特許第6429079号(P6429079)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ メック株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6429079
(24)【登録日】2018年11月9日
(45)【発行日】2018年11月28日
(54)【発明の名称】エッチング液及びエッチング方法
(51)【国際特許分類】
   C23F 1/44 20060101AFI20181119BHJP
   C23F 1/26 20060101ALI20181119BHJP
【FI】
   C23F1/44
   C23F1/26
【請求項の数】8
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2015-25385(P2015-25385)
(22)【出願日】2015年2月12日
(65)【公開番号】特開2016-148081(P2016-148081A)
(43)【公開日】2016年8月18日
【審査請求日】2017年11月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000114488
【氏名又は名称】メック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】特許業務法人 ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】荻野 悠貴
(72)【発明者】
【氏名】東嶋 真美
(72)【発明者】
【氏名】林崎 将大
(72)【発明者】
【氏名】王谷 稔
【審査官】 神田 和輝
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭54−100945(JP,A)
【文献】 特開昭61−266582(JP,A)
【文献】 特開昭63−161178(JP,A)
【文献】 特開平6−280056(JP,A)
【文献】 特開2002−69656(JP,A)
【文献】 特開2004−221261(JP,A)
【文献】 特開2013−135039(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23F 1/26
C23F 1/44
C23G 1/06
JSTPlus/JSTChina/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅の存在下でチタンを選択的にエッチングするためのエッチング液であって、
硫酸、塩酸、及びトリクロロ酢酸からなる群より選択される少なくとも1種の酸、及び
チオケトン系化合物及びチオエーテル系化合物からなる群より選択される少なくとも1種の有機硫黄化合物を含むことを特徴とするエッチング液。
【請求項2】
前記チオケトン系化合物が、チオ尿素、ジエチルチオ尿素、及びトリメチルチオ尿素からなる群より選択される少なくとも1種である請求項1記載のエッチング液。
【請求項3】
前記チオエーテル系化合物が、メチオニン、エチオニン、及び3−(メチルチオ)プロピオン酸からなる群より選択される少なくとも1種である請求項1又は2記載のエッチング液。
【請求項4】
α−ヒドロキシカルボン酸及び/又はその塩をさらに含む請求項1〜3のいずれかに記載のエッチング液。
【請求項5】
前記α−ヒドロキシカルボン酸が、酒石酸、リンゴ酸、クエン酸、乳酸、及びグリセリン酸からなる群より選択される少なくとも1種である請求項1〜4のいずれかに記載のエッチング液。
【請求項6】
前記酸の濃度が、20〜70重量%であり、
前記有機硫黄化合物の濃度が、0.01〜10重量%である請求項1〜5のいずれかに記載のエッチング液。
【請求項7】
前記α−ヒドロキシカルボン酸及び/又はその塩の濃度が、0.2〜5重量%である請求項4〜6のいずれかに記載のエッチング液。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載のエッチング液を用いて、銅の存在下でチタンを選択的にエッチングするエッチング方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銅の存在下でチタンを選択的にエッチングするためのエッチング液、及びそれを用いたエッチング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、チタンのエッチングには、フッ化水素酸又は過酸化水素を含むエッチング液が用いられていた。例えば、特許文献1では、銅またはアルミニウムの存在下でチタンをエッチングするためのエッチング液であって、10〜40重量%の過酸化水素、0.05〜5重量%のリン酸、0.001〜0.1重量%のホスホン酸系化合物およびアンモニアからなる水溶液で、pHが7〜9に調整されていることを特徴とするチタンのエッチング液が提案されている。
【0003】
しかし、フッ化水素酸を含むエッチング液は毒性が高いという問題があり、過酸化水素を含むエッチング液は保存安定性に乏しいという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4471094号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、前記実情に鑑みてなされたものであり、銅の存在下でチタンを選択的にエッチングすることができ、しかも毒性が低く、保存安定性に優れるエッチング液、及びそれを用いたエッチング方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のエッチング液は、銅の存在下でチタンを選択的にエッチングするために用いられるものであり、
硫酸、塩酸、及びトリクロロ酢酸からなる群より選択される少なくとも1種の酸、及び
チオケトン系化合物及びチオエーテル系化合物からなる群より選択される少なくとも1種の有機硫黄化合物を含むことを特徴とする。
【0007】
前記チオケトン系化合物は、チオ尿素、ジエチルチオ尿素、及びトリメチルチオ尿素からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0008】
前記チオエーテル系化合物は、メチオニン、エチオニン、及び3−(メチルチオ)プロピオン酸からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0009】
本発明のエッチング液は、α−ヒドロキシカルボン酸及び/又はその塩をさらに含むことが好ましい。
【0010】
前記α−ヒドロキシカルボン酸は、酒石酸、リンゴ酸、クエン酸、乳酸、及びグリセリン酸からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0011】
前記酸の濃度は20〜70重量%であり、前記有機硫黄化合物の濃度は0.01〜10重量%であることが好ましい。また、前記α−ヒドロキシカルボン酸及び/又はその塩の濃度は0.2〜5重量%であることが好ましい。
【0012】
また、本発明は、前記エッチング液を用いて、銅の存在下でチタンを選択的にエッチングするエッチング方法、に関する。
【発明の効果】
【0013】
本発明のエッチング液は、銅の存在下でチタンを選択的にエッチングすることができる。また、本発明のエッチング液は、フッ化水素酸及び過酸化水素を実質的に含まないため、毒性が低く、保存安定性に優れるものである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明のエッチング液は、硫酸、塩酸、及びトリクロロ酢酸からなる群より選択される少なくとも1種の酸と、チオケトン系化合物及びチオエーテル系化合物からなる群より選択される少なくとも1種の有機硫黄化合物とを含む水溶液である。
【0015】
前記酸の中では、エッチング速度の安定性、及び酸の低揮発性の観点から、硫酸が好ましい。
【0016】
酸の濃度は特に制限されないが、20〜70重量%であることが好ましく、より好ましくは30〜60重量%である。酸の濃度が20重量%未満の場合は、十分なチタンのエッチング速度が得られない傾向にあり、70重量%を超える場合は、エッチング液の安全性が問題となる傾向にある。
【0017】
前記有機硫黄化合物は、還元剤及びキレート剤としての効果を有する。
【0018】
前記チオケトン系化合物としては、例えば、チオ尿素、N−アルキルチオ尿素、N,N−ジアルキルチオ尿素、N,N’−ジアルキルチオ尿素、N,N,N’−トリアルキルチオ尿素、N,N,N’,N’−テトラアルキルチオ尿素、N−フェニルチオ尿素、N,N−ジフェニルチオ尿素、N,N’−ジフェニルチオ尿素、及びエチレンチオ尿素などが挙げられる。アルキルチオ尿素のアルキル基は特に制限されないが、炭素数1〜4のアルキル基が好ましい。これらのうち、還元剤又はキレート剤としての効果と水溶性に優れるチオ尿素、ジエチルチオ尿素、及びトリメチルチオ尿素からなる群より選択される少なくとも1種を用いることが好ましい。
【0019】
前記チオエーテル系化合物としては、例えば、メチオニン、メチオニンアルキルエステル塩酸塩、エチオニン、2−ヒドロキシ−4−(アルキルチオ)酪酸、及び3−(アルキルチオ)プロピオン酸などが挙げられる。アルキル基の炭素数は特に制限されないが、炭素数1〜4であることが好ましい。また、これらの化合物の一部が水素原子、ヒドロキシ基、又はアミノ基等の他の基に置換されたものであってもよい。これらのうち、還元剤又はキレート剤としての効果に優れるメチオニン、エチオニン、及び3−(メチルチオ)プロピオン酸からなる群より選択される少なくとも1種を用いることが好ましい。
【0020】
有機硫黄化合物の濃度は特に制限されないが、0.01〜10重量%であることが好ましく、より好ましくは0.2〜5重量%である。有機硫黄化合物の濃度が0.01重量%未満の場合には、十分な還元性及びキレート効果が得られず、チタンのエッチング速度が不十分になる傾向にあり、10重量%を超えると溶解限界となる傾向にある。
【0021】
エッチング液は、α−ヒドロキシカルボン酸及び/又はその塩を含んでいてもよい。α−ヒドロキシカルボン酸及びその塩は、チタンのキレート剤としての効果を有しており、エッチング液中にチタンの沈殿が生じることを抑制できる。前記α−ヒドロキシカルボン酸としては、例えば、酒石酸、リンゴ酸、クエン酸、乳酸、及びグリセリン酸などが挙げられる。
【0022】
α−ヒドロキシカルボン酸及び/又はその塩の濃度は特に制限されないが、キレート効果及び溶解性の観点から、0.2〜5重量%であることが好ましく、より好ましくは0.5〜2重量%である。
【0023】
また、エッチング液は、亜硫酸及び/又はその塩を含んでいてもよい。亜硫酸及びその塩は、還元剤としての効果を有しており、チタンのエッチング速度を向上させることができる。
【0024】
亜硫酸及び/又はその塩の濃度は特に制限されないが、還元性及び臭気の観点から、0.02〜0.5重量%であることが好ましく、より好ましくは0.05〜0.2重量%である。
【0025】
エッチング液には、上述した成分以外にも、本発明の効果を妨げない程度に他の成分を添加してもよい。他の成分としては、例えば、界面活性剤、成分安定剤、及び消泡剤などが挙げられる。
【0026】
エッチング液は、前記の各成分を水に溶解させることにより、容易に調製することができる。前記水としては、イオン性物質及び不純物を除去した水が好ましく、例えばイオン交換水、純水、超純水などが好ましい。
【0027】
エッチング液は、各成分を使用時に所定の濃度になるように配合してもよく、濃縮液を調製しておき使用直前に希釈して使用してもよい。
【0028】
本発明のエッチング液を用いたチタンのエッチング方法は特に制限されず、例えば、銅及びチタンを含む対象物にエッチング液を塗布又はスプレーする方法、銅及びチタンを含む対象物をエッチング液中に浸漬する方法などが挙げられる。処理温度は特に制限されないが、エッチング速度及び安全性の観点から、40〜70℃であることが好ましく、より好ましくは45〜55℃である。処理時間は対象物の表面状態及び形状等により変わるが、通常30〜120秒程度である。
【実施例】
【0029】
次に、本発明の実施例について比較例と併せて説明する。なお、本発明は下記の実施例に限定して解釈されるものではない。
【0030】
表1及び2に示す組成の各エッチング液を調製し、下記条件でエッチング試験、及びエッチング液の安定性試験を行った。なお、表1及び2に示す組成の各エッチング液において、残部はイオン交換水である。また、表1及び2に示す塩酸の濃度は、塩化水素としての濃度である。
【0031】
(エッチング試験)
樹脂上にスパッタ法でチタン膜を50nm、次いで銅膜を200nm成膜し、さらにその上に電解銅めっきでパターンを形成した基板を試料として用いた。銅のエッチング液を用いて、試料のスパッタ銅膜を溶解してチタン膜を露出させた。その後、実施例1〜12及び比較例1〜3のエッチング液に試料を浸漬してエッチング実験を行った。その結果を表1に示す。
【0032】
【表1】
【0033】
表1に示すように、本発明のエッチング液は、銅をエッチングせず、チタンを選択的にエッチングすることができる。
【0034】
(エッチング液の安定性試験)
実施例1、7、12及び比較例4のエッチング液を室温下で2日間放置した後、前記エッチング試験を行い、放置前後におけるエッチング速度を比較した。その結果を表2に示す。
【0035】
【表2】
【0036】
表2に示すように、本発明のエッチング液は、保存安定性に優れており、長期保存した場合でも安定してチタンを選択的にエッチングすることができる。