(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下の実施の形態においては、便宜上その必要があるときは、複数のセクションまたは実施の形態に分割して説明するが、特に明示した場合を除き、それらは互いに無関係なものではなく、一方は他方の一部または全部の変形例、詳細、補足説明等の関係にある。また、以下の実施の形態において、要素の数等(個数、数値、量、範囲等を含む)に言及する場合、特に明示した場合および原理的に明らかに特定の数に限定される場合等を除き、その特定の数に限定されるものではなく、特定の数以上でも以下でもよい。
【0022】
さらに、以下の実施の形態において、その構成要素(要素ステップ等も含む)は、特に明示した場合および原理的に明らかに必須であると考えられる場合等を除き、必ずしも必須のものではないことは言うまでもない。同様に、以下の実施の形態において、構成要素等の形状、位置関係等に言及するときは、特に明示した場合および原理的に明らかにそうでないと考えられる場合等を除き、実質的にその形状等に近似または類似するもの等を含むものとする。このことは、上記数値および範囲についても同様である。
【0023】
[実施の形態の概要]
まず、実施の形態の概要について説明する。本実施の形態の概要では、一例として、括弧内に実施の形態の対応する構成要素、符号等を付して説明する。
【0024】
一実施の形態における慣性センサは、角速度検出のための機械構造を有する角速度検出エレメント(角速度検出エレメントチップC1、C5、C6)と、前記角速度検出エレメントから角速度を検出するための角速度検出回路(信号処理LSIチップC2、C4、C7、C8、C9)と、を有する。前記角速度検出回路は、前記角速度検出エレメントから得られる信号を、前記角速度検出エレメントの駆動周波数に同期した離散時間でサンプリングすることで傾斜角を計算する。
【0025】
以下、上述した実施の形態の概要に基づいた各実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、実施の形態を説明するための全図において、同一の部材には原則として同一の符号または関連する符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。また、以下の実施の形態では、特に必要なとき以外は同一または同様な部分の説明を原則として繰り返さない。
【0026】
また、実施の形態で用いる図面においては、断面図であっても図面を見易くするためにハッチングを省略する場合もある。また、平面図であっても図面を見易くするためにハッチングを付す場合もある。
【0027】
[実施の形態1]
本実施の形態1における慣性センサについて、
図1〜
図7を用いて説明する。本実施の形態1では、角速度の出力に加え、角度を外部に出力する慣性センサの例について説明する。
【0028】
<慣性センサの構造>
まず、
図1を用いて、本実施の形態1における慣性センサの構造について説明する。
図1は、この慣性センサの構造の一例を示す断面図である。
【0029】
本実施の形態1における慣性センサでは、角速度が検知できるように、角速度検出エレメントチップC1(以下、角速度検出エレメントとも記す)と、信号処理LSIチップC2とを、センサ内に有している。角速度検出エレメントチップC1は、主面上にパッド306が設けられ、このパッド306を通じて接続される。信号処理LSIチップC2は、主面上にパッド304が設けられ、このパッド304を通じて接続される。
【0030】
本実施の形態1に示す慣性センサでは、センサパッケージ部302上に信号処理LSIチップC2が設置され、さらに、信号処理LSIチップC2上に角速度検出エレメントチップC1が搭載されている。信号処理LSIチップC2と角速度検出エレメントチップC1とは、信号処理LSIチップC2のパッド304と、角速度検出エレメントチップC1のパッド306との間に設けられたボンディングワイヤW1を通じて電気的に接続されている。また、信号処理LSIチップC2は、センサパッケージ部302に設けられた電極305へのボンディングワイヤW1の接続によって、外部電極303との電気的接続を行う。また、キャップ部301が、センサパッケージ部302の「ふた」となり、センサモジュール(センサの1単位)を構成している。
【0031】
なお、ここで、慣性センサのパッケージング方法は本願で開示する内容に無関係である。すなわち、トランスファーモールドによる樹脂パッケージや、セラミクス等の基板上にチップを固定するプレモールドパッケージなど、様々なパッケージング方法で本願の開示内容は実現可能である。
【0032】
<慣性センサの構成および動作>
図2を用いて、本実施の形態1における慣性センサの構成について説明する。
図2は、この慣性センサの構成の一例を示す構成図である。
【0033】
本実施の形態1における慣性センサは、角速度検出エレメントチップC1の部分の角速度検出エレメント401と、信号処理LSIチップC2の部分の検出回路とを、有している。角速度検出エレメントチップC1は、角速度検出のための機械構造を有する角速度検出エレメントである。信号処理LSIチップC2は、角速度検出エレメントから角速度を検出するための角速度検出回路である。
【0034】
角速度検出エレメント401は、駆動電極401a、モニタ電極401b、および検出電極401cを有している。検出回路は、駆動側CV(Capacitor to Voltage)変換部402、駆動側ADC(Analog to Digital Convertor)部403、駆動側同期検波部404、周波数制御部405、および振幅制御部406を有している。また、検出回路は、検出側CV変換部407、検出側ADC部408、検出側同期検波部409、LPF410、積分・角度計算回路411、メモリ412、およびデジタル通信回路413を有している。さらに、検出回路は、共通クロック源414、分周器415、可変アンプ416、アンプ417、位相反転器418、および温度センサ419を有している。この検出回路において、CV変換部402、407、ADC部403、408、同期検波部404、409、周波数制御部405、振幅制御部406、LPF410、積分・角度計算回路411、メモリ412、デジタル通信回路413、分周器415、および温度センサ419は、デジタル部D1を構成している。
【0035】
ここで、角速度検出エレメント401は、いわゆる振動式角速度検出エレメントであり、予め定められた駆動方向に振動する振動子に対して、角速度が印加されたとき、駆動振動方向と直交する検出方向に生じる、コリオリ力に基づく新たな振動成分を検出し、これに基づいて角速度情報を出力するものである。ここで、コリオリ力Fcは、以下の式1によって示される。
【0036】
Fc=2・m・Ω・X・ωd・cos(ωd・t) (式1)
式1において、Fcはコリオリ力、mは可動部の質量、Ωは印加される角速度、Xは駆動方向の振動振幅、ωd/2πは駆動周波数、tは時間を示す。
【0037】
式1によれば、感度の向上、すなわちコリオリ力を多く得るためには、可動部の質量、駆動方向の振動振幅、ないしは駆動周波数を増やす必要があることがわかる。一方、駆動方向の最大振幅は、式2で示される。
【0039】
式2において、Xは駆動方向の振動振幅、ω
d/2πは駆動周波数、ω
rは駆動方向の固有振動数、Q
dは駆動方向の機械品質係数、k
dは振動子を構成する支持梁のばね定数、F
dは駆動力を示す。
【0040】
このため、一般に、振動式角速度検出エレメントは、駆動電圧対感度の効率が最良となるように、駆動方向の固有振動数(共振周波数)にて振動を維持し、機械品質係数倍の振幅ゲインを得ることで、印加される角速度に対して最も大きなSNR(Signal to Noise Ratio、信号対雑音比)を得る構成を採る。これは、本実施の形態1においても同様である。
【0041】
本実施の形態1では、前述した特許文献2に示されているものと同じように、角速度検出エレメントの共振周波数に信号処理LSIチップのクロックが同期する。すなわち、共通クロック源414が生成する周波数、または、その分周や逓倍は、回路の定常状態において、角速度検出エレメント401の駆動方向の共振周波数に一致する。このような構成を採ることで、信号の同期検波のサンプリング点数を減らし、同期検波をデジタル信号領域で行うことが容易となる。これは、特に細線プロセスを用いるLSIチップにおいて、チップ面積の低減、すなわちコストの低減をもたらす。
【0042】
角速度検出エレメント401は、駆動方向に振動を生じさせる駆動力を、静電力によってもたらすための駆動電極401a、駆動方向の振動変位を静電容量の変化として読み出すモニタ電極401bを有している。共通クロック源414が生成したクロックを分周器415で適切な周波数に分周し、アンプ417を通じて適切な電圧レベルに変換したキャリア信号を角速度検出エレメント401の可動部に与える。モニタ電極401bが構成する静電容量は、角速度検出エレメント401の可動部の変位によって変化が発生するので、キャリア信号が印加されたモニタ電極401bが構成する静電容量に準じた交流電流、すなわち角速度検出エレメント401の可動部の変位に準じた電流が発生することになる。
【0043】
次に、この電流によって表される角速度検出エレメント401の変位情報を、信号処理LSIチップC2内の駆動側CV変換部402を通じて容量成分を電圧に変換し、さらに駆動側ADC部403を経てデジタル値を得る。なお、このCV変換部402は、スイッチトキャパシタ型のCV変換回路であったり、連続時間型のCV変換回路であったりとその構成にはよらないが、CV変換部402でキャリア信号の同期検波を行うことが望ましい。連続時間型のCV変換回路では、追加の同期検波回路が必要になるが、ここでは簡単のため同期検波回路を兼ねることができるスイッチトキャパシタ型のCV変換回路を想定している。また、ADCの形式はΣΔ方式や逐次比較方式など、方式は問わない。
【0044】
さて、デジタル領域に変換された信号は、デジタル信号領域の駆動側同期検波部404において、駆動信号と同じ周波数かつ、変位信号とマッチした位相をもつ基準信号を用いて同期検波を行い、変位振動振幅成分を取り出す同期検波処理と、駆動信号と同じ周波数かつ、変位信号より90度進んだ位相をもつ基準信号を用いて同期検波を行い、角速度検出エレメント401の駆動方向の共振周波数と駆動周波数の差を取り出す同期検波処理との2つを行う。
【0045】
この同期検波部404では、前述の通り角速度検出エレメント401の共振周波数に信号処理LSIチップC2のクロックが同期しているので、信号処理LSIチップC2がもつばらつきによって角速度検出エレメント401の共振周波数がばらついても、1周期のサンプリング数(正弦波信号の分割数)は常に一定の値を保てるという特徴がある。
【0046】
前者の同期検波処理によって得られた振幅情報は、角速度検出エレメント401の駆動方向の振動が予め定められた所望の振幅に達するように振幅制御部406で制御がなされ、その制御出力は可変アンプ416のゲイン調整に用いられる。ゲイン調整を経た駆動信号(ここで駆動信号は共通クロック源414の分周であり、分周器415によってその分周が実現されている)は、角速度検出エレメント401の駆動電極401aに、向かい合う電極同士で逆位相になるように、一方の駆動電極は直接、もう一方の駆動電極は位相反転器418を経て、それぞれ駆動信号が印加される。これらの制御のループによって、角速度検出エレメント401は、予め定められた所定の振幅での振動が維持される。一方、後者の同期検波処理によって得られた角速度検出エレメント401の駆動方向の共振周波数と駆動周波数の差は、周波数制御部405に与えられ、制御出力は共通クロック源414へと与えられ、角速度検出エレメント401の駆動方向の共振周波数と駆動周波数の差が縮まる方向に向かうように周波数制御ループが構成される。
【0047】
以上に示した構成によって、角速度検出エレメント401の駆動方向の共振周波数と駆動周波数が一致する。また、角速度検出エレメント401の駆動方向の共振周波数は、半導体加工の精度などによってばらつきを示すが、周波数制御部405の働きによって、ある程度の共振周波数の範囲にあれば自動的にその共振周波数に共通クロック源414が同期し、また、同期検波処理も角速度検出エレメント401の共振周波数に信号処理LSIチップC2のクロックが同期しているので、信号処理LSIチップC2がもつばらつきによって角速度検出エレメント401の共振周波数がばらついても、1周期のサンプリング数が常に一定になる。
【0048】
ここで、回路のデジタル部D1のクロックは、同期検波部404はもちろん、それ以外の回路要素すべてで共通クロック源414を基にしている。共通クロック源414を基にしているということは、デジタル部D1のクロックも角速度検出エレメント401の駆動方向の共振周波数に同期しているということを意味している。デジタル部D1のクロックを角速度検出エレメント401の駆動方向の共振周波数に同期させるということは、振動型角速度センサで角速度検出を行う上での必要条件ではないが、かかる構成とすることによって、デジタル部D1の基準クロックを別途準備する必要がなく、また、角速度検出エレメント401の高い機械品質係数を用いた周波数安定性が得られるため、デジタル部D1のクロックを角速度検出エレメント401の駆動方向の共振周波数に同期させることにはシステム構成の簡易化の観点で利点がある。
【0049】
次に、角速度を検出する手順について説明する。角速度検出エレメント401は、検出方向への振動変位を静電容量の変化として読み出す検出電極401cを有する。前述したように、角速度検出エレメント401が予め定められた駆動方向に振動していると、角速度が印加されたとき、駆動振動方向と直交する検出方向にコリオリ力が生じる。このコリオリ力による変位によって検出電極401cの容量が変化する。この容量変化を、アンプ417を通じて適切な電圧レベルに変換したキャリア信号によって電流化し、これを検出側CV変換部407で電圧に変換し、さらに検出側ADC部408でデジタル値に変換し、検出方向の振動とマッチした位相での同期検波を行う検出側同期検波部409によって、検出方向振動の振幅、すなわち角速度が得られる。ここで得た角速度成分は、LPF410を経て不要な高周波成分を落とし、デジタル通信回路413より信号S1として、上位のシステムに出力される。
【0050】
次に、本実施の形態1における角速度出力の積分に関する回路構成についての説明を行う。
図3は、角速度検出エレメント401の駆動方向の共振周波数と駆動周波数が一致する回路構成を用いた角速度センサの信号処理回路内において、時間積分のために角速度をサンプリングする際のイメージである。
図3は、振動子の振動周波数(横軸は時間、縦軸は振動子の変位)と角速度のサンプリングタイミング(横軸は時間、縦軸は角速度)との関係の一例を示す図である。
図3(a)は、
図3(b)よりも角速度検出エレメント401の駆動方向の共振周波数が相対的に高いセンサにおける、振動の時系列変位と、そこから得られた角速度信号、およびサンプリング間隔Tsを示す。
図3(b)は、相対的に
図3(a)よりも角速度検出エレメント401の駆動方向の共振周波数が低いセンサにおける、振動の時系列変位と、そこから得られた角速度信号、およびサンプリング間隔Tsを示す。
【0051】
図3(a)(b)に示すように、角速度検出エレメント401の駆動方向の共振周波数が異なると、すべてのクロックが角速度検出エレメント401の駆動方向の共振周波数に同期しているので、サンプリング間隔もそれに準じて異なるものになる。以下に、離散時間積分によって得られる角度の式3を示す。
【0053】
式3において、θは積分の結果得られる角度、Ωは印加される角速度、Tsはサンプリング間隔を示す。
【0054】
式3から示されるように、例えば、角速度検出エレメント401の駆動方向の共振周波数が10%異なる2つのサンプルがある場合、サンプリング間隔Tsを固定とすると、それらのサンプルの角度計算に生じる誤差は10%となる。より具体的な例では、共振周波数の中央値が10kHzの設計で、Tsを0.1msと見積もって一括設定した場合、加工ばらつきによってそれぞれ9.5kHzと10.5kHzの角速度検出エレメント401の駆動方向の共振周波数をもつ2つのサンプル間に生じる誤差が約10%である。
【0055】
このように、角速度検出エレメント401の駆動方向の共振周波数のばらつきによって積分の誤差が生じる問題を解決するため、本実施の形態1では、積分・角度計算回路411にメモリ412を設け、予めプローバ検査等のウエハレベルで計測した角速度検出エレメント401の駆動側共振周波数ないしはそれに準じた値(後述)を保存する回路を追加している。積分・角度計算回路411は、式3に準じた積分計算(傾斜角の角度計算)を行うが、この積分・角度計算回路411でのサンプリング間隔は、メモリ412に保存されている角速度検出エレメント401の駆動方向の共振周波数、またはその逓倍・分周である。例えば、積分・角度計算回路411のサンプリング周波数が角速度検出エレメント401の駆動方向の共振周波数のY分周であるとすると、Tsは角速度検出エレメント401の駆動方向の共振周波数の逆数からYを割った値になる。
【0056】
前述のように、本実施の形態1のような検出回路の構成においては、検出回路自身では共通クロック源414が角速度検出エレメント401の駆動方向の共振周波数に同期しているかどうかは認識できるが、実際にどのような周波数で同期しているかという周波数絶対値がわからない。一方、本実施の形態1に示す方法によって、メモリ412に、角速度検出エレメント401の駆動側共振周波数を保存しておけば、積分・角度計算回路411におけるサンプリング間隔が、メモリ412に記録された情報から明らかになるので、水晶振動子のような外付けクロック源の追加や、外部からのクロック信号印加、上位システムからのサンプリングトリガの入力といったコスト上昇や故障リスク増の対策を追加することなく、高精度な傾斜角の角度計算を行うことができる。
【0057】
ここでメモリ412は、実装方法によらず、マスクROM、フラッシュROM等のあらゆる不揮発メモリによって実現可能である。また、揮発メモリであっても、起動時に上位システムから共振周波数をデジタル通信回路413によって与えられれば、所望の機能は維持可能である。
【0058】
また、メモリ412に保存する角速度検出エレメント401の駆動側共振周波数に関しては、必ずしも共振周波数そのものである必要はなく、共振周波数の逓倍・分周値や、それらの逆数など、角速度検出エレメント401の駆動側共振周波数に基づく値であれば、本実施の形態1を実現できることは明らかである(これを、角速度検出エレメント401の駆動側共振周波数ないしはそれに準じた値と定義する)。
【0059】
また、角速度検出エレメント401の駆動側共振周波数は、必ずしも各検出エレメントを直接測った共振周波数の値である必要はなく、ウエハ上の数チップを測った結果得られるトレンドから補完した結果など、所望の精度に応じて厳密さの度合いを選択することができる。ウエハ内でのばらつきやロットのばらつき、フォトマスクレベルのばらつきがセンサとしての仕様を満たすのであれば、それぞれウエハ内の1デバイス、ロット内の1デバイス、当該フォトマスクで作製したウエハからの1デバイスを測れば、メモリ412に保存すべき値を決定できる。
【0060】
さらに、別の方法として、
図4を用いて説明する。
図4は、駆動周波数測定系の構成の一例を示す図である。
図4に示すように、慣性センサ201、計測装置202からなる出荷前検査システムにおいて、慣性センサ201から得る駆動信号を計測装置202がその周波数を計測し、周波数情報として慣性センサ201に返すようにして、角速度検出エレメント401の駆動側共振周波数をメモリ412に記録する構成としても良い。この場合、慣性センサ201があって、駆動信号やそのデジタル値を出力する機能を有し、メモリ412に角速度検出エレメント401の駆動側共振周波数を記録することが特徴となる。また、例えば慣性センサ201にテストモード(TEST=H)の選択ができるようになっていて、慣性センサ201から得る駆動信号は出荷前検査時だけ出すような形となっていても良い。一般に、センサを利用する際には駆動信号をモニタする必要がないため、慣性センサ201から駆動信号を出す機能を必ずしも開放しなくとも、センサとしての機能は満たせる。
【0061】
また、
図2では、積分・角度計算回路411へ与える信号は検出側同期検波部409の直後から出ているが、これはLPF410の後段からの入力であっても良い。前者は、高い周波数成分までを含めて積分ができるため、一般にはLPF410を経た後の信号を用いるよりも高精度な角度計算が期待できる一方、高域のノイズも積分してしまうため、回路のノイズプロファイルによっては好適な構成とならない。一方、後者の構成であれば、広域ノイズを落とした帯域の信号だけが得られるので、測定対象の応答性が高くないものを測定する場合においては、後者のようなLPF410を経た信号を積分・角度計算回路411に入力する構成が好適になる可能性がある。
【0062】
また、図示していないが、LPF410の前後段で信号のゲインを調整する場合は、ゲイン調整前の信号や、積分計算用にゲインを調整した信号を積分・角度計算回路411へ与えることで、信号飽和による積分誤差の発生を防ぐことができる。これは、単にセンサモジュールとマイコンのように別のIC(Integrated Circuit)単位からなるシステムでは実現できない信号処理と言える。
【0063】
図5は、共振子の温度に対する共振周波数の変化率の一例を示す図である。
図5のグラフでは、単結晶シリコンを用いて作製する振動子の温度(℃)に対する共振周波数の変化率(%)を示している。シリコンのヤング率が温度に応じて変動するので、振動子の共振周波数も温度に応じて
図5に示すように変化することが知られている。
図5の例では、温度が−50℃から150℃までの変化に対して、共振周波数変化率は約0.25%から約−0.45%まで変化する。このため、積分・角度計算回路411では、温度センサ419の出力を受け、
図5に示したような温度と共振周波数のプロファイルから、サンプリング間隔Tsを補正する機能を有していても良い。
図5のグラフは、式4で書かれており、例えば式4にしたがって補正を行うことで、ヤング率の温度特性による誤差を改善することできる。
【0065】
式4において、Tは温度、Eは温度Tにおけるヤング率、E
0は0Kでの縦弾性係数、Bは温度係数、T
0は近似係数を示す。
【0066】
ところで、式2に示したように、一般に、振動型角速度センサでは、機械品質係数で示される振動ゲインを活用することで、駆動側の駆動電圧対振動比を大きくとり、SNRを向上させている。一方、機械品質係数値を活用するためには、一定の周波数で当該周波数の振動エネルギーを貯める時間がかかる。最も単純に、ステップ応答的に、一定の振幅の周波数を与え続けることを考えると、最大振幅の63.2%に達するまでの時間である“時定数”は機械品質係数の2倍の数を固有振動数で割った値になる。すなわち、通電して直ちに角速度センサとして正常な出力が出る駆動振幅に到達するまでには、エネルギーを貯め込むための時間が必要となる。
【0067】
図6は、角速度検出エレメントの立ち上がり待ちの概念と、出力マスクやリセット要求機能の効果との一例を示す図である。
図6では、角速度検出エレメントの駆動振幅の一例を示している(ここで、変位ではなく振幅なので、変位の包絡線を示していることに注意されたい)。角速度センサの立ち上がりが、角速度検出エレメントの駆動振幅が十分に立ち上がらなければ、角速度センサとしてはもちろんのこと、角度計算を行うことも適切でない。そこで、本実施の形態1においては、角速度検出エレメント401の駆動振幅が、予め定めたしきい値の範囲内にないときは、デジタル通信回路413より出力する角度出力にマスクをかけるか、角度出力が利用できないことを示すフラグを出力するという機能を付加している。このような構成を採ることによって、上位システムが本来正しくない、誤った角度出力を上位システムの制御に使ってしまうおそれを排除することができる。
【0068】
また、本実施の形態1においては、上位システムからのリセット要求(パルスH)に応じて、角度出力をリセットする機能が備わっている。リセットとは、すなわち積分器の積分値を0にする機能であり、例えば車載用途やいわゆるドローン(無人飛行機)のような飛行物体であれば、上位システムが車速パルス、GPS測位情報や加速度センサ等の別のセンサ情報を元に車両や飛行機が停止状態にあることを認識し、その時点でリセットすることが望ましい。本実施の形態1においては、角速度センサ(慣性センサ)の内部の回路が角速度を積分して角度を計算しているので、静止の判断を行える上位システムからのリセット信号を用いて、積分をリセットできる通信機能を備えるという発想は、従来の上位システム側で角速度を積分し、上位システム内で積分値をリセットするという一般構成とは全く異なるものである。
【0069】
本実施の形態1の最低限の構成を
図7に示す。
図7は、慣性センサを構成する最低限必要な構成要素を示す図である。
図7では、共通クロック源414があり、この周波数を周波数制御部405が制御し、角速度検出エレメントチップC1が持つ駆動方向の共振周波数と駆動周波数が一致する回路構成である。ここで、角速度から積分・角度計算を行う積分・角度計算回路411が、共通クロック源414のクロックに同期していて、積分計算に用いるサンプリング間隔をメモリ412に保存している構成によって、高精度に角速度積分を実施する回路である。
【0070】
なお、本文中では角速度検出エレメントの共振周波数に信号処理LSIチップのクロックが同期している、と記述しているが、必ずしも駆動周波数が共振周波数に一致する必要はなく、機械品質係数が一定量得られる周波数であれば良い。また、周波数制御によっては、駆動周波数が共振周波数に一致しているかどうかは判断しかねる場合もある。その場合は、本文中の「共振周波数」はすべて「駆動周波数」に置き換えられる。
【0071】
<実施の形態1の効果>
以上説明した本実施の形態1によれば、角速度検出エレメント401の共振周波数に同期する構成を有する角速度検出回路を有する慣性センサにおいて、角度検知のための積分回路における積分誤差の少ない高精度な角度出力を実現することができる。すなわち、角度検知のための積分回路に正確な積分時間を与え、積分誤差の少ない高精度な角度出力の実現が可能となる。言い換えれば、慣性センサ組上げ後の調整を行うことなく、精度の高い角度検知を行うことができる。より詳細には、以下の通りである。
【0072】
(1)慣性センサは、角速度検出のための機械構造を有する角速度検出エレメントチップC1と、この角速度検出エレメントチップC1から角速度を検出するための角速度検出回路である信号処理LSIチップC2と、を有する。これにより、信号処理LSIチップC2は、角速度検出エレメントチップC1から得られる信号を、この角速度検出エレメントチップC1の駆動周波数に同期した離散時間でサンプリングすることで傾斜角を計算することができる。
【0073】
(2)信号処理LSIチップC2が角速度検出エレメントチップC1から得る信号は、角速度とすることができる。
【0074】
(3)信号処理LSIチップC2の動作クロックは、角速度検出エレメントチップC1の駆動周波数に同期させることができる。
【0075】
(4)信号処理LSIチップC2が傾斜角を計算する信号処理は、時間積分とすることができる。
【0076】
(5)角速度検出エレメントチップC1の駆動周波数は、この角速度検出エレメントチップC1の共振周波数とすることができる。
【0077】
(6)角速度検出エレメントチップC1の駆動周波数は、この角速度検出エレメントチップC1の機械品質係数によるゲインを得られる周波数とすることができる。
【0078】
(7)角速度検出エレメントチップC1の駆動周波数ないしはその逓倍または分周から得られる値が、予め信号処理LSIチップC2内の記憶領域であるメモリ412に保存されており、信号処理LSIチップC2は、このメモリ412に保存されている値を利用して傾斜角を計算することができる。
【0079】
(8)信号処理LSIチップC2が積分計算に用いる角速度は、角速度として出力するLPF410を経る前の信号とすることができる。
【0080】
(9)信号処理LSIチップC2の積分計算は、温度センサ419によって補正を行うことができる。
【0081】
(10)信号処理LSIチップC2の積分計算は、外部からのリセット信号によって積分値をリセットすることができる。
【0082】
(11)信号処理LSIチップC2の積分計算は、外部からの、測定対象の運動状態を示す信号から、この測定対象の移動が発生していない、またはこの測定対象に重力以外の加速度がかかっていないことを検知し、この検知のタイミングで積分値をリセットすることができる。
【0083】
(12)信号処理LSIチップC2は、メモリ412と、積分・角度計算回路411と、を有する。これにより、メモリ412は、角速度検出エレメントチップC1の駆動周波数ないしはその逓倍または分周から得られる値を予め保存することができる。そして、積分・角度計算回路411は、角速度検出エレメントチップC1から得られる信号を、この角速度検出エレメントチップC1の駆動周波数に同期した離散時間でサンプリングすることで傾斜角を計算し、この傾斜角の計算の際にメモリ412に保存されている値を利用して傾斜角を計算することができる。
【0084】
[実施の形態2]
本実施の形態2における慣性センサについて、
図8〜
図10を用いて説明する。以下の実施の形態2で、特に詳細が触れられていないものについては、前記実施の形態1と同様である。本実施の形態2では、前述の角速度、角度に加え、加速度を外部に出力する慣性センサの例について説明する。
【0085】
図8は、本実施の形態2における慣性センサの構造の一例を示す断面図である。本実施の形態2における慣性センサでは、角速度と加速度が検知できるように、角速度検出エレメントチップC1、加速度検出エレメントチップC3(以下、加速度検出エレメントとも記す)、および信号処理LSIチップC4を、センサ内に有している。角速度検出エレメントチップC1は、主面上にパッド307が設けられ、このパッド307を通じて接続される。加速度検出エレメントチップC3は、主面上にパッド308が設けられ、このパッド308を通じて接続される。信号処理LSIチップC4は、主面上にパッド304が設けられ、このパッド304を通じて接続される。
【0086】
本実施の形態2に示す慣性センサでは、センサパッケージ部302上に信号処理LSIチップC4が設置され、さらに、信号処理LSIチップC4上に角速度検出エレメントチップC1および加速度検出エレメントチップC3が搭載されている。信号処理LSIチップC4と、角速度検出エレメントチップC1および加速度検出エレメントチップC3とは、信号処理LSIチップC4のパッド304と、角速度検出エレメントチップC1のパッド307および加速度検出エレメントチップC3のパッド308との間にそれぞれ設けられたボンディングワイヤW1を通じて電気的に接続されている。また、信号処理LSIチップC4は、センサパッケージ部302に設けられた電極305へのボンディングワイヤW1の接続によって、外部電極303との電気的接続を行う。また、キャップ部301が、センサパッケージ部302のふたとなり、センサモジュールを構成している。
【0087】
図9は、慣性センサの構成の一例を示す構成図である。本実施の形態2における慣性センサは、角速度検出エレメントチップC1の部分の角速度検出エレメント401と、加速度検出エレメントチップC3の部分の加速度検出エレメント1001a、1001bと、信号処理LSIチップC4の部分の検出回路とを、有している。加速度検出エレメント1001a、1001bにおいて、1001aはY方向加速度検出エレメントであり、1001bはX方向加速度検出エレメントである。角速度検出エレメント401は、前記実施の形態1と同様である。加速度検出エレメント1001a、1001bは、電極1001c、1001dを有している。検出回路は、前記実施の形態1の構成に加えて、Y側CV変換部1002、Y側ADC部1003、Y側LPF1004、X側CV変換部1005、X側ADC部1006、およびX側LPF1007が追加され、また、積分・角度計算回路411が積分・角度計算・診断回路1000に置き換えられている。
【0088】
ここで、加速度検出エレメント1001aおよび1001bは、それぞれ静的な加速度を検出する静電容量型エレメントであり、予め定められた変位方向に加速度が印加されたとき、可動部が変位し、これによって電極1001c、1001dに生じる静電容量の変化を、CV変換部1002、1005でそれぞれ電流から電圧に変換し、ADC部1003、1006によってデジタル領域に変換し、LPF1004、1007で不要な帯域の成分を除去した後、デジタル通信回路413より上位システムへの加速度出力を行う。ここで、信号処理LSIチップC4が有する共通クロック源414から、分周器415、アンプ417を経て生成されたキャリア信号が加速度検出エレメント1001aおよび1001bにも印加される。すなわち、加速度の検出に用いるキャリア信号は、角速度検出のために用いられる共通クロック源414に同期している。このような構成とすることで、水晶振動子のような外付けクロック源の追加を行うことなく、低コストに角速度と加速度の両方の検出を1つの信号処理LSIチップC4で実現できる。
【0089】
次に、本実施の形態2において、傾きを検知する手順を述べる。
図10は、傾き、重力、遠心力の関係の一例を示す図である。
図10では、傾き(θ)がある中でのセンサ100、重力101、重力のCos成分102、重力のSin成分103、さらに遠心力104、力の総和105を示している。
図10において、(a)は遠心力がない状態での傾き検知を行うケースを示しており、重力101が1gである原則を使用して、式5にしたがって、傾きを求めることができる。
【0091】
式5において、θは傾き、xはx方向の加速度、yはy方向の加速度を示す。
【0092】
一方、
図10において、(b)では遠心力104が存在するため、センサ100にかかる加速度の総和が1gであるという原則がくずれ、式5による角度計算では誤差が生じる。そこで、本実施の形態2では、式5による加速度を用いた角度計算と、前記実施の形態1に示した角速度の積分による角度計算の両方を用いて、角度計算の信頼性を向上する検出回路構成とした。この回路構成が、
図9に示した構成である。
【0093】
図9に示すように当該実施の形態2では、積分・角度計算・診断回路1000に、角速度検出側同期検波部409の出力信号と、加速度検出のADC部1003、1006の出力信号が入力され、式5に基づく傾き検知と、角速度積分による傾き検知を比較し、比較結果が所定のしきい値以内であれば故障なし、しきい値以上であれば故障ありの判定を行う。また、このとき、メモリ412には角速度検出エレメント401の駆動側共振周波数や、共振周波数の逓倍・分周値や、それらの逆数など、角速度検出エレメント401の駆動側共振周波数に基づく値が保存されており、これに基づいた時間積分を行っている。
【0094】
さらに、温度センサ419によって、角速度積分の温度特性補正を行うことはもちろん、加速度から傾きを求める計算における温度特性補正(オフセット、感度ないしスケールファクター)を行う。
【0095】
また、前記実施の形態1に示したように、車速パルス、GPS測位情報、または上位システムからのリセット信号を与える通信装置のように測定対象が静止していることを認識するための手段を積分・角度計算・診断回路1000に入力しても良い。例えば、測定対象が静止しているときに角速度積分による積分値をリセットし、静止状態が継続しているにも関わらず、角速度積分による角度検知量と、加速度による角度検知量に矛盾が生じているようであれば故障を認識できる。
【0096】
ユーザーが角速度積分による角度と、加速度から得る角度のいずれの値を得るかを選択できるようにセンサが構成されていても良い(図示なし)。例えば、走行中は遠心力が入る可能性があるので角速度積分による角度を、静止中は坂道検知のために絶対的な角度がわかる加速度からの角度を用いる場合に、このようなアプローチは有益である。
【0097】
以上説明した本実施の形態2によれば、前記実施の形態1と同様の効果に加えて、以下の異なる効果を得ることができる。例えば、慣性センサは、加速度検出のための機械構造を有する加速度検出エレメントチップC3と、この加速度検出エレメントチップC3から加速度を検出するための加速度検出回路を含む信号処理LSIチップC4と、をさらに有する。これにより、信号処理LSIチップC4は、加速度の逆三角関数から得る傾斜角の結果と、角速度の時間積分から得る傾斜角の結果との差が、一定値を越えた場合に何れかのセンサが故障していると判断することができる。
【0098】
[実施の形態3]
本実施の形態3における慣性センサについて、
図11〜
図15を用いて説明する。以下の実施の形態3で、特に詳細が触れられていないものについては、前記実施の形態1と同様である。本実施の形態3では、前述の1軸の角速度に加え、もう1軸の角速度を外部に出力する慣性センサの例について説明する。特に、ここでは、ロールとピッチの角速度を検出するものとする。なお、角速度を検出するための機械構造は、3軸以上でも良い。
【0099】
図11は、本実施の形態3における慣性センサの構造の一例を示す断面図である。本実施の形態3における慣性センサでは、2軸の角速度が検知できるように、角速度検出エレメントチップC5とC6、および信号処理LSIチップC7を、センサ内に有している。角速度検出エレメントチップC5、C6は、主面上にパッド307が設けられ、このパッド307を通じて接続される。信号処理LSIチップC7は、主面上にパッド304が設けられ、このパッド304を通じて接続される。
【0100】
本実施の形態3に示す慣性センサでは、センサパッケージ部302上に信号処理LSIチップC7が設置され、さらに、信号処理LSIチップC7上に角速度検出エレメントチップC5、C6が搭載されている。信号処理LSIチップC7と、角速度検出エレメントチップC5、C6とは、信号処理LSIチップC7のパッド304と、角速度検出エレメントチップC5、C6のパッド307との間にそれぞれ設けられたボンディングワイヤW1を通じて電気的に接続されている。また、信号処理LSIチップC7は、センサパッケージ部302に設けられた電極305へのボンディングワイヤW1の接続によって、外部電極303との電気的接続を行う。また、キャップ部301が、センサパッケージ部302のふたとなり、センサモジュールを構成している。
【0101】
図12は、慣性センサの構成の一例を示す構成図である。本実施の形態3における慣性センサは、角速度検出エレメントチップC5、C6の部分の角速度検出エレメント1200、1201と、信号処理LSIチップC7の部分の検出回路とを、有している。角速度検出エレメント1200、1201において、1200はロール角速度検出エレメントであり、1201はピッチ角速度検出エレメントである。角速度検出エレメント1200、1201は、駆動電極1200a、1201a、モニタ電極1200b、1201b、および検出電極1200c、1201cを有している。検出回路は、CV変換部1202、1207、ADC部1203、1208、同期検波部1204、1209、周波数制御部1205、振幅制御部1206、およびLPF1210を有している。また、検出回路は、CV変換部1219、1223、ADC部1220、1224、同期検波部1221、1225、振幅制御部1222、およびLPF1226を有している。さらに、検出回路は、積分・角度計算回路1211、メモリ1212、デジタル通信回路1213、共通クロック源1214、分周器1215、1227、可変アンプ1216、1229、アンプ1217、1230、位相反転器1218、1231、および温度センサ1228を有している。
【0102】
ここで、ロール角速度検出エレメント1200には、駆動方向に振動を生じさせる駆動力を、静電力によってもらすための駆動電極1200a、駆動方向の振動変位を静電容量の変化として読み出すモニタ電極1200bを有している。一方で、ピッチ角速度検出エレメント1201には、駆動方向に振動を生じさせる駆動力を、静電力によってもらすための駆動電極1201a、駆動方向の振動変位を静電容量の変化として読み出すモニタ電極1201bを有している。
【0103】
これら2つの角速度検出エレメント1200、1201の周波数応答を、
図13を用いて説明する。
図13は、2つの角速度検出エレメントの、駆動側周波数応答と検出側周波数応答の一例を示す図である。ここで、f1はロール角速度検出エレメント1200の駆動方向の共振周波数、Q1は同共振周波数におけるゲイン、f2はピッチ角速度検出エレメント1201の駆動方向の共振周波数、Q2は同共振周波数におけるゲイン、f3はロールおよびピッチ角速度検出エレメント1200、1201の検出方向の共振周波数、Q3は同共振周波数におけるゲインである。なおここで、この
図13では、ロール角速度検出エレメント1200とピッチ角速度検出エレメント1201の検出側周波数応答が同一となるように構成しているが、必ずしも一致させる必要はない。
【0104】
今、f1とf2が離れているので、ロール角速度検出エレメント1200の駆動方向の共振周波数に、検出回路の共通クロック源1214を同期させた場合、ロール角速度検出エレメント1200の駆動方向は
図13のG1=Q1であるのに対し、ピッチ角速度検出エレメント1201の駆動方向ゲインは
図13のG2<Q2となるため、本来の共振による機械品質係数で表されるゲインを生かしきることはできない。しかしながら、かかる構成によって、1つの共通クロック源1214が信号処理LSIチップC7のすべてのクロックを司るので、回路構成の単純化に貢献できる。例えば、レンジの狭い(スケールファクターの大きい)検出軸に共通クロック源1214が同期するように構成すれば、電圧信号移行のレンジ差が縮小し、より回路の設計上の制約を削減できる。
【0105】
この前提を用いて、当該回路の構成を
図12で説明する。ロール角速度検出エレメント1200は、駆動方向に振動を生じさせる駆動力を、静電力によってもらすための駆動電極1200a、駆動方向の振動変位を静電容量の変化として読み出すモニタ電極1200bを有している。共通クロック源1214が生成したクロックを分周器1215で適切な周波数に分周し、アンプ1217を通じて適切な電圧レベルに変換したキャリア信号をロール角速度検出エレメント1200の可動部に与える。モニタ電極1200bが構成する静電容量は、ロール角速度検出エレメント1200の可動部の変位によって変化が発生するので、キャリア信号が印加されたモニタ電極1200bが構成する静電容量に準じた交流電流が発生することになる。
【0106】
ピッチ角速度検出エレメント1201は、駆動方向に振動を生じさせる駆動力を、静電力によってもらすための駆動電極1201a、駆動方向の振動変位を静電容量の変化として読み出すモニタ電極1201bを有している。共通クロック源1214が生成したクロックを分周器1227で適切な周波数に分周し、アンプ1230を通じて適切な電圧レベルに変換したキャリア信号をピッチ角速度検出エレメント1201の可動部に与える。モニタ電極1201bが構成する静電容量は、ピッチ角速度検出エレメント1201の可動部の変位によって変化が発生するので、キャリア信号が印加されたモニタ電極1201bが構成する静電容量の変化、すなわち可動部の変位に準じた交流電流が発生する。
【0107】
次に、この電流によって表されるロール角速度検出エレメント1200の変位情報を、信号処理LSIチップC7内のロール駆動側CV変換部1202を通じて容量成分を電圧に変換し、さらにロール駆動側ADC部1203を経てデジタル値を得る。デジタル領域に変換された信号は、デジタル信号領域のロール駆動側同期検波部1204において、駆動信号と同じ周波数かつ、変位信号とマッチした位相をもつ基準信号を用いて同期検波を行い、変位振動振幅成分を取り出す同期検波処理と、駆動信号と同じ周波数かつ、変位信号より90度進んだ位相をもつ基準信号を用いて同期検波を行い、ロール角速度検出エレメント1200の駆動方向の共振周波数と駆動周波数の差を取り出す同期検波処理の2つを行う。
【0108】
同様に、電流によって表されるピッチ角速度検出エレメント1201の変位情報を、信号処理LSIチップC7内のピッチ駆動側CV変換部1219を通じて容量成分を電圧に変換し、さらにピッチ駆動側ADC部1220を経てデジタル値を得る。デジタル領域に変換された信号は、デジタル信号領域のピッチ駆動側同期検波部1221において、駆動信号と同じ周波数かつ、変位信号とマッチした位相をもつ基準信号を用いて同期検波を行い、変位振動振幅成分を取り出す同期検波処理を行う。一方、ピッチ角速度検出エレメント1201側では、駆動信号と同じ周波数かつ、変位信号より90度進んだ位相をもつ基準信号を用いる同期検波は実施しない。
【0109】
同期検波処理によって得られた振幅情報は、ロール・ピッチ角速度検出エレメント1200、1201の駆動方向の振動が予め定められた所望の振幅に達するように制御がなされ、その制御出力は可変アンプ1216、1229のゲイン調整に用いられる。ゲイン調整を経た駆動信号は、ロール・ピッチ角速度検出エレメント1200、1201のそれぞれに、向かい合う電極同士で逆位相になるように、一方の電極は直接、もう一方の電極は位相反転器1218、1231を経て、それぞれ駆動信号が印加される。この一定振幅を維持する制御のループによって、ロール・ピッチ角速度検出エレメント1200、1201は、予め定められた所定の振幅での振動が維持される。一方、ロール側同期検波処理によって得られた、ロール角速度検出エレメント1200の駆動方向の共振周波数と駆動周波数の差は、ロール周波数制御部1205に与えられ、制御出力は共通クロック源1214へと与えられ、ロール角速度検出エレメント1200の駆動方向の共振周波数と駆動周波数の差が縮まる方向に向かうように周波数制御ループが構成される。
【0110】
以上に示した構成によって、ロール角速度検出エレメント1200の駆動方向の共振周波数と駆動周波数が一致する。また、回路のデジタル部D1のクロックはすべて共通クロック源1214を基にしている。かかる構成とすることによって、デジタル部D1の基準クロックを別途準備する必要がなく、また、ロール角速度検出エレメント1200の高い機械品質係数を用いた周波数安定性が得られるため、デジタル部D1のクロックをロール角速度検出エレメント1200の駆動方向の共振周波数に同期させることにはシステム構成の簡易化の観点で利点がある。
【0111】
次に、角速度を検出する手順については、前記実施の形態1と同様である。ロール・ピッチ角速度検出エレメント1200、1201は、検出方向への振動変位を静電容量の変化として読み出す検出電極1200c、1201cをそれぞれ有する。ロール・ピッチ角速度検出エレメント1200、1201が予め定められた駆動方向に振動していると、角速度が印加されたとき、駆動振動方向と直交する検出方向にコリオリ力が生じる。このコリオリ力による変位によって検出電極1200c、1201cの容量が変化する。この容量変化を、アンプ1217、1230を通じて適切な電圧レベルに変換したキャリア信号によって電流化し、これを検出側CV変換部1207、1223で電圧に変換し、さらに検出側ADC部1208、1224でデジタル値に変換し、検出方向の振動とマッチした位相での同期検波を行う検出側同期検波部1209、1225によって、検出方向振動の振幅、すなわち角速度が得られる。ここで得た角速度成分は、LPF1210、1226を経て不要な高周波成分を落とし、デジタル通信回路1213より信号S1として、それぞれ上位のシステムに出力される。
【0112】
次に、本実施の形態3における角速度出力の積分に関する回路構成についての説明を行う。積分・角度計算回路1211には、ロール角速度検出エレメント1200から得た角速度と、ピッチ角速度検出エレメント1201から得た角速度の両方が入力されている。ここで、積分・角度計算回路1211では、メモリ1212を設け、予めプローバ検査等のウエハレベルで計測したロール角速度検出エレメント1200、すなわち共通クロック源1214に同期している方の角速度検出エレメントの駆動側共振周波数ないしはそれに準じた値(前記実施の形態1で定義した通り)を保存する。
【0113】
このような構成を採ることによって、ロール角速度検出エレメント1200の駆動方向の共振周波数のばらつきによって積分の誤差が生じる問題は解決され、ロール角度が精度よく計算できる他、ピッチ方向に関しても、ピッチ角速度検出エレメント1201の駆動側共振周波数ばらつきによらず、また、メモリ1212にピッチ角速度検出エレメント1201の駆動側共振周波数を保存することなく、精度良くピッチ角度が計算できる。これは、ピッチ角度計算においても、ロール角速度検出エレメント1200の駆動方向の共振周波数に応じたサンプリングが用いられ、デジタル部D1のクロックが共通であるため、前記実施の形態1に比較して検出軸を1つ増やしても、共通クロック源1214、メモリ1212、積分・角度計算回路1211は共通化できる。また、これはさらに検出軸を増やしても同様である。
【0114】
温度センサ1228の活用による補正については、前記実施の形態1と同様であるので説明を省略する。
【0115】
なお、本実施の形態3においては、
図14、
図15に示すような変形も可能である。
図14は、別の慣性センサの構成の一例を示す構成図である。
図15は、2つの角速度検出エレメントの、別の駆動側周波数応答と検出側周波数応答の一例を示す図である。
図14に示すように、本実施の形態3において、共通クロック源1214に同期していない方の角速度検出エレメント、すなわちピッチ角速度検出エレメント1201で、駆動信号と同じ周波数かつ、変位信号より90度進んだ位相をもつ基準信号を用いる同期検波を、同期検波部1403で実施する。さらに、ピッチ周波数制御部1401と、可変DC電圧生成回路1402を通じて、ピッチ角速度検出エレメント1201の、駆動方向の共振周波数f2を静電ばね効果によって下げ、ロール角速度検出エレメント1200の、駆動方向の共振周波数f1に一致させる制御を行う場合、
図15に示すようにピッチ角速度検出エレメント1201の、機械品質係数を活かしきることができるので、駆動電圧対感度の効率が最良となる(G1=Q1=G2=Q2)。この他、ダイナミックレンジが同等になるため、積分・角度計算回路1211によって計算される角度計算のダイナミックレンジも複数の軸で同等となる。
【0116】
以上、
図14に示すような構成とすることで、複数の軸が同様のダイナミックレンジを要求する場合や、同一のエレメントを90度傾けて多軸検出に利用する場合にも、共通クロック源1214、メモリ1212、積分・角度計算回路1211を共通化し、回路構成を単純化できる。
【0117】
以上説明した本実施の形態3によれば、前記実施の形態1と同様の効果に加えて、以下の異なる効果を得ることができる。例えば、慣性センサは、2軸の角速度検出のための機械構造を有する角速度検出エレメントチップC5、C6と、これらの角速度検出エレメントチップC5、C6から角度を検出するための角速度検出回路を含む信号処理LSIチップC7と、を有する。これにより、信号処理LSIチップC7は、角速度検出エレメントチップC5、C6のうちの、1つの駆動周波数に同期し、この駆動周波数に同期している角速度検出エレメントチップC5の駆動周波数ないしはその逓倍または分周から得られる値が、予め記憶領域であるメモリ1212に保存されており、このメモリ1212に保存されている値を利用してすべての軸の傾斜角を計算することができる。
【0118】
[実施の形態4]
本実施の形態4における慣性センサについて、
図16〜
図18を用いて説明する。以下の実施の形態4で、特に詳細が触れられていないものについては、前記実施の形態1と同様である。本実施の形態4では、前述の1軸の角速度に加え、もう1軸の角速度を外部に出力する慣性センサの例について説明する。特に、ここでは、ロールとピッチの角速度を検出するものとする。なお、角速度を検出するための機械構造は、3軸以上でも良い。
【0119】
図16は、本実施の形態4における慣性センサの構造の一例を示す断面図である。本実施の形態4における慣性センサでは、2軸の角速度が検知できるように、角速度検出エレメントチップC5とC6、および2つの信号処理LSIチップC8とC9を、センサ内に有している。角速度検出エレメントチップC5、C6は、主面上にパッド307が設けられ、このパッド307を通じて接続される。信号処理LSIチップC8、C9は、主面上にパッド304が設けられ、このパッド304を通じて接続される。
【0120】
本実施の形態4に示す慣性センサでは、センサパッケージ部302上に2つの信号処理LSIチップC8、C9が設置され、さらに、信号処理LSIチップC8、C9上に角速度検出エレメントチップC5、C6が搭載されている。信号処理LSIチップC8、C9と、角速度検出エレメントチップC5、C6とは、信号処理LSIチップC8、C9のパッド304と、角速度検出エレメントチップC5、C6のパッド307との間にそれぞれ設けられたボンディングワイヤW1を通じて電気的に接続されている。また、信号処理LSIチップC8、C9は、センサパッケージ部302に設けられた電極305へのボンディングワイヤW1の接続によって、外部電極303との電気的接続を行う。また、キャップ部301が、センサパッケージ部302のふたとなり、センサモジュールを構成している。また、センサパッケージ部302内の配線1602によって、2つの信号処理LSIチップC8、C9は電気的に接続されており、相互通信を行う。ただし、電気的接続方法によらず、本実施の形態によるメリットは享受可能である。
【0121】
図17は、慣性センサの構成の一例を示す構成図である。本実施の形態4における慣性センサは、角速度検出エレメントチップC5、C6の部分の角速度検出エレメント401と、信号処理LSIチップC8、C9の部分の検出回路とを、有している。2つの角速度検出エレメントチップC5、C6は、同一のものであるので、角速度検出エレメントおよび各電極には同一の符号を付している。また、2つの信号処理LSIチップC8、C9も、同一のものであるので、各部には同一の符号を付している。2つの信号処理LSIチップC8、C9は、基本的に同一のものであるが、本実施の形態4は、片方の信号処理LSIチップC8のデジタル通信回路1713に、通信のための配線1602を経由して接続されている。また、2つの信号処理LSIチップC8、C9内のメモリ412には、それぞれの角速度検出エレメント401の駆動側共振周波数や、それに準じる値が記録されており、積分計算を高精度に実施可能となっている。
【0122】
本実施の形態4のように、片方の信号処理LSIチップC8のデジタル通信回路1713に上位システムへの通信経路をまとめることによって、複数軸角度の積分計算を高精度に実施した結果を、より少ない通信線の数で上位システムに通知することができる。また、複数軸の角度を出力する場合は、最終的な測定対象物の姿勢を「ZXYのオイラー角」や「回転行列」など、予め決められた手順で得られる結果に変換して出力する場合がある。このような出力を行う場合も、片方の信号処理LSIチップC8のデジタル通信回路1713に出力演算装置を備えることで、本実施の形態4での対応が可能である。
【0123】
また、この構成は、
図18に示すようなセンサモジュールとしてまとめることができる。
図18は、センサモジュールの構成の一例を示す構成図である。
図18に示すように、前記実施の形態1の角速度を検知して角度を出力する慣性センサ1801、1802を、マイコン1803でまとめ、そして、トランシーバIC1804を含むセンサモジュール1806としてまとめて、CANバス1805等の通信方式を経て上位システムに通知する形としても良い。
【0124】
なお、一般に、トレーラー(牽引自動車)のように、運転席と荷台が分離可能な車両においては、運転席と荷台の運動エネルギー伝達において遅延や遊びがあるため、センサモジュールの取り付け位置によって、検出される角速度・加速度が異なる。このような場合は、センサの取り付け位置を荷台の後端に取り付けるなど、最も傾きに対して敏感な箇所に取り付けることが望ましい。前記のように多軸の角度計算結果をまとめて出力できる構成であれば、制御ユニットから離れた位置にセンサを取り付けても、通信線の数や通信量の削減、およびビットエラーに対する耐性が得られる。
【0125】
以上説明した本実施の形態4によれば、前記実施の形態1と同様の効果に加えて、以下の異なる効果を得ることができる。例えば、慣性センサは、2軸の角速度検出のための機械構造を有する角速度検出エレメントチップC5、C6と、これらの角速度検出エレメントチップC5、C6から角度を検出するための角速度検出回路を含む信号処理LSIチップC8、C9と、を有する。これにより、信号処理LSIチップC8、C9は、複数の角度の計算結果から得られる、一意に測定対象の姿勢が得られる値を計算し、この計算した値を出力することができる。
【0126】
以上、本発明者によってなされた発明を実施の形態に基づき具体的に説明したが、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもない。
【0127】
例えば、本発明は、遠心力のような慣性力の存在する環境において、測定対象の角度や姿勢を安価かつ高精度に実現する上で有益である。また、故障診断において、故障の検出可能性が高いため、車載応用など、信頼性が求められるアプリケーションへの適用も好適である。
【0128】
また、上記した実施の形態は、本発明を分かり易く説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施の形態の構成の一部を他の実施の形態の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施の形態の構成に他の実施の形態の構成を加えることも可能である。また、各実施の形態の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。