(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記無機層が、金属酸化物、金属窒化物、金属炭化物、金属酸化炭化物、金属炭化窒化物、及び金属酸化窒化炭化物から選ばれる1種又は2種以上の無機化合物である、請求項1又は2に記載の透明フィルム。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
最近の高性能化の要請は屋外で使用される透明フィルムに対しても同様であり、目的とする耐候性と透明性を有した上で、防汚性を高くすることが望まれている。こうした要望に対し、上記した特許文献1〜4で提案された技術では、屋外で使用する透明フィルムとしては防汚性が不十分であるという問題があった。
【0009】
本発明は、上記課題を解決したものであって、その目的は、良好な耐候性と防汚性を示す透明フィルム及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記課題に対して鋭意検討し、透明フィルムの防汚性を向上させるためには、透明フィルムの無機層の親水性を向上させて、透明フィルムの自己浄化性(以下、単に「自浄性」ともいう。)を高める必要があった。透明フィルムの無機層の親水性を向上させるためには、無機層中に含まれる炭素元素量を減少させる必要がある。本発明者は、こうした無機層を形成するために、酸素の存在下で高いエネルギーのプラズマで無機層を形成することを試みた。
【0011】
しかしながら、酸素の存在下で高いエネルギーのプラズマで無機層を形成した場合、親水性を付与できうる炭素元素量の少ない無機層を形成できたが、一方で、無機層を形成した後の透明フィルムは、耐候性試験後に有機層と無機層との間で層間剥離(いわゆる「デラミネーション」のことである。)が発生した。具体的には、高い湿度の環境下で紫外線を照射したりキセノンランプ光を照射したりすると、有機層と無機層とが層間剥離することが確認された。本発明者は、この問題の原因を鋭意解析し、耐候性試験後に透明フィルムの有機層と無機層とが層間剥離する問題の原因は、無機層を酸素の存在下で高いエネルギーのプラズマで形成する際に、このプラズマに含まれるラジカルやイオンの衝突により、有機層の表面が分解してしまうためであると推定した。本発明者は、プラズマで分解されにくい特性(以下、単に「耐プラズマ性」ともいう)を有するウレタンアクリレートを含む樹脂組成物の硬化物を用いて有機層を形成することにより、層間剥離の問題を改善できることを見出した。具体的には、算術平均粗さ(Ra)が15nm以下である表面に酸素ガスによるプラズマ照射を出力300W
/sccmで15分間行った後の表面の算術平均粗さが、そのプラズマ照射前の表面の算術平均粗さの12倍以下である有機層にすることにより、耐候性試験後に透明フィルムの有機層と無機層とが層間剥離する問題を改善できることを見出した。
【0012】
しかし、こうした有機層を有する透明フィルムであっても、耐候性試験後に有機層と無機層とが層間剥離する場合があった。本発明者は、さらに鋭意検討し、有機層の硬化度を高くすることにより、こうした層間剥離の発生を防ぐことができることを見出し、本発明を完成させた。
【0013】
上記課題を解決するための本発明に係る透明フィルムは、プラスチック基材と、該プラスチック基材上に設けられた有機層と、該有機層上に設けられた無機層とを有し、前記有機層は、ウレタンアクリレートを含む樹脂組成物の硬化物であって、該有機層を24時間メチルエチルケトン中に浸漬した後の重量減少率(以下「浸漬重量減少率」という。)が6%以下で、且つ、
JIS B0601(2001)に準じた方法で測定した算術平均粗さ(Ra)が15nm以下である表面に酸素ガスによるプラズマ照射を出力300W
/sccmで15分間行った後の該表面の
Raが、前記プラズマ照射をする前の
Raの12倍以下であり、前記無機層は、水に対する接触角が40°以下であることを特徴とする。
【0014】
この発明によれば、有機層は、ウレタンアクリレートを含む樹脂組成物の硬化物であるので、有機層が高い耐候性を示す。また、有機層は、浸漬重量減少率が6%以下であるので、高い硬化度の有機層になる。さらに、有機層は、算術平均粗さ(Ra)が15nm以下である表面に酸素ガスによるプラズマ照射を出力300W
/sccmで15分間行った後の表面の
Raが、プラズマ照射をする前の
Raの12倍以下であるので、有機層が高い耐プラズマ性を示す。その結果、親水性を付与しうる条件で無機層を形成した場合、つまり酸素の存在下で高いエネルギーのプラズマで有機層上に無機層を形成した場合であっても、有機層の分解を抑制することができると考えられるので、耐候性試験後に有機層と無機層とが層間剥離するのを防ぐことができる。こうした本発明の透明フィルムによれば、良好な防汚性と耐候性を示すことができる。
【0015】
本発明に係る透明フィルムにおいて、前記有機層が、耐候剤を含有することが好ましい。
【0016】
この発明によれば、有機層が耐候剤を含有するので、有機層の耐候性が向上する。その結果、本発明の透明フィルムに良好な耐候性を付与することができる。
【0017】
本発明に係る透明フィルムにおいて、前記無機層が、金属酸化物、金属窒化物、金属炭化物、金属酸化炭化物、金属炭化窒化物、及び金属酸化窒化炭化物から選ばれる1種又は2種以上の無機化合物であることが好ましい。
【0018】
この発明によれば、無機層が金属酸化物、金属窒化物、金属炭化物、金属酸化炭化物、金属炭化窒化物、及び金属酸化窒化炭化物から選ばれる1種又は2種以上の無機化合物であるので、無機層に高い親水性を付与できる。こうした本発明の透明フィルムによれば、良好な防汚性を示すことができる。
【0019】
本発明に係る透明フィルムにおいて、前記有機層が、電子線硬化性樹脂組成物の硬化物であることが好ましい。
【0020】
この発明によれば、有機層が、電子線硬化性樹脂組成物の硬化物であるので、有機層が高い硬化度を有する。そのため、有機層が高い耐プラズマ性を示すので、高いエネルギーのプラズマで有機層上に無機層を形成した場合であっても、その有機層が分解されるのを防ぐことができる。その結果、耐候性試験後に有機層と無機層とが層間剥離するのを防ぐことができるので、本発明の透明フィルムは、良好な防汚性と耐候性を示す。
【0021】
上記課題を解決するための本発明に係る透明フィルムの製造方法は、プラスチック基材上にウレタンアクリレートを含む樹脂組成物を塗布する工程と、前記樹脂組成物を硬化させて有機層を形成する工程と、前記有機層上に無機層を形成する工程とを有し、前記有機層は、浸漬重量減少率が6%以下であり、且つ、
JIS B0601(2001)に準じた方法で測定した算術平均粗さ(Ra)が15nm以下である表面に酸素ガスによるプラズマ照射を出力300W
/sccmで15分間行った後の該表面の
Raが、前記プラズマ照射をする前の
Raの12倍以下であり、前記無機層が、水に対する接触角が40°以下であることを特徴とする。
【0022】
この発明によれば、ウレタンアクリレートを含む樹脂組成物を塗布する工程と、前記樹脂組成物を硬化させて有機層を形成する工程とを有するので、有機層が高い耐候性を示す。また、有機層の浸漬重量減少率が6%以下であるので、硬化度の高い有機層になる。また、有機層が、算術平均粗さ(Ra)が15nm以下である表面に酸素ガスによるプラズマ照射を出力300W
/sccmで15分間行った後の表面の
Raが、プラズマ照射をする前の
Raの12倍以下であるので、耐プラズマ性の高い有機層になる。その結果、親水性を付与しうる条件で無機層を形成した場合、つまり酸素の存在下で高いエネルギーのプラズマで有機層上に無機層を形成した場合であっても、有機層が分解するのを防ぐことができると考えられるので、耐候試験後に有機層と無機層とが層間剥離するのを防ぐことができる。こうした本発明の透明フィルムの製造方法によれば、良好な防汚性と耐候性を示す透明フィルムを製造できる。
【0023】
本発明に係る透明フィルムの製造方法において、前記無機層を、プラズマ化学気相成長法又はイオンプレーティング法により形成することが好ましい。
【発明の効果】
【0024】
本発明に係る透明フィルムによれば、有機層が、高い耐候性と耐プラズマ性を示すので、酸素の存在下で高いエネルギーのプラズマで有機層上に無機層を形成した場合であっても、有機層と無機層とが層間剥離するのを防ぐことができる。また、無機層が高い親水性を示す。その結果、良好な防汚性と耐候性を示すことができる。
【0025】
本発明に係る透明フィルムの製造方法によれば、有機層が、高い耐候性と耐プラズマ性を示すので、高いエネルギーで有機層上に無機層を形成した場合であっても、有機層と無機層とが層間剥離するのを防ぐことができる。また、無機層が高い親水性を示す。その結果、良好な防汚性と耐候性を示す透明フィルムを製造できる。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0028】
[透明フィルム]
本発明に係る透明フィルム10は、
図1に示すように、プラスチック基材1と、プラスチック基材1上に形成された有機層2と、有機層2上に形成された無機層3とを有する。そして、有機層2は、ウレタンアクリレートを含む樹脂組成物の硬化物であって、
その有機層を24時間メチルエチルケトン中に浸漬した後の重量減少率(以下「浸漬重量減少率
」という。)が6%以下で、且つ、
JIS B0601(2001)に準じた方法で測定した算術平均粗さ(Ra)が15nm以下である有機層2の表面に酸素ガスによるプラズマ照射を出力300W
/sccmで15分間行った後の表面の
Raが、プラズマ照射をする前の
Raの12倍以下であり、無機層3は、水に対する表面接触角が40°以下であることに特徴がある。
【0029】
こうした透明フィルム10によれば、有機層2が、高い耐候性と耐プラズマ性を示すので、高いエネルギーで有機層2上に無機層3を形成した場合であっても、有機層2と無機層3とが層間剥離するのを防ぐことができる。また、無機層3が高い親水性を示す。その結果、良好な防汚性と耐候性を示すことができる。
【0030】
透明フィルム10が、良好な防汚性を有するものになったのは、本発明者の以下の鋭意検討によるものである。すなわち、本発明者は、無機層3の親水性をより向上させて、透明フィルム10の自浄性を高め、その結果、良好な防汚性を示すものにすることを発案した。本発明者は、より親水化した無機層3を形成するために、無機層3中に含まれる炭素元素量を減少させることを発案し、そのために、親水性を付与しうる条件で無機層を形成、つまり酸素の存在下で高いエネルギーのプラズマで無機層3を形成することを発案した。
【0031】
しかしながら、酸素の存在下で高いエネルギーのプラズマで無機層3を形成した場合、親水性を付与できうる炭素元素量の少ない無機層3を形成できたが、一方で、無機層3の形成後の透明フィルム10は、耐候性試験により有機層2と無機層3との層間剥離が発生したので、耐候性が低くなるという問題が生じた。具体的には、高い湿度の環境下で紫外線を照射したりキセノンランプ光を照射したりすると、こうした層間剥離が発生することが確認された。本発明者は、この問題の原因を鋭意解析し、透明フィルム10にこうした層間剥離が発生する原因は、無機層3を酸素の存在下で高いエネルギーのプラズマで形成することにより、有機層2が分解してしまうためであると推定した。そのため、本発明者は、有機層2の耐プラズマ性を向上させることを発案し、鋭意検討した結果、耐プラズマ性の高いウレタンアクリレートを用いて硬化度の高い有機層2を形成することにより、こうした層間剥離が発生して耐候性が低下する問題を解決できることを見出した。具体的には、ウレタンアクリレートとして、そのウレタンアクリレートで形成された有機層2が、算術平均粗さ(Ra)が15nm以下である有機層2に酸素ガスによるプラズマ照射を出力300W
/sccmで15分間行った後の表面の算術平均粗さが、そのプラズマ照射前の表面の算術平均粗さの12倍以下であるものを用いて、さらに、その有機層2の硬化度を高くすることにより、こうした層間剥離が発生する問題を解決できることを見出し、本発明を完成させた。
【0032】
透明フィルム10の有機層2と無機層3は、
図1に示すようにプラスチック基材1の一方の面S1にその順で少なくとも設けられるが、図示しないが、他方の面S2にも有機層2と無機層3とをその順で設けてもよい。また、他方の面S2には、
図1に示すように有機層2も無機層3も設けなくてもよい。また、透明フィルム10は、プラスチック基材1と有機層2との間や、無機層3の上に用途に応じて他の機能層を適宜設けてもよい。他の機能層としては、例えば、プライマー層、易接着層、マット剤層、保護層、帯電防止層、平滑化層、密着改良層、遮光層、反射防止層、ハードコート層、応力緩和層、防曇層、防汚層、及び被印刷層等が挙げられる。
【0033】
透明フィルム10は、
図1に示すように、平坦な有機層2と無機層3とで形成されていてもよいし、
図2(A),(B)及び(C)に示す透明フィルム10B,C,Dのように、凹凸形状のある有機層2で形成されていてもよい。透明フィルム10Bは、プラスチック基材1の一方の面S1に単位プリズムを構成する複数の三角断面又は略三角断面の凹凸形状4が形成されている例である。こうした凹凸形状4は、凹凸形状4を有する有機層2及び無機層3で形成され、入射した光を集光したり、偏向させたり、指向させたりするプリズムの機能を付与することができる。こうした単位プリズムは、頂部に稜線を有する単位プリズムを、その稜線と直交する方向に多数平行に配列してなるものが挙げられる。単位プリズムの断面形状は、三角形又は略三角形に限定されず、四角形、五角形、六角形、八角形等の多角形、円、楕円、正弦曲線等の曲線、あるいは扇形、三角形の頂点近傍に曲率を設けた形状等の直線と曲線との組合せ形状等が所望の光学特性に応じて適宜使用できる。また、平面内での単位プリズムの配列も、柱状体を1次元方向に配列した1次元配列(線型配列)の他、多面体、半球面等を2次元方向(縦横方向)に配列してなる2次元配列(代表例は、蠅の目レンズ)も用いることができる。単位プリズムの頂部の角度は、特に限定されるものではなく、例えば、80°以上、110°以下である。また、配列された単位プリズム4のピッチは、特に限定されるものではなく、例えば、10μm以上、300μm以下程度である。
【0034】
透明フィルム10Cは、プラスチック基材1の一方の面S1にフレネルレンズ形の凹凸形状5が形成されている例である。こうした凹凸形状5は、凹凸形状5を有する有機層2及び無機層3で形成され、入射した光を集光するフレネルレンズの機能を付与することができる。凹凸形状5は、半球状の凸レンズに形成されていてもよいし、半円筒形状(いわゆる「かまぼこ形状」のことである。)のレンズを複数配列し、その各レンズに形成されていてもよい。また、図示しないが、透明フィルム10は、プラスチック基材1の一方の面にレンチキュラーレンズ形の凹凸形状を形成し、入射した光を拡散させるレンチキュラーレンズの機能を付与してもよい。
【0035】
透明フィルム10Dは、プラスチック基材1の一方の面S1に凹凸形状を有する有機層2を設け、この凹凸形状の凹部に機能性材料を充填して機能性部6を形成した例であり、無機層3は、凹凸形状を有する有機層2と機能性部6との上に平坦に形成されている。こうした機能性部6としては、特に限定されないが、例えば、熱線を吸収する熱線吸収部、熱線を反射する熱線反射部等が挙げられる。有機層2に設けられた凹凸形状の凹部の側面と、透明フィルム10Dの面に対して垂直な線Pとがなす角度θは、特に限定されないが、例えば、0°以上、15°以下である。この角度θが0°の場合、機能性部6の断面形状は矩形になる。また、角度θが0°を超えると、機能性部6の断面形状は2つの底辺が透明フィルム10Dの面と平行な台形形状になり、この2つの底辺のうち、有機層2に形成された凹凸形状の凹部の底にある方が短くなる。こうした透明フィルム10Dは、例えば、有機層2に太陽光を透過するプリズムとしての機能を付与でき、機能性部6に熱線を吸収する材料を充填して熱線吸収部としての機能を付与できるので、熱線制御を目的とした機能性フィルムとして好ましく使用できる。
【0036】
以下に透明フィルム10の構成要素をさらに詳しく説明する。
【0037】
<プラスチック基材>
プラスチック基材1は、有機層2を形成でき、透明性を有するものであれば特に限定されないが、実使用の見地から、ポリエステル系樹脂を好ましく挙げることができる。ポリエステル系樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、これらの共重合体、及びポリシクロヘキサンジメチレンテレフタレート(PCT)等を挙げることができる。ポリエステル系樹脂のうちでも、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、及びこれらの共重合体が好ましい。特に好ましくは、プラスチック基材1をポリエチレンナフタレートフィルム又はポリエチレンテレフタレートフィルムとすることである。
【0038】
樹脂製の一軸延伸フィルム又は二軸延伸フィルムを用いれば、透明性及び機械的強度が共に高いプラスチック基材1を得ることができる。中でも、ポリエチレンテレフタレートの2軸延伸フィルムは、耐熱性、機械的強度、光透過性及びコスト等の点で好ましい。
【0039】
プラスチック基材1の材質としてポリエステル系樹脂を適用する場合、その全てがポリエステル系樹脂からなるフィルム状基材であってもよいし、有機層2が形成される側(
図1における片面S1又は
図2における両面S1,S2)に少なくともポリエステル系樹脂層が形成されているフィルム状積層基材であってもよい。このフィルム状積層基材において、有機層2が形成されるポリエステル系樹脂層以外の層は、ポリエステル系樹脂層でなくてもよい。ポリエステル系樹脂層以外の層の種類の選定にあたっては、耐熱性、熱膨張及び光透過性等を考慮して各種の樹脂層が任意に選定される。
【0040】
プラスチック基材1の厚さは特に限定されないが、10μm以上、500μm以下程度であることが好ましい。また、プラスチック基材1は、透明フィルム10が透明性を要求される用途に使用されるため、全光線透過率が80%以上のものを選択することが好ましい。
【0041】
プラスチック基材1の表面は、必要に応じて、コロナ処理、火炎処理、プラズマ処理、グロー放電処理、粗面化処理、加熱処理、薬品処理、及び易接着処理等の表面処理を行ってもよい。こうした表面処理の具体的な方法は従来公知のものを適宜用いることができる。また、有機層2を直接形成しない側の面には、他の機能層を設けてもよい。機能層の例としては、マット剤層、保護層、帯電防止層、平滑化層、密着改良層、遮光層、反射防止層、ハードコート層、応力緩和層、防曇層、防汚層、被印刷層、及び易接着層等が挙げられる。
【0042】
<有機層>
有機層2は、プラスチック基材1上に設けられ、ウレタンアクリレートを含む樹脂組成物の硬化物で形成される。その特性としては、
浸漬重量減少率が6%以下であり、且つ、算術平均粗さ(Ra)が15nm以下である表面に酸素ガスによるプラズマ照射を出力300W
/sccmで15分間行った後の表面の算術平均粗さが、プラズマ照射をする前の表面の算術平均粗さの12倍以下である。
【0043】
有機層2を形成するウレタンアクリレートは、ウレタンアクリレートのモノマーオリゴマー及びプレポリマーであり、その硬化物が透明性と高い耐プラズマ性を有するものであれば、特に限定されない。市販品としては、UV7000−B(日本合成化学工業株式会社製)及びUV−7510B日本合成化学工業株式会社製)等を挙げることができ、また、これらと同様の機能を有し、同様の作用効果を奏する他の種類を挙げることができる。これらは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。なお、本明細書において、「ウレタンアクリレート」はウレタンメタクリレートを含み、「アクリレート」はメタクリレートを含み、「アクリロイル基」はメタクリロイル基を含む。
【0044】
有機層2は、浸漬重量減少率が6%以下である。有機層2の浸漬重量減少率は、例えば、透明フィルム10から無機層3を除去した後、プラスチック基材1と有機層2とを適当な大きさに切断し、これらを室温でメチルエチルケトン(MEK)中に24時間浸漬した後の重量減少率から計算することができる。ここで、通常、プラスチック基材1中には、MEK中に溶出する成分は含まれていないので、プラスチック基材1と有機層2とを室温でMEKに24時間浸漬することによってMEK中に溶出する成分は、有機層2中の未硬化成分のみである。そのため、プラスチック基材1と有機層2との重量減少率は、有機層2のみの重量減少率に換算できるので、有機層2の浸漬重量減少率(%)を計算できる。なお、有機層2の重量は、プラスチック基材1と有機層2との合計の重量からプラスチック基材1の重量を差し引くことで求めることができ、プラスチック基材1の重量は、そのプラスチック基材1の種類から計算するができる。具体的には、プラスチック基材1の種類を特定し、そのプラスチック基材1の比重からプラスチック基材1の重量を計算することができる。なお、プラスチック基材1の種類の特定は、例えば、赤外線分光法や硬度等を測定して特定できる。また、無機層3を透明フィルム10から除去する方法としては、例えば、透明フィルム10を10質量%濃度のフッ酸に室温で10分間浸漬させて無機層3を溶解させる方法を挙げることができる。
【0045】
本発明者は、有機層2の浸漬重量減少率を6%以下にすることにより、有機層2の耐プラズマ性が向上することを見出した。この理由は、現段階では明らかではないが、浸漬重量減少率を6%以下の有機層2は、有機層2中に未硬化成分が少なく、高い硬化度で硬化しているためであると考えられる。すなわち、高い硬化度で硬化した有機層2は、高い密度で架橋構造が形成されているために、プラズマに対する物理的な耐久性が向上しているためであると考えられる。
【0046】
さらに、本発明者の検討によれば、ウレタンアクリレートの硬化物の耐プラズマ性は、その硬化物に酸素ガスによるプラズマを照射して、プラズマ照射前後の表面の算術平均粗さ(Ra)の増加量を算出することで評価できることを見出し、この増加量が低い方が、耐プラズマ性が高いので好ましいことを見出した。具体的には、初期の算術平均粗さ(Ra)が15nm以下である表面に酸素ガスによるプラズマ照射を出力300W
/sccmで15分間行った後の表面の算術平均粗さが、プラズマ照射をする前の表面の算術平均粗さの12倍以下であることが好ましい。こうしたウレタンアクリレートを含む樹脂組成物の硬化物で形成される有機層2は、高い耐プラズマ性を有するので、酸素の存在下で高いエネルギーのプラズマにより無機層3を形成しても、耐候試験後に有機層2と無機層3とが層間剥離することを防止できる。その結果、透明フィルム10は、良好な耐候性と防汚性を示すことができる。なお、ウレタンアクリレートの種類によって、その硬化物の酸素ガスによるプラズマに対する耐性に差がある理由としては、現段階では明らかではないが、ウレタンアクリレートの化学的な構造によるものであると考えられる。また、初期の有機層2のRa値の下限値は、特に限定されないが、強いて言えば0.1nmである。
【0047】
算術平均粗さ(Ra)は、透明フィルム10から無機層3を除去した後、露出した有機層2の表面を、例えば、走査型プローブ顕微鏡(エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製、製品名:ナノキュート)や、表面粗さ測定器(株式会社東京精密製、商品名:ハンディサーフE−35A)を用いて、JIS B0601(2001)に準じた方法で測定できる。
【0048】
透明フィルム10からの無機層3を除去する方法としては、例えば、10質量%濃度のフッ酸に室温で10分間浸漬させて無機層3を溶解させる方法を挙げることができる。また、こうした方法で無機層3を除去した有機層2は、通常、表面の算術平均粗さ(Ra)が15nm以下である。また、たとえ初期の有機層2の表面の算術平均粗さが15nmを超える場合でも、例えば、有機層2を有機系アルカリ溶液で溶解したり、エッチングしたりすることによって、表面を平滑化できるので、初期の有機層2の表面の算術平均粗さを15nm以下にすることができる。
【0049】
有機層2は、ウレタンアクリレートを含む樹脂組成物の硬化物で形成されるが、ウレタンアクリレート以外の樹脂の硬化物を含んでいてもよい。こうした樹脂としては、電離放射線の照射により架橋重合が可能なラジカル重合性の樹脂であれば特に限定されるものではなく、例えば、アクリレート基、ビニル基、アリル基、イソプロペニル基等のラジカル重合性不飽和基を有するモノマー(単量体)、オリゴマー及びプレポリマーから選ばれる1種又は2種以上を挙げることができる。こうしたオリゴマー及びプレポリマーとしては、例えば、ウレタンアクリレート、エポキシアクリレート、ポリエステルアクリレート、ポリエーテルアクリレート、ポリエチレンアクリレート、ポリブタジエンアクリレート、シリコーンアクリレート及びポリオールアクリレート等から選ばれる1種又は2種以上を挙げることができる。また、電離放射線とは、電子線及び紫外線の他、可視光線、X線、γ線等の電磁波、α線等の荷電粒子線のことであり、電離放射線硬化性樹脂とは、電離放射線を照射することにより、架橋、硬化する樹脂のことである。
【0050】
ラジカル重合性不飽和基を有するモノマーとしては、単官能モノマー及び多官能モノマーを挙げることができる。単官能モノマーとしては、特に限定されないが、例えばN−ビニルピロリドン、N−ビニルカブロラクトン、ビニルイミダゾール、ビニルピリジン、スチレン等のビニルモノマー;フェノキシエチルアクリレート、ラウリルアクリレート、ステアリルアクリレート、ブトキシエチルアクリレート、メトキシポリエチレングリコールアクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート、イソボルニルアクリレート、イソオクチルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、ベンジルアクリレート、N,N−ジメチルアクリルアミド、N,N−ジメチルアミノプロピルアクリレート、アクリロイルモルホリン等のアクリレートモノマー;及びアクリルアミド誘導体が挙げられる。多官能モノマーとしては、ペンタエリスリトールトリアクリレート、エチレングリコールジアクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレート、ポリプロピレングリコールジアクリレート、ポリテトラメチレングリコールジアクリレート、ブタンジオールジアクリレート、ヘキサンジオールジアクリレート、ノナンジオールジアクリレート、ペンタンジオールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、ジメチロールートリシクロデカンジアクリレート、ジペンタエリスリトールペンタアクリレート、及びジペンタエリスリトールヘキサアクリレート等、及びこれらのエチレンオキシド変性物、プロピレンオキシド変性物、及びカプロラクタン変性物等が挙げられる。こうしたモノマーは、1種を用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。また、そうしたモノマーが結合して生成したオリゴマーであってもよい。
【0051】
上記したモノマー、オリゴマー及びプレポリマーは、要求される性能や工業生産性等に応じて、いずれか1種を単独で用いたり、いずれか2種を混合して用いたり、又は、各々の1種若しくは2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。
【0052】
有機層2は、耐候剤を含有することが好ましい。耐侯剤は、有機層2に外部から紫外線等が照射して光酸化劣化が生じるのを抑制するためのものである。そのため、有機層2の耐候性を向上できるので、良好な耐候性を示す透明フィルム10になる。耐候剤としては、具体的には、例えば、紫外線吸収剤、ヒンダードアミン系光安定剤等を挙げることができる。
【0053】
紫外線吸収剤は、自然光等に含まれる紫外線を吸収し、遮蔽するためのものである。紫外線吸収剤としては、こうした目的を達成できれば特に限定されず、従来公知のものを使用できる。例えば、トリアジン系紫外線吸収剤、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、サリチレート系紫外線吸収剤、アクリロニトリル系紫外線吸収剤等を挙げることができる。中でも好ましくは、紫外線吸収能力が高く、紫外線等の高エネルギーに対しても劣化しにくいトリアジン系紫外線吸収剤を挙げることができる。トリアジン系紫外線吸収剤としては、具体的には、2−(4,6−ジフェニル−1,3,5−トリアジン−2−イル)−5−[(ヘキシル)オキシ]フェノール、1,3,5−トリアジン−2,4,6(1H,3H,5H)−トリオン、1,3,5−トリ[{3,5−ビス−(1,1−ジメチルエチル)−4−ヒドロキシフェニル}メチル]及びベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤等を挙げることができる。ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤としては、具体的には、2−(2−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2−ヒドロキシ−3,5−ジ−tert−アミルフェニル)ベンゾトリアゾール、ポリエチレングリコールの3−[3−(ベンゾトリアゾール−2−イル)−5−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル]プロピオン酸エステル等を挙げることができる。
【0054】
紫外線吸収剤の有機層2中の含有量は、特に限定されないが、有機層2中に0.1質量%以上、10質量%以下含有することが好ましく、1質量%以上、5質量%以下含有することがより好ましい。紫外線吸収剤が有機層2中に0.1質量%以上、10質量%以下含有することにより、より良好な耐候性を示す透明フィルム10になる。
【0055】
ヒンダードアミン系光安定剤(HALS)は、有機層2に酸化反応を引き起こすフリーラジカルを触媒的に捕捉し、安定化させるためのものである。ヒンダードアミン系光安定剤としては、こうした目的が達成できれば特に限定されず、従来公知のものを使用でき、例えば、2−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−2’−n−ブチルマロン酸ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)セバケート、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジニル)セバケート、メチル(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジニル)セバケート、2,4−ビス[N−ブチル−N−(1−シクロヘキシルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)アミノ]−6−(2−ヒドロキシエチルアミン)−1,3,5−トリアジン)、テトラキス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)−1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシレート、1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジニルメタクリレート等を挙げることができる。
【0056】
ヒンダードアミン系光安定剤の有機層2中の含有量は、特に限定されないが、有機層2中に0.5質量%以上、10質量%以下含有することが好ましく、1質量%以上、5質量%以下含有することがより好ましい。ヒンダードアミン系光安定剤が有機層2中に0.5質量%以上、10質量%以下含有することにより、より良好な耐候性を示す透明フィルム10になる。
【0057】
上記した耐候剤として、分子内にアクリロイル基等の反応性官能基を有する反応性耐候剤を用いることもできる、こうした反応性耐候剤としては、反応性紫外線吸収剤、反応性ヒンダードアミン系光安定剤等を挙げることができる。反応性紫外線吸収剤としては、例えば、(2−ヒドロキシ−4−(メタクリロイルオキシエトキシ)ベンゾフェノン)メタクリル酸メチル共重合体等が挙げられる。反応性ヒンダードアミン系光安定剤としては、例えば、1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジニルメタクリレートを挙げることができる。
【0058】
有機層2に反応性耐候剤を含有させることにより、反応性耐候剤は、樹脂組成物中の樹脂と反応性官能基を介して結合するので、反応性耐候剤が有機層2の表面にブリードアウトすることを抑制できる。そのため、ブリードアウトにより有機層2中の耐候剤が経時的に減少することを防止できると考えられる。また、有機層2と無機層3との間に耐候剤が析出することによる有機層2と無機層3との密着性の低下を防止できる。その結果、外部からの紫外線照射等により透明フィルム10が経時的に耐候性が低下するのを抑制できるので、良好な耐候性を示す透明フィルム10になる。
【0059】
離型剤は、必須の成分ではないが、有機層2が
図2に示すような凹凸形状を有する場合には、有機層2に含まれることが好ましい。離型剤としては、例えば、シリコーン系離型剤、フッ素系離型剤、及びリン酸系離型剤等を挙げることができる。中でも、リン酸系離型剤がより好ましい。リン酸系離型剤としては、リン酸系離型剤とリン酸エステル系離型剤が挙げられ、リン酸系離型剤としては、1−フェニル−2−ホスホレン−1−オキシド、3−メチル−2−ホスホレン−1−オキシド、1−エチル−2−ホスホレン−1−オキシド、3−メチル−1−フェニル−2−ホスホレン−1−オキシド、及びこれらの3−ホスホレン異性体等のホスホレンオキシド;トリフェニルホスフィン、トリス−(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト、臭素化テトラエチルホスフィン及び塩素化テトラエチルホスフィン等から選ばれる1種又は2種以上を挙げることができる。リン酸エステル系離型剤としては、ジ−2−エチルヘキシルハイドロゼンホスファイト、ジラウリルハイドロゼンホスファイト、ジアルキルハイドロゼンホスファイト、ジオレイルハイドロゼンホスファイト、トリイソオクチルホスファイト、ジフェニルイソデシルホスファイト、フェニルジイソデシルホスファイト、トリイソデシルホスファイト、トリアルキルホスファイト、トリオレイルホスファイト、トリステアリルホスファイト、トリラウリルトリチオホスファイト、メチルアシッドホスフェイト及びエチルアシッドホスフェイト等から選ばれる1種又は2種以上を挙げることができる。
【0060】
離型剤は、有機層2中に0.01質量%以上、20質量%以下含有することが好ましく、0.01質量%以上、10質量%以下含有することがより好ましく、0.01質量%以上、5質量%以下含有することが特に好ましい。
【0061】
有機層2が、樹脂組成物を紫外線照射により硬化した硬化物である場合は、光重合開始剤を含有する。光重合開始剤としては、特に限定されないが、例えば、アセトフェノン系化合物及びアシルフォスフォンオキサイド系化合物等を挙げることができる。アセトフェノン系化合物としては、例えば、アセトフェノン、ヒドロキシアセトフェノン、アミノアセトフェノン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、オリゴ[2−ヒドロキシ−2−メチル−1−{4−(1−メチルビニル)フェニル}プロパノン]、2−メチル−1−(4−メチルチオフェニル)−2−モルフォリノプロパン−1−オン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタノン−1等を挙げることができ、アシルフォスフォンオキサイド系化合物としては、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルフォスフィンオキサイド等を挙げることができる。こうした光重合開始剤は、1種を用いてもよいし、2種以上を併用して用いてもよい。また、光重合開始剤の配合量は、有機層形成用組成物の全量に対して、0.1質量%以上、5質量%以下であることが好ましい。なお、有機層2中の耐候剤、離型剤及び光重合開始剤の定量方法としては、例えば、ガスクロマトグラフィー質量分析法で求めることができる。
【0062】
有機層2は、樹脂組成物を電子線照射により硬化させた電子線硬化性樹脂組成物の硬化物であることが好ましい。有機層2が電子線硬化性樹脂組成物の硬化物であることにより、硬化度がより高い有機層2になるので、透明フィルム10がより高い耐候性を示すことができる。
【0063】
なお、有機層2が電子線硬化性樹脂組成物の硬化物であるか、例えば、紫外線硬化性樹脂組成物の硬化物であるかは、両者がいずれも電離放射線硬化性樹脂組成物の硬化物であるため、一般的に特定することは難しい。しかしながら、例えば、電子線硬化性樹脂組成物を硬化させるためには、光重合開始剤等の重合開始剤は必要ないので、通常、電子線硬化性樹脂組成物の硬化物は重合開始剤を含まない。一方、紫外線硬化性樹脂組成物を硬化させるためには、通常、光重合開始剤が必要であるので、紫外線硬化性樹脂組成物の硬化物は光重合開始剤を含む。そのため、有機層2が電離放射線硬化性樹脂組成物の硬化物で形成され、その有機層2が重合開始剤を含まない、又は、実質的に含まない場合は、有機層2は電子線硬化性樹脂組成物の硬化物であると言うことができる。また、有機層2が電離放射線硬化性樹脂組成物の硬化物で形成され、その有機層2が、例えば、光重合開始剤を0.1質量%より多く含んでいる場合は、その有機層2は紫外線硬化性樹脂組成物の硬化物であると言うことができる。こうした有機層2中の重合開始剤の定量方法は、ガスクロマトグラフィー質量分析法が挙げられる。
【0064】
有機層2には、本発明の効果を阻害しない範囲内で、必要に応じて添加剤が添加されていてもよい。添加剤としては、例えば、熱安定剤、消泡剤、レベリング剤、可塑剤、界面活性剤、帯電防止剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、赤外線吸収剤、色素(着色染料、着色顔料)、体質顔料、光拡散剤、カップリング剤等が挙げられる。
【0065】
有機層2の厚さは、単層又は2層以上に関わらず、基板のたわみの観点から0.1μm以上、100μm以下であることが好ましく、さらに表面性や生産性の観点を加えると0.5μm以上、60μm以下であることがより好ましい。なお、有機層2の厚さとは、有機層2の厚さが最大となる箇所の値を表す。
【0066】
<無機層>
無機層3は、親水性を有し、防汚性や自浄性の機能を有する機能層として有機層2上に形成される。無機層3の形成材料としては、例えば、金属酸化物、金属窒化物、金属炭化物、金属酸化炭化物、金属炭化窒化物、及び金属酸化窒化炭化物から選ばれる1種または2種以上の無機化合物であることが好ましい。具体的には、珪素、アルミニウム、マグネシウム、チタン、スズ、インジウム、セリウム、及び亜鉛から選ばれる1種又は2種以上の元素を含有する無機化合物を挙げることができ、より具体的には、珪素酸化物、アルミニウム酸化物、マグネシウム酸化物、チタン酸化物、スズ酸化物、珪素亜鉛合金酸化物及びインジウム合金酸化物等の無機酸化物、珪素窒化物、アルミニウム窒化物、及びチタン窒化物等の無機窒化物、酸化窒化珪素等の無機酸化窒化珪素を挙げることができる。さらに好ましくは、親水性の面から、無機層3が、酸化珪素、窒化珪素、酸化窒化珪素、及び酸化珪素亜鉛から選ばれる1種又は2種以上からなる層であり、この中でも、無機層3が、酸化珪素からなる層であることが特に好ましい。無機層3は上記材料を単独で用いてもよいし、本発明の要旨の範囲内で上記材料を任意の割合で混合して用いてもよい。
【0067】
無機層3の水に対する接触角は、40°以下である。こうした無機層3は、親水性が優れるので、透明フィルム10が良好な防汚性を示すことができる。水に対する接触角は、例えば、接触角測定装置(協和界面化学株式会社製、型番:CA−Z)を用い、無機層3の表面に純水を一定量滴下し、10秒間経過した後に光学顕微鏡又はCCDカメラ等で水滴形状を観察して測定できる。
【0068】
本発明は、無機層3に含まれる炭素の元素量を低くすることにより、高い親水性を達成でき、その結果、透明フィルム10の防汚性を向上できた。無機層3に含まれる炭素の元素量は、具体的には、20モル%以下であることが好ましい。こうした無機層3は、酸素の存在下で、真空蒸着法で高いエネルギーのプラズマを発生させることにより製造できる。より詳細に説明すると、酸素の存在下で高いエネルギーのプラズマを発生させることにより、原料ガスのモノマー成分がより分解される。そのため、そのモノマー成分中に含まれる金属元素は酸素と結びついて無機層3を形成するのに対し、そのモノマー成分中に含まれる炭素原子は二酸化炭素となり排出されるので、炭素の元素量は相対的に低い無機層3になる。
【0069】
無機層3の厚さは、使用する無機化合物によっても異なるが、通常5nm以上、好ましくは10nm以上であり、また、クラック等の発生を抑制する見地から、通常5000nm以下、好ましくは500nm以下、より好ましくは300nm以下である。また、無機層3は1層であってもよいし、合計厚さが上記範囲内となる2層以上の無機層3であってもよい。2層以上の無機層3の場合には、同じ材料同士を組み合わせてもよいし、異なる材料同士を組み合わせてもよい。
【0070】
[製造方法]
本発明に係る透明フィルム10の製造方法は、プラスチック基材1上に、ウレタンアクリレートを含む樹脂組成物を塗布する工程(塗布工程)と、樹脂組成物を硬化させて有機層2を形成する工程(有機層形成工程)と、有機層2上に無機層3を形成する工程(無機層形成工程)とを有し、有機層2は、浸漬重量減少率が6%以下であり、且つ、算術平均粗さ(Ra)が15nm以下である表面に酸素ガスによるプラズマ照射を出力300W
/sccmで15分間行った後の該表面の算術平均粗さが、プラズマ照射をする前の算術平均粗さの12倍以下であり、無機層3は、水に対する接触角が40°以下であることに特徴がある。
【0071】
こうした透明フィルム10の製造方法によれば、有機層2が、高い耐候性と耐プラズマ性を示すので、高いエネルギーで有機層2上に無機層3を形成した場合であっても、有機層2と無機層3とが層間剥離するのを防ぐことができる。また、無機層3が高い親水性を示す。その結果、良好な防汚性と耐候性を示す透明フィルム10を製造できる。以下、各工程について説明する。
【0072】
(塗布工程)
塗布工程は、ウレタンアクリレートを含む樹脂組成物をプラスチック基材1上に塗布する工程である。プラスチック基材1については、上記「プラスチック基材」の説明欄で説明したとおりであるので、ここではその説明を省略する。また、「樹脂組成物」は、硬化して有機層2を形成するものである。そのため、樹脂組成物は、上記「有機層」の説明欄で説明した有機層2と同じものを含むので、ここではその説明を省略する。
【0073】
樹脂組成物をプラスチック基材1上に塗布する方法としては、例えば、ロールコート法、グラビアロールコート法、キスロールコート法、リバースロールコート法、ミヤバーコート法、グラビアコート法、スピンコート法、及びダイコート法等を挙げることができる。また、こうした塗布は、直接プラスチック基材1に行ってもよいし、易剥離処理がされた基材に樹脂組成物を上記した方法で塗布した後、この塗布された樹脂組成物にプラスチック基材1を貼り付けて、プラスチック基材1上に樹脂組成物を塗布してもよい。
【0074】
有機層2が凹凸形状を有する場合は、例えば、成形型の表面に所望の凹凸形状の反転形状を形成し、その成形型に樹脂組成物を流し、その樹脂組成物上にプラスチック基材1を載せることで、樹脂組成物をプラスチック基材1に塗布できる。なお、成形型の表面に所望の凹凸形状の反転形状を形成する方法としては、従来公知の方法を適用でき、例えば、ブラスト加工やプレス加工等の方法を適用できる。
【0075】
樹脂組成物には、製造時の粘度調整の見地から溶剤を含有させてもよい。溶剤としては、イソプロピルアルコール、メタノール、エタノール等のアルコール類;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類;ハロゲン化炭化水素;トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素;又はこれらの混合物を挙げることができる。こうした溶媒は、本発明の要旨の範囲内において、任意の割合で混合して用いてもよい。
【0076】
樹脂組成物を塗布した後は、必要に応じて乾燥を行う。乾燥温度は、常温であってもよいが、樹脂組成物が溶剤を含有する場合には、溶剤を除去するための乾燥を行うことが好ましい。
【0077】
(有機層形成工程)
有機層形成工程は、プラスチック基材1上に塗布された樹脂組成物を硬化させて有機層2を形成する工程である。有機層2は、浸漬重量減少率が6%以下になるように硬化させて形成することが好ましい。こうした有機層は、高い硬化度を有するので、高い耐プラズマ性を示すことができる。そのため、酸素の存在下で高いエネルギーのプラズマにより無機層3を形成した場合であっても、耐候試験後に有機層2と無機層3とが層間剥離することを防止できる。その結果、良好な耐候性と防汚性を示す透明フィルム10を製造できる。
【0078】
樹脂組成物を硬化する方法としては、例えば、紫外線及び電子線等の電離放射線を照射させて硬化する方法や、加熱により硬化する方法等が挙げられる。中でも、有機層2の硬化度を高める観点から、電子線照射により硬化する方法や、紫外線照射により硬化した後、さらに加熱して硬化する方法等が好ましく挙げられる。中でも、硬化度の高い有機層2を形成する観点から、電子線照射により硬化する方法を好ましく挙げることができる。また、これらの硬化方法を組み合わせて有機層2を形成してもよい。
【0079】
電子線の電子線源としては、コッククロフトワルトン型、バンデグラフト型、共振変圧器型、絶縁コア変圧器型、直線型、ダイナミトロン型、高周波型等の各種電子線加速器を用いることができる。電子線の加速電圧は、例えば、70kV以上、1000kV以下であり、好ましくは、90kV以上、200kV以下である。電子線の照射量は、例えば、1Mrad以上、30Mrad以下であり、好ましくは、2.5Mrad以上、25Mrad以下である。
【0080】
紫外線源としては例えば、超高圧水銀灯、高圧水銀灯、低圧水銀灯、カーボンアーク灯、ブラックライト蛍光灯、メタルハライドランプ灯等の光源が用いられる。紫外線の波長としては、190nm以上、380nm以下の波長域を使用することができる。紫外線を照射する時間は、工業生産性を考慮しつつ有機層の確実な硬化を行う見地から、適宜調整すればよい。また、加熱による硬化は、通常160℃以上、240℃以下の温度範囲で2時間以上保持することにより行う。
【0081】
有機層2の硬化条件は、実際に有機層2の浸漬重量減少率を測定して決定することができる。有機層2の浸漬重量減少率の測定は、例えば、樹脂組成物を片面に易剥離処理がされた剥離フィルム(例えば、三井化学東セロ株式会社製、商品名:オピュラン)に塗布し、樹脂組成物を実際に製造で行う硬化条件と同じ硬化条件で硬化物を形成し、その後、この硬化物を剥離フィルムから剥離させて、有機層2のみの硬化物を製造することで測定することができる。測定方法としては、例えば、有機層2のみの硬化物を適当なサイズに切断し、メチルエチルケトン中に室温で24時間浸漬し、有機層2のみの硬化物の浸漬前後の重量変化から計算できる。
【0082】
(無機層形成工程)
無機層形成工程は、有機層2上に無機層用材料(無機層の形成材料)を堆積して無機層3を形成する工程である。無機層用材料は、上記「無機層」の説明欄で説明したとおりであるので、ここではその説明を省略する。
【0083】
無機層3の形成方法としては、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等の物理的気相成長法又はプラズマ化学気相成長法等を挙げることができる。中でも、無機層3に含まれる炭素元素量を少なくし、親水性を高める観点から、イオンプレーティング法及びプラズマ化学気相成長法を好ましく挙げることができる。無機層3を形成する成膜条件は、無機層3に含まれる炭素元素量を少なくできれば特に限定されないが、例えば、酸素の存在下で高いエネルギーのプラズマを生成することにより成膜することが好ましい。例えば、プラズマ化学気相成長法であれば、100mTorr以下の真空中で、酸素ガス下で原料ガスの単位モノマー当たりの出力が20W/sccm以上になるよう電力を印加することが好ましく、すなわち、100mTorr以下の真空中で、成膜チャンバー内に投入する原料ガスの流量1sccmあたりにかかる電力が20W以上になるように電力を印加することが好ましい。また、例えば、イオンプレーティング法であれば、成膜圧力を1.2×10
−2Pa以下の真空中で、成膜パワーを9kW以上にすることが好ましい。なお、sccmとは、standard cubic centimeter per minuteの略である。
【0084】
なお、透明フィルム10が、上述した他の機能層を有する場合には、それらの層の形成工程が任意に含まれる。
【実施例】
【0085】
本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例の記載に限定されるものではない。
【0086】
[実施例1]
下記の組成に調製した樹脂組成物を離型フィルム(三井化学東セロ株式会社製、商品名:オピュラン)にアプリケータにより塗工後、プラスチック基材として片面に易接着層が形成された厚さ100μmの2軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(東洋紡績株式会社製、商品名:A4300)をこの塗工された樹脂組成物に貼り合せ、このプラスチック基材越しに電圧185kV、線量10Mradの電子線を照射し、樹脂組成物を硬化させた後、上記した離型フィルムを剥離して厚さ60μmの有機層を形成した。
【0087】
(樹脂組成物の組成)
・ウレタンアクリレート(日本合成化学工業株式会社製、商品名:UV7000−B、Tg:52℃、1分子あたりのアクリロイル基数:2〜3、分子量:3500、硬化収縮率:4%〜5%):25質量部
・離型剤(3−メチル−2−ホスホレン−1−オキシド):2質量部
・ヒドロキシフェニルトリアジン系紫外線吸収剤(BASFジャパン株式会社製、商品名:チヌビン479):2質量部
・希釈溶剤(トルエン:メチルエチルケトン=1:1の混合溶媒、DNPファインケミカル株式会社製、商品名:KT−11):75質量部
【0088】
無機層は、プラズマ化学気相蒸着法により形成した。具体的には、有機層が形成されたプラスチック基材の有機層側を形成する向きにしてプラズマ化学気相蒸着装置にセットし、原料ガスとしてヘキサメチルジシロキサン(信越化学工業株式会社製)、酸素ガス、アルゴンガスを準備した。各ガスはヘキサメチルジシロキサン:酸素ガス:アルゴンガス=1:50:3となるよう供給し、100mTorr以下の真空中で、原料ガスの単位モノマー当たりの出力が20W/sccmになるよう電力を印加し、厚さ80nmの酸化珪素層を形成した。なお、実施例1の無機層の組成比を、X線光電子分光装置(KRATOS社製、型番:ESCA−3400)を用いてX線光電子分光法により測定した結果、Si:O:C=26:55:19(単位はモル%)であった。また、sccmとは、standard cubic centimeter per minuteの略であり、以下の実施例、比較例においても同様である。
【0089】
[実施例2]
樹脂組成物に配合するウレタンアクリレートの種類を、ウレタンアクリレート(日本合成化学工業株式会社製、商品名:UV−7510B、Tg:17℃、分子量:3500、1分子あたりのアクリロイル基数:3、分子量:3500、硬化収縮率:4%〜5%)に変更した以外は、実施例1と同様にして実施例2の透明フィルムを得た。なお、実施例1と同様にして無機層の組成比を測定した結果、Si:O:C=26:55:19(単位はモル%)であった。
【0090】
[実施例3]
無機層を、蒸着原料として酸化珪素(SiO
2)を使用し、イオンプレーティング法で形成した以外は、実施例2と同様にして実施例3の透明フィルムを得た。イオンプレーティング法の条件は、プロセスガスとしてArガスを使用し、成膜圧力を1.2×10
−2Pa、成膜パワーを9kWにした。なお、実施例1と同様にして無機層の組成比を測定した結果、Si:O:C=29:57:14(単位はモル%)であった。
【0091】
[実施例4]
樹脂組成物にさらにオリゴ[2−ヒドロキシ−2−メチル−[1−(メチルビニル)フェニル]プロパノン](光重合開始剤、lamberti社製、商品名:ESACUREONE)を5質量部配合し、プラスチック基材に樹脂組成物を塗工後、300mJ/cm
2の紫外線を照射し、さらに120度1時間加熱して厚さ60μmの有機層を形成した以外は、実施例2と同様にして実施例4の透明フィルムを得た。なお、実施例1と同様にして無機層の組成比を測定した結果、Si:O:C=29:64:7(単位はモル%)であった。
【0092】
[実施例5]
樹脂組成物に配合する希釈溶剤(トルエン:メチルエチルケトン=1:1の混合溶媒、DNPファインケミカル株式会社製、商品名:KT−11)を150質量部に変更した以外は、実施例1と同様にして実施例5の透明フィルムを得た。
【0093】
[実施例6]
樹脂組成物に配合する希釈溶剤(トルエン:メチルエチルケトン=1:1の混合溶媒、DNPファインケミカル株式会社製、商品名:KT−11)を40質量部に変更した以外は、実施例1と同様にして実施例6の透明フィルムを得た。
【0094】
[比較例1]
有機層の硬化を、電圧185kV、線量5Mradの電子線照射とした以外は、実施例2と同様にして比較例1の透明フィルムを得た。なお、実施例1と同様にして無機層の組成比を測定した結果、Si:O:C=26:55:19(単位はモル%)であった。
【0095】
[比較例2]
樹脂組成物に配合するウレタンアクリレートの種類を、ウレタンアクリレート(日本合成化学工業株式会社製、商品名:UV−7600B、Tg:200℃以上、1分子あたりのアクリロイル基数:6、分子量:1400、硬化収縮率:6.3%)に変更した以外は、実施例1と同様にして比較例2の透明フィルムを得た。なお、実施例1と同様にして無機層の組成比を測定した結果、Si:O:C=30:64:6(単位はモル%)であった。
【0096】
[比較例3]
樹脂組成物に配合するウレタンアクリレートの種類を、ウレタンアクリレート(日本合成化学工業株式会社製、商品名:UV−7630B、Tg:200℃以上、1分子あたりのアクリロイル基数:6、分子量:2200、硬化収縮率:6.4%)に変更した以外は、実施例1と同様にして比較例3の透明フィルムを得た。なお、実施例1と同様にして無機層の組成比を測定した結果、Si:O:C=26:55:19(単位はモル%)であった。
【0097】
[比較例4]
樹脂組成物に配合するウレタンアクリレートを、ウレタンアクリレート(ダイセル・サイテック株式会社製、商品名:EBECRYL285、Tg:101.7℃、1分子あたりのアクリロイル基数:3、分子量:2300)に変更した以外は、実施例1と同様にして比較例4の透明フィルムを得た。なお、実施例1と同様にして無機層の組成比を測定した結果、Si:O:C=30:59:11(単位はモル%)であった。
【0098】
[比較例5]
無機層を形成する際、モノマー当たりのパワーが5W/sccmとなるよう電力を印加したこと以外は、実施例1と同様にして比較例5の透明フィルムを得た。なお、実施例1と同様にして無機層の組成比を測定した結果、Si:O:C=32:27:41(単位はモル%)であった。
【0099】
[評価と結果]
実施例1〜6及び比較例1〜5の有機層について、(ア)有機層の
浸漬重量減少率の測定を行った。また、実施例1〜6及び比較例1〜5の透明フィルムについて、(イ)有機層のプラズマ処理前後での表面の算術平均粗さ(Ra)の測定、(ウ)無機層の接触角の測定、(エ)耐候性試験後の有機層と無機層間での剥離の有無の確認を行った。
【0100】
有機層の浸漬重量減少率の測定は、剥離フィルム(三井化学東セロ株式会社製、商品名:オピュラン)上に所望の条件で硬化させた樹脂組成物の硬化物を、20mm×50mmの試験片に切り出して剥離フィルムから剥離し、MEK中で24時間浸漬させた。次にMEK中から取り出した試験片を60℃で24時間乾燥させ、浸漬前後の重量変化から浸漬重量減少率を算出した。
【0101】
有機層の算術平均粗さ(Ra)の測定は、透明フィルムから無機層を除去した後、露出した有機層の表面を、走査型プローブ顕微鏡(エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製、製品名:ナノキュート)を用いて、JIS B0601(2001)に準じた方法で測定した。なお、透明フィルムからの無機層の除去は、10質量%濃度のフッ酸に室温で5分間浸漬させて無機層を完全に溶解させることにより行った。
【0102】
有機層へのプラズマ処理は、プラズマ照射装置(ヤマト科学株式会社製、型番:PDC200)を使用し、有機層に対し、反応ガスとして酸素ガスを用いて出力300W
/sccmで15分間の反応性イオンエッチングを行った。
【0103】
無機層の接触角の測定は、水に対する接触角を滴下法により測定した。具体的には、接触角測定装置(協和界面化学株式会社製、型番:CA−Z)を用い、無機層の表面に純水を1滴滴下し、10秒間経過した後に光学顕微鏡で水滴形状を観察して、接触角を測定した。
【0104】
紫外線(UV)照射に対する耐候性試験は、超促進耐候性試験機(岩崎電気株式会社製、商品名:アイスーパーUVテスター、型番:SUV−W23)を用いて、透明フィルムに下記の(A),(B),(C)を1サイクルとし、これを15サイクル繰り返すことにより、360時間の耐候性試験を行った。
【0105】
(A)温度:63℃、湿度:50%RHの雰囲気下で、照度:65mW/cm
2、ピーク波長:365nmの紫外線を20時間照射する。
(B)散水処理(シャワー)を30秒間行う。
(C)温度:63℃、湿度:98%RHの雰囲気下で4時間保持する(紫外線の照射は無し)。
【0106】
キセノン(Xe)ランプ光に対する耐候性試験は、キセノンランプ照射装置(アトラス社製、製品名:ウエザオメーターCi4000)を用いて、透明フィルムに下記の(A),(B)を1サイクルとし、これを148サイクル繰り返すことにより、360時間の耐候性試験を行った。
【0107】
(A)温度:65℃、湿度:50%RHの雰囲気下で、照度:60mW/cm
2、波長:300nm〜400nmのキセノン光を128分照射する。
(B)散水処理(シャワー)を18分間行う。
【0108】
有機層と無機層間での剥離の有無の確認は、上記した耐光性試験後の透明フィルムを目視で観察することにより行った。
【0109】
結果を表1に示す。なお、UV耐候試験後とは、紫外線照射に対する耐候性試験を360時間行った後のことであり、Xe耐候試験後とは、キセノンランプ光に対する耐候性試験を360時間行った後のことである。
【0110】
【表1】
【0111】
表1の結果から、実施例1〜6の透明フィルムは、耐候試験後でも有機層と無機層との層間剥離が発生しなかったので、良好な耐候性を示した。また、無機層の水に対する接触角が40°以下であったので、良好な防汚性を示した。