【実施例】
【0033】
本発明は、後述する実施例に記載の構成に限定されるものではなく、請求の範囲に記載されている事項の範囲内で考えうるその他の実施例や変形した実施例を含むものとする。
【0034】
(実施例1)
図1に示す、錫鍍金鋼板用の連続焼鈍設備の調質ミル入側におけるブライドルロールに、ディンプルロール(ロールの表面硬さHs83(4本平均))を適用した。このHs83とは、4本のディンプルロールのロールの表面硬さHsの平均値である。また、各ロールの表面硬さHsは、各ロールとも胴長方向に5点測定を行ない、その平均値を各ロールの測定値とした。尚、ブライドルロールは、
図3(a)のように4つ一組で用いられるが、これら4つの全てをディンプルロールとした。連続焼鈍設備における鋼板の適用板厚は0.15mm〜0.6mmであった。なお、本実施例1における板厚の降伏強度は28〜37kgf/mm
2であった。また、ディンプルロールのロール径は500mmであり、ユニット張力は4〜10kgf/mm
2であった。ライン速度は400〜1150mpmであった。溶射層の硬さHv(4本平均)は1200、溶射層の厚み(4本平均)は0.05mmであった。6ヵ月の間で、400mpmから1150mpmまで5分で加速する加速部と、1150mpmから50mpmまで5分で減速する減速部を、各15000回発生させた。使用当初のディンプルロールのRpk(4本平均)を8μmとし、使用後6ヶ月経過時点でのディンプルロールのRpk(4本平均)を調べたところ7.6μmであった(
図4の左側参照)。
【0035】
一方で、同じブライドルロールとして、クロムめっき皮膜にディンプル形状を付したロールを使用して上記と同様の実験を行った。なお、クロムめっき皮膜の硬さ(Hv)は1000であった。クロムめっき皮膜の厚さ(4本平均)は0.05mmであった。結果を
図4の右側に示す。なお、
図4において、Rpkの経時変化の結果は、板厚0.15mm〜0.6mmの範囲より選ばれた任意の本数をそれぞれ通板した後、ブライドルロールとして使用した4つのディンプルロール(比較例においては、4つの通常のロール)全てのRpk平均とした。
当初のRpk(4本平均)は8μmであったが、使用後6ヶ月時点でのRpk(4本平均)は1.8μmまで目減りしていた。詳細については実施例2にて後述するが、スリップ限界のRpk(それ以上Rpkが減少するとスリップを起こす可能性の高いRpk値)は2μmであり、比較例ではロールの取替えが必要な状態にあった。このように、本発明によってロールのRpk低下を抑えることができることから、ロールの取替周期を伸ばし、製造コストを低減できることが示された。
なお、上記した本発明例および比較例のRpk(4本平均)は、4本のロールのRpkの平均値である。また、各ロールのRpkは、ロールの胴長方向でサーフテスト301(株式会社ミツトヨ社製)の表面粗さ計を用いて測定した。
【0036】
(実施例2)
実施例1と同様の設備において、ディンプルロールのRpkを変更して実験を行った。Rpkの条件は4本平均が1〜13μmまで1μmおきになるように設定した。ロールの表面硬さHs、溶射層の硬さHv、溶射層の厚みは実施例1と同じ条件で行った。6ヶ月の使用中にブライドルロールにおいて鋼板のスリップが起きたか否かと、鋼板表面に光沢ムラが起きたか否かについて調査した。なお、スリップ、光沢ムラは、それぞれ、6ヵ月の使用中に1回以上起きたら×の評価とした。鋼板の適用板厚は0.18mm、板幅は850mmであり、ユニット張力は5kgf/mm
2であった。また、ライン速度は600mpmであった。なお、本実施例2における板厚の降伏強度は28〜35kgf/mm
2であった。本評価期間で、50mpmから600mpmまで3分で加速する加速部と、600mpmから50mpmまで3分で減速する減速部を、各14400回発生させた。結果を
図5に示す。図中、「○」はスリップ(又は光沢ムラ)が発生しなかったことを示し、「×」はスリップ(又は光沢ムラ)が発生したことを示す。
図5にて、Rpkが2μm以上12μm以下の範囲では、鋼板のスリップを防止するとともに、鋼板表面での光沢ムラの発生を安定的に防止できることが示された。
実施例2においては、スリップおよび光沢ムラの発生は、製造された薄鋼板コイルを検査ラインにて通板し、薄鋼板の表面および裏面の全長を検査することにより調べた。スリップの発生は、薄鋼板コイルの表面及び裏面(表裏面)にスリップにより長手方向で局所的にスリ疵が多数発生していることから判定される。長手方向の局所的なスリ疵が、表裏面のどこか一か所でも観察された場合、スリップ発生有と判定した。長手方向の局所的なスリ疵が、表裏面のどこにも観察されなかった場合、スリップ発生無と判定した。一方、光沢ムラは、白熱光によりコイル表面に入射した時、キラキラ点状に光って見える、微小なスクラッチ疵として観察される。スクラッチ疵が表裏面のどこか一か所でも観察された場合、光沢ムラ発生有と判定した。スクラッチ疵が表裏面のどこにも観察されなかった場合、光沢ムラ発生なしと判定した。
【0037】
(実施例3)
実施例3では、複数本のディンプルロールを準備し、以下の実験を行った。一部のロールは、
図6に示すシェル部の材質にS45Cを用い、高周波焼き入れによりシェル部の表面硬度(Hs)(4本平均)を68〜77の範囲内とした。また、残りのロールは、シェル部の材質にSUJ2を用い、高周波焼き入れによりシェル部の表面硬度(Hs)(4本平均)を84とした。なお、シェル部の表面硬度(Hs)は、各ロールとも胴長方向に5点測定し、その平均値を測定値とした。次に、各ロールのシェル部に、表1に示す溶射材料をそれぞれ溶射し、溶射層硬さ(溶射膜硬さ)(Hv)を得た。ショットブラスト+表面調整により、各ロール表面のRpkが表1のRpk0に示す値(4本平均)となるように調整した。なお、Rpkの単位はμmである。Rpk値は、実施例1と同様の方法で求めた。次に、実施例1と同様の設備において、6ヵ月、12ヵ月、18ヵ月、24ヵ月、30ヵ月、36ヵ月の使用中に、ブライドルロールにおいて鋼板のスリップが起きたか否かと、鋼板表面に光沢ムラが起きたか否かについてそれぞれ調査した。なお、鋼板板厚、板幅、ユニット張力、ライン速度、および板厚の降伏強度は、実施例2と同様である。溶射層の厚み(4本平均)は0.05mmであった。
下記基準に照らして、スリップおよび光沢ムラの発生状況をそれぞれ評価した。なお、表1の評価結果欄中の記号「−」は、スリップが発生したため、試験を中止したことを意味する。
<スリップ発生状況の評価基準>
製造された薄鋼板コイルを検査ラインにて通板し、薄鋼板の表面および裏面の全長を検査することにより調べた。スリップの発生の有無は、実施例2と同様に、薄鋼板コイルの長手方向で局所的に表裏面にスリ疵が発生しているか否かにより行う。スリップの発生状況の評価結果は、スリップが発生しなかった最大の期間(月)を示した。
<光沢ムラ発生状況の評価基準>
製造された薄鋼板コイルを検査ラインにて通板し、薄鋼板の表面および裏面の全長を検査することにより調べた。6ヵ月を超えてロールを使用したときの光沢ムラの発生の有無は、スリップによる長手方向の局所的なスリ疵が観察されるか否かにより行う。スリ疵が、使用期間中に1回以上観察された場合に、光沢ムラ「発生」と評価する。光沢ムラの発生状況の評価結果は、次の基準に従い記号(○、×)を付した。
○ : 光沢ムラ発生なし
× : 光沢ムラ発生あり
得られた結果を表1に示す。なお、表1において、評価結果の評価期間欄の上段には実験後のRpk値(単位:μm)(4本平均)を示し、下段のカッコ内には光沢ムラ発生状況の評価結果を示す。評価結果のスリップ発生状況の欄にはスリップ発生状況の評価結果を示す。
【表1】
表1より、Rpk0が本発明範囲内となるロール(ロールNo.1〜7)では、6ヵ月を超えて12ヵ月使用してもスリップおよび光沢ムラが発生していないことがわかる。特に、シェル部材質がS45CのうちロールNo.3〜6では、溶射層硬さ(Hv)が高くなるとともに、スリップおよび光沢ムラが発生しない期間が長くなっていることが判る。
一方、比較例として、シェル部の材質がS45C、シェル部の表面硬度(Hs)が68、溶射材料がWC−20%CrC/5%Ni+22%Niのディンプルロールを準備し、同様の条件で調査した。なお、このディンプルロールは、Rpk0が1.3(μm)(4本平均)であり、溶射層硬さ(Hv)(4本平均)が1100であった。この場合には、評価開始時よりスリップが発生したため、試験を中止した。
【0038】
(実施例4)
連続焼鈍設備の調質ミル入側におけるブライドルロールに、ディンプルロール(ロールの表面硬さHs81(4本平均))を適用した。各ロールの表面硬さHsは、ロール胴長方向に5点測定し、その平均値を各ロールの測定値とした。ロール胴部(シェル部)は表2のサンプル4、溶射層は表3のサンプル1とした。なお、表2に示すロールの表面硬さHsには、ロール胴長方向に5点測定した平均値を示している。連続焼鈍設備における鋼板の適用板厚は0.15mm〜0.6mmであった。また、板厚の降伏強度は20〜37kgf/mm
2であった。ディンプルロールのロール径は350mmであり、ユニット張力は3.0〜4.0kgf/mm
2であった。ライン速度は40〜1150mpmであった。6ヵ月の間で、40mpmから1150mpmまで5分で加速する加速部と、1150mpmから40mpmまで5分で減速する減速部を、各15000回発生させた。使用当初のディンプルロールのRpk(4本平均)を8μmとし、使用後6ヶ月経過時点でのディンプルロールのRpk(4本平均)を調べたところ7.4μmであった。溶射層の硬さHv(4本平均)は1200、溶射層の厚み(4本平均)は0.05mmであった。
【0039】
一方で、同じブライドルロールとして、クロムめっき皮膜にディンプル形状を付したロールを使用して上記と同様の実験を行った。なお、クロムめっき皮膜の硬さ(Hv)は1000であった。クロムめっき皮膜の厚さ(4本平均)は0.05mmであった。なお、Rpkの経時変化の結果は、板厚0.15mm〜0.6mmの範囲より選ばれた任意の本数をそれぞれ通板した後、ブライドルロールとして使用した4つのディンプルロール(比較例においては、4つの通常のロール)全てのRpk平均とした。Rpk値は、実施例1と同様の方法で求めた。
当初のRpk(4本平均)は8μmであったが、使用後6ヶ月時点でのRpk(4本平均)は1.6μmまで目減りしていた。このように、本発明によってロールのRpk低下を抑えることができることから、ロールの取替周期を伸ばし、製造コストを低減できることが示された。また、ディンプルロールのロール径が350mmの場合でも本発明の効果を得られることがわかった。
【表2】
【表3】
【0040】
(実施例5)
連続焼鈍設備の調質ミル入側におけるブライドルロールに、ディンプルロール(ロールの表面硬さHs84(4本平均))を適用した。各ロールの表面硬さHsは、ロール胴長方向に5点測定し、その平均値を各ロールの測定値とした。ロール胴部は表2のサンプル1、溶射層は表3のサンプル4とした。なお、表2に示すロールの表面硬さHsには、ロール胴長方向に5点測定した平均値を示している。連続焼鈍設備における鋼板の適用板厚は0.35mm〜2.7mmであった。また、板厚の降伏強度は32〜65kgf/mm
2であった。ディンプルロールのロール径は1200mmであり、ユニット張力は4.5〜5.0kgf/mm
2であった。ライン速度は50〜515mpmであった。6ヵ月の間で、50mpmから515mpmまで3分で加速する加速部と、515mpmから50mpmまで3分で減速する減速部を、各15000回発生させた。使用当初のディンプルロールのRpk(4本平均)を8μmとし、使用後6ヶ月経過時点でのディンプルロールのRpk(4本平均)を調べたところ7.3μmであった。溶射層の硬さHv(4本平均)は1200、溶射層の厚み(4本平均)は0.05mmであった。
【0041】
一方で、同じブライドルロールとして、クロムめっき皮膜にディンプル形状を付したロールを使用して上記と同様の実験を行った。なお、クロムめっき皮膜の硬さ(Hv)は1000であった。クロムめっき皮膜の厚さ(4本平均)は0.05mmであった。なお、Rpkの経時変化の結果は、板厚0.35mm〜2.7mmの範囲より選ばれた任意の本数をそれぞれ通板した後、ブライドルロールとして使用した4つのディンプルロール(比較例においては、4つの通常のロール)全てのRpk平均とした。Rpk値は、実施例1と同様の方法で求めた。
当初のRpk(4本平均)は8μmであったが、使用後6ヶ月時点でのRpk(4本平均)は1.4μmまで目減りしていた。このように、本発明によってロールのRpk低下を抑えることができることから、ロールの取替周期を伸ばし、製造コストを低減できることが示された。また、ディンプルロールのロール径が1200mmの場合でも本発明の効果を得られることがわかった。
【0042】
(実施例6)
連続焼鈍設備の調質ミル入側におけるブライドルロールに、ディンプルロール(ロールの表面硬さHs73(4本平均))を適用した。各ロールの表面硬さHsは、ロール胴長方向に5点測定し、その平均値を各ロールの測定値とした。ロール胴部は表2のサンプル3、溶射層は表3のサンプル2とした。なお、表2に示すロールの表面硬さHsには、ロール胴長方向に5点測定した平均値を示している。連続焼鈍設備における鋼板の適用板厚は0.35mm〜1.6mmであった。また、板厚の降伏強度は35〜180kgf/mm
2であった。ディンプルロールのロール径は1000mmであり、ユニット張力は3.0〜4.0kgf/mm
2であった。ライン速度は50〜560mpmであった。6ヵ月の間で、50mpmから560mpmまで4分で加速する加速部と、560mpmから50mpmまで4分で減速する減速部を、各14400回発生させた。使用当初のディンプルロールのRpk(4本平均)を8μmとし、使用後6ヶ月経過時点でのディンプルロールのRpk(4本平均)を調べたところ7.4μmであった。溶射層の硬さHv(4本平均)は1200、溶射層の厚み(4本平均)は0.05mmであった。
【0043】
一方で、同じブライドルロールとして、クロムめっき皮膜にディンプル形状を付したロールを使用して上記と同様の実験を行った。なお、クロムめっき皮膜の硬さ(Hv)は1000であった。クロムめっき皮膜の厚さ(4本平均)は0.05mmであった。なお、Rpkの経時変化の結果は、板厚0.35mm〜1.6mmの範囲より選ばれた任意の本数をそれぞれ通板した後、ブライドルロールとして使用した4つのディンプルロール(比較例においては、4つの通常のロール)全てのRpk平均とした。Rpk値は、実施例1と同様の方法で求めた。
当初のRpk(4本平均)は8μmであったが、使用後6ヶ月時点でのRpk(4本平均)は1.5μmまで目減りしていた。このように、本発明によってロールのRpk低下を抑えることができることから、ロールの取替周期を伸ばし、製造コストを低減できることが示された。また、ディンプルロールのロール径が1000mmの場合でも本発明の効果を得られることがわかった。