【実施例】
【0084】
以下に本発明の実施例を示す。以下の実施例で示す活性層構造(タイプ)、リッジ幅、素子長はあくまで一例であり、それらに限定されるものではない。また、光源として半導体発光素子の一例であるSLDについて説明する。
【0085】
(実施例1)(非対称多重量子井戸構造、2電極SLDの例)
本発明を適用したSLDの構成について、
図1(a)斜視図と
図1(b)平面図を用いて説明する。実施例1では、実施形態1(
図1、2)において、基板100としてn型GaAs基板、下部クラッド層101としてn型クラッド層(n−Al
0.5GaAs,厚さ1.2μm)、上部クラッド層103としてp型クラッド層(n−Al
0.5GaAs,厚さ1μm)、コンタクト層104としてp型コンタクト層(カーボン(C)不純物を5×10
19ドープしたp−GaAs、厚さ0.2μm)を用いた。活性層102は、深さ変調した2つの量子井戸からなる非対称多重量子井戸構造(非対称2量子井戸構造)とし、厚さ8nmのInGa
(1−x)As(x=0.03、0.05)の層が2つの障壁層(Al
0.1GaAs、厚さ8nm)で挟まれた層を用いた。
【0086】
リッジ部(リッジ型導波路)106はフォトリソグラフィー技術を用いてストライプ状のレジストパターンを形成した後、コンタクト層104と上部クラッド層103の一部をエッチングし、リッジ幅4μm、高さ0.8μmの構造を形成した。
【0087】
次いで上部クラッド層103およびコンタクト層104の全面に絶縁膜となるSiO
2膜105をスパッタ法で0.4μm形成した後、リッジ上部のコンタクト層104のみを露出させ、リフトオフ法により上部電極108を形成した。次いで基板100の下面には下部電極107を全面に形成した。上部電極108はTi(50nm)/Au(300nm)の積層膜、下部電極107はAuGe(150nm)/Ni(30nm)/Au(200nm)の積層膜とし、それぞれ真空蒸着法を用いて形成した。
【0088】
最後に上部電極108は、第1電極110と、第2電極120がそれぞれ独立で駆動可能にするため、フォトリソグラフィー及びエッチング工程により、分割部109で上部電極108およびコンタクト層104をエッチング除去し、電極の分離を行なった。
【0089】
電気的に分離した第1電極110、及び第2電極120の素子長は、それぞれ0.2mm、及び0.15mmとした。電極の分離幅は10μmとした。
【0090】
リッジ部の端面(へき開面)は、放出光の反射を防止するために、端面の垂線に対しリッジの長手方向を7度傾斜した構造にした。
【0091】
上記プロセスにて形成した光源の発光特性を
図9に示す。
図9(a)は第二の発光領域にのみ110mA(電流密度18.3kA/cm
2)の電流注入を行なった際の発光スペクトルを示す。この発光スペクトルの半値全幅は30nm、出力は1.2mWだった。
図9(b)は第二の発光領域に110mA(18.3kA/cm
2)、第一の発光領域に14mA(1.75kA/cm
2)電流注入した時の発光スペクトルを示す。このスペクトルの半値全幅は64nm、出力は2.1mWだった。つまり第二の発光領域に対して約9.6%の電流密度で第一の発光領域に電流注入したことにより、スペクトルの半値全幅、光出力ともに約2倍前後に増大する結果となった。
【0092】
第二の発光領域への電流注入量を110mA(18.3kA/cm
2)に固定し、第一の発光領域への電流注入量密度比を変化させたときの発光スペクトル半値全幅の関係を
図10に示す。このグラフから、第一の発光領域への電流密度の比が3%から約10%にかけて半値全幅が増加し、それ以上の電流注入では逆に減少することが分かる。
図10のグラフの横軸において「第一の発光領域の電流密度/第二の発光領域の電流密度」とは、第一の発光領域の電流密度の値を第二の発光領域の電流密度の値で割った値、すなわち電流密度の比である。以下の
図12、15のグラフの横軸についても同様である。
【0093】
この光源を用いるOCT装置では、最大の分解能を得るためにはスペクトル半値全幅が最大となる上記条件、即ち第二の発光領域に対する第一の発光領域への電流注入密度比9.6%を条件として、OCT装置が光源を駆動すれば良い。分解能を犠牲にしても光出力を大きくして画像コントラストを優先にしたい場合には、更に第一の発光領域への電流注入量を増加することも考えられる。
【0094】
得られたグラフから、第一の発光領域の電流密度/第二の発光領域の電流密度が約10%未満とすることで、大きな半値全幅をもつ発光スペクトルを得られることがわかる。
【0095】
(実施例2)(単量子井戸構造、2電極SLDの例)
本実施例では実施例1と量子井戸構造を変えた場合の例を
図11、12を用いて説明する。
【0096】
活性層は単量子井戸構造とした。量子井戸の構造は、2つのAl
0.2GaAsの障壁層に挟まれた8nmの厚みのIn
0.07GaAs層を単量子井戸構造とした。n及びpクラッド層の構造はともにAl
0.5GaAsとし、p型クラッド層を1μm、n型クラッド層を1.2μmの厚みに形成した。
【0097】
リッジ部は実施例1と同様のプロセスを用いて、リッジ幅が3μm、素子長は第2電極0.7mm、第1電極1.5mm、第1と第2電極の分離幅は3μmとした。その他絶縁膜や金属電極の構成は実施例1と同様とした。
【0098】
上記プロセスにて形成した光源の発光スペクトルを
図11に示す。
図11(a)は第二の発光領域にのみ400mA(19.0kA/cm
2)の電流注入を行なった際の発光スペクトルを示す。このときの発光スペクトルの半値全幅は43nm、出力は8.9mWだった。
図11(b)は前記第二の発光領域の電流注入に加え、第一の発光領域に50mA(1.11kA/cm
2)電流注入した時の発光スペクトルを示す。このときにスペクトルの半値全幅は68nmとなり、光出力は13.2mWに増加した。つまり第二の発光領域に対して約5.8%の電流密度で第一の発光領域に電流注入したことにより、スペクトルの半値全幅は約1.2倍、光出力は約1.5倍、ともに増大する結果となった。
【0099】
第二の発光領域への電流注入量を400mA(19.0kA/cm
2)に固定し、第一の発光領域への電流密度の比を変化させたときの発光スペクトル半値全幅の関係を
図12に示す。このグラフから、第一の発光領域への電流密度の比が6%付近で発光スペクトル半値全幅が最大値を示すことが分かる。
【0100】
得られたグラフから、第一の発光領域の電流密度/第二の電流密度が約6%より大きければ大きいほど、半値全幅は小さくなっていくと考えられるため、6%未満とすることで、大きな半値全幅をもつ発光スペクトルを得られることがわかる。
【0101】
以上実施例1,2で非対称多重量子井戸(2井戸)及び単量子井戸の場合双方で、2つの電極を用いたSLDの発光スペクトル増大効果を示した。
【0102】
更に量子井戸構造、光導波路のリッジ幅、素子長を変化させさせた場合の、スペクトル最大半値全幅を得る第二の発光領域及び第一の発光領域への電流注入条件を、実証例として
図13に示す。この図表より、全ての2電極SLDにいて第二の発光領域に対する第一の発光領域への電流密度の比が11%未満のときに発光スペクトルの半値全幅が最大値を取ることが分かった。加えて実施例1の
図10で示したように、光出力を優先で考えた場合でも電流密度の比が44%未満であれば、OCT装置の画質改善効果を考慮したSLD光源として有効であることが分かった。
【0103】
(実施例3)(非対称多重量子井戸、4電極SLDの例)
本実施例では実施例1と量子井戸構造を変え、更に4つの電極を用いた場合の例を示す。以下、
図7、14を用いて本実施例の説明を行なう。
【0104】
本実施例において、活性層の量子井戸構造はAl
0.2GaAs層の中にAl
0.015GaAs、GaAs、In
0.04GaAsの3つの量子井戸を各8nm挟み込んだ非対称構造とした。n型およびp型クラッド層の構造はともに厚さ0.5μmのAl
0.5GaAs層を用いた。
【0105】
リッジ部106は実施例1と同様のプロセスを用いて、第1電極110、第2電極120、第3電極630、第4電極640においてリッジ幅601が5μm、素子長は第二の発光領域の素子長621が0.25mm、第一、三、四の発光領域の素子長(611、631、641)がともに0.5mm、各領域の分離幅は10μmの構造とした。その他絶縁膜や金属電極の構成は実施例1と同様とした。
【0106】
上記プロセスにて形成した光源の発光スペクトルを
図14に示す。
図14(a)は第二の発光領域にのみ180mA(14.4kA/cm
2)の電流を注入した際の発光スペクトルである。半値全幅は約32nmであった。次に第二の発光領域に180mA(14.4kA/cm
2)、第一の発光領域に28mA(1.12kA/cm
2)の電流を注入した際の発光スペクトルを
図14(b)に示す。これは2電極制御における最大半値全幅であり、第一の発光領域には第二の発光領域の7.8%の電流密度の比となるような電流を注入したことになる。発光スペクトルの半値全幅は63nmと倍増した。更に第二の発光領域はそのまま180mA(14.4kA/cm
2)、第一の発光領域には4.2mA(0.17kA/cm
2)と電流注入量を減らし、第三の発光領域には0mA、第四の発光領域には180mA(14.4kA/cm
2)の電流を夫々注入した。その際の発光スペクトルが
図14(c)であり、半値全幅は85nmであった。このとき第二の発光領域に対する第一の発光領域の電流密度の比は1.2%に相当する。
【0107】
(実施例4)(実施例1を配線抵抗で実施)
本実施例は実施例1と同じ活性層構造、導波路構造、電極分割比のSLDを用いるが、電流注入方法が異なる例であり、
図4を用いて説明する。
【0108】
実施例1では広い半値全幅を有する発光スペクトルを得るために第二の発光領域には110mA(18.3kA/cm
2)、第一の発光領域には14mA(1.75kA/cm
2)の電流を、独立の電源(不図示)から注入した。本実施例では
図4に示すように、第二の発光領域に電流注入する配線301を延長し、その配線抵抗を用いて第一の発光領域に14mA(1.75kA/cm
2)相当の電流を注入するものである。
【0109】
電源から金属配線を介して半導体に電流を注入する場合、金属と半導体のコンタクト抵抗、ダイオード内部の抵抗などが存在する。これらを電流―電圧特性から見積もると、10.9Ωであることが分かった。これより第一の発光領域に14mAの電流を注入するためには第二の発光領域と第一の発光領域の間に74.7Ωの配線抵抗を形成すれば良いとの計算結果になった。これよりTi(50nm)/Au(300nm)の厚みで形成される金属配線の幅を5μm、つまり配線断面積を350nm×5μmとし、計算を簡便化するために配線材料は全体がAuであるとして、Auの比抵抗を2.4×10
−6Ωcmとして計算した。その結果、金属配線の長さは0.545cmとなり、このパターンを形成して第一の発光領域へ接続した。
【0110】
その結果、実施例1とほぼ同等の発光スペクトルを得ることができた。通常は多電極構造のSLDを駆動する際には複数の電源チャネルが必要であるが、本実施例の駆動方法を採用することにより、単電源で駆動することが可能となった。
【0111】
(実施例5)(実施例1を拡散抵抗(半導体層)で実施)
実施例4では、SLDの第2電極からの金属配線の抵抗を用いて、第一の発光領域へ所定の電流を注入する方法を述べた。本実施例では、半導体コンタクト層の抵抗を用いて第一の発光領域に電流注入する方法を、
図5を用いて説明する。
【0112】
多電極構造を形成する際には、
図2に示すとおりリッジ上の上部電極108と、その下層にあるコンタクト層(高濃度ドープGaAs層)104を部分的に除去して第2電極120と第1電極110を電気的に分離する。
【0113】
それに対し本実施例では、
図5に示すように上部電極108の一部は除去するが、その下層のコンタクト層404は残すものとする。このコンタクト層の抵抗が金属配線の抵抗の役割を果たす。
【0114】
図5(b)において実施例1と同じ構造のSLDを形成した。但し電極を分割する際、上部電極108のAu及びTiは除去するが、コンタクト層404である高ドープGaAs層はエッチングせずにそのまま残した。高ドープGaAs層はC(カーボン)不純物をGaAs層に5×10
19cm
−3の濃度でドープしたものである。これは比抵抗にすると2×10
−3Ωcmに相当する。抵抗Rは
R=ρ・L/A (ρ:比抵抗、L:抵抗体長さ、A:抵抗体断面積)
によって表わされる。よってこのコンタクト層を用いて実施例4の配線抵抗(74.7Ω)と同じ抵抗にするためには、幅5μm、厚み0.2μmの高ドープGaAs層が3.74μm長さとなる。よって第1電極と第2電極の分割部109の分離幅を3.74μmとした。
【0115】
この光源の第二の発光領域120にのみ110mA(18.3kA/cm
2)の電流注入を行なったところ、実施例1とほぼ同等のスペクトルが得られた。
【0116】
(実施例6)(実施例1の第一の発光領域と第二の発光領域でリッジの幅が異なる)
本実施例では、実施例1と同様の活性層構造を持ち、第二の発光領域と第一の発光領域でリッジ幅が異なる構造のSLD素子について、
図6を用いて説明する。
【0117】
実施例1と同様のプロセスで、リッジ型導波路を有する光源を形成した。ただし実施例1の素子と異なるのは、第一の発光領域110のリッジ幅501が第二の発光領域のリッジ幅502の倍の8μmとなっており、第二の発光領域120と第一の発光領域110の分離部でリッジ幅が変化したものとした。第二の発光領域のリッジ幅及び素子長、第一の発光領域の素子長は実施例1の光源と同じ値とした。
【0118】
この素子の第二の発光領域120に110mA(18.3kA/cm
2)の電流注入を行ない、この状態を固定して第一の発光領域110には0から徐々に電流注入量を変化させ、発光スペクトルの半値全幅の変化を観察した。その結果、第一の発光領域への電流注入量が20mA(1.25kA/cm
2)のときに半値全幅が64nmで最大となった。この時の第二の発光領域に対する第一の発光領域への電流注入密度比は、6.8%だった。光出力は2.3mWと実施例1の値に比べて若干上回った。
【0119】
(実施例7)
本実施例では、第一、第二発光領域の素子長を0.2mm、リッジ幅を4μmとし、第二の発光領域の電流密度を20013A/cm
2としたこと以外は、実施例1と同様にして、発光スペクトルを測定した。
図15には、本実施例において、第一の発光領域の電流密度/第二の発光領域の電流密度と、得られた発光スペクトルの最大半値全幅との関係を示したグラフを示す。
【0120】
得られたグラフから、第一の発光領域の電流密度/第二の発光領域の電流密度が約7%より大きければ大きいほど、半値全幅は小さくなっていくと考えられるため、7%未満とすることで大きな半値全幅をもつ発光スペクトルを得られることがわかる。
【0121】
一方、得られた光出力は第一の発光領域の電流密度/第二の発光領域の電流密度が大きいほど大きくなる傾向にあることから、例えば第一の発光領域の電流密度/第二の発光領域の電流密度が44%未満とすることで、OCT装置に適した光源となると考えられる。
【0122】
(実施例8)
本発明の実施例8に係る光源について、
図1などを用いて説明する。実施例8では、実施形態1(
図1、2)において、基板100としてn型GaAs基板、下部クラッド層101としてn型クラッド層(n−Al
0.5GaAs,厚さ1.2μm)、上部クラッド層103としてp型クラッド層(n−Al
0.5GaAs,厚さ1μm)、コンタクト層104としてp型コンタクト層(カーボン(C)不純物を5×10
19ドープしたp−GaAs、厚さ0.2μm)を用いた。
図18に記載の非対称多重量子井戸構造1の活性層102は
図16(a)に示すように、深さ変調した3つの量子井戸からなる非対称多重量子井戸構造(非対称3量子井戸構造)とし、具体的には活性層102は、2つの厚さ8nmのIn
0.04GaAs、GaAs、Al
0.015GaAsの井戸層と、2つの障壁層(Al
0.02GaAs、厚さ8nm)が交互に配置されたものから構成される。
【0123】
リッジ部106はフォトリソグラフィー技術を用いてストライプ状のレジストパターンを形成した後、コンタクト層104と上部クラッド層103の一部をエッチングし、リッジ幅43μm、高さ0.75μmの構造を形成した。
【0124】
次いで全面に絶縁膜となるSiO
2膜105をスパッタ法で0.4μm形成した後、リッジ上部のコンタクト層104のみを露出させ、リフトオフ法により上部電極108を形成した。次いで基板100の下面には下部電極107を全面に形成した。上部電極108はTi(50nm)/Au(300nm)の積層膜、下部電極107はAuGe(150nm)/Ni(30nm)/Au(200nm)の積層膜とし、それぞれ真空蒸着法を用いて形成した。
【0125】
最後に上部電極108は、第一電極110と、第二電極120がそれぞれ独立で駆動可能にするため、フォトリソグラフィー及びエッチング工程により、分割部109で上部電極108およびコンタクト層104をエッチング除去し、電極の分離を行なった。
【0126】
電気的に分離した第一電極110、及び第二電極120の電極長は、それぞれ0.4mm、及び0.4mmとした。電極の分離幅は10μmとした。
【0127】
放出光の反射を防止するために、リッジ部106は、その長手方向が端面(へき開面)の垂線に対し7度傾斜した構造にした。
【0128】
上記プロセスにて形成した光源に関して最初に、第二電極のみに電流を注入し、単電極構成のSLDの特性を評価する。この結果を
図16(b)に示す。この活性層では低エネルギー準位の発光ピーク(1)が858nm、高エネルギー準位の発光ピーク(2)が824nmに出ている。また、高エネルギー準位の発光が出はじめる時の電流密度は5.6kA/cm
2である。
【0129】
比較として、活性層構造に単量子井戸構造を用いて同様に作製したSLDの特性を
図17に示す。第二電極を0.4mmの長さとし、活性層構造以外の条件は実施例1のSLDと同じにしている。この活性層では低エネルギー準位の発光ピーク(1)が840nm、高エネルギー準位の発光ピーク(2)が810nmに出ている。また、高エネルギー準位の発光が出はじめる時の電流密度は10.2kA/cm
2である。
【0130】
図18に記載の非対称多重量子井戸構造1の活性層構造を用いた時の高エネルギー準位の発光が出はじめる時の電流密度は、単量子井戸構造の値の約0.55倍であり、高エネルギー準位の発光を出すために必要な電流密度が小さいことが分かる。
【0131】
図16(c)に、第二電極をSLD動作させ、第一電極に徐々に電流を注入していったときのスペクトルが変化していく様子を示す。最も広帯域となった時は、第一電極の電流密度を0.6kA/cm
2、第二電極の電流密度を15.3kA/cm
2とした時で、半値全幅は64nmであった。以上より、単電極構成のSLDと比較して、高出力・広帯域を実現している。
【0132】
ここで、SLD動作とは、誘導増幅が起きている状態のことをさし、キャリアの密度が透明キャリア密度以上となった時に起こる。第二電極をSLD動作させる理由は、第二電極における発光領域から高エネルギー準位の発光を出すためである。また、
図16(c)において第二電極は、単電極での飽和電流密度に対して約96%の電流密度としているが、第一電極における発光領域からの光を増幅しやすくするためには、80%以上とすることが望ましい。なお、飽和電流密度とは、単電極構成のSLDに関して電流を注入していっても、光出力が増大しなくなる時の注入電流量に対しての電流密度をさしている。
【0133】
多電極構成のSLDにおいて、高出力・広帯域を実現するためには、第二電極における発光領域において高エネルギー準位の発光、第一電極における発光領域において低エネルギー準位の発光を出すことが基本的な駆動条件である。その理由は、低エネルギー準位の発光強度は高エネルギー準位の発光と比較すると弱いので、第二電極における発光領域に通すことで増幅させ、高エネルギー準位の発光に対して同程度まで大きくするためである。したがって多電極構成のSLDにおいて第二電極への電流密度を高くすることは必須であり、高エネルギー準位の発光と低エネルギー準位の発光の強度が同程度になった時に、スペクトルが最も広帯域となる。
【0134】
以上のように第二電極における発光領域において高エネルギー準位の発光、第一電極における発光領域において低エネルギー準位の発光を出すように調節すればよい。
【0135】
(実施例9)
本実施例では
図18に示す非対称多重量子井戸構造を有する活性層を用いる。
図18に示すように、活性層は厚さ変調した3つの量子井戸からなる非対称多重量子井戸構造(非対称3量子井戸構造)とし、組成がIn
0.04GaAsの層(厚さ=8、6、4nm)が2つの障壁層(Al
0.02GaAs、厚さ8nm)で挟まれた層を用いた。第一電極、第二電極はともに0.4mmの長さとし、それ以外の条件も実施例1のSLDと同じにしている。
【0136】
このようにして形成した光源に関して最初に、第二電極のみに電流を注入し、単電極構成のSLDの特性を評価する。この結果を
図18(b)に示す。この活性層では低エネルギー準位の発光ピーク(1)が866nm、高エネルギー準位の発光ピーク(2)が836nmに出ている。また、高エネルギー準位の発光が出はじめる時の電流密度は6.7kA/cm
2である。
【0137】
図18に記載の非対称多重量子井戸構造2の活性層構造を用いた時の高エネルギー準位の発光が出はじめる時の電流密度は、単量子井戸構造の値の約0.66倍であり、高エネルギー準位の発光を出すために必要な電流密度が小さいことが分かる。
【0138】
図18(c)に、第二電極をSLD動作させ、第一電極に徐々に電流を注入していったときのスペクトルが変化していく様子を示す。最も広帯域となった時は、第一電極の電流密度を3.9kA/cm
2、第二電極の電流密度を17.0kA/cm
2とした時で、半値全幅は58nmであった。以上より、単電極構成のSLDと比較して、高出力・広帯域を実現している。
【0139】
実施例8,9の非対称多重量子井戸構造と単量子井戸構造における、高エネルギー準位の発光を出すために必要な最低電流密度を
図19にまとめて示す。この表より、活性層構造を単量子井戸構造から非対称多重量子井戸構造にすることで、1次(高エネルギー)準位の発光をさせるために必要な最低電流密度が低くなることがわかった。
【0140】
(実施例10)
本実施例では、実施例3と同様、4つの電極を用いた場合のSLDである。実施例3と異なる点は、第二の電極、第一の電極、第三の電極、第四の電極の素子長をそれぞれ、0.33mm、0.3mm、1.5mm、0.25mmとした点である。またリッジ幅は5μmとした。
【0141】
本実施例において1次(高エネルギー)準位の発光をさせるために必要な最低電流密度は、7.5[kA/cm
2]であった。したがって、1次(高エネルギー)準位の発光をさせるために必要な最低電流密度が低くなることがわかった。
【0142】
また本実施例に係るSLDを用いて第四の電極に注入する電流を変えたときの発光スペクトル強度の変化を示したものが、
図20(a)である。また、
図20(b)は本実施例に係るSLDの出力光の強度を測定した結である。これらの結果から、本実施例に係るSLDは、広帯域な発光波長帯域が広帯域であり、出力光強度を大きくすることができることがわかった。