(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記組成物において、前記アクリロイルオキシ基を2つ以上有する電荷輸送物質と前記メタクリロイルオキシ基を1つ有する電荷輸送物質との質量比率が、100:20〜100:1である請求項1または2記載の電子写真感光体。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の電子写真感光体は、上記のとおり、支持体、および支持体上に形成された感光層を有する。そして、電子写真感光体の表面層が、アクリロイルオキシ基を2つ以上有する電荷輸送物質とメタクリロイルオキシ基を1つ有する電荷輸送物質との組成物の重合物(硬化物)を含有することを特徴とする。
【0016】
上述のとおり、本発明の電子写真感光体は、耐キズ性と、画像流れの抑制に優れる。特に、耐キズ性に優れる理由について、本発明者らは以下のように推測している。
【0017】
まず、画像流れが改善する理由について、本発明者らは次のように推測している。アクリロイルオキシ基を2つ以上有する電荷輸送物質に加えて、重合性官能基(アクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基)を1つ有する電荷輸送物質を用いることで、画像流れが改善していると考えている。重合性官能基を2つ有する電荷輸送物質に比べて、重合性官能基を1つ有する電荷輸送物質は、重合反応時に分子構造のねじれ(歪み)が小さいため、電荷輸送能を有する構造のねじれ(歪み)に起因する酸化電位上昇を抑えられる。画像流れは、帯電によって生成される放電生成物(NOxなど)が表面層の構成材料を変質させることが原因であると推測されている。そして、このNOxは、優先的に酸化電位の低い構造と作用するため、NOxが優先的に重合性官能基を1つ有する電荷輸送物質に作用すると考えられる。それより、アクリロイルオキシ基を2つ以上有する電荷輸送物質の重合物にNOxが作用して劣化する影響が抑制されることによって、画像流れが良好になっていると推測している。
【0018】
さらに、重合性官能基を1つ有する電荷輸送物質の重合性官能基をメタクリロイルオキシ基にすることにより、耐キズ性が向上することがわかった。その理由について、本発明者らは次のように推測している。一般的に、アクリロイルオキシ基を有する単量体とメタクリロイルオキシ基を有する単量体との組成物の共重合物を得るとき、メタクリロイルオキシ基が重合反応に寄与しやすいことが知られている。ここで、本発明では、アクリロイルオキシ基を2つ以上有する電荷輸送物質に対して、さらにメタクリロイルオキシ基を1つ有する電荷輸送物質を混合させた組成物を重合している。これにより、重合反応に寄与しやすいメタクリロイルオキシ基を1つ有する電荷輸送物質同士が優先的に反応すると考えられる。そして、このようにして得られた表面層が、耐キズ性に良好な特性を発揮していると推測している。
【0019】
メタクリロイルオキシ基を1つ有する電荷輸送物質同士が優先的に反応しやすい点で、アクリロイルオキシ基を2つ以上有する電荷輸送物質のなかでも、アクリロイルオキシ基を2つ有する電荷輸送物質であることが好ましい。これにより、耐キズ性がより良好となる。
【0020】
耐キズ性の向上の観点から、アクリロイルオキシ基を2つ以上有する電荷輸送物質とメタクリロイルオキシ基を1つ有する電荷輸送物質との質量比率は、100:20〜100:1であることが好ましい。より好ましくは、100:25〜100:1である。
【0021】
さらには、アクリロイルオキシ基を2つ以上有する電荷輸送物質は、下記式(1)で示されるトリフェニルアミン化合物であることが好ましい。また、メタクリロイルオキシ基を1つ有する電荷輸送物質についても、下記式(2)で示されるトリフェニルアミン化合物であることが好ましい。
【0022】
画像流れ抑制の観点から、下記式(1)で示されるトリフェニルアミン化合物および下記式(2)で示されるトリフェニルアミン化合物において、Ar1、Ar4およびAr6が同一の基であり、Ar
2、Ar
3およびAr
5が同一の基であることが好ましい。
【0025】
式(1)中、Ar
1は、置換もしくは無置換のアリール基を示す。Ar
2、およびAr
3は、置換もしくは無置換のアリーレン基を示す。m、oは、それぞれ独立に1以上の整数を示す。
【0026】
式(2)中、Ar
4、およびAr
6は、置換もしくは無置換のアリール基を示す。Ar
5は、置換もしくは無置換のアリーレン基を示す。pは、1以上の整数を示す。
【0027】
アリール基としては、フェニル基、ビフェニル基、フルオレニル基、ジメチルフルオレニル基などが挙げられる。アリーレン基としては、フェニレン基、ビフェニレン基、フルオレニレン基、ジメチルフルオレニレン基などが挙げられる。
【0028】
置換アリール基の置換基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基などのアルキル基、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基などのアルコキシ基、フッ素、塩素、臭素などのハロゲン原子、ジメチルアミノ基、シアノ基、ニトロ基などが挙げられる。これらの中でも、アルキル基、ハロゲン原子が好ましい。
【0029】
置換アリーレン基の置換基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基などのアルキル基、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基などのアルコキシ基、フッ素、塩素、臭素などのハロゲン原子、ジメチルアミノ基、シアノ基、ニトロ基などが挙げられる。これらの中でも、アルキル基、ハロゲン原子が好ましい。
【0030】
本発明のアクリロイルオキシ基を2つ以上有する電荷輸送物質と、メタクリロイルオキシ基を1つ有する電荷輸送物質は、例えば、特開2000−066425号公報、特開2010−156835号公報に記載されている合成方法を用いて合成可能である。
【0031】
以下に、アクリロイルオキシ基を2つ有する電荷輸送物質の具体例(例示化合物)を挙げるが、本発明は、これらに限定されるわけではない。
【0034】
以下に、メタクリロイルオキシ基を1つ有する電荷輸送物質の具体例(例示化合物)を挙げるが、本発明は、これらに限定されるわけではない。
【0036】
表面層には、各種添加剤を添加してもよい。添加剤としては、例えば、酸化防止剤や紫外線吸収剤などの劣化防止剤、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)粒子やフッ化カーボンなどの潤滑剤、重合反応開始剤や重合反応停止剤などの重合制御剤、シリコーンオイルなどのレベリング剤、界面活性剤などが挙げられる。
【0037】
表面層用塗布液に用いられる溶剤としては、メタノール、エタノール、プロパノールなどのアルコール系溶剤、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン系溶剤、酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル系溶剤、テトラヒドロフラン、ジオキサンなどのエーテル系溶剤、1,1,2,2,3,3,4−ヘプタフルオロシクロペンタン、ジクロロメタン、ジクロロエタン、クロロベンゼンなどのハロゲン系溶剤、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族系溶剤、メチルセロソルブ、エチルセロソルブなどのセロソルブ系溶剤などが挙げられる。これらの溶剤は、1種のみを使用してもよく、2種以上を混合して使用してもよい。保護層の膜厚は、2μm以上20μm以下であることが好ましい。
【0038】
アクリロイルオキシ基を2つ以上有する電荷輸送物質とメタクリロイルオキシ基を1つ有する電荷輸送物質との組成物の重合は、熱、光(紫外線など)、または、放射線(電子線など)を用いて行うことができる。これらの中でも、放射線を用いた重合が好ましく、放射線の中でも電子線を用いた重合がより好ましい。
【0039】
電子線を用いて重合させると、非常に緻密(高密度)な3次元架橋構造が得られ、耐摩耗性が向上するため好ましい。また、短時間でかつ効率的な重合反応となるため、生産性も高くなる。電子線を照射する場合、加速器としては、例えば、スキャニング型、エレクトロカーテン型、ブロードビーム型、パルス型、ラミナー型などが挙げられる。
【0040】
電子線を用いる場合、電子線の加速電圧は、重合効率を損なわずに電子線による材料特性劣化を抑制できる観点から、120kV以下であることが好ましい。また、保護層用塗布液の塗膜の表面での電子線吸収線量は、5kGy以上50kGy以下であることが好ましく、1kGy以上10kGy以下であることがより好ましい。
【0041】
また、電子線を用いて上記組成物を重合させる場合、酸素による重合阻害作用を抑制する目的で、不活性ガス雰囲気で電子線を照射した後、不活性ガス雰囲気で加熱することが好ましい。不活性ガスとしては、窒素、アルゴン、ヘリウムなどが挙げられる。
【0042】
本発明の電子写真感光体は、上記のとおり、支持体、および該支持体上に形成された感光層を有する。感光層は、電荷発生物質および電荷輸送物質をともに含有する単層型感光層や、電荷発生物質を含有する電荷発生層と電荷輸送物質を含有する電荷輸送層とに分離した積層型感光層がある。中でも、電荷発生層、電荷発生層上に形成された電荷輸送層を有する積層型感光層が好ましい。感光層(電荷輸送層)上には、保護層を形成してもよい。
【0043】
積層型感光層において、電荷輸送層が表面層である場合、電荷輸送層が上記重合物を含有する。感光層(電荷輸送層)上に保護層が形成され、保護層が表面層である場合、保護層が上記重合物を含有する。
【0044】
図1の(a)および(b)は、本発明の電子写真感光体の層構成の一例を示す図である。
図1の(a)および(b)中、101は支持体であり、102は電荷発生層であり、103は電荷輸送層であり、104は保護層である。電子写真感光体の表面層は、
図2の(a)では、電荷輸送層103であり、
図2の(b)では、保護層104である。
【0045】
また、本発明においては、必要に応じて、支持体と感光層(電荷発生層、電荷輸送層)との間に、後述の導電層や下引き層を設けてもよい。
【0046】
〔支持体〕
電子写真感光体に用いられる支持体としては、導電性を有するもの(導電性支持体)が好ましい。例えば、アルミニウム製、アルミニウム合金製、ステンレス鋼製などの金属製または合金製の支持体が挙げられる。アルミニウム製またはアルミニウム合金製の支持体の場合は、ED管、EI管や、これらを切削、電解複合研磨、湿式または乾式ホーニング処理した管を支持体として用いることもできる。また、金属製支持体、樹脂製支持体上にアルミニウム、アルミニウム合金、酸化インジウム−酸化スズ合金などの導電材料の薄膜を形成した支持体も用いることができる。
【0047】
支持体の表面は、切削処理、粗面化処理、アルマイト処理などを施してもよい。
【0048】
また、カーボンブラック、酸化スズ粒子、酸化チタン粒子、銀粒子などの導電性粒子を樹脂などに含浸させてなる支持体や、導電性樹脂製の支持体を用いることもできる。
【0049】
〔導電層〕
支持体と感光層または後述の下引き層との間には、導電性粒子および結着樹脂を有する導電層を設けてもよい。
【0050】
導電層は、導電性粒子を結着樹脂および溶剤とともに分散処理して得られる導電層用塗布液の塗膜を形成し、得られた塗膜を乾燥および/または硬化させることによって形成することができる。
【0051】
導電層に用いられる導電性粒子としては、例えば、カーボンブラック、アセチレンブラック、アルミニウム、ニッケル、鉄、ニクロム、銅、亜鉛、銀などの金属粒子や、酸化スズ、ITOなどの金属酸化物粒子などが挙げられる。また、金属粒子や金属酸化物粒子は、粒子の表面がシランカップリング剤などの表面処理剤で処理されていてもよい。
【0052】
導電層に用いられる樹脂としては、例えば、アクリル樹脂、アルキッド樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ブチラール樹脂、ポリアセタール、ポリウレタン、ポリエステル、ポリカーボネート、メラミン樹脂などが挙げられる。
【0053】
導電層用塗布液に用いられる溶剤としては、例えば、エーテル系溶剤、アルコール系溶剤、ケトン系溶剤、芳香族炭化水素系溶剤などが挙げられる。
【0054】
導電層の膜厚は、0.2μm以上40μm以下であることが好ましく、5μm以上40μm以下であることがより好ましい。
【0055】
〔下引き層〕
支持体または導電層と感光層との間には、下引き層を設けてもよい。
【0056】
下引き層は、結着樹脂を含有する下引き層用塗布液の塗膜を形成し、得られた塗膜を乾燥または硬化させることによって形成することができる。
【0057】
下引き層に用いられる結着樹脂としては、例えば、ポリアクリル酸、メチルセルロース、エチルセルロース、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリアミド酸、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタンなどが挙げられる。
【0058】
下引き層には、上述の導電層に用いられる導電性粒子、半導電性粒子、電子輸送物質、電子受容性物質を含有させることもできる。
【0059】
下引き層用塗布液に用いられる溶剤としては、例えば、エーテル系溶剤、アルコール系溶剤、ケトン系溶剤、芳香族炭化水素系溶剤などが挙げられる。
【0060】
下引き層の膜厚は、0.05μm以上40μm以下であることが好ましく、0.4μm以上20μm以下であることがより好ましい。
【0061】
〔感光層〕
支持体、導電層または下引き層上には、感光層(電荷発生層、電荷輸送層)が形成される。
【0062】
電子写真感光体に用いられる電荷発生物質としては、例えば、ピリリウム、チアピリリウム系染料、フタロシアニン化合物、アントアントロン顔料、ジベンズピレンキノン顔料、ピラントロン顔料、アゾ顔料、インジゴ顔料、キナクリドン顔料、キノシアニン顔料などが挙げられる。これらの中でも、ガリウムフタロシアニンが好ましい。さらには、高感度の観点から、ヒドロキシガリウムフタロシアニンが好ましく、その中でも、CuKα特性X線回折におけるブラッグ角2θの7.4°±0.3°および28.2°±0.3°にピークを有するヒドロキシガリウムフタロシアニン結晶が好ましい。
【0063】
電荷発生層に用いられる結着樹脂としては、例えば、ポリカーボネート、ポリエステル、ブチラール樹脂、ポリビニルアセタール、アクリル樹脂、酢酸ビニル樹脂、尿素樹脂などが挙げられる。これらの中でも、ブチラール樹脂が好ましい。これらの樹脂は、1種のみを使用してもよく、混合または共重合体として2種以上を併用してもよい。
【0064】
電荷発生層は、電荷発生物質を結着樹脂および溶剤とともに分散処理して得られる電荷発生層用塗布液を塗布し、得られた塗膜を乾燥させることによって形成することができる。また、電荷発生層は、電荷発生物質の蒸着膜であってもよい。
【0065】
電荷発生層において、電荷発生物質と結着樹脂との割合は、電荷発生物質1質量部に対して、結着樹脂が0.3質量部以上4質量部以下であることが好ましい。
【0066】
また、分散処理方法としては、例えば、ホモジナイザー、超音波、ボールミル、サンドミル、アトライター、ロールミルなどを用いた方法が挙げられる。
【0067】
電荷発生層用塗布液に用いられる溶剤は、例えば、アルコール系溶剤、スルホキシド系溶剤、ケトン系溶剤、エーテル系溶剤、エステル系溶剤、芳香族炭化水素系溶剤などが挙げられる。
【0068】
電荷発生層の膜厚は、0.01μm以上5μm以下であることが好ましく、0.1μm以上1μm以下であることがより好ましい。
【0069】
また、電荷発生層には、必要に応じて、種々の増感剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、可塑剤などを添加することもできる。
【0070】
感光層が積層型感光層である場合、電荷発生層上には電荷輸送層が形成される。感光層が積層型感光層である場合、電荷発生層上には電荷輸送層が形成される。
【0071】
図1(a)に示すように電荷輸送層が表面層である場合、電荷輸送層は、上述の表面層で記載したとおり、上述の重合物を含有し、以下のようにして電荷輸送層を形成する。すなわち、アクリロイルオキシ基を2つ以上有する電荷輸送物質とメタクリロイルオキシ基を1つ有する電荷輸送物質とを含む組成物を含有する電荷輸送層用塗布液の塗膜を形成し、該塗膜中の組成物を重合させることによって電荷輸送層を形成することができる。
【0072】
保護層が表面層である場合、電荷輸送層は、電荷輸送物質および結着樹脂を溶剤に溶解させることによって得られる電荷輸送層用塗布液の塗膜を形成し、得られた塗膜を乾燥させることによって形成することができる。
【0073】
電荷輸送層に用いられる電荷輸送物質としては、例えば、トリアリールアミン化合物、ヒドラゾン化合物、スチルベン化合物、ピラゾリン化合物、オキサゾール化合物、チアゾール化合物、トリアリールメタン化合物などが挙げられる。
【0074】
電荷輸送層に用いられる結着樹脂としては、例えば、ポリビニルブチラール、ポリアリレート、ポリカーボネート、ポリエステル、フェノキシ樹脂、ポリ酢酸ビニル、アクリル樹脂、ポリアクリルアミド、ポリアミド、ポリビニルピリジン、セルロース樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、アガロース樹脂、セルロース樹脂、カゼイン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドンなどが挙げられる。これらの樹脂は、1種のみを使用してもよく、混合または共重合体として2種以上を併用してもよい。
【0075】
電荷輸送物質の割合は、電荷輸送層の全質量に対して、電荷輸送物質が30質量%以上70質量%以下であることが好ましい。
【0076】
電荷輸送層用塗布液に用いられる溶剤としては、例えば、エーテル系溶剤、アルコール系溶剤、ケトン系溶剤、芳香族炭化水素系溶剤などが挙げられる。
【0077】
電荷輸送層の膜厚は、5μm以上40μm以下であることが好ましい。
【0078】
〔保護層〕
電荷輸送層上には、保護層(表面層)を形成してもよい。保護層(表面層)は、上述の通りである。
【0079】
上記各層の塗布液を塗布する際は、浸漬塗布法(ディッピング法)、スプレーコーティング法、スピンナーコーティング法、ビードコーティング法、ブレードコーティング法、ビームコーティング法などの塗布方法を用いることができる。
【0080】
図2に、本発明の電子写真感光体を有するプロセスカートリッジを備えた電子写真装置の概略構成の一例を示す。
【0081】
図2において、円筒状(ドラム状)の電子写真感光体1は、軸2を中心に矢印方向に所定の周速度(プロセススピード)をもって回転駆動される。電子写真感光体1は、回転過程において、帯電手段(一次帯電手段)3により、その表面(周面)が正または負に帯電される。次いで、電子写真感光体1の表面には、露光手段(像露光手段)(不図示)から出力される露光光(像露光光)4が照射される。露光光4は、目的の画像情報の時系列電気デジタル画像信号に対応して強度変調される。露光手段としては、スリット露光やレーザービーム走査露光などが挙げられる。こうして電子写真感光体1の表面には、目的の画像情報に対応した静電潜像が形成される。
【0082】
電子写真感光体1の表面に形成された静電潜像は、次いで、現像手段5内に収容されたトナーで現像(正規現像または反転現像)され、トナー像が形成される。電子写真感光体1の表面に形成されたトナー像は、転写手段6により転写材7に転写される。ここで、転写材7が紙である場合、給紙部(不図示)から電子写真感光体1の回転と同期して取り出されて、電子写真感光体1と転写手段6との間に給送される。また、転写手段6には、バイアス電源(不図示)からトナーの保有電荷とは逆極性のバイアス電圧が印加される。また、転写手段は、一次転写部材、中間転写体および二次転写部材を有する中間転写方式の転写手段であってもよい。
【0083】
トナー像が転写された転写材7は、電子写真感光体1の表面から分離され、定着手段8へ搬送されて、トナー像の定着処理を受けることにより、画像形成物(プリント、コピー)として電子写真装置外へプリントアウトされる。
【0084】
トナー像転写後の電子写真感光体1の表面は、クリーニング手段9によってクリーニングされ、転写残トナーなどの付着物が除去される。転写残トナーは、現像手段などで回収することもできる。さらに、必要に応じて、電子写真感光体1の表面は、前露光手段(不図示)からの前露光光10の照射により除電処理された後、繰り返し画像形成に使用される。なお、帯電手段3が帯電ローラーなどを用いた接触帯電手段である場合は、前露光手段は必ずしも必要ではない。
【0085】
電子写真感光体1、帯電手段3、現像手段5、転写手段6およびクリーニング手段9などから選択される構成要素のうち、複数のものを容器に納めてプロセスカートリッジとしてもよい。また、プロセスカートリッジを電子写真装置本体に対して着脱自在とする構成であってもよい。例えば、電子写真感光体1と、帯電手段3、現像手段5、転写手段6およびクリーニング手段9からなる群より選択される少なくとも1つの手段とを一体に支持してカートリッジ化する。そして、電子写真装置本体のレールなどの案内手段12を用いて電子写真装置本体に着脱自在なプロセスカートリッジ11とすることができる。
【実施例】
【0086】
以下、実施例および比較例を挙げて本発明をさらに詳細に説明する。なお、実施例中の「部」は「質量部」を意味する。
【0087】
〈実施例1〉
直径30mm、長さ357.5mm、肉厚1mmのアルミニウムシリンダーを支持体(導電性支持体)とした。
【0088】
次に、
10%の酸化アンチモンを含有する酸化スズが被覆されている酸化チタン粒子(商品名:ECT−62、チタン工業(株)製)50部、レゾール型フェノール樹脂(商品名:フェノライトJ−325、大日本インキ化学工業(株)製、固形分:70質量%)25部、メチルセロソルブ20部、メタノール5部、および、シリコーンオイル(ポリジメチルシロキサン・ポリオキシアルキレン共重合体、平均分子量:3000)0.002部を、直径0.8mmのガラスビーズを用いたサンドミルに入れ、2時間分散処理することによって、導電層用塗布液を調製した。この導電層用塗布液を支持体上に浸漬塗布して塗膜を形成し、この塗膜を30分間150℃で乾燥・硬化させることによって、膜厚が20μmの導電層を形成した。
【0089】
次に、
ナイロン6−66−610−12四元共重合体(商品名:CM8000、東レ(株)製)2.5部、および、
N−メトキシメチル化6ナイロン樹脂(商品名:トレジンEF−30T、ナガセケムテックス製)7.5部を、
メタノール100部およびブタノール90部の混合溶剤に溶解させることによって、下引き層用塗布液を調製した。この下引き層用塗布液を導電層上に浸漬塗布して塗膜を形成し、得られた塗膜を10分間100℃で乾燥させることによって、膜厚が0.5μmの下引き層を形成した。
【0090】
次に、CuKα特性X線回折におけるブラッグ角(2θ±0.2°)の7.4°および28.2°にピークを有する結晶形のヒドロキシガリウムフタロシアニン結晶(電荷発生物質)を用意した。このヒドロキシガリウムフタロシアニン結晶11部、ポリビニルブチラール(商品名:エスレックBX−1、積水化学工業(株)製)5部、および、シクロヘキサノン130部を混合した。その後、直径1mmのガラスビーズ500部を加え、18℃の冷却水で冷却しつつ、1800rpmの条件で2時間分散処理した。分散処理後、酢酸エチル300部およびシクロヘキサノン160部を加えて、電荷発生層用塗布液を調製した。この電荷発生層用塗布液を下引き層上に浸漬塗布して塗膜を形成し、この塗膜を10分間110℃で乾燥させることによって、膜厚が0.16μmの電荷発生層を形成した。
【0091】
次に、下記式(3)で示される電荷輸送物質10部、および、ポリカーボネート(商品名:ユーピロンZ400、三菱ガス化学(株)製)10部を、モノクロロベンゼン70部およびジメトキシメタン30部の混合溶剤に溶解させることによって、電荷輸送層用塗布液を調製した。この電荷輸送層用塗布液を電荷発生層上に浸漬塗布して塗膜を形成し、この塗膜を30分間100℃で乾燥させることによって、膜厚が18μmの電荷輸送層を形成した。
【0092】
【化6】
【0093】
次に、例示化合物(A−2)99.9部および例示化合物(M−2)0.1部を、n−プロパノール100部に溶解させた。この溶液に、さらに1,1,2,2,3,3,4−ヘプタフルオロシクロペンタン(商品名:ゼオローラH、日本ゼオン(株)製)100部、4−メトキシフェノール(東京化成工業(株)製)0.01部を加えることによって、保護層用塗布液を調製した。この保護層用塗布液を電荷輸送層上に浸漬塗布して塗膜を形成し、この塗膜を50℃で5分間加熱処理した。その後、窒素雰囲気下にて、加速電圧70kV、吸収線量50000Gyの条件で1.6秒間電子線を塗膜に照射した。その後、窒素雰囲気下にて、塗膜が130℃になる条件で25秒間加熱処理した。なお、電子線の照射から25秒間の加熱処理までの酸素濃度は18ppmであった。次に、大気中において、塗膜が115℃になる条件で12分間加熱処理をおこない、膜厚が5μmの保護層(表面層)を形成した。
【0094】
このようにして、支持体、導電層、下引き層、電荷発生層、電荷輸送層および保護層を有する電子写真感光体を製造した。
【0095】
〈実施例2〉
実施例1において、例示化合物(A−2)を99部、例示化合物(M−2)を1部に変更して保護層用塗布液を調製した以外は、実施例1と同様にして電子写真感光体を製造した。
【0096】
〈実施例3〉
実施例1において、例示化合物(A−2)を90部、例示化合物(M−2)を10部に変更して保護層用塗布液を調製した以外は、実施例1と同様にして電子写真感光体を製造した。
【0097】
〈実施例4〉
実施例1において、例示化合物(A−2)を80部、例示化合物(M−2)を20部に変更して保護層用塗布液を調製した以外は、実施例1と同様にして電子写真感光体を製造した。
【0098】
〈実施例5〉
実施例1において、例示化合物(A−2)を67部、例示化合物(M−2)を33部に変更して保護層用塗布液を調製した以外は、実施例1と同様にして電子写真感光体を製造した。
【0099】
〈実施例6〉
実施例3において、保護層を以下のように形成した以外は、実施例3と同様にして電子写真感光体を製造した。
【0100】
実施例3で用いた保護層用塗布液を電荷輸送層上に浸漬塗布して塗膜を形成し、この塗膜を5分間50℃で加熱処理した。その後、メタルハライドランプを用いて、照射強度:500mW/cm
2の条件で塗膜に20秒間紫外線を照射し、塗膜が130℃になる条件で30分間加熱処理することによって、膜厚は5μmの保護層を形成した。
【0101】
〈実施例7〉
実施例1において、例示化合物(A−9)を90部、例示化合物(M−7)を10部に変更して保護層用塗布液を調製した以外は、実施例1と同様にして電子写真感光体を製造した。
【0102】
〈実施例8〉
実施例1において、例示化合物(A−2)を90部、例示化合物(M−3)を10部に変更して保護層用塗布液を調製した以外は、実施例1と同様にして電子写真感光体を製造した。
【0103】
〈実施例9〉
実施例1において、例示化合物(A−6)を90部、例示化合物(M−2)を10部に変更して保護層用塗布液を調製した以外は、実施例1と同様にして電子写真感光体を製造した。
【0104】
〈実施例10〉
実施例1において、例示化合物(A−5)を90部、例示化合物(M−2)を10部に変更して保護層用塗布液を調製した以外は、実施例1と同様にして電子写真感光体を製造した。
【0105】
〈実施例11〉
実施例1において、例示化合物(A−2)を90部、例示化合物(M−6)を10部に変更して保護層用塗布液を調製した以外は、実施例1と同様にして電子写真感光体を製造した。
【0106】
〈比較例1〉
実施例1において、例示化合物(A−2)を100部とし、例示化合物(M−2)を用いずに保護層用塗布液を調製した以外は、実施例1と同様にして電子写真感光体を製造した。
【0107】
〈比較例2〉
実施例1において、例示化合物(M−2)を下記式(4)で示される電荷輸送物質に変更して保護層用塗布液を調製した以外は、実施例1と同様にして電子写真感光体を製造した。
【0108】
【化7】
【0109】
〈比較例3〉
実施例1において、例示化合物(M−2)を下記式(5)で示される電荷輸送物質に変更して保護層用塗布液を調製した以外は、実施例1と同様にして電子写真感光体を製造した。
【0110】
【化8】
【0111】
(評価)
実施例1〜10および比較例1〜3の電子写真感光体の評価方法については、以下のとおりである。
【0112】
(画像流れの評価)
評価装置として、電子写真装置であるキヤノン(株)製の複写機GP−405(商品名)の改造機を用いた。GP−405は、帯電手段として帯電ローラーを有している。改造点としては、複写機の外部から帯電ローラーに電力が供給できるように改造した。
【0113】
帯電ローラー用の電力を複写機の外部から供給するための電源としては、高圧電源コントロールシステム(Model615−3、トレック社製)を用いた。そして、定電圧制御で放電電流量:300μAになるように調整し、電子写真感光体の初期暗部電位(Vd)が約−900V、初期明部電位(Vl)が約−200Vになるように、帯電ローラーに印加する直流電圧と、露光装置の露光光量の条件を設定した。カセットヒーターは常にOFFの状態とした。
【0114】
各例で製造した電子写真感光体をプロセスカートリッジに装着し、これを上記評価装置に装着した後、温度29℃、湿度75%RHの環境下で、画像比率2%の画像をA4縦サイズ紙にて1000枚出力した。1000枚の画像出力後、評価装置への給電を停止し、1週間休止させた。1週間休止後に再び評価装置に給電を開始し、A4縦サイズ紙にて、ハーフトーン画像およびアルファベットのEの文字(フォント種:Times、フォントサイズ6ポイント)が繰り返された文字画像(E文字画像)を出力した。
【0115】
得られた画像について、以下の評価のランクに従って、画像欠陥(画像流れ)を抑制する効果を評価した。ランクの数字が大きいほど良好であり、ランク6、5、4および3は、本発明の効果が得られているレベルであると判断した。一方、ランク1および2は、本発明の効果が得られていないレベルと判断した。
ランク6:ハーフトーン画像およびE文字画像ともに、画像欠陥はみられない。
ランク5:ハーフトーン画像の濃度がやや薄いが、E文字画像の画像欠陥はみられない。
ランク4:ハーフトーン画像が一部白抜けしているが、E文字画像の画像欠陥はみられない。
ランク3:ハーフトーン画像が一部白抜けしており、E文字画像濃度がやや薄い。
ランク2:ハーフトーン画像が一部白抜けしており、E文字画像濃度が一部白抜けしている。
ランク1:ハーフトーン画像が大部分白抜けしており、E文字画像濃度が大部分白抜けしている。
【0116】
評価結果を表1に示す。
【0117】
(耐キズ性の評価)
上記の画像流れの評価が終了した電子写真感光体を用いて、さらに20万枚の繰り返し通紙試験を行った。目視にて、1万枚ごとの、電子写真感光体の表面のキズの発生に起因する画像欠陥(キズ画像)の有無を確認した。結果を表1に示す。なお、15万枚以下で画像欠陥(キズ画像)がみられない場合、本発明の効果が得られると判断できる。
【0118】
【表1】