特許第6429442号(P6429442)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6429442光源及び前記光源を用いた光干渉断層撮像装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6429442
(24)【登録日】2018年11月9日
(45)【発行日】2018年11月28日
(54)【発明の名称】光源及び前記光源を用いた光干渉断層撮像装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 33/12 20100101AFI20181119BHJP
   H01L 33/06 20100101ALI20181119BHJP
   G01N 21/17 20060101ALI20181119BHJP
【FI】
   H01L33/12
   H01L33/06
   G01N21/17 620
【請求項の数】13
【全頁数】25
(21)【出願番号】特願2013-201374(P2013-201374)
(22)【出願日】2013年9月27日
(65)【公開番号】特開2014-82485(P2014-82485A)
(43)【公開日】2014年5月8日
【審査請求日】2016年9月23日
(31)【優先権主張番号】特願2012-217190(P2012-217190)
(32)【優先日】2012年9月28日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126240
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 琢磨
(74)【代理人】
【識別番号】100124442
【弁理士】
【氏名又は名称】黒岩 創吾
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 毅
(72)【発明者】
【氏名】内田 武志
(72)【発明者】
【氏名】山方 憲二
(72)【発明者】
【氏名】松鵜 利光
【審査官】 皆藤 彰吾
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−269600(JP,A)
【文献】 特開2009−283736(JP,A)
【文献】 特開2007−064912(JP,A)
【文献】 XIN,YC ET AL.,1.3-micrometer Quantum-Dot Multisection Superluminescent Diodes With Extremely Broad Bandwidth,IEEE PHOTONICS TECHNOLOGY LETTERS,2007年 4月 1日,vol. 19, no. 7,pp.501-503
【文献】 LI,X ET AL.,Experimental investigation of wavelength-selective optical feedback for a high-power quantum dot superluminescent device with two-section structure,OPTICS EXPRESS,2012年 5月10日,vol. 20, no. 11,pp.11936-11943
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 33/00−33/64
G01N 21/17
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上部電極層と、下部電極層と、それらの間に設けられた活性層とを有し、
前記上部電極層と前記下部電極層の少なくともいずれか一方の電極層が、前記活性層の面内方向に互いに分離された複数の電極を含み構成されており、前記複数の電極によって、前記活性層における複数の異なる領域に独立に電流を注入するように制御する制御部を有し、
前記上部電極層、および前記下部電極層によって前記活性層に電流を注入することで発光させ、前記面内方向に光を導波させて出射させる光源であって、
前記複数の異なる領域が、光出射端を含まない第一の領域と、光出射端を含む第二の領域とを有し、
前記活性層が非対称多重量子井戸構造を有し、
前記非対称多重量子井戸構造は、高次準位で発光が可能な量子井戸、及び、基底準位で発光が可能な量子井戸を有し、
前記第一の領域が少なくとも前記基底準位の発光をするように構成され、
前記第二の領域が少なくとも前記高次準位の発光をするように構成され、
前記第一の領域で発生した前記基底準位の光が、前記第二の領域を通過する際に、前記高次準位の発光の誘導放出を発生させるように構成され、
前記制御部は、前記第一の領域に注入される電流密度が、前記第二の領域に注入される電流密度の14%以下となるように、前記第一の領域、及び前記第二の領域に注入する電流を制御することを特徴とする光源。
【請求項2】
前記第二の領域では、前記第二の領域に入射する光の支配的ピークより高エネルギー準位に支配的ピークをもつ請求項1に記載の光源。
【請求項3】
前記第二の領域の電流密度は、飽和電流密度の80%以上である請求項1または2に記載の光源。
【請求項4】
前記制御部は、前記第一の領域に注入される電流密度が、前記第二の領域に注入される電流密度の11%以下となるように、前記第一の領域、および前記第二の領域に注入する電流を制御することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の光源。
【請求項5】
前記制御部は、前記第一の領域に注入される電流密度が、前記第二の領域に注入される電流密度の0%より大きくなるように、前記第一の領域、および前記第二の領域に注入する電流を制御することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の光源。
【請求項6】
前記制御部は、前記第一の領域に注入される電流密度が、前記第二の領域に注入される電流密度の3%以上となるように、前記第一の領域、および前記第二の領域に注入する電流を制御することを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載の光源。
【請求項7】
前記第一の領域と前記第二の領域とは、同一の活性層を有することを特徴とする請求項1乃至6のいずれか一項に記載の光源。
【請求項8】
前記第一の領域に電流を注入するための第一の電極対と、前記第二の領域に電流を注入するための第二の電極対とを有し、前記第一の電極対と前記第二の電極対とは、抵抗配線で電気的に接続されており、前記第二の電極対に電圧を印加することで、1つの電源から前記第二の領域および前記第一の領域に電流を注入することを特徴とする請求項1乃至7のいずれか一項に記載の光源。
【請求項9】
前記第一の領域に電流を注入するための第一の電極対と、前記第二の領域に電流を注入するための第二の電極対とを有し、前記第一の電極対と前記第二の電極対とは、半導体層で電気的に接続されており、前記第二の電極対に電圧を印加することで、1つの電源から前記第二の領域および前記第一の領域に電流を注入することを特徴とする請求項1乃至7のいずれか一項に記載の光源。
【請求項10】
前記制御部は、前記第一の領域から発せられ、前記第二の領域を経由した光の発光スペクトルのポイントスプレッドファンクションの2番目に大きいピーク値が、最も大きいピーク値の30%以下の値となるように制御することを特徴とする請求項1乃至9のいずれか一項に記載の光源。
【請求項11】
前記光源はリッジ型導波路を有することを特徴とする請求項1乃至10のいずれか一項に記載の光源。
【請求項12】
前記光源は800nmから900nmの範囲で発光することを特徴とする請求項1乃至11のいずれか一項に記載の光源。
【請求項13】
請求項1乃至12のいずれか一項に記載の光源と、
前記光源からの光を物体へ照射する照射光と参照光とに分岐し、前記物体に照射された光の反射光と前記参照光による干渉光を発生させる干渉部と、
前記干渉光を波長分散させる波長分散部と、
波長分散された前記干渉光を受光する光検出部と、
前記干渉光の強度に基づいて、前記物体の情報を取得する情報取得部と、
を有することを特徴とする光干渉断層撮像装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は光源及び前記光源を用いた光干渉断層撮像装置に関する。
【背景技術】
【0002】
スーパールミネッセントダイオード(Super Luminescent Diode、以下SLDと略すことがある)は発光ダイオードのように広帯域なスペクトル分布を有しながら、半導体レーザ同様に1mW以上の比較的高い光出力を得ることが可能な半導体光源である。SLDはその特性から高分解能が求められる医療分野や計測分野で注目されており、例えば、生体組織の断層画像を取得することができる光干渉断層撮像(Optical Coherence Tomography、OCT)装置の光源として用いられる。
【0003】
非特許文献1では、1つのSLD素子に複数の電極対を設けた多電極構造を持つSLDの開示がある。非特許文献1では、出射端を含む領域においては1次準位および基底準位の発光をさせて、低波長側に大きいピーク、長波長側に相対的に小さいピークとなるようにしている。一方、出射端を含む領域に隣接する領域は基底準位の発光をさせ、先の光と合波することで、SLDから出射される光の発光波長帯域が広くなるようにしている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】ELECTRONICS LETTERS 1st February 1996 Vol.32 No.3 pp.255−256
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
非特許文献1で開示されているSLDの活性層は、単量子井戸層を有するものであり、高エネルギー準位の発光をさせるために必要な最低電流密度が大きいという課題があった。
【0006】
本発明は上記課題に鑑み、1次(高エネルギー)準位の発光をさせるために必要な最低電流密度が小さい光源を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る光源は、上部電極層と、下部電極層と、それらの間に設けられた活性層とを有し、前記上部電極層と前記下部電極層の少なくともいずれか一方の電極層が、前記活性層の面内方向に互いに分離された複数の電極に分割されており、分離された前記複数の電極によって、前記活性層における複数の異なる領域に独立に電流を注入するように構成され、前記上部電極層、および前記下部電極層によって前記活性層に電流を注入することで発光させ、前記面内方向に光を導波させて出射させる光源であって、前記複数の異なる電流注入領域が、光出射端を含まない第一の領域と、光出射端を含む第二の領域とを有し、前記第二の領域が少なくとも1次準位の発光をするように構成され、前記活性層が非対称多重量子井戸構造を有することを特徴とする。
【0008】
別の本発明に係る光源は、2つの発光領域を有する半導体発光素子と、前記2つの発光領域に注入する電流を制御する制御部とを有する光源であって、
前記制御部は、前記2つの発光領域うちの一方の第一の発光領域に注入される電流密度が、前記2つの発光領域のうちの他方の第二の発光領域に注入される電流密度の44%未満となるように、前記第一の発光領域から発せられ、前記第二の発光領域を経由した光を出射させるることを特徴とする。
【0009】
本発明に係る光干渉断層撮像装置は本発明に係る光源と、前記光源からの光を物体へ照射する照射光と参照光とに分岐し、前記物体に照射された光の反射光と前記参照光による干渉光を発生させる干渉光学系と、前記干渉光を波長分散させる波長分散部と、波長分散された前記干渉光を受光する光検出部と、前記干渉光の強度に基づいて、前記物体の情報を取得する情報取得部と、を有することを特徴とする。
【0010】
本発明に係る光源の制御方法は、2つの発光領域を有する半導体発光素子を有する光源の制御方法であって、前記2つの発光領域うちの一方の第一の発光領域に注入される電流密度が、前記2つの発光領域のうちの他方の第二の発光領域に注入される電流密度の44%未満となるように、前記第一の発光領域、および前記第二の発光領域に注入する電流を制御し、前記第一の発光領域から発せられ、前記第二の発光領域を経由した光を出射させる工程を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る光源によれば、1次(高エネルギー)準位の発光をさせるために必要な最低電流密度が小さい光源を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の実施形態1に係る光源の構成を説明する斜視図。
図2】本発明の実施形態1に係る光源の構成を説明する(a)平面図(b)断面図。
図3】本発明の実施形態2に係る光源の構成を説明する(a)平面図(b)断面図。
図4】本発明の実施形態3(例1)に係る光源の構成を説明する平面図。
図5】本発明の実施形態3(例2)に係る光源の構成を説明する(a)平面図(b)断面図。
図6】本発明の実施形態3(例3)に係る光源の構成を説明する平面図。
図7】本発明の実施形態4に係る光源の構成を説明する平面図。
図8】本発明の実施形態5に係るOCT装置の構成を示した図。
図9】本発明の実施例1で得られた発光スペクトルのグラフ。
図10】本発明の実施例1で得られた、「第一の発光領域の電流密度/第二の発光領域の電流密度」と、得られた発光スペクトルの最大半値全幅との関係を示したグラフ。
図11】本発明の実施例2で得られた発光スぺクトルのグラフ。
図12】本発明の実施例2で得られた、「第一の発光領域の電流密度/第二の発光領域の電流密度」と、得られた発光スペクトルの最大半値全幅との関係を示したグラフ。
図13】本発明の実施例2で得られた、光源の構成、駆動条件と得られた発光スペクトルの最大半値全幅、光出力の結果。
図14】本発明の実施例3で得られた発光スペクトルのグラフ。
図15】本発明の実施例7で得られた、「第一の発光領域の電流密度/第二の発光領域の電流密度」と、得られた発光スペクトルの最大半値全幅との関係を示したグラフ。
図16】本発明の実施例8について説明するための図である。
図17】本発明の実施例8について説明するための図である。
図18】本発明の実施例9について説明するための図である。
図19】本発明の実施例8、9の結果についてまとめた表である。
図20】本発明の実施例10について説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の実施形態に係る光源について説明する。
【0014】
本発明の実施形態に係る光源は上部電極層と、下部電極層と、それらの間に設けられた活性層とを有する。また、上部電極層と下部電極層の少なくともいずれか一方の電極層が、光の導波方向に複数に分割された電極をもつ多電極の構成となっている。そして、分離された複数の電極によって、活性層における複数の異なる領域に独立に電流を注入するように構成されている。本発明の実施形態に係る光源は、上部電極層、および下部電極層によって活性層に電流を注入することで発光させ、活性層の面内方向、具体的には、光の導波方向に光を導波させて出射させることができる。活性層への電流注入量によって発光波長の帯域が変わる。そのため、活性層における複数の異なる領域への電流注入量を適宜調整することで、発光波長帯域を広帯域にすることができる。
【0015】
ここで、複数の異なる電流注入領域が、光出射端を含まない第一の領域と、光出射端を含む第二の領域とを有し、第二の領域が1次準位および基底順位の発光をするように構成されている。1次準位の発光ピークは低波長側に、基底順位の発光ピークは長波長側に存在する。長波長側の発光ピ−クは低波長側に比べて小さい。一方、第一の領域は基底順位の発光をするように構成されているため、第一の領域から出る光を第二の領域を経由させて出射させることで、発光波長帯域を高帯域にすることができる。なお、本発明者らは第一の領域から出る光が第二の領域を経由する際に誘導放出が生じることを見出した。すなわち、第一の領域から出る光の長波長側の発光強度と第二の領域から出る光の長波長側の発光強度の和、以上の強度の光を得ることができる。
【0016】
なお、第一の領域と第二の領域とは隣接していてもよいし隣接していなくてもよい。
【0017】
本発明の実施形態に係る光源は、活性層が非対称多重量子井戸構造を有することを特徴とする。ここで、発光波長領域を広くするために、基底準位だけでなく、1次準位の発光をさせる手段が考えられる。1次準位の発光をさせるために、活性層が非対称多重量子井戸構造とする。活性層が非対称多重量子井戸構造である場合、互いに異なる発光準位の発光をさせることができるだけでなく、1次準位の発光をさせるために必要な最低電流密度が小さくて済む。
【0018】
一方、単量子井戸構造の場合、発光波長帯域を広くするために、量子井戸を深くする必要がある。しかし、量子井戸が深くなることにより、1次準位の発光をさせるために必要な最低電流密度が大きくなってしまう。
【0019】
したがって、本発明の実施形態に係る光源は、活性層が非対称多重量子井戸構造を有することにより、1次準位の発光をさせるために必要な最低電流密度が小さくて済むという効果を得られる。
【0020】
なお、1次以上の準位の発光をさせてもよい。
【0021】
本発明の実施形態に係る光源は、第一の領域に注入される電流密度が、第二の領域に注入される電流密度より小さくなるように構成されていることが好ましい。
【0022】
また、本発明の実施形態に係る光源は、SLD動作させるために、第二の領域のキャリア密度が透明キャリア密度より大きいことが好ましい。
【0023】
また、第二の領域では、第二の領域に入射する光の支配的ピークより高エネルギー準位に支配的ピークをもつようにすることが好ましい。
【0024】
また、第二の領域以外の領域のキャリア密度が透明キャリア密度より大きいことが好ましい。
【0025】
また、第二の領域の電流密度は、飽和電流密度の80%以上であることが好ましい。
次に、本発明の実施形態に係る光源の詳細を説明する。以下では、光源として、発光素子(半導体発光素子)の一例であるSLDについて説明する。
【0026】
(実施形態1)
まず、図1を用いて実施形態1に係る光源の構成について説明する。
【0027】
本実施形態に係る光源は、基板100の上に下部クラッド層101、活性層102、上部クラッド層103が順次形成されており、上部クラッド層103にリッジ型導波路106が形成されている。リッジ型導波路部分の上にはコンタクト層104を介して、上部電極108が形成されており、この上部電極108とコンタクト層104から活性層102に電流注入を行なう。上部電極108は分割部109を介して、第1電極110と、第2電極120との2つに離間した構造となっている。以下、第1電極110と下部電極107とを第一の電極対、第2電極120と下部電極107とを第二の電極対とよぶ。基板100の有する面のうち下部クラッド層101が設けられていない方の面には下部電極107が形成されている。本実施形態に係る光源は第1電極110、第2電極120と、下部電極107との間に電圧を印加することで、図1中の白い矢印の方向に光を出射するSLDである。
【0028】
以下では、このように複数の電極対を有するSLDを多電極SLDと呼ぶことがある。
【0029】
図2(a)は図1で示す光源の上面図、すなわち、基板100に対して上部電極108が形成される方向から見た図である。図2(b)は図2(a)A−A’断面における断面図である。図2(b)で示す例では、コンタクト層104が分割部109を介して2つの部分に分離し、電気的に分離された構造となっている。
【0030】
第1電極110で電流が注入される活性層の領域が第一の発光領域(不図示)、第2電極120で電流が注入される活性層の領域が第二の発光領域(不図示)である。本実施形態に係る光源は、少なくとも2つの発光領域(本実施形態では第一の発光領域と第二の発光領域の2つの領域)を有するスーパールミネッセントダイオード(SLD)であるが、3つ以上の発光領域を有していていもよい。本実施形態に係る光源においてSLDは、図1、2に示すように第一の発光領域と第二の発光領域とは、同一の活性層を有していることが好ましいが、本発明の効果を奏する範囲であれば互いに異なる活性層を有していてもよい。また、本実施形態に係る光源が発光領域を3つ以上有する場合、それら発光領域が同一の活性層を有していることが好ましいが、本発明の効果を奏する範囲であれば互いに異なる活性層を有していてもよい。ここで、同一の活性層を有しているとは、図1、2に示すように1つの活性層を共有すること、同一組成、サイズの活性層を2つ有する場合も含む。
【0031】
本実施形態に係る光源から出射される光は第一の発光領域から発せられ、第二の発光領域を経由して出射する光と、第二の発光領域から出射する光とが合波された光である。
【0032】
本実施形態に係る光源は、活性層が非対称多重量子井戸構造を有することを特徴とする。また、第2電極における発光領域において高エネルギー準位の発光、第2電極以外の電極における発光領域において低エネルギー準位の発光を出すことを特徴としている。
活性層が非対称多重量子井戸構造を有する方が単量子井戸構造を有する場合よりも、低い電流密度で高エネルギー準位の発光を出すことができる理由について説明する。これは、非対称多重量子井戸構造とすることで複数の発光準位をもちながら浅い発光準位を形成できることによる。単量子井戸構造では高エネルギー準位の発光を出すためには高いキャリア密度が必要である。これに対し、非対称多重量子井戸構造では、基底準位でも高エネルギー準位の浅い井戸が存在するため、キャリア密度が低くても高エネルギー準位の発光を出すことができる。
【0033】
本実施形態では、各発光領域の電流密度を変化させることで互いに異なるスペクトルを生じさせるため、活性層の構造を、発光領域によって変える必要がない。これにより、素子の作製プロセスが簡素化されるとともに、歩留まりが良くなるというメリットを有する。
【0034】
(実施形態2)
本発明の実施形態2に係る光源について図3を用いて説明する。
【0035】
実施形態1では、第一電極110と第二電極120とは導波方向において同じ長さであったが、本実施形態では、光の導波方向において、第一電極110が第二電極120よりも長い。
【0036】
多電極SLDでは、高出力化、及び発光波長領域の広帯域化を実現するために、第2電極における発光領域において高エネルギー準位の発光、第2電極以外の電極における発光領域において低エネルギー準位の発光をさせる。特に、第2電極における発光領域において高エネルギー準位の発光、第1電極における発光領域において低エネルギー準位の発光を出すことが好ましい。この時、第1電極、および第2電極以外の発光領域に関しては、特に限定を設けない。
【0037】
ここで、第1電極を導波方向に対して長くすると、第一の発光領域の電流密度を低く抑えることができるとともに、電流密度の微調整が容易となる。第1電極における発光領域からの光は第2電極における発光領域を経由することで増幅されるため、第1電極によって第一の発光領域に注入される電流密度によって発光スペクトルが大きく変化する。したがって、第1電極の電流密度はスペクトルを見ながら微調整する必要があるため、第1電極を導波する方向に対して長くすることが大きなメリットとなる。
【0038】
(実施形態3)
本発明の実施形態3に係る光源について説明する。
【0039】
本実施形態に係る光源は、2つの発光領域のうちの一方の第一の発光領域に注入される電流密度が、2つの発光領域のうちの他方の第二の発光領域の電流密度の44%未満となるように、第一の発光領域、および第二の発光領域に注入する電流を制御する制御部(図1の150)を有することを特徴としている。
【0040】
次に本実施形態に係る光源の発光スペクトルの半値全幅が拡大するメカニズムについて説明する。
【0041】
第二の発光領域の役割は、高エネルギー準位からの発光を得ることである。活性層構造が単量子井戸、若しくは複数の同一準位井戸構造であれば高次(1次)準位発光を得ることを意味し、非対称多重量子井戸であれば、その中の高エネルギー準位の発光を得ることを意味する。非対称多重量子井戸の中に、高次準位発光が可能な井戸が含まれていてもよい。従って、第二の発光領域の活性層が、少なくとも異なる2つ以上の量子順位で発光が可能な量子井戸を有するか、単一でも高次準位発光が可能な量子井戸を有することが好ましく、高エネルギー準位発光が出現する程度の(比較的大きめの)電流を注入することが好ましい。高エネルギー準位のスペクトルは短波長領域に出現する。
【0042】
第一の発光領域の役割は基底(0次)準位の発光、若しくは複数準位の井戸がある場合には、低エネルギー準位の発光を得ることにある。低エネルギー準位は長波長領域に出現する。このとき第一の発光領域への電流注入量は低く抑えなければならない。なぜならば第一の発光領域で電流注入量が増加すると、高エネルギー準位の発光成分が大きくなる方向へ波長シフトするからである。通常は低い電流注入量では光出力が極めて微小であるが、本実施形態に係る光源のような多電極構造のSLDにおいては第一の発光領域で発生する微小な低エネルギー準位発光が、第二の発光領域を通過する際に増幅され、長波長領域に大きな出力のスペクトルを出現させる。この結果、高エネルギー準位のスペクトルが短波長領域をカバーし、低エネルギー準位の発光スペクトルが長波長領域をカバーすることで、広帯域な発光スペクトルが得られることになる。
【0043】
高エネルギー準位スペクトルと低エネルギー準位スペクトルのバランスが取れた状態が本実施形態の「第一の発光領域に注入される電流密度が、第二の発光領域の電流密度の44%未満」に相当する。光源がこのような状態で発光しているときに、略ガウシアン形状、かつ広い半値全幅をもつ発光スペクトルの光を発する。
【0044】
第二の発光領域の電流密度の44%以上の電流を第一の発光領域に注入すると、低エネルギー準位のスペクトル成分が(増幅を受けて)急激に増大し、発光スペクトルの主成分が長波長側にシフトして半値全幅を狭める結果となる。若しくは高エネルギー準位ピークと低エネルギー準位ピークに分離し、略ガウシアン形状ではない多峰性形状のスペクトルとなる。これらの挙動は、活性層構造が単量子井戸であっても、多重量子井戸であっても概ね変わらない。
【0045】
第二の発光領域は低エネルギー準位の発光を得る役割であることを述べた。しかしながら第二の発光領域の44%未満の弱い電流注入であっても、第二の発光領域内で発生するスペクトルは僅かながら高エネルギー準位の成分を含み、短波長側へシフトすることが分かっている。第一の発光領域、および第二の発光領域とは異なる、第三、第四、・・・の発光領域がある場合、第三以降の発光領域の役割として、低エネルギー準位の中のより長波長側(利得スペクトルの最も長波長領域近辺)を出現させ、第一、第二の発光領域で増幅することにより、より長波長側をカバーすることも可能となる。
【0046】
制御部は、第一の発光領域に注入される電流密度が、第二の発光領域の電流密度の14%以下となるように、第一の発光領域、および第二の発光領域に注入する電流を制御することが好ましく、0%以上であることが好ましく、11%以下であることがさらに好ましく、3%以上であることがさらに好ましい。
【0047】
発光スペクトルの出力や形状は、前述した第一の発光領域と第二の発光領域の電流注入密度の比で概ね決定するが、第三以降の発光領域への電流注入を行なうことによってスペクトル半値全幅の更なる拡大、形状や光出力の微妙な調整を行なうことができる。第三以降の発光領域への電流注入密度の比は、特に限定されない。
【0048】
(略ガウシアン形状)
上記、発光スペクトルが略ガウシアン形状であるとは、発光スペクトルのポイントスプレッドファンクション(Point Spread Function)において、2番目に大きいピーク値が、最も大きいピーク値の30%以下の値となることを意味する。好ましくは、2番目に大きいピーク値が、最も大きいピーク値の20%以下の値であるときであり、さらに好ましくは10%以下の値であるときである。
【0049】
発光スペクトルのポイントスプレッドファンクションは、該発光スペクトル(横軸が波長で、縦軸が発光強度)の横軸を波数に変換し、フーリエ変換して得られる関数である。
【0050】
ポイントスプレッドファンクションにおいて、最も大きいピーク値以外のピークを含む部分はサイドローブと呼ばれ、サイドローブのピークが大きいとOCT装置で正しい断層像が得られにくい。
【0051】
(第一の発光領域、第二の発光領域)
本実施形態において第一の発光領域とは、第1電極110によって電流を注入される活性層の領域である。また、本実施形態において、第一の発光領域に注入される電流密度は、第1電極110に注入する電流の値を、第1電極110の面積(リッジ幅111の値と素子長112の値の積)で割った値である。
【0052】
同様に、本実施形態において第二の発光領域とは、第2電極120によって電流を注入される活性層の領域である。また、本実施形態において、第二の発光領域に注入される電流密度は、第2電極120に注入する電流の値を、第2電極120の面積(リッジ幅121の値と素子長122の値の積で割った値である。
【0053】
本実施形態において、第一の発光領域および第二の発光領域はそれぞれ独立に、単量子井戸、多重量子井戸、非対称多重量子井戸の何れかの構造で、少なくとも異なる2つ以上の量子準位で発光が可能な量子井戸を含むこと。
【0054】
(活性層)
本実施形態において発光領域となる活性層は量子井戸構造とすることが好ましいが、単量子井戸でも多重量子井戸(対称、非対称を含む)構造でもよい。活性層構造の違いや素子長の違いにより、最大の半値全幅を示す電流密度の比の最適値が異なるが、何れの場合においても第一の発光領域に注入される電流密度が、第二の発光領域の電流密度の44%未満とすることで略ガウシアン形状、かつ広い半値全幅をもつ発光スペクトルを得られる。なお、第一の発光領域に注入される電流密度が、第二の発光領域の電流密度の44%未満となる範囲に置いて、半値全幅、発光スペクトルの形状、光出力の強度を考慮して電流注入密度の比を決定すれば良い。
【0055】
ここで、活性層に好適な量子井戸構造は、発光させる波長により異なる。そして量子井戸構造の発光波長は井戸層及び障壁層の材料および井戸層の厚さにより決まる。以下では、好適な発光波長を得るための量子井戸の例として、量子井戸の基底準位の発光波長を軸に説明する。
【0056】
例えば、800nmから850nmの範囲に基底準位の発光を位置させるためには、井戸層にはAl組成xが0から0.15のAlGa(1−x)Asが好適である。そして障壁層はそれよりもAl組成の高いAlGaAsを使用することが好適である。この時の量子井戸層の厚さは5nm〜10nmが好適である。ただし、基底準位の発光波長は井戸層の厚さと井戸層を構成する材料で決まるため、厚さを5nmより短くし、その分バンドギャップの小さい波長の材料を使用することでも実現できる。
【0057】
波長帯が850nmから900nmの範囲に基底準位の発光を位置させるためには、井戸層の材料として、In組成が0から0.1のInGa(1−x)Asが使用できる。障壁層の材料としては、GaAsまたはAlGaAsを使用することが好適である。井戸層の厚さは、5nm〜10nmが好適である。ただし、井戸層の厚さと井戸層を構成する材料で決まるため、厚さを5nmより短くし、その分バンドギャップの短い波長の材料を使用することでも実現できる。
【0058】
また、同じ800nmから900nm帯であっても、この波長帯で発光する材料であれば、上記の材料に限らず、他の材料を用いることもできる。例えば、井戸層にGaInAsPを用いて、上記の思想により量子井戸構造を実現しても良い。
【0059】
同様に、他の波長帯においても、各波長帯で発光する井戸層とそれよりも広いバンドギャップを持つ材料を障壁層に用い、かつ井戸層の幅を調整することで好適な活性層が実現できる。例えば、980nm帯であれば、井戸層にはIn組成が0.2付近のInGaAsが好適であり、1550nmであれば、InP基板と格子整合するIn組成0.68付近のInGaAsを好適に用いることができる。
【0060】
以上の量子井戸構造を一つまたは複数をSLDの活性層として用いることが好適である。複数の量子井戸層を用いる場合には、複数の異なる発光波長を持つ量子井戸構造を用いることで、より幅広い波長で発光させることができる。
【0061】
以上では、活性層に量子井戸構造を用いていた。量子井戸構造はその利得特性や製造方法の容易さなどの理由でSLDには好適である。しかし、SLDに用いる活性層構造は量子井戸構造に限定されるものではない。例えば、量子効果が小さくなる程度の厚みの、いわゆるバルク構造の活性層や、量子細線、量子ドット構造の活性層を用いても良い。
【0062】
(電流密度制御の例)
第一の発光領域に注入される電流密度が、第二の発光領域の電流密度の44%未満となるようにするための、具体例について説明する。
【0063】
(例1)図4は、本実施形態に係る光源を図2(a)と同じ方向から見た平面図である。本例では第1電極110と第2電極120とが抵抗配線であるAuなどの金属配線301で電気的に接続されている、すなわち第一の電極対と第二の電極対とが抵抗配線で電気的に接続されている点以外は、図2で示す例と同じ構成である。金属配線301は電気抵抗としての役割を果たす。つまり、電源から第二の発光領域へ電流注入する金属配線と、金属配線が延長されてなる抵抗配線を介して第一の発光領域へ電流注入されるように構成されている。設けられた金属配線の長さを適切に設定することで、第2電極に電流を注入すると、第1の電極に、第2の電極に注入された電流よりも少ない電流が注入され、その結果、第一の発光領域に注入される電流密度が、第二の発光領域の電流密度の44%未満となるようにすることができる。
【0064】
(例2)図5(a)は、本実施形態に係る光源を図2(a)と同じ方向から見た平面図で、図5(b)は、図5(a)を黒い矢印で示す方向から見た断面図である。図5(b)で示す例では、半導体層であるコンタクト層404が離間していない、すなわち第一の電極対と第二の電極対とが半導体層で電気的に接続されている点以外は、図2で示す例と同じ構成である。このコンタクト層404の抵抗が図4の例の金属配線と同様に電気抵抗の役割を果たす。電源から第二の発光領域へ電流注入する金属配線と、金属配線が延長されてなる抵抗配線を介して第一の発光領域へ電流注入されるように構成されているため、例1と同様に、コンタクト層404の組成やサイズなどを適切に設定することで、第一の発光領域に注入される電流密度が、第二の発光領域の電流密度の44%未満となるようにすることができる。
【0065】
(例3)図6は、本実施形態に係る光源を図2(a)と同じ方向から見た平面図である。図6で示す例では、第1電極110のリッジ幅501が、第2電極120のリッジ幅502よりも大きい。このように、第1電極110および第2電極120のリッジ幅を適宜変えることで、第一及び第二の発光領域への電流注入量が変わり、光源から発せられる発光スペクトルの半値全幅を変えることができる。
【0066】
また、第1電極110の面積を大きくすることで、第一の発光領域に注入する電流を大きくすることができるが、素子長503を長くすると、多峰性の発光スペクトルになり、略ガウシアン形状でなくなるおそれがある。そこで、リッジ幅501を大きくすることで、注入する電流を大きくし、かつ、略ガウシアン形状を維持することができる。
【0067】
(実施形態4 4電極SLD)
実施形態1から3では2つの電極を用いて電流を注入する形態について説明したが、本実施形態では、4つの電極を用いた形態について図7を用いて説明する。なお、実施形態1から3と共通する事項について、ここでは説明を省略し、実施形態1から3と異なる事項について以下に説明する。
【0068】
図7は、図2(a)と同様、光源を、基板に対して上部電極が形成される方向から見た図であるが、本実施形態では、第1電極110、第2電極120に加えて、第3電極630、第4電極640が設けられている。発光スペクトルの出力や形状は、第一電極と第二電極における発光領域の電流注入密度で概ね決定するが、第3、4電極630、640に対応する第三、四の発光領域への電流注入を行なうことによってスペクトル半値全幅の更なる拡大、形状や光出力の微妙な調整を行なうことができる。
【0069】
本実施形態に係る光源も、第一の発光領域に注入する電流密度を、第二の発光領域に注入する電流密度の44%未満とすることで、略ガウシアン形状、かつ、半値全幅の広い発光スペクトルを実現できる。
【0070】
また、第3電極630、第4電極640を設け、これらに電流を注入することで、第1電極110に注入する電流が少なくても大きな光出力を得ることができる。したがって、電極が3つ以上ある場合、第一の発光領域に注入される電流密度が、第二の発光領域の電流密度の2%以下となるように、第一の発光領域、および第二の発光領域に注入する電流を制御することが好ましい場合もある。
【0071】
ここでは4つの電極を用いた形態について説明したが、3つの電極を用いた形態、あるいは、5つ以上の電極を用いた形態についても、第一の発光領域に注入される電流密度が、第二の発光領域の電流密度の44%未満となるようにすることで、略ガウシアン形状、かつ広い半値全幅をもつ発光スペクトルの光を発する光源を実現できる。
【0072】
(実施形態5 OCT装置)
本実施形態では、上記実施形態1から4のいずれかに係る光源を用いた光干渉断層撮像(OCT)装置について図8を用いて説明する。
【0073】
本実施形態に係るOCT装置は、光出力部700、光分割部710、参照光反射部730、測定部720、光検出部760、画像処理部(情報取得部)770、画像出力モニタ部780を有する。光出力部700に含まれる光源701は上記いずれかの実施形態に係る光源である。
【0074】
光源701から出た光は光分割部710により物体(測定対象物)750へ照射する照射光と参照光とに分岐され、測定対象物750に照射された光の反射光と参照光とによる干渉光を発生させる。参照光学系730および測定部720から戻ってきた光は干渉部715を通り、光検出部760に入る。光検出部760で得られた情報は、断層画像へ変換するための画像処理部(情報取得部)770で画像に変換され、パーソナルコンピュータの表示画面等で構成される画像出力モニタ部780で断層画像として表示する。
【0075】
次に、本実施形態に係るOCT装置の詳細について、一例を示して説明する。
【0076】
図8に示すOCT装置は光出力部700、光出力部700から出射された光を参照光と測定光に分割する光分割部710、参照光反射部730、測定対象物750とそこに光を照射するための照射光学系740からなる測定部720、反射した参照光と反射した測定光を干渉させる干渉部715、干渉部により得られた干渉光を検出する光検出部760および光検出部760で検出された光に基づいて断層像に関する情報を得る画像処理部(情報取得部)770、断層像を表示する画像出力モニタ部780より構成されている。
【0077】
光出力部700は光ファイバを介して光分割部710により参照光と測定光に分波し、分波された光の一部は参照光反射部730へ入る。ここでは、光分割部710と干渉部715は同一のファイバカプラを用いている。
【0078】
参照光反射部730はコリメータレンズ731および732、反射鏡733で構成されており、反射鏡733で反射し再度光ファイバへ入射する。光ファイバから光分割部710で分波されたもう片方の光である測定光は、測定部720へ入る。測定部720の測定光学系740はコリメータレンズ741および742、光路を90°曲げるための反射鏡743で構成されている。照射光学系740は入射した光を測定対象物750へ入射するとともに、反射光を再び光ファイバへ結合する役割がある。
【0079】
そして参照光反射部730および測定部720から戻ってきた光は干渉部715を通り、光検出部760によって受光する。光検出部760はコリメータレンズ761および762、干渉光を波長分散させる波長分散部763としての分光器(波長分散部)、分光器763により分光された光のスペクトル情報を得るためのラインセンサ764で構成されている。分光器763はグレーティングを用いている。光検出部760はそれに入射した光のスペクトル情報を得る構成となっている。
【0080】
光検出部760で得た情報は、断層像に関する情報を得る画像処理部(情報取得部)770に伝わり、最終的な出力である断層像に関する情報が得られる。これをパーソナルコンピュータの表示画面等で構成される画像出力モニタ部780で断層画像として表示する。
【0081】
本実施形態におけるOCT装置において、特徴は光源701であり、例えば、実施形態1で記載した光源(2電極のSLD)を用い、第二の発光領域に110mA(18.3kA/cm)、第一の発光領域に14mA(1.75kA/cm)の電流を注入した時、広帯域なスペクトルを出力することが可能であるため、分解能が高い断層画像情報を取得可能である。このOCT装置は、眼科、歯科、皮膚科等における断層画像撮影に有用である。
【0082】
(実施形態6 光源の制御方法)
実施形態6では、光源の制御方法について説明する。
【0083】
本実施形態に係る光源の制御方法は、2つの発光領域を有するスーパールミネッセントダイオードを有する光源の制御方法であって、前記2つの発光領域うちの一方の第一の発光領域に注入される電流密度が、前記2つの発光領域のうちの他方の第二の発光領域に注入される電流密度の44%未満となるように、前記第一の発光領域、および前記第二の発光領域に注入する電流を制御し、前記第一の発光領域から発せられ、前記第二の発光領域を経由した光を出射させる工程を有することを特徴とする。
【実施例】
【0084】
以下に本発明の実施例を示す。以下の実施例で示す活性層構造(タイプ)、リッジ幅、素子長はあくまで一例であり、それらに限定されるものではない。また、光源として半導体発光素子の一例であるSLDについて説明する。
【0085】
(実施例1)(非対称多重量子井戸構造、2電極SLDの例)
本発明を適用したSLDの構成について、図1(a)斜視図と図1(b)平面図を用いて説明する。実施例1では、実施形態1(図1、2)において、基板100としてn型GaAs基板、下部クラッド層101としてn型クラッド層(n−Al0.5GaAs,厚さ1.2μm)、上部クラッド層103としてp型クラッド層(n−Al0.5GaAs,厚さ1μm)、コンタクト層104としてp型コンタクト層(カーボン(C)不純物を5×1019ドープしたp−GaAs、厚さ0.2μm)を用いた。活性層102は、深さ変調した2つの量子井戸からなる非対称多重量子井戸構造(非対称2量子井戸構造)とし、厚さ8nmのInGa(1−x)As(x=0.03、0.05)の層が2つの障壁層(Al0.1GaAs、厚さ8nm)で挟まれた層を用いた。
【0086】
リッジ部(リッジ型導波路)106はフォトリソグラフィー技術を用いてストライプ状のレジストパターンを形成した後、コンタクト層104と上部クラッド層103の一部をエッチングし、リッジ幅4μm、高さ0.8μmの構造を形成した。
【0087】
次いで上部クラッド層103およびコンタクト層104の全面に絶縁膜となるSiO膜105をスパッタ法で0.4μm形成した後、リッジ上部のコンタクト層104のみを露出させ、リフトオフ法により上部電極108を形成した。次いで基板100の下面には下部電極107を全面に形成した。上部電極108はTi(50nm)/Au(300nm)の積層膜、下部電極107はAuGe(150nm)/Ni(30nm)/Au(200nm)の積層膜とし、それぞれ真空蒸着法を用いて形成した。
【0088】
最後に上部電極108は、第1電極110と、第2電極120がそれぞれ独立で駆動可能にするため、フォトリソグラフィー及びエッチング工程により、分割部109で上部電極108およびコンタクト層104をエッチング除去し、電極の分離を行なった。
【0089】
電気的に分離した第1電極110、及び第2電極120の素子長は、それぞれ0.2mm、及び0.15mmとした。電極の分離幅は10μmとした。
【0090】
リッジ部の端面(へき開面)は、放出光の反射を防止するために、端面の垂線に対しリッジの長手方向を7度傾斜した構造にした。
【0091】
上記プロセスにて形成した光源の発光特性を図9に示す。図9(a)は第二の発光領域にのみ110mA(電流密度18.3kA/cm)の電流注入を行なった際の発光スペクトルを示す。この発光スペクトルの半値全幅は30nm、出力は1.2mWだった。図9(b)は第二の発光領域に110mA(18.3kA/cm)、第一の発光領域に14mA(1.75kA/cm)電流注入した時の発光スペクトルを示す。このスペクトルの半値全幅は64nm、出力は2.1mWだった。つまり第二の発光領域に対して約9.6%の電流密度で第一の発光領域に電流注入したことにより、スペクトルの半値全幅、光出力ともに約2倍前後に増大する結果となった。
【0092】
第二の発光領域への電流注入量を110mA(18.3kA/cm)に固定し、第一の発光領域への電流注入量密度比を変化させたときの発光スペクトル半値全幅の関係を図10に示す。このグラフから、第一の発光領域への電流密度の比が3%から約10%にかけて半値全幅が増加し、それ以上の電流注入では逆に減少することが分かる。図10のグラフの横軸において「第一の発光領域の電流密度/第二の発光領域の電流密度」とは、第一の発光領域の電流密度の値を第二の発光領域の電流密度の値で割った値、すなわち電流密度の比である。以下の図12、15のグラフの横軸についても同様である。
【0093】
この光源を用いるOCT装置では、最大の分解能を得るためにはスペクトル半値全幅が最大となる上記条件、即ち第二の発光領域に対する第一の発光領域への電流注入密度比9.6%を条件として、OCT装置が光源を駆動すれば良い。分解能を犠牲にしても光出力を大きくして画像コントラストを優先にしたい場合には、更に第一の発光領域への電流注入量を増加することも考えられる。
【0094】
得られたグラフから、第一の発光領域の電流密度/第二の発光領域の電流密度が約10%未満とすることで、大きな半値全幅をもつ発光スペクトルを得られることがわかる。
【0095】
(実施例2)(単量子井戸構造、2電極SLDの例)
本実施例では実施例1と量子井戸構造を変えた場合の例を図11、12を用いて説明する。
【0096】
活性層は単量子井戸構造とした。量子井戸の構造は、2つのAl0.2GaAsの障壁層に挟まれた8nmの厚みのIn0.07GaAs層を単量子井戸構造とした。n及びpクラッド層の構造はともにAl0.5GaAsとし、p型クラッド層を1μm、n型クラッド層を1.2μmの厚みに形成した。
【0097】
リッジ部は実施例1と同様のプロセスを用いて、リッジ幅が3μm、素子長は第2電極0.7mm、第1電極1.5mm、第1と第2電極の分離幅は3μmとした。その他絶縁膜や金属電極の構成は実施例1と同様とした。
【0098】
上記プロセスにて形成した光源の発光スペクトルを図11に示す。図11(a)は第二の発光領域にのみ400mA(19.0kA/cm)の電流注入を行なった際の発光スペクトルを示す。このときの発光スペクトルの半値全幅は43nm、出力は8.9mWだった。図11(b)は前記第二の発光領域の電流注入に加え、第一の発光領域に50mA(1.11kA/cm)電流注入した時の発光スペクトルを示す。このときにスペクトルの半値全幅は68nmとなり、光出力は13.2mWに増加した。つまり第二の発光領域に対して約5.8%の電流密度で第一の発光領域に電流注入したことにより、スペクトルの半値全幅は約1.2倍、光出力は約1.5倍、ともに増大する結果となった。
【0099】
第二の発光領域への電流注入量を400mA(19.0kA/cm)に固定し、第一の発光領域への電流密度の比を変化させたときの発光スペクトル半値全幅の関係を図12に示す。このグラフから、第一の発光領域への電流密度の比が6%付近で発光スペクトル半値全幅が最大値を示すことが分かる。
【0100】
得られたグラフから、第一の発光領域の電流密度/第二の電流密度が約6%より大きければ大きいほど、半値全幅は小さくなっていくと考えられるため、6%未満とすることで、大きな半値全幅をもつ発光スペクトルを得られることがわかる。
【0101】
以上実施例1,2で非対称多重量子井戸(2井戸)及び単量子井戸の場合双方で、2つの電極を用いたSLDの発光スペクトル増大効果を示した。
【0102】
更に量子井戸構造、光導波路のリッジ幅、素子長を変化させさせた場合の、スペクトル最大半値全幅を得る第二の発光領域及び第一の発光領域への電流注入条件を、実証例として図13に示す。この図表より、全ての2電極SLDにいて第二の発光領域に対する第一の発光領域への電流密度の比が11%未満のときに発光スペクトルの半値全幅が最大値を取ることが分かった。加えて実施例1の図10で示したように、光出力を優先で考えた場合でも電流密度の比が44%未満であれば、OCT装置の画質改善効果を考慮したSLD光源として有効であることが分かった。
【0103】
(実施例3)(非対称多重量子井戸、4電極SLDの例)
本実施例では実施例1と量子井戸構造を変え、更に4つの電極を用いた場合の例を示す。以下、図7、14を用いて本実施例の説明を行なう。
【0104】
本実施例において、活性層の量子井戸構造はAl0.2GaAs層の中にAl0.015GaAs、GaAs、In0.04GaAsの3つの量子井戸を各8nm挟み込んだ非対称構造とした。n型およびp型クラッド層の構造はともに厚さ0.5μmのAl0.5GaAs層を用いた。
【0105】
リッジ部106は実施例1と同様のプロセスを用いて、第1電極110、第2電極120、第3電極630、第4電極640においてリッジ幅601が5μm、素子長は第二の発光領域の素子長621が0.25mm、第一、三、四の発光領域の素子長(611、631、641)がともに0.5mm、各領域の分離幅は10μmの構造とした。その他絶縁膜や金属電極の構成は実施例1と同様とした。
【0106】
上記プロセスにて形成した光源の発光スペクトルを図14に示す。図14(a)は第二の発光領域にのみ180mA(14.4kA/cm)の電流を注入した際の発光スペクトルである。半値全幅は約32nmであった。次に第二の発光領域に180mA(14.4kA/cm)、第一の発光領域に28mA(1.12kA/cm)の電流を注入した際の発光スペクトルを図14(b)に示す。これは2電極制御における最大半値全幅であり、第一の発光領域には第二の発光領域の7.8%の電流密度の比となるような電流を注入したことになる。発光スペクトルの半値全幅は63nmと倍増した。更に第二の発光領域はそのまま180mA(14.4kA/cm)、第一の発光領域には4.2mA(0.17kA/cm)と電流注入量を減らし、第三の発光領域には0mA、第四の発光領域には180mA(14.4kA/cm)の電流を夫々注入した。その際の発光スペクトルが図14(c)であり、半値全幅は85nmであった。このとき第二の発光領域に対する第一の発光領域の電流密度の比は1.2%に相当する。
【0107】
(実施例4)(実施例1を配線抵抗で実施)
本実施例は実施例1と同じ活性層構造、導波路構造、電極分割比のSLDを用いるが、電流注入方法が異なる例であり、図4を用いて説明する。
【0108】
実施例1では広い半値全幅を有する発光スペクトルを得るために第二の発光領域には110mA(18.3kA/cm)、第一の発光領域には14mA(1.75kA/cm)の電流を、独立の電源(不図示)から注入した。本実施例では図4に示すように、第二の発光領域に電流注入する配線301を延長し、その配線抵抗を用いて第一の発光領域に14mA(1.75kA/cm)相当の電流を注入するものである。
【0109】
電源から金属配線を介して半導体に電流を注入する場合、金属と半導体のコンタクト抵抗、ダイオード内部の抵抗などが存在する。これらを電流―電圧特性から見積もると、10.9Ωであることが分かった。これより第一の発光領域に14mAの電流を注入するためには第二の発光領域と第一の発光領域の間に74.7Ωの配線抵抗を形成すれば良いとの計算結果になった。これよりTi(50nm)/Au(300nm)の厚みで形成される金属配線の幅を5μm、つまり配線断面積を350nm×5μmとし、計算を簡便化するために配線材料は全体がAuであるとして、Auの比抵抗を2.4×10−6Ωcmとして計算した。その結果、金属配線の長さは0.545cmとなり、このパターンを形成して第一の発光領域へ接続した。
【0110】
その結果、実施例1とほぼ同等の発光スペクトルを得ることができた。通常は多電極構造のSLDを駆動する際には複数の電源チャネルが必要であるが、本実施例の駆動方法を採用することにより、単電源で駆動することが可能となった。
【0111】
(実施例5)(実施例1を拡散抵抗(半導体層)で実施)
実施例4では、SLDの第2電極からの金属配線の抵抗を用いて、第一の発光領域へ所定の電流を注入する方法を述べた。本実施例では、半導体コンタクト層の抵抗を用いて第一の発光領域に電流注入する方法を、図5を用いて説明する。
【0112】
多電極構造を形成する際には、図2に示すとおりリッジ上の上部電極108と、その下層にあるコンタクト層(高濃度ドープGaAs層)104を部分的に除去して第2電極120と第1電極110を電気的に分離する。
【0113】
それに対し本実施例では、図5に示すように上部電極108の一部は除去するが、その下層のコンタクト層404は残すものとする。このコンタクト層の抵抗が金属配線の抵抗の役割を果たす。
【0114】
図5(b)において実施例1と同じ構造のSLDを形成した。但し電極を分割する際、上部電極108のAu及びTiは除去するが、コンタクト層404である高ドープGaAs層はエッチングせずにそのまま残した。高ドープGaAs層はC(カーボン)不純物をGaAs層に5×1019cm−3の濃度でドープしたものである。これは比抵抗にすると2×10−3Ωcmに相当する。抵抗Rは
R=ρ・L/A (ρ:比抵抗、L:抵抗体長さ、A:抵抗体断面積)
によって表わされる。よってこのコンタクト層を用いて実施例4の配線抵抗(74.7Ω)と同じ抵抗にするためには、幅5μm、厚み0.2μmの高ドープGaAs層が3.74μm長さとなる。よって第1電極と第2電極の分割部109の分離幅を3.74μmとした。
【0115】
この光源の第二の発光領域120にのみ110mA(18.3kA/cm)の電流注入を行なったところ、実施例1とほぼ同等のスペクトルが得られた。
【0116】
(実施例6)(実施例1の第一の発光領域と第二の発光領域でリッジの幅が異なる)
本実施例では、実施例1と同様の活性層構造を持ち、第二の発光領域と第一の発光領域でリッジ幅が異なる構造のSLD素子について、図6を用いて説明する。
【0117】
実施例1と同様のプロセスで、リッジ型導波路を有する光源を形成した。ただし実施例1の素子と異なるのは、第一の発光領域110のリッジ幅501が第二の発光領域のリッジ幅502の倍の8μmとなっており、第二の発光領域120と第一の発光領域110の分離部でリッジ幅が変化したものとした。第二の発光領域のリッジ幅及び素子長、第一の発光領域の素子長は実施例1の光源と同じ値とした。
【0118】
この素子の第二の発光領域120に110mA(18.3kA/cm)の電流注入を行ない、この状態を固定して第一の発光領域110には0から徐々に電流注入量を変化させ、発光スペクトルの半値全幅の変化を観察した。その結果、第一の発光領域への電流注入量が20mA(1.25kA/cm)のときに半値全幅が64nmで最大となった。この時の第二の発光領域に対する第一の発光領域への電流注入密度比は、6.8%だった。光出力は2.3mWと実施例1の値に比べて若干上回った。
【0119】
(実施例7)
本実施例では、第一、第二発光領域の素子長を0.2mm、リッジ幅を4μmとし、第二の発光領域の電流密度を20013A/cmとしたこと以外は、実施例1と同様にして、発光スペクトルを測定した。図15には、本実施例において、第一の発光領域の電流密度/第二の発光領域の電流密度と、得られた発光スペクトルの最大半値全幅との関係を示したグラフを示す。
【0120】
得られたグラフから、第一の発光領域の電流密度/第二の発光領域の電流密度が約7%より大きければ大きいほど、半値全幅は小さくなっていくと考えられるため、7%未満とすることで大きな半値全幅をもつ発光スペクトルを得られることがわかる。
【0121】
一方、得られた光出力は第一の発光領域の電流密度/第二の発光領域の電流密度が大きいほど大きくなる傾向にあることから、例えば第一の発光領域の電流密度/第二の発光領域の電流密度が44%未満とすることで、OCT装置に適した光源となると考えられる。
【0122】
(実施例8)
本発明の実施例8に係る光源について、図1などを用いて説明する。実施例8では、実施形態1(図1、2)において、基板100としてn型GaAs基板、下部クラッド層101としてn型クラッド層(n−Al0.5GaAs,厚さ1.2μm)、上部クラッド層103としてp型クラッド層(n−Al0.5GaAs,厚さ1μm)、コンタクト層104としてp型コンタクト層(カーボン(C)不純物を5×1019ドープしたp−GaAs、厚さ0.2μm)を用いた。図18に記載の非対称多重量子井戸構造1の活性層102は図16(a)に示すように、深さ変調した3つの量子井戸からなる非対称多重量子井戸構造(非対称3量子井戸構造)とし、具体的には活性層102は、2つの厚さ8nmのIn0.04GaAs、GaAs、Al0.015GaAsの井戸層と、2つの障壁層(Al0.02GaAs、厚さ8nm)が交互に配置されたものから構成される。
【0123】
リッジ部106はフォトリソグラフィー技術を用いてストライプ状のレジストパターンを形成した後、コンタクト層104と上部クラッド層103の一部をエッチングし、リッジ幅43μm、高さ0.75μmの構造を形成した。
【0124】
次いで全面に絶縁膜となるSiO膜105をスパッタ法で0.4μm形成した後、リッジ上部のコンタクト層104のみを露出させ、リフトオフ法により上部電極108を形成した。次いで基板100の下面には下部電極107を全面に形成した。上部電極108はTi(50nm)/Au(300nm)の積層膜、下部電極107はAuGe(150nm)/Ni(30nm)/Au(200nm)の積層膜とし、それぞれ真空蒸着法を用いて形成した。
【0125】
最後に上部電極108は、第一電極110と、第二電極120がそれぞれ独立で駆動可能にするため、フォトリソグラフィー及びエッチング工程により、分割部109で上部電極108およびコンタクト層104をエッチング除去し、電極の分離を行なった。
【0126】
電気的に分離した第一電極110、及び第二電極120の電極長は、それぞれ0.4mm、及び0.4mmとした。電極の分離幅は10μmとした。
【0127】
放出光の反射を防止するために、リッジ部106は、その長手方向が端面(へき開面)の垂線に対し7度傾斜した構造にした。
【0128】
上記プロセスにて形成した光源に関して最初に、第二電極のみに電流を注入し、単電極構成のSLDの特性を評価する。この結果を図16(b)に示す。この活性層では低エネルギー準位の発光ピーク(1)が858nm、高エネルギー準位の発光ピーク(2)が824nmに出ている。また、高エネルギー準位の発光が出はじめる時の電流密度は5.6kA/cmである。
【0129】
比較として、活性層構造に単量子井戸構造を用いて同様に作製したSLDの特性を図17に示す。第二電極を0.4mmの長さとし、活性層構造以外の条件は実施例1のSLDと同じにしている。この活性層では低エネルギー準位の発光ピーク(1)が840nm、高エネルギー準位の発光ピーク(2)が810nmに出ている。また、高エネルギー準位の発光が出はじめる時の電流密度は10.2kA/cmである。
【0130】
図18に記載の非対称多重量子井戸構造1の活性層構造を用いた時の高エネルギー準位の発光が出はじめる時の電流密度は、単量子井戸構造の値の約0.55倍であり、高エネルギー準位の発光を出すために必要な電流密度が小さいことが分かる。
【0131】
図16(c)に、第二電極をSLD動作させ、第一電極に徐々に電流を注入していったときのスペクトルが変化していく様子を示す。最も広帯域となった時は、第一電極の電流密度を0.6kA/cm、第二電極の電流密度を15.3kA/cmとした時で、半値全幅は64nmであった。以上より、単電極構成のSLDと比較して、高出力・広帯域を実現している。
【0132】
ここで、SLD動作とは、誘導増幅が起きている状態のことをさし、キャリアの密度が透明キャリア密度以上となった時に起こる。第二電極をSLD動作させる理由は、第二電極における発光領域から高エネルギー準位の発光を出すためである。また、図16(c)において第二電極は、単電極での飽和電流密度に対して約96%の電流密度としているが、第一電極における発光領域からの光を増幅しやすくするためには、80%以上とすることが望ましい。なお、飽和電流密度とは、単電極構成のSLDに関して電流を注入していっても、光出力が増大しなくなる時の注入電流量に対しての電流密度をさしている。
【0133】
多電極構成のSLDにおいて、高出力・広帯域を実現するためには、第二電極における発光領域において高エネルギー準位の発光、第一電極における発光領域において低エネルギー準位の発光を出すことが基本的な駆動条件である。その理由は、低エネルギー準位の発光強度は高エネルギー準位の発光と比較すると弱いので、第二電極における発光領域に通すことで増幅させ、高エネルギー準位の発光に対して同程度まで大きくするためである。したがって多電極構成のSLDにおいて第二電極への電流密度を高くすることは必須であり、高エネルギー準位の発光と低エネルギー準位の発光の強度が同程度になった時に、スペクトルが最も広帯域となる。
【0134】
以上のように第二電極における発光領域において高エネルギー準位の発光、第一電極における発光領域において低エネルギー準位の発光を出すように調節すればよい。
【0135】
(実施例9)
本実施例では図18に示す非対称多重量子井戸構造を有する活性層を用いる。図18に示すように、活性層は厚さ変調した3つの量子井戸からなる非対称多重量子井戸構造(非対称3量子井戸構造)とし、組成がIn0.04GaAsの層(厚さ=8、6、4nm)が2つの障壁層(Al0.02GaAs、厚さ8nm)で挟まれた層を用いた。第一電極、第二電極はともに0.4mmの長さとし、それ以外の条件も実施例1のSLDと同じにしている。
【0136】
このようにして形成した光源に関して最初に、第二電極のみに電流を注入し、単電極構成のSLDの特性を評価する。この結果を図18(b)に示す。この活性層では低エネルギー準位の発光ピーク(1)が866nm、高エネルギー準位の発光ピーク(2)が836nmに出ている。また、高エネルギー準位の発光が出はじめる時の電流密度は6.7kA/cmである。
【0137】
図18に記載の非対称多重量子井戸構造2の活性層構造を用いた時の高エネルギー準位の発光が出はじめる時の電流密度は、単量子井戸構造の値の約0.66倍であり、高エネルギー準位の発光を出すために必要な電流密度が小さいことが分かる。
【0138】
図18(c)に、第二電極をSLD動作させ、第一電極に徐々に電流を注入していったときのスペクトルが変化していく様子を示す。最も広帯域となった時は、第一電極の電流密度を3.9kA/cm、第二電極の電流密度を17.0kA/cmとした時で、半値全幅は58nmであった。以上より、単電極構成のSLDと比較して、高出力・広帯域を実現している。
【0139】
実施例8,9の非対称多重量子井戸構造と単量子井戸構造における、高エネルギー準位の発光を出すために必要な最低電流密度を図19にまとめて示す。この表より、活性層構造を単量子井戸構造から非対称多重量子井戸構造にすることで、1次(高エネルギー)準位の発光をさせるために必要な最低電流密度が低くなることがわかった。
【0140】
(実施例10)
本実施例では、実施例3と同様、4つの電極を用いた場合のSLDである。実施例3と異なる点は、第二の電極、第一の電極、第三の電極、第四の電極の素子長をそれぞれ、0.33mm、0.3mm、1.5mm、0.25mmとした点である。またリッジ幅は5μmとした。
【0141】
本実施例において1次(高エネルギー)準位の発光をさせるために必要な最低電流密度は、7.5[kA/cm]であった。したがって、1次(高エネルギー)準位の発光をさせるために必要な最低電流密度が低くなることがわかった。
【0142】
また本実施例に係るSLDを用いて第四の電極に注入する電流を変えたときの発光スペクトル強度の変化を示したものが、図20(a)である。また、図20(b)は本実施例に係るSLDの出力光の強度を測定した結である。これらの結果から、本実施例に係るSLDは、広帯域な発光波長帯域が広帯域であり、出力光強度を大きくすることができることがわかった。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20