【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成26年度、支出負担行為担当官、総務省大臣官房会計課企画官、研究テーマ「装置内ハーネスの無線化を実現する低遅延多元接続通信技術の研究開発」に関する委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記受信手段は、前記発振回路制御手段により前記複数の発振回路による発振信号の周波数の組み合わせが変化させられるごとに、前記複数の無線センサモジュールの各々から、当該無線センサモジュールの平均受信電力と、当該無線センサモジュールの整流回路のフィルタ及び負荷により定まる時定数とを示す信号を受信するための手段を含み、
前記発振回路制御手段は、前記複数の発振回路による発振信号の周波数を、互いに一定の差分だけ異なった複数の周波数の、複数の組み合わせにしたがって変化させる手段を含み、
前記無線電力送信システムはさらに、
前記受信するための手段により受信された時定数のうち、前記周波数決定手段が決定した周波数の組み合わせが得られたときに前記第1の最小値特定手段が特定した前記平均受信電力の前記最小値と同時に受信された時定数を特定する時定数特定手段と、
前記時定数特定手段により特定された時定数の3倍の逆数を、前記周波数決定手段が決定した周波数の組み合わせにおける、周波数ごとの差分として当該周波数の組み合わせを再定義する周波数再定義手段とを含む、請求項2に記載の無線電力送信システム。
【背景技術】
【0002】
現代の自動車、飛行機等の内部には多数のセンサモジュールが使われている。例えば自動車の場合、これらセンサモジュールの検出出力は車両制御ユニットに送信され、車両制御ユニットによるエンジン及び各アクチュエータ等の制御に使用される。これらセンサモジュールと車両制御ユニットの間には電力供給及び情報通信のための配線が必要である。これら配線は、いくつかの配線からなる束に束ねられ、ワイヤハーネスと呼ばれる部品として車両に取り付けられる。
【0003】
しかし、車両制御のためのセンサモジュール及び電子制御部品の数が多数に上るため、配線も多数となっている。その結果、1台の自動車に取り付けられるワイヤハーネス全体の重量も増大し、車両自体の重量も増大している。車両が重量化すると、車両の加速時等に必要な燃料が増大する。その結果、自動車の燃費が悪くなり、ドライバの経済的負担が増加するだけでなく、二酸化炭素ガスの排出量も増加する。車両を軽量化することによって、燃費の向上が期待できる。2013年の自動車の販売数は世界全体で8,700万台以上(日本自動車工業会ホームページによる)という膨大な数となっており、個々の自動車の軽量化を推進することで地球全体の二酸化炭素ガスの排出量削減に大きな貢献ができる。
【0004】
車両の軽量化の一手段として、車両各部のセンサモジュールとの通信を無線化することが考えられる。車両の走行制御だけでなく、車両の安全性の向上及び対歩行者に対する安全対策のために、車両内にはより多くのセンサが取り付けられる傾向にある。したがって、センサモジュールとの通信を無線化することにより、ワイヤ数が効果的に削減でき、車両を軽量化することが期待できる。
【0005】
センサモジュールへの配線を無線化するにあたっての大きな課題の1つは、センサモジュールの電源をどう確保するか、である。電源供給のためだけに配線を残すのでは、ワイヤ削減の効果は半減してしまう。この課題に対しては、昨今注目を集めている、無線による電力送信(以下「無線電力送信」と呼ぶ。)技術が利用できると考えられる。
【0006】
無線電力送信には、近距離、中距離、及び遠距離伝送にそれぞれ適した3種類の方式がある。近距離伝送には電磁誘導方式、中距離伝送には電磁界共鳴方式、遠距離伝送には電波放射方式が用いられる。前2つの方式は、電力送信にコイルを使用する。これら方式では、電力の伝送距離が増大するとコイルを大型化する必要がある。自動車のエンジンルーム及び居住空間には多数の金属ユニット等があるため、センサモジュールも小型でなければならない。したがって、これら方式を使用するのは少なくとも適当でない。車両内のセンサモジュールへの無線電力送信にあたっては、電波放射方式を採用することが妥当である。
【0007】
自動車内のセンサモジュールへの電力供給に電波放射方式を採用する際には、独特の問題がある。それは、電波の反射体が車内に多数存在するため、電力の送信機からセンサモジュールへの伝送経路が多数あり、電波間の予測できない干渉が発生することである。また、電波放射方式では使用電波の波長が短いため、センサモジュールのわずかな位置の違いによってセンサモジュールが受電できる電力が大きく変動するという問題もある。これらの要因により、例えば、あるセンサモジュールに対しては十分な電力が伝送できたとしても、別のすぐ近くにあるセンサモジュールに伝送される電力が極めて小さいという事象も高い確率で発生すると考えられる。
【0008】
車両内の電力送信に限らず、無線通信においては、これと同様な問題が多くの環境で発生する。したがって一般的な無線通信においては、安定的に通信を行うための対処方法が考えられている。
【0009】
特許文献1は、パーソナルコンピュータ(以下「PC」と呼ぶ。)の筐体内の基板間の情報伝送に使われるケーブルを無線化する技術を開示している。自動車内と同様に、PC筐体および基板等の部品により電波が反射されるため、PC筐体内には電波の伝送経路が多数存在する。このため筐体内の位置によって電力送信のための電波の電界強度が大きく異なる。つまり、ケーブルを無線化した際に用いるアンテナの位置(基板の位置)によっては、通信が不可能な場合もありうるということである。そこで、特許文献1は、アンテナを含む基板を機械的に動かしてアンテナ位置における電界強度が大きくなるよう、アンテナ位置を調整する機構を教示している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特許文献1に記載の技術を車両内の無線電力送信に適用することもできる。しかし、車両内では一般的に振動が激しく、特にエンジンルームでは温度条件も厳しい。そのような車両内に、機械的な駆動部をもつセンサモジュールを多数配置することは難しい。機械的な駆動には一般的に多大な電力を消費するため、特にセンサモジュール側に機械駆動部を設けることは現実的ではない。
【0012】
また、一般に、情報を伝送する通信の場合には、必要な受信電力の許容範囲が広く、比較的弱い受信電力でも、受信機の感度以上の電力さえあれば、通信の確立が可能である。このため、受信機の感度以上の電力があればよい。これに対し、電力の伝送では、情報伝送に必要な電力に比べて、極めて大きい電力が必要である。例えば、無線電力送信では、無線情報通信と比較して1,000倍以上大きい電力が必要とされる。無線電力送信において、全てのセンサモジュールに十分な電力が供給されるようにするために、送信電力を無制限に増大させることは省力化の観点からは許されない。したがって、目標とする無線伝送方式には、比較的低い電力で十分な大きさの電力を伝送できるよう、高い電力送信効率が求められる。この場合、さらに考慮すべきことは、各センサモジュールが受信する電力には可能な限りバラツキが少ないようにすることである。無線による情報通信の場合、各受信機間で受信電力にバラツキがあっても、上記したように必要な電力が小さいため、情報通信にはそれほどの支障は生じない。しかし無線電力送信の場合には、一定の送信電力で電力を無線送信する場合、その送信電力の大きさは、受信電力が最低となるセンサモジュールを基準として決定しなければならない。全てのセンサモジュールに電力が十分に供給されなければ、必要な情報が得られないからである。各センサモジュールが受信する電力のバラツキが大きいと、受信電力が最低となるセンサモジュール以外のセンサモジュールには大幅に電力の供給過剰となってしまい、電力が無駄になってしまう。
【0013】
それ故に、本発明の目的は、高い効率で電力を無線伝送できる無線電力送信システムを提供することである。
【0014】
この発明の追加の目的は、高い効率で、電力の受信側装置に十分に大きな電力を無線伝送できる無線電力送信システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の第1の局面に係る無線電力送信システムは、複数の無線センサモジュールに、各無線センサモジュールを動作させるための電力を無線で伝送する。この無線電力送信システムは、複数の無線送信アンテナと、複数の無線送信アンテナの各々に、当該複数の無線送信アンテナの任意の2つの間に供給される発振信号の位相差が時間の関数として変化するように発振信号を供給する発振信号供給手段とを含む。
【0016】
好ましくは、発振信号供給手段は、指定された周波数の発振信号を出力する発振回路と、発振回路の出力端と複数のアンテナの入力端との間にそれぞれ接続され、指定された位相だけ、発振回路の出力する発振信号の位相を移動させる移相器と、移相器の任意の2つの出力の間の位相差が、時間の関数として変化するように、移相器の各々に対して、当該移相器による位相の変化を指定する移相器制御手段とを含む。
【0017】
より好ましくは、無線電力送信システムは、さらに、複数の無線センサモジュールの各々の一定期間における平均受信電力のうちの最小値が最大となるように、発振回路による発振信号の周波数を決定し発振回路に指示する発振周波数決定手段を含む。
【0018】
発振周波数決定手段は、発振回路の発振信号の周波数を一定範囲にわたり一定の周期で変化させるように発振回路に発振周波数を指示する周波数指示手段と、周波数指示手段により発振回路の発振周波数の変化が指示されている間に、複数の無線センサモジュールの各々から、当該無線センサモジュールにおける直前の所定期間における平均受信電力を示す受信電力信号を周期的に受信する信号受信手段と、信号受信手段が周期的に受信した受信電力信号により表される平均受信電力の、各周期における最小値を特定する最小値特定手段と、一定の周期より長い一定期間において最小値特定手段により特定された最小値が最大となったときの発振回路の発振周波数を特定する周波数特定手段と、発振回路に対して、当該発振回路の発振周波数を、周波数特定手段により特定された周波数に固定するよう指示する周波数固定手段とを含んでもよい。
【0019】
好ましくは、移相器制御手段は、移相器の任意の2つの出力の間の位相差が、一定期間を周期とする時間の関数として変化するように、移相器の各々に対して、当該移相器による位相の変化を指定する周期的移相器制御手段を含む。信号受信手段は、複数の無線センサモジュールの各々から、当該無線センサモジュールにおける直前の所定期間における平均受信電力と、当該無線センサモジュール内の整流回路のフィルタ及び負荷で決まる時定数を表す信号を周期的に受信する手段を含む。無線電力送信システムはさらに、周波数特定手段により特定された発振周波数と同時に受信する手段が受信した時定数を特定する時定数特定手段と、移相器制御手段による移相器の移相の変化の周期を、時定数特定手段により特定された時定数に基づき、最小値特定手段により特定される各周期における最小値が最大となるように決定する移相変化周期決定手段とをさらに含んでもよい。
【0020】
より好ましくは、発振信号供給手段は、複数の無線送信アンテナに対応して設けられ、それぞれ指定された周波数の発振信号を出力して複数の無線送信アンテナのうちの対応する無線送信アンテナに供給する複数の発振回路と、複数の発振回路の出力する発振信号が、それぞれ互いに異なる周波数を持つように、複数の発振回路に対して発振信号の周波数を指定する周波数制御手段とを含む。
【0021】
さらに好ましくは、無線電力送信システムは、さらに、複数の無線センサモジュールの各々の一定期間における平均受信電力のうちの最小値が最大となるように、複数の発振回路による発振信号の周波数の各々を決定し、複数の発振回路にそれぞれ指示する発振周波数決定手段を含む。
【0022】
発振周波数決定手段は、複数の発振回路による発振信号の周波数を、互いに異なった複数の周波数の組み合わせにしたがって変化させる発振回路制御手段と、複数の無線センサモジュールの各々から平均受信電力を示す信号を受信する受信手段と、発振回路制御手段により複数の発振回路による発振信号の周波数の組み合わせが変化させられるごとに、複数の周波数の組み合わせの各々に対して、平均受信電力が受信した平均受信電力の最小値を特定する第1の最小値特定手段と、複数の周波数の組み合わせに対して第1の最小値特定手段が特定した平均受信電力の最小値のうち、最大となる値が得られた組み合わせを決定する周波数決定手段と、周波数決定手段により決定された組み合わせにしたがって、複数の発振回路による発振信号の周波数を固定する周波数固定手段とを含んでもよい。
【0023】
受信手段は、発振回路制御手段により複数の発振回路による発振信号の周波数の組み合わせが変化させられるごとに、複数の無線センサモジュールの各々から、当該無線センサモジュールの平均受信電力と、当該無線センサモジュールの整流回路のフィルタ及び負荷により定まる時定数とを示す信号を受信するための手段を含んでもよい。発振回路制御手段は、複数の発振回路による発振信号の周波数を、互いに一定の差分だけ異なった複数の周波数の、複数の組み合わせにしたがって変化させる手段を含む。無線電力送信システムはさらに、受信するための手段により受信された時定数のうち、周波数決定手段が決定した周波数の組み合わせが得られたときに第1の最小値特定手段が特定した平均受信電力の最小値と同時に受信された時定数を特定する時定数特定手段と、時定数特定手段により特定された時定数の3倍の逆数を、周波数決定手段が決定した周波数の組み合わせにおける、周波数ごとの差分として、当該周波数の組み合わせを再定義する周波数再定義手段とを含む。
【0024】
好ましくは、無線電力送信システムはさらに、差分を一定範囲内で複数通りに変化させることにより、発振信号の周波数を変化させる差分制御手段と、差分制御手段により差分が変化させられるごとに、平均受信電力が受信した平均受信電力の最小値を特定する第2の最小値特定手段と、差分を複数通りに変化させる間に第2の最小値特定手段が特定した最小値が最大となるような差分を決定する手段と、差分を決定する手段により決定された差分を用いて、再定義する手段により再定義された周波数の組み合わせをさらに再定義するための手段とを含む。
【0025】
本発明の第2の局面に係るコンピュータプログラムは、コンピュータを、上記したいずれかの移相器制御手段として機能させる。
【0026】
本発明の第3の局面に係るコンピュータプログラムは、コンピュータを、上記したいずれかの周波数制御手段として機能させる。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下の説明及び図面では、同一の部品には同一の参照番号を付してある。したがって、それらについての詳細な説明は繰返さない。
【0029】
[第1の実施の形態]
図1を参照して、本発明の第1の実施の形態に係る無線電力送信システム32が、自動車30の車体内に配置されている。
【0030】
無線電力送信システム32は、自動車30の様々な位置に配置されている複数のセンサモジュール90、92、…、96からなるセンサモジュール群42と、これらセンサモジュール群42のセンサモジュール90、92、…、96の各々に無線で電力を送信するための電力送信装置40と、電力送信装置40からの無線電力送信を制御するとともに、センサモジュール群42の各センサモジュール90、92、…、96からセンサ出力を無線で受け、自動車30の各部を制御する信号を生成するためのアクセスポイント44と、アクセスポイント44からの制御信号を受けて自動車30のエンジンを初めとする各部を制御するためのエンジン・車両制御部46とを含む。
【0031】
電力送信装置40は、発振器60、(m+1)個のアンテナ62、64、66、…、68、及びそれぞれ発振器60の出力端及びアンテナ64、66、…、68の入力端の間に接続され、発振器60の出力する発振信号の位相を、指定された位相量だけ変化させて各アンテナ64、66、…、68に与える第1の移相器70、第2の移相器72、…、及び第mの移相器74とを含む。ここで「m」は移相器の数であるが、この実施の形態では、各アンテナ62、64、66、…、68の送信位相を相対的に制御すればよいので、移相器の個数は、アンテナ数m+1から1を減算した数mとなっている。アンテナ62、64、66、…、68は、自動車30の車内の様々な位置に分散して配置する。アクセスポイント44は、センサモジュール群42の各センサモジュールと通信し、センサのデータを自動車のエンジン・車両制御に使用する他、移相器の移相、発振器の発振周波数を制御する機能をもつ。
【0032】
アクセスポイント44は、各センサモジュールからの通信を受信して電気信号に変換するアンテナ124及び無線回路122と、アンテナ124及び無線回路122を介して各センサモジュールから受信した情報にしたがってエンジン・車両制御部46を制御する処理と、初期処理として発振器60の発振周波数及び第1の移相器70、第2の移相器72、…、第mの移相器74の移相量を決定する処理を行うためのプログラムを実行するCPU126と、CPU126が実行するプログラム及び定数等を記憶するROM(読出専用メモリ)128と、CPU126がROM128から読みだしたプログラムをロードする領域であり、作業領域としても使用されるRAM130とを含む。
【0033】
本実施の形態では、複数のセンサモジュール90、92、…、96はいずれも同じ構成を持つ。
図3を参照して、例えばセンサモジュール90は、電力送信装置からの電波を受信するアンテナ150と、アンテナ150が受信した高周波電力を直流電力に変換する整流回路154と、整流回路154の出力する直流電力を蓄積する蓄電素子156と、蓄電素子156に蓄積された電力を電圧制御して出力するDC−DC変換部158とを含む。センサモジュール90はさらに、所定の情報を検知してデータ信号を出力するセンサ素子160と、アクセスポイント44にデータを送信するための無線回路162及びアンテナ152と、蓄電素子156に蓄積された電力を使用して、センサ素子160から受信したデータを無線回路162及びアンテナ152を介してアクセスポイント44に無線送信する処理を行うCPU164と、CPU164が無線送信のために実行するプログラムを記憶するROM166と、CPU164がROM166から読み出したプログラムをロードする記憶領域及びプログラムの実行時の作業領域を提供するRAM168とを含む。CPU164は、蓄電素子156を通して、蓄電素子156の蓄電量と蓄電素子156に供給される電力(受信DC電力)とをモニタできる。モニタした蓄電量は、CPU164から無線回路162及びアンテナ152を介してアクセスポイント44に送信され、後述するように定常運用状態で送信電力(発振器60の出力電力)を制御するために使用する。この制御を行うためのプログラムについては
図6を参照して後述する。
【0034】
図4を参照して、整流回路154は、例えば、アンテナ出力を受ける2つの入力端子190の間に並列に接続された整流ダイオード192及びコンデンサ200を含む。蓄電素子156もこれらと並列に接続されており、平滑フィルタの負荷となっている。蓄電素子156に接続された2つの出力端子194はDC−DC変換部158に接続され、センサ素子160の動作のための電力を供給する。後述するように、本実施の形態では、無線電力の伝送効率を高めるために、この整流回路154及び蓄電素子156により構成される整流回路の時定数τを用いる。
【0035】
図3に示すセンサモジュール90は、この一定の期間ごとに、蓄電素子156に蓄積されたDC電力の平均値(すなわちセンサモジュール90の平均受信DC電力。以下、平均受信DC電力を単に平均受信電力と呼ぶ。)と、上記した整流回路の時定数τとをアクセスポイント44に送信する機能を持っている。
【0036】
本実施の形態では、アクセスポイント44のCPU126は、以下のようにして第1の移相器70、第2の移相器72、…、第mの移相器74の初期設定を行う他、定常状態での送信電力を制御する。初期設定のためにCPU126が実行するプログラムの制御構造を
図5にフローチャート形式で示す。この処理は、無線電力送信の効率を高め、かつ複数のセンサモジュール90、92、…、96の受信電力のうちの最低受信電力ができるだけ高くなるように発振器60の周波数と、第1の移相器70、第2の移相器72、…、第mの移相器74の移相変化周期とを定める初期化処理である。
【0037】
本実施の形態では、アクセスポイント44は、第1の移相器70の移相変化周期をTとして、第1の移相器70の出力する発振信号の移相φが時間tとともに、φ=(360×t/T mod 360)度にしたがって変化するようにする。第2の移相器72の移相は、第1の移相器70と同様の変化をするが、その移相変化周期がT/2となるようにする。第3の移相器、第4の移相器(いずれも図示せず)等についてはそれぞれ移相変化周期がT/2
2、T/2
3となるようにする。すなわち、一般的には第k番目の移相器については、その移相変化周期がT/2
k−1となるようにする。
【0038】
図5を参照して、このプログラムは、上記した移相変化周期の内の最大値である移相変化周期Tを初期値T
0、発振器60の発振周波数fを初期値f
0に設定するステップ220と、設定された移相変化周期及び発振周波数で
図1に示す電力送信装置40による無線電力送信を開始するステップ221と、ステップ221に続き、各センサモジュールから、それらが受信したDC電力の平均値を示す平均受信電力と、各センサモジュールの整流回路の時定数τとを示す信号を受信するステップ222とを含む。
【0039】
ここで、移相変化周期の初期値T
0は、例えば100ms程度である。発振周波数の初期値f
0は、システムの設計帯域幅の最低周波数に設定する。
【0040】
図5に示すプログラムはさらに、ステップ222で各センサモジュールから受信された平均受信電力のうち最低の値(最低平均受信電力)と、その値を送信してきたセンサモジュールから同時に受信した時定数τと、これらを受信したときの発振器60の発振周波数fとを互いに関連付けてRAM130に記憶するステップ224と、発振回路の発振周波数fに発振周波数の増分dfを加算するステップ226と、ステップ226による加算後の周波数fが、所定の最大値f
max以下か否かを判定し、結果が肯定か否かにしたがって制御をステップ221に戻すか、又は制御を次のステップに進めるステップ228とを含む。最大値f
maxは、整流回路154が対応する周波数範囲であって、システムの設計帯域幅の最高周波数である。ここで、発振周波数の増分dfは、例えば数MHz程度に設定する。
【0041】
このプログラムはさらに、ステップ228の判定結果が否定であるとき、すなわち周波数fが最大値f
maxを超えたときに、上記繰返し中のステップ224で記憶された最低平均受信電力の内で最大の値とそのときの発振周波数f
d及び時定数τ
dとを特定するステップ229と、発振器60の発振周波数(送信周波数)fを発振周波数f
dに、移相変化周期Tをτ
d×3に設定するステップ230と、設定された発振周波数と移相変化周期とを用いて無線による電力送信を開始するステップ231と、各センサモジュールから一定期間における平均受信電力を示す信号を受信するステップ232と、ステップ232で受信した各センサモジュールの平均受信電力の最低値を、そのときの移相変化周期TとともにRAM130に記憶するステップ234と、移相変化周期Tから予め定めた差分dtを減算するステップ236と、ステップ236の減算後の移相変化周期Tが正か否かにしたがってステップ231又は後のステップに制御の流れを分岐させるステップ238と、ステップ238で移相変化周期Tが正でないと判定されたときに、ステップ234で記憶された最低平均受信電力値のうちの最大値Tを特定するステップ239と、第1の移相器70の移相変化周期をこの値Tに設定してこのプログラムの実行を終了するステップ240とを含む。なお、ステップ236の差分dtは、減分時間であって、例えばτ/10程度に設定される。
【0042】
このようにして初期設定が終了すると、システムは定常運用状態となる。
図6に、定常運用状態時にCPU126が実行する、各センサモジュールでの受信電力を維持しながら送信電力を制御するためのプログラムの制御構造を示すフローチャートを示す。
【0043】
図6を参照して、このプログラムは、時間Tpを周期として繰り返され、各センサモジュールから現在周期の蓄電素子156の蓄電量を受信し、1周期前に受信した蓄電量とともにセンサモジュールごとにRAM130に記憶するステップ260と、ステップ260の後、蓄電量が1周期前と比較して減少しているセンサモジュールがあるか否かを判定し、判定結果により制御の流れを分岐させるステップ262と、ステップ262の判定が肯定であるときに、各アンテナからの送信電力を予め定めておいた差分ΔPだけ増加させるステップ268と、ステップ262の判定が否定のときに、全てのセンサモジュールの蓄電量が増加しているか否かを判定し、その結果にしたがって制御の流れを分岐させるステップ264と、ステップ264の判定が肯定であるときに、各アンテナからの送信電力をΔPだけ減少させるステップ270と、ステップ264、268及び270の終了後に、ステップ260からの処理の開始後、時間Tpが経過するまで待機し、時間Tpが経過すると制御をステップ260に戻して次の繰返しを開始させるステップ266とを含む。
【0044】
すなわち、時間Tpは、蓄電素子156の蓄電量をモニタし、アクセスポイント44に送信する周期である。時間Tpは例えば30秒程度に設定される。
【0045】
[動作]
図5に制御構造を示すプログラムにより、各移相器は、次のように制御される。なお、本実施の形態では、第1の移相器70の移相φは、上記したように時間tとともに、φ=(360×t/T mod 360)度となるように変化する。第2の移相器72も同様だが、変化周期はT/2、となる。第3の移相器以降の移相変化周期も同様に、T/4、T/8、…となる。
【0046】
初期設定のための何らかのトリガがあると、
図2に示すアクセスポイント44のCPU126が
図5に示すプログラムをROM128からRAM130にロードし、その実行を開始する。ステップ220で移相変化周期Tと発振器60の発振周波数fとの初期値をT
0及びf
0にそれぞれ設定する。続いてステップ221、224、226を周波数fの値がf
maxより大きくなるまで一定周期で変化させて、すなわちステップ228の判定結果が否定になるまで繰り返し、電力送信装置40から電力送信を行う。各センサモジュールでは、蓄電素子に供給される電力を一定周期で平均した値(平均受信電力)をモニタし、CPU164(
図3参照)を介してその情報をアクセスポイント44に送信する。アクセスポイント44は、すべてのセンサモジュールの平均受信電力の内、1周期における最低値をそのときの発振器60の発振周波数とともにRAM130に記憶する。アクセスポイントは一定周期ごとにこうした処理を繰返す。ステップ228での判定結果が否定になると、上記繰返し中のステップ224で繰返しごとに記憶された、各センサモジュールの平均受信電力の最低値のうち、繰返し全体を通じて最大であった値と、その値を送信してきたセンサモジュールの時定数τとそのときの発振周波数fとをステップ230で特定する。ステップ230ではさらに、発振器60の発振周波数をこのようにして特定された発振周波数fに、移相変化周期Tをこのようにして特定された時定数τの3倍に設定する。そして、ステップ231で設定にしたがって各アンテナから電力を送信する。以後、ステップ231、232、234及び236の処理を、ステップ238の判定が否定になるまで繰り返す。すなわち移相変化周期Tが負になるまで繰り返す。移相変化周期Tが負になると、上記した繰返し中、ステップ234で記憶された各センサモジュールからの平均受信電力のうちの最低値のうちで、繰返しの全体を通じて最大であった値を特定し、移相変化周期をそのときの周期に設定する。
【0047】
発振器60の発振周波数が上記のようにして決定された周波数に、第1の移相器70、第2の移相器72、…、第mの移相器74の移相変化周期がそれぞれ上のようにして決定された移相変化周期を基準にして定められる。以後、発振器60及び第1の移相器70、第2の移相器72、…、第mの移相器74がこうしたパラメータ値にしたがって動作することにより、アンテナ62、64、66、…、68から送信される電力送信のための電波の任意の2つの間の位相差が、時間的に刻々と変化する。すなわち、アンテナ62、64、66、…、68の任意の2つのアンテナの発振する電波の位相差は、いずれも時間の関数として変化する事になる。
【0048】
自動車30の内部では、各センサモジュールの配置位置における電解強度分布が、マルチパス干渉及び各アンテナからの電波の位相差の変化により時間的に変化する。したがって、各センサモジュールで受信される電力は、
図7に示すように時間の関数として変化する。
図7は、電力送信装置40のアンテナ数3で、各アンテナからの受信電力が等しく、第1の移相器70の移相変化周期がT、第2の移相器72の移相変化周期がT/2、第3の移相器(図示せず)の移相変化周期がT/4の場合のセンサモジュールの受信電波の波形を示す。
【0049】
仮に各アンテナからの電波の位相差がある値に固定されていると、干渉によって、あるセンサモジュールが受信する電力が極めて低く、動作に不十分な値となる可能性がある。別の値に固定されている場合は、別のセンサモジュールの受信電力が極めて低くなる可能性がある。上記実施の形態のように各アンテナからの電波の位相差を時間の関数として変化させることにより、各センサモジュールが受信する電力も時間的に変化する。その結果、時間平均受信電力でみると、いずれのセンサモジュールの平均受信電力も平準化され、極めて低い電力しか受信しないセンサモジュールが無くなることが期待できる。センサの整流回路で整流された直流は、蓄電素子に蓄電されてから使用されるため、受信電力の時間的な変動は吸収される。瞬間的な受信電力は重要ではなく、平均受信電力が重要となる。
【0050】
さらに上記実施の形態では、初期処理として発振器60の発振周波数と、第1の移相器70、第2の移相器72、…、第mの移相器74の移相変化周期を、各センサモジュールの平均受信電力の1周期ごとの最小値が最大となるような値に設定して、上記したような移相変化を用いた電力送信を実行する。したがって、単に移相器により伝送用電波の位相差を時間的に変化させるだけのときに比べ、より効率的に電力を伝送できる。
【0051】
なお、通常は
図6に制御構造を示すプログラムを実行することにより、蓄電量が減少しているセンサモジュールがあれば送信電力がΔPだけ増加され、蓄電量が減少しているセンサモジュールがなく、かつ全てのセンサモジュールで蓄電量が増加していれば、送信電力がΔPだけ減少される。そのため、各センサモジュールの蓄電量を適正な範囲に保ちながら、送信電力を削減できる。ここで、ΔPは、送信電力の増分又は減分であって、例えば0.5dB程度に設定される。もちろん、この値は設計に依存する。
【0052】
さらに、上記実施の形態では、移相器の移相変化周期Tと、整流回路のフィルタおよび負荷で決まる時定数τとを用い、
図5のステップ230〜238の処理を周期Tpで実行する。各周期における最低受信電力の値が、上記繰返しの全体を通じて最大となるときの移相変化周期Tを見出し、その移相変化周期Tで定常運用を行う。整流前の高周波の受信電力が時間的に変動している場合、つまりピーク瞬時電力と平均電力に差がある場合は、整流回路のダイオード等の非線形性により、同じ平均電力で時間的に変動のない信号(ピーク瞬時電力と平均電力に差がない信号)を整流するよりも整流効率が上がることが知られている(例えば末尾に掲げる参考文献を参照)。ただし移相変動周期Tと時定数τとの間には、「移相変動周期T=上記して得られた時定数τ/10〜τ×3」というような関係が必要である。したがって上記実施の形態ではステップ230で移相変化周期の初期値を時定数τ×3としてから移相変化周期の最適値を定めている。
【0053】
以上のように本実施の形態によれば、アンテナと発振器との間に、移相器を設けている。この移相器を用いて、アンテナから発振される電力送信用の電波の位相差が、任意の2つの電波の間で時間的に変化するように各移相器を制御する。このように互いに位相差が時間的に変化する電波により電力を伝送することで、マルチパスによる干渉があっても、各センサモジュールが受信する電力が時間的に常に変化することになり、結果的に各センサモジュールが受信する無線電力は平準化され、受信電力が極端に悪化するセンサモジュールがなくなる。さらに、発振器60の発振周波数、及び各移相器の移相変化周期を、発振周波数を変化させながら一定周期で電力を伝送したときの各センサモジュールでの最低受信電力が最大となるような値に決定している。したがって、効率的に無線電力を送信できる。
【0054】
なお、移相変化周期の定め方は以上のようなものには限定されない。移相器が0°〜360°の間をΔφ=360°/2
Mおきの離散的なステップで移相を変化できるディジタル移相器の場合、移相変化を次のように定めても良い。この場合、各移相器の移相はφ=i×Δφ (i=0、1、…、2
M−1)という値を取りうる。第1の移相器の移相はi=0から2
M−1まで順に変化させ、各ステップは時間T/2
Mの間保持される。すなわち、第1の移相器の移相変化周期はTであり、これを1周期として繰り返す。第1の移相器2の移相は同様にi=0から2
M−1まで順に変化させるが、時間T/2
Mに移相変化周期が一致するようにする。この結果、第2の移相器は第1の移相器の各移相ステップで、iが0から2
M−1まで変化を繰り返す。第3の移相器は同様に、第2の移相器の各移相ステップで移相変化が1周するようにする。つまり、各ステップの保持時間が、第1の移相器はT/2
M、第2の移相器はT/2
2M、第3の移相器はT/2
4M…となるような変化周期で移相制御を繰り返す。ディジタル移相器の制御は、移相変化周期を、第1の移相器がT、第2の移相器はT/2、第3の移相器はT/3…とする周期で繰り返すように制御してもよい。この他にも、移相変化周期の定め方に種々あり得ることはいうまでもない。
【0055】
上記した移相変化周期Tは、上記した時定数τに対してτ/10<T<3τの範囲となるように定めることが、電力の伝送効率の点から望ましい。
【0056】
[第2の実施の形態]
図8に本発明の第2の実施の形態に係る無線電力システムを採用した自動車の、本願発明に関連する部分のブロック図を示す。
図8を参照して、この自動車300は、第2の実施の形態に係る無線電力送信システム302と、無線電力送信システム302から与えられるセンサ出力に基づいて自動車300のエンジン等の各部を制御するエンジン・車両制御部46とを含む。
【0057】
無線電力送信システム302は、
図1と同様、複数のセンサモジュールを含むセンサモジュール群42と、センサモジュール群42に無線で電力を送信する電力送信装置310と、電力送信装置310を制御して電力送信のための無線電波の発振周波数を変化させることにより、センサモジュール群42の各センサモジュールに効率的に、かつ受信電力が極端に低くなるセンサモジュールが発生しないように電力送信を行うアクセスポイント312とを含む。アクセスポイント312はセンサモジュール群42の各センサモジュールからセンサ出力信号を受信し、その情報をエンジン・車両制御部46に供給する機能を持つ。エンジン・車両制御部46は、第1の実施の形態と同様、この情報を用いて自動車300のエンジン他の各部を制御する。
【0058】
センサモジュール群42の複数のセンサモジュールは、第1の実施の形態と同様、自動車300内の様々な位置に設置される。
【0059】
電力送信装置310は、センサモジュールへの電源供給のための複数のアンテナ62、64、66、…、68と、いずれもアクセスポイント312から制御信号を受け、それぞれアンテナ62、64、66、…、68の入力端子に発振信号を供給するよう配置された複数の発振器320〜326とを含む。本実施の形態では、電力送信装置310はm個のアンテナ62、64、66、…、68を含み、複数の発振器320〜326も同様にm個の発振器を含む。アンテナは、可能な限り車内の様々な位置に分散して配置する。
【0060】
発振器320〜326はそれぞれ、任意の2つの発振器が互いに異なる周波数の発振信号を発振するよう制御される。これら発振器が互いに異なる周波数を発振すると、互いのアンテナから送信される電波の相対位相(位相差)は常に変化し続ける。したがって、マルチパス干渉状況は常に変化し、ある特定のマルチパス干渉状況に留まることがない。その結果、第1の実施の形態と異なり、移相器を設ける必要が無い。つまり、本実施の形態の場合は、おのずから各センサモジュールで受信される電力が時間的に変化し、第1の実施の形態と同様、時間平均化された受信電力でみると、極めて低い受信電力のセンサモジュールが無くなることが期待できる。
【0061】
図9を参照して、アクセスポイント312は、アンテナ124、無線回路122及びRAM130と、CPU360と、ROM362とを含む。ハードウェアとしては、CPU360及びROM362はそれぞれ、
図2に示すCPU126及びROM128と同一である。ROM362に記憶されるプログラムが、ROM128に記憶されるプログラムと異なること、したがってCPU126とCPU360により実行されるプログラムが異なることを明示するため、
図2と
図9とでCPUとROMとの参照符号を代えて示してある。
【0062】
ROM362に記憶され、CPU360により実行される、複数のセンサモジュール90、92、…、96の平均受信電力の最低値を安定的に高くし、かつこれらの平均受信電力のバラ付きを少なくするよう発振器320〜326の初期設定を実行するプログラムの制御構造について以下に説明する。
【0063】
図10を参照して、このプログラムは、各第1の発振器320〜第mの発振器326の発振周波数f
k(k=1〜m)をf
k=f
0+kΔf
0(k=1〜m)に設定するステップ380を含む。ここで、f
0は発振の基本周波数である。Δf
0は発振器間の周波数差の基底の初期値であり、たとえば0.001Hzに設定される。すなわち、任意の2つの発振器をとった場合、いずれの発振周波数差も、初期状態ではこの基底値Δf
0の整数倍となる。
【0064】
このプログラムはさらに、第1の発振器320〜第mの発振器326にそれぞれ設定された発振周波数で一定期間、電力を送信するステップ382と、ステップ382の後、各センサモジュールからこの一定期間の平均受信電力の大きさと整流回路の時定数とを示す信号を受信するステップ384と、ステップ384で受信した各センサモジュールの平均受信電力の最低値を、そのときの時定数とともに記憶するステップ386と、基本周波数f
0に差分dfを加算するステップ388と、ステップ388で差分dfだけ加算された基本周波数f
0にさらにmΔf
0を加算した値が予め定めた最大値f
max以下か否かを判定し、判定が肯定の時には制御をステップ382に戻すステップ390とを含む。
【0065】
このプログラムはさらに、ステップ390の判定が否定になったとき、すなわちf
0+mΔf
0が最大値f
maxを超えたときに実行され、ステップ382〜390の繰返し処理において、ステップ386で記憶された最低平均受信電力の内で最大のもの特定してf
0とし、あわせてそのときに受信された時定数τを特定するステップ392と、発振器320〜326の発振周波数f
kを、ステップ392で特定された周波数f
0と時定数τとを用いてそれぞれf
0+kΔf(k=1〜m)に再定義するステップ394とを含む。ここで、Δfはステップ392で特定されたτの3倍の逆数として定義される値である。すなわち、Δf=1/(3τ)。
【0066】
このプログラムはさらに、設定された値による発振周波数で電力を無線伝送するステップ396と、各センサモジュールから、設定された値で一定時間内に伝送された電力に関する、各センサモジュールにおける平均受信電力を示す値を受信するステップ398と、ステップ398で受信した平均受信電力の値の内、最低の値(最低平均受信電力)をそのときのΔfの値とともに記憶するステップ400と、Δfに、Δfの差分dt´を加算するステップ402とを含む。差分dt´は予め定められた、比較的小さな値である。
【0067】
このプログラムはさらに、Δfが10/τ以下であり、かつf
0+mΔfがf
max以下であるという条件とがともに成立している場合に、制御をステップ398に戻すステップ404と、ステップ404の判定が否定であるときに、ステップ398〜404の繰返し処理中のステップ400で記憶された最低平均受信電力のうち最低の値を特定し、そのときのΔfをΔf
optとしてRAM130に記憶するステップ406と、第kの発振器の発振周波数f
k=f
0+Δf
opt(k=1、2、…、m)に再定義して、初期化処理を終了するステップ408とを含む。
【0068】
本実施の形態に係る無線電力送信システム302は以下のように動作する。アクセスポイント312は、初期化処理において発振器320〜326の発振周波数と、隣り合う発振器(発振周波数が隣接する発振器)の間の発振周波数の差分とを決定する。このとき、各センサモジュールは、蓄電素子に供給される平均受信電力をモニタし、CPU360を介してその情報をアクセスポイント312に送信する。アクセスポイント312は、これを受信し(ステップ384)、すべてのセンサモジュールの平均受信電力の内、最低値を現在の周波数設定及びそのときの時定数τとともに記憶する(ステップ386)。そして、アクセスポイント312は各発振器320〜326の周波数を変更して、再び各センサモジュールの平均受信電力の最低値を現在の周波数及び同時に受信した時定数τとともに記憶する。センサモジュールの整流回路の対応周波数の範囲(f
0+mΔf
0≦f
max)で各発振器の周波数の組み合わせを変更しながらこれを繰り返す。ステップ390の判定結果がNOとなると、ステップ386で記憶した最低受信DC電力の内で、最低受信DC電力が最も大きい周波数の組み合わせを特定し、各発振器320〜326をそれら周波数に設定する。
【0069】
さらに、
図10のステップ392〜404の繰返し処理により、上記と同様にして、周波数f
0とともに使用される、発振器の発振周波数の差分の基底値Δf
optを特定する(ステップ406)。このようにして特定された周波数f
0と差分の基底値Δf
optとを用いて、この後、各センサモジュールが一定周期に受信する受信電力の最低値が所要電力以上力となるように送信電力を調整して運用を行う(
図6)。これによって、各センサモジュールの蓄電量を所定範囲に維持しながら、受信電力の最低値が所要電力以上で、かつ電力を不要に消費しない効率の良い無線電力送信が可能となる。
【0070】
図11に、上記実施の形態にしたがった無線電力送信システムにおいて、センサモジュールの1つが受信する電力波形の例を示す。この例は、送信側のアンテナ数が3で、各アンテナからの受信電力が等しく、第1の発振器320の周波数がf、第2の発振器322の周波数がf+Δf、第3の発振器(図示せず)の周波数がf+2Δfのときを示す。
【0071】
上記実施の形態では、各周波数は、ある特定の周波数Δfの整数倍の差を互いに持つように決定される。この値の逆数1/Δfと、整流回路のフィルタおよび負荷で決まる時定数τとがほぼ一致するように、かつ各センサモジュールの受信電力のうち最も低いものが高くなるように、周波数の差分Δfを最適化している。これによって、各センサモジュールでは高い整流効率が得られ、結果として効率の良い電力送信が可能である。このように周波数の差分の基底値を決めることで、受信電力の時間的な変動周期を決定できる。この結果、この第2の実施の形態でも第1の実施の形態と同様に、整流回路の整流効率を高めることができる。
【0072】
上記実施の形態では、初期化処理としての繰返し処理の中で、発振周波数f
0又は発振周波数の差分Δfを繰返しのステップごとに一定数だけ増加させたり(
図5のステップ226、
図10のステップ402)、移相変化周期Tを繰返しのステップごとに一定数だけ減算させたりしている(
図5のステップ236)。しかし本発明はこのような実施の形態には限定されない。各ステップでの周波数の増減は、互いに異なる値であればどのように変化させてもよい。しかし、一定時間内で初期値を得るためには、本実施の形態のように定めるのが合理的である。
【0073】
さらに、上記第2の実施の形態では、発振周波数の差分は、隣接する発振周波数の間で一定である。しかし本発明はそのような実施の形態には限定されず、種々の差分を同時に用いるようにしてもよい。ただしこの場合も、第2の実施の形態のように差分を徐々に増加させたり、逆に減少させたりして特定することが合理的である。
【0074】
さらに、上記第1及び第2の実施の形態では、初期処理として使用電力が最も小さくなるような発振周波数、移相変化周期、又は発振周波数の差分を求めている。しかし、本発明の基本的なアイデアは、電力送信に用いられる複数のアンテナからの電波の位相差を時間的に変化させることによって、マルチパス干渉状況を時間的に変化させ、その結果、全てのセンサモジュールが一定時間において受信する平均電力について、マルチパス干渉による影響を時間的に平準化させるという点にある。したがって、上記第1及び第2の実施の形態で説明したように、発振器の周波数、移相変化周期、発振周波数の差分等の最適化をしなくともよい。
【0075】
上記実施の形態では、初期値が決定した後には、
図6に制御構造を示すようなプログラムを動作させることにより、送信電力の最低値をある程度に維持しながら、必要最小限の電力を送信している。しかし本発明はそのような実施の形態には限定されない。例えば、一定時間ごと、又は自動車であればエンジンの始動時に
図5又は
図10に制御構造を示したような初期化プログラムを起動することにより、いつでも環境に応じた設定で無線電力送信システムを動作させることもできる。
【0076】
さらに、上記実施の形態は、自動車の車体内でセンサモジュールに対する電力供給に無線電力送信を用いる場合を説明した。しかし本発明はそのような実施の形態には限定されない。ある程度の大きさがある金属の筐体内に複数のセンサモジュールが配置される装置であって、電波のマルチパス干渉が発生するような装置内で、センサモジュールに電力を供給する必要があるものであれば、どのようなものであっても本発明を適用できる。特に筐体の重量が問題となるような装置、例えば航空機、鉄道車両等に適用すると有効である。
【0077】
今回開示された実施の形態は単に例示であって、本発明が上記した実施の形態のみに制限されるわけではない。本発明の範囲は、発明の詳細な説明の記載を参酌した上で、特許請求の範囲の各請求項によって示され、そこに記載された文言と均等の意味及び範囲内での全ての変更を含む。
【0078】
参考文献:M. S. Trotter, J. D. Griffin, and G. D. Durgin, “Power-optimized waveforms for improving the range and reliability of RFID Systems,” in Proc. IEEE Int. Conf. RFID, 2009, pp. 80-87.