(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記交換される情報が、食事内容に対する指導者の評価、対象者のバイタル値、食事のメニュー、食事頻度、食事タイミングおよび対象者のコメントの少なくとも一つを含むことを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の食事指導支援装置。
【背景技術】
【0002】
メタボリックシンドロームや糖尿病などの生活習慣病は生活習慣や肥満等が主な原因であり、治療の第一選択は食事療法とされている。標準的な食事療法は、被験者が医師や管理栄養士から食事指導を受けて自己管理を継続することが一般的である。
【0003】
このような食事指導における自己管理では、生活習慣改善の具体的方法を提供することが行動変容を促す一つの方法として重要な要素となっている。ここで、行動変容とは、習慣化された行動パターンを変えることである。
【0004】
特許文献1には、検査結果と問診票を利用した生活習慣改善の支援方法が開示されている。特許文献2には、ユーザの摂取カロリーを算出あるいは取得して、摂取過多の場合に警告する構成を有する技術が開示されている。特許文献3には、摂取カロリーと消費カロリーとの両方を考慮してアドバイスを行う方法が開示されている。
【0005】
非特許文献1,2,3には、ユーザが食事画像をサーバへアップロードし、管理栄養士が指導を行うシステムが示されている。このようなシステムではユーザが簡単に管理栄養士の食事指導を受けることができるというメリットがある。このようなシステムでは、一般的には管理栄養士の労働負担を軽減するため、食事写真を3日程度まとめた上でコメントや指導等を行っている。また非特許文献3のように、完全に自己管理型のシステムにする場合もある。
【0006】
自己管理を伴うシステムは、モチベーションが高い人を前提としていることが多く、食事に対する評価を与えたり、自己管理のツールを与えたりするだけで十分事足りる一方、モチベーションがそもそも足りない人には、このようなシステムでは指導が不十分となる傾向にある。
【0007】
そこで、本発明の発明者等は、対象者の健康管理に対するモチベーションを高め、維持するために、食事画像の評価と同時に栄養士とのコミュニケーションを実現するシステムを発明し、特許出願した(特許文献4)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
一般的に、モチベーションを高めるためにはコミュニケーションが必要とされている。専門家から定期的な励ましがあれば、モチベーションが維持される可能性が高い。このような対話形式の食事指導は、特に糖尿病患者のように重症度合いに違いのある患者を指導する際に有効である。
【0011】
対話形式の指導で高い効果を得るためには、専門家が対象者の現在の行動変容フェーズ(意識レベル)を正しく把握し、そのフェーズに応じた適切な指導を対象者に与えることで、改善に向けた行動変容を促すことが必要とされる。以下は、行動心理学に基づく行動変容フェーズ一例である。
【0012】
(1)無関心期:6ヶ月以内に行動変容に向けた行動を起こす意思がない時期
(2)関心期:6ヶ月以内に行動変容に向けた行動を起こす意思がある時期
(3)準備期:1ヶ月以内に行動変容に向けた行動を起こす意思がある時期
(4)実行期:明確な行動変容が観察されるが、その持続がまだ6ヶ月未満である時期
(5)維持期:明確な行動変容が観察され、その期間が6ヶ月以上続いている時期
【0013】
ここで、文献(http://communicare.cocolog-nifty.com/suwa/2007/10/post_5a80.html)には、それぞれの時期について以下のような記載がある。
【0014】
関心期:「行動変容についての関心が「そこそこある」もしくは「とてもある」時期。ようやく、面接などによる直接的な働きかけに、効果が期待できる時期となる。この時期からは、傾聴しながら受容的・共感的に接して、信頼関係を築いていくことが特に大切となり、そのためにカウンセリングの技術が必要となる。関心はあるが行動を起こす意思のない段階であり、その背景には行動変容そのものや、それに伴う負担への不安も少なくない。したがって、行動変容の具体的な方法や過程についても正しく理解してもらい、「それなら私にもできる」という自己効力感を高めてもらうことが大切であり、そのために情報提供としてのティーチングを行う。また、時間に余裕がある人で、しかも誰かと一緒だとやる気の出る人には、皆で支えあいながらゴールを目指すグループワークに誘い、見学してもらったり参加してもらったりするのも効果的」
【0015】
準備期:「行動変容についての関心があるだけではなく、さらに行動変容のための行動を「ちかぢか実行したい」もしくは「直ぐに実行したい」と思っている時期。適切な目標を設定してもらい、行動計画を立ててもらうことで、自己効力感を高めてもらうことが大切。そのためにコーチングを行うことになるが、基礎知識のない初心者で、本人が必要とする場合には、指示や助言によるティーチングも行う。もちろん、情報提供としてのティーチングやグループワークなど、他の技術も適宜、併用するとよい」
【0016】
実行期:「明確な行動変容が観察されるが、今後の持続についての不安が「とてもある」もしくは「そこそこある」時期。自己効力感を高めて持続してもらうために、継続してコーチングを行うことになる。ただし、基礎知識のない初心者で、本人が必要とする場合には、指示や助言によるティーチングも行う。もちろん、情報提供としてのティーチングやグループワークなど、他の技術も適宜、併用するとよい」
【0017】
このように、関心期、準備期の患者には、信頼関係の醸成やカウンセリング等を行い、「それなら私にもできる」という自己効力感を高めてもらうことを必要とする。つまり知識の定期的なインプットだけではなく、いかにコミュニケーションをとって信頼関係を築いて、意識を変えていくかという点も重要視される。そのため、実行期の患者の支援は比較的容易であるが、特に関心期、準備期の患者の支援は極めて難しいという問題があった。
【0018】
一方、単純な食事指導のみを行う場合には、食事画像を中心として、患者への情報提供内容を参照することが求められる。すなわち、専門家がまず食事画像を見て内容を調べて、それに付随する患者とのやりとりを参照する。従って、このような参照を補助するためのシステムとして、例えば
図9に示したような、食事画像をカレンダ等で一覧できるようなUIが適している。
【0019】
しかしながら、モチベーション向上・維持のためには、上記のような参照だけではなく、コミュニケーションの内容から食事の内容を参照したいような状況が存在する。例えば、これまで栄養士のコメントに対して、反応が無かった利用者が「段々良くなってきた」と回答してきた場合には、どういったことに対しての回答かを特定して具体的に回答した方の説得力が高まる。「食事内容が改善してきたからですよ」と回答するより、「・・・月・・・日の食事から・・・の食事では大きく進歩しました。このように頑張ったから、改善してきているのだと思いますよ」と回答した方が、根拠を明確に示すことができ、利用者側の納得感が高まり、自己効力感を高めることができる。
【0020】
また、具体的にどこが良かったかを知ることができ、行動改善にもつながる。つまり、この時期の利用者を対象としたシステムでは、"食事写真を中心にした参照"と"コミュニケーションを中心にした参照"を同時に実現しなければならない。しかしながら、従来のUIでは一方の機能しか実現していないという問題があった。
【0021】
さらに、患者に行動変容を促す際には、情報提供と共に励まし等のコミュニケーションが必要とされる。ここで、情報提供による指導とコミュニケーションによる指導との最適割合は行動変容フェーズによって変化することが知られているが、従来技術では、指導者が患者の健康能力を推定して、健康能力に合わせた指導を行うことが多く、慣れない指導者にとっては指導が難しいという問題があった。
【0022】
本発明の目的は、従来技術の課題を解決し、行動変容モデルに基づいたモデルによって健康能力を推定し、その能力に合わせて食事指導の内容を適正化できる食事指導支援装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0023】
上記の目的を達成するために、本発明は、食事指導の対象者への情報提供およびコミュニケーションによる指導を支援する食事指導支援装置において、対象者と指導者とが交換する情報に基づいて対象者の行動変容フェーズを推定する手段と、情報提供指導に用いる知識を蓄積する知識DBと、指導者による対象者への指導総量を計算する手段と、行動変容フェーズの推定結果に基づいて情報提供指導の量を決定する手段と、行動変容フェーズの推定結果に基づいてコミュニケーション指導の量を決定する手段と、前記指導総量に基づいて情報提供指導の質を決定する手段と、
【0024】
前記情報提供指導の量および質の決定結果に基づいて前記知識DBから対応する知識を抽出する手段と、前記コミュニケーション指導の量および抽出された知識を指導者へ提示する手段とを具備したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、指導対象者の行動変容フェーズやこれまでの指導履歴に応じて、情報提供指導およびコミュニケーション指導の指導ウェイト、指導の量ならびに質を最適化できるので、指導対象者ごとに最適な食事指導が可能になる。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について詳細に説明する。
図1は、本発明を適用した食事指導支援システムの構成を示した図であり、食事指導の対象者(例えば、糖尿病患者や高血圧患者)と指導者(例えば、管理栄養士)とが、食事指導支援装置1およびユーザ端末2を介して食事情報を共有し、さらに情報提供およびコミュニケーションを図ることで指導者による食事指導が進行する。
【0028】
食事指導支援装置1は、対象者から提供される食事情報および指導の量や結果から対象者の行動変容の段階(行動変容フェーズ)を動的に判別し、対象者の現在の行動変容フェーズに応じた適切な食事指導を支援する。
【0029】
本発明では、対象者への指導方法を、(1)管理栄養士による情報提供、(2)管理栄養士と対象者とのコミュニケーション、に分類し、前記行動変容の各フェーズについての分析結果に基づいて、各行動変容フェーズに最良の指導ウェイトを定義した。
【0030】
指導ウェイトとは、対象者に対する食事指導を「情報提供」および「コミュニケーション」のいずれに、どの程度のウェイトを置いて行うかを表す指標であり、
図2に示したように、無関心期では情報提供指導のウェイトを高くし、関心期から準備期へ進むにつれてコミュニケーション指導のウェイトを高くし、実行期ではコミュニケーション指導のウェイトを最も高くする。その後、維持期へ進むにつれて再び情報提供指導のウェイトを高くする。
【0031】
そして、本発明では対象者が自身の健康状態を改善し、更には改善後の健康状態を維持できるように食生活を律して健康目標を達成するための能力(健康能力)を決定付ける要素が、(1) コミュニケーション指導により上昇が期待される「意志能力」、および(2) 情報提供指導により上昇が期待される「リテラシー能力」、の総和であると仮定した。
【0032】
なお、本実施形態では管理栄養士と対象者とのコミュニケーションとして、一般的な双方向の情報伝達というよりはむしろ、管理栄養士から対象者への「励まし」や「頑張りを褒める」を想定している。したがって、本実施形態における「コミュニケーション指導」は、管理栄養士が対象者を、励ましたり褒めたりすることで、対象者の自己効力感を高めることを意図している。
【0033】
図3は、無関心期の対象者が、
図2に示した指導ウェイトにしたがって情報提供指導およびコミュニケーション指導を受けることにより、健康能力が上昇する例を示した図である。
【0034】
意志能力に着目した場合の行動変容フェーズと健康能力との関係(意志能力成長曲線A)は、前記
図2におけるコミュニケーション量の累積グラフとなり、リテラシー能力に着目した場合の行動変容フェーズと健康能力との関係(リテラシー能力成長曲線B)は、前記
図2の情報提供量の累積グラフとなり、健康能力は各指導量の総和(直線C)に比例する。
【0035】
ここで、意思能力曲線Aに着目すると、健康能力が最初の無関心期はほぼ「0」であり、維持期に至れば行動変容が完了してほぼ「1」になる。本発明では、無関心期から維持期への移行期間が支援対象であり、対象者の言動変化やバイタル値の変化の積み重ねの結果で行動変容に至ると仮定すれば、関心期から実行期までの対象者は、「実行していきたいという意思があるが、一歩が踏み出せない」といった対象者であるため、より多くの励まし(コミュニケーション)が必要になる。
【0036】
これに対して、無関心期に対してのコミュニケーションは押し付けと感じてしまう部分が大きく、実行期以降では意思能力が十分に育ち、自己管理の方法論等を確立しているため、コミュニケーションは多くは必要ない。
【0037】
関心期の対象者には、頑張りを適正に評価して励ましたり、褒めたりすることで自己効力感をもってもらう必要がある。つまり、関心期では「行動」に焦点をあてて評価を行うのに対して、実行期に近づく程、「結果」に焦点を当てた評価が行うようになっていく。言い換えれば、フェーズが進まない段階では「ほんのわずかな変化」でも過大に評価し、フェーズが進んだ段階では「比較的大きな変化」にならないと評価しない。これは、自らの意思能力からの解離度(%)で適正に評価することを意味している(レベルが低い時期には、そのレベルにとって、どの程度頑張ったかを評価する必要がある)。
【0038】
本実施形態では、指導が(1) コミュニケーション(励まし等)、(2) 情報提供、により構成されるが、コミュニケーションについて考えると、フェーズの進まない段階(関心期や準備期等)では、ほんのわずかな変化であっても検出し、コミュニケーションを行うものとする。内容はポジティブな変化を多く検出し、より多く褒めることが望ましい。一方、フェーズが進んだ段階では、マイナスの変化を注意するコミュニケーションが必要である。
【0039】
情報提供について考えると、フェーズの進まない段階では、多くの情報提供をする必要はない。一方、フェーズが進むに連れて意志力が造成されるため、その意志力を利用できる情報提供を多く行っていく必要がある。内容は、フェーズが進まない段階では、より一般的な知識が必要とされるのに対し(興味を持ってもらう必要があるため)、フェーズが進んだ段階では、より実際的な専門的識が必要になる。
【0040】
これとは逆に、ネガティブな変化の検出については、上記のシグモイド曲線が減少する形状になる。この場合、フェーズの進まない段階ではネガティブな変化は比較的大きな変化しか検出しないため、より一般的な情報を与え、フェーズが進んだ段階では個別的な情報を与えることが多い。もちろん、行動変容フェーズが進んだとしても非常に大きな変化であれば、個別的に対応するのが望ましい。
【0041】
すなわち、行動変容フェーズによって、指導に対する閾値が変化することになる。ここで、本発明では対象者の意思能力を変化させる「コミュニケーション指導」については、対象者の行動を褒めたり注意したりするための変化量に対する閾値と考える。
【0042】
一方、リテラシー変化の検出に際しては、能力変化にともなってしきい値を変化させる。ここで、本発明では上記の"リテラシーを変化させる「情報提供」"については、対象者への情報の幅と深さに対する閾値と考える。
【0043】
すなわち、無関心期では対象者の興味に合致するように(何に関心があるかわからないので、その網にひっかかるように)幅広い情報を浅い深度で提供するのが望ましいのに対して、フェーズが進んだ段階では、より自己管理等を行うことができるように、特定の情報を深い深度で提供する必要がある。この際に、最終的に収斂させる「特定の情報」は、対象者の指導目的に応じて変えることが望ましい。例えば、糖尿病指導であれば、糖尿病の自己管理に関する知識へと収斂させていく。
【0044】
図4は、本発明の一実施形態に係る食事指導支援装置1の主要部の構成を示したブロック図であり、ここでは、本発明の説明に不要な構成は図示が省略されている。このような食事指導支援装置1は、汎用のコンピュータやサーバに、後述する各機能を実現するアプリケーション(プログラム)を実装することで構成できる。あるいは、アプリケーションの一部がハードウェア化またはROM化された専用機や単能機として構成しても良い。
【0045】
食事指導制御部10は、食事指導の対象者(患者)から送信される食事画像や食事内容の情報管理、受信した食事画像等に対する各管理栄養士による評価、および各対象者と管理栄養士とのコメント送受によるコミュニケーションや情報提供を管理して食事指導を実現し、さらに各情報を可視化して各対象者および各管理栄養士のディスプレイ上に時系列でスクロール可能に同期表示するためのUI制御部10aを備える。
【0046】
指導履歴DB20には、各対象者から受信した食事内容の履歴情報20a、各対象者への管理栄養士によるコミュニケーション指導の履歴情報20bおよび管理栄養士から各対象者への情報提供指導の履歴情報20cが、各対象者の識別子(ユーザID)ごとに時系列で記憶されている。
【0047】
前記食事情報履歴20aには、各対象者が摂取した食事の画像、食事の内容および食事の時刻ならびに各食事に対して管理栄養士が計算した食事バランスガイドや食品交換表の評価値等が含まれる。
【0048】
前記コミュニケーション履歴20bには、各対象者に対して各管理栄養士が食事指導した内容や各対象者からの応答として、食事内容を評価するコメントや対象者を叱咤激励するコメントなどが含まれる。
【0049】
前記情報提供履歴20cには、管理栄養士から対象者へ提供した各種情報の態様や提供日時等が含まれる。
【0050】
特異事象検出部30は、前記指導履歴DB20に蓄積されている食事情報履歴20aおよびコミュニケーション履歴20bから、対象者が行動変容する過程で特異的に観察される事象(特異事象)を抽出して定量化し、さらには対象者に行動変容が生じたと認識できるような比較的大きな事象の変化点を検出する。本実施形態では、特異事象として以下の6事象が抽出対象および変化点の検出対象とされる。
【0051】
(1) 特異事象A:食事画像に対する栄養士の評価
(2) 特異事象B:対象者の血糖値等のバイタル値
(3) 特異事象C:食事のメニュー
(4) 特異事象D:食事頻度
(5) 特異事象E:食事タイミング
(6) 特異事象F:対象者のコメント
【0052】
特異事象Aは、食事バランスガイドでは5種類、食品交換表では6種類の定量値であり、その数値の変化が抽出される。このとき、変化量の閾値を設けて一定以上の変化があった場合に抽出を行えば良い。閾値の変化関数として、線形に変化させても良いし、健康能力の%で表してもよい。なお、健康能力が管理栄養士とのコミュニケーションの累積値に依存するならば、健康能力はシグモイド関数で表しても良い。
【0053】
また、比較する期間を広げてしまっても同様の目的を達成できる。フェーズが進まない段階では、前日との比較を行う一方、フェーズが進んだ段階では1週間おきに比較を行うようにしても良い。この期間間隔も上記と同様の閾値で決定すれば良い。
さらに、前日や前々日からの変化率によって、日々の変化の大きさを推定できる。一般的に変化が小さい場合にはフェーズがまだそれほど進んでいない段階であり、変化が大きい場合にはフェーズがだいぶ進んでいる段階である。
【0054】
特異事象Bは、上記と同様のシグモイド関数とみなしても良い。
【0055】
特異事象Cについては、まず食事に関連する単語変化を見る。例えば、いつもお昼に「菓子パン」を食べる人は「メロンパン」、「ジャムパン」等の文字が多く得られる。この人に行動変容が起こり、比較的体に良いとされる「アンパン」や「おにぎり」等になった際、これらの概念上の距離を参照する。予め用意された概念辞書(シソーラス)上での距離を計算することで、変化度合いを数値化できる。
【0056】
この場合では、アンパンは比較的距離は近いがおにぎりは距離が遠いことになる。また、データがある程度得られている場合には、頻度情報を用いても良い。すなわち、メニューに関する単語から文書ベクトルを生成し、直近のベクトルと以前のベクトルとの距離を計算すれば良い。
【0057】
特異事象Dについては、頻度が多い方が関心は高いと考える。その一方で、一定以上のフェーズをすぎると食事回数を少なくする必要があることが多い。
【0058】
特異事象Eについては、食事タイミングとしては、食事を取得した時間が、どの程度規則的か、どの程度標準からずれていないかを評価値とすれば良い。
【0059】
特異事象Fについては、コメント内容から食事に関連する単語を抽出し、分類してベクトルとすれば良い。最も単純なものでは、ポジティブワードとネガティブワードの2次元ベクトルである。
【0060】
特異事象分析部40において、特異事象変量計算部40aは、前記特異事象A,B,C,D,E,Fの各定量値a,b,c,d,e,fの少なくとも一つを所定の関数fに適用することで、行動変容フェーズの遷移指標となる特異事象変量ΔP=f(a,b,c,d,e,f)を計算する。変化点検出部40bは、前記各定量値a,b,c,d,e,fまたは前記特異事象変量ΔPが所定の閾値Prefを超えると、これを行動変容の契機となる有意な変化点として検出する。
【0061】
なお、閾値Prefが特異事象A,B,C,D,E,Fごとに設定される場合に、例えば、特異事象Aには閾値Pref_aを設定し、特異事象Bには閾値Pref_bを設定し、特異事象Cには閾値Pref_cを設定・・・するのであれば、a>Pref_a,b>Pref_b,またはc>Pref_c・・・が検知されると変化点として検出されるようにしても良い。
【0062】
閾値更新部40cは、前記変化点検出のための閾値Prefを、後述する行動変容推定部50により推定される当該対象者の現在の行動変容フェーズすなわち特異事象の累積値に応じて動的に更新する。本実施形態では、行動変容フェーズを進行させる正の特異事象変量、すなわち過多であった食事回数が減少したり、バイタル値が正常範囲に近づいたり、栄養士の評価や対象者のコメントがポジティブであったりした場合の特異事象変量に適用される閾値Prefは、行動変容フェーズが進むほど大きくなる。
【0063】
これに対して、行動変容フェーズを後退させる負の特異事象変量、すなわち過多であった食事回数が更に増えたり、バイタル値が正常範囲から遠ざかったり、栄養士の評価や対象者のコメントがネガティブであったりした場合の特異事象変量に適用される閾値Prefは、行動変容フェーズが進むほど小さくなる。
【0064】
このような動的な閾値設定は、行動変容フェーズを進行させる正の特異事象変量に対してはシグモイド関数に比例した閾値を適用する一方、行動変容フェーズを後退させる負の特異事象変量に対してはシグモイド関数に反比例した閾値を適用することにより実現できる。
【0065】
対応関係記憶部80には、特異事象の累積値と行動変容フェーズとの第1の対応関係80a(
図5)、指導ウェイトと行動変容フェーズとの第2の対応関係80b(
図2)および意志能力成長曲線Aとリテラシー能力成長曲線B80cとの関係(
図3)が予め登録されている。
【0066】
図5は、前記第1の対応関係80aの一例を示した図であり、行動変容フェーズ(横軸)と特異事象の累積値(縦軸)の対応関係が記憶されている。
図2は、前記第2の対応関係80bの一例を示した図であり、指導ウェイト(横軸)と行動変容フェーズ(縦軸)との対応関係が記憶されている。
【0067】
図4へ戻り、行動変容推定部50は、
図6に示したように、現在の行動変容フェーズすなわち当該行動変容フェーズの判定基準となった特異事象累積値ΣPに前記今回の特異事象変量ΔPを加えて更新し、更新後の特異事象累積値ΣP+ΔPを前記対応関係80aに適用することにより、当該更新後の特異事象累積値に対応した現在の行動変容フェーズを推定する。なお、各対象者の最初の行動変容フェーズは、例えば管理栄養士が個別面談等を行うことで予め手動で設定される。
【0068】
総指導量計算部90は、管理栄養士が対象者へこれまでに行った指導の総量、すなわちコミュニケーション指導の総量と情報提供指導の総量との和を総指導量として計算する。本実施形態では、管理栄養士から対象者への指導回数や、指導コメントに含まれる単語数の総数で指導総量を代表できる。
【0069】
指導方針決定部60は、前記更新後の行動変容フェーズおよび総指導量に基づいて、対象者に対する今後の指導方針を決定する。
【0070】
知識DB100には、
図7に示したように、各指導対象者のリテラシー能力を向上させるために情報提供すべき知識が蓄積されている。このような知識は多岐にわたるので、知識DB100では大量の知識がその専門度に応じて階層的に管理され、さらに各階層では各知識が話題ごとに複数のグループに小分けされている。
【0071】
階層構造の第4階層には、例えば食事についての知識といった、専門知識と関連する一般知識が蓄積されている。第3階層には、例えば糖尿病の食事の知識といった、専門的な知識が蓄積されている。第2階層には、例えば糖尿病の知識といった、より専門的な知識が蓄積されている。第1階層には、例えば糖尿病の自己管理の知識といった、最も専門的な知識が蓄積されている。
【0072】
指導方針決定部60において、情報提供指導の質決定部60aは、前記総指導量計算部90による総指導量の計算結果に基づいて情報提供指導の質を決定する。本実施形態では、総指導量が多いほど、指導対象者へ提供する前記知識の階層がより上位の層に決定される。
【0073】
情報提供指導の量決定部60bは、前記行動変容推定部50による行動変容フェーズの推定結果に基づいて情報提供指導の量を決定する。本実施形態では、前記決定された階層において、指導対象者へ提供する前記知識の話題数が決定され、行動変容フェーズが進むほど、より多くの話題に関する知識が提供されるようになる。
【0074】
なお、階層ごとに複数の話題の中から行動変容フェーズの推定結果に応じた個数の話題を選択する際には、予め話題ごとに出現単語の存在割合を分析すると共に、各出現単語に対する各指導対象者の興味指数を予め調査しておき、話題ごとに各出現単語とその興味指数との積の総和に基づいて優先度を設定し、優先度のより高い話題から選択されるようにすることが望ましい。
【0075】
あるいは、予め最下層(第4階層)以外の第n階層の各話題について、その下位(n+1)層の各話題との関連性および当該下位層の各話題の提示回数を予め調査しておき、第n階層の話題ごとに前記関連性と提示回数との積の総和に基づいて優先度を設定し、優先度のより高い話題から選択されるようにしても良い。
【0076】
コミュニケーション指導の量決定部60cは、前記行動変容推定部50による行動変容フェーズの推定結果に基づいてコミュニケーション指導の量を決定する。当該コミュニケーション指導の量と前記情報提供指導の量との割合は、前記
図2を参照して説明した指導ウェイトと行動変容フェーズとの対応関係に基づいて決定される。
【0077】
前記指導方針決定部60は、前記情報提供指導の量および質の決定結果に基づいて前記知識DB100から対応する知識を抽出する。前記指導方針決定部60はさらに、前記コミュニケーション指導の量の決定結果に基づいて、前記変化点検出部40bにより検出されて行動変容フェーズの改善要因となった複数の有意な変化点の中から、変化量のより多い変化点を前記コミュニケーション指導の量に相当する個数だけ優先的に選択してメッセージ化する。
【0078】
例えば、〇月〇日に検知された血圧値の20mmHg低下が変化点として選択されると、「〇月〇日に血圧値が20mmHgも改善しました」という励ましメッセージが生成される。そして、以上のようにして選択された知識および変化点は、UI制御部70を介して管理栄養士へ提示される。
【0079】
図8は、管理栄養士への提示例を示した図であり、ディスプレイ上に情報提供用の知識を時系列でスクロール可能に表示する情報提供タイムラインTL1と、コミュニケーション用の情報を時系列でスクロール可能に表示するコミュニケーションタイムラインTL2とが並列表示され、各タイムラインTL1,TL2は一方をスクロールさせれば他方もこれに同期してスクロールするように表示制御される。
【0080】
情報提供タイムラインTL1には、前記知識DB100から抽出された知識が表示される。コミュニケーションタイムラインTL2には、前記決定されたコミュニケーション指導の量に応じた個数の励ましコメントが表示される。
【0081】
図9は、同期表示される各タイムラインTL1,TL2の表示例を示した図であり、同図(a)は、情報提供量を少なくしてコミュニケーション量を多くすると決定された場合の表示例であり、コミュニケーションタイムラインTL2には、対象者の頑張りを評価する多数のコメントが表示されている。
【0082】
同図(b)は、情報提供量およびコミュニケーション量をいずれも中程度と決定された場合の表示例であり、同図(c)は、情報提供量を多くしてコミュニケーション量を少なくすると決定された場合の表示例である。同図(b),(c)では、コミュニケーション指導について決定された量が「2」であったため、コミュニケーションタイムラインTL2には、「2/15に血糖値が5改善」、「2/17に食事回数を減らした」という2つの指導メッセージが表示されている。
【0083】
本実施形態によれば、指導対象者の行動変容フェーズやこれまでの指導履歴に応じて、情報提供指導およびコミュニケーション指導の指導ウェエイト、指導の量ならびに質を最適化できるので、指導対象者ごとに最適な食事指導が可能になる。