特許第6429162号(P6429162)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6429162
(24)【登録日】2018年11月9日
(45)【発行日】2018年11月28日
(54)【発明の名称】ラビリンチュラ類の培養方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/12 20060101AFI20181119BHJP
【FI】
   C12N1/12 A
   C12N1/12 B
【請求項の数】7
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2018-542306(P2018-542306)
(86)(22)【出願日】2017年12月28日
(86)【国際出願番号】JP2017047176
【審査請求日】2018年8月10日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】593053335
【氏名又は名称】リファインホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】特許業務法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】坂本 正爾
(72)【発明者】
【氏名】川瀬 泰人
(72)【発明者】
【氏名】白石 不二雄
(72)【発明者】
【氏名】彼谷 邦光
【審査官】 松田 芳子
(56)【参考文献】
【文献】 韓国公開特許第2015−0062006(KR,A)
【文献】 米国特許出願公開第2015/0315538(US,A1)
【文献】 国際公開第2016/117489(WO,A1)
【文献】 特開昭54−028897(JP,A)
【文献】 欧州特許出願公開第02990474(EP,A1)
【文献】 ABREU, Ana P. et. al,Mixotrophic cultivation of Chlorella vulgaris using industrial dairy waste as organic carbon source,Bioresource Technology,2012年,Vol.118,p.61-66
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00 〜7/08
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳清、グルコース及び酵母エキスを含む培地を用いてラビリンチュラ類を培養するラビリンチュラ類の培養方法。
【請求項2】
前記乳清が、固形分換算で3g/L以上30g/L以下の濃度で前記培地に含まれる請求項1に記載のラビリンチュラ類の培養方法。
【請求項3】
前記乳清が、動物由来の乳清である請求項1に記載のラビリンチュラ類の培養方法。
【請求項4】
前記乳清が、豆乳清である請求項1に記載のラビリンチュラ類の培養方法。
【請求項5】
前記乳清が、pHが4以上8以下に調整されている請求項1に記載のラビリンチュラ類の培養方法。
【請求項6】
前記培地が、カゼイン分解物、大豆分解物、ゼラチン分解物、動物由来エキスを分解して得られるタンパク分解物、及び、植物由来エキスを分解して得られるタンパク分解物を含まない組成である請求項1に記載のラビリンチュラ類の培養方法。
【請求項7】
前記ラビリンチュラ類が、オーランチオキトリウム属、シゾキトリウム属、又は、スラウストキトリウム属である請求項1に記載のラビリンチュラ類の培養方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、従属栄養生物であるラビリンチュラ類の培養方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、微細藻類を利用して有用物質を生産する技術が盛んに開発されている。ある種の微細藻類は、細胞内に大量の脂質を蓄積するため、この能力を利用した機能性成分、生理活性物質、バイオ燃料等の生産について実用化が進められている。また、クロレラ、スピルリナ、ユーグレナ等の微細藻類は、栄養素を豊富に含んでいるため、健康食品や飼料をはじめ、食用の用途についても利用が拡大している。
【0003】
また、近年、微細藻類の近縁の原生生物であるラビリンチュラ類に注目が集まっている。ラビリンチュラ類は、光合成を行わない従属栄養性の海生真核微生物であり、亜熱帯や熱帯を中心に広く分布している。ラビリンチュラ類には、ドコサヘキサエン酸(DHA)、エイコサペンタエン酸(EPA)等のオメガ−3脂肪酸や、スクアレン等の高級炭化水素を細胞内に大量に蓄積するものが報告されている他、増殖速度が速く、アミノ酸スコアが高い特徴がみられる。
【0004】
従来、DHAやEPAの供給源としては、主に青魚等の海産魚類が利用されてきた。海産魚類から採集された魚油中の脂肪酸は、輸送中等に生成した酸化体や海中で蓄積した化学物質を除いたり、脂肪酸群中のDHAやEPAの純度を高めたりする目的で、エステル交換、蒸留、疎水クロマトグラフィー等の精製処理を施されている。これに対し、ラビリンチュラ類を利用すると、水産資源との競合が無くなり、安定供給が可能になる他、酸化による劣化や不純物の混入も低減することが見込まれるため、DHAやEPAの低コスト化が進むものと期待されている。
【0005】
従属栄養生物であるラビリンチュラ類を増殖させるための培地としては、特許文献1や特許文献2に記載されているように、一般にGTY培地が用いられている。GTY培地は、グルコースを20g/L、トリプトンを10g/L、酵母エキスを5g/Lの濃度で含む基本組成であり、天然海水や人工海水を用いて調製されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−304685号公報
【特許文献2】国際公開第2012/077799号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ラビリンチュラ類等の従属栄養生物は、エネルギー源、必須栄養素等増殖に必要な栄養源を含む培地で増殖させることができる。従来、一般的な培地には、必須栄養素の一部として、トリプトンやペプトン等のカゼイン分解物が用いられている。しかし、カゼイン分解物をはじめとするタンパク分解物は、栄養素としての利用効率には優れるものの、比較的高価である。そのため、一般的に用いられているGTY培地のように高価なタンパク分解物を含む培地では、ラビリンチュラ類等の従属栄養生物の大量培養を行う場合に、採算を採るのが難しいという問題がある。
【0008】
これまでに、本発明者らにより、トリプトンに代替する栄養素として魚由来エキスを利用する試みがなされている。魚由来エキスは、魚肉を酵素処理したタンパク分解物であるが、廃棄物を原料として調製することも可能であり、トリプトン等と比較すると安価に入手することが可能になっている。また、魚由来エキスは、アミノ酸の種類毎の含有比率が良好であり、栄養源として優れていることも確認されている。
【0009】
しかし、魚由来エキスは、低コストである一方、臭気が強いため、培養した従属栄養生物や、培養した従属栄養生物から抽出した有用物質に、匂い移りを生じることが問題となる。魚臭は、培養した従属栄養生物自体を食品化する場合や、抽出した有用物質を利用する場合には、用途にそぐわない臭気となるため、脱臭処理が必要になったり、培養した従属栄養生物の利用が制約されたりしている。また、魚由来エキスの生産量は、漁獲制限や食用需要に左右され易いため、将来的に調達が困難になってコストに見合わなくなる可能性もある。
【0010】
そこで、本発明は、従属栄養生物であるラビリンチュラ類を低コストで培養することができて、培養により得られる培養組成物の利用性も損ない難いラビリンチュラ類の培養方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、前記の課題を解決するため、未利用資源のうちで、従属栄養生物の培養に利用できる安価な培地成分の探索・評価を鋭意行った。その結果、乳汁から主な固形分を分離して得られる乳清(ホエイ)が、ラビリンチュラ類等の従属栄養生物を培養するための培地の成分として有効であることを見出した。
【0012】
動物由来の乳清は、例えば、チーズ製造時の副生物として知られており、乳清中の固形分は、食品素材や飼料等として、また、乳清タンパク質と呼ばれる特定のタンパク質は、機能性成分として利用されている例がある。また、大豆ホエイ、豆乳ホエイ等と呼ばれる豆乳清(以下、単に「乳清」ということがある。)も知られている。しかし、日本国内等においては、動物由来の乳清及び豆乳清のいずれについても、乳清全体を有効利用している例は少なく、多くは廃棄処理されている。そのため、乳清は、副生物として安定して入手することが可能であり、トリプトン等のタンパク分解物と比較すると安価な素材である。
【0013】
また、チーズ乳清は、β−ラクトグロブリン、α−ラクトアルブミン、免疫グロブリン、ラクトフェリン等のタンパク質や、遊離アミノ酸、尿素等の非タンパク質体の窒素化合物や、リボフラビン等のビタミン類や、Ca、Na、K等のミネラルや、乳糖等を豊富に含んでおり、栄養源として優れている。豆腐製造時の搾汁液である豆乳ホエイにも豆乳に元来含まれている栄養素が残っており、その利用価値は高い。加えて、乳清は、乳製品に特有の弱い香気を有するものの、強い臭気が無く、匂い移りを生じ難い特徴がある。
【0014】
このような知見に基づいて発明された本発明に係るラビリンチュラ類の培養方法は、乳清を含む培地を用いてラビリンチュラ類を培養することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係るラビリンチュラ類の培養方法によれば、従属栄養生物であるラビリンチュラ類を低コストで培養することができて、培養により得られる培養組成物の利用性も損ない難く、ラビリンチュラ類自体を食品化する場合等にも、培養したラビリンチュラ類自体の利用が制約され難い。培養により得られるラビリンチュラ類を主成分とする培養組成物は、培地からの匂い移りが少なく、臭気が弱いため、臭気を除く脱臭処理を施したり、ラビリンチュラ類が産生した有用物質を抽出したりしなくとも、ラビリンチュラ類自体や産生された有用物質を任意の用途に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】オーランチオキトリウムによる二糖類の資化性の評価結果を示す図である。
図2】オーランチオキトリウムの培養における乳清の濃度の影響を示す図である。
図3】前培養の条件を変えて培養したオーランチオキトリウムの増殖曲線である。
図4】乳清を含む流加液を添加して培養したオーランチオキトリウムの増殖曲線である。
図5】グルコースを添加して培養したオーランチオキトリウムの増殖曲線である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の一実施形態に係るラビリンチュラ類の培養方法について詳細に説明する。
【0018】
本実施形態に係るラビリンチュラ類の培養方法は、乳清を含む培地を用いて従属栄養生物であるラビリンチュラ類を培養する方法に関する。本明細書において、乳清とは、乳汁等のタンパク源から主な固形分を分離して得られる水溶液を意味する。乳清は、主として水溶性成分を含む水溶液であるが、微量の固形分ないし脂溶性成分を含んでいてもよい。
【0019】
本実施形態において、乳清は、ラビリンチュラ類を培養するための培地を調製するとき、培地成分、すなわちラビリンチュラ類の増殖を促進する必須栄養素として用いられる。培地としては、液体培地、固形培地、半固形培地等の適宜の培地を調製することができるが、ラビリンチュラ類の大量培養が可能である点から、液体培地を調製することが好ましい。
【0020】
乳清は、液体の状態で用いてもよいし、固体の状態で用いてもよい。液体の乳清は、乳汁等のタンパク源から分離された後、適宜の固形分濃度に希釈されてもよいし、濃縮されてもよい。また、固体の乳清は、噴霧乾燥等によって粉末、顆粒等の適宜の状態にして用いることができる。乳清は、特に、液体の状態で用いることが好ましい。液体の乳清であれば、培地に固体を溶解させる操作が不要になるため、大量の培地を効率的に調製することができる。また、副産物として得られる乳清の初期状態は液体であるため、副産物利用の観点からも効率的である。
【0021】
乳清としては、乳汁から分離される動物由来の乳清、及び、植物性のタンパク源である豆から分離される豆乳清のうち、少なくとも一方を用いることができる。乳清としては、一種を単独で培地の調製に用いてもよいし、起源が異なる複数種を混合して用いてもよい。
【0022】
動物由来の乳清は、乳汁から水溶性画分を分離することによって得ることができる。例えば、チーズの製造時、乳汁を、スタータとしての乳酸菌発酵や、キモシン、ペプシン、レンネット等の凝乳酵素の添加や、酸の添加によって凝乳させたり、ヨーグルトの製造時、乳汁を乳酸菌発酵させたりすると、タンパク質や脂肪を主成分とするカードが得られる。このようなカードを圧搾ないし水切りすると、水溶性画分として乳清を得ることができる。
【0023】
動物由来の乳清の原料として用いられる乳汁は、乳脂肪分が脱脂されていてもよいし、乳脂肪分が脱脂されていなくてもよい。また、動物由来の乳清は、乳汁をpH4.6程度で凝乳させて得られる酸性乳清であってもよいし、乳汁をレンネット等で凝乳させて得られる甘性乳清であってもよい。また、動物由来の乳清は、ナトリウム、カリウム等が脱塩されていてもよいし、脱塩されていなくてもよい。
【0024】
乳汁としては、具体的には、牛乳、水牛乳、山羊乳、羊乳、ヤク乳、馬乳、ラクダ乳等を用いることができる。乳汁としては、これらの中でも、入手が容易であり、安価である点から、牛乳、水牛乳、山羊乳、又は、羊乳が好ましく、牛乳が特に好ましい。
【0025】
豆乳清は、豆等の植物性のタンパク源から水溶性画分を分離することによって得ることができる。例えば、豆を摩砕して水に浸漬し、pH4.5〜5.0程度以下の酸性条件や、80℃程度以上の加熱条件等で処理し、繊維質等の固形分を分離除去すると、主として水溶性成分を含む抽出液が得られる。また、豆腐、油揚げ等の豆加工品の製造時、摩砕した豆を煮詰めた後に固形分を漉し取ると、豆乳汁が得られる。このようにして得られる抽出液や豆乳汁に含まれている不溶性タンパク質を、塩化マグネシウム等の凝固剤で塩析させると、水溶性画分として豆乳清を得ることができる。
【0026】
豆乳清の原料として用いられる植物性のタンパク源は、油分が脱脂されていてもよいし、油分が脱脂されていなくてもよい。例えば、豆乳清は、脱脂加工した加工豆を原料とする豆乳汁、及び、脱脂加工していない未加工豆を原料とする豆乳汁のいずれから分離してもよい。
【0027】
植物性のタンパク源としては、具体的には、大豆、緑豆、黒豆等を用いることができる。植物性のタンパク源としては、これらの中でも、入手が容易であり、安価である点から、大豆が好ましい。豆乳清は、固形分濃度が調整されている大豆乳、緑豆乳、黒豆乳等から直接分離して、大豆ホエイ、緑豆ホエイ、黒豆ホエイ等として得てもよい。
【0028】
動物由来の乳清や豆乳清は、培地に必要な、タンパク質、ペプチド、アミノ酸等の窒素化合物や、水溶性ビタミン、ミネラル、糖類等を豊富に含んでいる。また、乳清は、加工品の製造時に副生物として生成し、廃棄物として処理されることが多いので、トリプトン等のタンパク分解物と比較すると安価に入手することができる。そのため、乳清を、トリプトン等のタンパク分解物に代えて培地の成分として用いることにより、培地を低コスト化することができるし、廃棄物の有効利用を図ることもできる。
【0029】
また、乳清は、強い臭気が無いため、乳清を用いた培地で原生生物を培養したとき、培養物への匂い移りを生じ難いし、乳製品に特有の弱い香気を有するため、培養物の臭気がマスキングされる場合がある。更には、元々が食品原料由来であるため、培養したラビリンチュラ類自体を食品化したり、ラビリンチュラ類が産生した有用物質を利用したりする場合に、臭気を除く脱臭処理、産生された有用物質を細胞外に抽出する抽出処理、有用物質を培地成分や細胞成分から精製する精製処理等を簡略化することが可能になる。
【0030】
乳清は、ラビリンチュラ類を培養するための培地を調製するとき、pHが4以上8以下、更にはpHが6以上8以下に調整されていることが好ましい。ラビリンチュラ類は、培養の至適pHが中性付近である。これに対し、動物由来の乳清は、乳酸菌発酵や酸の添加によってpH4.6付近まで酸性化している場合がある。また、大豆ホエイ等の豆乳清は、固形分を凝固させる処理や等電点沈殿処理のためにpH4〜5付近に調整されている場合がある。そのため、乳清のpHを予め中性付近に調整しておくことにより、乳清を用いた培地のpHの調整を簡略化することができる。
【0031】
ラビリンチュラ類を培養するための培地は、乳清に加えて、一般的な炭素源、窒素源、ビタミン、ミネラル等の他の栄養素や、リン酸塩等の各種の緩衝剤や、塩化ナトリウム等の等張化剤や、二員培養のための細菌、酵母、珪藻等の微生物や、寒天等の培地成分を含有してもよい。また、天然海水を用いて調製されてもよいし、人工海水を用いて調製されてもよい。但し、ラビリンチュラ類を培養するための培地は、臭気を低減する観点から、魚由来エキスを含有しない組成とすることが好ましい。
【0032】
一般的な培地成分の具体例としては、グルコース、フルクトース、マンノース、ガラクトース、スクロース、マルトース等の炭素源や、グルタミン酸、グルタミン酸ナトリウム等のアミノ酸類、ペプチド、タンパク質、尿素、アンモニア、アンモニウム塩、硝酸塩等の窒素源や、酵母エキス等のエキス類や、チアミン、リボフラビン、ナイアシン、パントテン酸、ビタミンB6、ビオチン、葉酸、ビタミンB12等のビタミンや、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、リン、硫黄、鉄、コバルト、銅、亜鉛、マンガン、モリブデン等のミネラルが挙げられる。
【0033】
人工海水を調製するための海水塩としては、例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、塩化ストロンチウム、塩化アンモニウム、塩化鉄、塩化マンガン、塩化コバルト、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、硝酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、ケイ酸ナトリウム、フッ化ナトリウム、硫酸マグネシウム、硫酸コバルト、硫酸銅、硫酸亜鉛、モリブデン酸ナトリウム、臭化カリウム、ホウ酸等を用いることができる。
【0034】
乳清は、乳清に含まれている成分の固形分換算で、3g/L以上30g/L以下の濃度で培地に含まれることが好ましく、6g/L以上24g/L以下の濃度で培地に含まれることがより好ましい。乳清の濃度が3g/L以上であれば、ラビリンチュラ類を、乳清を栄養源として有意に高い増殖速度で増殖させることができる。また、乳清の濃度が6g/L以上24g/L以下であれば、より高い増殖速度が得られる。
【0035】
ラビリンチュラ類を培養するための培地において、乳清は、必須アミノ酸を含むアミノ酸源として、すなわち窒素量換算のアミノ酸濃度が最大の培地成分として配合されることが好ましい。一般的な培地には、主なアミノ酸源として、トリプトン、ペプトン、カザミノ酸等のカゼイン分解物が用いられている。しかし、これらのタンパク分解物は、比較的高価である。これに対し、乳清は、タンパク質等の窒素化合物を豊富に含んでいながら、トリプトン等と比較して安価である。そのため、乳清をアミノ酸濃度が最大の培地成分となるように用いると、トリプトン等を用いる場合と比較して、培地を安価に調製することができる。
【0036】
ラビリンチュラ類を培養するための培地は、乳清と共にグルコース、フルクトース、マンノース又はスクロースを含むことが好ましく、グルコースを含むことが特に好ましい。これらの糖類は、例えば、固形分換算で10g/L以上200g/L以下の濃度、好ましくは20g/L以上100g/L以下の濃度とすることができる。これらの糖類であれば、ラビリンチュラ類が資化できることが多く、ラビリンチュラ類を高い増殖速度で増殖させることができる。
【0037】
ラビリンチュラ類を培養するための培地は、乳清と共に酵母エキスを含むことが好ましい。酵母エキスは、例えば、固形分換算で1g/L以上10g/L以下の濃度、好ましくは2g/L以上5g/L以下の濃度とすることができる。酵母エキスがこのような濃度であれば、酵母エキスをビタミン、ミネラル、核酸等の栄養源として、ラビリンチュラ類を高い増殖速度で増殖させることができる。
【0038】
ラビリンチュラ類を培養するための培地は、増殖に必要な必須栄養源として乳清を含み、エネルギー源としてグルコースを含み、その他の必要な栄養源として酵母エキスを含むことがより好ましい。ラビリンチュラ類の増殖培地として一般的に用いられているGTY培地には、必須アミノ酸を含むアミノ酸源としてトリプトンが、エネルギー源としてグルコースが、ビタミン、ミネラル、核酸等の必須栄養源として酵母エキスが含まれている。これに対し、トリプトンに代えて乳清を用いると、アミノ酸源以外の成分も働きかけ、増殖速度を上げて、培地を低コスト化することができる。ラビリンチュラ類を培養するための培地は、特に、乳清と、グルコースと、酵母エキスと、グルタミン酸ナトリウム等のグルタミン酸塩と、塩化ナトリウム等の海水塩を含むことが好ましい。
【0039】
ラビリンチュラ類を培養するための培地は、タンパク分解物である培地成分を含まない組成としてもよい。すなわち、トリプトン、ペプトン、カザミノ酸等のカゼイン分解物や、大豆分解物や、ゼラチン分解物や、肉由来エキス、魚由来エキス等の動物由来エキスや植物由来エキスを酵素、酸、熱等で分解して得られるタンパク分解物を含まない組成としてもよい。更には、乳清を唯一のアミノ酸源として含む組成としてもよい。すなわち、乳清以外のアミノ酸源として、カゼイン分解物、大豆分解物、ゼラチン分解物、その他のタンパク質、ペプチド、アミノ酸や、アンモニア、アンモニウム塩を配合すること無く調製してもよい。また、肉由来エキス、魚由来エキス等の動物由来エキスや、コーンスティープリカー、コーンミール、大豆ミール、麦芽エキス等の植物由来エキスを配合しなくてもよい。タンパク分解物を配合しない組成や、乳清を唯一のアミノ酸源とした組成によると、培地がより低コスト化されるし、他のアミノ酸源を配合する必要が無くなり、培地の調製が容易になる。また、アミノ酸が制限されることによって、脂質の蓄積量が増大する場合がある。
【0040】
ラビリンチュラ類を培養するための培地において、乳清は、アミノ酸源、且つ、エネルギー源として含まれてもよい。すなわち、乳清は、窒素量換算のアミノ酸濃度が最大の培地成分、且つ、炭素量換算の濃度が最大の培地成分として含まれてもよい。動物由来の乳清には、固形分当たり70%程度を超える濃度の乳糖が含まれている。また、豆乳清には、各種の糖類が含まれている。そのため、乳清をアミノ酸濃度が最大の培地成分、且つ、炭素濃度が最大の培地成分となるように用いると、トリプトン等のアミノ酸源だけでなく、一般的に用いられているエネルギー源ないし炭素源の量も減らせるため、培地の更なる低コスト化を図ることができる。
【0041】
ラビリンチュラ類を培養するための培地は、乳清を唯一のアミノ酸源、且つ、唯一のエネルギー源として含む組成としてもよい。すなわち、乳清以外のアミノ酸源として、有機窒素化合物や無機窒素化合物を配合せず、且つ、グルコース、フルクトース、マンノース、ガラクトース、スクロース、マルトース、グリセロール、デキストリン、デンプン、アルコール、有機酸等の有機化合物を配合すること無く調製してもよい。乳清を唯一のアミノ酸源、且つ、唯一のエネルギー源とすると、培地が更に低コスト化されるし、他の炭素源や窒素源を配合する必要が無くなり培地の調製がより容易になる。
【0042】
培養する生物としては、従属栄養生物であるラビリンチュラ類が好ましい。ラビリンチュラ類は、ストラメノパイルに属する化学合成従属栄養性の海生真核微生物であり、滑走運動や遊走細胞を生じる等、運動性を有する卵菌類に分類されている。ラビリンチュラ類は、増殖速度が比較的速く、同化により産生した脂肪酸エステル、炭化水素、リン脂質、糖脂質等の各種の脂質を細胞内に油滴として蓄積する能力を持つため、有用物質の生産に好適に用いられる。
【0043】
一般には、ラビリンチュラ類は、ラビリンチュラ科(Labyrinthulidae)と、ヤブレツボカビ科(Thraustochytriidae)とに大別されており、ラビリンチュラ属(Labyrinthula)、オーランチオキトリウム属(Aurantiochytrium)、シゾキトリウム属(Schizochytrium)、スラウストキトリウム属(Thraustochytrium)、アプラノキトリウム属(Aplanochytrium)、オブロンギキトリウム属(oblongichytrium)、ボトリオキトリウム属(Botryochytrium)、ジャポノキトリウム属(Japonochytrium)等が属している。
【0044】
培養するラビリンチュラ類としては、オーランチオキトリウム属、シゾキトリウム属、又は、スラウストキトリウム属がより好ましい。これらの種類は、脂質等の産生能が比較的高く、DHA、EPA等の高度不飽和脂肪酸や、アスタキサンチン、β−カロテン等のカロテノイドや、スクアレン等の炭化水素類を産生し得るため、食用の用途や、バイオ燃料用原料の用途等に好適に用いられる。
【0045】
培養するラビリンチュラ類としては、特に、オーランチオキトリウム属が好ましい。オーランチオキトリウム属には、DHA、EPA等の高度不飽和脂肪酸の他、アルツハイマー症や2型糖尿病の改善に効果があるとされている奇数脂肪酸を産生するものがある。また、リシン等の必須アミノ酸や、コラーゲンの原料となるプロリンを豊富に含んでおり、藻体の約9割が脂肪酸とアミノ酸で構成されているため、栄養価が高い特徴がある。
【0046】
ラビリンチュラ類の培養は、回分培養、連続培養、流加培養等のいずれの培養方式で行ってもよい。また、ラビリンチュラ類の培養は、振盪培養、通気培養、通気攪拌培養、エアリフト培養、静置培養等の適宜の培養方法で行うことができる。これらの培養方法の中でも、通気攪拌培養又はエアリフト培養がより好ましい。乳清を含む培地は、乳清を他の培地成分と混合して調製した後、加熱滅菌、紫外線滅菌、ガンマ線滅菌、濾過滅菌等の適宜の方法で滅菌してから種細胞を播種することができる。
【0047】
ラビリンチュラ類の培養に用いる培養装置としては、例えば、機械攪拌型リアクタ、エアリフト型リアクタ、充填層型リアクタ、流動層型リアクタ等を用いることができる。培養容器としては、培養の目的や培養容量等に応じて、タンク、ジャーファーメンタ、フラスコ、ディッシュ、カルチャーバッグ、チューブ、試験管等の各種の容器を用いることができる。培養容器は、ステンレス、ガラス等の無機材料や、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレート共重合体、ポリプロピレン等の有機材料等、適宜の材質であってよい。
【0048】
ラビリンチュラ類の培養は、適宜の温度条件、pH条件、通気条件等の下で行うことができる。培養温度は、5℃以上40℃以下とすることが好ましく、10℃以上35℃以下とすることがより好ましく、10℃以上30℃以下とすることが更に好ましい。また、pHは、2以上11以下とすることが好ましく、4以上9以下とすることがより好ましく、6以上8以下とすることが更に好ましい。
【0049】
ラビリンチュラ類の培養は、ラビリンチュラ類の属や種、培地組成、培養条件等に応じて、適宜の間隔で継代しながら行うことができる。例えば、ラビリンチュラ類は、培養を開始した後、約2日で対数増殖期が終了し、約7日で死滅期に入る。そのため、ラビリンチュラ類の継代は、1日以上10日以下の間隔で行うことが好ましく、2日以上7日以下の間隔で行うことがより好ましく、2日以上5日以下の間隔で行うことが更に好ましい。また、ラビリンチュラ類の培養時間は、ラビリンチュラ類の属や種、培地組成、培養条件、培養の目的等に応じて、適宜の時間として行うことができる。
【0050】
次に、ラビリンチュラ類の培養により得られる培養組成物、及び、培養組成物の製造方法について説明する。
【0051】
本実施形態に係る培養組成物の製造方法は、前記のラビリンチュラ類の培養方法を利用して培養組成物を製造する方法であり、乳清を含む培地を用いてラビリンチュラ類を培養する工程と、培養したラビリンチュラ類を含む培地を濃縮又は乾燥させて培養組成物を得る工程と、を含む。この製造方法によると、ラビリンチュラ類自体を主成分とする培養組成物が得られる。
【0052】
培養するラビリンチュラ類としては、有用物質の産生能を有する種類が好ましい。有用物質としては、例えば、DHA、EPA等の高級不飽和脂肪酸、そのモノエステル、ジエステル、トリグリセリドや、リン脂質、糖脂質や、高級アルカジエン、高級アルカトリエン、トリテルペン、テトラテルペン等の高級炭化水素や、必須アミノ酸、それを含むタンパク質や、多糖類や、色素や、ビタミン、生理活性物質等が挙げられる。
【0053】
培養するラビリンチュラ類としては、DHA及びEPAのうちの少なくとも一方を細胞内に蓄積する種類がより好ましい。また、オーランチオキトリウム属、シゾキトリウム属、又は、スラウストキトリウム属がより好ましく、オーランチオキトリウム属が特に好ましい。このような種類であると、産生されたDHAやEPAが酸化され難い細胞内に蓄積されるため、DHAやEPAの酸化を抑制して各種の用途に供することができる。また、魚油由来のDHAやEPAと比較して、臭気が弱い他、化学物質の蓄積が少なく、天然に近い脂肪酸の組成で得られるため、精製処理を簡略化することができる。
【0054】
ラビリンチュラ類を培養する工程は、前記の培養方法と同様の培地、培養方式、培養条件等の下で行うことができる。培地としては、ラビリンチュラ類の大量培養が可能であり、大量の有用物質を生産できる点から、液体培地を調製することが好ましい。また、乳清は、必須アミノ酸を含むアミノ酸源として、すなわち窒素量換算のアミノ酸濃度が最大の培地成分として含まれることが好ましく、グルコースや酵母エキスと共に含まれることがより好ましい。
【0055】
培地を濃縮又は乾燥させる工程は、一般的な濃縮方法や乾燥方法を用いて行うことができる。ラビリンチュラ類が産生した脂質等の有用物質は、通常、ラビリンチュラ類の細胞内や、ラビリンチュラ類から分離される脂溶性画分に存在する。そのため、培地を濃縮又は乾燥させることにより、ラビリンチュラ類自体やラビリンチュラ類が産生した有用物質を高濃度で回収することができる。
【0056】
培地を濃縮する濃縮方法としては、例えば、固形分を遠心分離する遠心濃縮、固形分を自然沈降させる沈降濃縮、培地を加熱して蒸発させる蒸発濃縮、培地を減圧して蒸発させる減圧濃縮、培地を加圧して濾過する加圧濃縮、培地を分離膜で濾過する膜濃縮、培地を凍結させて除く凍結濃縮等を用いることができる。また、培地を乾燥させる乾燥方法としては、例えば、熱風乾燥、冷風乾燥、減圧乾燥、噴霧乾燥、凍結乾燥、赤外線乾燥、自然乾燥、回転するドラム中で加熱乾燥を行うドラム乾燥等を用いることができる。
【0057】
ラビリンチュラ類を主成分とする培養組成物は、濃縮させる場合、例えば、80%以下の含水率、好ましくは30%以上50%以下の含水率にすることができる。このような含水率まで濃縮させると、培養組成物が十分に減容すると共に、培養組成物が適度に流動し難いペースト状となるため、培養組成物の取り扱い性が良好になる。また、ラビリンチュラ類を主成分とする培養組成物は、乾燥させる場合、例えば、10%以下の含水率にすることができる。
【0058】
ラビリンチュラ類を主成分とする培養組成物は、培養されたラビリンチュラ類自体と共に、乳清由来の成分を含有していてもよい。乳清由来の成分は、ラビリンチュラ類によって代謝された代謝物であってもよいし、代謝されていない未代謝物であってもよい。乳清由来の成分が残留していると、その成分の香気によって、培養組成物の臭気がマスキングされる場合がある。乳清は十分な食経験が認められているため、培養組成物中に乳清由来の成分が残留していても、食用の用途に直接供することができる。一方、培養組成物は、魚由来エキスに由来するトリメチルアミン−N−オキシド、トリメチルアミン、ピぺリジン等の臭気成分が、検出限界以下の濃度であることが好ましい。
【0059】
ラビリンチュラ類を主成分とする培養組成物は、例えば、食用、飼料、肥料、工業用原料等の各種の用途に用いることができる。食用の用途の具体例としては、一般食品、健康食品、食品素材、飲料素材等が挙げられる。また、飼料の具体例としては、家畜用飼料、家禽用飼料、養殖用飼料、ペット用飼料等が挙げられる。また、工業用原料の具体例としては、バイオ燃料用原料、飼料用原料、肥料用原料、化学品原料、医薬品原料等が挙げられる。
【0060】
ラビリンチュラ類を主成分とする培養組成物は、濃縮又は乾燥させた後、ラビリンチュラ類の細胞を破砕する工程に供してもよい。細胞の破砕は、例えば、攪拌、粉砕、超音波等のせん断力を利用した破砕法、浸透圧等の圧力変化を利用した破砕法、薬品や酵素を利用した破砕法、凍結融解を利用した破砕法等の各種の方法を用いて行うことができる。細胞を破砕する装置としては、例えば、フレンチプレス、振動式ホモジナイザ、超音波式ホモジナイザ、凍結式ホモジナイザ、ビーズミル等の各種の装置を用いることができる。
【0061】
ラビリンチュラ類を主成分とする培養組成物は、濃縮又は乾燥させた後、ラビリンチュラ類に含まれる成分を抽出すること無く、各種の用途に用いてもよいし、ラビリンチュラ類に含まれる成分を抽出する工程に供してもよい。例えば、ラビリンチュラ類は、必須アミノ酸やビタミンを豊富に含み、アミノ酸スコアが高く、細胞内に大量のDHAやEPAを蓄積するため、藻体自体が食用の用途に好適に用いられる。一方、ラビリンチュラ類の細胞内に蓄積される脂質等の有用物質は、食品素材、飲料素材、工業用原料等の用途に用いることができる。
【0062】
ラビリンチュラ類を主成分とする培養組成物は、濃縮又は乾燥させた後、ペースト、粉末、顆粒等の状態で使用することができる。また、培養組成物は、ペレット、フレーク、ブロック等に成形して使用してもよいし、カプセル、懸濁剤、乳剤等に製剤化して使用してもよい。培養組成物は、食用の用途に用いる場合、例えば、結合剤、増粘剤、固結防止剤、崩壊剤、滑沢剤、光沢剤、懸濁化剤、乳化剤、酸化防止剤、pH調整剤、防腐剤、甘味料、酸味料、着色料、香料等の各種の添加剤や、アミノ酸、ビタミン、ミネラル等の栄養素等が添加されてもよい。
【0063】
具体的には、賦形剤としては、乳糖、白糖、デンプン、デキストリン等を用いることができる。結合剤としては、カルメロースナトリウム、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、アラビアゴム等を用いることができる。増粘剤としては、デンプン、デキストリン、ペクチン、グァーガム、カラギーナン、キサンタンガム等を用いることができる。固結防止剤としては、ケイ酸カルシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、塩化マグネシウム等を用いることができる。
【0064】
また、崩壊剤としては、カルメロースカルシウム、結晶セルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、クロスポピドン等を用いることができる。滑沢剤としては、ステアリン酸マグネシウム、タルク、グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル等を用いることができる。光沢剤としては、シェラック、パラフィン、ミツロウ等を用いることができる。懸濁化剤としては、カルメロースナトリウム、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、アラビアゴム、アルギン酸ナトリウム等を用いることができる。
【0065】
また、乳化剤としては、ステアリン酸カルシウム、レシチン、カゼインナトリウム、グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル等を用いることができる。酸化防止剤としては、ビタミンC、ビタミンE、カテキン、トコフェロール等を用いることができる。pH調整剤としては、リン酸、炭酸水素ナトリウム、乳酸、クエン酸、グルコン酸、リンゴ酸、酒石酸、コハク酸、アジピン酸等を用いることができる。防腐剤としては、安息香酸、ソルビン酸、ポリリシン、ナイシン、白子タンパク等を用いることができる。
【0066】
また、甘味料としては、グルコース、フルクトース、マルトース、スクロース、トレハロース、オリゴ糖、水飴、異性化糖、還元水飴、キシリトール、ソルビトール、マンニトール、マルチトール、ステビア、カンゾウ、アスパルテーム、アセスルファムカリウム、スクラロース等を用いることができる。酸味料としては、乳酸、クエン酸、グルコン酸、リンゴ酸、酒石酸、コハク酸、アジピン酸等を用いることができる。着色料としては、カラメル色素、クチナシ色素、ウコン色素、ベニバナ色素、カロテン色素等を用いることができる。
【0067】
培養組成物に含まれる成分は、例えば、エタノール、メタノール、ジエチルエーテル、プロピレングリコール、プロパノール、イソプロパノール、アセトン、クロロホルム、ヘキサン、シクロヘキサン等の適宜の溶媒を用いて抽出することができる。これらの溶媒は、一種を単独で用いてもよいし、複数種を組み合わせて用いてもよい。また、二酸化炭素、エチレン等の超臨界流体を用いてもよい。例えば、ラビリンチュラ類が産生するDHAやEPA等のトリグリセリドは、クロロホルムとメタノールを体積比2:1で混合した溶液や、ヘキサンを用いて抽出することができる。
【0068】
培養組成物に含まれる成分は、細胞から抽出された後、適宜の方法で精製されてもよい。成分の精製は、例えば、疎水クロマトグラフィー、溶媒分画法、分子蒸留法、膜分離法等を利用して行うことができる。担体としては、例えば、シリカゲル、酸性白土、活性白土、活性炭、アルミナ等を用いることができる。
【0069】
ラビリンチュラ類を主成分とする培養組成物や、その抽出物は、ラビリンチュラ類がDHAやEPAを産生している場合、特に、健康増進の用途に用いることができる。健康増進の用途の具体例としては、不整脈に関連する健康リスクの低下や、循環器疾患のリスクの低下や、血中トリグリセリドレベルの低下や、血液の流動性の改善や、脳機能の増強や、細胞の酸化的損傷からの保護や、炎症性疾患、アレルギー性疾患、自己免疫性疾患、アルツハイマー症等の神経変性疾患、2型糖尿病等の代謝性症候群に関連する疾患、癌関連疾患等の緩和等が挙げられる。
【0070】
ラビリンチュラ類を主成分とする培養組成物や、その抽出物は、オーランチオキトリウム等のラビリンチュラ類が、ペンタデカン酸等の奇数脂肪酸を産生している場合、特に、細胞増殖促進の用途に用いることができる。細胞増殖促進の用途の具体例としては、損傷した組織の治癒や、疼痛、自己免疫性疾患、神経変性疾患、免疫性疾患、代謝性症候群に関連する疾患、癌関連疾患等の緩和や、皮膚の皺の減少や、皮膚の代謝促進や、育毛や、アレルギー症状の軽減や、筋肉痛の軽減や、運動機能の向上等が挙げられる。
【実施例】
【0071】
以下、実施例を示して本発明について具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれに限定されるものではない。
【0072】
はじめに、乳糖を含む培地を用いてラビリンチュラ類を培養し、乳清に含まれる主要な糖質である乳糖の資化性を確認した。ラビリンチュラ類としては、オーランチオキトリウムSA96WH株を培養した。また、二糖類である乳糖の対照として、スクロースと、マルトースとを用いて同様に培養を行った。
【0073】
培地は、GTY培地を基本組成とし、炭素源として含まれるグルコースに代えて、乳糖、スクロース、又は、マルトースを用いて培地を調製した。培地としては、各二糖類の濃度が2%の培地と、4%の培地とを、それぞれ調製した。培地は、これらの濃度の二糖類と共に、トリプトン(Difco社製)を1%、酵母エキス(Difco社製)を0.5%、海水塩を1%の濃度で含む組成とした。
【0074】
二糖類の資化性(利用効率)は、エネルギー源として各二糖類を用いた培地で培養を行って細胞数を測定し、エネルギー源ないし炭素源を用いない培養(無糖培養)に対する細胞数の増加分を、エネルギー源として2%もしくは4%のグルコース(Glc)を用いたGTY培地の結果に対する相対値として、次の式(I)により数値化した。なお、細胞数は、培養時間が48時間を経過した時点で測定した。その結果を表1及び図1に示す。
利用効率(%)=(二糖類による細胞数−無糖培養の細胞数)
/(Glcによる細胞数−無糖培養の細胞数)×100・・・(I)
【0075】
【表1】
【0076】
図1は、オーランチオキトリウムによる二糖類の資化性の評価結果を示す図である。
表1及び図1に示すように、オーランチオキトリウムSA96WH株による二糖類の資化性は、乳糖、スクロース、及び、マルトースのいずれについても認められたが、グルコースと比較すると低かった。したがって、乳清に含まれる乳糖を利用することが可能であるが、高い増殖速度を確保する観点からは、乳清と共にグルコースを用いることが好ましいといえる。
【0077】
次に、動物由来の乳清を含む培地を用いてラビリンチュラ類を培養し、乳清の濃度による影響を確認した。ラビリンチュラ類としては、オーランチオキトリウムSA96WH株を培養した。乳清の濃度による影響は、5%、10%、20%、40%、60%及び80%の6種類の濃度について確認した。
【0078】
培地は、乳清の濃度を5%、10%、20%、40%、60%、80%にそれぞれ変えると共に、グルコースを3%、グルタミン酸ナトリウムを0.5%、酵母エキス(Difco社製)を0.2%、海水塩を1%の濃度で含む組成とした。乳清としては、水分93.9%、タンパク質0.3%、炭水化物5.2%、灰分0.6%であり、脂質が0.1%未満である動物由来のチーズホエイを用いた。
【0079】
乳清の濃度による影響(寄与率)は、乳清を各濃度に調整した培地で培養を行って細胞数を測定し、乳清を用いない培養(乳清の濃度が0%の培養)に対する細胞数の増加分を、乳清を用いない培養(乳清の濃度が0%の培養)の結果に対する相対値として、次の式(II)により数値化した。なお、細胞数は、培養時間が24時間、48時間及び72時間を経過した時点でそれぞれ測定した。その結果を表2及び図2に示す。
寄与率(%)=(乳清による細胞数−無糖培養の細胞数)
/無糖培養の細胞数×100 ・・・(II)
【0080】
【表2】
【0081】
図2は、オーランチオキトリウムの培養における乳清の濃度の影響を示す図である。
表2及び図2に示すように、オーランチオキトリウムSA96WH株の培養においては、培地中の乳清の濃度が40%付近で、概ね細胞数が極大となった。培養時間が72時間経過すると、濃度が40%の場合にみられるとおり誤差が拡大したが、培養時間が48時間までの範囲では、乳清の濃度が10%程度に達すると、寄与率の増加が確認された。そして、乳清の濃度が更に増大するのに伴って、寄与率が次第に増加する傾向が認められた。しかし、乳清の濃度が40%付近を超えると、寄与率が漸減し、細胞数の増加分は縮小した。したがって、乳清は、5体積%以上50体積%以下(固形分換算で3g/L以上30g/L以下)の範囲で培地に含まれることが好ましく、10体積%以上40体積%以下(固形分換算で6g/L以上24g/L以下)の範囲で培地に含まれることがより好ましいといえる。
【0082】
次に、動物由来の乳清を含む培地を用いてラビリンチュラ類を培養し、ラビリンチュラ類の増殖速度を確認した。ラビリンチュラ類としては、オーランチオキトリウムSA96WH株を培養した。
【0083】
乳清を含む培地は、乳清を10%、グルコースを3%、グルタミン酸ナトリウムを0.5%、酵母エキス(イーストックsp−d)を0.2%、海水塩を1%、硫酸マグネシウム水和物を0.2%の濃度で含む組成とした。乳清としては、前記の試験と同様、水分93.9%、タンパク質0.3%、炭水化物5.2%、灰分0.6%であり、脂質が0.1%未満である動物由来のチーズホエイを用いた。
【0084】
ラビリンチュラ類の増殖速度は、予め乳清を含む培地で前培養した株と、GTY培地で前培養した株とについて比較した。本培養は、振盪培養により行い、植菌量は、1%と2%とで比較した。GTY培地で前培養したSA96WH株を植菌量を1%とした培養(1% GTY培地)、乳清を含む培地で前培養したSA96WH株を植菌量を1%とした培養(1% 乳清培地)、GTY培地で前培養したSA96WH株を植菌量を2%とした培養(2% GTY培地)、乳清を含む培地で前培養したSA96WH株を植菌量を2%とした培養(2% 乳清培地)のそれぞれについて、細胞数を経時的に測定した。その結果を表3及び図3に示す。
【0085】
【表3】
【0086】
図3は、前培養の条件を変えて培養したオーランチオキトリウムの増殖曲線である。
表3及び図3に示すように、乳清を含む培地で前培養した株と、GTY培地で前培養した株とを比較すると、GTY培地で前培養した株は、短期間で急激に増殖し、対数増殖期が早期に終了する傾向がみられた。これに対し、乳清を含む培地で前培養した株は、培養時間がある程度経過した段階においても、より高い増殖速度を示す傾向がみられた。
【0087】
次に、動物由来の乳清を含む培地を用いてラビリンチュラ類を培養し、ラビリンチュラ類の増殖量、すなわち、培養により得られる培養組成物の量と培養組成物の臭気を確認した。ラビリンチュラ類としては、オーランチオキトリウムSA96WH株を培養した。
【0088】
乳清を含む培地は、前記の試験と同様、乳清を10%、グルコースを3%、グルタミン酸ナトリウムを0.5%、酵母エキス(イーストックsp−d)を0.2%、海水塩を1%、硫酸マグネシウム水和物を0.2%の濃度で含む組成とした。乳清としては、前記の試験と同様、水分93.9%、タンパク質0.3%、炭水化物5.2%、灰分0.6%であり、脂質が0.1%未満である動物由来のチーズホエイを用いた。
【0089】
ラビリンチュラ類の増殖量は、予め乳清を含む培地で前培養した株を、植菌量を2%として3Lの乳清培地に播種し、エアリフト培養を行うことにより確認した。エアリフト培養においては、空気の通気速度を1.0体積%/minとした。培養時間が48時間を経過した時点で、3%相当のグルコースか、又は、3%相当のグルコース、10%相当の乳清及び0.2%相当の酵母エキスを含む流加液のいずれかを追加し、その後の増殖量を比較した。その結果を表4、5及び図4、5に示す。
【0090】
【表4】
【0091】
【表5】
【0092】
図4は、乳清を含む流加液を添加して培養したオーランチオキトリウムの増殖曲線である。また、図5は、グルコースを添加して培養したオーランチオキトリウムの増殖曲線である。
表4、5及び図4、5に示すように、エアリフト培養によってオーランチオキトリウムSA96WH株の大量培養が可能であり、乾燥重量換算で15g/Lを超える培養組成物が得られた。培養時間が48時間を経過した時点で3%相当のグルコース、10%相当の乳清及び0.2%相当の酵母エキスを含む流加液を添加した場合(表4、図4参照)と、培養時間が48時間を経過した時点で3%相当のグルコースを添加した場合(表5、図5参照)とを比較すると、グルコースのみを加えた場合には、培養時間が72時間を経過した段階で定常期ないし死滅期に入る傾向がみられたが、乳清を含む流加液を加えた場合には、増殖量の更なる増大が認められ、より大量の培養組成物が得られることが確認された。得られた培養組成物の臭気を官能試験によって確認したところ、弱い生乳臭が確認されたが、臭気は認められなかった。
【0093】
次に、動物由来の乳清を含む培地と、豆乳清を含む培地とを用いてラビリンチュラ類を培養し、ラビリンチュラ類の増殖量を比較した。ラビリンチュラ類としては、オーランチオキトリウムSA96WH株を培養した。
【0094】
動物由来の乳清を含む培地は、チーズホエイの濃度を5%、10%、20%、40%、60%、80%にそれぞれ変えると共に、グルコースを3%、グルタミン酸ナトリウムを0.5%、酵母エキス(イーストックsp−d)を0.2%、海水塩を1%の濃度で含む組成とした。チーズホエイは、前記の試験と同様、水分93.9%、タンパク質0.3%、炭水化物5.2%、灰分0.6%であり、脂質が0.1%未満である。
【0095】
豆乳清を含む培地は、豆腐の製造の過程で副生成した大豆ホエイと、豆乳を精製した豆乳ホエイとを用いてそれぞれ調製した。大豆ホエイを含む培地は、大豆ホエイの濃度を5%、10%、20%、40%、60%にそれぞれ変えると共に、グルコースを3%、グルタミン酸ナトリウムを0.5%、酵母エキス(イーストックsp−d)を0.2%、海水塩を1%(デボラ湖塩0.9%+硫酸マグネシウム0.1%)の濃度で含む組成とした。豆乳ホエイを含む培地は、豆乳ホエイの濃度を5%、10%、20%、40%にそれぞれ変えると共に、グルコースを3%、グルタミン酸ナトリウムを0.5%、酵母エキス(イーストックsp−d)を0.2%、海水塩を1%(デボラ湖塩0.9%+硫酸マグネシウム0.1%)の濃度で含む組成とした。
【0096】
培養の結果、チーズホエイの場合は、濃度が高くなるほど、細胞数も高くなる傾向が得られた。5%や10%の低い濃度では48時間以降の増殖速度が鈍化したが、濃度が40%以下の場合は、概ねチーズホエイの濃度に依存した細胞数の増大が認められ、培養時間が72時間経過した時点においても、高い増殖速度が確認された。また、豆乳ホエイや、大豆ホエイの場合においても、培養時間が48時間経過するまで、細胞数の顕著な増大が認められた。大豆ホエイの場合は、低濃度の培養において析出物が生じ、高濃度の培養と比較して増殖速度が低下する方向にばらつきを生じたが、豆乳ホエイの場合は、濃度による増殖速度の差は小さかった。チーズホエイと、豆乳ホエイや大豆ホエイとを比較すると、チーズホエイの方が濃度に応じた細胞数の増大が大きくなる傾向が確認された。
【要約】
本発明は、従属栄養生物であるラビリンチュラ類を低コストで培養することができて、培養により得られる培養組成物の利用性も損ない難いラビリンチュラ類の培養方法を提供するものである。ラビリンチュラ類の培養方法は、乳清を含む培地を用いてラビリンチュラ類を培養することを特徴とする。ラビリンチュラ類を培養する培地は、タンパク分解物である培地成分、例えば、トリプトン、ペプトン、カザミノ酸等のカゼイン分解物を含まない組成であることが好ましい。
図1
図2
図3
図4
図5