(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6429014
(24)【登録日】2018年11月9日
(45)【発行日】2018年11月28日
(54)【発明の名称】ブロー成形方法
(51)【国際特許分類】
B29C 49/78 20060101AFI20181119BHJP
B29C 49/04 20060101ALI20181119BHJP
【FI】
B29C49/78
B29C49/04
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2014-262585(P2014-262585)
(22)【出願日】2014年12月25日
(65)【公開番号】特開2016-120678(P2016-120678A)
(43)【公開日】2016年7月7日
【審査請求日】2017年10月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000104674
【氏名又は名称】キョーラク株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126398
【弁理士】
【氏名又は名称】浅野 典子
(72)【発明者】
【氏名】小野寺 正明
【審査官】
▲高▼橋 理絵
(56)【参考文献】
【文献】
特開2008−254267(JP,A)
【文献】
特開2007−062364(JP,A)
【文献】
特開昭63−082707(JP,A)
【文献】
特開2013−166896(JP,A)
【文献】
特開昭47−027267(JP,A)
【文献】
特開平07−299862(JP,A)
【文献】
特開2005−289014(JP,A)
【文献】
特開平08−099349(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 49/00−49/80
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ダイヘッドにおけるダイスリットの間隔を成形される中空成形品の目標肉厚に応じて設定し、アキュムレータ内の溶融樹脂を前記ダイスリットから筒状に押し出してパリソンを形成し、当該パリソンを金型内で成形するブロー成形方法であって、
押し出し開始時にダイスリットの間隔を前記目標肉厚に応じて設定される値よりも大きくし、このようなダイスリット間隔でパリソンPの押し出しをスタートした後、ダイスリット間隔を次第に縮小し、ダイスリットの間隔を押し出し開始時のダイスリットの間隔よりも狭い目標肉厚に応じて設定される値と一致するような間隔にすることを特徴とするブロー成形方法。
【請求項2】
ドローダウンに起因する肉厚減少を考慮して、前記目標肉厚に応じて設定される値を補正することを特徴とする請求項1記載のブロー成形方法。
【請求項3】
発泡ブロー成形であり、成形される中空成形品の肉厚が3mm以下であることを特徴とする請求項1または2記載のブロー成形方法。
【請求項4】
樹脂がポリプロピレンを主体とするものであることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項記載のブロー成形方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブロー成形方法に関するものであり、特に、比較的厚さの薄い中空成形品を発泡ブロー成形する際のしわ対策に関するものである。
【背景技術】
【0002】
発泡ブロー成形品として、例えば自動車のインストルメントパネル内に取り付けられる各種空調ダクトが知られている。これら空調ダクトには、発泡した樹脂材料を成形した発泡ダクトが広く用いられている。発泡ダクトは、軽量であり、例えばポリオレフィン系樹脂等の樹脂材料に発泡剤を加えて溶融混練し、押出機のダイヘッド(ダイスリット)から押し出される発泡パリソンをブロー成形することにより容易に製造することができる。
【0003】
発泡ブロー成形品に用いられる樹脂材料としては、ポリオレフィン系樹脂が広く用いられており、中でもポリプロピレン系樹脂が一般的である。近年では、より安価な材料構成とすること等を目的として、ポリエチレン系樹脂への置き換えも検討されている。
【0004】
ブロー成形においては、前述の通り、溶融樹脂をダイスリットから円筒状のパリソンとして押し出し、これを金型内でブロー成形する。この時、ダイスリットの間隔(スリット幅)を調整することでパリソンの厚さを調整し、成形される中空成形品の肉厚が設計値になるようにしている。
【0005】
しかしながら、中空成形品サイズが大きかったり、肉厚が厚い場合、1ショット当たりの重量が大きくなり、ドローダウンの懸念が生ずる。ドローダウンは、自重によりパリソンが伸ばされてしまい、上部の肉厚が減少する現象である。ドローダウンにより、製品(中空成形品)においても肉厚差が生じてしまうことになる。
【0006】
ドローダウンを回避するには、例えば使用する樹脂の配合を変えることも考えられるが、この方法では使用する樹脂に制約が生ずることになり、好ましくない。そこで、ダイスリットから押し出されるパリソンの厚さを補正する方法も提案されている(例えば、特許文献1等を参照)。
【0007】
具体的に、特許文献1には、パリソンの目標肉厚tと目標長さLより算出される必要樹脂重量Wに基づいてアキュムレータの計量ストロークSを設定するとともに、目標肉厚tをスウェル比Rで除して得られたダイギャップ設定値Dtをストローク長さxに応じて生じるドローダウン現象に起因する肉厚減少量を補正してダイギャップ最終設定値Dfを設定して所望のパリソンを形成するブロー成形方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平7−290563号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、比較的厚さの薄い中空成形品を発泡ブロー成形する際においては、パリソンの押し出し開始部(下方部分)がカーテン状に波打ったりしわになることがあり、成形される中空成形品の品質を低下する要因となっている。前述の特許文献1記載の方法を採用すれば、ドローダウンの影響を最小限に抑えることができるが、この問題は解消することができない。
【0010】
本発明は、このような従来の実情に鑑みて提案されたものであり、厚さの薄い中空成形品をブロー成形する場合にも、パリソンのしわの発生を抑えることができ、高品質の中空成形品を作製し得るブロー成形方法を提供すること目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前述の目的を達成するために、本発明のブロー成形方法は、
ダイヘッドにおけるダイスリットの間隔を成形される中空成形品の目標肉厚に応じて設定し、アキュムレータ内の溶融樹脂を前記ダイスリットから筒状に押し出してパリソンを形成し、当該パリソンを金型内で成形するブロー成形方法であって、押し出し開始時にダイスリットの間隔を前記目標肉厚に応じて設定される値よりも大きくし、
このようなダイスリット間隔でパリソンPの押し出しをスタートした後、ダイスリット間隔を次第に縮小し、ダイスリットの間隔を押し出し開始時のダイスリットの間隔よりも狭い目標肉厚に応じて設定される値と一致するような間隔にすることを特徴とする。
【0012】
厚さの薄い中空成形品をブロー成形する場合、ダイスリットの間隔(スリット幅)を狭め、パリソンの厚さを薄くする必要がある。ただし、最初から必要なパリソンの厚さに応じてダイスリット幅を狭くすると、パリソンがカーテン状に波打ったりしわが発生するという問題が生ずる。押し出し開始時にダイスリットの間隔を前記目標肉厚に応じて設定される値よりも大きくし、最下部のパリソンの厚さを大きくすることで、パリソンの波打ちやしわの発生が抑制される。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、パリソンにしわが生ずることがなく、品質の高い中空成形品を製造し得るブロー成形方法を提供することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図2】ダクトをブロー成形する際の態様を模式的に示す概略断面図である。
【
図3】パリソン押し出し時のダイスリット間隔の経時変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を適用したブロー成形方法の実施形態について、発泡ダクトのブロー成形を例にして、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0016】
発泡ブロー成形品である発泡ダクト10は、エアコンユニット(図示は省略する。)より供給される空調エアを内部の流路により流通させ、所望の部位に通風されるように構成される。なお、発泡ダクト10の形状としては、
図1に示すものに限定されず、用途や設置場所等に応じて任意の形状とすることができる。
【0017】
本実施形態の発泡ダクト10は、押出機のダイから発泡樹脂を押し出すことによって形成した発泡パリソンを金型で挟んでブロー成形することにより得られる。なお、ブロー成形直後のダクトは、両端が閉じた状態となっており、ブロー成形後のトリミングによって両端が切断されて開口形状にされる。
【0018】
本実施形態の発泡ダクト10は、管壁が発泡層によって構成される中空の発泡樹脂成形品からなる。発泡層が独立気泡構造を有する構成とすることにより、軽量で断熱性に優れたダクトとすることができる。独立気泡構造とは、複数の独立した気泡セルを有する構造であり、少なくとも独立気泡率が70%以上のものを意味する。こうした構成により、発泡ダクト10内に冷房の空気を流通させた場合であっても、結露が発生する可能性をほとんどなくすことができる。
【0019】
本実施形態の発泡ダクト10は、基本的には発泡樹脂材料としてポリプロピレン系樹脂を用いたものである。ポリプロピレン系樹脂は、物性等の点において最適化が容易で、発泡成形性が良好であるという特徴を有する。
【0020】
使用するポリプロピレン系樹脂としては、プロピレン単独重合体、あるいはプロピレンと他のα−オレフィンとのランダムもしくはブロック共重合体等を挙げることができる。プロピレンと共重合される他のα−オレフィンとしては、エチレン、ブテン、ペンテン、ヘキセン、オクテン、メチルペンテン等である。プロピレンと共重合されるα−オレフィンの量は任意であるが、ポリプロピレンの優れた物性を維持するためには、例えば0.1〜20質量%程度とすることが好ましい。
【0021】
また、ポリプロピレン系樹脂は、長鎖分岐構造を有することが好ましい。ポリプロピレン系樹脂は溶融時の溶融張力が小さく、発泡成形において成形加工性が劣るという欠点を有しているが、長鎖分岐構造を導入することで、溶融特性を改良することができ、前記欠点を解消することができる。
【0022】
さらに、発泡ダクト10においては、ポリプロピレン系樹脂に加えて、ポリエチレン系エラストマーを併用することで、耐衝撃性を改善し、発泡成形性と耐衝撃性を両立させるようにしてもよい。
【0023】
ポリエチレン系エラストマーは、ポリエチレン系樹脂のマトリックス中にオレフィン系ゴムを微分散させたものであり、ポリプロピレン系樹脂との相溶性に優れ、樹脂材料にゴム弾性を付与して耐衝撃性を改善することができるという特徴を有する。
【0024】
ポリエチレン系エラストマーの樹脂材料に占める割合は、耐衝撃性を改善するという目的からは、5質量%以上とすることが好ましい。ポリエチレン系エラストマーの割合が5質量%未満であると、発泡ダクト10の耐衝撃性が不十分になるおそれがある。ポリエチレン系エラストマーの割合が多ければ多いほど耐衝撃性改善には有利であるが、ポリエチレン系エラストマーの割合が多くなりすぎると、相対的にポリプロピレン系樹脂の割合が低下して、発泡成形性等、ポリプロピレン系樹脂が有する優れた物性を維持することが難しくなる。そのような観点から、ポリエチレン系エラストマーの割合は、35質量%以下とすることが好ましい。すなわち、ポリエチレン系エラストマーの割合は、5〜35質量%とすることが好ましい。
【0025】
発泡ダクト10を製造するには、前述のポリプロピレン系樹脂等に必要に応じて酸化防止等の添加剤を添加し、ブロー成形に供するが、ブロー成形に際しては、発泡剤を用いて発泡する。発泡剤としては、空気、炭酸ガス、窒素ガス、水等の無機系発泡剤や、ブタン、ペンタン、ヘキサン、ジクロロメタン、ジクロロエタン等の有機系発泡剤等を使用することができる。これらの中で、発泡剤としては、空気、炭酸ガス、または窒素ガスを用いることが好ましい。これらを用いることで有機物の混入を防ぐことができ、耐久性等の低下を抑制することができる。
【0026】
また、発泡方法としては、超臨界流体を用いることが好ましい。すなわち、炭酸ガスまたは窒素ガスを超臨界状態とし、樹脂材料を発泡させることが好ましい。超臨界流体を用いることで、均一且つ確実に発泡することができる。こうして発泡処理された樹脂材料を公知の方法でブロー成形することにより、発泡ダクト10を成形する。
図2は、発泡ダクト10をブロー成形する際の態様を示す図である。
【0027】
ブロー成形に際しては、先ず、押出機内で成形に用いる樹脂材料を混練して基材樹脂を作製する。バージン樹脂のみを用いて成形する場合であれば、前述の樹脂材料のバージン樹脂に、必要に応じて改質材を加えて混練し、基材樹脂を作製する。回収樹脂材料を用いる場合には、粉砕された回収樹脂材料にバージン樹脂を所定割合加え、混練して基材樹脂を作製する。
【0028】
こうした基材樹脂に発泡剤を添加し押出機内で混合した後、ダイ内アキュムレータ(図示せず)に貯留し、続いて、所定の樹脂量が貯留された後にリング状ピストン(図示せず)を水平方向に対して直交する方向(垂直方向)に押し下げる。そして、
図2に示す環状ダイ21のダイスリットより、例えば押出速度700kg/時以上で、円筒状のパリソンPとして、型締装置30を構成する分割金型31,32の間に押し出す。その後、分割金型31,32を型締してパリソンPを挟み込み、さらにパリソンP内に0.05〜0.15MPaの圧力範囲でエアを吹き込み、発泡ダクト10を形成する。
【0029】
成形後に、冷えて固化した樹脂材料における完成品以外の部分を粉砕して回収樹脂材料とし、この回収樹脂材料にバージン樹脂を所定割合加えた混合樹脂を用いて、再度同様のブロー成形を行う。こうした製造サイクルを繰り返すことにより、発泡ダクト10を大量生産することができる。
【0030】
前述のブロー成形において、例えば発泡倍率2.8倍、厚さ3mm以下の中空成形品(発泡ダクト10)を成形する場合、ドローダウンやパリソンの波打ち、しわの発生が問題になる。そこで、本実施形態のブロー成形方法では、ダイスリットの間隔を適正に制御することで、これら現象を回避することとする。
【0031】
図3は、パリソンP押し出し時のダイスリット間隔の経時変化を示す図である。本実施形態のブロー成形方法では、ドローダウンを考慮して、パリソンPの厚さが次第に増加するようにダイスリットの間隔Tを次第に大きくする。すなわち、
図3において、線L1に示すように、ダイスリットの間隔Tを次第に大きくする。これにより、上部のパリソンPがその重量により下方に引っ張られて薄肉化する現象が相殺される。
【0032】
したがって、パリソンPの押し出し開始時には、この線L1を押し出し開始時点まで延長した点Aで表される間隔にダイスリット間隔を設定することになるが、このような設定では、厚さの薄い中空成形品(発泡ダクト10)を成形する場合、パリソンに波打ちやしわが発生してしまう。そこで、本実施形態では、前記点Aよりも広い点Bで示すダイスリット間隔でパリソンの押し出しを開始する。
【0033】
このようなダイスリット間隔でパリソンPの押し出しをスタートした後、ダイスリット間隔を線L2に沿って縮小し、先の線L1に一致した以降は、線L1に沿ってダイスリットを次第に拡大する。このような軌跡でダイスリット間隔Tを制御すると、パリソン最下部の波打ちやしわの発生が抑えられる。
【0034】
なお、パリソンPの押し出し終了直前には、
図3に線L3で示すように、ドローダウンを考慮した線L1よりもダイスリット間隔を拡大し、パリソンPの上部における破裂を防止することが好ましい。パリソンPの最上部は、様々な要因により破裂のおそれがあるが、ダイスリット間隔を拡大し、厚さを拡大することで、破裂を防止することができる。
【0035】
以上、本発明を適用した実施形態についてを説明してきたが、本発明が前述の実施形態に限られるものでないことは言うまでもなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々の変更を加えることが可能である。
【実施例】
【0036】
以下、本発明の具体的な実施例について、実験結果を基に説明する。
【0037】
発泡ダクトの作製
原料としてポリプロピレン系樹脂、及びポリエチレン系エラストマーを用い、下記配合で発泡ダクトをブロー成形した。使用した原料は下記の通りである。
・ポリプロピレン系樹脂A:ボレアレス社製、商品名WB140(長鎖分岐構造を有するポリプロピレン)
・ポリプロピレン系樹脂B:日本ポリプロ社製、商品名ノバテックPP・BC4BSW
・ポリエチレン系エラストマー:三井化学社製、商品名DF605
・配合:ポリプロピレン系樹脂A:ポリプロピレン系樹脂B:ポリエチレン系エラストマー=70:23:7(質量比)
【0038】
ガスの種類を窒素ガス(サンプル1〜5)、及び炭酸ガス(サンプル6〜8)とし、種々の条件でブロー成形を行い、発泡ダクトを作製した。なお、サンプル5及びサンプル8は、本発明を適用し、
図3の点Bで示すダイスリット間隔でパリソンの押し出しを開始した例である。他は従来法に該当するものであり、
図3の点Aで示すダイスリット間隔でパリソンの押し出しを開始した例である。
【0039】
評価
発泡ダクトの作製において、パリソンに波打ちやしわが発生したか否かを評価した。目視にてパリソンの状態を確認し、パリソンに波打ちやしわが認められた場合は×、ほとんど認められなかった場合を○、全く認められなかった場合を◎とした。
【0040】
結果を表1に示す。表1から明らかなように、本発明を適用したサンプル5及びサンプル8において、パリソンに波打ちやしわの発生がなく、良好な発泡ダクトが成形されている。これに対して、従来法で作製した発泡ダクト(サンプル1〜4,6,7)は、パリソンにしわが発生し、製品の品質に劣るものであった。
【0041】
【表1】
【符号の説明】
【0042】
10 発泡ダクト
21 環状ダイ
30 型締装置
31,32 分割金型
P パリソン