(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記軟磁性金属粒子は、前記第1のシェル部の周囲を取り囲む第2のシェル部を有し、前記第2のシェル部はCuまたはCu酸化物を含む層であることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の軟磁性金属粉末。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を、図面に示す具体的な実施形態に基づき、以下の順序で詳細に説明する。
1.軟磁性金属粉末
1.1.軟磁性金属粒子
1.1.1.コア部
1.1.2.第1のシェル部
1.1.3.第2のシェル部
1.2.被覆部
2.圧粉磁心
3.磁性部品
4.圧粉磁心の製造方法
4.1.軟磁性金属粉末の製造方法
4.2.圧粉磁心の製造方法
【0021】
(1.軟磁性金属粉末)
本実施形態に係る軟磁性金属粉末は、
図1に示すように、複数の軟磁性金属粒子2を含む。なお、軟磁性金属粒子2の形状は特に制限されないが、通常、球形である。
【0022】
また、本実施形態に係る軟磁性金属粉末の平均粒子径(D50)は、用途および材質に応じて選択すればよい。本実施形態では、平均粒子径(D50)は、0.3〜100μmの範囲内であることが好ましい。軟磁性金属粉末の平均粒子径を上記の範囲内とすることにより、十分な成形性あるいは所定の磁気特性を維持することが容易となる。平均粒子径の測定方法としては、特に制限されないが、レーザー回折散乱法を用いることが好ましい。
【0023】
(1.1.軟磁性金属粒子)
本実施形態では、軟磁性金属粒子は、Cuを含むFe系ナノ結晶合金から構成される。Fe系ナノ結晶合金は、Fe系アモルファス合金、または、初期微結晶が非晶質中に存在するナノヘテロ構造を有するFe系合金を熱処理することにより、非晶質中にナノメートルオーダーの微結晶が析出した合金である。本実施形態では、非晶質中に、Feからなる結晶子(Fe結晶子)およびCuからなる結晶子(Cu結晶子)が分散している。なお、Cuは、Fe系ナノ結晶合金において、0.1原子%以上含まれていることが好ましい。
【0024】
Cuを含むFe系ナノ結晶合金としては、たとえば、Fe−Si−Nb−B−Cu系、Fe−Nb−B−P−Cu系、Fe−Nb−B−P−Si−Cu系、Fe−Nb−B−P−Si−Cu−C系等が例示される。
【0025】
本実施形態では、軟磁性金属粉末は、材質が同じ軟磁性金属粒子のみを含んでいてもよいし、材質が異なる軟磁性金属粒子が混在していてもよい。たとえば、軟磁性金属粉末は、複数のFe−Si−Nb−B−Cu系ナノ結晶合金粒子と、複数のFe−Nb−B−P−Cu系ナノ結晶合金粒子との混合物であってもよい。
【0026】
なお、異なる材質とは、金属または合金を構成する元素が異なる場合、構成する元素が同じであってもその組成が異なる場合等が例示される。
【0027】
また、Fe結晶子の平均結晶子径は、1.0nm以上50nm以下であることが好ましく、5.0nm以上30nm以下であることがより好ましい。Fe結晶子の平均結晶子径が上記の範囲内であることにより、軟磁性金属粒子に、後述する被覆部を形成する際に、当該粒子に応力が掛かっても、保磁力の増加を抑制することができる。Fe結晶子の平均結晶子径は、たとえば、軟磁性金属粉末をX線回折測定して得られる回折パターンの所定のピークより求められた半値幅より算出できる。
【0028】
また、本実施形態では、
図1および2に示すように軟磁性金属粒子は少なくともコア部2aと、コア部2aの周囲を取り囲む第1のシェル部2bと、を有している。コア部2aおよび第1のシェル部2bはどちらも、非晶質中にFe結晶子およびCu結晶子が分散している構造を有しているが、コア部と第1のシェル部とでは、少なくともCu結晶子の存在形態が異なる。以下では、コア部と第1のシェル部とについて詳細に説明する。
【0029】
(1.1.1.コア部)
コア部2aは、軟磁性金属粒子2の中心を含む領域であり、
図2に示すように、Fe結晶子(図示省略)およびCu結晶子3aが非晶質5中に均一に分散している領域である。本実施形態では、コア部2aにおけるCu結晶子3aの存在状態を、面積率を用いて表す。コア部におけるCu結晶子の面積率は、コア部の面積を100%とした場合に、コア部中でCu結晶子が占める面積割合として算出される。換言すれば、コア部におけるCu結晶子の面積率は、コア部におけるCu結晶子の濃度を表している。
【0030】
本実施形態では、コア部2aにおけるCu結晶子3aの面積率をA[%]とする。Aは、特に制限されず、ナノ結晶合金の組成により変化する値である。したがって、Aの値自体は重要ではなく、後述するBとの関係が所定の範囲内であるか否かが重要である。
【0031】
また、コア部2aに存在するCu結晶子3aの平均結晶子径は、1nm以上30nm以下であることが好ましく、3nm以上10nm以下であることがより好ましい。
【0032】
(1.1.2.第1のシェル部)
第1のシェル部2bは、コア部2aの周囲を取り囲む領域である。第1のシェル部2bにおいてもコア部2aと同様に、
図2に示すように、Cu結晶子3bが非晶質5中に分散して存在している。
【0033】
本実施形態では、第1のシェル部2bにおいても、Cu結晶子3bの存在状態を、面積率を用いて表す。すなわち、第1のシェル部におけるCu結晶子の面積率は、第1のシェル部の面積を100%とした場合に、第1のシェル部中でCu結晶子が占める面積割合として算出される。換言すれば、第1のシェル部におけるCu結晶子の面積率は、第1のシェル部におけるCu結晶子の濃度を表している。
【0034】
本実施形態では、第1のシェル部2bにおけるCu結晶子3bの面積率をB[%]とする。Bは、特に制限されず、ナノ結晶合金の組成により変化する値である。したがって、Bの値自体は重要ではなく、上述したAとの関係が所定の範囲内であるか否かが重要である。
【0035】
また、第1のシェル部2bに存在するCu結晶子3bの平均結晶子径は、1nm以上50nm以下であることが好ましく、3nm以上30nm以下であることがより好ましい。
【0036】
本実施形態では、コア部2aにおけるCu結晶子3aの面積率(A)と、第1のシェル部2bにおけるCu結晶子3bの面積率(B)と、が異なっている。換言すれば、軟磁性金属粒子2において、Cu結晶子の濃度に偏りが生じている。
【0037】
具体的には、A−Bが2.0以上20.0以下である。すなわち、軟磁性金属粒子2の中心側(コア部2a)に存在するCu結晶子3aの濃度が、軟磁性金属粒子2の表面側(第1のシェル部2b)に存在するCu結晶子3bの濃度よりも、大きくなっている。このようにすることにより、当該軟磁性金属粒子を含む圧粉磁心の耐電圧性が向上する。
【0038】
A−Bは、2.5以上であることが好ましく、10.0以上であることがより好ましい。また、A−Bは、18.0以下であることが好ましく、15.0以下であることがより好ましい。A−Bが小さすぎる場合には、コア部2aに存在するCu結晶子3aの濃度と、第1のシェル部2bに存在するCu結晶子3bの濃度とが同程度となり軟磁性金属粒子2の絶縁性を改善することができず、その結果、圧粉磁心の耐電圧性の改善効果が得られない。
【0039】
また、本実施形態では、A/Bが100以下であることが好ましい。すなわち、A−Bが上記の関係を満足しつつ、さらに、A/Bが上記の関係を満足することが好ましい。A/Bを上記の範囲内とすることにより、当該軟磁性金属粒子を含む圧粉磁心の耐電圧性が向上する。
【0040】
A/Bは、2.0以上であることが好ましく、5.0以上であることがより好ましく、8.0以上であることがさらに好ましい。また、A/Bは、80以下であることがより好ましい。A/Bが小さすぎる場合には、コア部2aに存在するCu結晶子3aの濃度と、第1のシェル部2bに存在するCu結晶子3bの濃度とが同程度となり軟磁性金属粒子2の絶縁性を改善することができず、その結果、圧粉磁性の耐電圧性の改善効果が得られない。
【0041】
一方、A/Bが大きすぎる場合には、大きく肥大したCuの結晶が粒子表面に析出する。この結果、絶縁性のコーティング材を均一のコーティングすることができず、耐電圧特性を低下させる傾向にある。
【0042】
なお、従来は、非晶質中に析出する結晶子を、粒子全体に渡って均一に分散させることにより、特性が向上すると考えられてきた。しかしながら、本実施形態では、Cu結晶子の存在状態を、軟磁性金属粒子の中心側と表面側とで異ならせることにより、軟磁性金属粒子の耐電圧性を向上させることができる。
【0043】
本実施形態では、Cu結晶子の面積率は、以下のようにして算出することができる。まず、粒子断面のCuの分布をSTEM−EDSまたはEELSによりマッピングを行って得る。続いて、得られたCuの分布について、画像認識ソフトによる明暗のヒストグラム解析を行う。明暗の閾値はSTEM−EDSのマッピングの条件によって異なるが、本実施形態ではCuの分布から256分割の明暗のヒストグラムを作製し、Cuのマッピングの明るさの最大値を150としたときの明るさ60以上の明るい領域をCuと判定する。そして、明るさ60以上の領域と、明るさ60未満の領域とに2値化した後、明るさ60以上の領域が占める面積を算出し、当該面積からCu結晶子の面積率を算出する。
【0044】
第1のシェル部2bの厚みは、本発明の効果が得られる限りにおいて特に限定されない。本実施形態では、5nm〜500nm程度であることが好ましい。
【0045】
コア部と第1のシェル部とは、走査型透過電子顕微鏡(Scanning Transmission Electron Microscope:STEM)等の透過型電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope:TEM)を用いたエネルギー分散型X線分光法(Energy Dispersive X-ray Spectroscopy:EDS)による元素分析、電子エネルギー損失分光法(Electron Energy Loss Spectroscopy:EELS)による元素分析によりCuの分布を観察することで区別が可能である。
【0046】
つまり、例えば軟磁性金属粒子2の中心部と軟磁性金属粒子2の表面側とをSTEM−EDSによりCu結晶子の面積率を算出し、中心部と表面側とで、Cu結晶子の面積率の値が変化していればコア部とシェル部に分かれていることを意味する。
【0047】
さらに、コア部および第1のシェル部の組成、及び、Cuの結晶子を同定する方法として、3次元アトムプローブ(以下、3DAPと表記する場合がある)を用いて組成分布を測定し、Cuの結晶子サイズを同定する方法が例示される。またCu結晶子の面積比率についても3DAPをもちいることでも測定可能である。また、TEM画像の高速フーリエ変換(Fast Fourier Transform:FFT)解析等により得られる格子定数等の情報からCu結晶子の面積比率を算出することができる。
【0048】
(1.1.3.第2のシェル部)
本実施形態では、軟磁性金属粒子2が第2のシェル部2cを有していてもよい。第2のシェル部2cは、
図1および2に示すように、第1のシェル部2bの周囲を覆うように形成されている。
【0049】
本実施形態では、第2のシェル部はCu、または、Cuを含む酸化物を含む領域であり、結晶質の領域である。Cu、または、Cuを含む酸化物は、上述したコア部および第1のシェル部とは異なり、非晶質中に分散しておらず、第2のシェル部2cにおいて連続的に存在し、層状の領域を構成している。軟磁性金属粒子2に第2のシェル部2cが形成されていることにより、絶縁性が向上するので、耐電圧性をさらに向上させることができる。
【0050】
なお、第2のシェル部2cは、主に、磁気特性の向上に寄与しない成分から構成されている。したがって、軟磁性金属粒子が第2のシェル部を有さない場合には、耐電圧性は若干低下するものの、磁気特性の向上に寄与する成分が占める割合を高めることができるので、たとえば、飽和磁束密度を向上させることができる。
【0051】
第2のシェル部2cの厚みは、本発明の効果が得られる限りにおいて特に限定されない。本実施形態では、5nm〜100nmであることが好ましい。
【0052】
(1.2.被覆部)
本実施形態では、軟磁性金属粒子は被覆部を有する被覆粒子であってもよい。被覆粒子1においては、被覆部10が、
図3に示すように、軟磁性金属粒子2の表面を覆うように形成されている。したがって、軟磁性金属粒子2が第2のシェル部2cを有している場合には、被覆部10は第2のシェル部2cの表面を覆うように形成され、軟磁性金属粒子2が第2のシェル部2cを有していない場合には、第1のシェル部2bの表面を覆うように形成されている。
【0053】
また、本実施形態では、表面が物質により被覆されているとは、当該物質が表面に接触して接触した部分を覆うように固定されている形態をいう。また、軟磁性金属粒子を被覆する被覆部は、粒子の表面の少なくとも一部を覆っていればよいが、表面の全部を覆っていることが好ましい。さらに、被覆部は粒子の表面を連続的に覆っていてもよいし、断続的に覆っていてもよい。
【0054】
被覆部10は、軟磁性金属粉末を構成する軟磁性金属粒子同士を絶縁できるような構成であれば、特に制限されない。本実施形態では、被覆部10は、P、Si、BiおよびZnからなる群から選ばれる1つ以上の元素の化合物を含んでいることが好ましい。また、当該化合物は酸化物であることがより好ましく、酸化物ガラスであることが特に好ましい。
【0055】
また、P、Si、BiおよびZnからなる群から選ばれる1つ以上の元素の化合物は、被覆部10において、主成分として含まれていることが好ましい。「P、Si、BiおよびZnからなる群から選ばれる1つ以上の元素の酸化物を主成分として含む」とは、被覆部10に含まれる元素のうち、酸素を除いた元素の合計量を100質量%とした場合に、P、Si、BiおよびZnからなる群から選ばれる1つ以上の元素の合計量が最も多いことを意味する。また、本実施形態では、これらの元素の合計量は50質量%以上であることが好ましく、60質量%以上であることがより好ましい。
【0056】
酸化物ガラスとしては特に限定されず、たとえば、リン酸塩(P
2O
5)系ガラス、ビスマス酸塩(Bi
2O
3)系ガラス、ホウケイ酸塩(B
2O
3−SiO
2)系ガラス等が例示される。
【0057】
P
2O
5系ガラスとしては、P
2O
5が50wt%以上含まれるガラスが好ましく、P
2O
5−ZnO−R
2O−Al
2O
3系ガラス等が例示される。なお、「R」はアルカリ金属を示す。
【0058】
Bi
2O
3系ガラスとしては、Bi
2O
3が50wt%以上含まれるガラスが好ましく、Bi
2O
3−ZnO−B
2O
3−SiO
2系ガラス等が例示される。
【0059】
B
2O
3−SiO
2系ガラスとしては、B
2O
3が10wt%以上含まれ、SiO
2が10wt%以上含まれるガラスが好ましく、BaO−ZnO−B
2O
3−SiO
2−Al
2O
3系ガラス等が例示される。
【0060】
このような絶縁性の被覆部を有していることにより、粒子の絶縁性がより高くなるので、被覆粒子を含む軟磁性金属粉末から構成される圧粉磁心の耐電圧が向上する。
【0061】
本実施形態では、軟磁性金属粉末に含まれる粒子の個数割合を100%とした場合、被覆粒子の個数割合が90%以上であることが好ましく、95%以上であることが好ましい。
【0062】
被覆部に含まれる成分は、STEM等のTEMを用いたEDSによる元素分析、EELSによる元素分析、TEM画像のFFT解析等により得られる格子定数等の情報から同定することができる。
【0063】
被覆部10の厚みは、上記の効果が得られる限りにおいて特に制限されない。本実施形態では、5nm以上200nm以下であることが好ましい。また、150nm以下であることが好ましく、50nm以下であることがより好ましい。
【0064】
(2.圧粉磁心)
本実施形態に係る圧粉磁心は、上述した軟磁性金属粉末から構成され、所定の形状を有するように形成されていれば特に制限されない。本実施形態では、軟磁性金属粉末と結合剤としての樹脂とを含み、当該軟磁性金属粉末を構成する軟磁性金属粒子同士が樹脂を介して結合することにより所定の形状に固定されている。また、当該圧粉磁心は、上述した軟磁性金属粉末と他の磁性粉末との混合粉末から構成され、所定の形状に形成されていてもよい。
【0065】
(3.磁性部品)
本実施形態に係る磁性部品は、上記の圧粉磁心を備えるものであれば特に制限されない。たとえば、所定形状の圧粉磁心内部に、ワイヤが巻回された空芯コイルが埋設された磁性部品であってもよいし、所定形状の圧粉磁心の表面にワイヤが所定の巻き数だけ巻回されてなる磁性部品であってもよい。本実施形態に係る磁性部品は、耐電圧性が良好であるため、電源回路に用いられるパワーインダクタに好適である。
【0066】
(4.圧粉磁心の製造方法)
続いて、上記の磁性部品が備える圧粉磁心を製造する方法について説明する。まず、圧粉磁心を構成する軟磁性金属粉末を製造する方法について説明する。
【0067】
(4.1.軟磁性金属粉末の製造方法)
本実施形態に係る軟磁性金属粉末は、公知の軟磁性金属粉末の製造方法と同様の方法を用いて得ることができる。具体的には、ガスアトマイズ法、水アトマイズ法、回転ディスク法等を用いて製造することができる。また、単ロール法等により得られる薄帯を機械的に粉砕して製造してもよい。これらの中では、所望の磁気特性を有する軟磁性金属粉末が得られやすいという観点から、ガスアトマイズ法を用いることが好ましい。
【0068】
ガスアトマイズ法では、まず、軟磁性金属粉末を構成するナノ結晶合金の原料が溶解した溶湯を得る。ナノ結晶合金に含まれる各金属元素の原料(純金属等)を準備し、最終的に得られるナノ結晶合金の組成となるように秤量し、当該原料を溶解する。なお、金属元素の原料を溶解する方法は特に制限されないが、たとえば、アトマイズ装置のチャンバー内で真空引きした後に高周波加熱にて溶解させる方法が例示される。溶解時の温度は、各金属元素の融点を考慮して決定すればよいが、たとえば1200〜1500℃とすることができる。
【0069】
得られた溶湯をルツボ底部に設けられたノズルを通じて線状の連続的な流体としてチャンバー内に供給し、供給された溶湯に高圧のガスを吹き付けて、溶湯を液滴化するとともに、急冷して微細な粉末を得る。得られる粉末は、各金属元素が非晶質中に均一に分散しているアモルファス合金、または、ナノヘテロ構造を有する合金から構成されている。ガス噴射温度、チャンバー内の圧力等は、後述する熱処理において、非晶質中にナノ結晶(Fe結晶子およびCu結晶子)が析出しやすい条件に応じて決定すればよい。また、粒子径については篩分級や気流分級等をすることにより粒度調整が可能である。
【0070】
次に、得られる粉末を熱処理する。本実施形態では、ナノ結晶を析出させる熱処理を行った後、異なる熱処理条件を採用してコア部とシェル部とを形成する熱処理を行う。すなわち、2段階の熱処理を行うことが好ましい。
【0071】
1段階目の熱処理は、ナノ結晶を析出させるための熱処理である。当該熱処理では、熱処理条件として、雰囲気中の酸素濃度を100ppm以下とすることが好ましく、熱処理温度は400℃以上700℃以下とすることが好ましい。このような熱処理条件で熱処理を行うことにより、非晶質中にCu結晶子を均一に析出させることができる。
【0072】
1段階目の熱処理により非晶質中にCu結晶子を均一に析出させた後、2段階目の熱処理を行う。2段階目の熱処理では、1段階目の熱処理条件と比較して、雰囲気中の酸素濃度を高くし、かつ熱処理温度を同じまたは低くする。本実施形態では、雰囲気中の酸素濃度は、100ppm以上20000ppm以下とすることが好ましい。酸素濃度は、200ppm以上とすることがより好ましく、400ppm以上とすることがさらに好ましい。一方、酸素濃度は10000ppm以下とすることがより好ましく、5000ppm以下とすることがさらに好ましい。また、熱処理温度は、300℃以上とすることが好ましく、400℃以上とすることがより好ましい。また、2段階目の熱処理における熱処理温度は、1段階目の熱処理温度よりも100℃以上下げることが好ましい。
【0073】
このような熱処理条件で熱処理を行うことにより、軟磁性金属粒子の表面側と、軟磁性金属粒子の中心側とで、Cu結晶子の分散状態が変化し、上述したコア部とシェル部とを形成することが容易となる。なお、酸素濃度が大きすぎると、第2のシェル部の厚みが大きくなりすぎ、圧粉磁心の充填率が低下し、コアの有する飽和磁束密度が低下する傾向にある。
【0074】
また、保持時間は10分以上120分以下とすることが好ましく、昇温速度は40℃/分以下とすることが好ましい。これらの熱処理条件によってもCu結晶子の分散状態を制御することができる。
【0075】
熱処理後には、上述したコア部と第1のシェル部と第2のシェル部とが形成されたナノ結晶合金から構成される軟磁性金属粒子を含む粉末が得られる。なお、第2のシェル部は、上述したように、耐電圧性を向上させるものの、磁気特性の向上には不利な領域なので、所望の特性に応じて、得られる粉末において、第2シェル部を形成させなくてもよいし、得られる粉末から第2のシェル部を除去してもよい。第2のシェル部を形成させないまたは除去する方法としては、特に制限されないが、たとえば、熱処理の昇温速度を速くしかつ保持時間を短くする方法や、第2のシェル部を構成する成分を溶解する液体に粉末を接触させて除去するエッチング処理等が例示される。
【0076】
続いて、得られる軟磁性金属粒子に対して被覆部を形成する。被覆部を形成する方法としては、特に制限されず、公知の方法を採用することができる。軟磁性金属粒子に対して湿式処理を行って被覆部を形成してもよいし、乾式処理を行って被覆部を形成してもよい。
【0077】
本実施形態では、メカノケミカルを利用したコーティング方法、リン酸塩処理法、ゾルゲル法等により形成することができる。メカノケミカルを利用したコーティング方法では、たとえば、
図4に示す粉末被覆装置100を用いる。軟磁性金属粉末と、被覆部を構成する材質(P、Si、Bi、Znの化合物等)の粉末状コーティング材との混合粉末を、粉末被覆装置の容器101内に投入する。投入後、容器101を回転させることにより、軟磁性金属粉末と混合粉末との混合物50が、グラインダー102と容器101の内壁との間で圧縮され摩擦が生じて熱が発生する。この発生した摩擦熱により、粉末状コーティング材が軟化し、圧縮作用により軟磁性金属粒子の表面に固着して、被覆部を形成することができる。
【0078】
メカノケミカルを利用したコーティング方法では、容器の回転速度、グラインダーと容器の内壁との間の距離等を調整することにより、発生する摩擦熱を制御して、軟磁性金属粉末と混合粉末との混合物の温度を制御することができる。本実施形態では、当該温度は、50℃以上150℃以下であることが好ましい。このような温度範囲とすることにより、被覆部が軟磁性金属粒子の表面を覆うように形成しやすくなる。
【0079】
(4.2.圧粉磁心の製造方法)
圧粉磁心は、上記の軟磁性金属粉末を用いて製造する。具体的な製造方法としては、特に制限されず、公知の方法を採用することができる。まず、被覆部を形成した軟磁性金属粒子を含む軟磁性金属粉末と、結合剤としての公知の樹脂とを混合し、混合物を得る。また、必要に応じて、得られた混合物を造粒粉としてもよい。そして、混合物または造粒粉を金型内に充填して圧縮成形し、作製すべき圧粉磁心の形状を有する成形体を得る。得られた成形体に対して、たとえば50〜200℃で熱処理を行うことにより、樹脂が硬化し軟磁性金属粒子が樹脂を介して固定された所定形状の圧粉磁心が得られる。得られた圧粉磁心に、ワイヤを所定回数だけ巻回することにより、インダクタ等の磁性部品が得られる。
【0080】
また、上記の混合物または造粒粉と、ワイヤを所定回数だけ巻回して形成された空心コイルとを、金型内に充填して圧縮成形しコイルが内部に埋設された成形体を得てもよい。得られた成形体に対して、熱処理を行うことにより、コイルが埋設された所定形状の圧粉磁心が得られる。このような圧粉磁心は、その内部にコイルが埋設されているので、インダクタ等の磁性部品として機能する。
【0081】
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、本発明は上記の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の範囲内において種々の態様で改変しても良い。
【実施例】
【0082】
以下、実施例を用いて、発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0083】
(実験例1〜10)
まず、表1に示す組成を有する軟磁性合金から構成され、平均粒子径D50が表1に示す値である粉末を準備した。準備した粉末に対して、表1に示す条件で熱処理を行い、軟磁性金属粒子が、Cuを含むFe系ナノ結晶合金から構成された粉末を得た。なお、実験例1については、2段階目の熱処理を行わなかった。実験例4および8の試料に対して、軟磁性金属粒子の表面近傍においてSTEM−EELSのスペクトル分析を行い、Cuについてマッピングをおこなった。結果を
図5に示す。
【0084】
続いて、熱処理後の粉末を、表1に示す組成を有する粉末ガラス(コーティング材)とともに、粉体被覆装置の容器内に投入し、粉末ガラスを粒子の表面にコーティングして、被覆部を形成することにより、軟磁性金属粉末が得られた。粉末ガラスの添加量は、ナノ結晶が析出した粒子を含む粉末100wt%に対して0.5wt%に設定した。
【0085】
本実施例では、リン酸塩系ガラスとしてのP
2O
5−ZnO−R
2O−Al
2O
3系粉末ガラスにおいて、P
2O
5が50wt%、ZnOが12wt%、R
2Oが20wt%、Al
2O
3が6wt%であり、残部が副成分であった。
【0086】
なお、本発明者らは、P
2O
5が60wt%、ZnOが20wt%、R
2Oが10wt%、Al
2O
3が5wt%であり、残部が副成分である組成を有するガラス、P
2O
5が60wt%、ZnOが20wt%、R
2Oが10wt%、Al
2O
3が5wt%であり、残部が副成分である組成を有するガラス等についても同様の実験を行い、後述する結果と同様の結果が得られることを確認している。
【0087】
次に、得られた軟磁性金属粉末に対して、コア部と第1のシェル部と第2のシェル部とを特定し、コア部においては、Cu結晶子の面積率を測定し、第1のシェル部においては、Cu結晶子の面積率を算出し、第2のシェル部においては、CuまたはCuを含む酸化物層が存在するか否かを評価した。
【0088】
Cu結晶子の面積率は、まず、粒子断面のCuの分布をSTEM−EDSによりマッピングを行って得た。続いて、得られたCuの分布について、画像認識ソフトによる明暗のヒストグラム解析を行った。ヒストグラム解析では、Cuの分布を、明暗により256分割してヒストグラムとし、Cuのマッピングの明るさの最大値を150としたときのCuの明るさ60以上の明るい領域をCuと判定した。そして、明るさ60以上の領域と、明るさ60未満の領域とに2値化した後、明るさ60以上の領域が占める面積を算出し、当該面積からCu結晶子の面積率を算出した。
【0089】
次に、コア部におけるCu結晶子の面積率(A)と、第1のシェル部におけるCu結晶子の面積率(B)と、から、コア部におけるCu結晶子の面積率(A)と、第1のシェル部におけるCu結晶子の面積率(B)との差(A−B)と、コア部におけるCu結晶子の面積率と第1のシェル部におけるCu結晶子の面積率との比(A/B)と、を算出した。結果を表1に示す。
【0090】
また、Fe結晶子の平均結晶子径については、XRDにより結晶子サイズを算出した。結果を表1に示す。
【0091】
続いて、圧粉磁心の評価を行った。熱硬化樹脂であるエポキシ樹脂および硬化剤であるイミド樹脂の総量が、得られた軟磁性金属粉末100wt%に対して表1に示す値となるように秤量し、アセトンに加えて溶液化し、その溶液と軟磁性金属粉末とを混合した。混合後、アセトンを揮発させて得られた顆粒を、355μmのメッシュで整粒した。これを外径11mm、内径6.5mmのトロイダル形状の金型に充填し、成形圧3.0t/cm
2で加圧し圧粉磁心の成形体を得た。得られた圧粉磁心の成形体を180℃で1時間樹脂を硬化させ圧粉磁心を得た。
【0092】
この圧粉磁心に対し両端にIn−Ga電極を形成して、圧粉磁心の試料の上下にソースメーターを用いて電圧を印加し、1mAの電流が流れた電圧値と、圧粉磁心の厚みとから耐電圧を算出した。本実施例では、軟磁性金属粉末の組成、平均粒子径(D50)、および、圧粉磁心を形成する際に用いた樹脂量が同じ試料のうち、比較例となる試料の耐電圧よりも高い耐電圧を示す試料を良好とした。樹脂量の違いにより耐電圧が変化するためである。結果を表1に示す。また、圧粉磁心に対し透磁率を測定した。結果を表1に示す。
【0093】
【表1】
【0094】
表1より、A−Bが上述した範囲内である場合には、A−Bが上述した範囲外である場合に比べて、耐電圧が良好であることが確認できた。なお、A−Bが大きくなりすぎると、耐電圧が低下する傾向にある。A/Bについても、A−Bと同様の傾向にあることが確認できた。
【0095】
また、
図5より、2段階の熱処理を行い、酸素濃度を適切な濃度とすることにより、Cu結晶子の面積率が、軟磁性金属粒子の中心側と表面側とで異なり、表1に示す結果に対応していることが確認できた。
【0096】
(実験例11〜33)
実験例7の試料において、熱処理条件を表2に示す条件とした以外は、実験例7と同様にして軟磁性金属粉末を作製し、実験例7と同様の評価を行った。また、得られた粉末を用いて、実験例7と同様にして圧粉磁心を作製し、実験例7と同様の評価を行った。結果を表2に示す。
【0097】
【表2】
【0098】
表2より、2段階目の熱処理を行わない場合には、Cu結晶子の濃度が軟磁性金属粒子の中心側と表面側とでほとんど変化しなかったので、A−Bが本発明の範囲外となり、耐電圧が低いことが確認できた。一方、2段階目の熱処理を行い、熱処理温度を適切な温度とすることにより、Cu結晶子の濃度が軟磁性金属粒子の中心側と表面側とで変化し、A−BおよびA/Bが本発明の範囲内であることが確認できた。
【0099】
(実験例34〜39)
実験例1および7の試料において、粉末の平均粒子径D50を表3に示す値とした以外は、実験例1および7と同様にして軟磁性金属粉末を作製し、実験例1および7と同様の評価を行った。また、得られた粉末を用いて、実験例1および7と同様にして圧粉磁心を作製し、実験例1および7と同様の評価を行った。結果を表3に示す。
【0100】
【表3】
【0101】
表3より、A−Bが上記の範囲内である場合には、粉末の平均粒子径D50に依らず、耐電圧性が良好であることが確認できた。
【0102】
なお、粉末ガラスの添加量は、ナノ結晶が析出した粒子を含む粉末100wt%に対して、当該粉末の平均粒子径(D50)が5μmおよび10μmである場合には1wt%、25μmおよび50μmである場合には0.5wt%に設定した。所定の厚みを形成するために必要な粉末ガラス量は、被覆部が形成される軟磁性金属粉末の粒子径により異なるからである。
【0103】
(実験例40〜41)
実験例7の試料において、表4に示す組成を有するコーティング材を用いて被覆部を形成した以外は、実験例7と同様にして軟磁性金属粉末を作製し、実験例7と同様の評価を行った。また、得られた粉末を用いて、実験例7と同様にして圧粉磁心を作製し、実験例7と同様の評価を行った。結果を表4に示す。
【0104】
【表4】
【0105】
表4より、A−Bが上記の範囲内である場合には、コーティング材の組成に依らず、耐電圧性が良好であることが確認できた。
【0106】
また、本実施例では、ビスマス酸塩系ガラスとしてのBi
2O
3−ZnO−B
2O
3−SiO
2系粉末ガラスにおいて、Bi
2O
3が80wt%、ZnOが10wt%、B
2O
3が5wt%、SiO
2が5wt%であった。ビスマス酸塩系ガラスとして他の組成を有するガラスについても同様の実験を行い、後述する結果と同様の結果が得られることを確認している。
【0107】
また、本実施例では、ホウケイ酸塩系ガラスとしてのBaO−ZnO−B
2O
3−SiO
2−Al
2O
3系粉末ガラスにおいて、BaOが8wt%、ZnOが23wt%、B
2O
3が19wt%、SiO
2が16wt%、Al
2O
3が6wt%であり、残部が副成分であった。ホウケイ酸塩系ガラスとして他の組成を有するガラスについても同様の実験を行い、後述する結果と同様の結果が得られることを確認している。
【0108】
(実験例42〜173)
表5〜8に示す組成を有する軟磁性合金から構成され、平均粒子径D50が表5〜8に示す値である粉末に対して、表5〜8に示す条件で2段階の熱処理を行い、Cu結晶子の分散状態を変化させた以外は、実験例1〜10と同様にして、軟磁性金属粉末を作製し、実験例1〜10と同様の評価を行った。また、得られた粉末を用いて、実験例1〜10と同様にして圧粉磁心を作製し、実験例1〜10と同様の評価を行った。結果を表5〜8に示す。
【0109】
【表5】
【0110】
【表6】
【0111】
【表7】
【0112】
【表8】
【0113】
表5〜8より、ナノ結晶合金の組成を変更した場合であっても、A−Bが上記の範囲内である場合には、良好な耐電圧性が得られることが確認できた。一方、A−Bが上記の範囲外である場合には、耐電圧性に劣ることが確認できた。すなわち、A−Bを上述した範囲内とすることにより、ナノ結晶合金の組成に依らず、耐電圧性が向上することが確認できた。また、A−Bを上記の範囲内とするには、ナノ結晶合金中にCuが0.1原子%以上含まれることが好適であることが確認できた。
【解決手段】Cuを含むFe系ナノ結晶合金から構成される軟磁性金属粒子を複数含む軟磁性金属粉末であって、軟磁性金属粒子は、コア部と、コア部の周囲を取り囲む第1のシェル部と、を有し、コア部の面積を100%とした場合に、コア部に存在するCu結晶子の面積率をAとし、第1のシェル部の面積を100%とした場合に、第1のシェル部に存在するCu結晶子の面積率をBとした時に、A−Bが2.0≦A−B≦20.0であることを特徴とする軟磁性金属粉末である。