(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記配列方向において互いに対向する前記トレンチ構造における第1の側壁と第2の側壁とであって、前記第1の側壁の頂部と前記第2の側壁の頂部との間の長さにより規定される前記トレンチ構造の幅は、1μm以上50μm以下である
請求項3から5のいずれか一項に記載のダイオード素子。
ワイドギャップ半導体のエピタキシャル層である第1導電型の半導体層を部分的にエッチングすることにより、互いに離間して配列され、トレンチ構造の側壁と前記トレンチ構造の底部とのなす角度が40度以上60度以下である複数の前記トレンチ構造を前記第1導電型の半導体層に形成する段階と、
前記複数のトレンチ構造が互いに離間して配列される配列方向において互いに隣接する各2つのトレンチ構造の間にそれぞれ位置する複数のメサ構造と、前記複数のトレンチ構造との上方に選択再成長用のマスクを設けることなく、前記第1導電型の半導体層上に、前記ワイドギャップ半導体である第2導電型の半導体層をエピタキシャル成長させる段階と、
前記複数のメサ構造上に位置する第2導電型の半導体層を部分的にエッチングすることにより、前記第1導電型の半導体層を部分的に露出させる段階と、
前記第1導電型の半導体層および前記第2導電型の半導体層上において、前記第1導電型の半導体層および前記第2導電型の半導体層に接する電極を形成する段階と
を備える、ダイオード素子の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、発明の実施の形態を通じて本発明を説明するが、以下の実施形態は特許請求の範囲にかかる発明を限定するものではない。また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0018】
図1は、ダイオード素子100の上面図である。本例のダイオード素子100は、活性部92と、エッジ終端部98とを有する。本例の活性部92は、X‐Y平面方向において、エッジ終端部98に囲まれた部分である。活性部92においては、半導体チップ90の厚さ方向において電流が流れてよい。詳細は後述するが、本例の活性部92には、JBS構造を有するダイオードが設けられる。
【0019】
本例において、X軸方向とY軸方向とは互いに直交する方向であり、Z軸方向はX‐Y平面に直交する方向である。X、Y及びZ軸は、いわゆる右手系を成す。本例においては、Z軸正方向(+Z方向)を「上」と称し、Z軸負方向(−Z方向)を「下」と称する場合がある。ただし、「上」及び「下」は、必ずしも地面に対する鉛直方向を意味しない。つまり、「上」及び「下」の方向は、重力方向に限定されない。「上」及び「下」は、領域、層、膜及び基板等における相対的な位置関係を特定する便宜的な表現に過ぎない。
【0020】
エッジ終端部98は、半導体チップ90の表(おもて)面近傍の電界集中を緩和する機能を有してよい。エッジ終端部98は、例えばガードリング、フィールドプレート、リサーフおよびこれらを組み合わせた構造を有する。エッジ終端部98を設けることにより、エッジ終端部98を設けない場合に比べて、ダイオード素子100の耐圧を向上させることができる。
【0021】
半導体チップ90は、ワイドギャップ半導体を主として有するチップであってよい。ワイドギャップ半導体は、シリコンのバンドギャップよりも大きなバンドギャップを有する半導体を意味してよい。ワイドギャップ半導体は、Al及びInを微量に含むGaN(即ち、Al
xIn
yGa
1−x−yN(0≦x<1、0≦y<1))であってよく、炭化ケイ素(以下、SiC)であってよく、ダイヤモンドであってもよい。なお、本例のワイドギャップ半導体は、GaN(Al
xIn
yGa
1−x−yNにおいてx=y=0)である。
【0022】
図2は、第1実施形態における
図1のA‐A断面を示す図である。A‐A断面は、活性部92のX‐Z断面における一部を示す。本例の活性部92は、N+型GaN基板10、N型GaN層20、P型GaN層30、アノード電極72およびカソード電極74を有する。本例のN+型GaN基板10は、上面12の面方位が(0001)面である自立基板である。カソード電極74は、N+型GaN基板10の下面14に接する。
【0023】
本例において、N+型GaN基板10は、上述のワイドギャップ半導体の基板である。また、本例においては、N型GaN層20およびP型GaN層30は、上述のワイドギャップ半導体のエピタキシャル層である。本例においては、エピタキシャル成長によりP型GaN層30を形成するので、イオン注入または選択再成長によりP型のGaN層を形成する困難性を回避し、かつ、トレンチ構造40に確実にP型GaN層30を設けることができる。
【0024】
N型GaN層20は第1導電型の半導体層の一例であり、P型GaN層30は第2導電型の半導体層の一例である。本例において、第1導電型はN型であり、第2導電型はP型である。ただし、他の例においては、第1導電型がP型であり、第2導電型がN型であってもよい。本明細書において、NまたはPは、それぞれ電子または正孔が多数キャリアであることを意味する。NまたはPの右に記載した+または−について、+はそれが記載されていないものよりもキャリア濃度が高く、−はそれが記載されていないものよりもキャリア濃度が低いことを意味する。
【0025】
GaNに対するN型ドーパントは、シリコン(Si)、ゲルマニウム(Ge)および酸素(O)の一種類以上の元素であってよい。本例においては、N型ドーパントとしてシリコンを用いる。また、GaNに対するP型ドーパントは、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ベリリウム(Be)および亜鉛(Zn)の一種類以上の元素であってよい。本例においては、P型ドーパントとしてマグネシウムを用いる。SiCに対するN型ドーパントは、窒素(N)およびリン(P)のうち一種類以上の元素であってよく、SiCに対するP型ドーパントは、アルミニウム(Al)およびボロン(B)のうち一種類以上の元素であってよい。
【0026】
N型GaN層20は、N+型GaN基板10の上面12に接する。N型GaN層20は、複数のトレンチ構造40と複数のメサ構造50とを有してよい。本例のN型GaN層20においては、複数のトレンチ構造40が互いに離間してX軸方向に配列される。本例において、X軸方向は、複数のトレンチ構造40の配列方向60と平行である。複数のメサ構造50は、配列方向60において互いに隣接する各2つのトレンチ構造の間に位置する。つまり、配列方向60において、トレンチ構造40とメサ構造50とは交互に設けられる。
【0027】
P型GaN層30は、N型GaN層20に接して設けられる。P型GaN層30は、トレンチ構造40の少なくとも側壁に接してよい。また、P型GaN層30は、メサ構造50の頂部52の少なくとも一部に接してよい。本例のP型GaN層30は、メサ構造50の頂部52の一部を除いて、N型GaN層20における側壁44、底部46および頂部52の各全体に接する。ただし、本例のP型GaN層30は、メサ構造50の頂部52上に開口38を有する。即ち、本例のP型GaN層30は、開口38を除いて、トレンチ構造40およびメサ構造50の全体を覆う。
【0028】
トレンチ構造40は、側壁44および底部46を有する。トレンチ構造40の側壁44の頂部42は、Z軸方向においてメサ構造50の頂部52と同じ位置にある。なお、側壁44の頂部42は、A‐A断面においては点状に示されるが、上面視においてはY軸方向に延伸してよい。トレンチ構造40において、側壁44と底部46とは所定の角度θを成してよい。角度θは鋭角または直角であってよい。本例において、トレンチ構造40は、底部46を間に挟んで配列方向60に隣接する2つの頂部42の間に位置する。また、メサ構造50は、頂部52を間に挟んで配列方向60に隣接する2つの頂部42の間に位置する。
【0029】
アノード電極72は、N型GaN層20およびP型GaN層30上において、N型GaN層20およびP型GaN層30に接してよい。本例のアノード電極72は、P型GaN層30の開口38においてN型GaN層20と直接接する。これにより、アノード電極72とN型GaN層20とのショットキー接合が設けられる。これにより、開口38が設けられず且つアノード電極72がP型GaN層30のみと接する場合に比べて、ダイオード素子100の導通抵抗を低減することができる。それゆえ、ショットキーバリアダイオード(Schottky Barrier diode:以下、SBD。なお、Schottky diodeとも呼ばれる。)と同程度に低い立ち上がり電圧を実現することができる。
【0030】
また、本例のアノード電極72は、開口38を除く頂部52と、側壁44と、底部46との各上方において、P型GaN層30と直接接する。本例のアノード電極72はPN接合に電気的に接続するので、アノード電極72およびカソード電極74間に順方向バイアスが印加された場合に、ダイオード素子100には電子および正孔の再結合に起因する電流も流れ得る。本例では、側壁44に加えて底部46全体にもP型GaN層30を設けるので、側壁44のみにP型GaN層30を設ける場合に比べて、電流が流れる面積を増やすことができる。
【0031】
さらに、本例においては、アノード電極72およびカソード電極74間に逆方向バイアスが印加された場合に、頂部52、側壁44および底部46に渡って連続するように空乏層は拡張し得る。これにより、PN接合が設けられず且つアノード電極72の全体がN型GaN層20のみと接するSBDに比べて、逆方向バイアス印加時のリーク電流を低減することができる。
【0032】
トレンチ構造40における角度θは、角度θは、40度以上90度以下であってよい。角度θが小さいほど、N型GaN層20上においてP型GaN層30がエピタキシャル成長しやすい。例えば、角度θが40度以上60度以下、さらに好適な例としては40度以上50度未満(より具体的な例として、角度θ=45度)の場合、角度θが60度よりも大きい場合に比べて、P型GaN層30をエピタキシャル成長させるときの製造条件の最適範囲(即ち、プロセスウィンドウ(Process Window))を広げることができる点が有利である。
【0033】
しかしながら、角度θが小さいほど、側壁44の斜面の長さ(X‐Z平面における側壁44の頂部42から底部46までの距離)が長くなるので、ショットキー接合領域の面積に対するPN接合領域の面積の相対比が増加する。PN接合領域の面積の相対比が増加するほど、順方向電圧V
Fが増加する。そこで、PN接合領域の面積の相対比が増加すること(即ち、ショットキー接合領域の面積の相対比が低下すること)を防ぐべく、角度θは80度以上90度以下(より具体的な例として、81度以上89度以下の所定の角度)としてよい。
【0034】
なお、本例においては、説明を容易にすることを目的として、配列方向60において互いに隣接する第1のトレンチ構造40‐1および第2のトレンチ構造40‐2の間に位置するメサ構造50を第2のメサ構造50‐2と称する。また、X軸正方向において第1のトレンチ構造40‐1に隣接するメサ構造50を第1のメサ構造50‐1と称し、X軸負方向において第2のトレンチ構造40‐2に隣接するメサ構造50を第3のメサ構造50‐3と称する。
【0035】
図3は、A‐A断面における幅、長さおよび深さ等の寸法を説明する図である。説明を容易にすることを目的として、
図3においては、N型GaN層20およびP型GaN層30のみを示す。トレンチ構造40の配列方向60の幅W
Tは、1μm以上50μm以下であってよく、1μm以上20μm以下であってよく、1μm以上10μm以下であってもよい。本例の幅W
Tは、底部46を間に挟んで配列方向60に隣接する2つの頂部42間の長さである。本例の幅W
Tは、約10μmである。理解を容易にすることを目的として、
図3においては、配列方向60において互いに対向する第1のトレンチ構造40‐1の第1の側壁44‐1および第2の側壁44‐2を示す。
【0036】
選択再成長によりP型GaN層30を形成する場合には、トレンチ構造40の幅W
Tを400μm以上とする必要がある。なお、選択再成長によりN型SiC層上にP型SiC層を形成する場合にも、同様に、トレンチ構造40の幅W
Tを400μm以上とする必要がある。これに対して本例では、選択再成長用のマスクを用いないので、幅W
Tを1μm以上50μm以下とすることができる。本例では、選択再成長に比べて、トレンチ構造40の幅W
Tを小さくすることができるので、ショットキー接合領域の面積の相対比が低下することを防ぐことができる。
【0037】
トレンチ構造40の幅W
Tは、配列方向60におけるメサ構造50の幅W
Mの1倍以上であってよく、2倍以上であってもよい。幅W
Mに対する幅W
Tの比率(即ち、幅W
T/幅W
M)が小さいほど、ダイオード素子100のショットキー特性が強くなってよい。例えば、幅W
T/幅W
Mが小さいほど、順方向電圧V
Fを小さくすることができる。
【0038】
これに対して、幅W
T/幅W
Mが大きいほど、ダイオード素子100のPN接合特性が強くなってよい。例えば、幅W
T/幅W
Mが大きいほど、順方向バイアス印加時における電圧‐電流特性が向上し、逆方向バイアス印加時におけるリーク電流を低減することができる。加えて、幅W
T/幅W
Mが大きいほど、P型GaN層30をエピタキシャル成長させるときの製造条件の制御がより容易である。
【0039】
メサ構造50の配列方向60の幅W
Mは、0.5μm以上10μm以下であってよい。本例の幅W
Mは、頂部52を間に挟んで配列方向60に隣接する2つの頂部42間の長さである。本例の幅W
Mは、数μmである。P型GaN層30の開口38の幅W
OPは、メサ構造50の幅W
Mより小さくてよい。それゆえ、頂部52上にもP型GaN層30が設けられてよい。幅W
OPは、0.3μm以上8μm以下であってよく、1μm以上2μm以下であってよい。頂部52上においては、配列方向60の長さL
Pが0.1μm以上のP型GaN層30が、配列方向60において開口38を間に挟むように設けられてよい。
【0040】
本例のトレンチ構造40は、側壁44の頂部42からトレンチ構造40の底部46までの長さである深さD
Tを有する。深さD
Tは、0.5μm以上2μm以下であってよい。深さD
Tが大きいほど、逆方向バイアス印加時にN型GaN層20とP型GaN層30とのPN接合領域に形成される空乏層が、リーク電流を遮断しやすい。つまり、深さD
Tが大きいほど、より十分なピンチオフ状態を得ることができる。
【0041】
N型GaN層20の高さH
Nは、5μ以上20μm以下であってよい。本例において、N型GaN層20の高さH
Nは、上面12から頂部52までのZ軸方向と平行な長さである。N型GaN層20のN型ドーパントのドーピング濃度Ndは、0.5E+16cm
−3以上2E+16cm
−3以下であってよい。N型GaN層20のNdは、ダイオード素子100の耐圧に応じて定めてよい。Ndが小さいほどダイオード素子100の耐圧は高くなる。なお。Eは10の冪であり、2E+16は2×10
16を意味する。
【0042】
P型GaN層30の厚さT
Pは、P型GaN層30によりトレンチ構造40が充填されない厚さであってよい。本例において、P型GaN層30の厚さT
Pは、トレンチ構造40の深さD
Tよりも小さい。P型GaN層30の厚さT
Pは、30nm以上500nm以下(即ち、0.03μm以上0.5μm以下)であってよく、100nm以上200nm以下(即ち、0.1μm以上0.2μm以下)であってもよい。厚さT
Pが30nm未満である場合、十分なPN接合領域が得られない。これに対して、厚さT
Pが500nmより大きい場合、ダイオード素子100におけるP型GaN層30の抵抗が高くなり過ぎる。なお、製造条件を制御することにより、側壁44、底部46および頂部52に接するP型GaN層30の厚さT
Pを同じにすることが可能である。
【0043】
P型ドーパントのドーピング濃度Naは、1E+18cm
−3以上1E+20cm
−3以下であってよく、より好ましくは、5E+18cm
−3以上1E+19cm
−3以下としてよい。Naが1E+18cm
−3未満の場合、PN接合の抵抗が高すぎるという問題がある。それゆえ、Naは1E+18cm
−3以上とすることが望ましい。また、Naが1E+20cm
−3を超える場合、P型GaN層30中において活性化しないMgの数が増えるので、Naは1E+20cm
−3以下とすることが望ましい。
【0044】
厚さT
PとP型ドーパントのドーピング濃度Naとは、適切な最適値に定めてよい。P型GaN層30は、P型GaN層30とN型GaN層20とにより十分なピンチオフ状態を得ることができる程度のNaと厚さT
Pとを有してよい。十分なピンチオフ状態を得ることができるのであれば、厚さT
Pを可能な限り小さくしてよい。厚さT
Pが小さいほど、ダイオード素子100の抵抗を低減することができる。また、詳細は後述するが、厚さT
Pが小さいほど、ウェハに設けられたアライメントマーカーの位置を特定することがより容易になる点も有利である。
【0045】
図4は、ダイオード素子100の製造方法のフロー図である。本例の製造方法は、N型GaN層20をエピタキシャル成長させる段階(S10)と、N型GaN層20に複数のトレンチ構造40を形成する段階(S20)と、P型GaN層30をエピタキシャル成長させる段階(S30)と、P型GaN層30を部分的に除去することによりN型GaN層20を部分的に露出させる段階(S40)と、アノード電極72およびカソード電極74を形成する段階(S50)とを備える。本例においては、Sの右に付した番号が、小さい番号から大きい番号の順に各段階が行われる。
【0046】
図5の(a)から(e)は、ダイオード素子100の製造方法の各段階を説明する図である。
図5の(a)は、段階S10を示す。本例の段階S10では、N+型GaN基板10上にN型GaN層20をエピタキシャル成長させる。N型GaN層20は、有機金属成長法(MOCVD)またはハイドライド気相成長法(HVPE)によりエピタキシャル形成されてよい。例えば、トリメチルガリウム(TMGa)、アンモニア(NH
3)およびシラン(SiH
4)を含む原料ガスと、窒素(N
2)および水素(H
2)を含む押圧ガスとをN+型GaN基板10上に供給することにより、MOCVDでN型GaN層20をエピタキシャル成長させる。
【0047】
図5の(b)は、段階S20を示す。本例の段階S20では、N型GaN層20を部分的にエッチングすることにより、複数のトレンチ構造40および複数のメサ構造50をN型GaN層20に形成する。既知のフォトリソグラフィー工程によりメサ構造50に対応する部分にマスク層を設けた上で、N型GaN層20をドライエッチングすることにより、トレンチを形成することができる。
【0048】
図5の(c)は、段階S30を示す。本例の段階S30では、各トレンチ構造40と各メサ構造50との上方に選択再成長用のマスクを設けることなく、N型GaN層20上にP型GaN層30をエピタキシャル成長させる。段階S30においても、MOCVDまたはHVPEを用いてよい。例えば、TMGa、NH
3およびビスシクロペンタジエニルマグネシウム(Cp
2Mg)を含む原料ガスと、N
2およびH
2を含む押圧ガスとをN型GaN層20上に供給することにより、MOCVDでP型GaN層30をエピタキシャル成長させる。
【0049】
図5の(d)は、段階S40を示す。本例の段階S40では、メサ構造50上に位置するP型GaN層30を部分的にエッチングすることにより、P型GaN層30に開口38を設ける。これにより、頂部52のN型GaN層20を部分的に露出させる。既知のフォトリソグラフィー工程により、開口38に対応する部分以外のP型GaN層30上の全体にマスク層を設けた上で、P型GaN層30をドライエッチングすることにより、開口38を形成することができる。
【0050】
図5の(e)は、段階S50を示す。本例の段階S50では、スパッタリングによりアノード電極72およびカソード電極74を順次形成する。アノード電極72は、P型GaN層30の露出された表面と開口38において露出されるN型GaN層20とに直接接するニッケル(Ni)層と、ニッケル層上において当該ニッケル層に接する金(Au)層との積層構造(Ni\Au)を有してよい。半導体チップ90のX‐Y平面の端部においてアノード電極72を除去するべく、アノード電極72を部分的にエッチングしてもよい。カソード電極74は、N+型GaN基板10の下面14に直接接するチタン(Ti)層と、チタン層の下方において当該チタン層に接するニッケル(Ni)層と、ニッケル層の下方において当該ニッケル層に接する金(Au)層との積層構造(Ti/Ni/Au)を有してよい。
【0051】
図6の(A)から(C)の各々は、活性部92の部分拡大図である。
図6の(A)は、トレンチ構造40およびメサ構造50がストライプ形状で設けられる例である。
図6の(B)は、トレンチ構造40およびメサ構造50が同心の矩形形状(即ち、同一の中心を有し且つ互いに相似である複数の矩形形状)で設けられる例である。
図6の(C)は、トレンチ構造40およびメサ構造50がハニカム形状で設けられる例である。
図6においては、理解を容易にすることを目的として、トレンチ構造40の底部46に斜線を付す。また、
図6においては、
図1および
図2のA‐Aに対応する範囲の一例を併せて示す。
【0052】
いずれの形状を採用してもよいが、(B)同心の矩形形状は、活性部92とエッジ終端部98とを組み合わせる場合のレイアウト設計が比較的容易である。また、(C)ハニカム形状は、大面積の半導体チップ90の活性部92に最適な形状である。
【0053】
なお、(A)ストライプ形状においては、配列方向60は、X軸方向と平行な方向である。ただし、(B)同心の矩形形状においては、配列方向60は、X軸方向と平行な方向であってよく、Y軸方向と平行な方向であってもよい。さらに、(C)ハニカム形状においては、配列方向60は、X軸方向と平行な方向であってよく、X軸と+60度を成す直線に平行な方向であってよく、X軸と−60度を成す直線に平行な方向であってもよい。
【0054】
図7は、半導体チップ90が切り出される前のウェハ80の上面図である。本例のウェハ80は、オリエンテーション・フラット(以下、OF)82が(1−100)面であるGaNウェハである。本例のウェハ80は、OF82を除く端部にマーカー84を有する。本例のマーカー84は、N型GaN層20に設けられたトレンチである。本例のマーカー84は上面視において短冊形状であるが、他の例においては数字、文字および記号の少なくとも1つ以上を有してもよい。
【0055】
図8の(A)および(B)は、
図7のB‐B断面を示す図である。
図8の(A)は、P型GaN層30が、トレンチ構造40が充填されない程度の厚さT
Pを有する、本例のB‐B断面図である。これに対して、
図8の(B)は、トレンチ構造40がP型GaN層30により充填される他の例のB‐B断面図である。
図8の(A)の本例においては、厚さT
Pが十分に薄いので、段階S30以降の段階におけるフォトリソグラフィー工程用のマスク位置合わせにおいてマーカーを特定することが容易になる。それゆえ、マスク位置合わせ精度(即ち、アライメント精度)を、
図8の(B)の例に比べて高くすることができる。
【0056】
図9は、第1実施形態の第1変形例を示す図である。本例のN型GaN層20は、メサ構造50において高濃度領域22を含む。本例の高濃度領域22は、トレンチ構造40の底部46におけるN型のドーパント濃度よりも高いN型のドーパント濃度を有するN+型の領域である。本例の高濃度領域22は、メサ構造50の頂部52と、トレンチ構造40の側壁44とに設けられる。メサ構造50において高濃度領域22が設けられる範囲を破線で示す。
【0057】
本例の高濃度領域22は、頂部52から所定深さ範囲に設けられる。また、本例の高濃度領域22は、側壁44に直交する方向において、側壁44からメサ構造50の内部の所定位置まで設けられる。ただし、本例のメサ構造50は、その全てが高濃度領域22ではない。本例において、メサ構造50の内部には、N型GaN層20と同じN型ドーピング濃度を有する領域が残存する。
【0058】
高濃度領域22を設けることにより、高濃度領域22を設けない場合と比べて、逆方向バイアス印加時にZ軸方向に空乏層が延伸しにくくなる。それゆえ、高濃度領域22を設けることにより、耐圧を向上させることができる。ただし、高濃度領域22を設けることにより、高濃度領域22を設けない場合と比べて、バイアス非印加時におけるP型GaN層30の空乏化範囲が大きいので、素子抵抗が増加する。それゆえ、ダイオード素子100の耐圧と抵抗とのバランスを考慮したうえで、高濃度領域22を設けてよい。
【0059】
GaN材料において、N型領域はイオン注入によって形成することができる。例えば、段階S20の後であって段階S30の前に、頂部52および側壁44に選択的にN型不純物をイオン注入し、その後、ドーパントを活性化するためにN型GaN層20をアニールする。これにより、底部46を除くN型GaN層20において、所定の深さ範囲に高濃度領域22を形成することができる。
【0060】
図10は、第1実施形態の第2変形例を示す図である。本例のP型GaN層30は、P型の半導体接合領域34と、P+型の金属接合領域36とを含む。本例において、半導体接合領域34は、P型GaN層30のうちN型GaN層20の側壁44と接する領域である。また、金属接合領域36は、P型GaN層30の厚さ方向において半導体接合領域34とは反対側に位置し、アノード電極72と接する領域である。金属接合領域36は、P型GaN層30の露出された表面から所定の深さ範囲に設けられてよい。本例の金属接合領域36は、側壁44、底部46および頂部52上において一定の厚さを有する。
【0061】
金属接合領域36におけるP型のドーパント濃度は、半導体接合領域34におけるP型のドーパント濃度よりも高くてよい。段階S40の後半において、Cp
2Mgの単位時間当たりの流量を増加させることにより、P型GaN層30の最表面から所定の深さ範囲をP+型の金属接合領域36にすることができる。これにより、P+型の金属接合領域36を設けない場合に比べて、P型GaN層30とアノード電極72との接触抵抗を低減することができる。なお、第1変形例と第2変形例とを組み合わせてもよい。
【0062】
図11は、第1実施形態の第3変形例を示す図である。
図11の(A)は、トレンチ構造40の幅W
T1に対するメサ構造50の幅W
M1の比率(W
M1/W
T1)が相対的に大きいショットキー特性領域94のX‐Z断面を示す。これに対して、
図11の(B)は、トレンチ構造40の幅W
T2に対するメサ構造50の幅W
M2の比率(W
M2/W
T2)が相対的に小さいPN接合特性領域96のX‐Z断面を示す。
【0063】
本例においては、ショットキー特性領域94およびPN接合特性領域96において角度θは一定である。本例においては、P型GaN層30の長さL
Pは領域に依らず一定であり、且つ、2つの領域においてメサ構造50の幅W
Mが異なる。それゆえ、ショットキー特性領域94における開口38の幅W
OP1を、PN接合特性領域96における開口38の幅W
OP2に比べて大きくすることができる(W
OP2<W
OP1)。ショットキー特性領域94は、PN接合特性領域96に比べて、各頂部52におけるアノード電極72とN型GaN層20との接触面積が大きくてよい。それゆえ、ショットキー特性領域94は、PN接合特性領域96よりも強いショットキー特性を有してよく、PN接合特性領域96は、ショットキー特性領域94よりも強いPN接合特性を有してよい。このように、1つの半導体チップ90内において、特性の異なる領域を設けることにより、例えば、電流‐電圧特性の設計の自由度を上げることができる。
【0064】
なお、PN接合特性領域96に比べてショットキー特性領域94において、アノード電極72とN型GaN層20との接触面積を大きくすることができれば、他の構成を採用してもよい。他の例においては、W
M1/W
T1=W
M2/W
T2とした上で、ショットキー特性領域94の長さL
PをPN接合特性領域96の長さL
Pよりも小さくすることにより、幅W
OP1を幅W
OP2よりも大きくしてもよい。更なる他の例においては、長さL
Pは領域に依らず一定とした上でショットキー特性領域94の角度θ
1をPN接合特性領域96の角度θ
2よりも大きくすることにより、PN接合特性領域96に比べてショットキー特性領域94において、アノード電極72とN型GaN層20との接触面積を大きくしてもよい。
【0065】
ショットキー特性領域94とPN接合特性領域96とは、配列方向60において一例に並ぶように設けられてよい。
図6(A)のストライプ形状においては、所定のX位置よりもX軸正方向にショットキー特性領域94およびPN接合特性領域96の一方が設けられ、所定のX位置よりもX軸負方向にそれらの他方が設けられてよい。また、
図6(B)の同心の矩形形状および
図6(C)のハニカム形状においては、X‐Y平面における所定の範囲よりも内側にショットキー特性領域94およびPN接合特性領域96の一方が設けられ、当該所定の範囲よりも外側にショットキー特性領域94およびPN接合特性領域96の他方が設けられてよい。
【0066】
図12は、第2実施形態における
図1のA‐A断面を示す図である。本例においては、底部46の全体にはP型GaN層30を設けない。本例のダイオード素子100は、底部46に接するP型GaN層30に代えて、絶縁膜49を有する。係る点において、第1実施形態と異なる。例えば、段階S40において、頂部52および底部46に対応する所定の範囲に開口を有するマスク層を介してエッチングすることにより、頂部52および底部46上に開口を形成することができる。その後、絶縁膜49をブランケット堆積した後、底部46に接する部分以外の絶縁膜49をエッチングにより除去する。本例においても、イオン注入または選択再成長によりP型のGaN層を形成する困難性を回避することができる。
【0067】
図13は、第3実施形態における
図1のA‐A断面を示す図である。本例においては、底部46に接するP型GaN層30の厚さT
Pが、トレンチ構造40の深さD
Tよりも大きい。係る点において、第1実施形態と異なる。ただし、本例においても、イオン注入または選択再成長によりP型のGaN層を形成する困難性を回避することができる。
【0068】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されない。上記実施の形態に、多様な変更又は改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。その様な変更又は改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【0069】
特許請求の範囲、明細書、および図面中において示した装置、システム、プログラム、および方法における動作、手順、ステップ、および段階等の各処理の実行順序は、特段「より前に」、「先立って」等と明示しておらず、また、前の処理の出力を後の処理で用いるのでない限り、任意の順序で実現しうることに留意すべきである。特許請求の範囲、明細書、および図面中の動作フローに関して、便宜上「まず、」、「次に、」等を用いて説明したとしても、この順序で実施することが必須であることを意味するものではない。
【解決手段】トレンチ構造を有し、ワイドギャップ半導体のエピタキシャル層である、第1導電型の半導体層と、トレンチ構造の少なくとも側壁に接し、ワイドギャップ半導体のエピタキシャル層である、第2導電型の半導体層と、第1導電型の半導体層および第2導電型の半導体層上において、第1導電型の半導体層および第2導電型の半導体層に接する電極とを備える、ダイオード素子を提供する。