特許第6429151号(P6429151)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6429151
(24)【登録日】2018年11月9日
(45)【発行日】2018年11月28日
(54)【発明の名称】自動変速機の油圧回路
(51)【国際特許分類】
   F16H 61/00 20060101AFI20181119BHJP
   F16H 59/04 20060101ALI20181119BHJP
   F16H 61/22 20060101ALI20181119BHJP
   F16H 59/66 20060101ALI20181119BHJP
   F16H 63/34 20060101ALI20181119BHJP
【FI】
   F16H61/00
   F16H59/04
   F16H61/22
   F16H59/66
   F16H63/34
【請求項の数】4
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2015-59136(P2015-59136)
(22)【出願日】2015年3月23日
(65)【公開番号】特開2016-176589(P2016-176589A)
(43)【公開日】2016年10月6日
【審査請求日】2017年11月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100071870
【弁理士】
【氏名又は名称】落合 健
(74)【代理人】
【識別番号】100097618
【弁理士】
【氏名又は名称】仁木 一明
(74)【代理人】
【識別番号】100152227
【弁理士】
【氏名又は名称】▲ぬで▼島 愼二
(72)【発明者】
【氏名】久保 直之
(72)【発明者】
【氏名】橘田 祐也
【審査官】 中島 亮
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−185414(JP,A)
【文献】 特開2014−134243(JP,A)
【文献】 特開2002−372139(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 59/00−61/12
F16H 61/16−61/24
F16H 61/66−61/70
F16H 63/40−63/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アイドリングストップ制御されるエンジン(E)に接続された自動変速機の油圧回路(31)が、前記エンジン(E)の運転中に作動する油圧ポンプ(P)と、走行レンジを確立するための油圧係合装置(41)と、パーキングロックを行うための油圧アクチュエータ(25)と、前記油圧ポンプ(P)が発生する油圧で蓄圧されて前記油圧係合装置(41)および前記油圧アクチュエータ(25)を駆動するアキュムレータ(37,38)とを備え、
前記エンジン(E)がアイドリングストップした状態で目標シフトレンジがPレンジに切り換えられたときに、前記アキュムレータ(37,38)に蓄圧された油圧で前記油圧アクチュエータ(25)を駆動してパーキングロックを作動させる自動変速機の油圧回路であって、
前記油圧回路(31)は、前記油圧ポンプ(P)が発生する油圧を前記油圧係合装置(41)に供給する第1油路(L6)に配置された第1開閉弁(43)と、前記油圧ポンプ(P)が発生する油圧を前記アキュムレータ(37,38)に供給する第2油路(L2)に配置された第2開閉弁(33B)とを備え、
目標シフトレンジがPレンジから走行レンジに切り換えられて前記エンジン(E)がアイドリングストップから復帰したときに、前記第1開閉弁(43)が開弁して走行レンジを確立するとともに前記第2開閉弁(33B)が開弁して前記アキュムレータ(37,38)を畜圧することを特徴とする自動変速機の油圧回路。
【請求項2】
前記油圧回路(31)は、前記油圧ポンプ(P)が発生する油圧を前記油圧アクチュエータ(25)に供給する第3油路(L3)に配置された第3開閉弁(35)を備え、
目標シフトレンジがPレンジから走行レンジに切り換えられて前記エンジン(E)がアイドリングストップから復帰したときに、前記第3開閉弁(35)が開弁してパーキングロックを解除することを特徴とする、請求項1に記載の自動変速機の油圧回路。
【請求項3】
前記エンジン(E)がアイドリングストップから復帰したときに前記第1開閉弁(43)が前記油圧係合装置(41)に供給する油圧は、パーキングロックが解除されるまでは前記油圧係合装置(41)が半係合状態となる待機油圧に維持され、パーキングロックが解除された後は記油圧係合装置(41)が完全係合状態となる指示油圧へと漸増することを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の自動変速機の油圧回路。
【請求項4】
前記走行レンジがDレンジであるときに、車両の前上がりの傾斜角が大きいほど前記待機油圧を大きく設定し、前記走行レンジがRレンジであるときに、車両の前下がりの傾斜角が大きいほど前記待機油圧を大きく設定することを特徴とする、請求項3に記載の自動変速機の油圧回路。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アイドリングストップ制御されるエンジンに接続された自動変速機の油圧回路が、前記エンジンの運転中に作動する油圧ポンプと、走行レンジを確立するための油圧係合装置と、パーキングロックを行うための油圧アクチュエータと、前記油圧ポンプが発生する油圧で蓄圧されて前記油圧係合装置および前記油圧アクチュエータを駆動するアキュムレータとを備える自動変速機の油圧回路に関する。
【背景技術】
【0002】
自動変速機の出力軸の回転を拘束して車両の移動を阻止するパーキングロック装置を、油圧回路により作動する油圧アクチュエータにより操作するものが、下記特許文献1により公知である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2008−503695号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、パーキングロック装置の油圧回路を、油圧アクチュエータの一端および他端に複数のソレノイドバルブを介して選択的に油圧を供給することで、パーキングロック作動位置あるいはパーキングロック解除位置に切り換えるように構成した場合、自動変速機の油圧回路には元々多数のソレノイドバルブが使用されているため、パーキングロック装置のためにソレノイドバルブの個数が更に増加するのは望ましいことではない。
【0005】
そこで本出願人は、特願2014−73498号により、発進機構に油圧を供給するソレノイドバルブと、複数の油圧係合装置の何れかに油圧を供給するソレノイドバルブとを兼用することで、ソレノイドバルブの総数を減少させて油圧回路の部品点数を削減するものを提案した。
【0006】
上記提案のものは、エンジンが停止して油圧ポンプが油圧を発生しなくなった後でも、アキュムレータに予め蓄圧した油圧で油圧アクチュエータを駆動してパーキングロックを作動させることが可能である。しかしながら、エンジンがアイドリングストップした後にシフトレンジをPレンジに切り換えてパーキングロックを作動させた状態から、シフトレンジをDレンジあるいはRレンジに切り換えて車両を発進させるとき、アキュムレータの油圧がパーキングロックを作動させるときに既に消費されているため、「始動したエンジンにより油圧ポンプを駆動してアキュムレータを蓄圧する」→「油圧アクチュエータを駆動してパーキングロックを解除する」→「油圧係合装置を係合してDレンジあるいはRレンジを確立する」の手順が必要になり、車両の速やかな発進が妨げられる可能性があった。
【0007】
本発明は前述の事情に鑑みてなされたもので、エンジンのアイドリングストップ制御中にPレンジに切り換えられてアキュムレータの油圧が消費された状態からの車両の速やかな発進を可能にすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、請求項1に記載された発明によれば、アイドリングストップ制御されるエンジンに接続された自動変速機の油圧回路が、前記エンジンの運転中に作動する油圧ポンプと、走行レンジを確立するための油圧係合装置と、パーキングロックを行うための油圧アクチュエータと、前記油圧ポンプが発生する油圧で蓄圧されて前記油圧係合装置および前記油圧アクチュエータを駆動するアキュムレータとを備え、前記エンジンがアイドリングストップした状態で目標シフトレンジがPレンジに切り換えられたときに、前記アキュムレータに蓄圧された油圧で前記油圧アクチュエータを駆動してパーキングロックを作動させる自動変速機の油圧回路であって、前記油圧回路は、前記油圧ポンプが発生する油圧を前記油圧係合装置に供給する第1油路に配置された第1開閉弁と、前記油圧ポンプが発生する油圧を前記アキュムレータに供給する第2油路に配置された第2開閉弁とを備え、目標シフトレンジがPレンジから走行レンジに切り換えられて前記エンジンがアイドリングストップから復帰したときに、前記第1開閉弁が開弁して走行レンジを確立するとともに前記第2開閉弁が開弁して前記アキュムレータを畜圧することを特徴とする自動変速機の油圧回路が提案される。
【0009】
また請求項2に記載された発明によれば、請求項1の構成に加えて、前記油圧回路は、前記油圧ポンプが発生する油圧を前記油圧アクチュエータに供給する第3油路に配置された第3開閉弁を備え、目標シフトレンジがPレンジから走行レンジに切り換えられて前記エンジンがアイドリングストップから復帰したときに、前記第3開閉弁が開弁してパーキングロックを解除することを特徴とする自動変速機の油圧回路が提案される。
【0010】
また請求項3に記載された発明によれば、請求項1または請求項2の構成に加えて、前記エンジンがアイドリングストップから復帰したときに前記第1開閉弁が前記油圧係合装置に供給する油圧は、パーキングロックが解除されるまでは前記油圧係合装置が半係合状態となる待機油圧に維持され、パーキングロックが解除された後は記油圧係合装置が完全係合状態となる指示油圧へと漸増することを特徴とする自動変速機の油圧回路が提案される。
【0011】
また請求項4に記載された発明によれば、請求項3の構成に加えて、前記走行レンジがDレンジであるときに、車両の前上がりの傾斜角が大きいほど前記待機油圧を大きく設定し、前記走行レンジがRレンジであるときに、車両の前下がりの傾斜角が大きいほど前記待機油圧を大きく設定することを特徴とする自動変速機の油圧回路が提案される。
【0012】
尚、実施の形態の第2ボールバルブ33Bは本発明の第2開閉弁に対応し、実施の形態のパーキングインヒビットバルブ35は本発明の第3開閉弁に対応し、実施の形態の第1アキュムレータ37および第2アキュムレータ38は本発明のアキュムレータに対応し、実施の形態の油圧ブレーキ41は本発明の油圧係合装置に対応し、実施の形態のブレーキカットバルブ43は本発明の第1開閉弁に対応し、実施の形態の油路L2は本発明の第2油路に対応し、実施の形態の油路L3は本発明の第3油路に対応し、実施の形態の油路L6は本発明の第1油路に対応する。
【発明の効果】
【0013】
請求項1の構成によれば、自動変速機の油圧回路は、エンジンがアイドリングストップした状態で目標シフトレンジがPレンジに切り換えられたときに、アキュムレータに蓄圧された油圧で油圧アクチュエータを駆動してパーキングロックを作動させるため、アイドリングストップからの復帰時にアキュムレータの油圧は油圧アクチュエータにより消費された状態となる。油圧回路は、油圧ポンプが発生する油圧を油圧係合装置に供給する第1油路に配置された第1開閉弁と、油圧ポンプが発生する油圧をアキュムレータに供給する第2油路に配置された第2開閉弁とを備え、目標シフトレンジがPレンジから走行レンジに切り換えられてエンジンがアイドリングストップから復帰したときに、第1開閉弁が開弁して走行レンジを確立するとともに第2開閉弁が開弁してアキュムレータを畜圧するので、油圧ポンプが発生した油圧でアキュムレータの蓄圧が完了するのを待つことなく、アキュムレータの蓄圧と並行して油圧ポンプが発生した油圧で油圧係合装置を係合して前進走行レンジを確立し、車両の速やかな発進を可能にすることができる。
【0014】
また請求項2の構成によれば、油圧回路は、油圧ポンプが発生する油圧を油圧アクチュエータに供給する第3油路に配置された第3開閉弁を備え、目標シフトレンジがPレンジから走行レンジに切り換えられてエンジンがアイドリングストップから復帰したときに、第3開閉弁が開弁してパーキングロックを解除するので、アキュムレータの蓄圧および走行レンジの確立に遅れることなくパーキングロックを解除し、車両の速やかな発進を可能にすることができる。
【0015】
また請求項3の構成によれば、エンジンがアイドリングストップから復帰したときに第1開閉弁が油圧係合装置に供給する油圧は、パーキングロックが解除されるまでは油圧係合装置が半係合状態となる待機油圧に維持され、パーキングロックが解除された後は油圧係合装置が完全係合状態となる指示油圧へと漸増するので、パーキングロックが解除される前に油圧係合装置が不必要に係合して駆動力を無駄に消費するのを防止しながら、パーキングロックが解除された後は油圧係合装置を速やかに係合して車両を遅滞なく発進させることができる。
【0016】
また請求項4の構成によれば、走行レンジがDレンジであるときに、車両の前上がりの傾斜角が大きいほど待機油圧を大きく設定し、走行レンジがRレンジであるときに、車両の前下がりの傾斜角が大きいほど待機油圧を大きく設定するので、車両が重力で発進方向と逆方向に付勢されてパーキングギヤにパーキングポールが強く噛み込んでも、待機油圧の増加により発進方向の駆動力を伝達することで、パーキングギヤに対するパーキングポールの噛み込みを弱め、パーキングロックが解除された瞬間の衝撃を軽減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】パーキングロック装置の構造を示す図。
図2】パーキングロック装置の油圧回路図。
図3】DレンジあるいはRレンジでの走行時(パーキングロック解除)の作用説明図。
図4】Pレンジ(エンジンON)での停車時(パーキングロック作動)の作用説明図。
図5】エンジンOFF時(パーキングロック作動)の作用説明図。
図6】アイドリングストップ制御時の作用説明図。
図7】アイドリングストップ制御からの復帰時の作用説明図。
図8】Pレンジでのアイドリングストップ制御からの復帰時のタイムチャート。
図9】Pレンジでのアイドリングストップ制御からの復帰時の作用説明図(その1)。
図10】Pレンジでのアイドリングストップ制御からの復帰時の作用説明図(その2)。
図11】メインルーチンのフローチャート。
図12】ソレノイドバルブ制御状態判断のサブルーチンのフローチャート。
図13】インギヤ制御のサブルーチンのフローチャート。
図14】油圧ブレーキ制御状態判断のサブルーチンのフローチャート。
図15】油圧ブレーキ待機油圧算出のサブルーチンのフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図1図15に基づいて本発明の実施の形態を説明する。
【0019】
先ず、図1に基づいてパーキングロック装置の構造を説明する。
【0020】
自動変速機の変速軸11にパーキングギヤ12が固定されており、支軸13に枢支されたパーキングポール14の一端に設けた係止爪14aが、パーキングギヤ12の歯溝12a…から離脱する方向にスプリング15で付勢される。支軸16に枢支されたディテントプレート17にパーキングロッド18の一端がピン19で枢支されており、パーキングロッド18の他端に設けたコーン状のカム20がパーキングポール14の他端に設けたカムフォロア14bに当接する。揺動可能なアーム21の一端に設けられたディテントローラ22が、ディテントプレート17の2個の凹部17a,17bの何れか一方に係合する方向にスプリング23により付勢される。支軸16に枢支されてディテントプレート17と一体に揺動するリンク24が、油圧アクチュエータ25に接続される。
【0021】
油圧アクチュエータ25は、シリンダ26に摺動自在に嵌合するピストン27を備え、ピストン27にリンク24がピン28を介して接続される。シリンダ26の左端側には、ピストン27をパーキングロックが作動する方向(右向き)に駆動するための第1ロック用油室29Aおよび第2ロック用油室29Bが形成され、シリンダ26の右端側には、ピストン27をパーキングロックが解除する方向(左向き)に駆動するための第1アンロック用油室30Aおよび第2アンロック用油室30Bが形成される。
【0022】
第1ロック用油室29Aおよび第2ロック用油室29Bに油圧が供給されるとピストン27が右動し、そのピストン27の動きがリンク24、ディテントプレート17、パーキングロッド18およびカム20を介してパーキングポール14のカムフォロア14bを押し上げ、パーキングポール14がスプリング15の弾発力に抗して揺動して係止爪14aをパーキングギヤ12の歯溝12aの一つに係合させることで、パーキングロックが作動して車両の移動が抑制される。パーキングロックの作動状態では、ディテントプレート17の凹部17bにディテントローラ22が係合し、その状態が安定的に維持される。
【0023】
一方、第1アンロック用油室30Aおよび第2アンロック用油室30Bに油圧が供給されると、ピストン27が左動し、パーキングポール14の係止爪14aがパーキングギヤ12の歯溝12aから離脱することで、パーキングロックが解除されて車両の移動が可能になる。パーキングロックの解除状態では、ディテントプレート17の凹部17aにディテントローラ22が係合し、その状態が安定的に維持される。
【0024】
次に、図2に基づいて油圧アクチュエータ25の作動を制御する油圧回路31を説明する。
【0025】
油圧回路31は、エンジンEにより駆動される油圧ポンプPから油路L1に供給されるライン圧を油圧アクチュエータ25の第1ロック用油室29Aに供給するオン/オフ型のソレノイドバルブ32Aと、油路L1にチェックバルブ36を介して接続する油路L2のライン圧を油圧アクチュエータ25の第2ロック用油室29Bに供給するオン/オフ型のソレノイドバルブ32Bとを備える。ソレノイドバルブ32Aは、その開弁により第1ロック用油室29Aにライン圧を直接供給するが、ソレノイドバルブ32Bは、その開弁により第1ボールバルブ33Aを開弁する。ソレノイドバルブ32Aおよびソレノイドバルブ32Bは共にノーマルオープン型である。
【0026】
また油圧回路31は、油圧ポンプPに接続された油路L3のライン圧を油圧アクチュエータ25の第1アンロック用油室30Aに供給するオン/オフ型のソレノイドバルブ32Cと、チェックバルブ36の下流の油路L4のライン圧を油圧アクチュエータ25の第2アンロック用油室30Bに供給するオン/オフ型のソレノイドバルブ32Dとを備える。ソレノイドバルブ32Dは、その開弁により第2アンロック用油室30Bにライン圧を直接供給するが、ソレノイドバルブ32Cは、その開弁によりパーキングインヒビットバルブ35のスプールを左動することで第1アンロック用油室30Aにライン圧を供給するとともに、その閉弁によりスプールを右動することにより第1アンロック用油室30Aのライン圧をドレンする。ソレノイドバルブ32Cおよびソレノイドバルブ32Dは共にノーマルオープン型である。
【0027】
チェックバルブ36およびソレノイドバルブ32B間の油路L2には、第1アキュムレータ37の蓄圧室37aと第2アキュムレータ38の蓄圧室38aとが接続され、第1アキュムレータ37の背室37bは第1アンロック用油室30Aに連通し、第2アキュムレータ38の背室38bは第2アンロック用油室30Bに連通する。また第1アキュムレータ37および第2アキュムレータ38とチェックバルブ36との間には、オン/オフ型のソレノイドバルブ32Eにより開閉する第2ボールバルブ33Bが配置される。ソレノイドバルブ32Eは、その開弁により第2ボールバルブ33Bを開弁することでオイルの流量を増加させる。ソレノイドバルブ32Eはノーマルクローズ型である。
【0028】
ソレノイドバルブ32Aの下流の油路L1にはロックアップクラッチシフトバルブ39が接続されており、発進機構であるトルクコンバータ40のロックアップクラッチ40aには、油路L5のロックアップクラッチ圧がロックアップクラッチシフトバルブ39を介して供給される。
【0029】
またチェックバルブ36の下流の油路L6には変速用の油圧係合装置である油圧ブレーキ41に接続されており、油路L6にはリニアソレノイドバルブ42およびブレーキカットバルブ43が配置される。ブレーキカットバルブ43は、ソレノイドバルブ32Dにより開閉駆動される。リニアソレノイドバルブ42はインポート42a、アウトポート42bおよびドレンポート42cを備え、インポート42aから入力された油圧を調圧してアウトポート42bから出力したり、インポート42aから入力された油圧をドレンポート42cさせたりすることができる。
【0030】
次に、上記構成を備えた本発明の実施の形態の作用を説明する。
【0031】
図3に示すように、シフトレバーをDレンジあるいはRレンジに操作して所定の変速段で車両が走行しているとき、エンジンEにより駆動される油圧ポンプPにより発生したライン圧が油路L1および油路L3に伝達され、油路L1の油圧はチェックバルブ36を通過して油路L4および油路L6に伝達される。その結果、第2ボールバルブ33Bが開弁することで、油路L1から油路L2にライン圧が供給されて第1アキュムレータ37および第2アキュムレータ38の蓄圧室37a,38aに油圧が蓄圧される。
【0032】
ノーマルオープン型のソレノイドバルブ32Cおよびソレノイドバルブ32Dは消磁されて開弁し、ソレノイドバルブ32Cの開弁によりパーキングインヒビットバルブ35のスプールが左動することで、油路L3のライン圧がパーキングインヒビットバルブ35を介して油圧アクチュエータ25の第1アンロック用油室30Aに伝達されるとともに、ソレノイドバルブ32Dの開弁により油路L4のライン圧が油圧アクチュエータ25の第2アンロック用油室30Bに伝達される。
【0033】
一方、ノーマルオープン型のソレノイドバルブ32Aおよびソレノイドバルブ32Bは励磁されて閉弁し、ソレノイドバルブ32Aの閉弁により油圧アクチュエータ25の第1ロック用油室29Aのオイルは矢印の経路でソレノイドバルブ32Aからドレンされ、ソレノイドバルブ32Bの閉弁により第1ボールバルブ33Aが閉弁することで、油圧アクチュエータ25の第2ロック用油室29Bのオイルは矢印の経路で第1ボールバルブ33Aからドレンされる。その結果、油圧アクチュエータ25のピストン27が左動してパーキングロックを解除する。
【0034】
ソレノイドバルブ32Bを通過可能なオイルの流量は比較的に小さいが、ソレノイドバルブ32Bにより開閉される第1ボールバルブ33Aを通過可能なオイルの流量は比較的に大きいため、第1ボールバルブ33Aを介在させることにより油圧アクチュエータ25の作動応答性を高めることができる。
【0035】
以上のように、車両の走行中にはソレノイドバルブ32Aおよびソレノイドバルブ32Bが閉弁し、ソレノイドバルブ32Cおよびソレノイドバルブ32Dが開弁することで、油圧アクチュエータ25をアンロック位置に作動させてパーキングロックを解除させることができる。このとき、油圧アクチュエータ25は2個の第1ロック用油室29Aおよび第2ロック用油室29Bを備えるとともに、2個の第1アンロック用油室30Aおよび第2アンロック用油室30Bを備えるため、ソレノイドバルブ32Cおよびソレノイドバルブ32Dの一方が閉弁状態に固着して第1アンロック用油室30Aまたは第2アンロック用油室30Bに油圧が供給されなくなっても、あるいはソレノイドバルブ32Aおよびソレノイドバルブ32Bの一方が開弁状態に固着して第1ロック用油室29Aまたは第2ロック用油室29Bに油圧が供給されても、油圧アクチュエータ25を支障なくアンロック位置に作動させて冗長性を確保することができる。
【0036】
尚、ソレノイドバルブ32Cは第1の所定の変速段で開弁し、ソレノイドバルブ32Dは第2の所定の変速段で開弁するようになっており、第1の所定の変速段および第2の所定の変速段は一部で重複する。従って、そのときに確立している変速段に応じて、第1アンロック用油室30Aだけにライン圧が供給される場合と、第2アンロック用油室30Bだけにライン圧が供給される場合と、第1アンロック用油室30Aおよび第2アンロック用油室30Bの両方にライン圧が供給される場合とが存在するが、何れの場合にも油圧アクチュエータ25のピストン27は左動してパーキングロックが解除されるので支障はない。そして前記重複する変速段では、第1アンロック用油室30Aおよび第2アンロック用油室30Bの両方にライン圧が供給されるので、ソレノイドバルブ32Cあるいはソレノイドバルブ32Dが故障してライン圧の供給が途絶えてもパーキングロックは解除状態に保持されて冗長性が高められる。
【0037】
図4に示すように、エンジンEを運転したまま、シフトレバーをPレンジに操作して車両が停止しているとき、ソレノイドバルブ32Aおよびソレノイドバルブ32Bが消磁して開弁し、ソレノイドバルブ32Cおよびソレノイドバルブ32Dが励磁して閉弁する。ソレノイドバルブ32Aの開弁により油路L1のライン圧が油圧アクチュエータ25の第1ロック用油室29Aに伝達されるとともに、ソレノイドバルブ32Bの開弁により第1ボールバルブ33Aが開弁し、油路L2のライン圧が油圧アクチュエータ25の第2ロック用油室29Bに伝達される。
【0038】
一方、ソレノイドバルブ32Cの閉弁により、油圧アクチュエータ25の第1アンロック用油室30Aのオイルが矢印の経路でパーキングインヒビットバルブ35からドレンされるとともに、ソレノイドバルブ32Dの閉弁により、油圧アクチュエータ25の第2アンロック用油室30Bのオイルが矢印の経路でソレノイドバルブ32Dからドレンされる。その結果、油圧アクチュエータ25のピストン27が右動してパーキングロックが作動する。
【0039】
以上のように、エンジンEを運転したままシフトレバーをPレンジに投入すると、ソレノイドバルブ32Aおよびソレノイドバルブ32Bが開弁し、ソレノイドバルブ32Cおよびソレノイドバルブ32Dが閉弁することで、油圧アクチュエータ25をロック位置に作動させることができる。このとき、油圧アクチュエータ25は2個の第1ロック用油室29Aおよび第2ロック用油室29Bを備えるとともに、2個の第1アンロック用油室30Aおよび第2アンロック用油室30Bを備えるため、ソレノイドバルブ32Cおよびソレノイドバルブ32Dの一方が開弁状態に固着して第1アンロック用油室30Aまたは第2アンロック用油室30Bに油圧が供給されても、あるいはソレノイドバルブ32Aおよびソレノイドバルブ32Bの一方が閉弁状態に固着して第1ロック用油室29Aまたは第2ロック用油室29Bに油圧が供給されなくなっても、油圧アクチュエータ25を支障なくロック位置に作動させて冗長性を確保することができる。
【0040】
図5に示すように、シフトレバーをPレンジに操作してイグニッションをオフすると、エンジンEが停止することでライン圧が消滅するが、本実施の形態によれば、第1アキュムレータ37および第2アキュムレータ38に蓄圧した油圧によりパーキングロックを支障なく作動させることができる。
【0041】
即ち、イグニッションオフによりノーマルオープン型のソレノイドバルブ32A、ソレノイドバルブ32B、ソレノイドバルブ32Cおよびソレノイドバルブ32Dは全て消磁して開弁するため、ライン圧が消滅しても、第2ボールバルブ33Bが閉弁することで、第1アキュムレータ37および第2アキュムレータ38に蓄圧された油圧は漏洩することなく保持される。
【0042】
そしてソレノイドバルブ32Bの開弁により第1アキュムレータ37および第2アキュムレータ38の油圧が開弁した第2ボールバルブ33Bを介して油圧アクチュエータ25の第2ロック用油室29Bに伝達される一方、ソレノイドバルブ32Cの閉弁により、油圧アクチュエータ25の第1アンロック用油室30Aのオイルが矢印の経路でパーキングヒンヒビットバルブ35からドレンされるとともに、ソレノイドバルブ32Dの閉弁により、油圧アクチュエータ25の第2アンロック用油室30Bのオイルが矢印の経路でソレノイドバルブ32Dからドレンされる。その結果、油圧アクチュエータ25のピストン27が右動してパーキングロックが作動する。
【0043】
以上のように、シフトレバーをPレンジに操作してイグニッションをオフしたことでライン圧が消滅しても、第1アキュムレータ37および第2アキュムレータ38に蓄圧した油圧によりパーキングロックを支障なく作動させることができる。
【0044】
さて、本実施の形態の車両はアイドリングストップ制御を行うことが可能であり、信号待ち等の一時的な停車時にエンジンEが停止することでライン圧が消滅する。このアイドリングストップ制御中には、図6に示すように、第2ボールバルブ33Bが閉弁することで、第1アキュムレータ37および第2アキュムレータ38に蓄圧された油圧は漏洩することなく保持される。またライン圧の消滅により、油圧アクチュエータ25の第1アンロック用油室30Aおよび第2アンロック用油室30Bの油圧も消滅するが、ディテントプレート17およびディテントローラ22の係合によりパーキングロックは解除状態に維持される。
【0045】
アイドリングストップ制御からの復帰時にエンジンEが始動しても油圧ポンプPの応答遅れによりライン圧は直ちに立ち上がらないため、発進に必要な油圧係合装置である油圧ブレーキ41に油圧を供給することができず、速やかな発進が阻害される可能性がある。しかしながら、本実施の形態によれば、アイドリングストップ制御中に保持されていた第1アキュムレータ37および第2アキュムレータ38の油圧で油圧ブレーキ41を遅滞なく作動させることができる。
【0046】
即ち、図7に示すように、アイドリングストップ制御からの復帰と同時にソレノイドバルブ32を励磁して開弁することで第2ボールバルブ33Bを開弁すると、第1アキュムレータ37および第2アキュムレータ38に蓄圧された油圧が油路L2から第2ボールバルブ33Bを介して油路L4および油路L6に供給される。このとき、油路L4に介装したソレノイドバルブ32Dは消磁して開弁しているため、ブレーキカットバルブ43のスプールは右動している。よって、油路L6に介装したリニアソレノイドバルブ42を所定開度で開弁することで、第1アキュムレータ37および第2アキュムレータ38に蓄圧された油圧を油圧ブレーキ41に供給し、車両を速やかに発進させることができる。
【0047】
ソレノイドバルブ32を通過可能なオイルの流量は比較的に小さいが、ソレノイドバルブ32により開閉される第2ボールバルブ33Bを通過可能なオイルの流量は比較的に大きいため、第2ボールバルブ33Bを介在させることにより第1アキュムレータ37および第2アキュムレータ38からの油圧供給の応答性を高め、油圧ブレーキ41を速やかに係合することができる。
【0048】
またエンジンEが停止してライン圧が途絶えるアイドリングストップ制御中にシフトレバーをPレンジに操作した場合にも、図5で説明したPレンジにおいてイグニッションをオフした場合と同様に、第1アキュムレータ37および第2アキュムレータ38に蓄圧された油圧を、ソレノイドバルブ32Bの開弁により開弁した第2ボールバルブ33Bを介して油圧アクチュエータ25の第2ロック用油室29Bに伝達することで、パーキングロックを支障なく作動させることができる。
【0049】
しかながら、アイドリングストップ制御から復帰して車両を発進させるとき、パーキングロックを解除して油圧ブレーキ41を係合する必要があるが、図5に示すように、第1アキュムレータ37および第2アキュムレータ38に蓄圧された油圧は、Pレンジへの操作によりパーキングロックが作動するときに既に消費されている。そのため、車両を発進させるべくパーキングロックを解除して油圧ブレーキ41を係合するには、油圧ポンプPにより第1アキュムレータ37および第2アキュムレータ38を充填し、続いてパーキングロックを解除し、続いて油圧ブレーキ41を係合する必要があり、その手順に時間を要するために車両の速やかな発進が阻害される可能性がある。
【0050】
そこで本実施の形態では、Pレンジにおけるアイドリングストップ制御から復帰して車両を発進させるときに、油圧ポンプPによる第1アキュムレータ37および第2アキュムレータ38の充填と、パーキングロックの解除と、油圧ブレーキ41の係合(インギヤ制御)とを同時並行的に実行することで、車両の速やかな発進を可能にしている。
【0051】
即ち、図8のタイムチャートに示すように、時刻t1にアイドリングストップ制御によりエンジンEが停止して油圧ブレーキ41が係合解除した後、時刻t2にシフトレバーがPレンジに操作されると、第1アキュムレータ37および第2アキュムレータ38に蓄圧された油圧により油圧アクチュエータ25が駆動されてパーキングロックが作動するが、第1アキュムレータ37および第2アキュムレータ38は油圧アクチュエータ25により油圧を消費されるために空の状態になってしまう。
【0052】
時刻t3に車両を発進させるべくシフトレバーがDレンジに操作されると、アイドリングストップ制御から復帰したエンジンEにより油圧ポンプPが作動して第1アキュムレータ37および第2アキュムレータ38が蓄圧されると同時に、油圧ポンプPが発生する油圧で油圧ブレーキ41が係合を開始する。時刻t4に第1アキュムレータ37および第2アキュムレータ38の蓄圧が完了すると、第1アキュムレータ37および第2アキュムレータ38に蓄圧された油圧で油圧アクチュエータ25が作動してパーキングロックが解除される。破線は比較例を示すもので、従来は時刻t6であった油圧ブレーキ41の係合タイミングが、本実施の形態では時刻t3に早まっている。
【0053】
図9は、Pレンジでのアイドリングストップ制御から復帰する第1段階を示すもので、始動したエンジンEによる作動する油圧ポンプPからの油圧が油路L2を介して第1アキュムレータ37および第2アキュムレータ38の蓄圧を開始する。このとき、ソレノイドバルブ32Bが閉弁して第1ボールバルブ33Aを閉弁することで、第1アキュムレータ37および第2アキュムレータ38に蓄圧された油圧が油圧アクチュエータ25側に漏洩することが阻止される。
【0054】
これと同時に、ソレノイドバルブ32Dが開弁してブレーキカットバルブ43のスプールが右動することで、ライン圧が油路L6を介して油圧ブレーキ41に供給される。このとき、油圧ブレーキ41は即座に係合することはなく、ソレノイドバルブ32Dの開度を調整してライン圧を低く抑えることで半係合状態(スリップ状態)に維持される。またソレノイドバルブ32Dの開弁によりライン圧が油路L4を介して油圧アクチュエータ25の第2アンロック用油室30Bに伝達されるが、そのライン圧は低く抑えられているためにディテント機構を備える油圧アクチュエータ25がアンロック位置に作動することはない。
【0055】
図10は、Pレンジでのアイドリングストップ制御から復帰する第2段階を示すもので、第1アキュムレータ37および第2アキュムレータ38は既に蓄圧が完了しており、ソレノイドバルブ32Cが開弁してパーキングインヒビットバルブ35のスプールが左動することで、油圧アクチュエータ25の第1アンロック用油室30Aにライン圧が伝達されるため、油圧アクチュエータ25がアンロック位置に作動してパーキングロックが解除される。これと同時に、ソレノイドバルブ32Dの開度を全開にすると、油圧ブレーキ41が完全係合してインギヤが完了し、車両の発進が可能になる。
【0056】
上記作用を、図11図15のフローチャートに基づいて更に詳細に説明する。
【0057】
図11のメインルーチンのステップS1で油圧ブレーキ41を係合して自動変速機をインギヤするためのソレノイドバルブ32Dの制御状態を判定する。続くステップS2で自動変速機のインギヤ制御、つまり油圧ブレーキ41の係合時の油圧制御を実行するか否かを判断し、YESの場合にはステップS3でインギヤ制御を実行し、NOの場合にはステップS4でソレノイドバルブ32Dのその他の制御を実行する。
【0058】
図12は、前記ステップS1(ソレノイドバルブ制御状態判断)のサブルーチンを示すもので、ステップS11でパーキングロックが解除しているとき、ステップS12でRレンジが選択され、ステップS13で前回の制御段が後進変速段以外であれば、つまり今回初めてRレンジが選択されたのであれば、ステップS14で後進変速段へのインギヤ制御を実行し、前記ステップS13で前回の制御段が後進変速段であれば、つまり前回既にRレンジが選択されていれば、ステップS15で後進変速段の通常の制御を実行する。
【0059】
前記ステップS12でRレンジが選択されず、ステップS16でDレンジが選択され、ステップS17で前回の制御段が前進変速段以外であれば、つまり今回初めてDレンジが選択されたのであれば、ステップS18で前進変速段へのインギヤ制御を実行し、前記ステップS17で前回の制御段が前進変速段であれば、つまり前回既にDレンジが選択されていれば、ステップS19で前進変速段の通常の制御を実行する。前記ステップS12でRレンジが選択されず、前記ステップS16でDレンジが選択されなければ、ステップS20でNレンジの確立を実行する。
【0060】
前記ステップS11でパーキングロックが作動しているとき、ステップS21でアイドリングストップ制御中であり、かつ前回のレンジがPレンジであれば、前記ステップS12に移行することで、状況に応じて前記ステップS14で後進変速段へのインギヤ制御を実行し、あるいは前記ステップS18で前進変速段へのインギヤ制御を実行する。
【0061】
図12のフローチャートの意図するところは、通常のインギヤ制御は、パーキングロックの解除状態でRレンジあるいはDレンジが選択された場合にのみ実行されるものであるが、パーキングロックが作動状態にあっても、Pレンジでのアイドリングストップ制御中にRレンジあるいはDレンジが選択された場合には、例外的にインギヤ制御を実行することにある。
【0062】
図13は、前記ステップS3(インギヤ制御)のサブルーチンを示すもので、先ずステップS31で制御に必要なパラメータを検出する。制御に必要なパラメータは、例えば油圧ブレーキ41の作動油室に供給される実油圧や、車両の前後傾斜角である。続くステップS32で油圧ブレーキ41の制御状態を判定した後、ステップS33で油圧ブレーキ41の待機油圧を算出する。
【0063】
図14は、前記ステップS32(油圧ブレーキ制御状態判断)のサブルーチンであり、先ずステップS41で油圧ブレーキ41の油室への作動油の充填が完了したか否かを判定する。油圧ブレーキ41は油室に作動油を供給することで係合するが、油室が完全に空の状態から作動油を供給すると、油室に油圧が立ち上がるまでのタイムラグにより係合応答性が低下する。そこで、油圧ブレーキ41の油室にトルク伝達が行われない程度に作動油を充填しておき、その後に油室の油圧を指示油圧へと増加させることで、油圧ブレーキ41の係合応答性が高められる。作動油の充填が行われる期間は、図8のタイムチャートの時刻t3から時刻t5までである。
【0064】
前記ステップS41で油圧ブレーキ41の作動油の充填が完了していなければ、ステップS42で作動油の充填を実行する。前記ステップS41で油圧ブレーキ41の充填が完了した後、ステップS43で油圧ブレーキ41の指示油圧と実油圧の差が閾値を超えているとき、ステップS44で油圧ブレーキ41の指示油圧を保持する待機制御を実行する。その後に前記ステップS43で油圧ブレーキ41の指示油圧と実油圧の差が閾値以下になっても、ステップS45でパーキングロックが解除しなければ、前記ステップS44で油圧ブレーキ41の指示油圧を保持する待機制御を継続する。待機制御中の指示油圧は、油圧ブレーキ41が半係合状態になって車両が発進できない程度のトルクを伝達する油圧である。油室の指示油圧を待機させる期間は、図8のタイムチャートの時刻t5から時刻t6までである。
【0065】
その結果、前記ステップS45でパーキングロックが解除すると、ステップS46で指示油圧を漸増する加算制御を実行することで、油圧ブレーキ41を完全係合状態にして車両を発進させる。油室の指示油圧を加算制御する期間は、図8のタイムチャートの時刻t6から時刻t7までである。
【0066】
以上のように、エンジンEがアイドリングストップから復帰し、油圧ブレーキ41を係合してDレンジあるいはRレンジを確立するときに、油圧ブレーキ41に供給する油圧を、パーキングロックが解除されるまでは半係合状態となる待機油圧に維持し、パーキングロックが解除された後は完全係合状態となる指示油圧へと漸増するので、パーキングロックが解除される前に油圧ブレーキ41が不必要に係合して駆動力を無駄に消費するのを防止しながら、パーキングロックが解除された後は油圧ブレーキ41を速やかに係合して車両を遅滞なく発進させることができる。
【0067】
図15は、前記ステップS33(油圧ブレーキ待機油圧算出)のサブルーチンであり、先ずステップS51でパーキングロックが解除していれば、ステップS52で通常の待機油圧マップから待機油圧を検索するが、前記ステップS51でパーキングロックが作動しているときには、ステップS53でPレンジでのアイドリングストップ制御後の待機油圧マップから待機油圧を検索する。
【0068】
Pレンジでのアイドリングストップ制御後の待機油圧マップには、Dレンジにインギヤする場合のマップと、Rレンジにインギヤする場合のマップとが存在する。Dレンジにインギヤする場合のマップは、傾斜センサで検出した車体の傾斜が登り坂(前上がり)の場合に、傾斜角度の増加に応じて待機油圧が増加するように設定される。その理由は、登り坂で車両を前進発進させるときは重力で車両が後進しようとするため、待機油圧を増加させて油圧ブレーキ41をある程度係合して前進方向のトルクを発生させることで、パーキングロックのパーキングギヤ12へのパーキングポール14の噛み込みを弱くし、パーキングロックが解除するときの衝撃を軽減するためである。
【0069】
一方、Rレンジにインギヤする場合のマップは、傾斜センサで検出した車体の傾斜が降り坂(前下がり)の場合に、傾斜角度の増加に応じて待機油圧が増加するように設定される。その理由は、降り坂で車両を後進発進させるときは重力で車両が前進しようとするため、待機油圧を増加させて油圧ブレーキ41をある程度係合して後進方向のトルクを発生させることで、パーキングロックのパーキングギヤ12へのパーキングポール14の噛み込みを弱くし、パーキングロックが解除するときの衝撃を軽減するためである。
【0070】
以上のように、本実施の形態によれば、アイドリングストップ中にシフトレバーがPレンジに操作されると、第1アキュムレータ37および第2アキュムレータ38に蓄圧された油圧がパーキングロックの作動に消費されてしまうが、シフトレバーがPレンジからDレンジあるいはRレンジに操作されてアイドリングストップから復帰するきに、油圧ポンプPが発生する油圧で第1アキュムレータ37および第2アキュムレータ38が完全に蓄圧されるのを待つことなく、第1アキュムレータ37および第2アキュムレータ38の蓄圧と並行して、DレンジあるいはRレンジへのインギヤとパーキングロックの解除とを実行することで、車両を速やかに発進させることができる。
【0071】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、本発明はその要旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更を行うことが可能である。
【0072】
例えば、本発明の油圧係合装置は実施の形態の油圧ブレーキ41に限定されず、油圧クラッチ等の他の油圧係合装置であっても良い。
【0073】
また実施の形態では油圧ポンプPがエンジンEにより駆動されるが、油圧ポンプPを電動モータで駆動してアイドリングストップ制御時に停止させるように構成しても良い。
【符号の説明】
【0074】
25 油圧アクチュエータ
31 油圧回路
33B 第2ボールバルブ(第2開閉弁)
35 パーキングインヒビットバルブ(第3開閉弁)
37 第1アキュムレータ(アキュムレータ)
38 第2アキュムレータ(アキュムレータ)
41 油圧ブレーキ(油圧係合装置)
43 ブレーキカットバルブ(第1開閉弁)
E エンジン
P 油圧ポンプ
L2 油路(第2油路)
L3 油路(第3油路)
L6 油路(第1油路)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15