特許第6429142号(P6429142)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 地方独立行政法人北海道立総合研究機構の特許一覧 ▶ 城東テクノ株式会社の特許一覧 ▶ 英機工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6429142-建築用成形体 図000004
  • 特許6429142-建築用成形体 図000005
  • 特許6429142-建築用成形体 図000006
  • 特許6429142-建築用成形体 図000007
  • 特許6429142-建築用成形体 図000008
  • 特許6429142-建築用成形体 図000009
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6429142
(24)【登録日】2018年11月9日
(45)【発行日】2018年11月28日
(54)【発明の名称】建築用成形体
(51)【国際特許分類】
   C08L 101/00 20060101AFI20181119BHJP
   C08K 7/02 20060101ALI20181119BHJP
   C08K 3/013 20180101ALI20181119BHJP
   E04C 2/22 20060101ALI20181119BHJP
   E04C 2/20 20060101ALI20181119BHJP
   C09K 3/14 20060101ALI20181119BHJP
【FI】
   C08L101/00ZAB
   C08K7/02
   C08K3/013
   E04C2/22
   E04C2/20 E
   C09K3/14 520C
   C09K3/14 530F
   C09K3/14 520L
【請求項の数】6
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2014-143865(P2014-143865)
(22)【出願日】2014年7月14日
(65)【公開番号】特開2016-20416(P2016-20416A)
(43)【公開日】2016年2月4日
【審査請求日】2017年5月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】310010575
【氏名又は名称】地方独立行政法人北海道立総合研究機構
(73)【特許権者】
【識別番号】390004145
【氏名又は名称】城東テクノ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】501398721
【氏名又は名称】英機工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001841
【氏名又は名称】特許業務法人梶・須原特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大市 貴志
(72)【発明者】
【氏名】中西 博之
(72)【発明者】
【氏名】荒 孝幸
(72)【発明者】
【氏名】前田 弘貴
【審査官】 内田 靖恵
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−082608(JP,A)
【文献】 特開平06−065394(JP,A)
【文献】 特開2002−294614(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00 −101/16
C08K 3/013
C08K 7/02 − 7/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維基材、無機充填材および結合剤を含むシート状の摩擦材の破砕物と熱硬化性樹脂とを有する板状の建築用成形体であって、前記破砕物の薄片が、前記成形体の板面と略水平となるように分散されていることを特徴とする建築用成形体。
【請求項2】
繊維基材、無機充填材および結合剤を含むシート状の摩擦材の破砕物に熱硬化性樹脂を添加撹拌した混合物を熱圧成形してなり、前記破砕物の平均粒径が0.5〜16.0mm程度であることを特徴とする建築用成形体。
【請求項3】
繊維基材、無機充填材および結合剤を含むシート状の摩擦材の破砕物と熱硬化性樹脂とを有する建築用成形体であって、前記破砕物の平均粒径が0.5〜16.0mm程度であることを特徴とする建築用成形体。
【請求項4】
前記破砕物が、前記摩擦材の各成分の結合状態が保持された薄片を含むものであることを特徴とする請求項2又は3に記載の建築用成形体。
【請求項5】
前記破砕物が、粒度5.6mm程度以上の前記薄片を25質量%以上含むことを特徴とする請求項1又は4に記載の建築用成形体。
【請求項6】
表面に、補強層および化粧層の少なくとも一方が一体的に成形されていることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の建築用成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築資材として利用される、摩擦材の破砕物を用いた建築用成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、自動車や産業機械等においてクラッチフェーシング等に使用される摩擦材においては、パルプ等の繊維状材料と無機充填材からなる紙状の基材にフェノール樹脂のような熱硬化性樹脂を含浸した後、加熱硬化してまずシート状材料が調製される。
【0003】
使用される繊維状材料としては、ウッドパルプの他に、アラミド繊維、ナイロン繊維等の有機繊維、ガラス繊維、カーボン繊維等の無機繊維、および銅繊維、スチール繊維等の金属繊維が用いられる。また無機充填材としては、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、クレー、アルミナ、珪藻土、タルク、カオリン、雲母、酸化マグネシウム等が用いられる。さらにまた、熱硬化性樹脂としては、フェノール樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリウレタン樹脂等が用いられる。
【0004】
この様にして得られたシート状材料は、厚さ0.4〜2.0mm程度、密度0.5〜1.0g/cm3程度の性状を有している。最終的に、これをリング状などの所望の形状に打ち抜くことによって摩擦材が製造される。
【0005】
この摩擦材の製造においては、打ち抜き工程で、シート状材料から所望の形状の摩擦材が打ち抜かれた後に残材が多量に発生する。この残材に、使用済みの摩擦材や、製造時の不良品を含めたいわゆる廃摩擦材は、環境保全や資源の有効活用の観点から、リサイクル利用することが求められている。
【0006】
そこで、特許文献1〜4では、従来廃棄物としていた廃摩擦材をリサイクル利用することが提案されている。
【0007】
具体的には、特許文献1には、打ち抜き工程で生じた残材を溶剤に溶解して、摩擦材形成用組成物として再度用いる摩擦材の製造方法が開示されている。
【0008】
また、特許文献2には、粉状にされた使用済みクラッチライナー、摩擦ライナー精留ダスト等を含む粒状充填材が混入された、熱硬化性樹脂が含浸されたファイバーのマットからなる摩擦材料が開示されている。
【0009】
また、特許文献3には、充填剤の少なくとも一部として、ゴムモールド摩擦材の研磨粉を含有する摩擦材が開示されている。
【0010】
また、特許文献4には、廃摩擦材を粉砕してなる複合材粒子を配合した摩擦材が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平7−41566号公報
【特許文献2】特開平9−118755号公報
【特許文献3】特開平9−291954号公報
【特許文献4】特開2005−200569号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、これら従来の手法はいずれも廃摩擦材を再度摩擦材に戻すことを前提とするものであり、このような方法だけでは発生する廃摩擦材のごく一部を利用するに留まらざるを得ず、大部分の摩擦材は有効に利用されることなく埋め立て処分や焼却処分されているのが現状である。そのため摩擦材以外へのリサイクルの路を見出すことが求められている。
【0013】
本発明の目的は、廃摩擦材をリサイクル利用することが可能な新たな用途として、建築用成形体を提供することである。
また、本発明の別の目的は、木材や既存のボード材に代わる、機械的強度、釘保持性、防蟻性、耐水性および耐燃性に優れた、新規な建築用成形体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者は、上記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、クラッチフェーシング等に用いられるシート状の摩擦材の破砕物を熱硬化性樹脂を用いて成形した成形体が、機械的強度、釘保持性、防蟻性、耐水性、耐燃性等に優れた建築用成形体となることを見出した。即ち本発明は、以下の(1)〜(6)の建築用成形体を提供するものである。
【0015】
(1)繊維基材、無機充填材および結合剤を含むシート状の摩擦材の破砕物と熱硬化性樹脂とを有する板状の建築用成形体であって、前記破砕物の薄片が、前記成形体の板面と略水平となるように分散されていることを特徴とする建築用成形体。
(2)繊維基材、無機充填材および結合剤を含むシート状の摩擦材の破砕物に熱硬化性樹脂を添加撹拌した混合物を熱圧成形してなり、前記破砕物の平均粒径が0.5〜16.0mm程度であることを特徴とする建築用成形体。
(3)繊維基材、無機充填材および結合剤を含むシート状の摩擦材の破砕物と熱硬化性樹脂とを有する建築用成形体であって、前記破砕物の平均粒径が0.5〜16.0mm程度であることを特徴とする建築用成形体。
(4)前記破砕物が、前記摩擦材の各成分の結合状態が保持された薄片を含むものであることを特徴とする上記(2)又は(3)に記載の建築用成形体。
(5)前記破砕物が、粒度5.6mm程度以上の前記薄片を25質量%以上含むことを特徴とする上記(1)又は(4)に記載の建築用成形体。
(6)表面に、補強層および化粧層の少なくとも一方が一体的に成形されていることを特徴とする上記(1)〜(5)のいずれかに記載の建築用成形体。


【0016】
本発明における摩擦材としては、繊維状材料(繊維基材)、無機充填材および結合剤を含むシート状のものを用いることができる。例えば、自動車、産業機械等の動力伝達系のクラッチフェーシング、ブレーキパッド、ブレーキライニング等に使用されているシート状の摩擦材、その製造過程で発生する残材等を好ましく用いることができる。
【0017】
摩擦材に含まれる繊維状材料としては、例えば、ウッドパルプ等の天然繊維、アラミド繊維、ナイロン繊維等の有機繊維、ガラス繊維、カーボン繊維等の無機繊維、および銅繊維、スチール繊維等の金属繊維を用いることができる。
【0018】
また、無機充填材としては、例えば、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、クレー、アルミナ、珪藻土、タルク、カオリン、雲母、酸化マグネシウム等を用いることができる。
【0019】
さらに、結合剤としては、例えば、フェノール樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリウレタン樹脂等の熱硬化性樹脂を用いることができる。
【0020】
本発明で用いる摩擦材における繊維状材料と無機充填材と結合剤との配合比は、特に限定されず、摩擦材として機能する程度の割合で含めばよい。
【0021】
また、本発明において破砕物を結合するバインダーとして用いる熱硬化性樹脂としては、特に限定されず用いることができる。具体的には、例えば、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、不飽和ポリステル樹脂、ポリウレタン樹脂等の耐水性の大きい樹脂を好ましく使用することができ、なかでも熱的性能の高いフェノール樹脂を特に好ましく用いることができる。
【0022】
本発明において、熱硬化性樹脂の配合量は、破砕物100質量部に対して、5〜40質量部程度とするのが好ましく、より好ましくは7〜30質量部程度である。熱硬化性樹脂の配合量が多すぎると、成形体のコストが高くなり、また、硬度が高くなりすぎて釘を打ち込み難くなる。一方、熱硬化性樹脂の配合量が少なすぎると、建築資材として必要な強度が得られなくなる場合がある。
【0023】
破砕物は、公知の粉砕機、例えば自由粉砕機、二軸粉砕機、カッターミル等で摩擦材を破砕することにより得ることができる。また破砕物は、必要に応じて、公知の振動篩、回転篩等の分級装置で所望の粒径に篩分けられたものが使用される。破砕物はその粒径(粒度)によって性状を大きく異にする。例えば、クラッチフェーシング等に用いられるシート状の摩擦材又はその残材を破砕した場合には、JIS標準篩を用いて篩分けた粒径4.0mm以上の破砕物は、元の摩擦材の厚さと密度、並びに繊維基材及び無機充填材が結合剤(熱硬化性樹脂)で結合された構造を保持した厚さ0.4〜2.0mm程度の薄片状の破砕物(薄片)として得られる。一方、粒径2.0mm程度以下に破砕した破砕物は、大部分が摩擦材の細かい破片と粉体、及び摩擦材から分離してきた繊維片やその小凝集塊から構成されている。また、粒径2.0〜4.0mm程度の範囲の破砕物は、これら両者の混合物からなっている。
【0024】
このようにシート状の摩擦材を破砕した場合、薄片状の破砕物及びその破片や粉体、及び繊維片や繊維片の凝集物等の混合物となっており、本発明における破砕物としては、薄片だけのもの、また、薄片を含まず、破片や粉体、及び繊維片や繊維片の凝集物だけからなっているものでもよい。
【0025】
本発明における破砕物の平均粒径としては、0.5〜16.0mm程度とするのが好ましい。また、最大粒径としては、30.0mm程度以下とするのが好ましい。なかでも、平均粒径0.5〜10.0mm程度で且つ最大粒径16.0mm程度以下のものが特に好ましい。なお、本発明における平均粒径とは、JIS標準篩で篩った通過分から積算重量百分率を求め、その積算値の50%の粒度を指す。
【0026】
平均粒径が0.4mm以下の破砕物は、微粉体が多くなるため、この粉体同士を結合するためのバインダー(熱硬化性樹脂)を多量に必要とし、バインダー量が少ない場合には成形体に十分な強度を与えられない場合が生じる。また、破砕物の粒径が30mmより大きい場合には、成形時に粒子間の間隙をコントロールすることが困難となり、均一な成形体が得られなくなる虞がある。
【0027】
また、本発明において、破砕物は、元の摩擦材の構造を保った粒径5.6mm程度以上の薄片状の破砕物を25質量%程度以上含む粒度構成とするのが好ましい。この粒度構成により、成形体の強度物性をさらに高めることができる。
【0028】
また、本発明においては、成形体の表面、板状の場合には両面の少なくとも一方に補強層及び/又は化粧層を一体的に成形するようにしてもよい。補強層は、摩擦材破砕物からなる成形体の曲げ物性を改善するために形成されるもので、熱硬化性樹脂をバインダーとする繊維補強された無機質硬化体を好適に用いることができる。この補強層は同時に化粧層も兼ねているが、化粧だけを目的とする場合には、例えば、繊維補強なしの無機質硬化体とすればよい。補強層及び/又は化粧層の成形体に対する厚さの割合は、特に限定されるものではないが、5〜20%程度とするのが好ましい。5%より薄い場合には、補強層や化粧層の役割を果たさず、20%を超えると建築材料としての本質を損なう虞がある。
【0029】
補強層及び化粧層に用いられる熱硬化性樹脂としては、例えば本発明の成形体において破砕物を結合するためのバインダーとして用いたものと同じものを用いることができる。熱硬化性樹脂の含有量としては補強層の5〜40質量%程度とすることが好ましく、10〜30質量%程度とすることがさらに好ましい。化粧層に用いる場合には、大きな強度を要求されないので熱硬化性樹脂の含有量は5〜20質量%程度とより少なくすることができる。
【0030】
また、補強層の繊維補強として用いられる繊維材料としては、例えば、ガラス繊維、鉱物繊維等を挙げることができる。特にガラス繊維は強度が大きく形状が均一なので好適である。繊維材料の含有量は補強層の3〜20質量%程度とすることが好ましく、3〜10質量%程度がより好ましい。
【0031】
補強層の無機質材料としては、例えば、炭酸カルシウム、珪石粉、クレー、水酸化アルミニウム等の無機質フィラー及びパーライト、バーミキュライト、シラスバルーン、アルミノシリケートバルーン(ASB)等の軽量フィラーが挙げられる。これらのフィラーは1種類のみで用いることもできるし、2種類以上の混合物として用いることもできる。無機質材料の含有率は補強層に対して60〜90質量%程度とすることが好ましい。
【0032】
本発明における成形体を製造する方法としては、特に限定されず、公知の方法を広く採用することができる。具体的には、例えば、まず、摩擦材を粉砕し、必要があれば分級して所定の粒度構成の破砕物にする。この破砕物に熱硬化性樹脂を加えて混合物とする。この混合物をパーティクルボードのフォーミング装置やベルトフィダー装置等の散布装置によって、ベルト上やコール板上に散布してマット状堆積物を形成し、熱圧成形(熱圧締)する。
【0033】
ここで、熱圧成形は、例えば、平板プレス、連続プレスなどのプレス機を用いて、加熱、加圧することにより行うことができる。熱圧成形において、加熱と加圧とは、同時に行ってもよいし、加圧をした後に加熱をしてもよい。温度、圧力、時間等の条件については、バインダーとしての熱硬化性樹脂が完全に硬化するように行えば特に限定されず、適宜設定することができる。また、加熱方法としては、特に限定されないが、例えば、熱盤のように表面から伝熱により内部に熱を伝える方法や、蒸気噴射や高周波加熱等のように内部を直接加熱する方法が挙げられる。
【0034】
また、表面に補強層及び/又は化粧層を形成した成形体を製造する方法は、例えば、始めに、無機質フィラー、繊維基材及び熱硬化性樹脂からなる補強層及び/又は化粧層用の原料混合物を調製し、その混合物をベルトフィダー等の散布装置によって、ベルト上やコール板上に散布して堆積物を形成し、その上に摩擦材の破砕物と熱硬化性樹脂の混合物を散布積層し、さらに必要に応じてその上に再度補強層及びまた化粧層用の原料混合物を散布して堆積物を形成した3段重ねのマット状堆積物とした後、熱圧成形してサンドイッチ構造の一体成形体とすればよい。
【0035】
このように、破砕物と熱硬化性樹脂の混合物を熱圧成形(熱圧締)して得られた成形体において、上記破砕物に薄片を含めたときには、加圧により薄片が熱硬化性樹脂層の中で加圧方向に対して垂直となる方向に分散(配向)されやすくなる。すなわち、破砕物の薄片は、成形体の板面と略水平方向となるように層状となって熱硬化性樹脂で結合されることになる。このように、摩擦材の破砕物の薄片が、成形体の板面と略水平となるように分散されていると、柔軟性及び靭性、さらには釘保持性がより向上し、しかも破砕物が微粉砕物ばかりのときよりも破砕物を結合して成形するためのバインダーとして用いる熱硬化性樹脂の使用量を少なくすることができる。なお、本発明において、この破砕物の薄片は、その全てが成形体の板面と略水平となるように熱硬化性樹脂中に分散されている必要はなく、破砕物の薄片が全体に亘って水平方向に配向分散されていればよい。
【0036】
また、本発明で使用する摩擦材は、結合剤を含んでなるために、成形体を所望のサイズに切断して使用する場合に、切断面に摩擦材の破砕物の断面が露出したとしても、破砕物の露出面には結合剤が存在し、切断面全体には破砕物のバインダーとしての熱硬化性樹脂が露出することとなる。このような結合剤や熱硬化性樹脂は、白蟻による食害を受け難いものであり、なかでもフェノール樹脂は蟻害防止に優れたものである。したがって、本発明の成形体において、クラッチフェーシング等に用いられる摩擦材の結合剤として一般的に用いられているフェノール樹脂を含む摩擦材の破砕物を用い、熱硬化性樹脂に同じフェノール樹脂を用い、必要に応じて補強層及び/又は化粧層にフェノール樹脂を用いたときには、より強固に結合でき、しかも防蟻性に一段と優れた成形体とし得る。
【0037】
このように、本発明の成形体は、切断面であっても白蟻の食害を受け難く、本発明の成形体は防蟻材として有効な建築材料と成り得る。
【0038】
なお、本発明の成形体において、軽量化、釘打ち易さなど各特性の向上、調整を図る目的で、他種の添加材を含有させてもよい。
【発明の効果】
【0039】
本発明によれば、摩擦材からなる破砕物を使用することで、従来廃棄していた廃摩擦材をリサイクル利用することができるので、環境への負荷を低減させることができる。また、木材や既存のボード材に代わる、機械的強度、釘保持性、防蟻性、耐水性および耐燃性に優れた建築用成形体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
図1】破砕物の平均粒径と曲げ強さとの関係を示す図である。
図2】破砕物の平均粒径と釘引き抜き抵抗との関係を示す図である。
図3】粒度が5.6mm以上の破砕物の配合割合と曲げ強さとの関係を示す図である。
図4】粒度が5.6mm以上の破砕物の配合割合と釘引き抜き抵抗との関係を示す図である。
図5】粒度が4.0mm以上の破砕物の配合割合と曲げ強さとの関係を示す図である。
図6】粒度が4.0mm以上の破砕物の配合割合と釘引き抜き抵抗との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0041】
以下、本発明の好適な実施の形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0042】
摩擦材は、以下のようにして製造される。まず、繊維基材と無機充填材とを混合してシート状に抄造する。次に、これに熱硬化性樹脂結合剤を含浸させて熱硬化させることにより製造することができる。
【0043】
以下、本実施例等において使用するシート状の摩擦材としては、上記のようにして製造されるクラッチフェーシング用の摩擦材の製造工程で発生した打ち抜き残材(廃摩擦材)を用いている。
【0044】
(実施例1)
厚さが0.5〜0.7mmのクラッチフェーシング用摩擦材の打ち抜き残材を自由粉砕ミルで破砕して、平均粒度5.5mmで、且つ、粒度5.6mm以上の薄片状破砕物の含有量が49質量%となる破砕物を調製した。この破砕物100質量部に粉末フェノール樹脂14質量部を添加してよく撹拌した混合物513gを26cm×30cmの木枠内に手撒きで散布充填して積層マットを調製した。この積層マットを木枠から取り出して、厚さ10mmのストッパーの付いた熱プレスに挿入し、温度180℃、圧力15kgf/cm2の条件で10分間熱圧締し、厚さが10.1mmで、密度が0.66g/cm3の試験体を作製した。
【0045】
(実施例2)
厚さが0.5〜0.7mmのクラッチフェーシング用摩擦材の打ち抜き残材を自由粉砕ミルで破砕して、平均粒度3.0mmで、且つ、粒度5.6mm以上の薄片状破砕物の含有量が11質量%となる破砕物を調製した。この破砕物に、実施例1と同一の条件で粉末フェノール樹脂を混合した後、同一の条件で熱プレスを行って、厚さが9.9mmで、密度が0.66g/cm3の試験体を作製した。
【0046】
(実施例3)
実施例2で調製した破砕物を2.0mmのメッシュで篩分けして、2.0mm以下の粒度の破砕物を除去した、平均粒度が4.0mmで、且つ、粒度5.6mm以上の薄片状破砕物の含有量が17質量%となる破砕物を調製した。この破砕物に、実施例1と同一の条件で粉末フェノール樹脂を混合した後、実施例1と同一の条件で熱プレスを行って、厚さが10.0mmで、密度が0.65g/cm3の試験体を作製した。
【0047】
(実施例4)
実施例2で調製した破砕物を2.0mmの篩で篩分けして、粒度が2mm以下(したがって、粒度が5.6mm以上のものの含有量は0質量%)で、平均粒径0.5mmの破砕物を調製した。この破砕物に、実施例1と同一の条件で粉末フェノール樹脂を混合した後、実施例1と同一の条件で熱プレスを行って、厚さが9.8mmで、密度が0.65g/cm3の試験体を作製した。
【0048】
(実施例5)
実施例1及び実施例4で調製した、粒度の異なる破砕物を混合して、平均粒度4.7mmで、且つ、粒度5.6mm以上の薄片状破砕物の含有量が40質量%の破砕物を調製した。この破砕物に、実施例1と同一の条件で粉末フェノール樹脂を混合した後、実施例1と同一の条件で熱プレスを行って、厚さが10.0mmで、密度が0.67g/cm3の試験体を作製した。
【0049】
(実施例6)
実施例1及び実施例4で調製した、粒度の異なる破砕物を混合して、平均粒度4.0mmで、粒度5.6mm以上の薄片状破砕物の含有量が34質量%の破砕物を調製した。この破砕物に、実施例1と同一の条件で粉末フェノール樹脂を混合した後、実施例1と同一の条件で熱プレスを行って、厚さが9.9mmで、密度が0.66g/cm3の試験体を作製した。
【0050】
(実施例7)
実施例1及び実施例4で調製した、粒度の異なる破砕物を混合して、平均粒度2.2mm、粒度5.6mm以上の薄片状破砕物の含有量が28質量%の破砕物を調製した。この破砕物に、実施例1と同一の条件で粉末フェノール樹脂を混合した後、実施例1と同一の条件で熱プレスを行って、厚さが9.9mmで、密度が0.66g/cm3の試験体を作製した。
【0051】
(比較例1)
実施例2で調製した破砕物を1.0mmのメッシュで篩分けして、粒度が1.0mm以下(したがって、粒度5.6mm以上のものの含有量は0質量%)で、平均粒径0.3mmの破砕物を調製した。この破砕物に、実施例1と同一の条件で粉末フェノール樹脂を混合した後、実施例1と同一の条件で熱プレスを行って、厚さが9.9mmで、密度が0.65g/cm3の試験体を作製した。
【0052】
(比較例2)
実施例2で調製した破砕物を0.5mmのメッシュで篩分けして、粒度が0.5mm以下(したがって、粒度5.6mm以上のものの含有量は0質量%)で、平均粒径0.2mmの破砕物を調製した。この破砕物に、実施例1と同一の条件で粉末フェノール樹脂を混合した後、実施例1と同一の条件で熱プレスを行って、厚さが9.8mmで、密度が0.64g/cm3の試験体を作製した。
【0053】
(比較例3)
建築廃材から調製した、粒度が4.0mm以下のパーティクルボード表層原料用の木質チップ100質量部に粉末フェノール樹脂14質量部を添加してよく撹拌した混合物533gを、26cm×30cmの木枠内に散布積層充填して積層マットを調製した。この積層マットを木枠から取り出して、厚さ10mmのストッパーの付いた熱プレスに挿入し、温度180℃、圧力15kgf/cm2の条件で10分間熱圧締し、厚さが10.2mmで、密度が0.67g/cm3の試験体を作製した。
【0054】
(実施例8)
26cm×30cmの木枠内に、初めに補強層として、炭酸カルシウム50質量%、パーライト25質量%、および、粉末フェノール樹脂25質量%からなる混合物121g、および、繊維長が25mmのガラス繊維チョッブドストランド10gを手撒きで散布し、ガラス繊維が該混合物中に分散した積層マットを調製した。次に、実施例1で調製した、クラッチフェーシング用摩擦材の打ち抜き残材を自由粉砕ミルで破砕して、平均粒度5.5mmで、且つ、粒度5.6mm以上の薄片状破砕物の含有量が49質量%となる破砕物100質量部に、粉末フェノール樹脂13質量部を添加撹拌した混合物796gを、最初の散布層の上に手撒きで散布した。最後に、最初に散布した補強層と同じ混合物をもう一度散布して、サンドイッチ構成の積層マットを調製した。この散布積層物を木枠から出して、熱プレスに挿入し、180℃、15kgf/cm2、15分の条件で熱圧締し、厚さが17.4mmで、密度が0.78g/cm3の試験体を作製した。
【0055】
(比較例3)
市販の無機質ボードを試験体に供した。
【0056】
(比較例4)
市販パーティクルボードを試験体に供した。
【0057】
(比較例5)
木(杉)を試験体に供した。
【0058】
(評価)
次に、実施例及び比較例で作製した試験体の曲げ強さ、釘保持力(釘引き抜き抵抗性)および吸水膨張率を評価した。釘保持力(釘引き抜き抵抗性)の評価は、JIS Z 2101(木材の試験方法)15に記載の釘引き抜き抵抗試験に準拠して行った。また、曲げ強さおよび吸水膨張率の評価は、JIS A 5908(パーティクルボード)に準拠して行った。
【0059】
なお、実施例1〜3、5〜8で得られた試験体は、その切断面から、破砕物の薄片が板面に対して略水平方向に層状に分散された状態となっていることがわかった。
【0060】
また、実施例8で得られた試験体については、防蟻試験を行い白蟻による食害について評価した。防蟻試験の方法および結果は、以下のとおりである。
防蟻試験方法:京都大学生存圏研究所において、白蟻のいる室内に、試験体(18×45×200mm)14本と無処理試験体の杉(50×50×300mm)14本を、それぞれ横に寝かせて交互に並べて3段積み上げて3.5ヵ月放置した。
防蟻試験結果:試験体には食害は全く認められなかった。無処理試験体の杉は表面及び内部の広い範囲に食害が認められた。
【0061】
曲げ強さ、釘保持力(釘引き抜き抵抗性)および吸水膨張率に関する評価結果を表1および表2に示す。なお、実施例1〜7および比較例1、2は、粒度構成による影響を比較しやすくするために、廃摩擦材100質量部に対して結合材料添加量を14質量部に固定し、厚さが約10mm、密度が約0.65g/cm3となる様に成形した。
【0062】
【表1】
【0063】
【表2】
【0064】
(曲げ強さ)
実施例1〜7および比較例1、2の試験体の評価結果を用いた、廃摩擦材の破砕物の平均粒径と曲げ強さとの関係のグラフを図1に示す。なお、図1では対数近似で近似曲線を当てはめている。この図から、平均粒径が0.4mm以下の比較例1、2のものに比して0.5mm以上とされた実施例1〜7のものの方が曲げ強さが一段と高く安定した値となっていることが解る。そのなかでも、破砕物の薄片が板面に対して略水平方向に層状に分散された状態となっている実施例1〜3、5〜7のものが、そのような状態になっていない実施例4のものに比して、より高い曲げ強さを備えていることが解る。
【0065】
また、表1から、実施例1〜7のものが、木質チップを用いた比較例3のものと同等程度の曲げ強さを有していることが解る。
さらに、表2から、実施例8の表層に補強層を形成してサンドイッチ構造としたものが、比較例4、5の市販の無機質ボードやパーティクルボードと同等程度の曲げ強さを備えていることが解る。
【0066】
以上のことから、実施例1〜8のものが建築用材料として良好な強度を備えていることが解る。
【0067】
次に、実施例1〜7の試験体の評価結果をさらに詳しく見るために、廃摩擦材の粒径5.6mm以上の薄片状の破砕物、及び粒径4.0mm以上の薄片状の破砕物の配合割合と曲げ強さとの関係をグラフ化して、それぞれ図3図5に示す。
【0068】
図3からは、粒径5.6mm以上の薄片状破砕物の配合割合と曲げ強さには高い相関が有り、実施例1、5、6及び7の、この薄片状破砕物の配合割合が25質量%以上含む試験体では、曲げ強さは一段と高く、且つ一定の値に収斂する傾向にあることがわかる。
【0069】
一方、図5からは、同じ薄片状の破砕物ではあっても、粒径4.0mm以上の破砕物では、その配合割合と曲げ強さにはこの様な明白な相関は見られない。ただ、先に記載した、薄片状の破砕物が略水平方向に層状に配置されている効果のみが示された結果となった。
【0070】
以上のことから、粒径5.6mm以上の薄片状の破砕物を25質量%以上含む破砕物からなる建築材料はさらに良好な強度を備えていることがわかる。
【0071】
(釘引き抜き抵抗)
実施例1〜7および比較例1、2の試験体の評価結果を用いた、廃摩擦材の破砕物の平均粒径と釘引き抜き抵抗との関係のグラフを図2に示す。なお、図2では対数近似で近似曲線を当てはめている。この図から、平均粒径が0.4mm以下の比較例1、2のものに比して0.5mm以上とされた実施例1〜7のものの釘引き抜き抵抗が一段と高く安定した値となっていることが解る。そのなかでも、破砕物の薄片が板面に対して略水平方向に層状に分散された状態となっている実施例1〜3、5〜7のものが、そのような状態になっていない実施例4のものに比して、より高い釘引き抜き抵抗を備えていることが解る。
【0072】
また、表1から、実施例1〜7のものが、木質チップを用いた比較例3のものと同等程度の釘引き抜き抵抗を有していることが解る。
さらに、表2から、実施例8のサンドイッチ構造としたものが、比較例4〜6の市販の無機質ボードやパーティクルボードや木(杉)に比して高い釘引き抜き抵抗を備えていることが解る。
【0073】
以上のことから、実施例1〜8のものが建築用材料として良好な釘保持性を備えていることが解る。
【0074】
次に、実施例1〜7の試験体の評価結果をさらに詳しく見るために、廃摩擦材の粒径5.6mm以上の薄片状の破砕物、及び粒径4.0mm以上の薄片状の破砕物の配合割合と釘引き抜き抵抗との関係をグラフ化して、それぞれ図4図6に示す。
【0075】
図4からは、粒径5.6mm以上の薄片状破砕物の配合割合と釘引き抜き抵抗には高い相関が有り、実施例1、5、6及び7の、この薄片状破砕物の配合割合が25質量%以上含む試験体では、釘引き抜き抵抗は一段と高く、且つ一定の値に収斂する傾向にあることがわかる。
【0076】
一方、図6からは、同じ薄片状の破砕物ではあっても、粒径4.0mm以上の破砕物では、その配合割合と釘引き抜きにはこの様な明白な相関は見られない。ただ、先に記載した、薄片状の破砕物が略水平方向に層状に配置されている効果のみが示された結果となった。
【0077】
以上のことから、粒径5.6mm以上の薄片状の破砕物を25質量%以上含む破砕物からなる建築材料はさらに良好な釘保持性を備えていることがわかる。
【0078】
(吸水膨張率)
表1および表2から、実施例1〜8のものが、比較例4と同等の吸水膨張率となっており、また比較例5、6の市販の無機質ボードやパーティクルボード、或いは木(杉)に比して明らかに優れた吸水膨張率になっていることが解る。このことから、実施例1〜8のものが建築用材料として良好な耐水性を備えていることが解る。
【0079】
(作用・効果)
以上述べたように、本実施例で得られた成形体(試験体)は、シート状の摩擦材の破砕物を熱硬化性樹脂で結合したものである。
摩擦材は、繊維基材を含む無機充填材をやや多量の熱硬化性樹脂を含浸し熱硬化して製造したものであり、繊維基材を含むことによって、それ自体が、軽量で柔軟性及び靱性に富み、機械的強度も大きい材料である。
【0080】
したがって、この摩擦材を平均粒径0.5mm程度以上の破砕物として用いることにより、摩擦材の元々の厚さと密度、さらに繊維基材と無機充填材が熱硬化性樹脂で結合された構造を残した薄片状の破砕物が少なからず含まれることになり、摩擦材が持っている軽量さや機械的強度を活かした成形体とできたものと考えられる。
また、摩擦材を5.6mm以上の薄片状破砕物が25質量%以上含む破砕物として用いることにより、薄片が接着補強材の役目を効果的に果たし、さらに合理的に軽量で、機械的強度の優れた成形体を得ることができる。
しかも破砕物の薄片が板状の成形体の面方向に層状に分散(配向)されていることから、柔軟性及び靱性に富んだ機械的強度の高い成形体を得ることができたと考えられる。
【0081】
一方、見掛け上、このような薄片が含まれない破砕物であっても、摩擦材の小破砕片や、また破砕処理の過程で分離してきた繊維片やその軽凝集物が含まれており、平均粒径0.5mm以上であれば、これらの小破砕片による細密充填効果や、繊維片による繊維補強効果によって、やはり優れた物性が発現したものと考えられる。当然、平均粒径0.5mm未満の破砕物の場合は、破砕過程で発生した微細な粉体の割合が多くなり、繊維片も破砕され粒子状になっているために、このような効果は発現しなかったものと考えられる。
【0082】
また、摩擦材にはパルプ等の吸水性素材を用いられているが、熱硬化性樹脂が含浸されていることによって、得られた成形体の耐水性(耐吸水膨張性)は、木質材料を原料とする成形体と比べて大きく改善される。さらに、無機充填材が含まれることによって有機物単体の材料と比べて耐燃性の大きい成形体が得られる。
【0083】
また、建築用成形体の両面の少なくとも一方に、無機繊維を含む補強層および化粧層の少なくとも一方を一体的に成形した場合には、建築用成形体の機械的強度、特に曲げ強度を向上させることができる。加えて、建築用成形体の耐熱性も向上させることができる。
【0084】
さらに、成形体の切断面には白蟻に対する抵抗力の弱いウッドパルプ等を含む破砕物の断面が層状に露出しているものの、破砕物自体が結合剤(フェノール樹脂)を含んでいるために、白蟻の食害を受けなかったものと考えられる。
【0085】
(本実施形態の変形例)
以上、本発明の実施形態を説明したが、具体例を例示したに過ぎず、特に本発明を限定するものではなく、具体的構成などは、適宜設計変更可能である。また、発明の実施の形態に記載された、作用及び効果は、本発明から生じる最も好適な作用及び効果を列挙したに過ぎず、本発明による作用及び効果は、本発明の実施の形態に記載されたものに限定されるものではない。
図1
図2
図3
図4
図5
図6