特許第6429218号(P6429218)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6429218テンプレートを用いて歯科用補綴物を作製する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6429218
(24)【登録日】2018年11月9日
(45)【発行日】2018年11月28日
(54)【発明の名称】テンプレートを用いて歯科用補綴物を作製する方法
(51)【国際特許分類】
   A61C 13/007 20060101AFI20181119BHJP
   A61C 13/01 20060101ALI20181119BHJP
【FI】
   A61C13/007
   A61C13/01
【請求項の数】14
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2017-531386(P2017-531386)
(86)(22)【出願日】2015年12月4日
(65)【公表番号】特表2018-502624(P2018-502624A)
(43)【公表日】2018年2月1日
(86)【国際出願番号】EP2015078718
(87)【国際公開番号】WO2016091762
(87)【国際公開日】20160616
【審査請求日】2017年8月9日
(31)【優先権主張番号】102014118231.6
(32)【優先日】2014年12月9日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】399011900
【氏名又は名称】クルツァー ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】Kulzer GmbH
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】マティアス フンク
(72)【発明者】
【氏名】ヨヘン サゴラ
(72)【発明者】
【氏名】ヘルムート レーデマン
【審査官】 家辺 信太郎
(56)【参考文献】
【文献】 欧州特許出願公開第2742906(EP,A1)
【文献】 特表2013−540513(JP,A)
【文献】 米国特許第4906186(US,A)
【文献】 特開2004−237104(JP,A)
【文献】 特表2013−512695(JP,A)
【文献】 特開2014−155878(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61C 13/007
A61C 13/01
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
義歯床(3)と複数の人工歯(2)とを有する歯科用補綴物を作製する方法であって、
当該方法は、前記人工歯(2)の仮想モデル前記義歯床(3)の仮想モデルとを有する、形成すべき歯科用補綴物の仮想三次元歯科用補綴物モデルを用いて実施され、
A)前記仮想三次元歯科用補綴物モデルにおける前記人工歯(2)の仮想モデルの前庭表面および/または咬合表面の外形から、および前記仮想三次元歯科用補綴物モデルにおける前記義歯床(3)の仮想モデルの前庭表面の外形から、テンプレート(1)の仮想モデルを計算して、前記テンプレート(1)の仮想モデルの仮想表面の領域を、前記人工歯(2)の仮想モデルの前庭表面および/または咬合表面および前記義歯床(3)の仮想モデルのネガ型により形成し、前記人工歯(2)の仮想モデル相互間の相対的な、および前記義歯床(3)の仮想モデルに対し相対的な、前記人工歯(2)の仮想モデルの位置および配向を、前記ネガ型に保持するステップと、
B)前記テンプレート(1)の仮想モデルのデータに基づき、CAMプロセスによってテンプレート(1)を作製するステップと、
C)前記テンプレート(1)に人工歯(2)を配置および固定するステップであって、該人工歯(2)の前庭表面(9)および/または咬合表面(8)を、該前庭表面(9)および/または咬合表面(8)に適合する前記ネガ型により成形された前記テンプレート(1)の表面に配置するステップと、
D)前記人工歯(2)を前記義歯床(3)に固定するステップであって、該義歯床(3)を、前記人工歯(2)が装着された前記テンプレート(1)に挿入して、該義歯床(3)の前庭表面(10)を、前記ネガ型により成形された前記テンプレート(1)の適合する表面に配置するステップと、
の時系列のステップを含むことを特徴とする、
歯科用補綴物を作製する方法。
【請求項2】
前記仮想三次元歯科用補綴物モデルをファイル分割によって計算上、前記人工歯(2)の仮想モデルと、前記義歯床(3)の仮想モデルとに分割する、
請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記テンプレート(1)の仮想モデルを、患者の口腔状態モデル(11)の前庭表面(16)の外形から付加的に計算して、前記テンプレート(1)の仮想モデルの仮想表面の領域を、前記口腔状態モデル(11)の前庭表面(16)の少なくとも1つの領域のネガ型によって形成し、
前記口腔状態モデル(11)上に前記義歯床(3)の仮想モデルが配置されているときの、前記口腔状態モデル(11)に対し相対的な前記人工歯(2)の仮想モデルおよび前記義歯床(3)の仮想モデルの位置および配向を、前記ネガ型において保持する、
請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
前記ステップD)において、前記人工歯(2)を前記義歯床(3)に以下のようにして固定する、すなわち、
前記義歯床(3)および前記口腔状態モデル(11)を、前記人工歯(2)が装着された前記テンプレート(1)に挿入して、前記義歯床(3)の前庭表面(10)と前記口腔状態モデル(11)の前庭表面(16)とを、前記ネガ型により成形された前記テンプレート(1)の表面に配置する、
請求項3記載の方法。
【請求項5】
前記口腔状態モデル(11)の前庭表面(16)の前記ネガ型に加えて、少なくとも1つのインデックス(15)を、計算によって前記テンプレート(1)の仮想モデルに追加し、
前記口腔状態モデル(11)の前庭表面(16)において、前記少なくとも1つのインデックス(15)の表面の適合するネガ型(14)を、計算によって前記口腔状態モデル(11)に追加する、
請求項3または4記載の方法。
【請求項6】
記義歯床(3)の仮想モデルの前庭表面のネガ型において、少なくとも1つのインデックス(5)を、計算によって前記テンプレート(1)の仮想モデルに追加し、
記義歯床(3)の仮想モデルの前庭表面において、前記少なくとも1つのインデックス(5)の表面の、前記前庭表面に適合するネガ型(4)を、計算によって追加する、
請求項1から5までのいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
前記ステップD)の後、前記テンプレート(1)を、前記義歯床(3)に固定された人工歯(2)により構成された完成した歯科用補綴物から取り外す、
請求項1から6までのいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
前記仮想三次元歯科用補綴物モデルを、前記義歯床(3)の仮想モデルの形状設定のための口腔内スキャンに基づき、前記義歯床(3)の仮想モデルに既製の人工歯(2)の仮想モデルを仮想排列することにより生成し、
記人工歯(2)の形状、位置および/または配向を、患者口腔内の前記歯科用補綴物の位置のシミュレーションによって選定し、かつ/または、前記人工歯(2)相互間の位置および配向および/または前記義歯床(3)に対する位置および配向のシミュレーションによって選定し、
合平面および/または口腔の咀嚼運動をシミュレートする、
請求項1から7までのいずれか1項記載の方法。
【請求項9】
記義歯床(3)および前記テンプレート(1)を、前記仮想モデルに基づきCAMプロセスによって作製する、
請求項1から8までのいずれか1項記載の方法。
【請求項10】
前記テンプレート(1)に挿入された前記人工歯(2)を基底側で処理してから、該人工歯(2)を前記義歯床(3)に固定し、
入された既製の人工歯(2)を、該人工歯(2)の仮想モデルに基づきCAMプロセスによって基底側で切削してから、該既製の人工歯(2)を前記義歯床(3)に固定する、
請求項1から9までのいずれか1項記載の方法。
【請求項11】
前記人工歯(2)を、該人工歯(2)の仮想モデルに基づきCAMプロセスによって基底側で切削し、前記人工歯(2)が挿入された前記義歯床(3)の外形が、歯科用補綴物の前記仮想モデルの外形と一致するように、前記人工歯(2)の基底側の形状を、前記義歯床(3)における前記人工歯(2)のための歯槽に適合させる、
請求項10記載の方法。
【請求項12】
前記人工歯(2)をCAMプロセスによって作製する、
請求項1から11までのいずれか1項記載の方法。
【請求項13】
歯科用補綴物の前記仮想モデルを計算するために、既知の既製の人工歯(2)の外形に関する既存のデータを使用する、
請求項1から12までのいずれか1項記載の方法。
【請求項14】
CAM装置と、仮想モデルの計算および前記CAM装置の制御のためのコンピュータとを含む、請求項1から13までのいずれか1項記載の方法を実施するための装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、義歯床と複数の人工歯とを有する歯科用補綴物を作製する方法に関する。この方法は、仮想人工歯と仮想義歯床とを有する、形成すべき物理的歯科用補綴物の仮想三次元歯科用補綴物モデルを用いて実施される。
【0002】
本発明は、かかる方法により作製された歯科用補綴物、かかる方法を実施するための装置または装置の組み合わせ、ならびにかかる方法を実現するためにCAD/CAMプロセスにより作製されたテンプレートにも関する。
【0003】
慣用の手法は、歯科用補綴物のアナログによる製作である。義歯床を作製するために、今日では主としてアナログ手法が用いられ、これによれば最初に患者の無歯顎の印象が採得される。この印象から、患者の状態の石膏模型が形成される。次に、ワックスから成る補綴物の機能模型が石膏模型の上に造形されて、人工歯が装着される。その後、これら両方の部材から中空型または鋳型が造形され、その中にはすでに人工歯が組み込まれている。したがって人工歯は、すでに中空型に入れられた状態にある。この型に、歯肉色のプラスチックが注がれ、注型プロセスの間に人工歯が義歯床と結合される。プラスチックの硬化後、望ましい形状が得られるようプラスチックが後処理される。この技術の場合、人工歯の固定および位置決めのために、シリコーンまたは石膏から成る予備壁または予備注型が用いられる。
【0004】
歯科用補綴物を作製するために、無歯顎の石膏模型上のワックス床に人工歯が手作業で別々に排列される。次のステップにおいて、このワックス補綴物が(あとで行われる処理技術に応じて)フラスコ内で石膏、シリコーンまたはゲルによって埋没させられ、これによってその後、埋没材料が硬化してから、ワックス床が型から取り外されて、補綴物プラスチックのための空洞が形成される。その際、人工歯は埋没材料中に残されたままである。相応のプラスチックが空洞内に注入され、または注ぎ込まれ、このようにしてプラスチックの硬化後、歯科用補綴物が得られる。既製の歯を排列する際に、歯科技工士および場合によっては歯科医師によっても、それらの歯が患者の個々の口腔状態に適合調整されグラインディングされる。
【0005】
歯科分野では手作業による技術のほか、ディジタルによる製造方式もますます重要性を増してきている。たとえばクラウンやブリッジのような義歯は、ここ数年来、CAD/CAM技術によってミリングプロセスで減算的に作製されるようになってきている(CAM - Computer-Aided Manufacturing, CAD - Computer-Aided Design)。
【0006】
歯科用補綴物を作製するためのCAD/CAM方法は、国際公開第91/07141号から公知であり、この方法によれば、プラスチックブロックから成る印象をベースに義歯床がミリング加工される。
【0007】
これに加え、クラウン、ブリッジおよび模型を作製するために、SLM(Selective Laser Melting選択的レーザ溶解)などのような生成的CAM方法が、ますます重要性を増してきており、さらにはたとえば仮処置部材、補綴物、歯科矯正用および顎部整形外科用装置(orthodontic and gnatho-orthopaedic apparatus)、咬合床副子、ドリルテンプレート、または歯科用模型など、ポリマーベースの歯科用製品のために、ステレオリソグラフィおよびDLP(Digital light processingデジタルライトプロセッシング)が、ますます重要性を増してきている。とはいえ、RP(Rapid-Prototypingラピッドプロトタイピング)プロセスによるアクリラートベースの義歯作製は、今日でもなお依然として厳しい制約を受けている。高価で審美的な義歯を作製するための、(たとえばエナメル質用および象牙質用の)多色の義歯または種々のポリマー材料から成る義歯は今もって、複数の材料チャンバを備えた高価なRP機器を用いることによってのみ、または接着および接合技術を用いることによってのみ、作製することができる。
【0008】
同様に、RPプロセスを用いた材料の組み合わせ(たとえばCoCrとポリマー)による作製も、今のところ非常に煩雑であり、大量生産では実現されていない。部分義歯または総義歯のための審美的に要求の高い既製歯の生成的作製は、現時点では不可能である。それというのも、ステレオリソグラフィによっても、1つの材料もしくは1色しかプリントできないからである。多色の既製歯のプリントは、目下のところ不可能である。この理由から、義歯床がCAMプロセス(たとえばミリング加工またはプリント)によって作製され、事前に作製済みの人工歯すなわち既製の人工歯が義歯床と接着される。
【0009】
また、部分義歯もしくは総義歯をディジタルで生成し、CAD/CAMプロセスによって製造するいくつかの初期の方法がすでに存在しており、それらはたとえば独国特許出願公開第102009056752号明細書または国際公開第2013124452号から公知の方法である。欧州特許出願公開第2742906号明細書により開示されている方法によれば、歯列弓が造型コンパウンドと結合され、この造型コンパウンドは、個々の印象トレー内に収められており、患者の口腔状態の印象を含んでいる。歯列弓を含む型の表面がディジタル化され、次いで計算を行って、歯列弓の仮想モデルが、義歯床の仮想モデル内にできるかぎり適合するように位置決めされ配向される。最終的な製造において人工歯が、それらのために設けられた義歯床の歯槽に正しく適合するか、個々に手作業でチェックしなければならず、その後、それらの人工歯を接着することができる。その際にチェック器具として、トランスファーテンプレートを使用することができる。さらに独国特許第10304757号明細書から、義歯を作製する方法が公知であり、この方法によれば、仮想モデルへの歯の仮想排列が行われ、この仮想モデルに基づき義歯床の作製が実施される。
【0010】
ディジタルデータを用いCAD設計によって製造されてきた総義歯および部分義歯のような取り外し可能な義歯の作製に関して、義歯床のデータと歯のデータとを切り離す技術的な解決手法が存在する。この場合、義歯床を、加算的製造方法によって、または減算的製造方法によっても、作製することもできる。さらに人工歯として、既製のプラスチック歯を、または個別作製の人工歯も、考慮の対象とすることができ、あるいは義歯床と同じ製造方法による歯列弓を考慮の対象とすることができる。いずれのケースにおいても、これらの人工歯を収容するための歯槽が義歯床に設けられていなければならず、後続の手作業の製造ステップにおいて、それらの歯槽に人工歯または歯列弓がたとえば接着によって固定される。
【0011】
その際に難しい点は、ディジタル手法で生成された歯の構造および整列を、手作業のステップで義歯床にトランスファーすることである。義歯床の歯槽はたいていの場合、あまり深くは設置できないので、個々の人工歯各々について、また、人工歯相互間についても歯間スペースに関して、口部方向で、もしくは舌の方向で、回転運動が、さらには傾斜運動も可能となるようにするには、挿入された歯の十分なガイドが得られない。したがって、人工歯の手作業による任意の位置決めは、ディジタルデータセットでの上顎および下顎における人工歯の構造的な排列および適合調整とは、もはや無関係となる。
【0012】
かかる方法の欠点は、人工歯の咬合状態を処理しなければならないことであり、または人工歯を取り除かなければならないことであり、その後、それらの位置および場所を適合調整するために、義歯床がグラインディングされ、または人工歯が基底側でグラインディングされる。たいていのケースでは、歯科用補綴物の噛み合わせの高さ(咬合)を調整する目的で、最良の審美的結果をもたらす既製の人工歯を、接着前に基底側で短くカットする必要があり、その結果、このために合理的かつ低コストのプロセスを提供する、という必然性が生じることになる。
【0013】
欧州特許第2571451号明細書および欧州特許出願公開第2666438号明細書から、人工歯をホルダ内でワックスに埋没させ、次に人工歯を基底側でミリング除去する方法が公知である。ミリング除去された人工歯がワックスから取り出され、その後、義歯床に装填されて、そこに接着され、それによって歯科用補綴物が作製される。
【0014】
これらの方法の欠点は、人工歯を別々にまたはグループで処理し、義歯床に別々に装填して接着しなければならないことである。また、人工歯を義歯床に装填するための適正な場所を、試行錯誤しながら探さなければならない。人工歯の適合する基底側形状を、人工歯ごとに計算しなければならない。しかも、完全自動のコンピュータ制御型ミリングプロセスによって人工歯を基底側で切削できるように、ワックスブロックにおける個々の人工歯の位置および配向を求めなければならない。かかる方法においては、義歯床に人工歯が誤りを伴ってセットされてしまう可能性があるし、またはこのように誤りを伴うセットを付加的な措置によって回避しなければならない。
【0015】
したがって本発明の課題は、これらの従来技術の欠点を克服することにある。特に、簡単かつ迅速に実行されるべき歯科用補綴物の作製を実施可能な方法を提供することが望まれる。その際、最新のコンピュータ制御方法を適用できるようにし、かつ既存のデータおよび技術をできるかぎり引き続き利用できるようにしたい。しかも人工歯を、できるかぎり誤りを伴ってセットされることなく、事前に計算された配向および位置で義歯床に固定できるようにしたい。
【0016】
さらに、既製の人工歯を手作業で短くカットする際に生じる問題点は、形成すべき人工歯の基底側(歯頸部)はそれぞれ固有の幾何学的形状を有しており、義歯床をミリング加工またはプリントする前に、この幾何学的形状を相応にスキャンし、義歯床に適合する対向部材を構築しなければならない、ということである。このことによって手間が嵩んでしまう。
【0017】
本発明の課題は、義歯床と複数の人工歯とを有する歯科用補綴物を作製する方法によって解決される。本発明による方法は、仮想人工歯と仮想義歯床とを有する、形成すべき物理的歯科用補綴物の仮想三次元歯科用補綴物モデルを用いて実施され、以下の時系列のステップを含むことを特徴とする。すなわち、
A)仮想三次元歯科用補綴物モデルにおける仮想人工歯の前庭表面および/または咬合表面の外形から、および仮想三次元歯科用補綴物モデルにおける仮想義歯床の前庭表面の外形から、テンプレートの仮想モデルを計算して、仮想テンプレートの仮想表面の領域を、仮想人工歯の前庭表面および/または咬合表面および仮想義歯床のネガ型により形成し、仮想人工歯相互間の相対的な、および仮想義歯床に対し相対的な、仮想人工歯の位置および配向を、ネガ型に保持するステップ。
B)テンプレートの仮想モデルのデータに基づき、CAMプロセスによって物理的テンプレートを作製するステップ。
C)テンプレートに物理的人工歯を配置および固定するステップであって、人工歯の前庭表面および/または咬合表面を、この表面に適合するネガ型により成形されたテンプレートの表面に配置するステップ。
D)物理的人工歯を物理的義歯床に固定するステップであって、義歯床を、人工歯が装着されたテンプレートに挿入して、義歯床の前庭表面を、ネガ型により成形されたテンプレートの適合する表面に配置するステップ。
【0018】
「咬合」という呼称は、歯における位置と方向を指す呼称として、「咬合面もしくは咀嚼面において」および「咬合面に向かって」ということを意味する。「前庭」という呼称は、「口の前庭(唇または頬)に向かって」ということを意味する。これらの用語は、人工歯についても用いられる。
【0019】
本発明による方法によれば、仮想三次元歯科用補綴物モデルをファイル分割によって計算上、仮想人工歯の三次元モデルと、義歯床の仮想三次元モデルとに分割するように構成することができる。
【0020】
その際に好ましくは、以下のように構成することができる。すなわち、仮想歯科用補綴物モデルの分割にあたり、人工歯仮想モデルの基底側に適合する歯槽が、計算によって義歯床仮想モデルに組み入れられ、それによって義歯床仮想モデルの形状を人工歯仮想モデルの基底側の形状と、面同一で結合もしくは互いに当接させることができる。
【0021】
このような措置によって、以下のことが達成される。すなわち、仮想モデルを用いて形成される義歯床および人工歯の形状を、互いに正確に適合させることができ、適合性をもたせて面同一で、しかもこれにより互いに堅固に取り付けることができ、もしくは、人工歯仮想モデルに従って作製または加工処理された物理的人工歯を、物理的義歯床の歯槽と面同一で結合することができる。
【0022】
さらに以下のように構成することができる。すなわち、テンプレートの仮想モデルを、患者の口腔状態モデルの前庭表面の外形から付加的に計算して、仮想テンプレートの仮想表面の領域を、口腔状態モデルの前庭表面の少なくとも1つの領域のネガ型によって形成し、口腔状態モデル上に仮想義歯床が配置されているときの、口腔状態モデルに対し相対的な仮想人工歯および仮想義歯床の位置および配向を、ネガ型において保持する。
【0023】
口腔状態モデルを、口腔内スキャンによって生成されたものとすることができ、またはワックス印象またはシリコーン印象を用い、次にこれをスキャンすることによって、または口腔状態の石膏模型を用い、次にこれをスキャンすることによって、生成されたものとすることができる。したがって口腔状態モデルは、CAD/CAMにより作製される歯科用補綴物にとっては、患者の無歯顎または部分無歯顎の鞍型における義歯床の配置を求めるために、すでに必須となっている。次に、仮想口腔状態モデルから、CAMプロセスによって物理的口腔状態モデルが作製され、その上に義歯床を載置することができる。
【0024】
この場合、患者の口腔状態モデルは、患者の口腔状態には対応していない基部を有することができ、その基部の上に口腔状態の形状が構築されている。口腔状態モデルの基部を、歯列形状部とは反対側に位置する口腔状態の延長部として構築することができる。口腔状態の実際の対応関係とは一致していない、歯列弓のこのような延長部もしくは基部は、好ましくはテンプレートの適合のために設けられている。このことによって、口腔状態モデルからテンプレートまでの前庭結合面をいっそう広くすることができ、したがって義歯床への人工歯の位置決めを、いっそう簡単に実施可能であり、かついっそう正確なものとすることができる。
【0025】
本発明の1つの実施形態において提案されるのは、ステップD)において、物理的人工歯を物理的義歯床に以下のようにして固定することである。すなわち、義歯床および患者の口腔状態の物理的モデルを、人工歯が装着されたテンプレートに挿入し、それによって、義歯床の前庭表面と患者の口腔の物理的モデルの前庭表面とを、ネガ型により成形されたテンプレートの表面に配置する。
【0026】
好ましくは、患者の物理的口腔モデルは、少なくとも、義歯床に対する結合面とテンプレートに対する結合面とに関して、仮想口腔モデルと一致している。これによって、義歯床に人工歯を位置決めするために、物理的口腔状態モデルと義歯床と人工歯との間の広い結合面を用いることができる。本明細書では、口腔モデルに関して方向を表す記載「前庭」は、患者の口腔状態とは対応関係がない口腔モデルの基部についても適用され、この基部は、表面だけは患者の状態において実際の口腔状態と同じように整列されている。好ましくは、義歯床の結合面と人工歯との間には、テンプレートのために中間スペースが残されておらず、かつ/または義歯床と口腔状態モデルとの間には、テンプレートのために中間スペースが残されていない。このことは、義歯床と人工歯との境界線および/または義歯床と口腔状態モデルとの境界線が、テンプレート表面上にネガ型として保持される、ということによって達成可能である。
【0027】
本発明の1つの実施形態によれば、口腔状態モデルの前庭表面のネガ型に対し、少なくとも1つのインデックスを、好ましくは少なくとも3つのインデックスを、テンプレートの仮想モデルに計算によって追加し、口腔状態モデルの前庭表面において、少なくとも1つのインデックスの表面の適合するネガ型を、口腔状態モデルに計算によって追加し、好ましくは、少なくとも3つのインデックスの適合するネガ型を口腔状態モデルに追加する、ように構成することもできる。
【0028】
このようにすることで、テンプレートの誤った配向を、ひいては義歯床における人工歯の誤った配向を、回避することができる。別の選択肢として口腔状態モデルの形状を、局所的なインデックスを設けなくても、テンプレートを口腔状態モデルに一義的に位置決めできるように、全体的に成形しておいてもよい。
【0029】
本発明による方法の好ましい実施形態によれば、仮想義歯床の前庭表面のネガ型において、少なくとも1つのインデックスを、好ましくは少なくとも3つのインデックスを、テンプレートの仮想モデルに計算によって追加し、仮想義歯床の前庭表面において、少なくとも1つのインデックスの表面の、その前庭表面に適合するネガ型を、計算によって追加し、好ましくは、少なくとも3つのインデックスの適合するネガ型を追加する、ように構成することができる。
【0030】
インデックスとして、幾何学的物体である切欠きまたは隆起部を、義歯床および物理的口腔状態モデルの表面に、およびこれらに対するネガ型としてテンプレートに、設けておくことができ、もしくは形成することができる。これらのインデックスを用いることで、物理的義歯床および/または物理的口腔状態モデルに、テンプレートを一義的に位置決めすることができる。これらのインデックスに基づいて、物理的義歯床および/または物理的口腔状態モデルの係止部を予め設定することができ、それらはテンプレートの対向係止部(つまりネガ型のインデックス)のところに係合し、その結果、テンプレートの適正な位置決めを容易に実施できるようになる。別の選択肢として義歯床の形状を、局所的なインデックスを設けずに、テンプレートを義歯床に一義的に位置決めできるように、全体的に成形しておいてもよい。
【0031】
さらにステップD)の後、テンプレートを、義歯床に固定された人工歯により構成された完成した歯科用補綴物から取り外すように構成することができる。
【0032】
このようにして本発明による方法が完了し、その後、形成された歯科用補綴物が単独で得られるようになる。このステップによって明確にしたい点は、テンプレートは最終的には人工歯および義歯床とは結合されない、ということである。これに対し人工歯は、歯科用補綴物を形成するために、結局は最終的に義歯床と結合されることになり、もしくは結合された状態となる。これに加えて、もしくは別の選択肢として、歯科医が試して修正も可能であるようにしておく目的で、テンプレートを用いて義歯床に歯を一時的に排列し固定するように、構成することもできる。この場合には、これに続くステップにおいてはじめて、最終的な結合が実施される。
【0033】
さらに、以下のように構成することもできる。すなわち、仮想三次元歯科用補綴物モデルを、仮想義歯床の形状設定のための口腔内スキャンに基づき、仮想義歯床に既製の人工歯の仮想モデルを仮想排列することにより生成し、好ましくは、人工歯の形状、位置および/または配向を、患者口腔内の歯科用補綴物の位置のシミュレーションによって選定し、かつ/または人工歯相互間の位置および配向、および/または義歯床に対する位置および配向のシミュレーションによって選定し、特に好ましくは、咬合平面および/または口腔の咀嚼運動をシミュレートする。
【0034】
これによって、本発明による方法のさらなる自動化が達成される。テンプレートの仮想モデルのために、いずれにせよ仮想歯科用補綴物モデルは必要とされることから、仮想モデルのためにデータをこのように生成するのは特に有利である。ここで挙げた措置によって、本発明による方法の高度な可変性が提供され、これによって、形成された歯科用補綴物を特に個別に、つまりは非常にぴったりと適合させることができる。
【0035】
1つの実施形態によれば、物理的義歯床および物理的テンプレートを、仮想モデルに基づきCAMプロセスによって、特にラピッドプロトタイピングプロセスによって、作製かつ/または処理するように構成することができる。
【0036】
これによって、本発明による方法のために必要とされる仮想モデルを、義歯床の迅速かつ自動化された作製のためにも同時に用いることもできる。
【0037】
さらに以下のように構成することもできる。すなわち、テンプレートに挿入された物理的人工歯を基底側で処理してから、物理的人工歯を物理的義歯床に固定し、好ましくは、挿入された既製の人工歯を、この人工歯の仮想モデルに基づきCAMプロセスによって基底側で切削してから、特に好ましくは、コンピュータ制御型ミリングマシンにより基底側で切削してから、既製の人工歯を物理的義歯床に固定する。
【0038】
その際に特に好ましくは、コンピュータ制御型CAMミリングマシン、たとえば4軸または5軸のコンピュータ制御型ミリングマシンが用いられる。これによって、義歯床に合わせて人工歯を適合させることができ、その結果、作製された歯科用補綴物を特に堅固かつ可変に構築可能となる。
【0039】
かかる方法において、以下のように構成することもできる。すなわち、人工歯を、この人工歯の仮想モデルに基づきCAMプロセスによって基底側で切削し、特にミリング除去し、人工歯が挿入された義歯床の外形が、仮想歯科用補綴物モデルの外形と一致するように、人工歯の基底側の形状を、義歯床における人工歯のための歯槽に適合させる。
【0040】
好ましくは、人工歯は基底側の切削によって、義歯床における人工歯のための歯槽の形状に適合される。人工歯の基底側は、人工歯において歯冠側とは反対側にあり、人工歯の基底側の切削に基づき義歯床の歯槽の形状に適合されているが、その後、人工歯をこのような基底側からそれらの歯槽内へ、問題なく挿入することができ、もしくはそれらの歯槽に問題なく配置することができる。
【0041】
さらに、人工歯をCAMプロセスによって作製し、特にミリングまたはビルドアップCAMプロセスによって作製するように構成することができる。
【0042】
このようにすることで、本発明による方法のさらなる自動化を達成することができ、これによれば既存のデータができるかぎり広範囲にわたり有利に使われる。
【0043】
さらに、仮想歯科用補綴物モデルを計算するために、既知の既製の人工歯の外形に関する既存のデータを使用するように構成することができる。
【0044】
このような措置によって、使用される物理的人工歯を繰り返しスキャンもしくは寸法測定しなくてもよくなり、したがって本発明による方法のさらなる簡略化を達成することができる。
【0045】
本発明の課題は、かかる方法により作製された歯科用補綴物によっても解決される。
【0046】
さらに本発明が基礎とする課題は、CAM装置と、仮想モデルの計算およびCAM装置の制御のためのコンピュータとを含む、かかる方法を実施するための装置または装置の組み合わせによって解決される。
【0047】
さらに本発明の課題は、かかる方法を実現するCAD/CAMプロセスにより作製されたテンプレートによっても解決される。
【0048】
物理的人工歯、物理的テンプレート、場合によっては患者の物理的口腔状態モデル、および/または物理的義歯床は、好ましくはプラスチックから成り、特に好ましくはポリメチルメタクリレート(PMMA)から成り、もしくはそれらによってまたはそれらを用いて製造される。
【0049】
人工歯を、別々におよび/または複数のグループにまとめて、または完全な歯列としてまとめて、存在させることができる。まとめられた人工歯は、互いに固定的に結合されている。
【0050】
本明細書では本発明の枠組みの中で、作製方法に関して一般的に周知の用語「ラピッドプロトタイピングプロセス(RPプロセス)」が用いられ、これによれば、義歯床とテンプレートがラピッドプロトタイピングの場合に一般的である作製方法によって作製される。義歯床とテンプレートはプロトタイプではなく、完成部材または半完成部材であることから、用語「ラピッドプロトタイピングプロセス」ではなく、この種の関連で時折使われる用語である「ラピッドマニュファクチャリングRapid Manufacturing」、「ジェネレーティブマニュファクチャリングプロセスgenerative manufacturing process」、「ラピッドプロダクトデベロップメントRapid Product Development」、「アドバンストディジタルマニュファクチャリングAdvanced Digital Manufacturing」または「EマニュファクチャリングE-Manufacturing」を用いてもよい。義歯床は、好ましくは淡紅色またはピンク色のプラスチックから作られ、場合によっては人工歯は多数の歯色のプラスチックから作られる。
【0051】
人工歯を義歯床に最終的に固定するためのセメントまたは接着剤は、非毒性、容積充填性、色安定性、コンパウンドとしての持続性、耐加水分解性、硬化の際に体積安定性であるのが望ましく、さらに長時間安定した適合性のある色を有するのが望ましい。このために、Heraeus Kulzer GmbH社のPaladur(登録商標)のようなPMMAセメントのほか、Heraeus Kulzer GmbH社のVersyo(登録商標)、Heraeus Kulzer GmbH社のSignum composit Flow(登録商標)、またはその他のPMMAベースのセメントも、考慮の対象となる。
【0052】
接着剤として、たとえば瞬間接着剤を用いることができるし、または義歯床と人工歯との間に場合によっては存在する中間スペースの容積を充填するのにも適した接着材料を用いることができる。
【0053】
本発明が基礎とする驚くべき着想とは、テンプレートを用いることによって、一種の三次元パズルピースのような嵌合を提供できることであり、そのような嵌合によって人工歯を義歯床に一義的に位置決めすることができる。この目的でテンプレートは、形成すべき義歯床および挿入すべき人工歯の外形に適合した形状として作製され、したがって人工歯をそれら相互間で、および義歯床に対し、望ましい整列と位置でのみ、義歯床に固定することができる。これによって、人工歯を義歯床に位置決めする際の誤りと手間を回避することができる。さらにこの場合、テンプレートをCAD/CAMプロセスによって、人工歯および義歯床の仮想モデルからディジタルで構築することができ、次いでCAMプロセスによって作製することができる。このために必要とされる人工歯と義歯床の仮想モデルは、CAD/CAMプロセスにより歯科用補綴物を作製する際にいずれにせよ存在しており、したがって多くの余分なコストをかけることなく、それらを利用することができる。
【0054】
アナログのトランスファーキーの形状を、本発明による方法によればディジタル手法でも使用することができ、別個のデータセットとして、義歯床、人工歯およびモデルに加えて生成することができる。
【0055】
次に、概略的に描かれた5つの図面を参照しながら、本発明の実施例について説明する。ただし、これによっても本発明が限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0056】
図1】テンプレートが配置された歯科用補綴物を示す断面図
図2】テンプレートと患者の口腔モデルとが配置された歯科用補綴物を示す断面図
図3】テンプレートが配置された歯科用補綴物を示す断面図
図4】テンプレートと患者の口腔モデルとが配置された歯科用補綴物を示す断面図
図5】本発明による方法のフローチャートを例示する図
【0057】
図1には、テンプレート1が配置された歯科用補綴物の断面図が示されている。この断面平面は患者の横断面内に存在し、または患者の横断面に対し平行である。この歯科用補綴物には、複数の人工歯2と義歯床3とが含まれている。この場合、これらの人工歯2は、切歯用義歯もしくは門歯として形成されている。人工歯2は、義歯床3の適合する歯槽内に固定され、そこにおいて人工歯2がテンプレート1に挿入され、人工歯2の基底側および歯槽に接着剤が塗布され、その後、義歯床3がテンプレート1に挿入される。義歯床3における人工歯2の望ましい配向および位置を、義歯床3にテンプレート1を一義的にセットすることにより保証できるようにする目的で、テンプレート1と義歯床3とに3つのインデックス4,5が設けられている。義歯床3のところに、インデックス4としてもしくは幾何学的形状として隆起部4が配置されており、この隆起部4が、テンプレート1におけるインデックス5として設けられた凹部5に係合する。これにより以下のことが達成される。すなわちテンプレート1は、挿入された人工歯2と共に、特定の配向および位置においてのみ義歯床3に配置可能となり、したがって人工歯2を、歯科用補綴物モデルにおいて計算された配向および位置においてのみ、義歯床3に固定できるようになる。
【0058】
物理的義歯床3は、ピンク色に着色されたプラスチックから成る。色合いおよび透明度は、歯肉の外観とマッチするように選定される。義歯床3には顎弓に沿って、人工歯2を固定するための多数の歯槽が設けられている。義歯床3は、仮想歯科用補綴物モデルからファイル分割により得られた仮想CADモデルに基づき形成される。実際の義歯床3を作製するために、義歯床3の仮想CADモデルがCAMプロセスにより作製され、たとえばプリントされ、または円形ブランクからミリング加工される。
【0059】
仮想歯科用補綴物モデルは、最初に患者において口腔内スキャンを実施することによって、あるいは患者の口腔状態の石膏模型のスキャンまたは患者の口腔状態の印象のスキャンを採取することによって、生成される。これらのデータに基づき、人工歯2の仮想排列が行われ、その際に好ましくは、患者の顎の咬合も考慮される。この目的で、使用すべき既製の人工歯2の仮想CADモデルを用いることができ、それらは仮想義歯床ベースモールド内に排列される。
【0060】
テンプレート1は、人工歯2に当接する歯部6と、義歯床3に当接する基部7とを有する。歯部6は、咬合表面もしくは切歯表面8の、および歯科用補綴物モデルに基づき相互に整列された人工歯2における前庭表面9のネガ型を成しており、基部7は、歯科用補綴物モデルに基づき人工歯2に対して整列された義歯床3における前庭表面10のネガ型を成している。テンプレート1はCAD/CAMプロセスによって、以下のようにして形成される。すなわちテンプレート1の表面形状を、義歯床3の前庭表面10と人工歯2の前庭表面9および咬合表面8のネガ型として計算し、次いで製造する目的で、相互におよび義歯床3に対して整列された人工歯2および義歯床3の仮想モデルの外形8,9,10が用いられる。このようにして、人工歯2および義歯床3がテンプレート1と正確に嵌合するようになる。
【0061】
図2には、テンプレート1と患者の口腔モデル11とが配置された歯科用補綴物の断面図が示されている。図2による構造は図1による構造と同じであるが、患者の口腔状態モデル11が付加的に用いられ、これによって構造が1つにまとめられる。口腔状態モデル11の上に、義歯床3が配置されている。義歯床3の顎弓に、人工歯2が挿入された歯槽が配置されている。
【0062】
テンプレート1は、図1による構造よりもさらに張り出しており、口腔状態モデル11の前庭表面16の上を部分的に覆っている。口腔状態モデル11は、患者の無歯顎弓モデル12を表す上部12と、口腔状態延長部を表す基部13とから成る。ただしこの延長部は、患者の実際の解剖学的状況から得られたものではない。口腔状態モデル11の前庭表面においてこのモデル11の基部13のところに、3つの凹部14がインデックス14として設けられている。
【0063】
テンプレート1には、口腔状態モデル11に対する結合面16の領域に、もしくはテンプレート1の基部7に、隆起部15として3つのインデックス15が設けられており、これらのインデックスは口腔状態モデル11の凹部14に適合している。これによりテンプレート1は、インデックス5および義歯床3に設けられたインデックス4を用いて整列できるだけでなく、口腔状態モデル11に設けられたインデックス14と共にインデックス15によっても、保持および整列することができる。
【0064】
図3には、図1と同様にテンプレート1が配置された歯科用補填物の断面図が示されている。ただしこの図には、前頭面に平行な断面が描かれている。ここで断面が示された人工歯2は、臼歯もしくは後方歯の義歯として形成されている。テンプレート1は、人工歯2の歯列弓全体および義歯床3の顎弓の周囲に延在している。この断面図において識別可能な義歯床3の2つのインデックス4を、矩形または正方形の隆起部4として形成することができ、これらはテンプレート1の基部7に設けられた対応する凹部5に係合する。インデックス4,5は、周囲全体に延在しているのではなく、局所的にもしくは1つの点の周囲で境界が定められた幾何学的形状である。
【0065】
隆起部4は、テンプレート1を用いて人工歯2を固定した後、たとえばそれをミリング除去するなどして除去する必要がある。これに続いて、余分な残留物をポリッシングして取り除くことができる。
【0066】
患者の口腔モデル11を使用し、対応するインデックス14をモデル11に設け、それらのインデックス14がテンプレート1のネガ型のインデックス15に係合するようにすれば、隆起部4の除去を省略することができる。この構成が図4に示されており、または義歯床3にインデックス14,15が設けられていなければ図2と同様の構成である。この点に関して図4には、前頭面に平行な断面図が示されており、この図によれば、義歯床3の下に口腔状態モデル11が配置されている。図4による構成の場合、義歯床3は、図1図3による実施例とは異なりインデックスを具備していない。このためテンプレート1において、義歯床3の前庭表面10のネガ型においても、インデックスを設ける必要がない。この実施形態によれば、テンプレート1の整列および配向はもっぱらインデックス14,15を介して行われ、これらのインデックス14,15は、口腔状態モデル11と、口腔状態モデル11の前庭表面16もしくはその基部13のネガ型を成すテンプレート1の領域とに、設けられている。
【0067】
すべての実施形態について当てはまるのは、物理的人工歯2が好ましくは別々に存在しており互いに結合されていない、という点である。ただし本発明による方法を、互いに結合された人工歯2から成る歯列を用いても実施可能であり、それらの人工歯はすべてまたはグループごとに、互いに結合されている。
【0068】
人工歯2は硬い白色のプラスチックから成り、このプラスチックは、歯に適したまたは患者の歯に合わせられた色合いと透明度とを有する。人工歯2は各々、基底側表面と咬合表面8と前庭表面9とを有する。基底側表面は、人工歯2を義歯床3に固定するために、歯槽内に固定される。それらの歯槽は、人工歯2の基底側における基底側対向部材に適合している。本発明によれば人工歯2の基底側は、基底側の切削特にグラインディングまたはミリング除去によって、既製の人工歯から形成される。
【0069】
すべての実施形態において、テンプレート1は以下のように作製される。すなわち、人工歯2のすべての歯冠側表面と前庭表面8,9および義歯床3の前庭表面10の形状が、仮想歯科用補綴物モデルから得られる相互間の配向と配置で、テンプレート1の表面のためのCADモデルとして用いられる。テンプレート1のCADモデルの他の表面を、単純なボリューム形状で簡単に自動的に補うことができ、または患者の口腔状態モデル11の前庭表面16のネガ型として、付加的に形成することができる。この場合、テンプレート1の機械的な耐久性が保証されるよう、テンプレート1が過度に薄くならないようにする点だけを留意すればよい。理論的にはテンプレート1を、複数の人工歯2から成るグループまたは個々の人工歯2を収容する複数の部材によって構成することもできる。
【0070】
実際のテンプレート1を、CAMプロセスたとえばRPプロセスによってプラスチックから作製する目的で、テンプレート1のCADモデルが用いられる。図面に断面図として描かれているテンプレート1の表面は、収容面を有しており、それらの収容面は、挿入すべき人工歯2の歯冠側形状8および前庭形状9と、義歯床3の前庭形状10とに対応している。
【0071】
人工歯2を、義歯床3と固定する前に洗浄することができ、その際に人工歯2を場合によってはテンプレート1内に残しておくことができる。人工歯2は、事前に基底側において(たとえば機械的にサンドブラストによって、または化学的に適切な溶剤を用いて)粗面化され、かつ/または、メチルメタクリレート(MMA)を含有する液体を用いて膨潤させられる。
【0072】
同様に、人工歯2を固定するために義歯床3の歯槽も粗面化され、MMA含有の液体によって膨潤させられる。MMA含有の液体として、たとえばHeraeus Kulzer GmbH社のPalabond(登録商標)を用いることができる。
【0073】
結合されるべき表面がこのように事前に調整された後、人工歯2が義歯床3において最終的に接合または接着され、この場合、当初は人工歯2がまだテンプレート1内に固定されたままである。
【0074】
接合にあたり、義歯床3に人工歯2を固定するための歯槽と人工歯2との間に存在する可能性がある中間スペースが、セメントで充填されるように、セメントを過剰に用いることができ、この場合、それらの中間スペースにおいて基底側の空洞が残ることはなく、また、形成される歯科用補綴物の歯肉−歯頸領域に周辺ギャップが残ることはない。しかもこのような過剰分によって、接触面が最適に湿潤される。漏れ出た過剰なセメントペーストの残りは、硬化前および/または硬化後に除去することができる。人工歯2を義歯床3に最終的に固定するために好ましくは、粉液ベースの自己硬化型セメントが用いられる。
【0075】
本発明による方法を、手作業でまたはラピッドプロトタイピングプロセスにより作製された義歯床3もしくは口腔モデル11を用いて、実施することができる。同様に本発明による方法を択一的に、プリントされた人工歯または人工歯列に適用することもできる。
【0076】
図5には、本発明による方法のフローチャートが例示されている。
【0077】
オプションとして実際の人工歯2を、CAMプロセスにより作製または短くカットすることにより、形成および/または加工処理することができる。
【0078】
したがって本発明によれば、本発明の基礎とする課題は、たとえば以下のようにして解決される。すなわち、口腔内スキャンまたは無歯顎または部分無歯顎の印象(たとえば石膏模型)のスキャンに基づき、最初に仮想歯科用補綴物をディジタルで設計し、次いでファイル分割によって義歯床3のための部分と人工歯2のための部分とに分解する。
【0079】
次いで人工歯2を位置決めするために、RPプロセス(たとえばミリングまたはプリント)によってテンプレート1を作製し、人工歯2を事前に決定されたそれらの空間配置で正確に固定し、それらの人工歯2を義歯床3にトランスファーできるように、すなわち移し替えることができるようにする。
【0080】
つまりCAD設計データにおいて設定されているように、人工歯2を義歯床3に配置および整列できるようにする目的で、本発明によって提案されるのは、CADにおいて自動的に、またはユーザが支援して、義歯床3に対する人工歯2の整列を保証するテンプレート1を構成することである。このテンプレート1もデータセットとして、義歯床3および人工歯2のデータと共にCADから書き出され、それによって加算的または減算的な製造プロセスのために利用することができる。
【0081】
テンプレート1自体は、人工歯2の前庭面/頬側面、咬合面/切歯面に正確に適合するように、義歯床3の前庭面/頬側面に正確に適合するように、かつ/または口腔モデル11の周縁に正確に適合するように、構成される。
【0082】
その際にたとえば、本発明による方法の以下の2つのバリエーションを実現することができる。すなわち、
a)整列のために(患者の口腔状態の物理的なモデル11を用いずに)義歯床3を使用する。
【0083】
義歯床3の表面は解剖学的に形成されており、したがって丸みが付けられており、支持および整列のために直線的な面または角を有していないことから、複数の個所において、少なくとも3個所において、インデックス4として幾何学的形状4を義歯床3に設け、それらを加算的または減算的な方法においていっしょに作製することが提案される。この目的でCADにおいて、固定補助部材4を位置決めする可能性が与えられている必要があり(適切な幾何学的形状を含むCADライブラリ)、それらは次いで適切な固定点で義歯床3に配置される。
【0084】
テンプレート1の幾何学的形状は、上部6が人工歯2の形状8,9と配置を再現し、下部7が義歯床3に対する整列を行えるように、構成されている。この目的で保証しなければならないのは、すべての空間方向において位置が決定されているように、テンプレート1を義歯床3に正確に整列可能にすることである。このためには、最少で3つの固定点が必要とされる。
【0085】
このようにしてテンプレート1は、これらの幾何学的配置4を介して支持され固定される。人工歯2が義歯床3に整列および固定された後、義歯床3におけるこれらの幾何学的形状4は、歯科技工士によりハンドミリングマシンを用いて除去され、いずれにせよ歯科用補綴物を仕上げるために実施されるポリッシングの際に均等にされる。
【0086】
b)整列のために患者の口腔状態モデル11を使用する。
【0087】
テンプレート1をモデル11にいっそう良好に固定するために、スキャンプロセスの前にこのモデルに固定手段(たとえば案内溝、切欠き、凹部)を設けておく必要がある。
【0088】
この場合、テンプレート1の幾何学的形状は、上部6が人工歯2の形状8,9と配置を再現し、下部7が義歯床3に対する整列を行えるようにし、その際にテンプレート1の対応する幾何学的形状15がモデル11の固定手段14内にセットされるように、構成されている。この目的で保証しなければならないのは、すべての空間方向において位置が確定されているように、テンプレート1をモデル11に正確に整列可能にすることである。このためには、最少で3つの固定点が必要とされる。
【0089】
このようにしてトランスファーテンプレート1は、モデル11における固定手段15を介して支持されて固定され、人工歯2を義歯床3において整列させてセットし固定することができる。人工歯2が確実に固定されたならば、テンプレート1をただちに取り除くことができる。義歯床3に付加的にインデックスが設けられていなければ、a)で述べたように義歯床3における手作業の後処理が不要となる。
【0090】
モデル11と義歯床3とに、同じように固定手段を設けるようにすることも考えられるが、このようにすることは機能のためにどうしても必要なものではないし、a)で述べたように、それによって幾何学的形状4を義歯床3から再び取り除かなければならなくなってしまう。
【0091】
既述の説明および特許請求の範囲、図面、フローチャートならびに実施例に開示された本発明の特徴は、それぞれ単独でも、任意のいかなる組み合わせであっても、本発明の種々の実施形態において本発明の実現にとって重要なものとなり得る。
【符号の説明】
【0092】
1 テンプレート
2 人工歯
3 義歯床
4 インデックス/隆起部
5 インデックス/凹部
6 テンプレートの歯部
7 テンプレートの基部
8 人工歯の咬合表面
9 人工歯の前庭表面
10 義歯床の前庭表面
11 口腔状態モデル
12 歯列モデル
13 口腔モデルの基部
14 インデックス/凹部
15 インデックス/隆起部
16 口腔状態モデルの前庭表面
図1
図2
図3
図4
図5