特許第6429059号(P6429059)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6429059
(24)【登録日】2018年11月9日
(45)【発行日】2018年11月28日
(54)【発明の名称】冷間圧延機および冷間圧延方法
(51)【国際特許分類】
   B21B 3/02 20060101AFI20181119BHJP
   B21B 45/00 20060101ALI20181119BHJP
   B21B 45/02 20060101ALI20181119BHJP
   B21B 1/22 20060101ALI20181119BHJP
   B21B 27/10 20060101ALI20181119BHJP
【FI】
   B21B3/02
   B21B45/00 N
   B21B45/02 310
   B21B1/22 L
   B21B27/10 B
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2018-526952(P2018-526952)
(86)(22)【出願日】2018年2月20日
(86)【国際出願番号】JP2018005853
【審査請求日】2018年5月24日
(31)【優先権主張番号】特願2017-35641(P2017-35641)
(32)【優先日】2017年2月28日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001542
【氏名又は名称】特許業務法人銀座マロニエ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】福島 達人
【審査官】 池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭61−015919(JP,A)
【文献】 特開2012−148310(JP,A)
【文献】 特開2011−051001(JP,A)
【文献】 特開2005−193242(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21B 3/02
B21B 45/00−45/02
B21B 1/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧延油と冷却水を兼ねたクーラントを各スタンドに供給して鋼板を連続的に圧延する循環給油方式のタンデム式冷間圧延機において、
上記冷間圧延機の第1スタンドの上流側に、鋼板の両エッジ部を加熱するエッジヒータが配設され、かつ、
上記エッジヒータと上記第1スタンドとの間に、第1スタンドに供給するクーラントより高濃度でかつ10mass%以上のクーラントを鋼板両エッジ部表面に噴射する設備を配設されてなり、
上記エッジヒータは、高濃度クーラントを噴射したときにおけるロールバイト入側の鋼板温度が60℃以上となるよう鋼板両エッジ部を加熱するものであることを特徴とする冷間圧延機。
【請求項2】
上記エッジヒータは、鋼板の両エッジ部を上下からC型のインダクタで挟んで鋼板エッジ部のみを加熱する誘導加熱装置であることを特徴とする請求項1に記載の冷間圧延機。
【請求項3】
圧延油と冷却水を兼ねたクーラントを各スタンドに供給する循環給油方式のタンデム式冷間圧延機を用いて鋼板を冷間圧延する方法において、
上記冷間圧延機の第1スタンドの上流側で、エッジヒータを用いて鋼板両エッジ部加熱し、かつ、
上記加熱した鋼板両エッジ部が、第1スタンドのロールバイトに到達する前に、第1スタンドに供給するクーラントより高濃度でかつ10mass%以上のクーラントを鋼板両エッジ部表面に噴射するに際して、
上記エッジヒータで、ロールバイト入側の鋼板温度が60℃以上となるよう鋼板両エッジ部を加熱することを特徴とする冷間圧延方法。
【請求項4】
上記高濃度クーラントの噴射量および/または第1スタンド入側の低濃度クーラントの噴射量を、圧延速度に応じて調整することを特徴とする請求項に記載の冷間圧延方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷間圧延機と冷間圧延方法に関し、具体的には、珪素鋼板やステンレス鋼板のような難圧延材の圧延に用いて好適なタンデム式の冷間圧延機と、その冷間圧延機を用いた冷間圧延方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、鋼帯(鋼板)を冷間圧延するに際しては、使用する冷間圧延機が、複数の圧延機を直列に配列したタンデム式あるいは単スタンドからなるリバース式などの種類を問わず、また、鋼帯を1コイル単位で圧延するバッチ式、あるいは、圧延設備の入側で鋼帯を溶接して連続的に鋼帯を圧延する連続式であるかを問わず、被圧延材の鋼板温度を室温程度、高くとも40℃程度として圧延するのが一般的である。これは、鋼板の性質として、温度が高い程、変形抵抗が低下し、圧延性が向上することが知られてはいるものの、上記メリットに対して、鋼板温度を高めるために必要なエネルギーコストの上昇の方が大きく、また、鋼板温度を高めることによる製造工程の複雑化やハンドリング面での問題があることなどの理由による。
【0003】
ところで、JIS G3141に規定されたような一般冷延鋼板では、上記のような室温レベルの温度で行う冷間圧延でも、鋼板の板幅端部(エッジ部)に生ずる耳割れは小さく、操業上、板破断等の大きな問題を生じることはない。しかし、Siを1mass%以上含有する珪素鋼板(電磁鋼板)や、CrやNi等の合金元素を多量に含有するステンレス鋼板などは、一般冷延鋼板と比較し、硬質で脆化し易いため、室温レベルの温度で冷間圧延を行うと、圧延後の鋼板エッジ部に大きな耳割れが発生し、最悪の場合、圧延中に板破断を起こしてしまうという問題がある。
【0004】
この問題を解決する技術として、例えば、特許文献1には、珪素鋼板を冷間圧延するに際して、圧延機入側において誘導加熱装置を用いて鋼板エッジ部を、シャルピー衝撃試験における延性−脆性遷移温度である60℃以上の温度に加熱してから圧延機に供給する冷間圧延方法が開示されている。
【0005】
また、特許文献2には、鋼板エッジ部を加熱する手段として、図1に示したような、1対のC型インダクタ(誘導子)を用いた誘導加熱装置が開示されている。この誘導加熱装置は、鋼板1の両エッジ部をC型インダクタ2のスリット部で上下から挟み、誘導加熱コイル3に高周波電流を流して発生した高周波磁束で鋼板エッジ部に誘導電流を発生させ、該誘導電流によるジュール熱で鋼板エッジ部を加熱するものである。
【0006】
ここで、上記誘導加熱装置で鋼板エッジ部を所定の温度に加熱するためには、鋼板エッジ部と、このエッジ部を上下から挟むインダクタとが重なり合う長さ(ラップ長)が予め設定された範囲となるよう、インダクタの位置を鋼板の板幅変化に応じて調整する必要がある。しかし、実操業においては、上記板幅変化だけでなく、平坦度不良等によって鋼板に蛇行が発生したり、鋼板エッジ部が板幅方向に移動したりするため、鋼板両エッジ部のラップ長が変化する。そのため、例えば、ラップ長が小さくなった側のエッジ部は、磁束の流れを遮る渦電流の発生が少なくなって力率が低下し、無効電流が増加するため、コイル電流を増加しても、所定の出力が出せず、加熱不足となる。一方、反対側のエッジ部はラップ長が大きくなるため、上記とは逆に、異常加熱されることになる。その結果、加熱不足のエッジ部には、圧延中に耳割れが生じ、他方の異常加熱されたエッジ部には、熱膨張による耳波が生じるため、安定した圧延が困難になってしまう。したがって、鋼板エッジ部を誘導加熱で所定の温度に加熱する場合には、ラップ長を最適な値に制御することが重要となる。そのため、上記のラップ長を所定の範囲に制御する誘導加熱装置が、例えば、特許文献3や特許文献4に開示されている。
【0007】
ところで、冷間圧延機における潤滑油(圧延油)の供給方式としては、循環給油方式と直接給油方式の二つの方法があるが、一般冷延鋼板では前者の方式が一般的である。この方式は、ソリュブル油、ミネラル油等の圧延油を水に乳化(分散)してエマルションとしたものを、鋼板や圧延機のワークロール等に供給して圧延を行い、使用後のエマルションは回収して循環使用する方式である。この方式では、上記エマルションは、圧延潤滑剤として作用すると同時に、冷却剤としても作用する。そのため、上記エマルションは、圧延油あるいはクーラントとも称されている。そこで、本発明では、上記エマルションを、以降、「クーラント」と称する。
【0008】
また、上記循環給油方式に使用されるクーラントに含まれる圧延油の濃度は、圧延油の種類にもよるが、通常、2〜4mass%程度であるため、圧延油の原単位に優れているものの、硬質材や極薄材等の難圧延材の圧延には不利な面を有している。そこで、さらに圧延潤滑性を向上させる手段として、低濃度のクーラントを使用しながら、さらに高濃度のクーラントを少量、鋼板表面に直接噴射するハイブリッド方式(例えば、非特許文献1参照)が提案されている。この方式では、高濃度のクーラントは、循環使用する圧延油の量を少なくして、その清浄度を保つ観点から、第2スタンド以降で使用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開昭61−015919号公報
【特許文献2】特開平11−290931号公報
【特許文献3】特開昭53−070063号公報
【特許文献4】特開平11−172325号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】「板圧延の理論と実際」:日本鉄鋼協会発行、p208−211(1984)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
循環給油方式のタンデム式冷間圧延機では、潤滑剤および冷却剤として機能する低濃度のクーラントを、各スタンドの入側および出側からワークロール外周面および/またはワークロールと中間ロールあるいはバックアップロールの間に噴射しながら鋼板を圧延している。そのため、特許文献1や2の技術を適用し、第1スタンドの上流側で、エッジヒータを用いて鋼板エッジ部を60℃以上の温度に加熱しても、第1スタンド入側で噴射される低濃度クーラントやロールバイトに形成された液溜りによって冷却されるため、第1スタンドのロールバイトに到達したときの鋼板温度は60℃以下となってしまう。この冷却は、先行コイルと後行コイルの溶接部を圧延するときのような低速圧延時には、鋼板がロールバイトに到達するまでの時間が長くなるため、特に顕著となる。したがって、エッジヒータでの加熱温度は、上記クーラントによる冷却を加味して高めに設定する必要があり、加熱に必要な電力量も必然的に上昇することになる。
【0012】
さらに、鋼板を圧延するには、適正量の圧延油を供給することが必要であるが、クーラント中に含まれる圧延油の鋼板表面へのプレートアウト量は、鋼板温度が高いほど低下する。そのため、エッジヒータで加熱した鋼板エッジ部は、板幅中央部と比較して潤滑不足となり易く、耳割れや板破断に対してより不利となるため、圧延油を何らかの手段で補充してやることが必要となる。しかし、ただ単に低濃度クーラントの噴射量を増やすだけでは、クーラントによる熱損失が増大するだけで、鋼板エッジ部の圧延性向上には寄与することがない。
【0013】
本発明は、従来技術が抱える上記問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、珪素鋼板やステンレス鋼板のような難圧延材を、特に、低速圧延時においても、鋼板エッジの耳割れや板破断を起こすことなく圧延することを可能とする冷間圧延機を提供するとともに、その冷間圧延機を用いた冷間圧延方法を提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
発明者らは、上記課題を解決する方法について、非特許文献1に開示されたハイブリッド方式の給油方式に着目して鋭意検討を重ねた。その結果、タンデム式冷間圧延機の第1スタンドの上流側で、エッジヒータで鋼板両エッジ部を加熱した後、該鋼板エッジ部に対して高濃度のクーラントを噴射することで、クーラントによる鋼板エッジ部の温度低下を抑制しつつ、圧延油のプレートアウト量を確保でき、ひいては、低速圧延時においても難圧延材を耳割れや板破断を起こすことなく圧延することが可能となることを見出し、本発明を開発するに至った。
【0015】
上記知見に基づく本発明は、圧延油と冷却水を兼ねたクーラントを各スタンドに供給して鋼板を連続的に圧延する循環給油方式のタンデム式冷間圧延機において、上記冷間圧延機の第1スタンドの上流側に、鋼板の両エッジをロールバイト入側の鋼板温度で60℃以上に加熱するエッジヒータが配設されてなり、かつ、上記エッジヒータと上記第1スタンドとの間に、第1スタンドに供給するクーラントより高濃度のクーラントを鋼板両エッジ部表面に噴射する設備を配設してなることを特徴とする冷間圧延機である。
【0016】
本発明の冷間圧延機における上記エッジヒータは、鋼板の両エッジ部を上下からC型のインダクタで挟んで鋼板エッジ部のみを加熱する誘導加熱装置であることを特徴とする。
【0017】
また、本発明の冷間圧延機における上記高濃度のクーラントは、圧延油の濃度が10mass%以上であることを特徴とする。
【0018】
また、本発明は、圧延油と冷却水を兼ねたクーラントを各スタンドに供給する循環給油方式のタンデム式冷間圧延機を用いて鋼板を冷間圧延する方法において、上記冷間圧延機の第1スタンドの上流側で、エッジヒータを用いて鋼板両エッジ部の鋼板温度が、第1スタンドのロールバイト入側で60℃以上となるよう加熱し、かつ、
上記加熱した鋼板両エッジ部が、第1スタンドのロールバイトに到達する前に、第1スタンドに供給するクーラントより高濃度のクーラントを鋼板両エッジ部表面に噴射することを特徴とする冷間圧延方法である。
【0019】
また、本発明の冷間圧延方法における上記高濃度のクーラントは、圧延油の濃度が10mass%以上のものであることを特徴とする。
【0020】
また、本発明の冷間圧延方法は、上記高濃度クーラントの噴射量および/または第1スタンド入側の低濃度クーラントの噴射量を、圧延速度に応じて調整することを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、タンデム式冷間圧延機の第1スタンドの上流側に設置したエッジヒータで鋼板エッジ部を加熱した後、該エッジヒータと第1スタンドとの間で鋼板両エッジ部表面に、冷間圧延機の第1スタンドに供給するクーラントよりも高濃度のクーラントを少量噴射するようにしたので、高濃度クーラント噴射による熱損失を低減することができるとともに、鋼板表面への圧延油のプレートアウト性を向上することができる。したがって、本発明によれば、エッジヒータで過度の加熱を行うことなく、ロールバイト入側の鋼板エッジ部温度を安定して60℃以上とすることができ、かつ、鋼板表面への圧延油のプレートアウト量を確保することができる。したがって、本発明によれば、珪素鋼板やステンレス鋼板のような難圧延材を低速で冷間圧延するときでも、加熱電力の増加や圧延油原単位の上昇を抑制しつつ、板幅端部の耳割れや板破断などの圧延トラブルを防止することができるので、製品品質の向上や、製造コストの低下、生産性の向上に大いに寄与する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】C型インダクタ(誘導子)を用いた誘導加熱装置を説明する図である。
図2】完全連続式の冷間圧延機の概要を説明する図である。
図3図2の冷間圧延機の前段部分を説明する図である。
図4】エッジヒータで加熱後の鋼板温度とロールバイト入側の鋼板温度に及ぼすクーラントの圧延油濃度の影響を示すグラフである。
図5】鋼板温度とプレートアウト量に及ぼすクーラントの圧延油濃度の影響を示すグラフである。
図6】クーラントの圧延油濃度の好適範囲を説明するグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明について具体的に説明する。
図2は、本発明の技術を適用することができる完全連続式の4スタンド冷間圧延設備の概要を示したものである。ペイオフリール(巻戻機)101においてコイルの状態から巻き戻された鋼板102は、溶接機103によって先行材と後行材とが接合され、ルーパー104を経た後、4スタンドからなる冷間圧延機で所定の板厚まで圧延された後、出側のテンションリール108によってコイルに巻き取られる。テンションリール108に巻き取られた圧延後の鋼板は、先行材と後行材との溶接部で、あるいは、所定の巻取重量となったときに、出側の走間シャー107で切断されて排出され、切断後に圧延された後行の鋼板は、待機していた別のテンションリールに巻き取られ、圧延が継続して行われる。
【0024】
図3は、上記図2に示した4スタンド冷間圧延機の前段部分、すなわち、第1スタンド、第2スタンドと、第1スタンドの入側部分を拡大して示したものである。
圧延油の供給方式が循環給油方式のタンデム式冷間圧延機においては、一般に、圧延用潤滑剤(圧延油)の供給とロールの冷却を、水に対して圧延油を低濃度に混合して乳化したエマルション(クーラント)を、各スタンドの入側および出側に設けられた噴射装置から、ワークロール外周面および/またはワークロールと中間ロールの間に向けて噴射することで行っている。なお、本発明では、以降、各スタンドに供給されるクーラントを「低濃度クーラント」、その噴射装置を「低濃度クーラント噴射装置」ともいう。
【0025】
ここで、上記冷間圧延油としては、一般に、合成エステルや鉱油、動植物油脂等が用いられており、また、低濃度クーラントにおける圧延油の濃度は、通常、1〜5mass%程度である。また、この低濃度クーラントの温度は、冷却能を考慮し、通常、40〜70℃程度に管理されている。
【0026】
従来、循環給油方式のタンデム式冷間圧延機では、上記した低濃度クーラントのみで冷間圧延を行ってきた。しかし、低濃度クーラントのみで、珪素鋼板やステンレス鋼板等の難圧延材を冷間圧延しようとすると、被圧延材の延性不足に起因して、鋼板エッジ部に耳割れを生じ、最悪、板破断に至ることがある。
【0027】
そこで、上記問題点に対応するため、図3に示す本発明の冷間圧延機には、第1スタンドの上流側(入側直前)に鋼板の両エッジ部を加熱するエッジヒータが設置されており、鋼板エッジ部を、延性−脆性遷移温度(60℃)以上の温度に加熱することが可能となっている。上記エッジヒータの加熱方式は、鋼板エッジ部を急速加熱できる手段であれば、特に制限はないが、既に技術が確立している誘導加熱方式であれば好適である。
【0028】
上記エッジヒータによる鋼板エッジ部の加熱領域は、板幅端部から少なくとも30mmの範囲とするのが好ましい。ただし、加熱領域を広くし過ぎると、加熱設備費が増大する他、加熱に要する電力量も増大するので、最大50mm程度とするのが好ましい。
なお、上記エッジヒータの設置位置は、第1スタンドから上流側2〜10mの範囲とするのが好ましい。10mを超えると、加熱から第1スタンドのロールバイトに至るまでの熱損失が大きく、一方、2m未満では、後述する高濃度クーラント噴射装置を設置するスペースを確保できなくなる虞がある。
【0029】
ここで、上記鋼板エッジ部のエッジヒータによる加熱温度は、第1スタンドのロールバイト入側の鋼板エッジ温度が、難圧延材の延性−脆性遷移温度(60℃)以上になるよう加熱することが重要である。しかし、第1スタンドの入側では低濃度クーラントが噴射されており、かつ、ワークロールのロールバイト部には、低濃度クーラントの液溜りが形成されているため、エッジヒータで加熱した鋼板エッジ部は冷却されてしまう。そのため、第1スタンドのロールバイト入側の鋼板エッジ部の温度を60℃以上とするためには、エッジヒータでの加熱温度(エッジヒータ出側温度)を、前述した低濃度クーラントによる熱損失を加味して設定する必要がある。なお、第1スタンドのロールバイト入側の鋼板エッジ温度は、好ましくは80℃以上である。
【0030】
さらに考慮すべきことは、鋼板温度を高めると、圧延油のプレートアウト性が低下するため、鋼板エッジ部が潤滑不足となるということである。この問題を解決するため、第1スタンド入側での低濃度クーラントの噴射量を増大させたり、鋼板エッジ部に低濃度クーラントを噴射したりすると、鋼板エッジ部がさらに冷却されてしまうため、ロールバイト入側の鋼板エッジ温度を60℃以上とするためには、エッジヒータでの加熱温度をさらに高める必要があるという悪循環に陥る。
【0031】
そこで、上記問題点を解決するため、図3に示す本発明の冷間圧延機には、上記エッジヒータと第1スタンドの圧延機との間に、前述した低濃度クーラントよりも圧延油の濃度を高くしたクーラント(高濃度クーラント)を鋼板両エッジ部の表面に噴射することができる高濃度クーラント噴射装置が設置されている。
【0032】
ここで、上記高濃度クーラントは、圧延油の濃度が10mass%以上であることが好ましい。以下、その理由について説明する。
図4は、図3に示した冷間圧延機において、低速圧延時(第1スタンド入側の鋼板速度20mpm)に、板厚2.0mmの熱延鋼板をエッジヒータで加熱した後、前述した高濃度クーラント噴射装置から、圧延油の供給量を一定とし、圧延油の濃度と流量を種々に変化させたクーラント(温度:50℃)を噴射したときの、上記エッジヒータの加熱温度と第1スタンドのロールバイト入側の鋼板温度との関係を調査した結果を示したものである。なお、エッジヒータは、第1スタンドから上流側に5mの位置、高濃度クーラント噴射装置は、第1スタンドから上流側に1mの位置に設置されている。
【0033】
この図4の結果から、エッジヒータの加熱温度を低下するためには、加熱後の鋼板エッジ表面に高濃度のクーラントを少量噴射すればよいことがわかる。例えば、ロールバイト入側の鋼板温度を60℃とするためには、クーラントの圧延油の濃度が3mass%の場合は、エッジヒータでの加熱温度は350℃とする必要があるが、クーラントの圧延油の濃度を10mass%とした場合は、エッジヒータでの加熱温度を190℃まで低下することができ、圧延油の濃度をさらに高めると、エッジヒータの加熱温度をさらに低下することができる。
【0034】
また、難圧延材の冷間圧延においては、圧延潤滑性を確保するためには、圧延油のプレートアウト量(鋼板表面への付着量)は、一般に50mg/m以上であることが望ましいとされているが、前述したように、鋼板温度が上昇すると、エマルション化したクーラントからの圧延油のプレートアウト量が低下するため、圧延時の潤滑性を確保するためには、エッジヒータの加熱温度の上昇は好ましくない。
【0035】
そこで、圧延油の濃度を種々に変化させたクーラントのプレートアウト性に及ぼす鋼板温度の影響を調べ、その結果を図5に示した。この図から、鋼板温度が100℃以上では、各濃度のクーラントとも、鋼板温度が上昇するとともに圧延油のプレートアウト量が低下している。したがって、鋼板温度が高いときに所定のプレートアウト量を確保するためには、高濃度のクーラントを噴射するのが好ましい。例えば、圧延油のプレートアウト量50mg/m以上を確保するためには、圧延油の濃度が3mass%のクーラントの場合は、鋼板温度が120℃以下であることが必要であるが、クーラントの圧延油の濃度を10mass%とした場合は、鋼板温度が180℃以下であればよいことになる。
【0036】
そして、図4から得られるクーラントの圧延油濃度とロールバイトの鋼板温度60℃以上を確保するために必要なエッジヒータ加熱温度との関係、および、図5から得られるクーラントの圧延油濃度と圧延油のプレートアウト量50mg/m以上を確保するために必要な鋼板温度との関係を併記して示したのが図6である。この図から、ロールバイトの鋼板温度60℃以上を確保するために必要なクーラントの圧延油濃度と、圧延油のプレートアウト量50mg/m以上を確保するために必要なクーラントの圧延油濃度が両立する範囲は、概ね10mass%以上の範囲であること、すなわち、冷間圧延時の潤滑性を維持したままエッジヒータでの加熱温度を低下するためには、圧延油の濃度が10mass%以上のクーラントを少量、鋼板エッジの表面に噴射すればよいことがわかる。なお、より好ましい圧延油の濃度は20mass%以上である。
【0037】
なお、図2に示したような、先行コイルと後行コイルを圧延機の入側で接合して連続的に圧延を行う冷間圧延機においては、先行コイルと後行コイルの溶接部を圧延する際には、圧延速度を落として圧延するのが一般的である。しかし、このような低速圧延時のクーラントの噴射量、すなわち、低濃度クーラントや高濃度クーラントの噴射量が一定であると、クーラントによる冷却時間が長くなる。その結果、高速圧延時のロールバイト入側の鋼板エッジ温度が60℃以上となるようエッジヒータで加熱していた場合には、低速圧延時には、鋼板エッジ部が大きく冷却され、ロールバイト入側温度が60℃を大きく下回ってしまうおそれがある。そこで、高濃度クーラントの噴射量および/または第1スタンド入側の低濃度クーラントの噴射量は、圧延速度に応じて調整するのが好ましい。あるいは、高濃度クーラントの噴射量および/または第1スタンド入側の低濃度クーラントの噴射量に加えてさらに、エッジヒータの加熱温度も、圧延速度に応じて調整するのが好ましい。
【0038】
また、高濃度クーラントを噴射する鋼板エッジ部の領域は、上記説明では、エッジヒータで加熱する鋼板両エッジ部のみに限定していた。しかし、両エッジへの噴射のみでは、圧延する鋼板の板幅が変化したり、鋼板に蛇行が生じたりした場合には、それに応じて、高濃度クーラントの噴射位置を調整する制御装置が必要となるため、設備コストやメンテナンス負荷が増大する。そこで、高濃度クーラントを噴射する領域を、板幅変動を考慮して範囲を拡大したりしてもよい。さらに、噴射領域を全幅とし、その分、低濃度クーラントの噴射量を削減するようにしてもよい。
【実施例】
【0039】
図3のように、第1スタンドの上流5mの位置に鋼板の両エッジを加熱する誘導加熱方式のエッジヒータと、該エッジヒータと第1スタンドとの間に高濃度クーラントを噴射する高濃度クーラント噴射装置を配設した完全連続式のタンデム式冷間圧延機を用いて、Siを3.0mass%以上含有する板厚が2.0〜3.0mmの熱延鋼板を、板厚0.3〜0.5mmまで冷間圧延する実験を行った。
ここで、上記タンデム式冷間圧延機は、循環給油方式のもので、水に対して、エステルを主成分とする圧延油を濃度が3mass%となるよう混合し、エマルション化した低濃度クーラント(温度:50℃)を、各スタンドのワークロールの外周面およびワークロールと中間ロールとの間に噴射する低濃度クーラント噴射装置を配設した構造となっている。
また、上記エッジヒータは、C型のインダクタによって、鋼板両エッジ部の板幅端部から30mmの範囲を加熱できるようにしたものである。
また、上記高濃度クーラント噴射装置は、第1スタンドのロールバイトから上流側5mの位置に設置され、水に対してエステルを主とした圧延油を濃度10mass%となるよう混合し、エマルション化した高濃度クーラント(温度:50℃)を、鋼板の両エッジ部を含む全幅に亘って、噴射量0.1m/minで噴射できるようにしたものである。
【0040】
そして、上記実験では、鋼板両エッジを加熱するエッジヒータと、第1スタンドとの間に設置した高濃度クーラント噴射装置と、第1スタンドの低濃度クーラント噴射装置の設定条件を表1に示したように3条件で変化させた。
具体的には、圧延条件1は、第1スタンド入側の低濃度クーラントの噴射量を5m/minに設定した上で、エッジヒータで鋼板両エッジ部(幅30mm)を加熱したが、高濃度クーラントの噴射は行なわなかった例(従来例)であり、この際のエッジヒータの電力量は、第1スタンドのロールバイト入側の鋼板エッジ部の温度が60℃となるよう設定した。
また、圧延条件2は、上記圧延条件1に対して、エッジヒータの電力量を、圧延条件1の消費電力を100(ベース)としたときの70に削減した例(比較例)である。
また、圧延条件3は、上記圧延条件2に対して、低濃度クーラントの噴射量を、圧延条件1および2の噴射量を100(ベース)としたときの75に低減し、かつ、高濃度クーラントを噴射した例(発明例)である。
なお、上記実験の結果は、各圧延条件における全圧延コイル数に対する板破断が発生したコイル数の比率である破断発生率(%)で評価し、この結果を表1に併記した。
【0041】
【表1】
【0042】
表1に示したように、エッジヒータで鋼板エッジ部を第1スタンドのロールバイト入側の温度で60℃となるよう加熱したが、高濃度クーラントを噴射しなかった圧延条件1では、板破断発生率は0.4%であった。しかし、低濃度クーラントによる冷却を補償するため、エッジヒータでの加熱温度を高めざるを得なかったため、加熱に要する電力量も多大であった。
また、上記圧延条件1に対して、エッジヒータの電力量を削減した圧延条件2では、消費電力は低減するものの、鋼板エッジ部の加熱不足によりロールバイト入側の鋼板エッジ温度が40℃まで低下したため、耳割れによる板破断が頻発し、板破断の発生率は1.4%まで上昇した。
また、上記圧延条件2に対して、低濃度クーラントの噴射量を削減し、高濃度クーラントを噴射した圧延条件3では、エッジヒータの電力量は圧延条件2と同様、削減したままであったが、高濃度クーラント噴射による熱損失より、低濃度クーラント噴射量削減による鋼板エッジ部の熱損失低減の方が大きかったため、ロールバイト入側の鋼板エッジ温度は60℃まで上昇した。さらに、高濃度クーラント噴射による圧延油のプレートアウト性の向上も相俟って、耳割れによる板破断発生率は、圧延条件2に対して大幅に改善され、従来技術と同レベル以下の0.2%まで低減した。
この結果から、本発明を適用し、高濃度クーラントを噴射することで、誘導加熱装置の加熱電力量や低濃度クーラントの噴射量を削減しても、板破断の発生を大幅に低減できることがわかる。
【符号の説明】
【0043】
1:鋼板
2:C型誘導子(インダクタ)
3:誘導加熱コイル
101:ペイオフリール
102:鋼板
103:溶接機
104:ルーパー
105:蛇行制御装置(ブライドルロール)
106:4スタンド圧延機
107:走間シャー
108:テンションリール

【要約】
圧延油と冷却水を兼ねたクーラントを各スタンドに供給して鋼板を連続的に圧延する循環給油方式のタンデム式冷間圧延機において、上記冷間圧延機の第1スタンドの上流側に鋼板の両エッジをロールバイト入側の鋼板温度で60℃以上に加熱するエッジヒータが配設され、かつ、上記エッジヒータと上記第1スタンドとの間に、第1スタンドに供給するクーラントより高濃度のクーラントを鋼板両エッジ部表面に噴射する設備を配設してなる冷間圧延機を用いることにより、珪素鋼板やステンレス鋼板のような難圧延材を、低速圧延時においても、鋼板エッジの耳割れや板破断を起こすことなく圧延することを可能とする。
図1
図2
図3
図4
図5
図6