特許第6429418号(P6429418)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6429418
(24)【登録日】2018年11月9日
(45)【発行日】2018年11月28日
(54)【発明の名称】クレーン
(51)【国際特許分類】
   B66C 7/10 20060101AFI20181119BHJP
   E04B 2/90 20060101ALI20181119BHJP
【FI】
   B66C7/10
   E04B2/90
【請求項の数】5
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2017-224322(P2017-224322)
(22)【出願日】2017年11月22日
【審査請求日】2017年12月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】599176089
【氏名又は名称】株式会社ヤクテツ
(73)【特許権者】
【識別番号】303056368
【氏名又は名称】東急建設株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100116296
【弁理士】
【氏名又は名称】堀田 幹生
(72)【発明者】
【氏名】新名 茂喜
(72)【発明者】
【氏名】野上 明
(72)【発明者】
【氏名】石田 正裕
【審査官】 中田 誠二郎
(56)【参考文献】
【文献】 実開昭60−137783(JP,U)
【文献】 特開2003−246584(JP,A)
【文献】 登録実用新案第3129406(JP,U)
【文献】 特開平06−212804(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66C 5/00−7/16
E04B 2/90
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビルの外壁の一部を構成するカーテンウォールに連結された可動桁と、可動桁に取付けられて吊荷を吊るす吊具と、吊具を支持する主巻ワイヤの巻き上げと巻き下げを行う主巻ウインチと、可動桁を移動させる横行モーターと、横行モーターに付随するハンドルと、ビルの空間内に固定された固定桁とを備え、可動桁がビルの外側方向に動くことにより、カーテンウォールがビルの外側に張り出して、吊具の下降によって吊荷の搬出を行うとともに、吊具が上昇し、可動桁がビルの内部方向に動くことによって吊荷の搬入を行うクレーンであって、動作開始時と格納終了時における微小区間の可動桁の移動はハンドルによってなされ、動作開始時と格納終了時以外の可動桁の移動は横行モーターによってなされることを特徴とするクレーン。
【請求項2】
前記可動桁にはラックが設けられ、前記固定桁に設けられて前記横行モーターのモーター軸に直結したピニオンギアにラックが噛み合うことによって前記可動桁が移動することを特徴とする請求項1記載のクレーン。
【請求項3】
前記可動桁を送る横行車輪とその車輪軸とは偏芯しており、前記固定桁には車輪軸を通す軸穴が設けられ、軸穴の周囲の固定桁には同心円状にタップ穴が設けられており、車輪軸を回してボルト止めすることにより横行車輪の高さ調整がなされることを特徴とする請求項1または2記載のクレーン。
【請求項4】
前記カーテンウォールの内側に取付けられた第1の位置調整部材と、ビルの空間内に設けられたストッパーとを備え、第1の位置調整部材がストッパーに係合することによって前記カーテンウォールの位置調整がなされるとともに、前記可動桁には第2の位置調整部材が設けられ、前記可動桁に近接するビルの鉄骨には第3の位置調整部材が設けられており、第2の位置調整部材と第3の位置調整部材の接触面はそれぞれ傾斜面を形成し、第2の位置調整部材の接触面と第3の位置調整部材の接触面とが互いに接触することによって、前記カーテンウォールの位置調整がなされることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のクレーン。
【請求項5】
前記可動桁に取り付けられて、ガイドワイヤの巻き上げと巻き下げを行うガイドワイヤウインチを備え、吊荷の上げ下ろしの際に、ガイドワイヤが吊荷のガイドとして機能することを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載のクレーン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主にビル内設備のメンテナンス用に使用されるクレーンに関する。
【背景技術】
【0002】
ビル内には複雑な電気設備が設置されているが、このような電気設備に対しては、定期的なメンテナンスが必要である。例えば、メンテナンスの際に、変圧器のような重量のある装置を取り出して交換することもある。
【0003】
近年は、ビルの高層化が進んでおり、ビル内での店舗やオフィスの割り当ての関係で、電気設備が設置されるフロアが高層階となる場合も多い。その場合には、交換対象となる装置を高層階から取り出して地上に降ろした後、新しい装置を地上から高層階に上げて、正確に元の位置に収容することが必要となる。
【0004】
しかし、高層階から取り出して地上に降ろす過程と、新しい装置を地上から高層階に上げる過程は、ビルの壁面の近くで行われるため、風の影響等によって吊荷が揺れると、ビルの壁面に接触する恐れがある。これを防止するために、風が弱い時を選んで作業を行ったとしても、風が強い時には作業を停止する必要があり、作業に要する時間が多くかかるという問題点が生じ、交通繁華な場所において作業時間に制限の多い場所での作業には適さない。
【0005】
また、装置の取出しと収容は、ビル内の特定の限定されたスペースに対して行われるため、正確にかつ静粛に行われる必要がある。クレーンの動作時にビルに対して無用な衝撃や振動等を与えると、メンテナンス作業が他のフロアやビル全体に対して悪影響を与えることになり、好ましくない。
【0006】
特許文献1には、建物外壁が敷地境界に近接するような場所であっても安全に且つ効率よく揚重作業を行うことができるカーテンウォールの揚重方法が記載されている。また、特許文献2には、吊荷の揺動並びに回転を防止することを目的とした天井走行クレーンの揚重ガイド装置が記載されている。
【0007】
【特許文献1】特開2008―248664号公報
【特許文献2】特開平7−81873号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ビル内の装置のメンテナンスに使用されるクレーンは、ビルの建築用に使用される通常のクレーンと異なり、通常時はビルの構築物の一部を構成して静止しており、メンテナンスの際に動作するという特殊事情がある。従って、動作の際の正確さと、ビルの他の構造物に影響を与えずに作業を遂行することは極めて重要な要素となる。特に、クレーンを格納する際に、カーテンウォールが元の位置からずれた状態で格納されると、次の動作時まで長期間に亘ってずれた状態のままとなり、ビルの管理上問題を生じる。
【0009】
本発明は、このような事情を考慮してなされたもので、ビル内の特定の限定されたスペースに対して、正確にかつ静粛に荷の取出しと収容を行うことが可能であるとともに、ビルの高層階から荷の取出しと収容を行うにあたって、風の影響を受けずに荷の上げ下ろしを行うことが可能なクレーンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
以上の課題を解決するために、本発明のクレーンは、ビルの外壁の一部を構成するカーテンウォールに連結された可動桁と、可動桁に取付けられて吊荷を吊るす吊具と、吊具を支持する主巻ワイヤの巻き上げと巻き下げを行う主巻ウインチと、可動桁を移動させる横行モーターと、横行モーターに付随するハンドルと、ビルの空間内に固定された固定桁とを備え、可動桁がビルの外側方向に動くことにより、カーテンウォールがビルの外側に張り出して、吊具の下降によって吊荷の搬出を行うとともに、吊具が上昇し、可動桁がビルの内部方向に動くことによって吊荷の搬入を行うクレーンであって、動作開始時と格納終了時における微小区間の可動桁の移動はハンドルによってなされ、動作開始時と格納終了時以外の可動桁の移動は横行モーターによってなされることを特徴とする。
【0011】
ビル内に設置されるクレーンは、主に設備のメンテナンス用に用いられるものであるため、通常時はビルの構築物の一部を構成して静止しており、メンテナンスの際に動作するという特殊事情から、頻繁に稼働するものではなく、長期間に亘って稼働しない場合もあるため、特にカーテンウォールと一体となりビルの外壁の一部を構成するようなクレーンの場合には、カーテンウォールがビル側と固着していることが起こり得る。このような場合に、動作開始時に横行モーターの大きな動力で可動桁を動かすと、無理な力がかかって装置の各部の破損やビルの構造物の破損を招きかねない。
【0012】
また、格納終了時には、ビル内の定められた空間内に正確に格納する必要があり、格納終了時に横行モーターの大きな動力で可動桁を動かすと、ビルに対して無用な衝撃や振動等を与えることになり、メンテナンス作業が他のフロアやビル全体に対して悪影響を与えることになる。
【0013】
そのため、動作開始時と格納終了時における微小区間は、ハンドルによって手動で可動桁を移動可能な構成とすることで、装置の各部の破損やビルの構造物の破損を防止するとともに、ビルに対して無用な衝撃や振動等を与えることを防止できる。その一方で、動作開始時と格納終了時以外の可動桁の移動は横行モーターによってなされることによって、電動による大きな動力で効率的に可動桁を動かすことができる。
【0014】
本発明のクレーンにおいては、前記可動桁にはラックが設けられ、前記固定桁に設けられて前記横行モーターのモーター軸に直結したピニオンギアにラックが噛み合うことによって前記可動桁が移動する構成とすることができる。
【0015】
通常のクレーンの場合のように、モーターで駆動した車輪がレール上を回転するようにすると、車輪とレールとの間に滑りが生じて、クレーンの左右が僅かにねじれた状態となるが、ピニオンギアがラックと噛み合うことで可動桁が移動する構成とすることによって、可動桁の走行の際にねじれを生じず、正確な走行が可能となる。このことは、通常のクレーンよりも精度が要求される本発明のクレーンにおいては大きな効果がある。
【0016】
本発明のクレーンにおいては、前記可動桁を送る横行車輪とその車輪軸とは偏芯しており、前記固定桁には車輪軸を通す軸穴が設けられ、軸穴の周囲の固定桁には同心円状にタップ穴が設けられており、車輪軸を回してボルト止めすることにより横行車輪の高さ調整がなされる構成とすることができる。
【0017】
固定桁は例えばビルの梁に対して現場で溶接することによって形成されるため、この固定桁に対して、横行車輪の車輪軸を通す軸穴を設けると、横行車輪の高さにずれが生じることがある。そのため、可動桁を送る横行車輪と横行車輪の車輪軸とを偏芯させ、車輪軸を回すことによって横行車輪の高さ調整が容易にできるようにしている。また、軸穴の周囲の固定桁には同心円状にタップ穴が設けられているため、車輪軸を適切な位置でボルト止めすることにより、横行車輪の高さを揃えることができる。クレーンの格納時には、自重により元の位置よりもわずかに下がっていることがあり得るが、上記の偏芯軸により、横行車輪の微調整が可能となる。
【0018】
本発明のクレーンにおいては、前記カーテンウォールの内側に取付けられた第1の位置調整部材と、ビルの空間内に設けられたストッパーとを備え、第1の位置調整部材がストッパーに係合することによって前記カーテンウォールの位置調整がなされるとともに、前記可動桁には第2の位置調整部材が設けられ、前記可動桁に近接するビルの鉄骨には第3の位置調整部材が設けられており、第2の位置調整部材と第3の位置調整部材の接触面はそれぞれ傾斜面を形成し、第2の位置調整部材の接触面と第3の位置調整部材の接触面とが互いに接触することによって、前記カーテンウォールの位置調整がなされる構成とすることができる。
【0019】
格納終了時における微小区間の可動桁の移動の際には、カーテンウォールを元の位置に正確に戻すことが必要であるが、カーテンウォールの内側に取付けられた第1の位置調整部材が、ビルの空間内に設けられたストッパーに係合することによって、カーテンウォールの位置の微調整を行って、カーテンウォールを元の位置に正確に戻すことができる。
【0020】
第1の位置調整部材は、摩擦の少ないすべり易い材質(例えば、モノマーキャストナイロン、6ナイロンなどのポリアミド樹脂や、ポリテトラフルオロエチレンなどのフッ素樹脂)のもので形成することによって、位置調整を容易に行うことができる。また、第1の位置調整部材は、耐熱性や耐摩耗性に優れているものであることがより好ましい。
【0021】
また、格納終了時における微小区間の可動桁の移動の際には、カーテンウォールを元の位置に正確に戻すことが必要であるが、可動桁に設けられた第2の位置調整部材と、可動桁に近接するビルの鉄骨に設けられた第3の位置調整部材とが互いに接触することによって、カーテンウォールの位置の微調整を行って、カーテンウォールを元の位置に正確に戻すことができる。第2の位置調整部材と第3の位置調整部材は、摩擦の少ないすべり易い材質のもので形成することによって、位置調整を容易に行うことができる。
【0022】
本発明のクレーンにおいては、前記可動桁に取り付けられて、ガイドワイヤの巻き上げと巻き下げを行うガイドワイヤウインチを備え、吊荷の上げ下ろしの際に、ガイドワイヤが吊荷のガイドとして機能する構成とすることができる。
【0023】
ガイドワイヤが吊荷のガイドとして機能するため、風の影響等によって吊られている荷物の搖動を防止して、吊荷がビルの壁面に接触することを防止できる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によると、ビル内の特定の限定されたスペースに対して、正確にかつ静粛に荷の取出しと収容を行うことが可能であるとともに、ビルの高層階から荷の取出しと収容を行うにあたって、風の影響を受けずに荷の上げ下ろしを行うことが可能なクレーンを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】クレーンがビル内に格納されている状態を示す図である。
図2】クレーンの動作開始時において、微小区間の可動桁の移動がなされた状態を示す図である。
図3図2におけるA線矢視図と、車輪軸の拡大図である。
図4図3におけるB線矢視図である。
図5】吊荷を搬出するために、可動桁が張り出した状態を示す図である。
図6】吊荷がビルの外壁に沿って下降している状態を示す図である。
図7】ビルの正面から見た図である。
図8】吊荷が地表に到達した状態を示す図である。
図9】新たな吊荷が引き上げられている状態を示す図である。
図10】吊荷がビル内の空間に格納される高さまで引き上げられた状態を示す図である。
図11】クレーンの格納終了時の微小区間の移動を残して、可動桁が引き込まれた状態を示す図である。
図12】クレーンの格納終了時の微小区間の移動を経て、吊荷が吊具から降ろされた状態を示す図である。
図13】第1の位置調整部材とストッパーの詳細図である。
図14図12におけるD線矢視図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下に、本発明のクレーンを、その実施形態に基づいて説明する。
図1から図12に、本発明の実施形態に係るクレーンの基本的な構造と動作を示す。
図1は、クレーンがビル内に格納されている状態を示している。
【0027】
クレーン1は、ビル2内の空間3に設置されており、ビル2の外壁の一部を構成するカーテンウォール4に連結された可動桁5を備えている。可動桁5の下側には、ガイドワイヤウインチ6が取り付けられ、ガイドワイヤウインチ6からはガイドワイヤ7が伸びており、ガイドワイヤ7はガイドワイヤウインチ6によって巻き上げと巻き下げがなされる。
ビル2内の空間3には、建物内に固定された主巻ウインチ8が設置され、主巻ウインチ8からは主巻ワイヤ9が伸びており、主巻ワイヤ9は主巻ウインチ8によって巻き上げと巻き下げがなされる。
【0028】
吊荷10を吊るす吊具11には、主巻ワイヤ9とガイドワイヤ7が接続されている。主巻ワイヤ9は、吊荷10の荷重を支持して吊荷10を上げ下ろしするためのワイヤであり、ガイドワイヤ7は、吊荷10の上げ下ろしの際に、吊荷10の搖動を防止するために吊荷10のガイドとして機能するものである。
【0029】
空間3内には、固定桁(前側固定桁12と後側固定桁13)が設けられている。後側固定桁13には横行モーター14が設けられており、横行モーター14にはハンドル15が付随的に取り付けられている。横行モーター14のモーター軸に直結したピニオンギア16に噛み合うラック17が、可動桁5に設けられている。横行モーター14、ハンドル15、ピニオンギア16、ラック17の動作と機能については、後に詳述する。
【0030】
図2は、クレーン1の動作開始時において、微小区間の可動桁5の移動がなされた状態を示している。
クレーン1は、主にビル2内の設備のメンテナンス用に用いられるものであるため、通常時はビル2の構築物の一部を構成して静止しており、メンテナンスの際に動作するという特殊事情がある。そのため、頻繁に稼働するものではなく、長期間に亘って何年間も稼働しない場合もあるため、カーテンウォール4がビル2側と固着していることが起こり得る。このような場合に、動作開始時に横行モーター14の大きな動力で可動桁5を動かすと、無理な力がかかって装置の各部の破損やビル2の構造物の破損を招きかねない。
【0031】
このことを考慮して、クレーン1の動作開始時における、10cm程度の微小区間の可動桁5の移動は、横行モーター14によらずに、ハンドル15によって手動で、カーテンウォール4をビル2の外側に押し出すことができる。このとき、カーテンウォール4の内側に取付けられた第1の位置調整部材18と、ビル2の空間3内に設けられたストッパー19とは離れた状態となる。第1の位置調整部材18とストッパー19の機能については、後に詳述する。
【0032】
図3は、図2におけるA線矢視図と、車輪軸の拡大図である。
図3(a)は、図2におけるA線矢視図である。
後側固定桁13に設けられた横行モーター14のモーター軸に直結したピニオンギア16は、横行モーター14による駆動によって回転し、可動桁5に設けられたラック17と噛み合うことによって、可動桁5が移動する。
【0033】
ただし、図2において説明したクレーン1の動作開始時と、後に図11を用いて説明するクレーン1の格納終了時においては、横行モーター14による駆動ではなく、ハンドル15の操作によって、電源が落ちた状態のモーター軸が回り、モーター軸に直結したピニオンギア16が回って、噛み合ったラック17により可動桁5が微小区間移動する。
【0034】
可動桁5を送る横行車輪20の車輪軸21は、前側固定桁12と後側固定桁13に設けられた軸穴22に通して固定される。図3(b)は、車輪軸21の拡大図であり、横行車輪20とその車輪軸21とは偏芯している。
【0035】
前側固定桁12と後側固定桁13は、ビル2の梁に対して現場で溶接することによって固定されるため、前側固定桁12と後側固定桁13に対して、横行車輪20の高さにずれが生じることがある。可動桁5を水平に設置するため、可動桁5を送る横行車輪20と車輪軸21とを偏芯させ、車輪軸21を回すことによって横行車輪20の高さ調整が容易にできるようにしている。なお、横行車輪20は、車輪軸21とは別に回転軸を有している。
【0036】
図3(c)は、図3(b)におけるC線矢視図であり、軸穴22の周囲の前側固定桁12と後側固定桁13には、同心円状に10°刻みでタップ穴23が設けられているため、車輪軸21を適切な位置でボルト止めすることにより、横行車輪20の高さを揃えることができる。クレーン1の格納時には、自重により元の位置よりもわずかに下がっていることがあり得るが、偏芯した車輪軸21によって微調整が可能となる。後述するストッパー19等による位置決めはクレーン1の格納状態で行い、その後の試運転で可動桁5を動かして再度格納するが、この際に可動桁5が自重により元の位置よりもわずかに下がっている場合には、横行車輪20の偏芯した車輪軸21によって微調整を行うことができる。
【0037】
図4は、図3におけるB線矢視図である。
後側固定桁13に設けられた横行モーター14のモーター軸に直結したピニオンギア16は、横行モーター14による駆動によって回転し、可動桁5に設けられたラック17と噛み合うことによって、可動桁5が移動する。また、クレーン1の動作開始時と格納終了時には、ハンドル15によってピニオンギア16を回し、ピニオンギア16と噛み合うラック17によって、可動桁5が微小区間移動する。ピニオンギア16がラック17と噛み合うことによって可動桁5が移動する構成とすることによって、可動桁5の走行の際にねじれを生じず、正確な走行が可能となる。
【0038】
図4に示すように、可動桁5には横行レール24が設けられており、上述したピニオンギア16とラック17との噛み合いによって移動する可動桁5は、前側固定桁12と後側固定桁13のそれぞれに車輪軸21を介して取り付けられた横行車輪20が、横行レール24上で回転することによって送られる。4つの横行車輪20は、図3を用いて説明した手法により、高さ調整がなされる。
【0039】
図5は、吊荷10を搬出するために、可動桁5がビル2の外側に張り出した状態を示している。可動桁5が横行モーター14の駆動によってビル2の外側方向に動いて、可動桁5に連結するカーテンウォール4は、図2に示す位置から移動して、ビル2の外側に張り出して、吊荷10がビル2の外側に位置する状態となっている。
【0040】
ガイドワイヤ7は、ガイドワイヤウインチ6によって巻き下げられて下降し、地表25に設置されたワイヤ固定用ウエイト26によって、ガイドワイヤ7の下端が固定され、ワイヤ固定用ウエイト26と連結することによってテンションがかけられる。
【0041】
図6は、吊荷10がビル2の外壁に沿って下降している状態を示しており、吊具11に吊るされた吊荷10は、主巻ワイヤ9が主巻ウインチ8によって巻き下げられることによって下降し、地表25に到達する。
【0042】
図7は、ビル2の正面から見た図であり、ビル2の外壁から張り出したカーテンウォール4の下方に吊荷10が吊具11に吊るされて下降している。吊具11の端部を2本のガイドワイヤ7が通過する構造となっており、吊具11に吊るされた吊荷10は、ガイドワイヤ7に案内されて下降する。ガイドワイヤ7の下端は、地表25に設置されたワイヤ固定用ウエイト26と連結され、テンションがかけられていることから、風の影響により吊荷10が搖動することを防止できる。
【0043】
図8は、吊荷10が地表25に到達した状態を示しており、地表25に到達した吊荷10は、吊具11から取り外され、交換された新たな吊荷10が吊具11に取付けられる。
【0044】
図9は、新たな吊荷10が吊具11によって引き上げられている状態を示している。この際にも、吊具11に吊るされた吊荷10は、ガイドワイヤ7に案内されて上昇する。そのため、風の影響により吊荷10が搖動することを防止できる。
【0045】
図10は、吊荷10がビル2内の空間3に格納される高さまで引き上げられた状態を示しており、ガイドワイヤ7はワイヤ固定用ウエイト26から外され、ガイドワイヤウインチ6によって巻き上げられている。
【0046】
図11は、クレーン1の格納終了時の微小区間の移動を残して、可動桁5が引き込まれた状態を示している。
図10の状態から図11の状態に至るまでの可動桁5の移動は、後側固定桁13に設けられた横行モーター14のモーター軸に直結したピニオンギア16が、横行モーター14による駆動によって回転し、可動桁5に設けられたラック17と噛み合うことによって、可動桁5が移動する。
【0047】
図11に示す状態では、カーテンウォール4の内側に取付けられた第1の位置調整部材18と、ビル2の空間3内に設けられたストッパー19とは分離している。
【0048】
図12は、クレーン1の格納終了時の微小区間の移動を経て、吊荷10が吊具11から降ろされた状態を示している。
図11の状態から図12の状態に至るまでの、10cm程度の微小区間の可動桁5の移動は、横行モーター14によらずに、ハンドル15によって手動で慎重に行って、カーテンウォール4をビル2の内側に引き込む。このとき、第1の位置調整部材18がストッパー19に係合することによって、カーテンウォール4の位置調整がなされる。
【0049】
図13は、第1の位置調整部材18とストッパー19の詳細図である。
図13(a)は、図11に示すように、第1の位置調整部材18と、ストッパー19とが分離している状態を示している。カーテンウォール4の内側に取付けられた第1の位置調整部材18は、その先端部が、摩擦の少ないすべり易い材質によって形成されており、ビル2の空間3内に設けられたストッパー19には、第1の位置調整部材18と対向する位置に、すり鉢状のザグリ穴27が開けられている。
【0050】
図13(b)に示すように、クレーン1の格納終了時の微小区間の移動の際に、第1の位置調整部材18の先端部が、ストッパー19のザグリ穴27に接近する。第1の位置調整部材18の先端部は、摩擦の少ないすべり易い材質によって形成されているため、ザグリ穴27に挿入される際に位置調整がなされて、微小な位置ずれを修正できる。これにより、カーテンウォール4が元の位置に収まる際に、カーテンウォール4の下部側において、上下方向の位置調整と左右方向の位置調整がなされる。このようにして、第1の位置調整部材18がストッパー19に係合する動作によって、簡便にカーテンウォール4の位置調整を行うことができる。一例として、第1の位置調整部材18の先端部を、モノマーキャストナイロン、6ナイロンなどのポリアミド樹脂や、ポリテトラフルオロエチレンなどのフッ素樹脂によって形成することができる。
【0051】
図14は、図12におけるD線矢視図である。
可動桁5にはその両端に、第2の位置調整部材28が設けられ、可動桁5に近接するビル2の鉄骨29には、第3の位置調整部材30が設けられている。第2の位置調整部材28は、カーテンウォール4に近い側が厚く、カーテンウォール4に遠い側が薄くなるように形成されて、第3の位置調整部材30との接触面は傾斜面となっている。
【0052】
第3の位置調整部材30は、第2の位置調整部材28とは逆に、カーテンウォール4に近い側が薄く、カーテンウォール4に遠い側が厚くなるように形成されており、第2の位置調整部材28とは逆向きの傾斜面が形成されている。
【0053】
第2の位置調整部材28と第3の位置調整部材30はいずれも、摩擦の少ないすべり易い材質によって形成されているため、クレーン1の格納終了時の微小区間の移動の際に、第2の位置調整部材28の接触面と第3の位置調整部材30の接触面とが互いに接触することによって、カーテンウォール4の位置調整がなされる、これにより、カーテンウォール4が元の位置に収まる際に、カーテンウォール4の上部側において、左右方向の位置調整がなされる。一例として、第2の位置調整部材28と第3の位置調整部材30を、モノマーキャストナイロンによって形成することができる。
【0054】
このように、本発明のクレーン1は、ビル2の外壁の一部を構成するカーテンウォール4に連結された可動桁5と、可動桁5に取付けられて吊荷10を吊るす吊具11と、吊具11を支持する主巻ワイヤ9の巻き上げと巻き下げを行う主巻ウインチ8とを備えており、可動桁5がビル2の外側方向に動くことにより、カーテンウォール4がビル2の外側に張り出して、吊具11の下降によって吊荷10の搬出を行い、吊具11が上昇し、可動桁5がビル2の内部方向に動くことによって吊荷10の搬入を行うものである。
【0055】
クレーン1の動作は、動作開始時と格納終了時における微小区間の可動桁5の移動はハンドル15によってなされ、動作開始時と格納終了時以外の可動桁5の移動は横行モーター14によってなされる。これは、本発明のクレーン1が、主にビル2内の設備のメンテナンス用に用いられるものであるため、通常時はビル2の構築物の一部を構成して静止しており、メンテナンスの際に動作するという特殊事情を考慮したものである点に大きな特徴がある。
【0056】
また、本発明のようなビルの一部を構成するクレーンを格納する際に、カーテンウォールが元の位置からずれた状態で格納されると、次の動作時まで長期間に亘ってずれた状態のままとなってしまうが、本発明においては、クレーン1の格納時の位置ずれを防止する手段を有しているため、メンテナンス用のクレーンとして大きな効果を発揮する。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明は、ビル内の特定の限定されたスペースに対して、正確にかつ静粛に荷の取出しと収容を行うことが可能であるとともに、ビルの高層階から荷の取出しと収容を行うにあたって、風の影響を受けずに荷の上げ下ろしを行うことが可能なクレーンとして、主にビル内設備のメンテナンス用として広く利用することができる。
【符号の説明】
【0058】
1 クレーン
2 ビル
3 空間
4 カーテンウォール
5 可動桁
6 ガイドワイヤウインチ
7 ガイドワイヤ
8 主巻ウインチ
9 主巻ワイヤ
10 吊荷
11 吊具
12 前側固定桁
13 後側固定桁
14 横行モーター
15 ハンドル
16 ピニオンギア
17 ラック
18 第1の位置調整部材
19 ストッパー
20 横行車輪
21 車輪軸
22 軸穴
23 タップ穴
24 横行レール
25 地表
26 ワイヤ固定用ウエイト
27 ザグリ穴
28 第2の位置調整部材
29 鉄骨
30 第3の位置調整部材
【要約】
【課題】ビル内の特定の限定されたスペースに対して、正確にかつ静粛に荷の取出しと収容を行うことが可能であるとともに、ビルの高層階から荷の取出しと収容を行うにあたって、風の影響を受けずに荷の上げ下ろしを行うことが可能なクレーンを提供する。
【解決手段】クレーン1は、ビル2の外壁の一部を構成するカーテンウォール4に連結された可動桁5と、可動桁5に取付けられて吊荷10を吊るす吊具11と、吊具11を支持する主巻ワイヤ9の巻き上げと巻き下げを行う主巻ウインチ8とを備えており、可動桁5がビル2の外側方向に動くことにより、カーテンウォール4がビル2の外側に張り出して、吊具11の下降によって吊荷10の搬出を行い、吊具11が上昇し、可動桁5がビル2の内部方向に動くことによって吊荷10の搬入を行う。
【選択図】図1
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