【文献】
SATO T et al., Sesquarterpenes (C35 terpenes) biosynthesized via the cyclization of a linear C35 isoprenoid by a tetraprenyl-β-curcumene synthase and a tetraprenyl-β-curcumene cyclase: identification of a new terpene cyclase, J. Am. Chem. Soc., 2011, Vol.133, p.9734-9737 & Supporting information, <URL= https://pubs.acs.org/doi/abs/10.1021/ja203779h>
【文献】
SATO T et al., Bifunctional triterpene/sesquarterpene cyclase: tetraprenyl-β-curcumene cyclase is also squalene cyclase in Bacillus megaterium, J. Am. Chem. Soc., 2011, Vol.133, p.17540-17543 & Supporting information, <URL= https://pubs.acs.org/doi/abs/10.1021/ja2060319>
【文献】
VEITH B et al., Database UniProt [online], Accession No.Q65II0, 01-MAY-2013 uploaded, [retrieved on 05-NOV-2014], Definiton: SubName: Full=Squalene--hopene cyclase SqhC; EC=5.4.99.17, <URL= http://www.uniprot.org/uniprot/Q65II0.txt?version=47>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
テトラプレニル−β−クルクメン環化酵素が、バチルス・メガテリウム、バチルス・サブチリス及びバチルス・リケニフォルミスのいずれか由来である、請求項1又は請求項2に記載のアンブレインの製造方法。
スクアレンから3−デオキシアキレオールAを生成可能な変異型スクアレン−ホペン環化酵素を、スクアレンに反応させて、3−デオキシアキレオールAを得ること、をさらに含む、請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載のアンブレインの製造方法。
変異型スクアレン−ホペン環化酵素が、配列番号1で示されるアミノ酸配列における377位、420位、607位及び612位からなる群より選択される少なくとも1つの部位にアミノ酸置換を有する、請求項4に記載のアンブレインの製造方法。
変異型スクアレン−ホペン環化酵素が、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7及び配列番号8のいずれかで示されるアミノ酸配列を有する、請求項4又は請求項5に記載のアンブレインの製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本明細書において「工程」との語は、独立した工程だけでなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれる。
本明細書において「〜」を用いて示された数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値および最大値として含む範囲を示す。
本明細書において組成物中の各成分の量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数種存在する場合、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数種の物質の合計量を意味する。
【0010】
本発明において、アミノ酸配列におけるアミノ酸残基を、当技術分野で周知の一文字表記(例えば、グリシン残基を「G」)又は三文字表記(例えば、グリシン残基を「Gly」)で表現する場合がある。
本発明において、タンパク質及びポリペプチドのアミノ酸配列に関する「%」は、特に断らない限り、アミノ酸残基の個数を基準とする。
【0011】
以下に、本発明の実施の形態について説明する。これらの説明及び実施例は本発明を例示するものであり、本発明の範囲を制限するものではない。
【0012】
本発明のアンブレインの製造方法は、テトラプレニル−β−クルクメン環化酵素を3−デオキシアキレオールAに反応させてアンブレインを得ること、を含むアンブレインの製造方法である。
本発明では、テトラプレニル−β−クルクメン環化酵素を3−デオキシアキレオールAに反応させてアンブレインを製造するので、アンブレインを簡便に製造することができる。
【0013】
テトラプレニル−β−クルクメン環化酵素は、C
30の直鎖不飽和炭化水素であるスクアレンから2環性テルペノールを生成する酵素であると知られていたが、片末端に単環を有する3−デオキシアキレオールAを基質として利用可能であることが明らかとなった。また、テトラプレニル−β−クルクメン環化酵素は、3−デオキシアキレオールAを基質として利用すると、3−デオキシアキレオールAの環状化されていない端を選択的に環化させて、両末端環化化合物を生成することが明らかとなった。本発明は、これらの知見に基づくものである。テトラプレニル−β−クルクメン環化酵素の上記活性により、片末端に単環を有する3−デオキシアキレオールAを材料として、1種の酵素を用いて簡便にアンブレインを製造することができる。
【0014】
本発明のアンブレインの製造方法は、テトラプレニル−β−クルクメン環化酵素を3−デオキシアキレオールAに反応させて、アンブレインを得ること(以下、「アンブレイン生成工程」という)を含み、必要に応じて他の工程を含む。
【0015】
アンブレインは、(1R,4aα)−1−[(E)−6−[(S)−2,2−ジメチル−6−メチレンシクロヘキシル]−4−メチル−3−ヘキセニル]デカヒドロ−2,5,5,8aβ−テトラメチルナフタレン−2α−オールであり、組成式C
30H
52O、分子量428.745の両末端環化化合物であり、以下の構造を有するトリテルペンアルコールである(CAS登録番号:473−03−0)。
【0017】
本発明のアンブレインの製造方法では、3−デオキシアキレオールAを、テトラプレニル−β−クルクメン環化酵素の基質として利用する。
【0018】
3−デオキシアキレオールAは、(S)−1,1−ジメチル−3−メチレン−2−((3E,7E,11E)−3,8,12,16−テトラメチルヘプタデカ−3,7,11,15−テトラエン−1−イル)シクロヘンキサンであり、組成式C
30H
50であり、以下の構造を有する片末端環化化合物である。該化合物が、本発明においてアンブレインを生成するための材料として用いられる。3−デオキシアキレオールAの入手方法については特に制限はなく、化学合成によって得たものであってもよく、既存化合物から酵素反応を用いて得たものであってもよい。
【0020】
本発明の製造方法は、変異型スクアレン−ホペン環化酵素を、スクアレンに反応させて、3−デオキシアキレオールAを得ること(以下、「3−デオキシアキレオールA生成工程」という)をさらに含むことが好ましい。これにより、変異型スクアレン−ホペン環化酵素とテトラプレニル−β−クルクメン環化酵素とを用いた2つの酵素反応によって、安価なスクアレンを材料としてアンブレインを効率よく簡便に製造することができる。
【0021】
[3−デオキシアキレオールA生成工程]
3−デオキシアキレオールA生成工程では、スクアレンから3−デオキシアキレオールAを生成可能な変異型スクアレン−ホペン環化酵素を、スクアレンに反応させて、3−デオキシアキレオールAを得る。本明細書において、「変異型スクアレン−ホペン環化酵素」とは、特に断らない限り、スクアレンから3−デオキシアキレオールAを生成可能な変異型スクアレン−ホペン環化酵素を指す。
【0022】
本発明において、変異型スクアレン−ホペン環化酵素とは、野生型スクアレン−ホペン環化酵素を改変した酵素であり、かつ、スクアレンから3−デオキシアキレオールAを生成可能な酵素である。野生型スクアレン−ホペン環化酵素は、スクアレンを閉環して、5環性のホペン又はホパノールを生成する酵素(EC5.4.99.−)として知られており、アリシクロバチルス属、ザイモモナス属、ブラジリゾビウム属等の原核生物に広く存在している。野生型スクアレン−ホペン環化酵素のアミノ酸配列は既に公知であり、例えば、アリシクロバチルス・アシドカルダリウス(Alicyclobacillus acidocaldarius)の野生型スクアレン−ホペン環化酵素のアミノ酸配列(配列番号1)(表1)は、GenBankアクセッション番号:AB007002に示されている。
【0024】
変異型スクアレン−ホペン環化酵素は、野生型スクアレン−ホペン環化酵素のアミノ酸配列に変異を有し、スクアレンから単環の3−デオキシアキレオールAを生成可能な活性を有する酵素である。野生型スクアレン−ホペン環化酵素のアミノ酸配列に変異が含まれると、不完全な環化反応が生じ、スクアレンと反応させた場合には、野生型では五環化合物を生成するところ、単環化合物が生成可能となることが知られている。
【0025】
変異型スクアレン−ホペン環化酵素としては、3−デオキシアキレオールAの生成効率の観点から、配列番号1に示されるアミノ酸配列において、377位、420位、607位及び612位からなる群より選択される少なくとも1つの部位にアミノ酸置換を有する変異型スクアレン−ホペン環化酵素が好ましく、これらの部位の1つ又は2つに変異を有する変異型スクアレン−ホペン環化酵素がより好ましく、これらの部位のいずれか1つに変異を有する変異型スクアレン−ホペン環化酵素が更に好ましい。
【0026】
変異型スクアレン−ホペン環化酵素における上述した変異部位は、相対的なものであり、例えば、「377位」とは、377位よりもN末端側のアミノ酸残基が1つ欠失している場合には、実際には376位となる。また、野生型スクアレン−ホペン環化酵素のアミノ酸配列が、当該酵素を本来的に保有する生物種に応じて、スクアレン−ホペン環化酵素の本来の機能とは無関係な種固有のバリエーションを含む場合には、当業界において公知の方法でアライメントを行った後の部位に読み替えるものとする。
【0027】
変異型スクアレン−ホペン環化酵素におけるアミノ酸置換は、野生型のアミノ酸残基に対して他のアミノ酸残基を置換するものである。野生型のアミノ酸残基と置換する他のアミノ酸残基としては、置換後の変異型スクアレン−ホペン環化酵素がスクアレンから3−デオキシアキレオールAを生成可能なアミノ酸残基であれば、いずれのアミノ酸残基であってもよい。
【0028】
変異型スクアレン−ホペン環化酵素における変異部位及び置換アミノ酸としては、配列番号1で示されるアミノ酸配列において下記の変異部位及び置換アミノ酸が好ましい。
(i)377位のアスパラギン酸残基(D)がシステイン残基(C)又はアスパラギン残基(N)に置換。
(ii)420位のチロシン残基(Y)がヒスチジン残基(H)又はトリプトファン残基(W)に置換。
(iii)607位のロイシン残基(L)がフェニルアラニン残基(F)又はトリプトファン残基(W)に置換。
(iv)612位のチロシン残基(Y)がアラニン残基(A)に置換。
【0029】
変異型スクアレン−ホペン環化酵素としては、配列番号1に示されるアミノ酸配列において、上記(i)〜(iv)からなる群より選択される少なくとも1つの置換を有する酵素が好ましく、上記(i)〜(iv)からなる群より選択される1つ又は2つの置換を有する酵素がより好ましく、上記(i)〜(iv)からなる群より選択される1つの置換を有する酵素が更に好ましい。
【0030】
変異型スクアレン−ホペン環化酵素は、スクアレンから3−デオキシアキレオールAを生成する機能が保持されれば、野生型スクアレン−ホペン環化酵素のアミノ酸配列において、上述した変異部位以外に、1個又は数個のアミノ酸残基が置換、欠失、挿入又は付加された配列を有していてもよい。この場合、置換、欠失、挿入又は付加される1個又は数個のアミノ酸残基の数は、アミノ酸残基のタンパク質の立体構造における位置、アミノ酸残基の種類等によっても異なるが、具体的には好ましくは1〜20個、より好ましくは1〜10個、更に好ましくは1〜5個である。
【0031】
変異型スクアレン−ホペン環化酵素は、由来は特に制限されず、例えば、アリシクロバチルス属細菌、ザイモモナス属細菌、又はブラジリゾビウム属細菌に由来する変異型スクアレン−ホペン環化酵素であることが好ましい。酵素活性の観点から、変異型スクアレン−ホペン環化酵素は、アリシクロバチルス属細菌に由来する変異型スクアレン−ホペン環化酵素であることがより好ましく、中でも、アリシクロバチルス・アシドカルダリウスに由来する変異型スクアレン−ホペン環化酵素であることが特に好ましい。
【0032】
変異型スクアレン−ホペン環化酵素としては、酵素活性の観点から、以下に記載のポリペプチドA〜G(配列番号2〜8)が好ましい。表2中、「mutation」で示された変異以外のアミノ酸残基は、配列番号1で示されるアミノ酸配列におけるアミノ酸残基と同一である。
【0034】
変異型スクアレン−ホペン環化酵素を構成するポリペプチドA〜Gには、それぞれ、配列番号2〜8で示される各アミノ酸配列において1個又は数個のアミノ酸残基が置換、欠失、挿入又は付加されたアミノ酸配列を有し、かつ、スクアレンから3−デオキシアキレオールAを生成する機能が保持されたポリペプチドが包含される。配列番号2〜8で示される各アミノ酸配列において置換、欠失、挿入又は付加されるアミノ酸残基の数は、具体的には好ましくは1〜20個、より好ましくは1〜10個、更に好ましくは1〜5個である。
【0035】
変異型スクアレン−ホペン環化酵素を構成するポリペプチドA〜Gには、それぞれ、配列番号2〜8で示される各アミノ酸配列全体に対して、例えば80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、より好ましくは97%以上、より好ましくは98%以上、特に好ましくは99%以上の配列同一性を有し、かつ、スクアレンから3−デオキシアキレオールAを生成する機能が保持されたポリペプチドが包含される。
【0036】
変異型スクアレン−ホペン環化酵素を発現可能なポリヌクレオチドは、野生型の配列情報に基づいて入手可能である。変異型スクアレン−ホペン環化酵素を発現可能なポリヌクレオチドとしては、例えば、配列番号9〜15で示される塩基配列を有するポリヌクレオチドA〜Gが挙げられる(表3)。表3中、「mutation site」で示された部位以外は、アリシクロバチルス・アシドカルダリウスの野生型スクアレン−ホペン環化酵素遺伝子の塩基配列(GenBankアクセッション番号:AB007002)と同一である。
【0038】
ポリヌクレオチドA〜Gには、それぞれ、配列番号9〜15で示される各塩基配列において1個又は数個の塩基が置換、欠失、挿入又は付加された塩基配列を有し、かつ、スクアレンから3−デオキシアキレオールAを生成する機能が保持されたポリペプチドをコードするポリヌクレオチドが包含される。配列番号9〜15で示される各塩基配列において置換、欠失、挿入又は付加される塩基の数は、具体的には好ましくは1〜20個、より好ましくは1〜10個、更に好ましくは1〜5個である。
【0039】
ポリヌクレオチドA〜Gには、それぞれ、配列番号9〜15で示される各塩基配列全体に対して、例えば80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、より好ましくは97%以上、より好ましくは98%以上、特に好ましくは99%以上の配列同一性を有し、かつ、スクアレンから3−デオキシアキレオールAを生成する機能が保持されたポリペプチドをコードするポリヌクレオチドが包含される。
【0040】
ポリヌクレオチドA〜Gには、それぞれ、配列番号9〜15で示される塩基配列の各相補鎖に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドであって、スクアレンから3−デオキシアキレオールAを生成する機能が保持されたポリペプチドをコードするポリヌクレオチドが包含される。
ハイブリダイゼーションは、公知の方法又は公知の方法に準じる方法、例えば、Molecular Cloning 3rd (J. Sambrook et al., Cold Spring Harbor Lab. Press, 2001) に記載の方法等に従って行うことができる。ストリンジェントな条件とは、特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件をいう。典型的なストリンジェントな条件としては、例えば、カリウム濃度約25mM〜約50mM、及びマグネシウム濃度約1.0mM〜約5.0mMが挙げられる。本発明の条件の1例として、Tris−HCl緩衝液(pH8.6)、25mMのKCl、及び1.5mMのMgCl
2中においてハイブリダイゼーションを行う条件が挙げられるが、これに限定されるものではない。他のストリンジェントな条件としては、Molecular Cloning 3rd (J. Sambrook et al., Cold Spring Harbor Lab. Press, 2001) に記載されている。当業者は、ハイブリダイゼーション反応の条件、即ちハイブリダイゼーション反応液の塩濃度等を変化させることによって、ストリンジェントな条件を容易に選択することができる。
【0041】
変異型スクアレン−ホペン環化酵素をコードするポリヌクレオチドを発現させるために用いられる組換えベクターとしては、特に制限はなく、pET−3a等の大腸菌で発現可能なベクター、pHT01等の枯草菌で発現可能なベクター、pYES2等の酵母で発現可能なベクターなどが挙げられる。変異型スクアレン−ホペン環化酵素をコードするポリヌクレオチドをこれらのベクターに導入することにより、酵素発現用ベクターを得ることができる。酵素発現用ベクターの導入対象となる宿主細菌としては、用いられる組換えベクターの種類に応じて適宜選択可能であり、例えば、BL21(DE3)等の大腸菌、168株等の枯草菌、サッカロマイセス・セレビシエ等の酵母などが挙げられる。
【0042】
組換えベクターは、必要に応じて、プロモーター、スプライシングシグナル、ポリA付加シグナル、選択マーカー、リボソーム結合配列(SD配列)、NOSなどのターミネーター等を有していてもよい。選択マーカーとしては、例えば、カナマイシン耐性遺伝子、アンピシリン耐性遺伝子、テトラサイクリン耐性遺伝子等の抗生物質耐性遺伝子などの公知のものが、特に制限なく用いられる。
組換えベクターは、目的とする遺伝子の導入を確認するためのレポーター遺伝子を含んでいてもよい。このようなレポーター遺伝子としては、GUS(β−グルクロニダーゼ)遺伝子、ルシフェラーゼ遺伝子、GFP(緑色蛍光タンパク質)遺伝子等が挙げられる。
【0043】
変異型スクアレン−ホペン環化酵素は、酵素発現用ベクターを細菌等に導入することによって得られた形質転換体を培養することにより生成される。形質転換体の培養に用いられる培地は、通常用いられる培地でよく、宿主の種類に応じて適宜選択される。例えば、大腸菌を培養する場合には、LB培地等が用いられる。培地には、選択マーカーの種類に応じた抗生物質が添加されていてもよい。
【0044】
変異型スクアレン−ホペン環化酵素は、当該酵素を発現可能な形質転換体を培養することにより得られた培養液から酵素を抽出し精製したものであってもよい。また、培養液中の形質転換体から抽出された酵素を含む抽出液をそのまま用いてもよい。形質転換体からの酵素の抽出方法は、公知の方法を適用してよい。酵素の抽出工程は、例えば、形質転換体を抽出溶媒中で破砕し、細胞内容物を形質転換体の破砕片と分離することを含んでよい。得られた細胞内容物には、目的とする変異型スクアレン−ホペン環化酵素が含まれている。本明細書では、細胞から抽出し細胞の破砕片と分離した細胞内容物を「無細胞抽出液」と称する。
【0045】
形質転換体の破砕方法、細胞内容物と微生物体の破砕片との分離方法、抽出溶媒の組成及びpH条件については、後述するアンブレイン生成工程での記載事項と同一の事項が、そのまま適用される。
【0046】
変異型スクアレン−ホペン環化酵素は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
変異型スクアレン−ホペン環化酵素とスクアレンとの反応の条件は、酵素反応が進行可能な条件であれば特に制限はない。例えば、反応温度及び反応時間は、変異型スクアレン−ホペン環化酵素の活性等に基づいて適宜選択することができる。反応温度及び反応時間は、反応効率の観点から、例えば4℃〜100℃及び0.1時間〜48時間であり、30℃〜60℃及び16時間〜24時間が好ましい。pH条件は、反応効率の観点から、例えば3〜10であり、6〜8が好ましい。
【0047】
反応溶媒は、酵素反応を阻害しないものであれば特に制限はなく、通常用いられる緩衝液等を用いることができる。また、例えば、酵素の抽出工程で使用する抽出溶媒と同一のものを用いることができる。また、変異型スクアレン−ホペン環化酵素を含む抽出液(例えば、無細胞抽出液)を酵素液としてそのまま反応に用いてもよい。
【0048】
3−デオキシアキレオールA生成反応における変異型スクアレン−ホペン環化酵素と、その基質であるスクアレンとの濃度比は、反応効率の観点から、酵素に対する基質のモル濃度比(基質/酵素)として、10〜10000が好ましく、100〜5000がより好ましく、1000〜3000がより好ましく、1000〜2000が更に好ましい。
酵素反応に用いるスクアレンの濃度は、反応効率の観点から、反応溶媒の全質量に対して0.000001質量%〜0.002質量%が好ましく、0.00001質量%〜0.0002質量%がより好ましい。
【0049】
変異型スクアレン−ホペン環化酵素を用いた反応により得られる3−デオキシアキレオールAは、公知の方法で精製した後に、テトラプレニル−β−クルクメン環化酵素との反応に供することができる。
3−デオキシアキレオールAの精製方法としては、反応液中の3−デオキシアキレオールAを取り出すことができれば特に制限されず、通常用いられる精製方法から適宜選択してよい。精製方法として具体的には、溶媒抽出、再結晶、蒸留、カラムクロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)等が挙げられる。
【0050】
変異型スクアレン−ホペン環化酵素とスクアレンとが反応する反応工程は、複数回繰り返してもよい。これにより、3−デオキシアキレオールAの収率を高めることができる。反応工程を複数回繰り返す場合には、基質となるスクアレンを反応系に再投入する工程、公知の方法により酵素を失活させた後、反応液中の反応生成物を回収及び精製する工程等を含むものであってもよい。スクアレンの再投入を行う場合には、反応液中の変異型スクアレン−ホペン環化酵素の濃度、反応液中に残存する基質量等によって、投入する時期、投入量を適宜設定することができる。
【0051】
[アンブレイン生成工程]
アンブレイン生成工程では、テトラプレニル−β−クルクメン環化酵素を3−デオキシアキレオールAに反応させて、アンブレインを得る。
【0052】
テトラプレニル−β−クルクメン環化酵素は、EC4.2.1.129に分類され、水とテトラプレニル−β−クルクメンからバチテルペノールAを生成する反応、又は、スクアレンから8α−ヒドロキシポリポダ−13,17,21−トリエンを生成する反応を触媒し得る酵素である。
【0053】
テトラプレニル−β−クルクメン環化酵素は、バチルス属細菌等の細菌が生成する酵素として知られている。反応効率の観点から、テトラプレニル−β−クルクメン環化酵素は、バチルス属細菌に由来のものが好ましい。
【0054】
バチルス属細菌由来のテトラプレニル−β−クルクメン環化酵素は、バチルス・メガテリウム(Bacillus megaterium)、バチルス・サブチリス(Bacillus subtilis)、バチルス・リケニフォルミス(Bacillus licheniformis)等に由来する酵素が好ましく、反応効率の観点から、バチルス・メガテリウム又はバチルス・サブチリスに由来する酵素がより好ましく、バチルス・メガテリウムに由来する酵素が特に好ましい。
【0055】
バチルス属細菌のテトラプレニル−β−クルクメン環化酵素のアミノ酸配列は公知である。
バチルス・メガテリウム由来のテトラプレニル−β−クルクメン環化酵素のアミノ酸配列は、GenBankアクセッション番号:ADF38987に示されている(配列番号16)(表4)。
バチルス・サブチリス由来のテトラプレニル−β−クルクメン環化酵素のアミノ酸配列は、GenBankアクセッション番号:AB618206に示されている(配列番号17)(表5)。
バチルス・リケニフォルミス由来のテトラプレニル−β−クルクメン環化酵素のアミノ酸配列は、GenBankアクセッション番号:AAU41134に示されている(配列番号18)(表6)。
【0056】
反応効率の観点から、テトラプレニル−β−クルクメン環化酵素としては、配列番号16、配列番号17又は配列番号18で示されるアミノ酸配列を有するテトラプレニル−β−クルクメン環化酵素が好ましく、配列番号16で示されるアミノ酸配列を有するテトラプレニル−β−クルクメン環化酵素がより好ましい。
【0060】
テトラプレニル−β−クルクメン環化酵素には、配列番号16〜18で示される各アミノ酸配列において1個又は数個のアミノ酸残基が置換、欠失、挿入又は付加されたアミノ酸配列を有し、かつ、3−デオキシアキレオールAからアンブレインを生成する機能が保持されたポリペプチドが包含される。配列番号16〜18で示される各アミノ酸配列において置換、欠失、挿入又は付加されるアミノ酸残基の数は、具体的には好ましくは1〜20個、より好ましくは1〜10個、更に好ましくは1〜5個である。
【0061】
テトラプレニル−β−クルクメン環化酵素には、配列番号16〜18で示される各アミノ酸配列全体に対して、それぞれ、例えば80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、より好ましくは97%以上、より好ましくは98%以上、特に好ましくは99%以上の配列同一性を有し、かつ、3−デオキシアキレオールAからアンブレインを生成する機能が保持されたポリペプチドが包含される。
【0062】
テトラプレニル−β−クルクメン環化酵素は、バチルス属細菌が作るテトラプレニル−β−クルクメン環化酵素のアミノ酸配列、及び/又は、バチルス属細菌が保有するテトラプレニル−β−クルクメン環化酵素遺伝子の塩基配列に基づいて、遺伝子工学的に得られたものであってもよい。テトラプレニル−β−クルクメン環化酵素を遺伝子工学的に製造する際に用いるテトラプレニル−β−クルクメン環化酵素遺伝子としては、バチルス属細菌が保有する野生型遺伝子の塩基配列を有するポリヌクレオチド、又は、当該野生型遺伝子の塩基配列に基づいて合成されたポリヌクレオチドが挙げられる。
【0063】
バチルス属細菌が保有するテトラプレニル−β−クルクメン環化酵素遺伝子の塩基配列は、公知である。
バチルス・メガテリウムについては、GenBank:CP001982.1のゲノム配列の2130781番〜2132658番のポリヌクレオチド(配列番号19、GenBank:CP001982.1のゲノム配列の第2130781番目の塩基を第1番目の塩基とする塩基配列)が知られている。
バチルス・サブチリスについては、GenBank:AB618206に記載のポリヌクレオチド(配列番号20)が知られている。
バチルス・リケニフォルミスについては、GenBank:CP000002.3のゲノム配列の2209539番〜2211428番のポリヌクレオチド(配列番号21、GenBank:CP000002.3のゲノム配列の第2209539番目の塩基を第1番目の塩基とする塩基配列)が知られている。
【0064】
テトラプレニル−β−クルクメン環化酵素をコードするポリヌクレオチドには、配列番号19〜21で示される各塩基配列において1個又は数個の塩基が置換、欠失、挿入又は付加された塩基配列を有し、かつ、3−デオキシアキレオールAからアンブレインを生成する機能が保持されたポリペプチドをコードするポリヌクレオチドが包含される。配列番号19〜21で示される各塩基配列において置換、欠失、挿入又は付加される塩基の数は、具体的には好ましくは1〜20個、より好ましくは1〜10個、更に好ましくは1〜5個である。
【0065】
テトラプレニル−β−クルクメン環化酵素をコードするポリヌクレオチドには、配列番号19〜21で示される各塩基配列全体に対して、例えば80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、より好ましくは97%以上、より好ましくは98%以上、特に好ましくは99%以上の配列同一性を有し、かつ、3−デオキシアキレオールAからアンブレインを生成する機能が保持されたポリペプチドをコードするポリヌクレオチドが包含される。
【0066】
テトラプレニル−β−クルクメン環化酵素をコードするポリヌクレオチドには、配列番号19〜21で示される塩基配列の各相補鎖に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドであって、3−デオキシアキレオールAからアンブレインを生成する機能が保持されたポリペプチドをコードするポリヌクレオチドが包含される。ハイブリダイゼーションの条件及びストリンジェントな条件は、変異型スクアレン−ホペン環化酵素について記述した条件と同一である。
【0067】
テトラプレニル−β−クルクメン環化酵素として、例えば、配列番号19〜21のいずれかで示される塩基配列がコードするポリペプチドが挙げられ、配列番号19又は配列番号20で示される塩基配列がコードするポリペプチドが挙げられ、配列番号19で示される塩基配列がコードするポリペプチドが挙げられる。
【0068】
テトラプレニル−β−クルクメン環化酵素をコードするポリヌクレオチドを発現させるために用いられる組換えベクターとしては、特に制限はなく、pColdTF等の大腸菌で発現可能なベクター、pHT01等の枯草菌で発現可能なベクター、pYES2等の酵母で発現可能なベクターなどが挙げられる。テトラプレニル−β−クルクメン環化酵素をコードするポリヌクレオチドをこれらのベクターに導入することにより、酵素発現用ベクターを得ることができる。酵素発現用ベクターの導入対象となる宿主細菌としては、用いられる組換えベクターの種類に応じて適宜選択可能であり、例えば、BL21(DE3)等の大腸菌、168株等の枯草菌、サッカロマイセス・セレビシエ等の酵母などが挙げられる。
【0069】
組換えベクターは、必要に応じて、プロモーター、スプライシングシグナル、ポリA付加シグナル、選択マーカー、リボソーム結合配列(SD配列)、NOSなどのターミネーター等を有していてもよい。選択マーカーとしては、例えば、カナマイシン耐性遺伝子、アンピシリン耐性遺伝子、テトラサイクリン耐性遺伝子等の抗生物質耐性遺伝子などの公知のものが、特に制限なく用いられる。
組換えベクターは、目的とする遺伝子の導入を確認するためのレポーター遺伝子を含んでいてもよい。このようなレポーター遺伝子としては、GUS(β−グルクロニダーゼ)遺伝子、ルシフェラーゼ遺伝子、GFP(緑色蛍光タンパク質)遺伝子等が挙げられる。
【0070】
テトラプレニル−β−クルクメン環化酵素は、酵素発現用ベクターを細菌等に導入することによって得られた形質転換体を培養することにより生成される。形質転換体の培養に用いられる培地は、通常用いられる培地でよく、宿主の種類に応じて適宜選択される。例えば、大腸菌を培養する場合には、LB培地等が用いられる。培地には、選択マーカーの種類に応じた抗生物質が添加されていてもよい。
【0071】
テトラプレニル−β−クルクメン環化酵素は、当該酵素を発現可能な形質転換体を培養することにより得られた培養液から酵素を抽出し精製したものであってもよい。また、培養液中の形質転換体から抽出された酵素を含む抽出液をそのまま用いてもよい。形質転換体からの酵素の抽出方法は、公知の方法を適用してよい。酵素の抽出工程は、例えば、形質転換体を抽出溶媒中で破砕し、細胞内容物を形質転換体の破砕片と分離することを含んでよい。得られた細胞内容物には、目的とするテトラプレニル−β−クルクメン環化酵素が含まれている。
【0072】
形質転換体の破砕方法としては、形質転換体を破砕して、酵素液を回収可能な公知の方法を適用してよく、例えば、超音波破砕、ガラスビーズ破砕等が挙げられる。破砕の条件は、特に制限はなく、10℃以下及び15分間などの、酵素が失活しない条件であればよい。
細胞内容物と微生物体の破砕片との分離方法としては、沈降分離、遠心分離、濾過分離及びこれらの2つ以上の分離方法の組み合わせ等が挙げられる。これらの方法を用いた分離条件は当業者には公知であり、遠心分離の場合には例えば、8,000×g〜15,000×g及び10分間〜20分間である。
【0073】
抽出溶媒としては、酵素抽出の溶媒として通常用いられるものでよく、例えば、Tris−HCl緩衝液、リン酸カリウム緩衝液等が挙げられる。抽出溶媒のpHは、酵素の安定性の点で、3〜10が好ましく、6〜8がより好ましい。
【0074】
抽出溶媒には、界面活性剤が含まれていてもよい。界面活性剤としては、非イオン界面活性剤、両性イオン界面活性等が挙げられる。非イオン界面活性剤としては、ポリ(オキシエチレン)ソルビタンモノオレイン酸エステル(Tween 80)等のポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、n−オクチルβ−D−グルコシド等のアルキルグルコシド、ショ糖ステアリン酸エステル等のショ糖脂肪酸エステル、ポリグリセリンステアリン酸エステル等のポリグリセリン脂肪酸エステル等が挙げられる。両性イオン界面活性剤としては、アルキルベタインであるN,N−ジメチル−N−ドデシルグリシンベタイン等が挙げられる。これら以外にも、トライトンX−100(Triton X-100)、ポリオキシエチレン(20)セチルエーテル(Brij-58)、ノニルフェノールエトキシレート(Tergitol NP-40)等の当技術分野で一般的に用いられる界面活性剤が利用可能である。
抽出溶媒中の界面活性剤の濃度は、酵素の安定性の観点から、0.001質量%〜10質量%が好ましく、0.10質量%〜3.0質量%がより好ましく、0.10質量%〜1.0質量%が更に好ましい。
【0075】
抽出溶媒には、酵素活性の観点から、ジチオスレイトール、β−メルカプトエタノール等の還元剤が含まれていることが好ましい。還元剤としては、ジチオスレイトールが好ましい。抽出溶媒中のジチオスレイトールの濃度は、0.1mM〜1Mが好ましく、1mM〜10mMがより好ましい。抽出溶媒中にジチオスレイトールが存在することによって、酵素におけるジスルフィド結合等の構造が保持されやすくなり、酵素活性がより上昇する傾向がある。
【0076】
抽出溶媒には、酵素活性の観点から、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)等のキレート剤が含まれていることが好ましい。抽出溶媒中のEDTAの濃度は、0.01mM〜1Mが好ましく、0.1mM〜10mMがより好ましい。抽出溶媒中にEDTAが存在することによって、酵素活性を低下させ得る金属イオンがキレートされるため、酵素活性がより上昇する傾向がある。
【0077】
抽出溶媒には、上記の成分以外に、酵素抽出溶媒に添加可能な公知の成分が含まれていてよい。
【0078】
テトラプレニル−β−クルクメン環化酵素は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
テトラプレニル−β−クルクメン環化酵素と3−デオキシアキレオールAとの反応の条件は、酵素反応が進行可能な条件であれば特に制限はない。例えば、反応温度及び反応時間は、テトラプレニル−β−クルクメン環化酵素の活性等に基づいて適宜選択することができる。反応温度及び反応時間は、反応効率の観点から、例えば4℃〜100℃及び0.1時間〜48時間であり、30℃〜60℃及び16時間〜24時間が好ましい。pH条件は、反応効率の観点から、例えば3〜10であり、6〜8が好ましい。
【0079】
反応溶媒は、酵素反応を阻害しないものであれば特に制限はなく、通常用いられる緩衝液等を用いることができる。また、例えば、酵素の抽出工程で使用する抽出溶媒と同一のものを用いることができる。また、テトラプレニル−β−クルクメン環化酵素を含む抽出液(例えば、無細胞抽出液)を酵素液としてそのまま反応に用いてもよい。
【0080】
アンブレイン生成反応におけるテトラプレニル−β−クルクメン環化酵素と、その基質である3−デオキシアキレオールAとの濃度比は、反応効率の観点から、酵素に対する基質のモル濃度比(基質/酵素)として、10〜10000が好ましく、100〜5000がより好ましく、1000〜3000がより好ましく、1000〜2000が更に好ましい。
酵素反応に用いる3−デオキシアキレオールAの濃度は、反応効率の観点から、反応溶媒の全質量に対して0.000001質量%〜0.002質量%が好ましく、0.00001質量%〜0.0002質量%がより好ましい。
【0081】
テトラプレニル−β−クルクメン環化酵素と3−デオキシアキレオールAとが反応する反応工程は、複数回繰り返してもよい。これにより、アンブレインの収率を高めることができる。反応工程を複数回繰り返す場合には、基質となる3−デオキシアキレオールAを反応系に再投入する工程、公知の方法により酵素を失活させた後、反応液中の反応生成物を回収及び精製する工程等を含むものであってもよい。3−デオキシアキレオールAの再投入を行う場合には、反応液中のテトラプレニル−β−クルクメン環化酵素の濃度、反応液中に残存する基質量等によって、投入する時期、投入量を適宜設定することができる。
【0082】
本発明のアンブレインの製造方法は、3−デオキシアキレオールA生成工程とアンブレイン生成工程とを含む場合、アンブレインの生成効率及び製造方法の簡便性の観点から、アリシクロバチルス属細菌に由来する変異型スクアレン−ホペン環化酵素とスクアレンとの反応により得られた3−デオキシアキレオールAに、バチルス属細菌に由来するテトラプレニル−β−クルクメン環化酵素を反応させて、アンブレインを生成することを含む方法であることが好ましい。より好ましくは、アリシクロバチルス・アシドカルダリウスに由来する変異型スクアレン−ホペン環化酵素とスクアレンとの反応により得られた3−デオキシアキレオールAに、バチルス・メガテリウム又はバチルス・サブチリスに由来するテトラプレニル−β−クルクメン環化酵素を反応させて、アンブレインを生成することを含む方法である。
【0083】
[その他の工程]
本発明のアンブレインの製造方法は、生成されたアンブレインを精製する精製工程をさらに含んでもよい。アンブレインの精製方法としては、反応液中のアンブレインを取り出すことができれば特に制限されず、通常用いられる精製方法から適宜選択してよい。精製方法として具体的には、溶媒抽出、再結晶、蒸留、カラムクロマトグラフィー、HPLC等が挙げられる。
【0084】
得られた生成物がアンブレインであることは、ガスクロマトグラフィー質量分析計(GC−MS)及び核磁気共鳴装置(NMR)を用いて常法により確認できる。
【実施例】
【0085】
以下、本発明を実施例にて詳細に説明する。しかしながら、本発明はそれらに何ら限定されるものではない。
【0086】
[実施例1]
スクアレンを材料とし、変異型スクアレン−ホペン環化酵素をスクアレンに反応させる工程と、テトラプレニル−β−クルクメン環化酵素を3−デオキシアキレオールAに反応させる工程と、の2工程によりアンブレインを得た。当該2工程の反応スキームを以下に示す。
【0087】
【化3】
【0088】
(1)3−デオキシアキレオールAの合成
変異型スクアレンーホペン環化酵素(配列番号2)をコードするポリヌクレオチド(配列番号9)を含む組換えベクターで形質転換した大腸菌BL21(DE3)(Biosci. Biotechnol. Biochem., (1999) Vol.63, pp.2189-2198)を用意した。この形質転換体を、アンピシリン(50mg/L)含有LB培地(6L)に植菌し、37℃で16時間振とう培養した。培養後、遠心(6,000×g、10分間)によって集菌した。菌体を50mMのTris−HCl緩衝液(pH8.0)で洗浄した後、300mLの緩衝液A[50mMのTris−HCl緩衝液(pH8.0),1v/v%のTritonX−100を含有。]で懸濁し、UP2005 sonicator(Hielscher Ultrasonics, Teltow, Germany)を用いて超音波破砕(4℃、15分間)した。破砕処理後の試料を遠心(12,000×g、15分間)し、遠心後に得られた上清を無細胞抽出液Aとした。
【0089】
スクアレン(50mg)をTritonX−100(1g)に混合して可溶化した後に緩衝液A(5mL)に添加してスクアレン液を調製した。このスクアレン液全量を無細胞抽出液Aに加えて反応液とし、60℃で16時間インキュベートした。反応液において、スクアレン(基質)と変異型スクアレン−ホペン環化酵素(酵素)とのモル比(基質/酵素)は、約1000であった。
【0090】
インキュベート後に、15質量%水酸化カリウム含有エタノール溶液(KOH/MeOH,450mL)を反応液へ添加して、酵素反応を停止させた。その後、反応液へn−ヘキサン(750mL)を添加して、反応生成物の抽出を3回行った。得られた抽出物を、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶媒:n−ヘキサン)に供し、純粋な3−デオキシアキレオールA(42.2mg)を得た。3−デオキシアキレオールAの構造は、ガスクロマトグラフィー質量分析計(GC−MS)及び核磁気共鳴装置(NMR)によって確認した。
【0091】
(2)アンブレインの合成
バチルス・メガテリウム由来のテトラプレニル−β−クルクメン環化酵素(配列番号16)をコードするポリヌクレオチド(配列番号19)を組み込んだ組換えベクターで形質転換した大腸菌BL21(DE3)(J. Am. Chem. Soc., (2011) Vol.133, pp.17540-17543)を用意した。この形質転換体をLB培地(18L)に植菌し、37℃で3時間振とう培養した。培養後、0.1Mのイソプロピル−β−チオガラクトピラノシド(IPTG)を添加し、15℃で24時間振とうを行い、テトラプレニル−β−クルクメン環化酵素の発現を誘導した。
【0092】
その後、遠心(6,000×g、10分間)によって集菌した菌体を、50mMのTris−HCl緩衝液(pH8.0)で洗浄した後、540mLの緩衝液B[50mMのTris−HCl緩衝液(pH7.5)、0.1v/v%のTritonX−100、2.5mMのジチオスレイトール、1mMのEDTAを含有。]で懸濁し、UP2005 sonicator(Hielscher Ultrasonics, Teltow, Germany)を用いて超音波破砕(4℃、20分間)した。破砕処理後の試料を遠心(12,300×g、20分間)し、遠心後に得られた上清を無細胞抽出液Bとした。
【0093】
前記工程(1)で得られた3−デオキシアキレオールA(35mg)をTritonX−100(700mg)に混合して可溶化した後に緩衝液B(5mL)に添加して3−デオキシアキレオールA液を調製した。この3−デオキシアキレオールA液の全量を無細胞抽出液B(180mL)に加えて反応液とし、30℃で16時間インキュベートした。反応液において、3−デオキシアキレオールA(基質)とテトラプレニル−β−クルクメン環化酵素(酵素)とのモル比(基質/酵素)は、約1000であった。
【0094】
インキュベート後に、15質量%水酸化カリウム含有エタノール溶液(KOH/MeOH、220mL)を反応液へ添加し、さらに70℃で30分加熱処理して、酵素反応を停止させた。その後、反応液へn−ヘキサン(400mL)を添加して、反応生成物の抽出を3回行った。得られた抽出物を、TritonX−100(470mg)に添加して可溶化し、緩衝液B(5mL)に添加した後、無細胞抽出液B(180mL)に加え、上記同様にインキュベート、反応停止、及びn−ヘキサン抽出を行った。次いでさらに1回、上記同様に、抽出物の可溶化、無細胞抽出液Bへの添加、インキュベート、反応停止、及びn−ヘキサン抽出を行った。
【0095】
得られた抽出物を、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶媒:n−ヘキサン、n−ヘキサン:酢酸エチル=100:20、容量比)に供し、n−ヘキサン:酢酸エチル=100:20画分を得た。得られた画分を濃縮し、HPLC(溶媒:n−ヘキサン:THF=100:20)に供し、純粋なアンブレイン(0.4mg)を得た。アンブレインの構造は、ガスクロマトグラフィー質量分析計(GC−MS)及び核磁気共鳴装置(NMR)によって確認した。また旋光度も文献値とほぼ一致した。
【0096】
[実施例2]
テトラプレニル−β−クルクメン環化酵素を、バチルス・メガテリウム由来の酵素からバチルス・サブチリス由来の酵素に変更した以外は、実施例1と同様にして前記工程(1)及び(2)を行い、アンブレインの合成を行った。実施例2で使用したテトラプレニル−β−クルクメン環化酵素は、配列番号20で示されるポリヌクレオチドでコードされる酵素であり、配列番号17で示されるアミノ酸配列を有する。
【0097】
その結果、実施例1と同様に、スクアレンから3−デオキシアキレオールAを経てアンブレインを合成できた。合成されたアンブレインの収量は、バチルス・メガテリウム由来のテトラプレニル−β−クルクメン環化酵素を用いた場合(実施例1)の10%程度であった。
【0098】
本発明によれば、テトラプレニル−β−クルクメン環化酵素を用いることによって、3−デオキシアキレオールAからアンブレインを簡便に製造することができる。
本発明によれば、変異型スクアレン−ホペン環化酵素とテトラプレニル−β−クルクメン環化酵素とを用いることによって、スクアレンから3−デオキシアキレオールAを経てアンブレインを簡便に製造することができる。
【0099】
2013年9月5日に出願された日本国特許出願2013−184143号の開示は、その全体が参照により本明細書に取り込まれる。
本明細書に記載された全ての文献、特許出願、及び技術規格は、個々の文献、特許出願、及び技術規格が参照により取り込まれることが具体的かつ個々に記された場合と同程度に、本明細書中に参照により取り込まれる。