仮想円上で周方向に等間隔に位置している。
【0051】
ここで、各ランド14は、
図5に示すように、表面に厚さ方向に窪んだ複数の小溝15を有している。つまり、ランド14は、摩擦係合対象である略平面状の実係合面141と、複数の小溝15とで構成されている。複数のランド14(実係合面141+複数の小溝15)により摩擦係合面13が構成されている。クラッチプレート同士の摩擦係合は、潤滑油を介して又は直接接触して行われる。小溝15は、幅、深さ、及び長さにおいて、溝21よりも小さい。小溝15は、略同一方向(又は同一中心で半径の異なる複数の円に沿って)に延びている。本実施形態では、小溝15は、クラッチプレート1の径方向のうちの任意の一方向に略平行に延在している。したがって、クラッチプレート1の一部のランド14では小溝15がクラッチプレート1の周方向(回転方向)に直交し、当該一部から90°回転した位置では小溝15がクラッチプレート1の周方向に平行に延びている。その他の部位では、小溝15がクラッチプレートの周方向に交差している。上記一部を位相0°とすると、クラッチプレート1の0°と180°の部位において小溝15が周方向に直交し、クラッチプレート1の90°と270°の部位において小溝15が周方向に平行となる。小溝15は、ランド14の一端部から他端部にまで延びている。
【0052】
クラッチプレート1の製造方法は、プレス加工を用いたものであり、
図6に示すように、主に、仮抜き工程S1と、溝押し工程S2と、姿抜き工程S3と、研磨工程S4と、ショット工程S5と、DLC工程S6と、を含んでいる。
【0053】
仮抜き工程S1は、磁性体金属板(ここでは鉄板)に対して、クラッチプレート1の大まかな内周縁と外周縁の形を形成する工程である。溝押し工程S2は、当該鉄板に対し、潤滑溝2の型を両端面にプレスする工程である。姿抜き工程S3は、クラッチプレート1の内周縁(ここではスプライン4)、外周縁、および、窓3を形成する工程である。研磨工程S4は、溝押し工程S2以降に行われ、摩擦係合面13を研磨して平面度を高める工程である。本実施形態では、研磨工程S4において、クラッチプレート1に対して一方向に研磨され、クラッチプレート1の端面11(他方の端面も同様)に研磨方向に延びる研磨痕(研磨溝)が形成される。この研磨による痕が小溝15を構成している。すなわち、本実施形態の全小溝15は、研磨工程S4の研磨によって形成されている。
【0054】
ショット工程S5は、クラッチプレート1の両端面にショットブラストを施すことにより、研磨工程S4で粗くなった両端面の粗さを調整する工程である。DLC工程S5は、クラッチプレート1にDLC(ダイヤモンドライクカーボン)処理を行う工程である。具体的に、DLC工程S5は、クラッチプレート1の全表面をDLC皮膜でコーティングする工程である。なお、DLC工程S5の前後で、クラッチプレート1の表面粗さはほぼ変化しない。
【0055】
本実施形態のクラッチプレート1は、ショット工程S5後の測定において、複数の小溝15が形成されている摩擦係合面13の表面粗さがRz(JIS1982)=3.0〜4.0μmとなるように形成されている。つまり、小溝15が形成されていることにより、摩擦係合面13の表面粗さは、Rz(JIS1982)で3.0μm以上4.0μm以下となっている。また、本実施形態において、端面11のうちの摩擦係合面13の割合である摺動面積率は、55〜90%である。
【0056】
本実施形態のアウタパイロットクラッチプレート(「第二クラッチプレート」に相当する)74bは、
図7に示すように、端面に、摩擦係合面13に係合する第二摩擦係合面741と、アウタパイロットクラッチプレート74bの中心(以下、第二中心とも称する)を中心とした複数の環状溝742と、を有している。複数の環状溝742は、第二中心を中心としたそれぞれ半径の異なる円に沿った溝である。なお、環状溝742は、第二中心を中心とした渦巻き溝であっても良い。
【0057】
<実施例>
各実施例のクラッチプレートは、本実施形態の製造方法により製造したものである。すなわち、各実施例では、研磨工程S4における一方向への研磨により複数の小溝15を形成した。
【0058】
実施例における表面粗さRz(JIS1982)の測定方法について
図8を参照して説明する。測定したクラッチプレート1は、ショット工程S5後DLC工程S6前のものである。まず、クラッチプレート1端面11の任意の位相(角度位置)を測定対象とした。具体的に、
図8の丸印に示すように、当該任意の位相に対し、内周側中央付近と外周側中央付近の2箇所を測定対象とした。内周及び外周とは、窓3及びブリッジAにより区画されている。
【0059】
次に、クラッチプレート1の位相を120°ずらしたところを測定対象とした。具体的に、上記同様、当該位相に対し、内周側中央付近と外周側中央付近の2箇所を測定対象とした。そして、さらに、クラッチプレート1の位相を120°ずらし、当該位相に対し、内周側中央付近と外周側中央付近の2箇所を測定対象とした。すなわち、本実施例では、クラッチプレート1の周方向に120°毎に表面粗さを測定した。換言すると、任意の測定位置からスタートし、測定位置をクラッチプレート1の周方向に120°ずつずらして、3つの位相で測定した。
【0060】
上記同様の測定を他方の端面に対して実行し、一方の端面11の測定箇所が6点、他方の端面の測定箇所が6点の合計12点で測定を行った。本実施例の表面粗さRz(JIS1982)は、当該12点の表面粗さの平均値である。Rz(JIS1982)は、十点平均粗さともいえる。なお、RzのJIS番号は、JIS B 0601(1982)である。
【0061】
続いて、本実施例の表面粗さの測定方法について説明する。まず、測定箇所(
図8丸印参照)に対する測定方向は、
図8の矢印に示すように、クラッチプレート1の中心から径方向外側に向かう方向とした。測定装置は、Surfcorder SE3500(小坂研究所製)であった。評価長さは、0.8mmとした。カットオフは、R+Wとした。フィルタ方法は、2RCとした。送り速さは0.1mm/sとした。スタイラス径は、2μmとした。評価パラメータは、上記のとおりRz(JIS1982)とした。
【0062】
そして、本実施例のトルク変化率は、電流値一定下において、50℃時のトルク(A)に対する−40℃時のトルク(B)の変化の割合((B−A)/A)である(ただし、本実施例では%で表す)。トルク測定において、クラッチプレート1に摩擦係合するのは
図7に示すアウタパイロットクラッチプレート74bとした。なお、本実施例のクラッチプレートの摺動面積率は、およそ58%であった。
【0063】
(実施例1)
実施例1に係るクラッチプレート1の摩擦係合面13の表面粗さRz(JIS1982)は、3.3μmであった。ランド14に形成された小溝15の深さは、およそ0.1〜4.0μmであった。小溝15は、ランド14の一端部から他端部に延在していた。トルク変化率は、20.5%であった。
【0064】
(実施例2)
実施例2に係るクラッチプレート1の摩擦係合面13の表面粗さRz(JIS1982)は、3.41μmであった。ランド14に形成された小溝15の深さは、およそ0.1〜4.0μmであった。小溝15は、ランド14の一端部から他端部に延在していた。トルク変化率は、10.5%であった。
【0065】
(実施例3)
実施例3に係るクラッチプレート1の摩擦係合面13の表面粗さRz(JIS1982)は、3.42μmであった。ランド14に形成された小溝15の深さは、およそ0.1〜4.0μmであった。小溝15は、ランド14の一端部から他端部に延在していた。トルク変化率は、9.5%であった。
【0066】
(実施例4)
実施例4に係るクラッチプレート1の摩擦係合面13の表面粗さRz(JIS1982)は、3.58μmであった。ランド14に形成された小溝15の深さは、およそ0.1〜4.0μmであった。小溝15は、ランド14の一端部から他端部に延在していた。トルク変化率は、5.5%であった。
【0067】
(実施例5)
実施例5に係るクラッチプレート1の摩擦係合面13の表面粗さRz(JIS1982)は、3.63μmであった。ランド14に形成された小溝15の深さは、およそ0.1〜4.0μmであった。小溝15は、ランド14の一端部から他端部に延在していた。トルク変化率は、5.0%であった。
【0068】
(実施例6)
実施例6に係るクラッチプレート1の摩擦係合面13の表面粗さRz(JIS1982)は、3.65μmであった。ランド14に形成された小溝15の深さは、およそ0.1〜4.0μmであった。小溝15は、ランド14の一端部から他端部に延在していた。トルク変化率は、4.5%であった。
【0069】
(実施例7)
実施例7に係るクラッチプレート1の摩擦係合面13の表面粗さRz(JIS1982)は、3.7μmであった。ランド14に形成された小溝15の深さは、およそ0.1〜4.0μmであった。小溝15は、ランド14の一端部から他端部に延在していた。トルク変化率は、5.0%であった。
【0070】
(実施例8)
実施例8に係るクラッチプレート1の摩擦係合面13の表面粗さRz(JIS1982)は、3.73μmであった。ランド14に形成された小溝15の深さは、およそ0.1〜4.0μmであった。小溝15は、ランド14の一端部から他端部に延在していた。トルク変化率は、2.0%であった。
【0071】
(実施例9)
実施例9に係るクラッチプレート1の摩擦係合面13の表面粗さRz(JIS1982)は、3.75μmであった。ランド14に形成された小溝15の深さは、およそ0.1〜4.0μmであった。小溝15は、ランド14の一端部から他端部に延在していた。トルク変化率は、−7.0%であった。
【0072】
(実施例10)
実施例10に係るクラッチプレート1の摩擦係合面13の表面粗さRz(JIS1982)は、3.78μmであった。ランド14に形成された小溝15の深さは、およそ0.1〜4.0μmであった。小溝15は、ランド14の一端部から他端部に延在していた。トルク変化率は、−9.5%であった。
【0073】
(実施例11)
実施例11に係るクラッチプレート1の摩擦係合面13の表面粗さRz(JIS1982)は、3.9μmであった。ランド14に形成された小溝15の深さは、およそ0.1〜4.0μmであった。小溝15は、ランド14の一端部から他端部に延在していた。トルク変化率は、−5.5%であった。
【0074】
なお、比較例として、クラッチプレート1において意図的に形成した小溝がなく、Rz(JIS1982)がおよそ2.5μmのクラッチプレートでは、トルク変化率がおよそ70%であった。
【0075】
図9は、実施例1〜11のRz(JIS1982)とトルク変化率(%)を表すグラフである。
図9に示すように、複数の小溝15を有するクラッチプレート1の表面粗さRz(JIS1982)が3.0〜4.0μmの範囲にあることで、トルク変化率をおよそ30%〜−12%に抑えることができる。特にRz(JIS1982)が3.4μm以上3.9μm以下であることが好ましく、この場合、トルク変化率をおよそ±10%以内に抑えることができる。一例として実施例8の表面測定データを
図10に示す。
【0076】
このように、意図的に小溝を形成せず且つ表面粗さを大きくしていない従来のクラッチプレートのトルク変化率(およそ60〜70%)に比較して、本実施例のクラッチプレート1はトルク変化率を格段に小さくすることができる。精度、燃費、故障防止、及び必要最低トルク値を考慮した場合、トルク変化率は−15〜30%であることが好ましく、本実施形態ではそれを達成可能である。なお、Rz(JIS1982)が3.0μm未満になると十分な油圧反力を得られないおそれがあり、Rz(JIS1982)が4.0μmより大きくなると油圧反力が過剰となるおそれがあり、トルク低下による必要性能を発揮できない可能性がある。
【0077】
本実施形態のクラッチプレート1及び駆動力伝達装置91によれば、
図11に示すように、クラッチプレート1の回転方向に流入(フルード流入)する潤滑油Zに対して、複数の小溝15が端面11に交差する方向(略垂直方向)に油圧反力を発生させる。つまり、複数の小溝15は、摩擦係合するクラッチプレート同士を離間させる方向に力を発生させる。小溝15が、クラッチプレート間に流体くさび効果を発揮させる。
【0078】
ここでトルクは、クラッチプレート間のせん断力τ(せん断抵抗)に相当する。せん断力τは、τ=η×(U/h)で表せ、クラッチプレート間の隙間hに左右される。ηは潤滑油粘度であり、Uはクラッチプレート間の相対速度である。ランド14に複数の小溝15があることでフルード流入に対して油圧反力が発生し、クラッチプレート間の隙間hに影響を及ぼす。これにより、粘度が高くなる低温時のトルク上昇を抑制することができ、
トルク変化率を小さくすることができる。
【0079】
本実施形態では、研磨工程S4を利用して小溝15を形成するため、製造が容易となる。また、複数の小溝15が径方向のうちの一方向に平行に形成されており、クラッチプレート1の周方向(回転方向)に直交する方向に延びる小溝15が確実に形成される。これにより、摩擦係合時(トルク伝達時)に当該小溝15が油圧反力をより大きく発生させ、トルク変化率を効果的に小さくすることができる。また、一方向とすることで、小溝15の形成が容易となる。また、本実施形態では、摺動面積率が55〜90%と大きく、小溝15を形成することによる油圧反力発生効果がより大きくなる。
【0080】
本発明は、上記実施形態に限られない。例えば、複数の小溝15は、少なくとも一部が周方向に交差していれば良く、周方向に直交する小溝15が無くても良い。反対に、複数の小溝15が、径方向に(放射状に)延びるように形成されても良い。例えば、複数の小溝15すべてが、周方向に直交しても良い。この場合、油圧反力はより効果的に発生する。
【0081】
また、ランド14の形状は多角形であっても良い。また、一部が溝21で囲まれ、他部が外周縁、内周縁、又は窓3で囲まれたランド14も当然本発明に含まれる。また、本発明は、クラッチプレート1の端面11に潤滑溝2と小溝15が形成されていれば良く、ランド14が形成されていないものも含まれる。また、小溝15の製造方法は、上記研磨によるものの他、切削加工による痕、プレス加工による痕、又はエッチングによる溝であっても良い。例えば、プレス加工やエッチングにより複数の小溝15を形成する場合、自由度が大きく且つ精度良く小溝15を形成することができる。ただし、研磨により小溝15を形成するほうが、研磨工程S4を利用でき、製造コストの増加を抑制することができる。
【0082】
また、クラッチプレート1の製造方法において平押し工程を加えても良い。また、DLC工程S6は、行わなくても良い。また、摺動面積率が上記以外であっても、小溝15によるトルク変化率抑制効果は発揮される。ただし、摺動面積率が大きいほど、小溝15を形成したことによるトルク変化率抑制効果が大きくなり好ましい。また、本実施形態のクラッチプレート1では、多くのランド(丘部)が4点の微分可能でない点と4つの微分可能な線により囲まれて画定されていたが、ランドは、2点の微分可能でない点と2つの微分可能な線により囲まれて画定されていても良い。また、ランドは、3点の微分可能でない点と3つの微分可能な線により囲まれて画定されていても良い。また、ランドは、5点以上の微分可能でない点と、当該微分可能でない点と同じ数の微分可能な線により囲まれて画定されていても良い。