(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6429178
(24)【登録日】2018年11月9日
(45)【発行日】2018年11月28日
(54)【発明の名称】水生生物付着低減部材及び水生生物付着低減方法
(51)【国際特許分類】
E02B 1/00 20060101AFI20181119BHJP
【FI】
E02B1/00 301B
【請求項の数】4
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2014-62127(P2014-62127)
(22)【出願日】2014年3月25日
(65)【公開番号】特開2015-183470(P2015-183470A)
(43)【公開日】2015年10月22日
【審査請求日】2016年11月25日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 試験日:平成26年3月15日 試験を行った者:鹿島建設株式会社、積水樹脂株式会社 試験場所:東京湾沖
(73)【特許権者】
【識別番号】000001373
【氏名又は名称】鹿島建設株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000002462
【氏名又は名称】積水樹脂株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129300
【弁理士】
【氏名又は名称】丹羽 俊輔
(72)【発明者】
【氏名】リン ブーン ケン
(72)【発明者】
【氏名】吉村 伸一
(72)【発明者】
【氏名】杜若 善彦
(72)【発明者】
【氏名】鹿毛 量
(72)【発明者】
【氏名】濱本 剛
【審査官】
佐々木 創太郎
(56)【参考文献】
【文献】
特開平07−109661(JP,A)
【文献】
特開2011−058165(JP,A)
【文献】
実開昭62−072324(JP,U)
【文献】
特開2000−303423(JP,A)
【文献】
特開昭52−056737(JP,A)
【文献】
特開昭61−158506(JP,A)
【文献】
特開2014−097008(JP,A)
【文献】
特開昭63−194012(JP,A)
【文献】
特開平09−111710(JP,A)
【文献】
特開平08−128010(JP,A)
【文献】
特開2010−163760(JP,A)
【文献】
実開昭56−082006(JP,U)
【文献】
米国特許第04923730(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E01B 1/00
E01B 5/00
E01B 9/04
A01K 61/00−61/65
A01K 61/80−63/10
A01M 1/00−99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成樹脂製の基盤面に、合成樹脂で形成された長尺細長片及び合成樹脂で形成された短尺細長片が起立状に多数形成されており、前記長尺細長片の前記基盤面からの高さが20〜33mm、前記短尺細長片の前記基盤面からの高さが10〜18mmである水生生物付着低減部材が沿岸構造物の表面に設置されることで、前記長尺細長片及び前記短尺細長片が起立状に多数形成された沿岸構造物の表面構造。
【請求項2】
前記短尺細長片が湾曲形成されていることにより前記長尺細長片間の隙間が略被覆された請求項1記載の表面構造。
【請求項3】
前記長尺細長片が略短冊状の高柔軟性合成樹脂により形成された請求項1又は請求項2記載の表面構造。
【請求項4】
合成樹脂製の基盤面に、合成樹脂で形成された長尺細長片及び合成樹脂で形成された短尺細長片が起立状に多数形成されており、前記長尺細長片の前記基盤面からの高さが20〜33mm、前記短尺細長片の前記基盤面からの高さが10〜18mmである水生生物付着低減部材を沿岸構造物の表面に設置することにより、該表面上に前記長尺細長片及び前記短尺細長片を起立状に多数形成させる工程を含む水生生物付着低減方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水生生物付着低減部材、該部材が設置された沿岸構造物の表面構造、水生生物付着低減方法などに関連する。より詳細には、基盤面より長尺細長片及び短尺細長片が起立状に多数敷設された水生生物付着低減部材、該部材が設置された沿岸構造物の表面構造、前記部材を設置する水生生物付着低減方法などに関連する。
【背景技術】
【0002】
沿岸域などでは、堤防・護岸、海域に建造された桟橋、船舶係留施設、工場・発電所などにおける取水・排水設備など、構造の一部が水中に存在する多くの構造物が構築されている。それらの沿岸構造物では、その水面付近などにおいて、ムラサキイガイ、ミドリイガイなどの二枚貝、フジツボなどの固着動物、海藻類など、海棲性の水生生物などが付着し、問題となっている。沿岸構造物にそれらの水生生物が大量に付着すると、構造物の劣化などを招きやすいことから、水生生物の付着防止手段が、種々検討されている。
【0003】
水生生物付着防止手段として、例えば、特許文献1及び特許文献2には、潮汐変動を利用した水生生物付着防止手段が、特許文献3には、高分子材薄フィルムよりなるリボンを植毛した海洋生物付着防止表面構造が、特許文献4には、5デニール以下の捲縮を有する細繊維からなる立毛で覆われ、生物付着防止性に優れた水産用資材が、特許文献5には、ベース地の表面に、水中で自然揺動する程度の柔軟な毛条繊維を密生させた貝類付着防止シートが、それぞれ開示されている。
【特許文献1】特開2001-254326号公報
【特許文献2】特開2000-8321号公報
【特許文献3】特開昭63-194012号公報
【特許文献4】特開平1-165326号公報
【特許文献5】特開平2-274911号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
例えば、ムラサキイガイ、ミドリイガイ、フジツボなどの沿岸構造物への付着には、季節性の変動がみられる。そして、例えば、それらの付着性水生生物が季節性に独占的に大量増殖すると、単に沿岸構造物の該当箇所を劣化させるだけでなく、沿岸構造物の直下へ死亡・脱落した個体が堆積し、それに起因して、その周辺水域の底質がヘドロ化し、悪臭などにより周辺環境が悪化する。そのため、付着性水生生物の大量増殖を抑制する手段が必要である。
【0005】
そこで、本発明は、簡易かつ有効に付着性水生生物の大量増殖を抑制する手段を提供することなどを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明では、沿岸構造物の表面に設置する水生生物付着低減部材であって、該部材の基盤面に長尺細長片及び短尺細長片が起立状に多数形成されており、前記長尺細長片の前記基盤面からの高さが20〜33mm、前記短尺細長片の前記基盤面からの高さが10〜18mmである水生生物付着低減部材を提供する。
【0007】
この水生生物付着低減部材では、その基盤面に長尺と短尺の二種類の細長片が形成されている。これにより、複雑かつ不規則な凹凸表面が形成されるため、この凹凸表面に潮流が当たると渦・乱流など様々な微細流が発生する。それらの不規則な微細流により、水生生物や水中の微細粒子などの部材表面への付着が抑制される。また、複雑かつ不規則な凹凸表面が形成されるため、光条件などの生育環境が、部材の表面上の部位によって大きく異なり、また時間ごとなどによって生育条件が変化しやすい。これにより、水生生物が部材の表面上に付着・定着した場合であっても、特定の生物種による独占的状態の形成を阻害でき、付着生物種の多様性を確保できるため、付着性水生生物の大量増殖を抑制できる。
【0008】
さらに、長尺細長片は、潮流などにより短尺細長片の上を覆うように揺動することで、短尺細長片への水生生物の付着を妨害する。一方、短尺細長片は、長尺細長片へ付着した水生生物を擦り作用により増殖前に脱落させる。その他、長尺細長片の根元側が短尺細長片と接触しているため、長尺細長片が水流で揺動することで、短尺細長片の揺動も誘発・増幅され、短尺細長片への水生生物の付着が抑制される。従って、この水生生物付着低減部材を沿岸構造物の表面に設置し、同部材の基盤面に長尺と短尺の二種類の細長片を形成することで、沿岸構造物への水生生物の付着を簡易かつ有効に抑制でき、それにより、付着性水生生物の大量増殖を抑制できる。
【0009】
例えば、短尺細長片が湾曲形成されていることにより長尺細長片間の隙間が略被覆された構成にし、水生生物付着低減部材の基盤面が外部からほとんど露出しないようにすることにより、短尺細長片が水生生物の基盤面への侵入・付着を妨害するため、基盤面への水生生物の付着も抑制できる。これにより、この部材の水生生物付着抑制機能を増大させることができ、また、基盤面への水生生物付着による同部材の早期の低機能化を抑止できる。
【0010】
例えば、長尺細長片が略短冊状の高柔軟性合成樹脂により形成された構成にした場合、長尺細長片の表面積が小さくなるため、水生生物の同表面への付着をより有効に抑制できるほか、潮流などで長尺細長片がより揺動しやすくなるため、短尺細長片への水生生物の付着をより有効に妨害できる。また、例えば、細長片を合成樹脂で形成することにより、材質上も、水生生物の幼生、水中の微細粒子などが付着・定着・堆積しにくく、洗い落とされやすい。従って、この構成は、付着性水生生物の大量増殖抑制により有効である。
【0011】
以上のように、沿岸構造物の表面に本発明に係る水生生物付着低減部材を設置することにより、沿岸構造物の表面におけるムラサキイガイ、ミドリイガイ、フジツボなどの付着性水生生物の大量増殖を簡易かつ有効に抑制できる。これにより、単に沿岸構造物の該当箇所の劣化を抑制できるだけでなく、沿岸構造物の直下へ死亡・脱落した個体が堆積することを抑制でき、さらに、それに起因したその周辺水域の底質のヘドロ化、及び、それに伴う悪臭などによる周辺環境の悪化を、簡易かつ有効に防止できる。その他、この部材には、沿岸構造物への設置・回収を比較的簡易かつ低廉に行うことができるという有利性もある。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、比較的簡易かつ有効に、付着性水生生物の大量増殖を抑制できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
<本発明に係る水生生物付着低減部材について>
本発明は、沿岸構造物の表面に設置する水生生物付着低減部材であって、該部材の基盤面に長尺細長片及び短尺細長片が起立状に多数形成されており、前記長尺細長片の前記基盤面からの高さが20〜33mm、前記短尺細長片の前記基盤面からの高さが10〜18mmである構成を少なくとも含む水生生物付着低減部材、並びにその水生生物付着低減部材が設置されることで、前記長尺細長片及び前記短尺細長片が起立状に多数形成された沿岸構造物の表面構造をすべて包含する。以下、
図1及び
図2を用いて、その例を説明する。なお、本発明は、この実施形態のみに狭く限定されない。
【0014】
図1は、本発明に係る水生生物付着低減部材の例を示す部分鉛直断面模式図である。
【0015】
図1では、水生生物付着低減部材Aが沿岸構造物Bの表面B1に設置にされており、水生生物付着低減部材Aの基盤面1に長尺細長片2及び短尺細長片3が起立状に多数形成されている。
【0016】
沿岸構造物Bの表面B1に水生生物付着低減部材Aを設置することで、同部材Aの基盤面1に形成された長尺細長片2及び短尺細長片3が沿岸構造物Bの表面B1への水生生物の付着・定着を抑制し、それにより付着性水生生物の大量増殖を抑制する。
【0017】
水生生物付着低減部材Aの基盤面1は、長尺細長片2及び短尺細長片3を起立状に形成する部位で、両細長片2、3を多数形成できるものであればよい。例えば、シート状、布状、マット状などに形成されたものを広く採用できる。
【0018】
基盤面1を形成するものの材質については、合成樹脂製など、シート状、布状、マット状などに形成可能な公知のものを広く採用でき、特に限定されないが、長期間、水生生物付着低減機能を持続できる点などから、高耐水性・高耐久性・高耐候性の合成樹脂、例えば、特殊ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂、ナイロン6、ナイロン66などのポリアミド樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)などのポリエステル樹脂、塩化ビニル樹脂、アクリル樹脂、アクリルニトリルスチレン樹脂、AAS樹脂(アクリルニトリル・アクリルゴム・スチレン樹脂)、AES樹脂(アクリロニトリル・(エチレン・プロピレン・ジエン共重合体)・スチレン樹脂)、メタクリル樹脂、フッ素樹脂、スチレン・ブタジエンゴムなどの合成ゴム、シリコンアクリレートなどのシリコン系樹脂、若しくはこれらを適宜積層したものなどが特に好適である。
【0019】
長尺細長片2は、水生生物付着低減部材Aの基盤面1に起立状に形成される二段階の高さの細長片のうち、長尺の方の細長片であり、潮流などによって揺動する高柔軟性の細長い部材によって形成する。
【0020】
長尺細長片2は、その一端が基盤面1に固定され、それ以外の部分は揺動可能に形成される。水生生物付着低減部材Aの基盤面1に長尺細長片2を着設する方法については、例えば、同部材2に繊維性材料を採用してそれを植設する、接着剤などで同部材2を基盤面1に接着させるなど、公知のものを広く採用でき、特に限定されない。また、例えば、
図1のように、水生生物付着低減部材Aの基盤面1上に、複数の長尺細長片2による束を所定間隔ごとに形成する構成にすることにより、水生生物付着低減部材Aの製造を簡易化・低廉化できる。
【0021】
各長尺細長片2の形状は、細長く柔軟性を保持できる形状であればよく、略直方体状、略円柱形状、略円錐形状などを含み、特に限定されないが、例えば、略短冊状に形成されたものが、長尺細長片の表面積が小さくなるため、水生生物の同表面への付着をより有効に抑制できる点、潮流などで長尺細長片がより揺動しやすくなるため、短尺細長片への水生生物の付着をより有効に妨害できる点などから好適である。
【0022】
なお、長尺細長片2は、特に沿岸構造物Bへの設置前においては、原則的には、できるだけ、水生生物付着低減部材Aの基盤面1から略垂直方向に向けて直立していることが好ましいが、長尺細長片2が高柔軟性材料で形成される点、起立性に形成されていれば、同基盤面1から略垂直方向に直立していなくても同等の水生生物付着抑制機能が発揮される点、水生生物付着低減部材Aの製造時に長尺細長片2が傾斜して形成される場合がある点、沿岸構造物Bへの設置後においては潮流や重力などにより長尺細長片2が変形する場合がある点などから、長尺細長片2は、少なくとも起立性に形成されていればよく、略垂直方向に直立したもののみに狭く限定されない。
【0023】
水生生物付着低減部材Aの長尺細長片2の基盤面1からの高さd1(原則的には、基盤面1に固定されている根元部分から先端までの長さ)は、潮流などにより短尺細長片の上を覆うように揺動することが可能で、かつ隣接する細長片と絡まらない程度、例えば、20〜33mmが好適であり、20〜30mmがより好適である。
【0024】
長尺細長片2の幅は、材質によっても異なるが、例えば、長尺細長片2が略短冊状に形成されている場合、潮流などにより短尺細長片の上を覆うように揺動することが可能な程度、例えば、0.1mm〜3.0mmが好適であり、0.2mm〜2.5mmがより好適であり、0.5〜2.0mmが最も好適である。
【0025】
長尺細長片2の厚さは、材質によっても異なるが、例えば、長尺細長片2が略短冊状に形成されている場合、潮流などにより短尺細長片の上を覆うように揺動することが可能な程度、例えば、0.01〜1.0mmが好適であり、0.02〜0.8mmがより好適であり、0.05〜0.5mmが最も好適である。
【0026】
長尺細長片2の形成密度に関しては、例えば、長尺細長片2が略短冊状に形成され、複数の長尺細長片2による束が所定間隔ごとに形成されている場合、例えば、5〜30個の長尺細長片2で形成された束が縦方向及び横方向にそれぞれ1〜20mm間隔で形成されているのが好適であり、5〜25個の長尺細長片2で形成された束が縦方向及び横方向にそれぞれ2〜15mm間隔で形成されているのがより好適であり、5〜20個の長尺細長片2で形成された束が縦方向及び横方向にそれぞれ3〜12mm間隔で形成されているのが最も好適である。
【0027】
長尺細長片2の材質としては、高柔軟性材料であればよく、特に限定されないが、シート状に形成可能な高柔軟性合成樹脂、例えば、特殊ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂、ナイロン6、ナイロン66などのポリアミド樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)などのポリエステル樹脂、塩化ビニル樹脂、アクリル樹脂、アクリルニトリルスチレン樹脂、AAS樹脂(アクリルニトリル・アクリルゴム・スチレン樹脂)、AES樹脂(アクリロニトリル・(エチレン・プロピレン・ジエン共重合体)・スチレン樹脂)、メタクリル樹脂、フッ素樹脂、スチレン・ブタジエンゴムなどの合成ゴム、シリコンアクリレートなどのシリコン系樹脂、若しくはこれらを適宜積層したものなどが特に好適である。また、例えば、高耐候性樹脂で形成することにより、比較的長期間、設置当初の水生生物付着低減機能を保持できる。
【0028】
一方、短尺細長片3は、水生生物付着低減部材Aの基盤面1に起立状に形成される二段階の高さの細長片のうち、短尺の方の細長片であり、長尺細長片1と同様、潮流などによって揺動する高柔軟性の細長い部材によって形成する。
【0029】
短尺細長片3も、長尺細長片2と同様、その一端が基盤面1に固定され、それ以外の部分は揺動可能に形成される。水生生物付着低減部材Aの基盤面1に短尺細長片3を着設する方法についても、長尺細長片2と同様のものを広く採用できる。また、例えば、
図1のように、水生生物付着低減部材Aの基盤面1上に、複数の長尺細長片2と複数の短尺細長片3とを合わせた束を所定間隔ごとに形成する構成にしてもよいし、複数の長尺細長片2と複数の短尺細長片3とをそれぞれ束にして、それぞれを所定間隔ごとに形成する構成にしてもよい。細長片を束に形成することにより、水生生物付着低減部材Aの製造を簡易化・低廉化できる。なお、短尺細長片3は、少なくとも起立性に形成されていればよく、水生生物付着低減部材Aの基盤面1から略垂直方向に直立している必要はない。
【0030】
短尺細長片3は、例えば、縮れ状・コイル状などに湾曲形成されていることにより長尺細長片1間の隙間が略被覆された構成を備えていることが好ましい。これにより、水生生物付着低減部材Aの基盤面1が外部からほとんど露出しないようにすることができるため、基盤面1への水生生物の侵入・付着を妨害でき、それにより基盤面への水生生物の付着も抑制できる。また、短尺細長片3を縮れ状・コイル状などに湾曲形成することにより、湾曲形成されていない場合と比較して、荷重などによる短尺細長片3の変形を少なくでき、剛性を高めることができるため、長尺細長片2へ付着した水生生物に対する短尺細長片3の擦り作用を増大させることができ、その結果、付着水生生物の長尺細長片2からの脱落を、より促進できる。細長片を湾曲形成する方法については、公知の手段を広く採用できる。
【0031】
短尺細長片3の形状は、原則的には、湾曲形成されていればよく、特に限定されない。例えば、各短尺細長片3がそれぞれ複数箇所でランダムな方向に折り曲げられることにより、その細長片が縮んで不規則に巻いている状態になっていてもよい。これにより、より隙間の少ない状態で基盤面1を被覆できるため、基盤面1への水生生物の侵入・付着をより有効に妨害できる。
【0032】
水生生物付着低減部材Aの基盤面1からの短尺細長片3の高さd2(例えば、縮れ状・コイル状などに湾曲形成されている場合は、基盤面1を起点とした、基盤面1から最も離れた部分までの鉛直方向長さ)は、長尺細長片2の基盤面1からの高さd1よりも5〜15mm程度短いのがよく、例えば、10〜18mmが好適であり、12〜18mmがより好適である。
【0033】
短尺細長片3の幅は、材質によっても異なるが、例えば、0.1mm〜3.0mmが好適であり、0.2mm〜2.5mmがより好適であり、0.5〜2.0mmが最も好適である。
【0034】
短尺細長片3の厚さは、例えば、0.01〜1.0mmが好適であり、0.02〜0.8mmがより好適であり、0.05〜0.5mmが最も好適である。
【0035】
短尺細長片3の形成密度に関しては、例えば、複数の短尺細長片3による束が所定間隔ごとに形成されている場合、例えば、5〜30個の短尺細長片3で形成された束が縦方向及び横方向にそれぞれ1〜20mm間隔で形成されているのが好適であり、5〜25個の短尺細長片3で形成された束が縦方向及び横方向にそれぞれ2〜15mm間隔で形成されているのがより好適であり、5〜20個の短尺細長片3で形成された束が縦方向及び横方向にそれぞれ3〜12mm間隔で形成されているのが最も好適である。
【0036】
短尺細長片3の材質としては、高柔軟性材料であればよく、特に限定されないが、シート状に形成可能で湾曲形成も可能な高柔軟性合成樹脂、例えば、ナイロン6、ナイロン66などのポリアミド樹脂、特殊ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)などのポリエステル樹脂、塩化ビニル樹脂、アクリル樹脂、アクリルニトリルスチレン樹脂、AAS樹脂(アクリルニトリル・アクリルゴム・スチレン樹脂)、AES樹脂(アクリロニトリル・(エチレン・プロピレン・ジエン共重合体)・スチレン樹脂)、メタクリル樹脂、フッ素樹脂、スチレン・ブタジエンゴムなどの合成ゴム、シリコンアクリレートなどのシリコン系樹脂、若しくはこれらを適宜積層したものなどが特に好適である。また、例えば、高耐候性樹脂で形成することにより、比較的長期間、設置当初の水生生物付着低減機能を保持できる。
【0037】
沿岸構造物Bとしては、堤防・護岸、海域に建造された桟橋、船舶係留施設、工場・発電所などにおける取水・排水設備(それらに設けられた管路の外壁面及び内壁面を含む)など、構造の一部が水中に存在する全ての構造物をすべて包含する。
【0038】
沿岸構造物Bの表面B1に水生生物付着低減部材Aを設置・固定する手段については、公知の方法を広く用いることができ、狭く限定されない。例えば、沿岸構造物Bの設置箇所に該部材Aを巻きつけて固定する、接着手段、打設手段、引掛・係留手段などにより固定する、などの方法又はそれらの組み合わせた設置方法などを広く採用できる。
【0039】
図2は、水生生物付着低減部材Aが設置された沿岸構造物の例を示す模式図である。
【0040】
図2では、堤防・護岸Sから水域Wに向けて、橋部B2と脚部B3を備えた沿岸構造物Bが構築されており、沿岸構造物Bの脚部B3の水面W1付近に水生生物付着低減部材Aが設置されている。なお、
図2では、堤防・護岸Sが沿岸構造物Bと別個に建造されているが、堤防・護岸S自体も沿岸構造物の一形態であり、本発明に係る水生生物付着低減部材Aを該部位Sの表面に設置してもよい。
【0041】
沿岸構造物Bの水中・水面付近に存在する部位のうち、少なくとも水面W1付近の領域(海面水位及びその上下を含む領域)に、水生生物付着低減部材Aを設置することにより、該部位への水生生物の付着・定着を抑制できる。
【0042】
また、これにより、付着性水生生物の大量増殖を抑制できるため、沿岸構造物Sの直下へ死亡・脱落した個体が堆積することを抑制でき、さらに、それに起因したその周辺水域Wの底質W2のヘドロ化や水質悪化、及び、それに伴う悪臭などによる周辺環境の悪化を、簡易かつ有効に防止できる。
【0043】
<本発明に係る水生生物付着低減方法について>
本発明は、上述のいずれかの水生生物付着抑制部材を、沿岸構造物の表面に設置することにより、該表面上に前記長尺細長片及び前記短尺細長片を起立状に多数形成させる工程を少なくとも含む水生生物付着低減方法を全て包含する。
【0044】
上述の通り、本発明に係る水生生物付着抑制部材を沿岸構造物の表面に設置することにより、ムラサキイガイ、ミドリイガイなどの二枚貝、フジツボなどの固着動物、海藻類など、海棲性の水生生物の沿岸構造物表面への付着を有効に抑制でき、また、大量増殖を抑制できる。これにより、沿岸構造物の直下へ死亡・脱落した個体が堆積することを抑制でき、さらに、それに起因したその周辺水域の底質のヘドロ化や水質悪化、及び、それに伴う悪臭などによる周辺環境の悪化を、簡易かつ有効に防止できる。
【実施例1】
【0045】
実施例1では、本発明に係る水生生物付着低減部材の有効性及び耐久性を検証した。
【0046】
水生生物付着低減部材として、厚さ1mmのポリプロピレンの基布に、基盤面からの高さ25mm(基盤面に固定されている根元部分から先端部分までの長さが25mm)の長尺細長片、及び、基盤面からの高さ15mmの短尺細長片が植設され、ウレタンシートで裏付けされたものを用いた。長尺細長片は、ポリエチレンシートを幅1mmに細長く裁断したものを基布に植設することで形成され、基盤面上では、略短冊状の形態を有していた。短尺細長片は、幅1mmのナイロン繊維が縮れ状に湾曲形成されたものを基布に植設することで形成され、基盤面上では、複雑に折れ曲がって基盤面の隙間を被覆する形態を有していた。この水生生物付着低減部材は、長尺細長片用のポリエチレンの裁断片4本と短尺細長片用のナイロン繊維4本とを合わせて植設して形成されたものであり、一つの植付部から8本の長尺細長片と8本の短尺細長片が一束として起立性に形成されており、その束が縦方向4mm、横方向5mmの間隔で並列されていた。なお、対照として、塩化ビニル製のパンチ板材を準備した。
【0047】
1トン水槽にこの水生生物付着低減部材(150×200mm)及び対照用の板材を設置し、2013年1月〜2014年1月までの約1年間、神奈川県の葉山沿岸から汲み上げた海水を毎分1Lずつ供給し続け、水槽が新しい海水で満たされた状態を維持した。
【0048】
その結果、対照用の板材では、神奈川県の葉山沿岸で多く生息する石灰藻やカンザシゴカイが多く付着していたのに対し、この水生生物付着低減部材では、水生生物の付着がほとんど見られなかった。また、約1年間経過後であっても、劣化はほとんど観察されなかった。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明は、堤防・護岸、海域に建造された桟橋、船舶係留施設、工場・発電所などの取水・排水設備などの沿岸構造物において、比較的簡易かつ有効に、付着性水生生物の独占的大量増殖を抑制することができる点で、産業上有用である。
【0050】
上述の通り、従来、水生生物付着防止手段として、潮汐変動を利用し、付着性水生生物を削り落す生物付着防止手段が検討されている。しかし、これらの手段の場合、設置部位の寸法などに合わせて器具を作製する必要があり、汎用性が低い。また、生物付着防止に用いる器具自体の表面に生物が付着し、移動性を損ない、比較的短期間で機能を失う場合がある。それに対し、本発明は、設置部位の形状・寸法などに関らず設置可能であり、低廉で汎用性が高く、比較的長期間、設置当初の機能を保持できるという有利性がある。
【0051】
その他、本発明は、設置・回収の作業を比較的簡易かつ低廉に行うことができるという有利性を備える。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【
図1】本発明に係る水生生物付着低減部材Aの例を示す部分鉛直断面模式図。
【
図2】水生生物付着低減部材Aが設置された沿岸構造物Bの例を示す模式図。
【符号の説明】
【0053】
1 基盤面
2 長尺細長片
3 短尺細長片
A 水生生物付着低減部材
B 沿岸構造物
S 堤防・護岸
W 水域