(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記制御装置は、前記心拍センサから前記心電位信号を取得できない場合には、過去に取得された前記心電位信号に基づいて前記刺激装置を駆動することを特徴とする請求項1に記載の覚醒維持装置。
前記制御装置は、前記第1の刺激で前記着座者を刺激した後に、前記指標が前記所定時間を過ぎて前記基準値から外れた場合は、前記第1の刺激で前記着座者を刺激するように前記刺激装置を駆動することを特徴とする請求項1又は2に記載の覚醒維持装置。
前記第1の刺激は、人間の平均的な心拍情報から定められる刺激であり、予め定められた刺激であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の覚醒維持装置。
前記制御装置は、前記心電位信号に係る心電波形のうちR波の検出に応じて、前記着座者を刺激するように前記刺激装置を駆動することを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載の覚醒維持装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
不快に感じる振動周波数には個人差があるが、特許文献1に開示された装置は、予め定められた40Hz〜50Hzの周波数で振動刺激を付与するものであるため、多くの着座者にとって不快に感じさせないようにすることは困難であった。
【0008】
また、特許文献2に開示された装置のように、振動モータの振動強度の調整によって、着座者の感度の違いに左右されずに高い覚醒効果を与えることができたとしても、その振動による不快感を取り除くことは困難であった。
【0009】
また、特許文献3に開示された装置のように、着座者の心拍に同期する刺激を付与する場合には、着座者に不快感を与えないようにすることができる。しかし、短時間で複数回、同様の刺激が付与される場合には、
図12のグラフで示す着座者の眠気レベルを縦軸、時間を横軸として表されるように、着座者がその刺激に慣れてしまうという傾向があった。
【0010】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたものであり、多くの着座者に不快に感じさせない刺激を着座者に付与し、且つ、着座者の覚醒を効果的に維持することが可能な覚醒維持装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題は、本発明の覚醒維持装置によれば、着座者を刺激する刺激装置と、前記着座者の心電位信号を取得する心拍センサと、を有する車両用シートと、前記刺激装置を駆動する制御装置と、を備え、前記制御装置は、前記着座者の覚醒を示す指標が、前記覚醒が保たれていることを示す基準値から外れた場合に、前記心電位信号に係る心電波形のうちQRS波が発生している間に人間の心拍に同期する第1の刺激で前記着座者を刺激するように前記刺激装置を駆動し、前記着座者の覚醒を示す指標が、前記刺激装置を駆動して前記第1の刺激で前記着座者を刺激した後の所定時間以内に前記基準値から外れた場合に、前記第1の刺激と異なるタイミングを有する
心拍非同期の刺激である第2の刺激で前記着座者を刺激するように前記刺激装置を駆動することにより解決される。
なお、着座者の覚醒度を示す指標とは、例えば、R波の信号の時間間隔、心拍のゆらぎ、頭部の挙動を監視するカメラからの信号である。
また、所定時間とは、同様の刺激が着座者に付与された場合に、その刺激に着座者が慣れる時間と慣れない時間との閾として定められた時間で、例えば30分程度の時間である。
【0012】
このように、制御装置が、
人間の心拍に同期する第1の刺激を前記着座者に付与した後の所定時間以内に、着座者の覚醒を示す指標が基準
値から外れた場合には、第1の刺激と異なる
タイミングを有する第2の刺激を着座者に付与するように刺激装置を駆動することで、不快に感じさせない第1の刺激を着座者に付与しつつ、第1の刺激に対する着座者の慣れを避けて、着座者の覚醒を効果的に維持することができる。
【0013】
また、車両用シートは着座者の心電位信号を取得する心拍センサを備えており、第1の刺激は、心電位信号から得られる心拍情報に同期する刺激であるので、着座者固有の心電位信号に同期する刺激を着座者に付与することができ、心地良い刺激で着座者の覚醒を維持させることができる。
【0014】
さらに、第2の刺激が心拍非同期の刺激であることで、心拍情報に同期する刺激に対して慣れた着座者に対しても、覚醒を維持させることができる。
【0015】
また、前記制御装置は、前記第1の刺激で前記着座者を刺激した後に、前記指標が前記所定時間を過ぎて前記基準値から外れた場合は、前記第1の刺激で前記着座者を刺激するように前記刺激装置を駆動するようにしてもよい。
このように、制御装置が、第1の刺激の後、着座者が慣れを感じる所定時間を過ぎて覚醒を示す指標が基準値から外れた場合に、人間の心拍に同期する第1の刺激で前記着座者を刺激するように刺激装置を駆動することで、着座者が第1の刺激に慣れることの少ない時間では、心地良い刺激で着座者の覚醒を効果的に維持することができる。
【0016】
また、前記第1の刺激は、人間の平均的な心拍情報から定められる刺激であり、予め定められた刺激であってもよい。
このように、第1の刺激が、人間の平均的な心拍情報から定められる刺激であり、予め定められた刺激であれば、着座者の心拍に同期させるためのプログラミング設定及び調整が不要となり、覚醒維持装置の生産効率を高めることができる。
【0017】
また、前記制御装置は、前記刺激装置を駆動して前記第2の刺激を前記着座者に複数回付与するようにしてもよい。
このように、制御装置が刺激装置を駆動することによって、第2の刺激が着座者に複数回付与されるようにすれば、着座者の覚醒の維持をより効果的に実現できる。
【0018】
また、前記心電位信号に係る心電波形のうちR波の検出に応じて、前記着座者を刺激するように前記刺激装置を駆動するようにしてもよい。
このように、心拍センサが心電波形のR波の発生を検出するようにすると、R波は他のQ波、S波等に比べて振幅が大きく容易に検出されるため、制御装置は、心拍に同期する刺激を着座者に付与するように刺激装置を容易に制御することができる。
【0019】
また、前記制御装置は、前記心拍センサから前記心電位信号を取得できない場合には、過去に取得された前記心電位信号に基づいて前記刺激装置を駆動すると好適である。
このように、制御装置が過去に取得された心電位信号に基づいて刺激装置を駆動するようにすると、着座者の体動等のために、一時的に心電位信号を取得できない場合があっても、制御装置は、着座者に刺激を付与するように刺激装置を制御できる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、制御装置が、
人間の心拍に同期する第1の刺激
を着座者に付与した後の所定時間以内に、着座者の覚醒を示す指標が基準
値から外れた場合には、第1の刺激と異なる
タイミングを有する第2の刺激を着座者に付与するように刺激装置を駆動することで、不快に感じさせない第1の刺激を着座者に付与しつつ、第1の刺激に対する着座者の慣れを妨げて、着座者の覚醒を効果的に維持することができる。
【0021】
また、本発明によれば、車両用シートが心拍センサを備えることで、着座者固有の心電位信号に同期する刺激を着座者に付与することができ、心地良い刺激で着座者の覚醒を維持させることができる。
さらに、第2の刺激が心拍非同期の刺激であることで、心拍情報に同期する刺激に対して慣れた着座者に対しても、覚醒を維持させることができる。
【0022】
また、本発明によれば、
制御装置が、第1の刺激の後、着座者が慣れを感じる所定時間を過ぎて覚醒を示す指標が基準値から外れた場合に、人間の心拍に同期する第1の刺激で前記着座者を刺激するように刺激装置を駆動することで、着座者が第1の刺激に慣れることの少ない時間では、心地良い刺激で着座者の覚醒を効果的に維持することができる。
【0024】
また、本発明によれば、第1の刺激が、人間の平均的な心拍情報から定められる刺激であり、予め定められた刺激であれば、着座者の心拍に同期させるためのプログラミング設定及び調整が不要となり、覚醒維持装置の生産効率を高めることができる。
【0025】
また、本発明によれば、制御装置が刺激装置を駆動することによって、第2の刺激が着座者に複数回付与されるようにすれば、着座者の覚醒の維持をより効果的に実現できる。
【0026】
また、本発明によれば、心拍センサが心電波形のR波の発生を検出するようにすると、R波は他のQ波、S波等に比べて振幅が大きく容易に検出されるため、制御装置は、心拍に同期する刺激を着座者に付与するように刺激装置を容易に制御することができる。
【0027】
また、本発明によれば、制御装置が過去に取得された心電位信号に基づいて刺激装置を駆動するようにすると、着座者の体動等のために、一時的に心電位信号を取得できない場合があっても、制御装置は、着座者に刺激を付与するように刺激装置を制御できる。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明に係る覚醒維持装置の実施形態について、添付の図面を参照して具体的に説明する。
【0030】
本実施形態に係る覚醒維持装置12は、
図1に示すように、主に、シートクッション102と、心拍センサ20と振動モータ(刺激装置)Mとを有するシートバック104と、を備える車両用シート10と、信号処理回路30と、振動モータMの動作を制御する制御装置70Cと、から構成されている。
【0031】
シートクッション102は、着座者80の座る部位に当たり、シートクッション102の後部(以下、車両の進行方向を前方向、その逆を後方向とする)にシートバック104が回動可能に取り付けられている。
【0032】
シートバック104内には、
図2に示すように、着座者80の心臓に対向する面の近傍に心拍センサ20が設けられ、その下方に振動モータMが設けられている。
【0033】
心拍センサ20は、着座者80に静電容量結合することによってその身体電位を検出するもので、導電性の金属導体、導電性繊維又は導電性布テープから成る。心拍センサ20は、シートバック104内に、2個の水平に配設されている。
【0034】
振動モータMは、アンバランスマスモータから成り、アンバランスマスの回転軸がシートバック104の幅方向に沿うように配設されている。振動モータMは、このように配設されていることで、動作時に、シートバック104を介して着座者80の背中に垂直向きの往復振動を加えることとなり、振動刺激が着座者80に効果的に付与される。
【0035】
信号処理回路30は、心拍センサ20に接続され、心拍センサ20から検出された身体電位を増幅し、電位差信号を出力し、心電周波数以外の電位差信号のノイズを除去し、デジタル信号に変換する機能を有する。
【0036】
制御装置70Cは、デジタル信号に変換された電位差信号を基に、振動モータMを駆動制御する機能を有し、演算制御用のCPU(Central Processing Unit)70CAと、RAM(Random Access Memory)70CBと、ROM(Read Only Memory)70CCと、を備える。また、制御装置70Cに入力される信号は、信号処理回路30によってデジタル信号に変換された電位差信号であり、出力されるものは、振動モータMを駆動するための電力である。
【0037】
RAM70CBは、演算制御中の信号及び入出力される信号を含むパラメータを一時記憶するもので、デジタル信号に変換された電位差信号その他の信号を格納する格納部700として機能を有する。
【0038】
ROM70CCは、CPU70CAが実行するプログラム及び所定値のパラメータを記憶するものである。ROM70CCには、心電波形データを生成する波形生成部702と、所定の基準値を設定する基準値設定部704と、基準値に基づき覚醒状態を判定する判定部706と、振動モータMを駆動する駆動部708とがプログラムとして記録されている。
【0039】
波形生成部702は、心拍センサ20から得られ、格納部700に格納された電位差信号を基に、
図3に示すような、電位差を縦軸、時間を横軸とする心電波形データVHを生成する機能を有する。ここで、
図3における心電波形データVHには、発生順にR波の信号R1,R2,R3,R4が現れている。以下、R波の信号の間隔を間隔RRI(R-R Interval)とし、特に、信号R1と信号R2との間隔を間隔RRI1とし、信号R2と信号R3との間隔を間隔RRI2とし、信号R3と信号R4との間隔を間隔RRI3とする。更に、間隔RRI1と間隔RRI2は、後述する覚醒度の判定に用いられる基準値を超えているものとし、間隔RRI3は、この基準値を超えていないものとする。
【0040】
基準値設定部704は、波形生成部702によって生成された心電波形データVHに基づき、覚醒状態の判定の基準となる基準値を設定する機能を有する。例えば、基準値設定部704は、前もって生成された心電波形データVHにおけるR波が発生する間隔RRIの所定回数における平均値を算出した後、算出された平均値の120%の時間を基準値として設定する。
【0041】
判定部706は、生成される心電波形データVHと基準値とを比較し、着座者80の覚醒状態を判定する機能を有する。
【0042】
駆動部708は、CPU70CAの指示に応じて電力を供給することにより振動モータMを駆動する機能を有する。駆動部708は、
図3に例示するように、心電波形データVHに間隔RRI1及び間隔RRI2が得られた場合には、アンバランスマスを瞬時的に回転駆動する。具体的には、駆動部708による瞬時的な回転駆動によって、アンバランスマスの回転は、加速度波形RAに示すように、0.3〜0.5Gまで加速した後、−0.3〜0.5Gの加速度になるまで減速する。この動作を約50ミリ秒程度の間継続して、シートバック104に振動を付与する。この振動によって生じる振動波形AVは、その周波数が約40Hzである。また、この駆動によっては、信号R2及び信号R3のそれぞれが取得されてからt1秒後に振動が始まる。振動波形AVが生じる間隔を間隔Tとすると、間隔Tは、信号R2と信号R3との間隔RRI2と略同じ間隔である。つまり、駆動部708が、心拍と同期する振動で振動モータMを駆動していることを示している。
【0043】
<第1の実施形態>
次に、着座者から得られた身体電位に基づいて覚醒低下状態を判定して心拍に同期する刺激を付与する第1の実施形態に係る覚醒状態維持処理について、
図3及び
図4を参照して説明する。
【0044】
まず、心拍センサ20は、車両のエンジンを始動又は不図示のスタートスイッチの押下に応じて、着座者80から身体電位を検出する。心拍センサ20によって検出された電位信号は、信号処理回路30を介して、制御装置70Cの格納部700に電位差データとして格納される。つまり、制御装置70Cが、電位差データを取得する(ステップS11)。
【0045】
次に、波形生成部702が、取得された電位差データに基づき、電位差と時間とを軸とする心電波形データVHを生成する(ステップS12)。
【0046】
次に、CPU70CAは、基準値が設定されているかどうかを確認する(ステップS13)。基準値が設定されていなければ(ステップS13:No)、基準値設定部704が、心電波形データVHにおけるR波が発生する間隔RRIの所定回数における平均値を算出した後、算出された平均値の120%の時間を基準値として設定する(ステップS14)。基準値を設定後、再度電位差データを取得するステップS11に戻る。
【0047】
ステップS13にて基準値が設定されていれば(ステップS13:Yes)、判定部706は、直前に得られた心電波形データVHにおけるR波の信号の間隔RRIが基準値を超えているかを判定する(ステップS15)。
【0048】
また、ステップS15にて、直前に得られた間隔RRIが基準値を超えていないと判定部706が判定した場合(ステップS15:No)、つまり、
図3に例示するように心電波形データVHにおいて間隔RRI3が得られた場合には、振動モータMを駆動させずに、電位差データを取得するステップS11に戻る。
【0049】
また、ステップS15にて、直前に得られた間隔RRIが基準値を超えていると判定部706が判定した場合(ステップS15:Yes)、駆動部708は、振動モータMへ電力を供給し、前記のように心拍信号と同期する振動、換言すると、R波の信号が得られてt1秒後に生じる振動で振動モータMを駆動する(ステップS16)。
【0050】
駆動部708は、約40Hzの振動周波数の振動となるように振動モータMを駆動し、約50ミリ秒程度継続して振動させる(ステップS17)。その後、駆動部708は、振動モータMを停止する(ステップS18)。
【0051】
次に、CPU70CAは、着座者80による不図示のストップスイッチの押下等による処理終了の指示があるかどうかを確認し(ステップS19)、指示がない場合(ステップS19:No)には電位差データを取得するステップS11に戻り、処理終了の指示がある場合(ステップS19:Yes)には処理を終了する。
【0052】
なお、ステップS14の基準値の設定ステップにて、心電波形データVHを構成する所定数の回数のR−R間隔の平均を算出し、その120%を基準値として設定するものとして説明したが、これに限定されない。例えば、着座者80の睡眠時(特に入眠時)に取得したデータに基づいて、基準値を設定するようにして、より精確な基準値を設定するようにしてもよい。また、この基準値の設定において、手入力によって設定又は設定変更できるようにすれば、ユーザビリティが高くなる。
【0053】
また、ステップS15の判定部706の判定では、直前に得られた一つの心電波形データVHのR−R間隔を基準値と比較するものとして説明したが、これに限定されない。判定の迅速性よりも、その信頼性を重視する場合には、例えば、前3,4回で得られた心電波形データVHのR−R間隔を平均したものと基準値と比較するものであってもよい。
【0054】
なお、CPU70CAは、ステップS16で、R波の信号が取得されてからt1秒後に振動が始まるようにして駆動部708を介して振動モータMを制御駆動することで、心拍信号と同期する振動制御をすることを説明したが、これに限られない。例えば、所定数のRRIの平均値に基づいて算出される心拍に同期する周期データ(例えばRRIの平均値の120%の時間)を格納部700に格納し、そのデータに基づいてCPU70CAが、駆動部708を介して振動モータMを同期振動させるように制御するものであってもよい。このようにすれば、例えば、覚醒度が低下している場合であって、体動等によって、心拍センサ20と着座者80の身体とが離間することにより、心電波形データVHからR波が取得されない場合であっても、振動モータMを駆動することができる。
【0055】
また、心拍に同期する刺激である第1の刺激は、人間の平均的な心拍情報(心電位、脈拍等)から定められる刺激であり、予め定められた刺激であってもよい。具体的には、人間の平均的な心拍値は、一分間当たり60〜90拍であり、周期は667ミリ秒から1000ミリ秒程度である。これに合わせて、振動モータMを駆動させて、着座者に刺激を付与するようにしてもいい。
【0056】
また、制御装置70Cは、R波の信号が取得された後の一定時間t1秒後にシートバック104に振動を付与するように制御をするものに限定されず、その振動付与のタイミングはR波から次に生じるR波間のどの時点でもよく、心拍情報に基づいて振動を付与する制御であればよい。例えば、制御装置70Cは、振動付与から次の振動を付与するまでの間隔を、検出された心拍の間隔(例えば、R波から次に生じるR波の間隔)と略同じ間隔となるように、振動を付与するように振動モータMを制御するものであってもよい。
【0057】
また、例えば、制御装置70Cは、後述するQRS波、又はQ波、R波若しくはS波の検出に基づくタイミングで、シートバック104に振動を付与する制御をするものであってもよい。なお、このタイミングは、所定時間のずれを許容するように設定されていてもよい。
【0058】
なお、QRS波とは、心室の電気的興奮を表す波形のことであり、Q波とR波とS波とを組み合わせた波形である。Q波とは、心電波形において、心臓の電気活動が弱い状態の際に発生する電位(ここでは基準電位という。)よりも低い電位側に振れる波形である。また、R波とは、Q波の次に現れる波形であり、基準電位よりも高い電位側に振れる波形である。S波とは、R波の次に現れる波形であり、基準電位よりも低い電位側に振れる波形である。
【0059】
更に、心電波形データVHにおけるQRS波が発生している時間に、振動モータMが振動するようにすると、より好適である。この振動付与方法について
図3に基づき具体的に説明する。
図3における、Q波の信号Q2が発生する時間からS波の信号S2が発生する時間である時間t2とする。この時間t2に、振動波形AVが現れている時間(換言すると、振動開始から約50ミリ秒間の時間)が重複するように、制御装置70Cの制御によって振動モータMを駆動させるようにすると、より不快感のない刺激を着座者80に付与することができる。
【0060】
このような制御は、例えば、制御装置70Cが、信号Q2又は信号R2の検出に応じて、信号S2が発生する前に、駆動部708によって振動モータMを駆動することによってなされる。その他、制御装置70Cが、前数回のQRS波の発生周期及び長さに基づいて、次に発生するQRS波の時間を予測して、時間t2の間に振動モータMを駆動するように制御するものであってもよい。
【0061】
(各種振動刺激に対する定量評価)
次に、上記のように心拍と同期させるようにして振動刺激を付与する場合(以下、同期振動による刺激を同期刺激とも記載)と、心拍に関わらずに、連続的に振動刺激を付与する場合(詳細は後述し、連続振動による刺激を連続刺激とも記載)及び断続的に振動刺激を付与する場合(詳細は後述し、断続振動による刺激を断続刺激とも記載)とを対比した定量評価試験について説明する。定量評価の指標には、着座者80の脳内における血中酸素飽和度(SpO
2)を用いた。
【0062】
定量評価試験は、
図5(A)及び
図5(B)に示すように、心拍センサ20と振動モータMとを有する車両用シート10と、信号処理回路30と、制御装置70Cと、を有する覚醒維持装置12、並びに、SpO
2センサ60、モニタ400及びステアリング50を備えるシミュレータ40によって行われた。
【0063】
SpO
2センサ60は、着座者80の頭部に貼着され、脳内のSpO
2を検出するものである。モニタ400は、車両及び運転時の風景を模したシミュレーション映像を表示している。ステアリング50はモニタ400に電気的に接続されており、着座者80によるステアリング50の操作に応じてシミュレーション映像内の車両の向きが変わる。
【0064】
(振動付与について)
図5(C)に示すように、心拍センサ20によってR波が検出された後、約50ミリ秒の間、CPU70CAによって駆動部708から振動モータMに5Vの電圧が供給される。そして、振動モータMが0.3Gをピークとする振動強度で振動する。このようにして、同期振動が付与される。
【0065】
各振動を付与した場合のSpO
2を比較した結果を
図6に示す。なお、
図6における網掛け部は、各モードの振動を付与した時間(本実施例においては、計測開始後3分から4分の時間)を示すものである。
【0066】
ここで、断続振動とは、付与時間及び強度は上記の同期振動と同じであり、同期振動の振動間隔とは異なる間隔で、振動モータMからシートバック104に断続的に供給される振動である。
【0067】
断続振動の付与時間及び強度について具体的に説明すると、アンバランスマスの回転速度は、上記のように、駆動部708による瞬時的な回転駆動によって、0.3〜0.5Gまで加速した後、−0.3〜0.5Gの加速度で減速する。このアンバランスマスの瞬時的な加速及び減速によってシートバック104に振動が加わる。断続振動の振動間隔については、一定の間隔であり、着座者80の心拍によらずに0.5秒間隔で振動が付与される。断続振動は、この動作を約50ミリ秒程度の間継続して、シートバック104に付与される振動である。また、この振動によって生じる振動波形AVは、その周波数が40Hzである。
【0068】
また、連続振動とは、振動モータMのアンバランスマスが所定の回転速度で回り続けることで、振動モータMからシートバック104に供給される連続的な振動である。
【0069】
次に、各刺激付与の開始前後の変化について具体的に言及する。なお、以下の説明で、刺激付与の開始前とは、
図6における計測開始後2.5分時を指し、刺激付与の開始後とは、
図6における計測開始後3.5分時を指すものとする。
【0070】
図6に示すように、SpO
2の数値は、同期刺激が着座者に付与される場合は、刺激付与の開始前後で略同じ数値のままであり、連続刺激及び断続刺激が着座者に付与される場合は、刺激付与の開始後に共に数値が低下している。このことは、同期刺激によっては着座者の覚醒が維持され、また、着座者のストレス状態について特に変化はないが、連続刺激及び断続刺激によっては着座者の覚醒が維持されず、刺激付与を開始した後に着座者をストレス状態にさせたことを示している。
【0071】
(各種振動刺激に対する主観評価)
上記の同期刺激、連続刺激及び断続刺激を受けた複数の被験者による主観評価の結果を、
図7及び
図8に示す。なお、
図7及び
図8には、同期刺激を「心拍同期」、連続刺激を「連続」、断続刺激を「断続」という項目で記載する。また、この
図7及び
図8は、箱ひげ図であり、各振動において、下端の横線の値は、複数の被験者から得られた数値のうち最も低い値であり、上端の横線の値は、複数の被験者から得られた数値のうち最も高い値である。また、方形の下辺が、第1四分位点に相当し、方形内にある太線の値が、第2四分位点(中央値)に相当し、方形の上辺の値は、第3四分位点に相当する。
【0072】
主観評価では、同期刺激は、
図7に示すように、他の振動刺激と比較して、人に好まれる刺激であり、また、
図8に示すように、気持ちの良い刺激、換言すると不快感がない刺激であるという結果が得られた。
【0073】
以上説明したように、本実施形態に係る覚醒維持装置12は、心拍に同期するように振動を着座者80に付与することで、着座者80に不快感のない刺激を付与すると共に、覚醒状態を維持させることができる。
しかしながら、短時間で心拍に同期する振動を繰り返し付与するようにすると、着座者がその刺激に慣れてしまう恐れがある。
そこで、着座者の刺激慣れを避けて、覚醒効果を長時間持続可能な第2の実施形態に係る覚醒維持処理について次に説明する。
【0074】
<第2の実施形態>
第2の実施形態に係る覚醒維持処理は、第1の実施形態に係る覚醒維持処理で説明した心拍に同期する刺激(同期刺激又は第1の刺激とも記載)の他に、心拍に同期しない刺激(以下、非同期刺激又は第2の刺激とも記載)を着座者に付与することを特徴とする。
つまり、第2の実施形態に係る覚醒維持処理は、第1の刺激の他に第2の刺激を一定の条件下で着座者に付与することで、第1の刺激に対する着座者の慣れを避けて、着座者の覚醒維持を効果的に実現することができる。
【0075】
ここで、一の例としての第2の刺激は、振動モータMの回転加速度の増減を心拍に同期しない周期で、一定の間隔をおいて周期的に行うようにして付与される。本実施例においては、
図9(A)に示すように、振動モータMを、200ミリ秒間振動させた後に、100ミリ秒間停止させることが周期的に行われる刺激である。
また、他の例としての第2の刺激は、
図9(B)に示すように、振動モータMの回転加速度の増減を連続的に行うようにして付与される。
以下において、第1の実施形態に係る覚醒維持処理と等しい処理については、説明の重複を避けるために説明しない。
【0076】
(覚醒状態維持処理)
次に、着座者から得られた身体電位に基づいて覚醒状態を判定し、第1の刺激と第2の刺激とを一定の条件に従って付与する覚醒状態維持処理について、
図10を参照して説明する。
【0077】
まず、心拍センサ20は、車両のエンジンを始動又は不図示のスタートスイッチの押下に応じて、着座者80から身体電位を検出する。心拍センサ20によって検出された電位信号は、信号処理回路30を介して、制御装置70Cの格納部700に電位差データとして格納される。つまり、制御装置70Cが、電位差データを取得する(ステップS21)。
【0078】
次に、波形生成部702が、取得された電位差データに基づき、電位差と時間とを軸とする心電波形データVHを生成する(ステップS22)。
【0079】
次に、CPU70CAは、基準値が設定されているかどうかを確認する(ステップS23)。基準値が設定されていなければ(ステップS23:No)、基準値設定部704が、心電波形データVHにおけるR波が発生する間隔RRIの所定回数における平均値を算出した後、算出された平均値の120%の時間を基準値として設定する(ステップS24)。基準値を設定後、再度電位差データを取得するステップS21に戻る。
【0080】
ステップS23で基準値が設定されていれば(ステップS23:Yes)、判定部706は、直前に得られた心電波形データVHにおけるR波の信号の間隔RRIが基準値を超えているかを判定する(ステップS25)。
【0081】
また、ステップS25で、直前に得られた間隔RRIが基準値を超えていないと判定部706が判定した場合(ステップS25:No)、つまり、
図3に例示するように心電波形データVHにおいて間隔RRI3が得られた場合には、CPU70CAは、振動モータMを駆動させずに、電位差データを取得するステップS21に戻る。
【0082】
また、ステップS25にて、直前に得られた間隔RRIが基準値を超えていると判定部706が判定した場合(ステップS25:Yes)、CPU70CAは、基準値超えが計測開始から初めてであるかを判断する(ステップS26)。
【0083】
CPU70CAは、基準値超えが初めてである場合(ステップS26:Yes)には、第1の刺激を付与するように、心拍信号と同期する振動、換言すると、R波の信号が得られてt1秒後に生じる振動で振動モータMを駆動する(ステップS27)。
【0084】
CPU70CAは、基準値超えが初めてでない場合(ステップS26:No)には、CPU70CAは、基準値を超えた時点が、前回第1の刺激を付与してから、例えば30分間の所定時間内であるかを判別する(ステップS28)。
【0085】
CPU70CAは、基準値を超えた時点が前回第1の刺激を付与してから所定時間以内であれば(ステップS28:Yes)、非同期刺激である周期的な刺激、又は連続的な刺激である第2の刺激を付与するように振動モータMを駆動する(ステップS29)。
また、CPU70CAは、今回の基準値超えの時点が前回第1の刺激を付与してから所定時間を超えていれば(ステップS28:No)、第1の刺激を付与するように振動モータMを駆動する(ステップS30)。
【0086】
駆動部708は、第1の刺激又は第2の刺激を、振動モータMを駆動して約50ミリ秒程度継続して振動させる(ステップS31)。その後、駆動部708は、振動モータMを停止する(ステップS32)。
【0087】
次に、CPU70CAは、着座者80による不図示のストップスイッチの押下等による処理終了の指示があるかどうかを確認し(ステップS33)、指示がない場合(ステップS33:No)には電位差データを取得するステップS21に戻り、処理終了の指示がある場合(ステップS33:Yes)には処理を終了する。
【0088】
上記の条件の基に、同期刺激と非同期刺激とを着座者に付与することで、
図11のグラフで示す着座者の眠気レベルを縦軸、時間を横軸として表されるように、着座者がその刺激に慣れることを妨げる効果が持続され、
図12に示された同期刺激のみを付与した場合と比べて、長期間、覚醒を維持する効果を奏することができる。
【0089】
つまり、同期刺激付与後の所定の時間内において、覚醒状態の低下が確認された場合には、同期刺激が連続して付与されることを避けて非同期刺激を付与することで、着座者が同期刺激に慣れることを避けることができ、且つ、着座者にとって同期刺激よりも違和感の強い非同期刺激によって覚醒を維持することができる。
更に、同期刺激付与後、着座者が刺激慣れを感じる所定の時間を経過した後に、覚醒状態の低下が確認された場合には、再度同期刺激を付与することによって、心地良い刺激で着座者の覚醒を維持することができる。
【0090】
なお、本発明の実施形態に係る覚醒維持装置について具体的に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。その要旨を逸脱しない範囲内で、各特徴を組み合わせる等種々の変更が可能である。
【0091】
例えば、着座者に与える第1の刺激又は第2の刺激として、アンバランスマスの回転によって振動刺激を付与する振動モータを例に説明したが、本発明はこれに限られず、例えば、音波によって振動刺激を付与するスピーカであってもよく、更に、電気的に神経を刺激する電極であってもよい。また、振動刺激に限らず、衝撃力による刺激、光等による刺激等であってもよい。
【0092】
また、第2の刺激を複数回付与するようにするとよい。特に、第2の刺激は、複数の互いに異なるタイミングの刺激で構成されており、複数回付与するようにすることで、単一タイミングの第2の刺激が付与されることによる第2の刺激の慣れを避けることもできる。
更に、第2の刺激については、心拍に同期しない周期の刺激、又は、連続的な刺激であるものとして説明した。しかし、第2の刺激は、これらに限定されず、心拍に同期しない刺激であればよく、不規則的な刺激、更には各パターンの刺激が連続的に組み合わせられた刺激であってもよい。
【0093】
また、第1の刺激の付与と第2の刺激の付与とを分けるための所定の時間を、上記では約30分間として説明したが、単に例示に過ぎず、着座者の覚醒維持を重視する場合には、この所定の時間を長くして第2の刺激を付与するケースを増やすと好適である。逆に、着座者の心地良さを重視する場合には、この所定の時間を短くして第1の刺激を付与するケースを増やすと好適である。
【0094】
なお、覚醒度の判定について、上記実施形態では、R−R変化で判定するものとして説明したが、心拍のゆらぎ(所定時間における心拍数分布の時間変化)によって判定したり、センサによって脳波を検出することによって判定したり、頭部の挙動を監視するカメラからの信号値に基づいて判定するようにしてもよい。
【0095】
また、着座者の覚醒状態の判断となる基準値はRRIに基づいて設定されるものとして説明したが、これに限定されない。例えば、カメラによって頭部の挙動を監視する場合には、その基準は、予め定められた入眠時の頭部の挙動データとし、撮影された頭部の挙動データの一致度合いによって、着座者の覚醒状態を判断するものでもよい。
【0096】
また、着座者への振動付与のタイミング決定に用いる心拍情報を心電波形データとし、覚醒状態の判定をR波の発生間隔を基準として行うものとした。このようにすることで、心拍情報その他の生体信号の取得手段を心拍センサのみとすることで、製造コストを低減できるため好ましいが、本発明は、覚醒状態に関わる生体信号を取得・使用し、心拍に同期するように振動を着座者に付与できればよく、覚醒状態の判定に用いる生体信号取得手段については、これに限定されない。例えば、覚醒状態の判定を、呼吸信号を取得するセンサを備えるようにして呼吸信号のピーク間隔を基準としたり、脈拍を検出するセンサを備えるようにして脈拍の間隔を基準としたり、脳波を取得するセンサを備えるようにして脳波を基準として行うようにしてもよい。