【実施例】
【0031】
図1は本発明の貯水池流入量予測システムの構成を示すブロック図である。
図1に示すように、本発明の貯水池流入量予測システムは、1mm出水量、ベース流入量、出水率、流入比率、流入量変化率、貯水池の名称、日ごとの降水量、一雨雨量、気温及び予測期間に関するデータが記憶された記憶装置1と、この記憶装置1に対しデータの読み出しや書き込みを行うとともに各種の処理を行う処理装置2と、この処理装置2に対して指示やデータを与える入力装置3と、入力装置3から入力されたデータや処理装置2で処理された内容を出力する出力装置4を備えている。
【0032】
処理装置2は、入力装置3から入力されたデータを記憶装置1に送るとともに、それに関連するデータを記憶装置1から読み出す制御手段2aと、予測期間内に所定の貯水池へ流れ込む水量を制御手段2aの指示に従って計算する演算手段2bなどによって構成されている。また、入力装置3はキーボードやマウスあるいはスキャナー等からなり、出力装置4はディスプレイやプリンタ等からなる。
【0033】
1mm出水量は貯水池ごとに決まる定数であり、貯水池の名称と対応付けられた状態で記憶装置1に記憶されている。ベース流入量は予測期間(季節)に応じて変化するだけでなく、貯水池ごとに異なるため、予測期間と貯水池ごとに分類された過去の実測データに基づいて求められ、予測期間及び貯水池の名称と対応付けられた状態で記憶装置1に記憶されている。
【0034】
一般に、ベース流入量と一雨雨量が同じでも、冬季に気温が所定の値を下回り、降雪が見込まれる場合には、その出水率は降水が見込まれる場合よりも小さい値になる。一方、降雪が見込まれたとしても気温が所定の値を上回り、融雪によって流入量が増加することが予想される場合には、その出水率は降水が見込まれる場合よりも大きい値になる。そこで、出水率は、貯水池、予測期間、ベース流入量、一雨雨量及び気温ごとに分類された過去の実測データに基づいて求められ、貯水池の名称、予測期間、ベース流入量、一雨雨量及び気温と対応付けられた状態で記憶装置1に記憶されている。
【0035】
流入比率は貯水池、予測期間及び一雨雨量ごとに分類された過去の実測データに基づいて求められ、貯水池の名称、予測期間及び一雨雨量と対応付けられた状態で記憶装置1に記憶されている。流入量変化率は、降水によって増加した流入量が再び元のベース流入量のレベルに戻った後の日ごとの割合を示す値であり、貯水池、予測期間、降水期間(降水が連続した日数)及び経過日数(降水後に経過した日数)ごとに分類された過去の実測データに基づいて求められ、貯水池の名称、予測期間、降水期間及び経過日数と対応付けられた状態で記憶装置1に記憶されている。
【0036】
次に、貯水池流入量の予測方法について
図2〜
図4を用いて説明する。
図2(a)は後述の式(3)を用いて流入量q
nを計算した結果の一例を示すグラフであり、
図2(b)はその計算の際に用いた「一雨雨量と出水率の関係」の一例を示すグラフである。また、
図3(a)及び
図3(b)は「降水後の日数と流入量変化率の関係」の一例を示すグラフであり、
図4は後述の式(4)を用いて流入量q
nを計算した結果の一例を示すグラフである。
【0037】
1日のみの降水によって増加した流入量が降水前のレベル(すなわち、元のベース流入量q
0[m
3/s])に再び戻るまでにm日を要した場合、n日目(n<m)の流入量q
n[m
3/s]は、降水量をd
0[mm]、1mm出水量をa[m
3/s]、出水率をb、流入比率をr
nとすると、次の式(1)で表わされる。ただし、nがm以上のときは、q
n=q
0である。
【0038】
【数1】
【0039】
連続してj日間の降水が見込まれる場合の日ごとの降水量をd
i(i=1〜j)とすると、一雨雨量dは式(2)で表わされる。予測期間の初日から降水が始まり、m日目(m>j)に元のベース流入量のレベルに戻るとすると、予測期間の初日からn日目(n<m)の流入量q
nは式(3)で表わされる。ただし、nがm以上のときは、q
n=q
0である。なお、式(1)又は式(3)におけるabは、降水によって日ごとに見込まれるベース流入量からの増加分の合計値の一雨雨量dに対する割合を示している。そこで、本願明細書では1mm出水量aと出水率bの積abを見込み係数というものとする。
【0040】
【数2】
【0041】
【数3】
【0042】
ある貯水池において予測期間内に降水が見込まれない場合、その予測期間内の日ごとの流入量は過去のベース流入量の実測値に基づけば比較的容易に予測することができる。一方、予測期間内に降水が見込まれる場合については、式(3)を用いることにより日ごとの流入量を予測できる。以下、具体的に説明する。
【0043】
予測期間の初日から連続して3日間(すなわち、j=3)の降水が見込まれ、6日目(すなわち、m=6)に流入量が降水前のレベルに戻ると予想される場合について、表1及び表2に示す数値を式(3)に代入して流入量q
nを求めた結果を
図2(a)に示す。なお、1mm出水量aは3[m
3/s]とした。また、出水率bは、例えば、
図2(b)に示すように、過去の実測データから求められた一雨雨量との関係に基づいて設定されるが、ここでは0.1とした。
図2(a)において、縦軸は流入量q
nを表し、横軸は予測期間の初日からの日数を表している。また、実線と破線と二点鎖線は、流入量の増加分を各降水ごとに示したものである。この図から、流入量は最も降水量が多い2日目に最大となることがわかる。
【0044】
【表1】
【0045】
【表2】
【0046】
予測期間内に複数回の連続した降水が見込まれる場合でも、次の連続した降水が始まるまでに流入量が降水前のレベルに戻ることが予想される場合には、n日目(n<m)の流入量q
nは式(3)によって求めることができる。しかし、流入量が降水前のレベルに戻る前に次の連続した降水が始まることが予想される場合には、式(3)だけでは次の降水後の流入量q
nを求めることができない。
【0047】
例えば、予測期間の初日から連続してj
1日間の降水が見込まれるとともに、m
1日目(j
1<m
1<m)の時点で流入量が降水前のレベルに戻っていない状態で、その翌日から連続してj
2日間の降水が見込まれる場合、m
1日目までの流入量q
nは式(3)によって求められるものの、m
1日目の翌日以降の流入量q
nは式(3)では求められない。そこで、このような場合のn日目(m
1<n)の流入量q
nを求める方法について、次に説明する。
【0048】
上述の場合に、2度目の降水によって増加した流入量が(m
1+m
2)日目にm
1日目の時点のレベルに戻るとすると、n日目(m
1<n<m
1+m
2)の流入量q
nは次の式(4)によって求められる。なお、nが(m
1+m
2)以上のときのq
nは
図3(a)や
図3(b)に示す「降水後の日数と流入量変化率の関係」に基づいて求められる。
【0049】
【数4】
【0050】
予測期間の初日から連続して3日間(すなわち、j
1=3)の降水が見込まれ、4日目(すなわち、m
1=4)の時点で流入量が降水前のレベルに戻っていないにもかかわらず、5日目から再び連続して2日間(すなわち、j
2=2)の降水が見込まれるとともに、次の連続した降水によって増加した流入量が7日目(すなわち、m
1+m
2=7)に4日目の時点のレベルに戻ることが予想される場合について、表3及び表4に示す数値を式(4)に代入して流入量q
nを求めた結果を
図4に示す。
なお、1mm出水量aは3[m
3/s]、出水率bは0.1とした。また、8日目以降の流入量の計算に用いた流入量変化率の具体的な値を表5に示す。
図4において、縦軸は流入量q
nを表し、横軸は予測期間の初日からの日数を表している。また、実線と破線と二点鎖線は、最初の連続した降水と次の連続した降水によってそれぞれ増加した流入量を示している。
【0051】
【表3】
【0052】
【表4】
【0053】
【表5】
【0054】
2日以上連続した降水が見込まれる場合には、流入比率r
kの代わりに、流入比率p
nを用いても良い。この流入比率p
nは、予測期間と一雨雨量とともに降水期間と最大降水日(降水量が最大となる日)ごとに分類された過去の実測データから求められる。この場合、流入比率p
nは、予測期間、一雨雨量、降水期間及び最大降水日と対応付けられた状態で記憶装置1に記憶されることになる。流入比率p
nの値の一例(予測期間は6/11〜7/20)を表6に示す。
なお、流入比率r
kの代わりに流入比率p
nを用いる場合には、式(3)及び式(4)の代わりに、それぞれ式(5)及び式(6)を用いることになる。
【0055】
【表6】
【0056】
【数5】
【0057】
【数6】
【0058】
次に、貯水池流入量予測システムの動作について、
図6を適宜参照しながら
図5を用いて説明する。
図5は本発明の貯水池流入量予測システムの操作手順を示すフローチャートであり、
図6は処理装置2の機能を説明するためのブロック図である。また、
図7(a)及び
図7(b)はそれぞれデータ入力画面及び計算結果表示画面の一例を示した図である。なお、
図1に示した構成要素については、同一の符号を付してその説明を省略する。
【0059】
図6に矢印Aで示すように、入力装置3から基本データ(貯水池の名称、予測期間、気温及び降水が見込まれる場合にはさらに降水量と降水期間)が入力される(
図7(a)参照)と、これらの情報は矢印Bで示すように制御手段2aを介して演算手段2bに送られる(
図5のステップS1)。演算手段2bでは、制御手段2aの指示に従って式(2)に基づいて一雨雨量が計算される。その結果は、矢印Cで示すように演算手段2bから制御手段2aに送られ、上述の他の基本データとともに矢印Dで示すように記憶装置1に送られる。そして、これらのデータに対応付けられた状態で記憶されているデータが記憶装置1から読み出され、矢印Eで示すように制御手段2aに送られる。すなわち、ステップS1において、基本データを入力すると、流入量の予測対象である貯水池と予測期間が特定され、1mm出水量、ベース流入量、出水率、流入比率、流入量変化率に関し、制御手段2aから受け取ったデータに対応する値が記憶装置1から読み出されるのである。
【0060】
記憶装置1から制御手段2aに送られたデータは、さらに矢印Bで示すように演算手段2bに送られ、演算手段2bでは、制御手段2aの指示に従って式(1)や式(3)あるいは式(4)に基づいて予測期間内の任意の日における流入量が計算される(
図5のステップS2)。なお、前述したように、流入比率が、予測期間、一雨雨量、降水期間及び最大降水日と対応付けられた状態で記憶装置1に記憶されている場合には、ステップS1で基本データとして入力された降水量から最大降水日が特定されるため、この流入比率を用いて式(5)や式(6)から上記流入量が算出される。
【0061】
このようにして求められた流入量は、矢印Cで示すように演算手段2bから制御手段2aに送られ、さらに矢印Dで示すように記憶手段1に送られて記憶される。また、制御手段2aは入力装置3からの指示に従って、矢印Fで示すように上記流入量の計算結果を出力装置4に送る。その結果、例えば、
図7(b)に示すように流入量の計算結果がディスプレイの画面上に表示される(
図5のステップS3)。
【0062】
以上説明したように、本発明の貯水池流入量予測システムでは、気象庁が発表する天気予報等から得られる日ごとの降水量とともに予測期間と貯水池の名称が入力装置から入力されて特定されると、処理装置によって、一雨雨量が算出されるとともに、この一雨雨量と期間と貯水池に対応する演算用データが記憶装置から読み出されて当該期間内における貯水池への流入量の日ごとの予測値が算出される。
したがって、経験の浅い担当者であっても期間の長さによらず、所定の期間内における貯水池への日ごとの流入量を精度よく予測することができる。そのため、ゲリラ豪雨等の発生が予想される場合にも適切に対応することができる。また、無効放流の発生を確実に防ぐことが可能である。
そして、これらの作用及び効果は、予測期間中に複数回の連続した降水が見込まる場合や冬季において降雪や融雪が発生すると予想される場合についても同様に発揮される。