【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者は、上記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、クラッチフェーシング等に用いられるシート状の摩擦材の破砕物を熱硬化性樹脂を用いて成形した成形体が、機械的強度、釘保持性、防蟻性、耐水性、耐燃性等に優れた建築用成形体となることを見出した。即ち本発明は、以下の(1)〜(6)の建築用成形体を提供するものである。
【0015】
(1)繊維基材、無機充填材および結合剤を含むシート状の摩擦材の破砕物と熱硬化性樹脂とを有する板状の建築用成形体であって、前記破砕物の薄片が、前記成形体の板面と略水平となるように分散されていることを特徴とする建築用成形体。
(2)繊維基材、無機充填材および結合剤を含むシート状の摩擦材の破砕物に熱硬化性樹脂を添加撹拌した混合物を熱圧成形してな
り、前記破砕物の平均粒径が0.5〜16.0mm程度であることを特徴とする建築用成形体。
(3)繊維基材、無機充填材および結合剤を含むシート状の摩擦材の破砕物と熱硬化性樹脂とを有する建築用成形体であって、前記破砕物の平均粒径が0.5〜16.0mm程度であることを特徴とする建築用成形体。
(4)前記破砕物が、前記摩擦材の各成分の結合状態が保持された薄片を含むものであることを特徴とする上記(2)又は(3)に記載の建築用成形体。
(5)前記破砕物が、粒度5.6mm程度以上の前記薄片を25質量%以上含むことを特徴とする上記(1)又は(4)に記載の建築用成形体。
(6)表面に、補強層および化粧層の少なくとも一方が一体的に成形されていることを特徴とする上記(1)〜(5)のいずれかに記載の建築用成形体。
【0016】
本発明における摩擦材としては、繊維状材料(繊維基材)、無機充填材および結合剤を含むシート状のものを用いることができる。例えば、自動車、産業機械等の動力伝達系のクラッチフェーシング、ブレーキパッド、ブレーキライニング等に使用されているシート状の摩擦材、その製造過程で発生する残材等を好ましく用いることができる。
【0017】
摩擦材に含まれる繊維状材料としては、例えば、ウッドパルプ等の天然繊維、アラミド繊維、ナイロン繊維等の有機繊維、ガラス繊維、カーボン繊維等の無機繊維、および銅繊維、スチール繊維等の金属繊維を用いることができる。
【0018】
また、無機充填材としては、例えば、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、クレー、アルミナ、珪藻土、タルク、カオリン、雲母、酸化マグネシウム等を用いることができる。
【0019】
さらに、結合剤としては、例えば、フェノール樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリウレタン樹脂等の熱硬化性樹脂を用いることができる。
【0020】
本発明で用いる摩擦材における繊維状材料と無機充填材と結合剤との配合比は、特に限定されず、摩擦材として機能する程度の割合で含めばよい。
【0021】
また、本発明において破砕物を結合するバインダーとして用いる熱硬化性樹脂としては、特に限定されず用いることができる。具体的には、例えば、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、不飽和ポリステル樹脂、ポリウレタン樹脂等の耐水性の大きい樹脂を好ましく使用することができ、なかでも熱的性能の高いフェノール樹脂を特に好ましく用いることができる。
【0022】
本発明において、熱硬化性樹脂の配合量は、破砕物100質量部に対して、5〜40質量部程度とするのが好ましく、より好ましくは7〜30質量部程度である。熱硬化性樹脂の配合量が多すぎると、成形体のコストが高くなり、また、硬度が高くなりすぎて釘を打ち込み難くなる。一方、熱硬化性樹脂の配合量が少なすぎると、建築資材として必要な強度が得られなくなる場合がある。
【0023】
破砕物は、公知の粉砕機、例えば自由粉砕機、二軸粉砕機、カッターミル等で摩擦材を破砕することにより得ることができる。また破砕物は、必要に応じて、公知の振動篩、回転篩等の分級装置で所望の粒径に篩分けられたものが使用される。破砕物はその粒径(粒度)によって性状を大きく異にする。例えば、クラッチフェーシング等に用いられるシート状の摩擦材又はその残材を破砕した場合には、JIS標準篩を用いて篩分けた粒径4.0mm以上の破砕物は、元の摩擦材の厚さと密度、並びに繊維基材及び無機充填材が結合剤(熱硬化性樹脂)で結合された構造を保持した厚さ0.4〜2.0mm程度の薄片状の破砕物(薄片)として得られる。一方、粒径2.0mm程度以下に破砕した破砕物は、大部分が摩擦材の細かい破片と粉体、及び摩擦材から分離してきた繊維片やその小凝集塊から構成されている。また、粒径2.0〜4.0mm程度の範囲の破砕物は、これら両者の混合物からなっている。
【0024】
このようにシート状の摩擦材を破砕した場合、薄片状の破砕物及びその破片や粉体、及び繊維片や繊維片の凝集物等の混合物となっており、本発明における破砕物としては、薄片だけのもの、また、薄片を含まず、破片や粉体、及び繊維片や繊維片の凝集物だけからなっているものでもよい。
【0025】
本発明における破砕物の平均粒径としては、0.5〜16.0mm程度とするのが好ましい。また、最大粒径としては、30.0mm程度以下とするのが好ましい。なかでも、平均粒径0.5〜10.0mm程度で且つ最大粒径16.0mm程度以下のものが特に好ましい。なお、本発明における平均粒径とは、JIS標準篩で篩った通過分から積算重量百分率を求め、その積算値の50%の粒度を指す。
【0026】
平均粒径が0.4mm以下の破砕物は、微粉体が多くなるため、この粉体同士を結合するためのバインダー(熱硬化性樹脂)を多量に必要とし、バインダー量が少ない場合には成形体に十分な強度を与えられない場合が生じる。また、破砕物の粒径が30mmより大きい場合には、成形時に粒子間の間隙をコントロールすることが困難となり、均一な成形体が得られなくなる虞がある。
【0027】
また、本発明において、破砕物は、元の摩擦材の構造を保った粒径5.6mm程度以上の薄片状の破砕物を25質量%程度以上含む粒度構成とするのが好ましい。この粒度構成により、成形体の強度物性をさらに高めることができる。
【0028】
また、本発明においては、成形体の表面、板状の場合には両面の少なくとも一方に補強層及び/又は化粧層を一体的に成形するようにしてもよい。補強層は、摩擦材破砕物からなる成形体の曲げ物性を改善するために形成されるもので、熱硬化性樹脂をバインダーとする繊維補強された無機質硬化体を好適に用いることができる。この補強層は同時に化粧層も兼ねているが、化粧だけを目的とする場合には、例えば、繊維補強なしの無機質硬化体とすればよい。補強層及び/又は化粧層の成形体に対する厚さの割合は、特に限定されるものではないが、5〜20%程度とするのが好ましい。5%より薄い場合には、補強層や化粧層の役割を果たさず、20%を超えると建築材料としての本質を損なう虞がある。
【0029】
補強層及び化粧層に用いられる熱硬化性樹脂としては、例えば本発明の成形体において破砕物を結合するためのバインダーとして用いたものと同じものを用いることができる。熱硬化性樹脂の含有量としては補強層の5〜40質量%程度とすることが好ましく、10〜30質量%程度とすることがさらに好ましい。化粧層に用いる場合には、大きな強度を要求されないので熱硬化性樹脂の含有量は5〜20質量%程度とより少なくすることができる。
【0030】
また、補強層の繊維補強として用いられる繊維材料としては、例えば、ガラス繊維、鉱物繊維等を挙げることができる。特にガラス繊維は強度が大きく形状が均一なので好適である。繊維材料の含有量は補強層の3〜20質量%程度とすることが好ましく、3〜10質量%程度がより好ましい。
【0031】
補強層の無機質材料としては、例えば、炭酸カルシウム、珪石粉、クレー、水酸化アルミニウム等の無機質フィラー及びパーライト、バーミキュライト、シラスバルーン、アルミノシリケートバルーン(ASB)等の軽量フィラーが挙げられる。これらのフィラーは1種類のみで用いることもできるし、2種類以上の混合物として用いることもできる。無機質材料の含有率は補強層に対して60〜90質量%程度とすることが好ましい。
【0032】
本発明における成形体を製造する方法としては、特に限定されず、公知の方法を広く採用することができる。具体的には、例えば、まず、摩擦材を粉砕し、必要があれば分級して所定の粒度構成の破砕物にする。この破砕物に熱硬化性樹脂を加えて混合物とする。この混合物をパーティクルボードのフォーミング装置やベルトフィダー装置等の散布装置によって、ベルト上やコール板上に散布してマット状堆積物を形成し、熱圧成形(熱圧締)する。
【0033】
ここで、熱圧成形は、例えば、平板プレス、連続プレスなどのプレス機を用いて、加熱、加圧することにより行うことができる。熱圧成形において、加熱と加圧とは、同時に行ってもよいし、加圧をした後に加熱をしてもよい。温度、圧力、時間等の条件については、バインダーとしての熱硬化性樹脂が完全に硬化するように行えば特に限定されず、適宜設定することができる。また、加熱方法としては、特に限定されないが、例えば、熱盤のように表面から伝熱により内部に熱を伝える方法や、蒸気噴射や高周波加熱等のように内部を直接加熱する方法が挙げられる。
【0034】
また、表面に補強層及び/又は化粧層を形成した成形体を製造する方法は、例えば、始めに、無機質フィラー、繊維基材及び熱硬化性樹脂からなる補強層及び/又は化粧層用の原料混合物を調製し、その混合物をベルトフィダー等の散布装置によって、ベルト上やコール板上に散布して堆積物を形成し、その上に摩擦材の破砕物と熱硬化性樹脂の混合物を散布積層し、さらに必要に応じてその上に再度補強層及びまた化粧層用の原料混合物を散布して堆積物を形成した3段重ねのマット状堆積物とした後、熱圧成形してサンドイッチ構造の一体成形体とすればよい。
【0035】
このように、破砕物と熱硬化性樹脂の混合物を熱圧成形(熱圧締)して得られた成形体において、上記破砕物に薄片を含めたときには、加圧により薄片が熱硬化性樹脂層の中で加圧方向に対して垂直となる方向に分散(配向)されやすくなる。すなわち、破砕物の薄片は、成形体の板面と略水平方向となるように層状となって熱硬化性樹脂で結合されることになる。このように、摩擦材の破砕物の薄片が、成形体の板面と略水平となるように分散されていると、柔軟性及び靭性、さらには釘保持性がより向上し、しかも破砕物が微粉砕物ばかりのときよりも破砕物を結合して成形するためのバインダーとして用いる熱硬化性樹脂の使用量を少なくすることができる。なお、本発明において、この破砕物の薄片は、その全てが成形体の板面と略水平となるように熱硬化性樹脂中に分散されている必要はなく、破砕物の薄片が全体に亘って水平方向に配向分散されていればよい。
【0036】
また、本発明で使用する摩擦材は、結合剤を含んでなるために、成形体を所望のサイズに切断して使用する場合に、切断面に摩擦材の破砕物の断面が露出したとしても、破砕物の露出面には結合剤が存在し、切断面全体には破砕物のバインダーとしての熱硬化性樹脂が露出することとなる。このような結合剤や熱硬化性樹脂は、白蟻による食害を受け難いものであり、なかでもフェノール樹脂は蟻害防止に優れたものである。したがって、本発明の成形体において、クラッチフェーシング等に用いられる摩擦材の結合剤として一般的に用いられているフェノール樹脂を含む摩擦材の破砕物を用い、熱硬化性樹脂に同じフェノール樹脂を用い、必要に応じて補強層及び/又は化粧層にフェノール樹脂を用いたときには、より強固に結合でき、しかも防蟻性に一段と優れた成形体とし得る。
【0037】
このように、本発明の成形体は、切断面であっても白蟻の食害を受け難く、本発明の成形体は防蟻材として有効な建築材料と成り得る。
【0038】
なお、本発明の成形体において、軽量化、釘打ち易さなど各特性の向上、調整を図る目的で、他種の添加材を含有させてもよい。