特許第6429354号(P6429354)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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特許6429354ガラス基板の研磨方法、研磨液、ガラス基板の製造方法、磁気ディスク用ガラス基板の製造方法及び磁気ディスクの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6429354
(24)【登録日】2018年11月9日
(45)【発行日】2018年11月28日
(54)【発明の名称】ガラス基板の研磨方法、研磨液、ガラス基板の製造方法、磁気ディスク用ガラス基板の製造方法及び磁気ディスクの製造方法
(51)【国際特許分類】
   G11B 5/84 20060101AFI20181119BHJP
   B24B 37/00 20120101ALI20181119BHJP
   C09K 3/14 20060101ALI20181119BHJP
   C09G 1/02 20060101ALI20181119BHJP
   C03C 19/00 20060101ALI20181119BHJP
【FI】
   G11B5/84 A
   B24B37/00 H
   C09K3/14 550Z
   C09K3/14 550D
   C09G1/02
   C03C19/00 Z
【請求項の数】15
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2017-519424(P2017-519424)
(86)(22)【出願日】2016年5月20日
(86)【国際出願番号】JP2016065103
(87)【国際公開番号】WO2016186214
(87)【国際公開日】20161124
【審査請求日】2017年10月30日
(31)【優先権主張番号】特願2015-102786(P2015-102786)
(32)【優先日】2015年5月20日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000113263
【氏名又は名称】HOYA株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100113343
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 武史
(72)【発明者】
【氏名】中川 裕樹
【審査官】 中野 和彦
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−100570(JP,A)
【文献】 特開2004−063062(JP,A)
【文献】 特開2004−027224(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/118648(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G11B 5/84
B24B 37/00
C03C 19/00
C09G 1/02
C09K 3/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化セリウムを研磨砥粒として含む研磨液でガラス基板の表面を研磨処理するガラス基板の研磨方法であって、
前記研磨液は、亜硫酸塩を除く、セリウム(4価)を3価に還元する無機還元剤を含むとともに、アルカリ性であることを特徴とするガラス基板の研磨方法。
【請求項2】
酸化セリウムを研磨砥粒として含む研磨液でガラス基板の表面を研磨処理するガラス基板の研磨方法であって、
前記研磨液は、アルカリ金属又はアルカリ土類金属とのチオ硫酸塩、ホスフィン酸塩、もしくは亜ジチオン酸塩から選ばれる少なくとも1種を含むとともに、アルカリ性であることを特徴とするガラス基板の研磨方法。
【請求項3】
前記無機還元剤は、アルカリ金属又はアルカリ土類金属とのチオ硫酸塩、ホスフィン酸塩、もしくは亜ジチオン酸塩から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1に記載のガラス基板の研磨方法。
【請求項4】
前記無機還元剤の含有量は、0.5重量%〜10重量%の範囲であることを特徴とする請求項1又は3に記載のガラス基板の研磨方法。
【請求項5】
前記アルカリ金属又はアルカリ土類金属とのチオ硫酸塩、ホスフィン酸塩、もしくは亜ジチオン酸塩から選ばれる少なくとも1種の含有量は、0.5重量%〜10重量%の範囲であることを特徴とする請求項2に記載のガラス基板の研磨方法。
【請求項6】
前記研磨液のpHは、8〜12の範囲内であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載のガラス基板の研磨方法。
【請求項7】
前記酸化セリウム砥粒はランタン(La)を含むことを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載のガラス基板の研磨方法。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれかに記載のガラス基板の研磨方法を適用した研磨処理を含むことを特徴とするガラス基板の製造方法。
【請求項9】
請求項8に記載のガラス基板の製造方法を適用し、前記ガラス基板は、磁気ディスク用ガラス基板であることを特徴とする磁気ディスク用ガラス基板の製造方法。
【請求項10】
請求項9に記載の磁気ディスク用ガラス基板の製造方法によって製造された磁気ディスク用ガラス基板上に、少なくとも磁性膜を形成することを特徴とする磁気ディスクの製造方法。
【請求項11】
ガラス基板の表面の研磨処理に用いる研磨液であって、
前記研磨液は、酸化セリウムを研磨砥粒として含み、さらに亜硫酸塩を除く、セリウム(4価)を3価に還元する無機還元剤を含むとともに、アルカリ性であることを特徴とする研磨液。
【請求項12】
ガラス基板の表面の研磨処理に用いる研磨液であって、
前記研磨液は、酸化セリウムを研磨砥粒として含み、さらにアルカリ金属又はアルカリ土類金属とのチオ硫酸塩、ホスフィン酸塩、もしくは亜ジチオン酸塩から選ばれる少なくとも1種を含むとともに、アルカリ性であることを特徴とする研磨液。
【請求項13】
前記無機還元剤は、アルカリ金属又はアルカリ土類金属とのチオ硫酸塩、ホスフィン酸塩、もしくは亜ジチオン酸塩から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項11に記載の研磨液。
【請求項14】
前記無機還元剤の含有量は、0.5重量%〜10重量%の範囲であることを特徴とする請求項11又は13に記載の研磨液。
【請求項15】
前記アルカリ金属又はアルカリ土類金属とのチオ硫酸塩、ホスフィン酸塩、もしくは亜ジチオン酸塩から選ばれる少なくとも1種の含有量は、0.5重量%〜10重量%の範囲であることを特徴とする請求項12に記載の研磨液。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハードディスクドライブ(HDD)等の磁気ディスク装置に搭載される磁気ディスクの製造に好適なガラス基板の研磨方法、研磨液、ガラス基板の製造方法、磁気ディスク用ガラス基板の製造方法及び磁気ディスクの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ハードディスクドライブ(HDD)等の磁気ディスク装置に搭載される情報記録媒体の一つとして磁気ディスクがある。磁気ディスクは、基板上に磁性層等の薄膜を形成して構成されたものであり、その基板としてアルミ合金基板やガラス基板が用いられてきた。最近では、高記録密度化の追求に呼応して、アルミ合金基板と比べて磁気ヘッドと磁気ディスクとの間隔をより狭くすることが可能なガラス基板の占める比率が次第に高くなってきている。また、磁気ディスク用基板の表面は磁気ヘッドの浮上高さを極力下げることができるように、高精度に研磨して高記録密度化を実現している。近年、HDDの更なる大記録容量化の要求は増すばかりであり、これを実現するためには、磁気ディスク用基板においても更なる高品質化が必要になってきており、より平滑でより清浄な基板表面であることが求められている。
【0003】
上述したように高記録密度化にとって必要な低フライングハイト(浮上量)化のために磁気ディスク表面の高い平滑性は必要不可欠である。磁気ディスク表面の高い平滑性を得るためには、結局、高い平滑性の基板表面が求められるため、高精度にガラス基板表面を研磨する必要がある。
【0004】
従来の方法としては、研磨に関しては、たとえば特許文献1には、酸化アルミニウム等の砥粒、水溶性無機アルミニウム塩、ニッケル塩より選ばれる無機塩、水溶性キレート剤を含有する研磨剤スラリーで、アルミニウム等の磁気ディスク用基板を研磨する際に、上記キレート剤と反応して生成した難溶性のキレート塩を予め除去してから使用することで、スクラッチを低減する発明が開示されている。
また、特許文献2には、フェノール類やレダクトン類の有機還元剤を含む研磨液で磁気ディスク用基板を研磨することで、研磨速度(特に研磨速度の持続性)及び研磨後の表面品質(清浄性)を向上させる発明が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−63806号公報
【特許文献2】特開2013−32502号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来、磁気ディスク用基板の主表面の研磨処理は複数段階で行われ、通常最初の第1研磨処理は、酸化セリウムを研磨砥粒に用いて行われていたが、本発明者の検討によると、この酸化セリウム砥粒を用いた研磨処理においては、研磨速度が低く、また連続研磨処理時の研磨速度の低下が大きいことがわかっており、このことが表面品質をより向上させた基板の大量生産を実現する上で障害となっていた。また、本発明者は、上述の酸化セリウム砥粒を用いた研磨処理に、上記特許文献に開示された方法をはじめとする従来の様々な研磨技術を適用して検討してみたが、研磨速度を向上させることは困難であった。また、連続研磨処理時の研磨速度の低下を十分に低減させることも困難であった。最初の第1研磨処理は、通常、複数の研磨処理の中でも最も取代量が多いため、研磨速度がとりわけ重要である。
【0007】
本発明はこのような従来の課題を解決すべくなされたものであって、その目的は、酸化セリウムを研磨砥粒とするガラス基板主表面の研磨処理において、研磨速度を向上できるガラス基板の研磨方法を提供することである。また、このような研磨速度向上の効果が長期間に渡って維持できるガラス基板の研磨方法を提供することも目的とする。特に磁気ディスク用ガラス基板に好適な研磨方法を提供することも目的とする。
また、このような本発明のガラス基板の研磨方法に好適に用いられる研磨液を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そこで、本発明者は、上記従来の課題を解決するための手段を模索した結果、酸化セリウムを研磨砥粒とする研磨処理に用いる研磨液中に、無機還元剤を含むとともに、研磨液がアルカリ性であることにより、研磨速度が向上することを見出した。また、このような研磨速度向上の効果が長期間に渡って維持できることも見出した。
本発明者は、得られた知見に基づき、更に鋭意研究の結果、本発明を完成させた。すなわち、本発明は以下の構成を有する。
【0009】
(構成1)
酸化セリウムを研磨砥粒として含む研磨液でガラス基板の表面を研磨処理するガラス基板の研磨方法であって、前記研磨液は、無機還元剤を含むとともに、アルカリ性であることを特徴とするガラス基板の研磨方法。
【0010】
(構成2)
前記無機還元剤は、アルカリ金属又はアルカリ土類金属とのチオ硫酸塩、ホスフィン酸塩、亜ジチオン酸塩、もしくは亜硫酸塩から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする構成1に記載のガラス基板の研磨方法。
【0011】
(構成3)
前記研磨液のpHは、8〜12の範囲内であることを特徴とする構成1又は2に記載のガラス基板の研磨方法。
(構成4)
前記酸化セリウム砥粒はランタン(La)を含むことを特徴とする構成1乃至3のいずれかに記載のガラス基板の研磨方法。
【0012】
(構成5)
構成1乃至4のいずれかに記載のガラス基板の研磨方法を適用した研磨処理を含むことを特徴とするガラス基板の製造方法。
【0013】
(構成6)
構成5に記載のガラス基板の製造方法を適用し、前記ガラス基板は、磁気ディスク用ガラス基板であることを特徴とする磁気ディスク用ガラス基板の製造方法。
【0014】
(構成7)
構成6に記載の磁気ディスク用ガラス基板の製造方法によって製造された磁気ディスク用ガラス基板上に、少なくとも磁性膜を形成することを特徴とする磁気ディスクの製造方法。
【0015】
(構成8)
ガラス基板の表面の研磨処理に用いる研磨液であって、前記研磨液は、酸化セリウムを研磨砥粒として含み、さらに無機還元剤を含むとともに、アルカリ性であることを特徴とする研磨液。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、酸化セリウムを研磨砥粒とするガラス基板主表面の研磨処理において、研磨速度を向上できるガラス基板の研磨方法を提供することができる。また、このような研磨速度向上の効果が長期間に渡って維持できるガラス基板の研磨方法を提供することができる。そして、本発明のガラス基板の研磨方法は、特に磁気ディスク用ガラス基板の研磨処理に好適である。
また、本発明によれば、このような本発明のガラス基板の研磨方法に好適に用いられる研磨液を提供することができる。
【0017】
そして、本発明によって得られる例えば磁気ディスク用ガラス基板は、生産性が高く、特に基板表面品質への要求が現行よりもさらに厳しいものとなっている次世代用の基板として好適に使用することが可能である。また、本発明によって得られる磁気ディスク用ガラス基板を利用し、たとえばDFH機能を搭載した低浮上量設計の磁気ヘッドと組み合わせた場合においても長期に安定した動作が可能な信頼性の高い磁気ディスクを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】磁気ディスク用ガラス基板の断面図である。
図2】磁気ディスク用ガラス基板の全体斜視図である。
図3】両面研磨装置の概略構成を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態を詳述する。本実施の形態では、主に、磁気ディスク用基板として好適な磁気ディスク用ガラス基板について説明する。
【0020】
磁気ディスク用ガラス基板は、通常、ガラス基板成型、穴あけ処理、面取処理、研削処理、端面研磨処理、主表面研磨処理、等の処理を経て製造される。なお、処理の順序は上記に限定されるものではない。
【0021】
この磁気ディスク用ガラス基板の製造は、まず、溶融ガラスからダイレクトプレスにより円板状のガラス基板(ガラスディスク)を成型する。なお、このようなダイレクトプレス以外に、ダウンドロー法やフロート法で製造された板ガラスから所定の大きさに切り出してガラス基板(ガラスディスク)を得てもよい。その後、適宜、穴あけ処理や面取処理を行い、中心部に円孔を有する円板状ガラス基板(ガラスディスク)とする。
【0022】
次に、上記円板状ガラス基板(ガラスディスク)に寸法精度及び形状精度を向上させるための研削処理を行う。この研削処理は、通常両面研削装置を用い、ガラス基板主表面の研削を行う。こうしてガラス基板主表面を研削することにより、所定の板厚、平坦度に加工するとともに、所定の表面粗さを得る。
【0023】
この研削処理の終了後は、ブラシ研磨等による端面研磨処理を経て、高精度な主表面(鏡面)を得るための主表面研磨処理を行う。
本発明においては、ガラス基板の表面(端面および主表面)の研磨方法としては、酸化セリウムを研磨砥粒として含有する研磨液を供給しながら、ポリウレタン等の研磨パッドを用いて行うのが好適である。
【0024】
本発明は、上記のとおり、酸化セリウムを研磨砥粒として含む研磨液でガラス基板の表面を研磨処理するガラス基板の研磨方法において、上記研磨液は、無機還元剤を含むとともに、アルカリ性であることを特徴とするものである。
【0025】
このような研磨処理に用いられる上記研磨液は、研磨砥粒と溶媒である水の組合せであり、本発明では無機還元剤が含まれ、その他の添加剤が必要に応じて含有されている。
酸化セリウム砥粒を含む研磨液を組成するには、例えば純水を用い、さらに無機還元剤、その他の添加剤を必要に応じて添加して研磨液とすればよい。
【0026】
本発明において、研磨液に含有される酸化セリウム砥粒は、平均粒径が0.1〜2.0μm程度のものを使用するのが研磨効率の点からは好ましい。特に、平均粒径が0.8〜1.3μm程度のものを使用するのが好ましい。
なお、本発明において、上記平均粒径とは、光散乱法により測定された粒度分布における粉体の集団の全体積を100%として累積カーブを求めたとき、その累積カーブが50%となる点の粒径(以下、「累積平均粒子径(50%径)」と呼ぶ。)を言う。本発明において、累積平均粒子径(50%径)は、具体的には、粒子径・粒度分布測定装置を用いて測定することができる。
【0027】
また、上記酸化セリウム砥粒としては、基本的には不純物を含まない高純度酸化セリウムを使用することができるが、本発明においてはランタン(La)を含むことも好適である。ランタン(La)を含む酸化セリウム砥粒は、研磨速度の向上効果がより大きくなる。ランタンの含有量は、TREO(total rare-earth oxides:研磨剤中の全希土類酸化物の量)に対する酸化ランタン(La)の含有量として表す。
【0028】
このように酸化セリウム砥粒がランタン(La)を含む場合のランタンの含有量は、TREOに対する酸化ランタン(La)としての含有量が、例えば1〜50%の範囲であることが好ましい。酸化ランタン(La)の含有量が1%未満であると、ランタン(La)を含むことによる効果があまり得られない。また、酸化ランタン(La)の含有量が50%よりも多いと、酸化セリウム成分が相対的に少なくなり、研磨速度が低下してしまうことがある。
【0029】
上記酸化セリウム砥粒の研磨液中の含有量は特に制約される必要はなく、適宜含有量を調整して用いることができるが、研磨速度とコストの観点から、例えば1〜20重量%とすることが好ましい。
【0030】
本発明においては、上記研磨処理に適用する研磨液に、無機還元剤を含有させることを特徴とするものである。
本発明において、上記無機還元剤としては、例えば、アルカリ金属(Li,Na,K,Rb,Cs,Fr)又はアルカリ土類金属(Be,Mg,Ca,Sr,Ba,Ra)とのチオ硫酸塩、ホスフィン酸塩、亜ジチオン酸塩、もしくは亜硫酸塩から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0031】
酸化セリウムを研磨砥粒として含む研磨液に無機還元剤を含むことにより、研磨速度を向上できる理由は、以下のように推察される。
無機還元剤、例えば上記チオ硫酸塩は還元性をもち、セリウム(4価)を3価に還元する。3価のセリウムはガラスのSi−Oへ電子を与えることでその結合を弱めるため、研磨速度が向上する。
【0032】
また、無機還元剤の中でも上述の無機還元剤はアルカリ性条件下において酸化されにくく安定で、還元効果が長持ちすると考えられる。中でもチオ硫酸塩は、酸素(強力な酸化剤)との反応性が極めて低いため、研磨液中の溶存酸素や、空気中の酸素と酸化還元反応を起こしにくい。そのため、長時間研磨処理した場合においても、研磨液中の無機還元剤の還元性が損なわれにくい。したがって、研磨液に本発明の無機還元剤を含むことにより、連続研磨時の研磨速度の低下も抑制することができる。
なお、前出の従来の特許文献2に記載されているような有機還元剤では、すぐに研磨液中の溶存酸素や、空気中の酸素と反応して還元効果が消失するため、研磨速度の向上効果や、その効果が長持ちする効果は得られない。また、アルカリ性環境下で分解してしまう場合がある。
【0033】
本発明においては、上記無機還元剤の中でも、特に酸素と反応しにくく、得られる作用効果が大きい点で、特にチオ硫酸塩が好ましい。更に好ましくは、Na、K、Mg、又はCaとのチオ硫酸塩である。
【0034】
上記無機還元剤の研磨液中の含有量(添加量)は、0.5重量%〜10重量%の範囲内であることが好適である。含有量が0.5重量%未満であると、本発明の作用効果が十分に得られない場合がある。一方、含有量が10重量%よりも多いと、研磨液が分離しやすくなってしまい、研磨速度がかえって低下してしまう場合がある。上記無機還元剤の研磨液中の含有量は、より好ましくは、1重量%〜5重量%の範囲内である。
【0035】
また、本発明の酸化セリウム砥粒と無機還元剤を含む研磨液はアルカリ性で用いることが重要である。本発明の研磨液をアルカリ性で用いることにより、研磨砥粒である酸化セリウム微粒子の凝集や沈降を防止して研磨速度を高くするとともに研磨キズを低減することができる。また、上記無機還元剤の分解反応を抑制でき、また酸化されにくく安定で、上記無機還元剤の添加効果がより持続する。
【0036】
本発明において、研磨液のpHは、研磨砥粒の凝集や沈降の防止や、無機還元剤の分解反応抑制の観点から、8〜12の範囲内であることが好ましい。さらに好ましくは、9〜11の範囲内である。上記無機還元剤を含む研磨液は、上記範囲内のpHを有することが多いが、場合によっては、適当なアルカリ剤や酸を適宜添加して調整してもよい。
【0037】
本発明では、研磨処理における研磨方法は特に限定されるものではないが、例えば、基板の主表面の研磨処理においては、ガラス基板と研磨パッドとを接触させ、上記酸化セリウム砥粒、無機還元剤を含む研磨液を供給しながら、研磨パッドとガラス基板とを相対的に移動させて、ガラス基板の主表面を研磨すればよい。
例えば図3は、ガラス基板の研磨処理に用いることができる遊星歯車方式の両面研磨装置の概略構成を示す縦断面図である。図3に示す両面研磨装置は、太陽歯車2と、その外方に同心円状に配置される内歯歯車3と、太陽歯車2及び内歯歯車3に噛み合い、太陽歯車2や内歯歯車3の回転に応じて公転及び自転するキャリア4と、このキャリア4に保持された被研磨加工物1を挟持可能な研磨パッド7がそれぞれ貼着された上定盤5及び下定盤6と、上定盤5と下定盤6との間に研磨液を供給する研磨液供給部(図示せず)とを備えている。
【0038】
このような両面研磨装置によって、研磨処理時には、キャリア4に保持された被研磨加工物1、即ちガラス基板を上定盤5及び下定盤6とで挟持するとともに、上下定盤5,6の研磨パッド7と被研磨加工物1との間に研磨液を供給しながら、太陽歯車2や内歯歯車3の回転に応じてキャリア4が公転及び自転しながら、被研磨加工物1の上下両面(主表面)が研磨される。上記研磨パッドとしては樹脂ポリシャ(発泡ウレタン製または発泡ポリウレタン製)を用いることが好適である。なお、研磨速度の高速化の観点から、アスカーC硬度が75〜90の研磨パッドを用いることが好ましい。また、研磨による微小な傷の抑制の観点から、スウェードタイプの研磨パッドを用いることが好ましい。
【0039】
また、研磨時に基板にかける荷重は、研磨速度と研磨品質の観点から50〜200g/cmであることが好ましい。
また、本発明においては、キャリアに複数の基板を同時に保持させ、遊星歯車運動をさせて、複数の基板の両面を同時に研磨することが好ましい。特に、1回の研磨処理(1バッチ)では50枚以上の基板を同時に研磨処理することが好ましい。
【0040】
なお、通常、基板主表面の研磨処理は、研削処理で残留した傷や歪みを除去し所定の平滑面にするための第1研磨処理と、ガラス基板主表面の表面粗さをより平滑な鏡面に仕上げる第2研磨処理の2段階を経て行われることが一般的である(但し、3段階以上の多段階研磨を行うこともある)が、この場合、少なくとも前段の第1研磨処理において本発明を適用することが好ましい。第1研磨処理は、通常、複数の研磨処理の中でも最も取代量が多いため、研磨速度がとりわけ重要である。なお、できるだけ取代を少なくして生産性を向上させる観点から、第1研磨処理を行うガラス基板の主表面の表面粗さは、Raで100nm以下であることが好ましい。同様に、第2研磨処理の取代を少なくする観点から、第1研磨処理は、主表面の表面粗さがRaで1.5nm以下となるように行うことが好ましい。
【0041】
また、この場合、後段の仕上げ(精密)研磨処理(第2研磨処理)は、例えば、平均粒径が10〜100nm程度のコロイダルシリカ砥粒を含む研磨液を用いて行うことが好ましい。この場合の研磨液は、研磨速度向上の観点から酸性域に調整されたものが用いられることが好適である。例えば、pHは5以下であることが好ましく、より好ましくは4以下である。また、最終洗浄での表面粗さの増加を低減する観点から、pHは1以上であることが好ましく、より好ましくは2以上である。また、この仕上げ研磨用の研磨パッドとしては、軟質ポリッシャの研磨パッド(スウェードパッド)であることが好ましい。研磨方法は前記と同様である。
【0042】
本発明の研磨方法は、ガラス基板の主表面の研磨処理だけでなく、ガラス基板の端面の研磨処理においても好ましく適用することができる。
次に、ガラス基板の端面研磨処理について説明する。
【0043】
端面研磨処理では、回転ブラシ(研磨ブラシとも呼ばれる。)でガラス基板1の例えば外周端面12(図1図2参照)を研磨する。なお、ガラス基板1の内周端面13に形成される面取面や側壁面を研磨する方法は同様であるので、説明を省略する。
【0044】
上記回転ブラシは、ガラス基板1の表裏の主表面11,11に対して垂直な回転軸と、該回転軸の外周に取り付けられるブラシ毛とを有する。回転ブラシは、上記回転軸を中心に回転しながら、上記ブラシ毛でガラス基板1の外周端面12の2つの面取面12b、12bおよび側壁面12aを研磨する。
【0045】
上記回転ブラシによるガラス基板1の研磨部位には、ノズルから研磨液が供給される。研磨液は研磨材を含み、本発明を適用する場合、研磨材としては酸化セリウム砥粒が用いられる。そして、この研磨液は、上記無機還元剤を含むとともに、アルカリ性である。
【0046】
端面研磨処理では、複数のガラス基板1が積層され、まとめて研磨されてもよい。この場合、ガラス基板1同士の間にはスペーサが配設されてよい。また、上記回転ブラシは、回転軸を中心に回転しながら、ガラス基板1の積層方向(回転軸の中心線と平行な方向)に揺動させるようにしてもよい。
【0047】
被研磨部への研磨液供給量は、例えば5〜20リットル/分、回転ブラシの回転速度は、例えば100〜500rpm、回転ブラシの回転軸方向の揺動速度は、例えば3〜10rpm(1分間に3〜10往復する)、ガラス基板(積層体)の回転速度は、例えば50〜100rpmの範囲で適宜設定することができる。
【0048】
ガラス基板の端面の研磨処理においても本発明を適用することにより、研磨速度を向上でき、また、このような研磨速度向上の効果が長期間に渡って維持することができる。つまり、効果が長持ちする。
【0049】
本発明においては、ガラス基板を構成するガラスの硝種は、アルミノシリケートガラスとすることが好ましい。また、アモルファスのアルミノシリケートガラスとするとさらに好ましい。このようなガラス基板は表面を鏡面研磨することにより平滑な鏡面に仕上げることができ、また加工後の強度が良好である。このようなアルミノシリケートガラスとしては、SiO2が58重量%以上75重量%以下、Al23が5重量%以上23重量%以下、Li2Oが3重量%以上10重量%以下、Na2Oが4重量%以上13重量%以下を主成分として含有するアルミノシリケートガラスを用いることができる。
【0050】
さらに、例えば、SiO2 を62重量%以上75重量%以下、Al23を5重量%以上15重量%以下、Li2 Oを4重量%以上10重量%以下、Na2 Oを4重量%以上12重量%以下、ZrO2を5.5重量%以上15重量%以下、主成分として含有するとともに、Na2O/ZrO2 の重量比が0.5以上2.0以下、Al23 /ZrO2 の重量比が0.4以上2.5以下であるアモルファスのアルミノシリケートガラスとすることができる。
【0051】
また、次世代基板の特性として耐熱性を求められる場合もある。このようなガラス基板は、ガラス転移点(Tg)が例えば600℃以上と高い。そして、例えばガラス成分中のアルミナ(Al)量が8モル%以下のガラス組成を有する。例えば、モル%表示にて、SiOを50〜75%、Alを0〜6%、BaOを0〜2%、LiOを0〜3%、ZnOを0〜5%、NaOおよびKOを合計で3〜15%、MgO、CaO、SrOおよびBaOを合計で14〜35%、ZrO、TiO、La、Y、Yb、Ta、NbおよびHfOを合計で2〜9%、含み、モル比[(MgO+CaO)/(MgO+CaO+SrO+BaO)]が0.85〜1の範囲であり、且つモル比[Al/(MgO+CaO)]が0〜0.30の範囲であるガラスを好ましく用いることができる。
【0052】
本発明は、このようなガラス転移温度(Tg)の高い耐熱性ガラス基板の研磨処理に特に好適である。このような組成の耐熱性ガラス基板は、Si−O結合が相対的に多く、本発明の酸化セリウム砥粒、無機還元剤を含む研磨液を適用する研磨処理を行うことにより、とくに連続研磨処理時の研磨速度の低下を抑制する効果が、例えば上記のアルミノシリケートガラスの場合よりも大きい。
【0053】
なお、本発明は、特に磁気ディスク用ガラス基板の研磨処理に好適であるが、磁気ディスク用以外の例えば光学レンズ、マスクブランクス用基板、液晶パネルにも適用することが可能である。
【0054】
本発明においては、最終研磨処理後のガラス基板の表面は、算術平均表面粗さRaが0.20nm以下、特に0.15nm以下、更に好ましくは0.10nm以下であることが好ましい。更に、最大粗さRmaxが2.0nm以下、特に1.5nm以下、更に好ましくは1.0nm以下であることが好ましい。なお、本発明においてRa、Rmaxというときは、日本工業規格(JIS)B0601:1982に準拠して算出される粗さのことである。Raは算術平均粗さ、Rmaxは最大高さである。これらの表面は、鏡面であることが好ましい。
また、本発明において上記表面粗さは、原子間力顕微鏡(AFM)を用いて1μm×1μmの範囲を256×256ピクセルの解像度で測定したときに得られる表面形状の表面粗さとすることが実用上好ましい。ただし、Raが50nmを超える場合、触針式粗さ計を用いて表面粗さを測定することが好ましい。
【0055】
本発明においては、基板主表面の研磨処理の前または後に、化学強化処理を施すことができる。化学強化処理されたガラス基板は耐衝撃性に優れているので、例えばモバイル用途のHDDに搭載するのに特に好ましい。化学強化塩としては、硝酸カリウムや硝酸ナトリウムなどのアルカリ金属硝酸塩を好ましく用いることができる。
【0056】
本発明のガラス基板の研磨方法を適用した研磨処理を含む磁気ディスク用ガラス基板の製造によって、図1および図2に示すように、両主表面11,11と、その間に外周側端面12、内周側端面13を有する円板状のガラス基板1が得られる。外周側端面12は、側壁面12aと、その両側の主表面との間にある面取面12b、12bによりなる。内周側端面13についても同様の形状である。
【0057】
以上説明したように、本発明によれば、酸化セリウムを研磨砥粒とするガラス基板の表面の研磨処理において、研磨速度を向上することができる。また、このことに加えて、研磨速度の向上効果が長持ちし、連続研磨処理時の研磨速度の低下も効果的に抑制することができる。本発明のガラス基板の研磨方法は、特に磁気ディスク用ガラス基板の研磨処理に好適である。
そして、本発明によって得られる例えば磁気ディスク用ガラス基板は、生産性が高く、特に基板表面品質への要求が現行よりもさらに厳しいものとなっている次世代用の基板として好適に使用することが可能である。
【0058】
また、本発明は、以上の磁気ディスク用ガラス基板を用いた磁気ディスクの製造方法についても提供する。
磁気ディスクは、本発明により得られる磁気ディスク用ガラス基板の上に少なくとも磁性膜を形成して製造される。磁性膜の材料としては、異方性磁界の大きな六方晶系であるCoCrPt系やCoPt系強磁性合金を用いることができる。磁性膜の形成方法としてはスパッタリング法、例えばDCマグネトロンスパッタリング法を用いることが好適である。
【0059】
また、磁性膜の上に、保護層、潤滑層をこの順に形成することが好ましい。保護層としてはアモルファスの水素化炭素系保護層が好適である。また、潤滑層としては、パーフルオロポリエーテル系化合物の潤滑剤を用いることができる。
本発明によって得られる磁気ディスク用ガラス基板を用いることにより、たとえばDFH機能を搭載した低浮上量設計の磁気ヘッドと組み合わせた場合においても長期に安定した動作が可能な信頼性の高い磁気ディスクを得ることができる。
【実施例】
【0060】
以下に実施例を挙げて、本発明の実施の形態について具体的に説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0061】
(実施例1)
以下の(1)粗研削処理、(2)形状加工処理、(3)精研削処理、(4)端面研磨処理、(5)主表面第1研磨処理、(6)化学強化処理、(7)主表面第2研磨処理、を経て本実施例の磁気ディスク用ガラス基板を製造した。
【0062】
(1)粗研削処理
まず、溶融ガラスから上型、下型、胴型を用いたダイレクトプレスにより直径66mmφ、厚さ1.0mmの円板状のアルミノシリゲートガラスからなるガラス基板を得た。なお、このようなダイレクトプレス以外に、ダウンドロー法やフロート法で製造された板ガラスから所定の大きさに切り出してガラス基板を得てもよい。このアルミノシリケートガラスとしては、SiO:58〜75重量%、Al:5〜23重量%、LiO:3〜10重量%、NaO:4〜13重量%を含有する化学強化可能なガラスを使用した。なお、Alの含有量は、モル%換算で8.5モル%とした。以下、この硝材を硝材1と呼ぶ。
【0063】
次いで、このガラス基板に寸法精度及び形状精度の向上させるためアルミナ系の遊離砥粒を用いて粗研削処理を行った。この粗研削処理は両面研削装置を用いて行った。
【0064】
(2)形状加工処理
次に、円筒状の砥石を用いてガラス基板の中央部分に孔を空けると共に、外周端面の研削をして直径を65mmφとした後、外周端面および内周端面に所定の面取り加工を施した。一般に、2.5インチ型HDD(ハードディスクドライブ)では、外径が65mmの磁気ディスクを用いる。
【0065】
(3)精研削処理
この精研削処理は両面研削装置を用い、ダイヤモンド砥粒を樹脂で固定したペレットが貼り付けられた上下定盤の間にキャリアにより保持したガラス基板を密着させてクーラントを供給しつつ行なった。精研削処理後の基板主表面の粗さは、Raで100nm以下であった。ただし、精研削処理後の表面粗さは、触針式粗さ計を用いて測定した。
上記精研削処理を終えたガラス基板を洗浄した。
【0066】
(4)端面研磨処理
次いで、ブラシ研磨により、ガラス基板を回転させながらガラス基板の端面(内周、外周)を研磨した。端面研磨処理後の基板端面の粗さは、Raで100nm以下であった。そして、上記端面研磨を終えたガラス基板を洗浄した。
【0067】
(5)主表面第1研磨処理
次に、上述した研削処理で残留した傷や歪みを除去し所定の平滑面にするための第1研磨処理を前述の図3に示す両面研磨装置を用いて行なった。両面研磨装置においては、研磨パッド7が貼り付けられた上下研磨定盤5,6の間にキャリア4により保持したガラス基板を密着させ、このキャリア4を太陽歯車2と内歯歯車3とに噛合させ、上記ガラス基板を上下定盤5,6によって挟圧する。その後、研磨パッドとガラス基板の研磨面との間に研磨液を供給して各歯車と上下定盤をそれぞれ回転させることによって、ガラス基板が定盤5,6上で自転しながら公転して遊星歯車機構により両面を同時に研磨加工するものである。具体的には、ポリシャ(研磨パッド)としてアスカーC硬度が80のスウェードタイプのポリシャ(発泡ポリウレタン製)を用い、第1研磨処理を実施した。
【0068】
研磨液としては、10重量%の酸化セリウム(平均粒径1μm)を研磨砥粒として含み、無機還元剤としてチオ硫酸ナトリウムを5重量%含み、pH=10のアルカリ性のものを使用した。また、研磨荷重は120g/cm、取代は板厚換算で30μmとした。研磨後の基板表面の粗さはRaで1.5nm以下であった。
上記第1研磨処理は、研磨液を交換せずに連続20バッチ(1バッチ100枚)を処理した。上記第1研磨処理を終えたガラス基板を洗浄した。
【0069】
(6)化学強化処理
次に、上記洗浄を終えたガラス基板に化学強化を施した。硝酸カリウムと硝酸ナトリウムの混合した溶融塩である化学強化液中に上記洗浄・乾燥済みのガラス基板を浸漬して化学強化処理を行なった。化学強化を終えたガラス基板を洗浄した。
【0070】
(7)主表面第2研磨処理
次いで上記の第1研磨処理で使用したものと同様の両面研磨装置を用い、ポリシャをアスカーC硬度が70の軟質ポリシャ(スウェードタイプ)の研磨パッド(発泡ポリウレタン製)に替えて第2研磨処理を実施した。この第2研磨処理は、ガラス基板主表面の表面粗さをより平滑な鏡面に仕上げる、例えばガラス基板主表面の表面粗さをRaで0.2nm以下、Rmaxで2nm以下の平滑な鏡面に仕上げるための鏡面研磨処理である。研磨液としては、10重量%のコロイダルシリカ(平均粒径15nm)を研磨砥粒として含む研磨液を使用した。なお、研磨液のpHは、予め硫酸を添加して酸性(pH=2)に調整した。また、研磨荷重は100g/cm、取代は板厚換算で3μmとした。
【0071】
次に、上記第2研磨処理を終えたガラス基板を洗浄処理(最終洗浄処理)した。具体的には、アルカリ性洗剤を純水に添加した洗浄槽に浸漬して、超音波洗浄を行った。その後、ガラス基板を純水で十分にリンスした後、乾燥させた。
【0072】
上記各処理を経て得られたガラス基板について、上記最終洗浄処理後のガラス基板主表面の表面粗さ(Ra)を原子間力顕微鏡(AFM)にて測定したところ、Raで0.2nm以下、Rmaxで2nm以下の平滑な鏡面に仕上がっていた。
【0073】
(実施例2〜4)
上記実施例1における主表面第1研磨処理に用いる研磨液に含有させた無機還元剤を、ホスフィン酸ナトリウム、亜ジチオン酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウムにそれぞれ替えた研磨液を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、実施例2〜4のガラス基板を作製した。
【0074】
(比較例1)
上記実施例1における主表面第1研磨処理に用いる研磨液に無機還元剤を含有していない研磨液を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、比較例1のガラス基板を作製した。
【0075】
上記実施例1〜4及び比較例1の上記主表面第1研磨処理における研磨速度をそれぞれ1バッチ目と10バッチ目で測定し、比較例1における研磨速度に対する各実施例における研磨速度の向上率を以下の基準で判定し、その結果を纏めて以下の表1に示した。ここで、比較例1において、1バッチ目に対する10バッチ目の研磨速度の比(10バッチ目の研磨速度/1バッチ目の研磨速度)を算出したところ、0.9であった。
なお、実施例1における無機還元剤を、有機還元剤であるアスコルビン酸に変更した他は実施例1と同様にしてガラス基板を作製したところ、1バッチ目と10バッチ目の研磨速度は比較例1と同等であった。
[判断基準]
同じバッチ目の比較例の研磨速度に対して、
●(レベル5) 115%より大きい
◎(レベル4) 110%より大きく115%以下
○(レベル3) 105%より大きく110%以下
△(レベル2) 100%より大きく105%以下
×(レベル1) 100%以下
【0076】
【表1】
【0077】
上記表1の結果から以下のことがわかる。
1.本発明の実施例によれば、酸化セリウム砥粒を含む研磨液にアルカリ性下で本発明の無機還元剤を含有させることにより、無機還元剤を含まない比較例に対して研磨速度を向上させることができる。
また、無機還元剤の中でも、特にチオ硫酸塩は研磨速度の向上効果が大きく好ましい。
2.また、本発明の実施例によれば、このような傾向は、1バッチ目だけではなく、10バッチ目においても持続しており、連続研磨処理によって大量の基板を研磨処理する場合においても、還元剤の添加による研磨速度向上の効果が長持ちすることがわかる。よって、連続研磨処理時の研磨速度の低下を効果的に抑制することができる。
【0078】
(実施例5〜8)
上記実施例1〜4における主表面第1研磨処理に用いる各研磨液に含有させた研磨砥粒を、それぞれLaをTREOに対するLaの割合として20%含む酸化セリウム砥粒に替えた研磨液を用いたこと以外は、実施例1〜4と同様にして、実施例5〜8のガラス基板を作製した。
【0079】
(比較例2)
上記比較例1における主表面第1研磨処理に用いる研磨液に含有させた研磨砥粒を、LaをTREOに対するLaの割合として20%含む酸化セリウム砥粒に替えた研磨液を用いたこと以外は、比較例1と同様にして、比較例2のガラス基板を作製した。
【0080】
上記実施例5〜8及び比較例2の上記主表面第1研磨処理における研磨速度をそれぞれ1バッチ目と10バッチ目で測定し、比較例2における研磨速度に対する各実施例における研磨速度の向上率を上記と同じ判断基準で判定し、その結果を纏めて以下の表2に示した。ここで、比較例2において、1バッチ目に対する10バッチ目の研磨速度の比(10バッチ目の研磨速度/1バッチ目の研磨速度)を算出したところ、0.9であった。
なお、実施例5における無機還元剤を、有機還元剤であるアスコルビン酸に変更した他は実施例5と同様にしてガラス基板を作製したところ、1バッチ目と10バッチ目の研磨速度は比較例2と同等であった。
【0081】
【表2】
【0082】
上記表2の結果から以下のことがわかる。
1.Laを添加した酸化セリウム砥粒を用いる場合においても、研磨液に本発明の無機還元剤を含有させることにより、無機還元剤を含まない比較例に対して研磨速度を向上させることができる。
また、無機還元剤の中でも、特にチオ硫酸塩は研磨速度の向上効果が大きく好ましい。また、前出の表1の結果との対比から、Laを添加した酸化セリウム砥粒を用いることにより、研磨速度の向上率が大きくなることがわかる。
2.また、本発明の実施例によれば、このような傾向は、1バッチ目だけではなく、10バッチ目においても持続しており、連続研磨処理時の研磨速度の低下を効果的に抑制することができる。特にチオ硫酸塩は、10バッチ目においても比較例2の1バッチ目と同等以上の研磨速度となり、とりわけ高い効果を示している。
【0083】
(実施例A)
上記実施例1と同様にして、(1)粗研削処理、(2)形状加工処理、(3)精研削処理、(4)端面研磨処理、(5)主表面第1研磨処理を順次行った。
ただし、ガラス基板は、上記の硝材1においてAlの含有量を10モル%としたものを用いた。この硝材を硝材Aと呼ぶ。
【0084】
また、上記主表面第1研磨処理の研磨液としては、LaをTREOに対するLaの割合として20%含む酸化セリウム(平均粒径1μm)を研磨砥粒として含み(含有量 10重量%)、無機還元剤としてチオ硫酸ナトリウムを5重量%含み、pH=10のアルカリ性のものを使用した。その他の研磨処理条件は実施例1と同様にした。
【0085】
(実施例B)
上記実施例Aに使用した硝材Aに替えて下記の硝材Bを用いたこと以外は上記実施例Aと同様の加工処理を行った。
硝材B モル%表示にて、SiOを50〜75%、Alを0〜6%、BaOを0〜2%、LiOを0〜3%、ZnOを0〜5%、NaOおよびKOを合計で3〜15%、MgO、CaO、SrOおよびBaOを合計で14〜35%、ZrO、TiO、La、Y、Yb、Ta、NbおよびHfOを合計で2〜9%、含み、モル比[(MgO+CaO)/(MgO+CaO+SrO+BaO)]が0.85〜1の範囲であり、且つモル比[Al/(MgO+CaO)]が0〜0.30の範囲である耐熱性ガラス。
【0086】
上記実施例A、Bの上記主表面第1研磨処理における研磨速度をそれぞれ1バッチ目と20バッチ目で測定し、1バッチ目における研磨速度を1としたときの20バッチ目の研磨速度の比を求め、その結果を纏めて以下の表3に示した。
【0087】
【表3】
【0088】
上記表3の結果からわかるように、本発明は、ガラス転移温度(Tg)の高い耐熱性ガラス基板(硝材B)の研磨処理に特に好適である。本発明の酸化セリウム砥粒、無機還元剤を含む研磨液を適用する研磨処理を行うことにより、とくに連続研磨処理時の研磨速度の低下を抑制する効果が、例えば上記のアルミノシリケートガラス(硝材A)の場合よりも大きい。
【0089】
(実施例9〜12、比較例3)
上記実施例1と同様にして、(1)粗研削処理、(2)形状加工処理、(3)精研削処理を順次行い、次いで、以下の端面研磨処理を行った。なお、ガラス基板は、上記硝材1を用いた。
上記研削処理後のガラス基板を、支持治具を用いて積層し、ガラス基板積層体を形成した。この時、ガラス基板とガラス基板との間には樹脂製スペーサを挿入し、合計200枚のガラス板を重ね合わせ、ガラス基板積層体とした。
【0090】
上記のようにして形成したガラス基板積層体を、外周端面研磨用の治具に挿入し、ガラス基板積層体の上下方向から締め付けて固定した。このガラス基板積層体を、外周端面研磨装置の所定位置に設置した。端面研磨用の回転ブラシをガラス基板積層体の外周側端面に当接させ、さらに所定量押し当てた。
研磨液をガラス基板積層体の外周端面部に供給し、回転ブラシとガラス基板積層体を反対方向に回転させ、さらに、回転ブラシをガラス基板積層体の積層方向に揺動させながら研磨した。
【0091】
研磨液としては、上記実施例5〜8および比較例2においてそれぞれ使用したものと同じ研磨液(すなわち、LaをTREOに対するLaの割合として20%含む酸化セリウム(平均粒径1μm)を研磨砥粒として含み(含有量 10重量%)、表4の無機還元剤を5重量%含み、pH=10のアルカリ性のもの)を使用した。
【0092】
なお、本実施例及び比較例では、研磨液供給量を10〜15リットル/分、回転ブラシの回転速度を300rpm、回転ブラシの支持軸方向の揺動速度を3〜5rpm(1分間に3〜5往復する)、ガラス基板積層体の回転速度を80〜90rpmに設定した。取代は板厚換算で40μmとした。
なお、各実施例や比較例においては研磨液の交換は行わず、研磨液を回収して循環させながら連続20バッチ処理した。
【0093】
上記実施例9〜12及び比較例3の上記端面研磨処理における研磨速度をそれぞれ1バッチ目と10バッチ目で測定し、無機還元剤を含まない研磨液を用いた比較例3における研磨速度に対する各実施例における研磨速度の向上率を上記と同じ判断基準で判定し、その結果を纏めて以下の表4に示した。ここで、比較例3において、1バッチ目に対する10バッチ目の研磨速度の比(10バッチ目の研磨速度/1バッチ目の研磨速度)を算出したところ、0.80であった。
【0094】
【表4】
【0095】
上記表4の結果から以下のことがわかる。
ガラス基板の端面研磨処理においても、研磨液に本発明の無機還元剤を含有させることにより、無機還元剤を含まない比較例に対して研磨速度を向上させることができる。
また、無機還元剤の中でも、特にチオ硫酸塩は研磨速度の向上効果が大きく好ましい。また、本発明の実施例によれば、このような傾向は、1バッチ目だけではなく、10バッチ目においても持続しており、連続研磨処理時の研磨速度の低下を効果的に抑制することができる。しかも、10バッチ目では、比較例の落ち込みが大きいため、相対的に無機還元剤の効果が高まり、研磨速度の向上率が1バッチ目よりも大きくなった。端面研磨処理は、主表面研磨処理よりも研磨速度が低下しやすいので、本発明がとりわけ有効である。
【0096】
(実施例13〜16)
実施例5で使用した研磨液(LaをTREOに対するLaの割合として20%含む酸化セリウム(平均粒径1μm)を研磨砥粒として含み、無機還元剤としてチオ硫酸ナトリウムを5重量%含み、pH=10のアルカリ性)のpHを、8、9、11、12にそれぞれ変更した研磨液を用いたこと以外は、実施例5と同様にして、実施例13〜16のガラス基板を作製した。
【0097】
上記実施例13〜16及び上記実施例5の上記主表面第1研磨処理における研磨速度をそれぞれ20バッチ目で測定し、pH10(実施例5)における研磨速度を1としたときの各実施例における研磨速度の比を求め、その結果を纏めて以下の表5に示した。
【0098】
【表5】
【0099】
上記表5の結果から、本発明において、研磨液のpHは、9〜11の範囲であることが取り分け好ましい。この範囲のpHでは、無機還元剤の分解が良好に抑制されるためと推定される。
【0100】
(磁気ディスクの製造)
上記実施例1で得られた磁気ディスク用ガラス基板に以下の成膜工程を施して、垂直磁気記録用磁気ディスクを得た。
すなわち、上記ガラス基板上に、CrTi系合金薄膜からなる付着層、CoTaZr合金薄膜からなる軟磁性層、NiWからなるシード層、Ru薄膜からなる下地層、CoCrPt系合金からなる垂直磁気記録層、カーボン保護層、潤滑層を順次成膜した。保護層は、磁気記録層が磁気ヘッドとの接触によって劣化することを防止するためのもので、水素化カーボンからなり、耐磨耗性が得られる。また、潤滑層は、アルコール変性パーフルオロポリエーテルの液体潤滑剤をディップ法により形成した。
【0101】
得られた磁気ディスクについて、DFHヘッドを備えたHDDに組み込み、80℃かつ80%RHの高温高湿環境下においてDFH機能を作動させつつ1ヶ月間のロードアンロード耐久性試験を行ったところ、特に障害も無く、良好な結果が得られた。なお、他の実施例で得られた磁気ディスク用ガラス基板を用いた場合も同様の結果が得られた。
【符号の説明】
【0102】
1 ガラス基板
2 太陽歯車
3 内歯歯車
4 キャリア
5 上定盤
6 下定盤
7 研磨パッド
11 基板の主表面
12,13 基板の端面
図1
図2
図3