特許第6429119号(P6429119)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6429119貯水池流入量予測システム及び貯水池流入量予測方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6429119
(24)【登録日】2018年11月9日
(45)【発行日】2018年11月28日
(54)【発明の名称】貯水池流入量予測システム及び貯水池流入量予測方法
(51)【国際特許分類】
   E02B 3/00 20060101AFI20181119BHJP
   G01W 1/00 20060101ALI20181119BHJP
【FI】
   E02B3/00
   G01W1/00 Z
【請求項の数】8
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2015-5140(P2015-5140)
(22)【出願日】2015年1月14日
(65)【公開番号】特開2016-130428(P2016-130428A)
(43)【公開日】2016年7月21日
【審査請求日】2017年12月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000211307
【氏名又は名称】中国電力株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100111132
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 浩
(72)【発明者】
【氏名】有富 真治
(72)【発明者】
【氏名】明石 勝樹
(72)【発明者】
【氏名】杉本 裕
【審査官】 亀谷 英樹
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−167751(JP,A)
【文献】 特開2005−055400(JP,A)
【文献】 特開2010−211527(JP,A)
【文献】 特開昭51−047450(JP,A)
【文献】 特開2013−079530(JP,A)
【文献】 特開2011−180899(JP,A)
【文献】 特開平08−219828(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2005/0071139(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02B 3/00
G01W 1/00
G01W 1/14
G01N 27/00−27/10
G01N 27/14−27/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の貯水池に対して所定の期間内に流れ込む水の量(流入量)の日ごとの予測値を求める貯水池流入量予測システムであって、
前記貯水池における前記期間ごとの水位の実測値から算出された演算用データを記憶する記憶装置と、
この記憶装置から読み出した前記演算用データに基づいて演算を行う処理装置と、
この処理装置に対する指示や基本データの入力に用いられる入力装置と、
前記処理装置による演算結果を出力する出力装置と、を備え、
前記演算用データは、
降水が無い状態での日ごとの流入量を示すベース流入量と、
一雨雨量(降水期間中における日ごとの降水量の合計値)に対する、連続した降水によって日ごとに見込まれる前記ベース流入量からの増加分の合計値の割合を示す見込み係数と、
連続した降水によって増加した前記流入量が降水前のレベルに戻るまでの間における前記見込み係数の日ごとの割合を示す流入比率と、からなり、
前記ベース流入量は、前記期間と前記貯水池の名称に対応付けられた状態で前記記憶装置に記憶され、
前記見込み係数は、前記期間と前記貯水池の名称と前記ベース流入量と前記一雨雨量に対応付けられた状態で前記記憶装置に記憶され、
前記流入比率は、前記期間と前記貯水池の名称と前記一雨雨量に対応付けられた状態で前記記憶装置に記憶され、
前記処理装置は、前記入力装置から前記基本データとして入力された前記期間と前記貯水池の名称と前記日ごとの降水量に対応する前記演算用データを前記記憶装置から読み出した後、前記日ごとの降水量に前記見込み係数及び前記流入比率を乗じて求めた値に前記ベース流入量を加えることにより前記流入量の日ごとの予測値を算出することを特徴とする貯水池流入量予測システム。
【請求項2】
第1の連続した降水の後に第2の連続した降水が発生するなど、前記期間中に複数回の連続した降水が見込まれる場合において、
前記処理装置は、前記第2の降水が始まった後、その降水によって増加した前記流入量がその降水が始まる直前のレベルに戻るまでの間における前記流入量の日ごとの予測値を、前記日ごとの降水量に前記見込み係数及び前記流入比率を乗じて求めた値を前記第2の連続した降水が始まった時点の流入量に加えることによって算出することを特徴とする請求項1記載の貯水池流入量予測システム。
【請求項3】
降水によって増加した前記流入量が降水前のレベルに戻った後の日ごとの割合を示す流入量変化率が前記演算用データとして、前記期間と前記貯水池の名称と前記降水期間と降水後の経過日数に対応付けられた状態で前記記憶装置に記憶され、
前記処理装置は、前記入力装置から前記基本データとして入力された前記期間と前記貯水池の名称と前記日ごとの降水量と前記降水期間と前記降水後の経過日数に対応する前記流入量変化率を前記記憶装置から読み出した後、前記第2の連続した降水が始まった時点における前記流入量に前記流入量変化率を乗じて求めた値を用いて、前記第2の連続した降水によって増加した前記流入量が降水前のレベルに戻った後の前記流入量の日ごとの予測値を算出することを特徴とする請求項2記載の貯水池流入量予測システム。
【請求項4】
前記見込み係数は、前記期間と前記貯水池の名称と前記ベース流入量と前記一雨雨量ともに前記期間中の日ごとの気温と対応付けられた状態で前記記憶装置に記憶され、
前記処理装置は、前記入力装置から前記基本データとして入力された前記期間と前記貯水池の名称と日ごとの前記降水量及び前記気温に対応する前記演算用データを前記記憶装置から読み出して、前記流入量の日ごとの予測値を算出することを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の貯水池流入量予測システム。
【請求項5】
水位の実測値から算出された演算用データに基づいて所定の期間内に貯水池へ流れ込む水の量(流入量)の日ごとの予測値を求める貯水池流入量予測方法であって、
前記演算用データは、
降水が無い状態での日ごとの流入量を前記期間と前記貯水池ごとに示すベース流入量と、
一雨雨量(降水期間中における日ごとの降水量の合計値)に対する、連続した降水によって日ごとに見込まれる前記ベース流入量からの増加分の合計値の割合を前記期間と前記貯水池と前記ベース流入量と前記一雨雨量ごとに示す見込み係数と、
連続した降水によって増加した前記流入量が降水前のレベルに戻るまでの間における前記見込み係数の日ごとの割合を前記期間と前記貯水池と前記一雨雨量ごとに示す流入比率と、からなり、
前記日ごとの降水量に前記見込み係数及び前記流入比率を乗じて求めた値に前記ベース流入量を加えることにより前記流入量の日ごとの予測値を算出することを特徴とする貯水池流入量予測方法。
【請求項6】
第1の連続した降水の後に第2の連続した降水が発生するなど、前記期間中に複数回の連続した降水が見込まれる場合において、
前記第2の降水が始まった後、その降水によって増加した前記流入量がその降水が始まる直前のレベルに戻るまでの間における前記流入量の日ごとの予測値を、前記日ごとの降水量に前記見込み係数及び前記流入比率を乗じて求めた値を前記第2の連続した降水が始まった時点の流入量に加えることによって算出することを特徴とする請求項5記載の貯水池流入量予測方法。
【請求項7】
降水によって増加した前記流入量が降水前のレベルに戻った後の日ごとの割合を前記期間と前記貯水池と前記降水期間と降水後の経過日数ごとに示す流入量変化率を前記演算用データとし、
この流入量変化率を前記第2の連続した降水が始まった時点における前記流入量に乗じて求めた値を用いて、前記第2の連続した降水によって増加した前記流入量がその降水が始まる直前のレベルに戻った後の前記流入量の日ごとの予測値を算出することを特徴とする請求項6記載の貯水池流入量予測方法。
【請求項8】
前記見込み係数は、前記期間と前記貯水池の名称と前記ベース流入量と前記一雨雨量ともに前記期間中の日ごとの気温と対応付けられた値であることを特徴とする請求項5乃至請求項7のいずれか1項に記載の貯水池流入量予測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水力発電に使用される貯水池の運用計画を作成する際に用いられる貯水池流入量予測システム及び貯水池流入予測方法に係り、特に、経験の少ない担当者でも貯水池に流れ込む水の量(以下、単に流入量という。)の日ごとの予測値を精度よく求めることが可能な貯水池流入量予測システム及び貯水池流入量予測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ダムの上流域に降った雨や雪はダムの貯水量に大きな影響を与える。そのため、ダムを発電用貯水池とする水力発電所では、貯水池の運用計画を作成する際に、降雨や降雪(以下、降水という。)の影響を考慮して貯水池への流入量を予測している。しかしながら、流入量の予測は容易でなく、担当者の経験が浅い場合には、流入量の予測を誤ってしまい、無効放流(発電に有効に利用できない放流)が発生することがあった。
【0003】
このような課題を解決するものとして、例えば、特許文献1には、「流入量予測装置、流入量予測方法、及びプログラム」という名称で、融雪期における貯水池への流入量を精度良く予測するシステムに関する発明が開示されている。
この特許文献1に開示された「流入量予測方法」は、最高気温と最低気温との差に応じた気温を算出し、この気温に応じた予測式を用いて、融雪期における貯水池への流入量を予測することを特徴としている。
【0004】
また、特許文献2には、「貯水池運用計画作成方法及び装置」という名称で、作業者の経験の有無に関わらず、効率的な貯水池の年間運用計画を作成することが可能な方法と装置に関する発明が開示されている。
特許文献2に開示された「貯水池運用計画作成方法」は、貯水池の過去の降雨量、貯水位、流入量、放流量、発電使用量、ゲート放流量及び責任放流量の実績データに基づいて貯水池の貯水量の予測データを作成するステップを備えたことを特徴としている。
【0005】
さらに、特許文献3には、「ダム流入量予測方法および装置」という名称で、操作員から与えられる推定雨量を考慮してパラメータを決定し、精度よくダム流入量の予測をすることが可能な方法と装置に関する発明が開示されている。
特許文献3に開示された「ダム流入量予測方法」は、実測雨量と推定雨量の時系列からなる対象降雨パターンに対し、複数の雨量パターンの中から類似しているパターンを選択し、この選択されたパターンに対応する流入量算出係数を用いて、所定時間後のダム流入量を算出する構成となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2013−79530号公報
【特許文献2】特開2011−180899号公報
【特許文献3】特開平8−219828号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1乃至特許文献3に記載された発明では、流入量の予測を行う期間(以下、単に予測期間という。)が、例えば、1週間というような短い期間の場合には適用することができない。さらに、貯水池への流入量の日ごとの予測値を精度よく求めることができないという課題があった。
本発明はかかる従来の事情に対処してなされたものであって、経験の少ない担当者でも貯水池への流入量の週間の予測値を精度よく求めることが可能な貯水池流入量予測システム及び貯水池流入量予測方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
河川等を通して貯水池へ流れ込む水の量は、降水の有無、貯水池の場所、予測期間等によっても異なるが、貯水池の水位を実測すれば、容易に求めることができる。そして、「降水によって実際に増加した流入量」は、「降水があった場合の流入量」から「降水が無かった場合の流入量(以下、ベース流入量という。)」を差し引くことによって求められる。
【0009】
これに対し、「降水によって増加が見込まれる流入量」は、気象庁等が発表する「日ごとの降水量」に基づいて求められる「一雨雨量(降り始めから降り終わりまでの合計雨量)」と、貯水池へ流れ込む河川の流域面積等に基づいて貯水池ごとに求められる「1mm出水量(1mmの降水によって増加が見込まれる流入量)」の積として求められる。
また、「降水によって増加が見込まれる流入量」に対する「降水によって実際に増加した流入量」の比として「出水率」が求められる。さらに、降水によって一旦増加した流入量は、やがて元のベース流入量のレベルに戻ることになるが、その間の流入量の推移に基づいて「日ごとの出水率の割合(以下、流入比率という。)」が求められる。
【0010】
そこで、気象庁が発表する天気予報等から得られる日ごとの降水量や気温と、過去の統計データに基づいて求められた出水率や流入比率を用いることにより、上記目的が達成される。
具体的に説明すると、請求項1記載の発明は、所定の貯水池に対して所定の期間内に流れ込む水の量(流入量)の日ごとの予測値を求める貯水池流入量予測システムであって、貯水池における期間ごとの水位の実測値から算出された演算用データを記憶する記憶装置と、この記憶装置から読み出した演算用データに基づいて演算を行う処理装置と、この処理装置に対する指示や基本データの入力に用いられる入力装置と、処理装置による演算結果を出力する出力装置と、を備え、演算用データは、降水が無い状態での日ごとの流入量を示すベース流入量と、一雨雨量(降水期間中における日ごとの降水量の合計値)に対する、連続した降水によって日ごとに見込まれるベース流入量からの増加分の合計値の割合を示す見込み係数と、連続した降水によって増加した流入量が降水前のレベルに戻るまでの間における見込み係数の日ごとの割合を示す流入比率と、からなり、ベース流入量は、期間と貯水池に対応付けられた状態で記憶装置に記憶され、見込み係数は、期間と貯水池とベース流入量と一雨雨量に対応付けられた状態で記憶装置に記憶され、流入比率は、期間と貯水池と一雨雨量に対応付けられた状態で記憶装置に記憶され、処理装置は、入力装置から基本データとして入力された期間と貯水池の名称と日ごとの降水量に対応する演算用データを記憶装置から読み出した後、日ごとの降水量に見込み係数及び流入比率を乗じて求めた値にベース流入量を加えることにより流入量の日ごとの予測値を算出することを特徴とするものである。
【0011】
上記構成の貯水池流入量予測システムにおいては、気象庁が発表する天気予報等から得られる日ごとの降水量とともに期間(前述の予測期間)と貯水池の名称が入力装置から入力されると、処理装置によって、一雨雨量が算出されるとともに、この一雨雨量と期間と貯水池に対応する演算用データが記憶装置から読み出されて当該期間内における貯水への流入量の日ごとの予測値が算出されるという作用を有する。
【0012】
また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の貯水池流入量予測システムにおいて、第1の連続した降水の後に第2の連続した降水が発生するなど、期間中に複数回の連続した降水が見込まれる場合において、処理装置は、第2の降水が始まった後、その降水によって増加した流入量がその降水が始まる直前のレベルに戻るまでの間における流入量の日ごとの予測値を、日ごとの降水量に見込み係数及び流入比率を乗じて求めた値を第2の連続した降水が始まった時点の流入量に加えることによって算出することを特徴とするものである。
【0013】
このように構成された貯水池流入量予測システムによれば、第1の連続した降水によって増加した流入量が降水前のレベルに戻る前に、第2の連続した降水が発生すると予想される場合であっても、第2の降水が第2の降水が始まった後、その降水によって増加した流入量がその降水が始まる直前のレベルに戻るまでの間において請求項1記載の発明の作用が同様に発揮される。
【0014】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の貯水池流入量予測システムにおいて、降水によって増加した流入量が降水前のレベルに戻った後の日ごとの割合を示す流入量変化率が演算用データとして、期間と貯水池と降水期間と降水後の経過日数に対応付けられた状態で記憶装置に記憶され、処理装置は、入力装置から基本データとして入力された期間と貯水池の名称と日ごとの降水量と降水期間と降水後の経過日数に対応する流入量変化率を記憶装置から読み出した後、第2の連続した降水が第2の降水が始まった時点における流入量に流入量変化率を乗じて求めた値を用いて、第2の連続した降水によって増加した流入量がその降水が始まる直前のレベルに戻った後の流入量の日ごとの予測値を算出することを特徴とするものである。
【0015】
このように構成された貯水池流入量予測システムによれば、第1の連続した降水によって増加した流入量が降水前のレベルに戻る前に、第2の連続した降水が発生すると予想される場合であっても、第2の連続した降水によって増加した流入量がその降水が始まる直前のレベルに戻った後において、請求項1記載の発明の作用が同様に発揮される。
【0016】
請求項4に記載の発明は、請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の貯水池流入量予測システムにおいて、見込み係数は、期間と貯水池の名称とベース流入量と一雨雨量ともに期間中の日ごとの気温と対応付けられた状態で記憶装置に記憶され、処理装置は、入力装置から基本データとして入力された期間と貯水池の名称と日ごとの降水量及び気温に対応する演算用データを記憶装置から読み出して、流入量の日ごとの予測値を算出することを特徴とするものである。
このように構成された貯水池流入量予測システムシステムにおいては、冬季に降雪や融雪が発生すると予想される場合であっても請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載された発明の作用が同様に発揮される。
【0017】
請求項5に記載の発明は、水位の実測値から算出された演算用データに基づいて所定の期間内に貯水池へ流れ込む水の量(流入量)の日ごとの予測値を求める貯水池流入量予測方法であって、演算用データは、降水が無い状態での日ごとの流入量を期間と貯水池ごとに示すベース流入量と、一雨雨量(降水期間中における日ごとの降水量の合計値)に対する、連続した降水によって日ごとに見込まれるベース流入量からの増加分の合計値の割合を期間と貯水池とベース流入量と一雨雨量ごとに示す見込み係数と、連続した降水によって増加した流入量が降水前のレベルに戻るまでの間における見込み係数の日ごとの割合を期間と貯水池と一雨雨量ごとに示す流入比率と、からなり、日ごとの降水量に見込み係数及び流入比率を乗じて求めた値にベース流入量を加えることにより流入量の日ごとの予測値を算出することを特徴とするものである。
上記構成の発明は、請求項1に記載された物の発明を方法の発明として捉えたものであるため、請求項1に記載の発明と同様の作用を有する。
【0018】
請求項6に記載の発明は、請求項5に記載の貯水池流入量予測方法において、第1の連続した降水の後に第2の連続した降水が発生するなど、期間中に複数回の連続した降水が見込まれる場合において、第2の降水が始まった後、その降水によって増加した流入量がその降水が始まる直前のレベルに戻るまでの間における流入量の日ごとの予測値を、日ごとの降水量に見込み係数及び流入比率を乗じて求めた値を第2の連続した降水が始まった時点の流入量に加えることによって算出することを特徴とするものである。
上記構成の発明は、請求項2に記載された物の発明を方法の発明として捉えたものであるため、請求項2に記載の発明と同様の作用を有する。
【0019】
請求項7に記載の発明は、請求項6に記載の貯水池流入量予測方法において、降水によって増加した流入量が降水前のレベルに戻った後の日ごとの割合を期間と貯水池と降水期間と降水後の経過日数ごとに示す流入量変化率を演算用データとし、この流入量変化率を第2の連続した降水が始まった時点における流入量に乗じて求めた値を用いて、第2の連続した降水によって増加した流入量がその降水が始まる直前のレベルに戻った後の流入量の日ごとの予測値を算出することを特徴とするものである。
上記構成の発明は、請求項3に記載された物の発明を方法の発明として捉えたものであるため、請求項3に記載の発明と同様の作用を有する。
【0020】
請求項8に記載の発明は、請求項5乃至請求項7のいずれか1項に記載の貯水池流入量予測方法において、見込み係数は、期間と貯水池の名称とベース流入量と一雨雨量ともに期間中の日ごとの気温と対応付けられた値であることを特徴とするものである。
上記構成の発明は、請求項4に記載された物の発明を方法の発明として捉えたものであるため、請求項4に記載の発明と同様の作用を有する。
【発明の効果】
【0021】
請求項1に記載の発明によれば、経験の浅い担当者であっても期間の長さによらず、所定の期間内における貯水池への日ごとの流入量を精度よく予測することができる。そのため、ゲリラ豪雨等の発生が予想される場合にも適切に対応することができる。また、無効放流の発生を確実に防ぐことが可能である。
【0022】
本発明の請求項2に記載の発明によれば、第1の連続した降水によって増加した流入量が降水前のレベルに戻る前に、第2の連続した降水が発生すると予想される場合であっても、第2の降水が始まった後、その降水によって増加した流入量がその降水が始まる直前のレベルに戻るまでの間において請求項1記載の発明の効果が同様に発揮される。
【0023】
請求項3に記載の発明によれば、第1の連続した降水によって増加した流入量が降水前のレベルに戻る前に、第2の連続した降水が発生すると予想される場合であっても、第2の連続した降水によって増加した流入量がその降水が始まる直前のレベルに戻った後において、請求項1記載の発明の効果が同様に発揮される。
【0024】
本発明の請求項4に記載の発明によれば、冬季に降雪や融雪が発生すると予想される場合であっても請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載された発明の効果が同様に発揮される。
【0025】
請求項5に記載された発明は、請求項1に記載された物の発明を方法の発明として捉えたものであるため、請求項1に記載の発明と同様の効果を奏する。
【0026】
請求項6に記載された発明は、請求項2に記載された物の発明を方法の発明として捉えたものであるため、請求項2に記載の発明と同様の効果を奏する。
【0027】
請求項7に記載された発明は、請求項3に記載された物の発明を方法の発明として捉えたものであるため、請求項3に記載の発明と同様の効果を奏する。
【0028】
請求項8に記載された発明は、請求項4に記載された物の発明を方法の発明として捉えたものであるため、請求項4に記載の発明と同様の効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】本発明の貯水池流入量予測システムの構成の一例を示すブロック図である。
図2】(a)は本発明の貯水池流入量予測方法を用いて貯水池流入量を計算した結果の一例を示すグラフであり、(b)はその計算の際に用いた「一雨雨量と出水率の関係」の一例を示すグラフである。
図3】(a)及び(b)は「降水後の日数と流入量変化率の関係」の一例を示すグラフである。
図4】本発明の貯水池流入量予測方法を用いて貯水池流入量を計算した結果の一例を示すグラフである。
図5】本発明の貯水池流入量予測システムの操作手順の一例を示すフローチャートである。
図6】本発明の貯水池流入量予測システムを構成する処理装置の機能を説明するためのブロック図である。
図7】(a)及び(b)はそれぞれ本発明の貯水池流入量予測システムにおけるデータ入力画面及び計算結果表示画面の一例を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明の貯水池流入量予測システムの構成とそれに基づく作用及び効果と、そのシステムにおいて使用される貯水池流入量の予測方法について図1図7を用いて具体的に説明する。
【実施例】
【0031】
図1は本発明の貯水池流入量予測システムの構成を示すブロック図である。
図1に示すように、本発明の貯水池流入量予測システムは、1mm出水量、ベース流入量、出水率、流入比率、流入量変化率、貯水池の名称、日ごとの降水量、一雨雨量、気温及び予測期間に関するデータが記憶された記憶装置1と、この記憶装置1に対しデータの読み出しや書き込みを行うとともに各種の処理を行う処理装置2と、この処理装置2に対して指示やデータを与える入力装置3と、入力装置3から入力されたデータや処理装置2で処理された内容を出力する出力装置4を備えている。
【0032】
処理装置2は、入力装置3から入力されたデータを記憶装置1に送るとともに、それに関連するデータを記憶装置1から読み出す制御手段2aと、予測期間内に所定の貯水池へ流れ込む水量を制御手段2aの指示に従って計算する演算手段2bなどによって構成されている。また、入力装置3はキーボードやマウスあるいはスキャナー等からなり、出力装置4はディスプレイやプリンタ等からなる。
【0033】
1mm出水量は貯水池ごとに決まる定数であり、貯水池の名称と対応付けられた状態で記憶装置1に記憶されている。ベース流入量は予測期間(季節)に応じて変化するだけでなく、貯水池ごとに異なるため、予測期間と貯水池ごとに分類された過去の実測データに基づいて求められ、予測期間及び貯水池の名称と対応付けられた状態で記憶装置1に記憶されている。
【0034】
一般に、ベース流入量と一雨雨量が同じでも、冬季に気温が所定の値を下回り、降雪が見込まれる場合には、その出水率は降水が見込まれる場合よりも小さい値になる。一方、降雪が見込まれたとしても気温が所定の値を上回り、融雪によって流入量が増加することが予想される場合には、その出水率は降水が見込まれる場合よりも大きい値になる。そこで、出水率は、貯水池、予測期間、ベース流入量、一雨雨量及び気温ごとに分類された過去の実測データに基づいて求められ、貯水池の名称、予測期間、ベース流入量、一雨雨量及び気温と対応付けられた状態で記憶装置1に記憶されている。
【0035】
流入比率は貯水池、予測期間及び一雨雨量ごとに分類された過去の実測データに基づいて求められ、貯水池の名称、予測期間及び一雨雨量と対応付けられた状態で記憶装置1に記憶されている。流入量変化率は、降水によって増加した流入量が再び元のベース流入量のレベルに戻った後の日ごとの割合を示す値であり、貯水池、予測期間、降水期間(降水が連続した日数)及び経過日数(降水後に経過した日数)ごとに分類された過去の実測データに基づいて求められ、貯水池の名称、予測期間、降水期間及び経過日数と対応付けられた状態で記憶装置1に記憶されている。
【0036】
次に、貯水池流入量の予測方法について図2図4を用いて説明する。
図2(a)は後述の式(3)を用いて流入量qを計算した結果の一例を示すグラフであり、図2(b)はその計算の際に用いた「一雨雨量と出水率の関係」の一例を示すグラフである。また、図3(a)及び図3(b)は「降水後の日数と流入量変化率の関係」の一例を示すグラフであり、図4は後述の式(4)を用いて流入量qを計算した結果の一例を示すグラフである。
【0037】
1日のみの降水によって増加した流入量が降水前のレベル(すなわち、元のベース流入量q[m/s])に再び戻るまでにm日を要した場合、n日目(n<m)の流入量q[m/s]は、降水量をd[mm]、1mm出水量をa[m/s]、出水率をb、流入比率をrとすると、次の式(1)で表わされる。ただし、nがm以上のときは、q=qである。
【0038】
【数1】
【0039】
連続してj日間の降水が見込まれる場合の日ごとの降水量をd(i=1〜j)とすると、一雨雨量dは式(2)で表わされる。予測期間の初日から降水が始まり、m日目(m>j)に元のベース流入量のレベルに戻るとすると、予測期間の初日からn日目(n<m)の流入量qは式(3)で表わされる。ただし、nがm以上のときは、q=qである。なお、式(1)又は式(3)におけるabは、降水によって日ごとに見込まれるベース流入量からの増加分の合計値の一雨雨量dに対する割合を示している。そこで、本願明細書では1mm出水量aと出水率bの積abを見込み係数というものとする。
【0040】
【数2】
【0041】
【数3】
【0042】
ある貯水池において予測期間内に降水が見込まれない場合、その予測期間内の日ごとの流入量は過去のベース流入量の実測値に基づけば比較的容易に予測することができる。一方、予測期間内に降水が見込まれる場合については、式(3)を用いることにより日ごとの流入量を予測できる。以下、具体的に説明する。
【0043】
予測期間の初日から連続して3日間(すなわち、j=3)の降水が見込まれ、6日目(すなわち、m=6)に流入量が降水前のレベルに戻ると予想される場合について、表1及び表2に示す数値を式(3)に代入して流入量qを求めた結果を図2(a)に示す。なお、1mm出水量aは3[m/s]とした。また、出水率bは、例えば、図2(b)に示すように、過去の実測データから求められた一雨雨量との関係に基づいて設定されるが、ここでは0.1とした。
図2(a)において、縦軸は流入量qを表し、横軸は予測期間の初日からの日数を表している。また、実線と破線と二点鎖線は、流入量の増加分を各降水ごとに示したものである。この図から、流入量は最も降水量が多い2日目に最大となることがわかる。
【0044】
【表1】
【0045】
【表2】
【0046】
予測期間内に複数回の連続した降水が見込まれる場合でも、次の連続した降水が始まるまでに流入量が降水前のレベルに戻ることが予想される場合には、n日目(n<m)の流入量qは式(3)によって求めることができる。しかし、流入量が降水前のレベルに戻る前に次の連続した降水が始まることが予想される場合には、式(3)だけでは次の降水後の流入量qを求めることができない。
【0047】
例えば、予測期間の初日から連続してj日間の降水が見込まれるとともに、m日目(j<m<m)の時点で流入量が降水前のレベルに戻っていない状態で、その翌日から連続してj日間の降水が見込まれる場合、m日目までの流入量qは式(3)によって求められるものの、m日目の翌日以降の流入量qは式(3)では求められない。そこで、このような場合のn日目(m<n)の流入量qを求める方法について、次に説明する。
【0048】
上述の場合に、2度目の降水によって増加した流入量が(m+m)日目にm日目の時点のレベルに戻るとすると、n日目(m<n<m+m)の流入量qは次の式(4)によって求められる。なお、nが(m+m)以上のときのq図3(a)や図3(b)に示す「降水後の日数と流入量変化率の関係」に基づいて求められる。
【0049】
【数4】
【0050】
予測期間の初日から連続して3日間(すなわち、j=3)の降水が見込まれ、4日目(すなわち、m=4)の時点で流入量が降水前のレベルに戻っていないにもかかわらず、5日目から再び連続して2日間(すなわち、j=2)の降水が見込まれるとともに、次の連続した降水によって増加した流入量が7日目(すなわち、m+m=7)に4日目の時点のレベルに戻ることが予想される場合について、表3及び表4に示す数値を式(4)に代入して流入量qを求めた結果を図4に示す。
なお、1mm出水量aは3[m/s]、出水率bは0.1とした。また、8日目以降の流入量の計算に用いた流入量変化率の具体的な値を表5に示す。
図4において、縦軸は流入量qを表し、横軸は予測期間の初日からの日数を表している。また、実線と破線と二点鎖線は、最初の連続した降水と次の連続した降水によってそれぞれ増加した流入量を示している。
【0051】
【表3】
【0052】
【表4】
【0053】
【表5】
【0054】
2日以上連続した降水が見込まれる場合には、流入比率rの代わりに、流入比率pを用いても良い。この流入比率pは、予測期間と一雨雨量とともに降水期間と最大降水日(降水量が最大となる日)ごとに分類された過去の実測データから求められる。この場合、流入比率pは、予測期間、一雨雨量、降水期間及び最大降水日と対応付けられた状態で記憶装置1に記憶されることになる。流入比率pの値の一例(予測期間は6/11〜7/20)を表6に示す。
なお、流入比率rの代わりに流入比率pを用いる場合には、式(3)及び式(4)の代わりに、それぞれ式(5)及び式(6)を用いることになる。
【0055】
【表6】
【0056】
【数5】
【0057】
【数6】
【0058】
次に、貯水池流入量予測システムの動作について、図6を適宜参照しながら図5を用いて説明する。
図5は本発明の貯水池流入量予測システムの操作手順を示すフローチャートであり、図6は処理装置2の機能を説明するためのブロック図である。また、図7(a)及び図7(b)はそれぞれデータ入力画面及び計算結果表示画面の一例を示した図である。なお、図1に示した構成要素については、同一の符号を付してその説明を省略する。
【0059】
図6に矢印Aで示すように、入力装置3から基本データ(貯水池の名称、予測期間、気温及び降水が見込まれる場合にはさらに降水量と降水期間)が入力される(図7(a)参照)と、これらの情報は矢印Bで示すように制御手段2aを介して演算手段2bに送られる(図5のステップS1)。演算手段2bでは、制御手段2aの指示に従って式(2)に基づいて一雨雨量が計算される。その結果は、矢印Cで示すように演算手段2bから制御手段2aに送られ、上述の他の基本データとともに矢印Dで示すように記憶装置1に送られる。そして、これらのデータに対応付けられた状態で記憶されているデータが記憶装置1から読み出され、矢印Eで示すように制御手段2aに送られる。すなわち、ステップS1において、基本データを入力すると、流入量の予測対象である貯水池と予測期間が特定され、1mm出水量、ベース流入量、出水率、流入比率、流入量変化率に関し、制御手段2aから受け取ったデータに対応する値が記憶装置1から読み出されるのである。
【0060】
記憶装置1から制御手段2aに送られたデータは、さらに矢印Bで示すように演算手段2bに送られ、演算手段2bでは、制御手段2aの指示に従って式(1)や式(3)あるいは式(4)に基づいて予測期間内の任意の日における流入量が計算される(図5のステップS2)。なお、前述したように、流入比率が、予測期間、一雨雨量、降水期間及び最大降水日と対応付けられた状態で記憶装置1に記憶されている場合には、ステップS1で基本データとして入力された降水量から最大降水日が特定されるため、この流入比率を用いて式(5)や式(6)から上記流入量が算出される。
【0061】
このようにして求められた流入量は、矢印Cで示すように演算手段2bから制御手段2aに送られ、さらに矢印Dで示すように記憶手段1に送られて記憶される。また、制御手段2aは入力装置3からの指示に従って、矢印Fで示すように上記流入量の計算結果を出力装置4に送る。その結果、例えば、図7(b)に示すように流入量の計算結果がディスプレイの画面上に表示される(図5のステップS3)。
【0062】
以上説明したように、本発明の貯水池流入量予測システムでは、気象庁が発表する天気予報等から得られる日ごとの降水量とともに予測期間と貯水池の名称が入力装置から入力されて特定されると、処理装置によって、一雨雨量が算出されるとともに、この一雨雨量と期間と貯水池に対応する演算用データが記憶装置から読み出されて当該期間内における貯水池への流入量の日ごとの予測値が算出される。
したがって、経験の浅い担当者であっても期間の長さによらず、所定の期間内における貯水池への日ごとの流入量を精度よく予測することができる。そのため、ゲリラ豪雨等の発生が予想される場合にも適切に対応することができる。また、無効放流の発生を確実に防ぐことが可能である。
そして、これらの作用及び効果は、予測期間中に複数回の連続した降水が見込まる場合や冬季において降雪や融雪が発生すると予想される場合についても同様に発揮される。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明は、水力発電に使用される貯水池の運用計画を作成する際に利用可能である。
【符号の説明】
【0064】
1…記憶装置 2…処理装置 2a…制御手段 2b…演算手段 3…入力装置 4…出力装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7