【実施例1】
【0019】
まず、
図1を参照して、本発明の実施例1における波面計測装置(非球面計測装置)の概略構成について説明する。
図1は、本実施例における波面計測装置100(計測装置)の概略構成図である。
【0020】
光源1から出射した照明光は、集光レンズ2を介して、ピンホール3を照明する。ピンホール3から出射した光束は、ハーフミラー9(光分割手段)に入射する。ハーフミラー9により反射された光束は、光学系5(照明光学系)を通過して、収斂した球面波4となり、被検物7(被検面)に照明光として照射される。6は、光学系5からの照明光の集光位置である。11、12、13は、被検物7で反射した光線(反射光)である。被検物7からの反射光(検出光)は、光学系5を通って集光されてハーフミラー9を透過し、光学系14(投影光学系)に入射する。そして反射光は、光学系14により集光され、センサ8(検出手段)に入射する。波面計測装置100は、センサ8を用いて被検物7からの反射光(検出光)を計測し、制御部40(算出手段)を用いて被検物7の面形状(非球面形状)を算出する。本実施例において、センサ8としてダイナミックレンジの大きいシャックハルトマンセンサが用いられる。ただし本実施例はこれに限定されるものではなく、他のセンサを用いてもよい。
【0021】
ここで、被検物7で反射された波面を、センサ8で計測するための構成について説明する。
図1において、被検物7の面形状は非球面である。このため、被検物7に球面波を照射すると、反射光には被検物7の非球面成分が付与されるため、反射波面は大きな収差(大収差)を有する波面となる。
図1において、光線11、12、13は、大収差を有する波面(大収差波面)を構成する光線の一部を示している。光線11、12は、
図1中の点Sにおいて互いに交差している。このため、センサ8による計測の際に、被検物7からの反射光がセンサ8上で互いに重なる場合がある。そこで波面計測装置100は、被検物7からの反射光(光線11、12、13)を、センサ8上で互いに重ならないように計測可能な構成とする必要がある。
【0022】
続いて、光線11、12、13がセンサ8上で互いに重ならない(光線重なりが生じない)ための条件について説明する。まず、
図1に示されるように、被検物7で反射した光線11、12、13は、光学系5、ハーフミラー9、および、光学系14により構成される結像光学系15を透過して、センサ8に入射する。結像光学系15は、センサ8の受光部(CCD等)を像面とする結像光学系である。波面計測装置100は、結像光学系15に関するセンサ8の共役面(センサ共役面10)が、被検物7上の互いに異なる2点から反射した光線(例えば、光線11、12)の交差位置(点S)よりも被検物側(
図1の右側)に位置するように構成される。このような構成により、被検物7の反射光は、センサ共役面10上で光線重なりが生じない波面となり、結像光学系15を介してセンサ8上に結像される波面に関しても光線重なりが生じない。このような条件(センサ8上で光線重なりが生じないための条件)が満たされるように被検物7を配置することを、「被検物をセンサ共役面の近傍に配置する」ともいう。
【0023】
図1に示される波面計測装置100は、凸面の形状を計測する装置である。このため、センサ共役面10が凸の曲率を有するように、すなわちセンサ共役面10の曲率中心が
図1中の被検物7の右側に位置するように、結像光学系15が設計される。従って、結像光学系15のペッツバール和は、センサ共役面10の曲率と波面の曲率とが同符号となるように、すなわちセンサ共役面10および照明光または反射光の波面が
図1中の左側に凸状となるように設定されることが好ましい。
【0024】
また、無収差の波面と比較して、大収差を有する波面を計測する場合、光学系(計測光学系)を通過する光路やセンサ入射波面が大きく変化する。その結果、波面が計測光学系によりけられてしまう場合や、センサ入射波面の径や光線角度がセンサの受光可能な許容値を超えてしまう場合がある。このため、波面計測装置100は、このような大収差を有する波面を計測する際の課題を解決する必要がある。
【0025】
図1の光線13を例として説明する。本実施例において、波面計測装置100は、光線13がセンサ共役面10を通過する点において、光線13の角度が、結像光学系15の下側周辺光線16と上側周辺光線17との間の角度内(物体側NA内)に含まれるように構成される。大収差を有する波面を計測するには、全ての反射光において、光線13に対して説明した条件が成り立つことが必要である。従って、結像光学系15の入射瞳18の位置は、被検物7で反射した全ての光線の角度に関し、全ての光線がセンサ共役面10を通過する点のそれぞれにおいて、上側周辺光線17と下側周辺光線16との間の角度内(範囲内)に含まれるように設定される。このような条件とすることにより、被検物7の反射波面が結像光学系15でけられることはない。
【0026】
また本実施例において、センサ8に入射する全ての光線を計測するため、結像光学系15の最大像高は、センサ8の大きさ(サイズ)以下に設定されることが好ましい。このため、結像光学系15の倍率は、最大像高を被検物7の計測領域の半径で割った値以下に設定される。また本実施例において、結像光学系15のセンサ側主光線はテレセントリックであり、開口数はセンサ8の計測可能な最大角度の正弦値に設定されることが好ましい。このような構成により、結像光学系15の瞳端を通過する光線が、計測可能な最大角度でセンサ8に入射する。このため、結像光学系15を通過する全ての光線がセンサ8で計測可能となり、センサ8のダイナミックレンジに適応した光学系を設計することができる。以上の構成により、波面計測装置100は、大収差を有する波面を計測することが可能となる。
【0027】
続いて、波面計測装置100において、曲率が互いに異なる大収差波面を計測する際に好ましい構成について説明する。非球面の形状計測の際には、様々な中心曲率を有する非球面レンズを計測する必要がある。干渉計などの波面計測装置は、被検物を光軸OAの方向(光軸方向)に駆動させて照射波面(照明光)の曲率と被検物の曲率とを合わせることにより、被検物の曲率変化に対応させるように構成される。しかし、
図1の被検物7のように、被検物7の端に向かうにつれて曲率が小さくなる非球面では、被検物7を結像光学系15から離すように駆動させると、センサ共役面10上で光線が互いに重なってしまう(例えば、
図1の光線11、12)。このとき、センサ8上においても光線は互いに重なるため、被検物7の形状を計測することは困難である。また、被検物7の端に向かうにつれて曲率が大きくなる非球面では、被検物7を結像光学系15に近づけるように駆動させると、センサ共役面10で光線が互いに重なり、波面の計測が困難となる。このため、
図1に示されるような波面計測装置100の構成では、様々な収差量の計測を考えた場合、被検物7を光軸方向に駆動させて、被検物7の曲率変化に対応することができない。
【0028】
この状態で中心曲率が互いに異なる被検物7(非球面を有する被検物)を計測する場合、反射波面の曲率成分の値が被検物7ごとに異なる。その結果、反射波面の角度が変化するため、同じ収差量を有する波面でも、曲率成分の値によっては、反射光が結像光学系15の像側周辺光線に入らず光学系でけられてしまう場合がある。このため、
図1に示される波面計測装置100の構成では、被検物7の曲率成分の値によって、計測可能な収差量が変化してしまう。これは、波面計測装置100で計測可能な収差量が小さくなることを意味する。
【0029】
続いて、
図2および
図3を参照して、このような問題を解決するために好ましい構成について説明する。
図2および
図3は、波面計測装置100の概略構成図である。
図2および
図3では、
図1に示される光源1、集光レンズ2、および、ピンホール3が省略されているが、被検物7、19には、曲率中心が同じ位置の球面波が常に照射されているものとする。また、各図中の矢印は、各光学素子または結像光学系15の物像点の駆動方向を示す。
【0030】
図2(a)は、中心曲率の小さい被検物7を計測する際の結像光学系15の構成を示している。
図2(b)は、中心曲率の大きい被検物19を計測する際の結像光学系15の構成を示している。
図2(a)、(b)において、20、22は、被検物7、19のそれぞれの反射波面の曲率成分である。
【0031】
図2(a)、(b)に示されるように、波面計測装置100は、駆動部31を有する。駆動部31は、被検物7、19の照射波面(照明光)の曲率と、被検物7、19の曲率とがそれぞれ一致または近くなるように、被検物7、19を光軸OAの方向(光軸方向)に駆動(移動)させる。その結果、光学系5に入射する被検物7、19の反射波面の曲率は、常に一定値となる。換言すると、被検物7、19の反射波面の曲率中心21は、被検物7、19の曲率成分の値によらず、常に同じ位置となる。
【0032】
また
図2(a)、(b)に示されるように、波面計測装置100は、駆動部32を有する。駆動部32は、センサ8を光軸方向に駆動(移動)させる。これにより、センサ共役面10も被検物7、19の駆動(移動)に合わせて変化可能となる。その結果、センサ共役面10を常に被検物7、19の近傍に形成(配置)することができるため、センサ8上で光線重なりが生じない。
【0033】
また
図2(a)、(b)に示されるように、結像光学系15の入射瞳18は、反射波面の曲率中心21の近傍に配置されている。このような構成により、センサ共役面10における結像光学系15の主光線の角度と、反射波面の曲率成分の角度とが略一致する。従って、被検物7、19の曲率成分の値が変化しても、結像光学系15に入射する反射波面の曲率成分の角度は、主光線の角度と略一致する。ここで、略一致するとは、これらの角度が厳密に一致することだけでなく、実質的に一致すると評価できる程度に一致する場合を含む意味である。
【0034】
その結果、反射波面が結像光学系15でけられる条件(反射光が結像光学系15の物体側周辺光線の範囲内に入射する条件)は、被検物7、19の曲率成分には依存せず、収差量(非球面量)に依存させることが可能となる。換言すると、波面が無収差の場合にはセンサ8に平行光が入射するため、センサ8のダイナミックレンジの全てを波面の収差量の計測に割り当てることができる。
【0035】
ここで、結像光学系15の入射瞳18と被検物7、19の反射波面の曲率中心21との位置関係について説明する。本実施例では、入射瞳18を、被検物7、19の反射波面の曲率中心21の近傍に配置される。これは、物体面(センサ共役面10)から被検物7、19の反射波面の曲率中心21までの距離をdとした場合、距離dが以下の条件式(1)を満たすことと同値(均等)である。
【0036】
【数1】
【0037】
図7は、条件式(1)の説明図である。なお以降の説明では、
図7中に示されるxyz直交座標系を参照しつつ、各記号の符号や光学系内の位置について説明する。
【0038】
条件式(1)において、hoは結像光学系15の最大物体高、NAoは物体側開口数、θmは最大物体高における主光線が光軸OAとなす角度である。ここで、θmは以下の式(2)のように表される。
【0039】
【数2】
【0040】
式(2)において、Roは物体面(センサ共役面10)の曲率半径、Poは物体面から入射瞳18までの距離である。
【0041】
まず、式(2)について説明する。結像光学系15は、物体面(センサ共役面10)が球面であるように構成されている。このため、物体面の最大物体高のz座標をzm、光軸OA上の物体高のz座標をz0とした場合、zmとz0の値は互いに異なる。式(2)の分母は、距離Poからz座標zmとz0との間の距離(zm−z0)を引いた値である。そして、最大物体高hoを前記値で割って逆正接を計算することにより、最大物体高hoにおける主光線が光軸OAとなす角度θmを求めることができる。
【0042】
条件式(1)の左辺の分母の(θm+asin(NAo))は、上側周辺光線17が光軸OAとなす角である。従って、最大物体高hoを(θm+asin(NAo))の正接で割ることにより、条件式(1)の左辺は物体面(センサ共役面10)から上側周辺光線17が光軸OAと交わる点までの距離d1となる。また、条件式(1)の右辺の分母の(θm−asin(NAo))は、下側周辺光線16が光軸OAとなす角である。従って、最大物体高hoを(θm−asin(NAo)の正接で割ることにより、条件式(1)の右辺は物体面(センサ共役面10)から下側周辺光線16が光軸OAと交わる点までの距離d2となる。
【0043】
条件式(1)は、被検物の反射波面が無収差である場合において距離dが左辺の値と一致すると、最大物体高hoを通過する反射光線が結像光学系15の上側周辺光線17と一致するという条件である。また条件式(1)は、距離dが右辺の値と一致すると、最大物体高hoを通過する反射光線が結像光学系15の下側周辺光線16と一致するという条件である。このため、距離dが条件式(1)を満たさない場合、反射光は結像光学系15でけられてしまうことを意味する。以降の説明において、入射瞳18の位置および被検物の反射波面の曲率中心21が条件式(1)を満たしている場合、「入射瞳を反射波面の曲率中心の近傍に配置する」ともいう。
【0044】
続いて、
図2に示される波面計測装置100の構成を可能とするための、結像光学系15の設計条件について説明する。
図2の波面計測装置100は、駆動部32を用いてセンサ8(像点)を光軸方向に駆動させることで、センサ共役面10(物点)を被検物7、19の移動(駆動部31による駆動)に合わせて移動可能に構成されている。その結果、結像光学系15の倍率も変化してしまう。そこで本実施例では、結像光学系15の倍率変化を更に考慮することが好ましい。以下、入射瞳18とセンサ共役面10との間の距離と結像倍率の関係について説明する。
【0045】
まず、被検物の径と反射波面の曲率との関係を考える。被検物の径が大きい場合、被検物の曲率を大きくするとレンズの肉厚が厚くなり、硝材コストや軽量化に不利である。このため、径が大きい被検物は曲率が小さいことが多く、そのような被検物からの反射波面の曲率も小さい。一方、径が小さい被検物は曲率が大きいことが多く、反射波面の曲率も大きい。以上から、反射波面の曲率が緩い、すなわちセンサ共役面10と入射瞳18との間の距離が長い場合、被検物の径が大きいためセンサ共役面10の径を大きくする必要がある。従って、このときには結像光学系15の倍率が小さくなるように設計される。一方、センサ共役面10と入射瞳18との間の距離が短いとき場合、結像光学系15の倍率が大きくなるように設計される。
【0046】
続いて、結像光学系15の収差に関する設計条件について説明する。まず、センサ8を光軸方向に駆動させると、結像光学系15の周辺光線は変化し、収差が変化する。特に、結像光学系15の非点収差がセンサ8の駆動に伴い変化すると、被検物の周辺部においてセンサ共役面10と被検面とが乖離してしまう。このとき、センサ共役面10上で光線重なりが発生し、センサ8上で波面の計測が困難になる。従って、結像光学系15は、センサ8の駆動による収差の変動、特に非点収差の変動を低減するように設計されることが好ましい。そこで、
図2に示されるように、波面計測装置100は、光学系14を光軸方向に駆動(移動)させる駆動部33を有する。駆動部33を用いて光学系14を光軸方向に駆動させることにより、収差の変動を低減(抑制)することができる。また、センサ側が常にテレセントリックとなるように、結像光学系15の瞳(開口絞り)の位置を変化させることが好ましい。
【0047】
図2の波面計測装置100は、駆動部33を用いて光学系14を駆動させて収差の変動を低減するように構成されているが、これに限定されるものではない。駆動部33を備える代わりに、結像光学系15の光学素子(レンズ)の枚数を増加させることや、非球面レンズを使用することにより、センサ8の駆動(移動)による収差の変動がより小さい光学系を設計してもよい。なお、
図2の構成では、被検物の曲率が小さい場合、被検物を光軸方向に駆動させても、被検物の反射波面の曲率はほとんど変化しない。このため、様々な曲率の被検物に対応するように設計すると、駆動距離が長くなり、被検物の照射波面の径が小さくなる。この結果、計測可能な被検物の径が小さくなってしまう。
【0048】
続いて、
図3を参照して、このような問題を解決するために好ましい構成について説明する。
図3(a)は、中心曲率の小さい被検物7を計測する際の結像光学系15の構成図である。
図3(b)は、中心曲率の大きい被検物19を計測する際の結像光学系15の構成図である。
【0049】
図3(a)、(b)において、20、22は、それぞれ、被検物7、19の反射波面の曲率成分である。21、23は、それぞれ、反射波面の曲率中心である。
図3(a)、(b)の波面計測装置100は、被検物7、19を光軸方向に駆動させない(
図2の駆動部31を有しない)ため、被検物7、19の曲率に応じて、被検物7、19の反射波面の曲率中心21、23の位置は互いに異なる。そこで
図3の波面計測装置100は、結像光学系15の瞳(開口絞り)と被検物との間のレンズのパワー配置を変えて、入射瞳18を反射波面の曲率中心21、23の近傍に配置するように変化させる。このような構成により、センサ共役面10における結像光学系15の主光線の角度と反射波面の曲率成分の角度とが略一致する。従って、被検物7、19の曲率成分の値が変化しても、結像光学系15に入射する反射波面の曲率成分の角度は、主光線の角度と略一致する。その結果、反射波面が結像光学系15でけられる条件は、被検物7、19の収差量で決定され、曲率成分の値には依存しない。
【0050】
続いて、
図3に示される波面計測装置100の構成を可能とするための、結像光学系15の設計条件について説明する。
図3の波面計測装置100においては、入射瞳18を常に反射波面の曲率中心21、23の近傍に配置させる必要がある。そこで、
図3(a)、(b)に示されるように、波面計測装置100は駆動部34を有する。駆動部34を用いて光学系5を光軸方向に駆動(移動)させることにより、結像光学系15の瞳と被検物7、19との間のレンズ(光学系)のパワー配置を変えることができる。これにより、入射瞳18を連続的に変化させることが可能となり、様々な曲率を有する被検物に対応することができる。ただし、光学系のパワーの変化に伴い、結像倍率も変化してしまう。そこで、
図3の結像光学系15の結像倍率は、
図2と同様の理由により、センサ共役面10と入射瞳18との間の距離が長い場合には小さく、一方、センサ共役面10と入射瞳18との間の距離が短い場合には大きくなるように設計される。
【0051】
また、光学系5を光軸方向に駆動させると、結像光学系15の周辺光線や主光線が変化し、収差が変化する。このとき、被検物7、19の周辺部において、センサ共役面10と被検物7、19(被検面)とが乖離し、センサ共役面10上で光線が重なってしまう。さらに、結像光学系15のパワーが変化するため、物像点の位置も変動する。そこで
図3の波面計測装置100は、
図2と同様に、駆動部32、33を用いてセンサ8および光学系14を駆動させるように構成される。これにより、収差の変動およびセンサ共役面10(物点)の変動を低減(抑制)することができる。さらに、センサ側を常にテレセントリックとするため、結像光学系15の瞳位置を変化させる。
【0052】
なお、
図3の波面計測装置100は前述のように構成されるが、センサ共役面10の変動に対しては、駆動部32を用いてセンサ8を駆動させる代わりに、
図2の駆動部31を用いて被検物7、19を駆動させてもよい。また、駆動部33を用いて光学系14を駆動させる代わりに、結像光学系15のレンズの枚数を増加させることや、非球面レンズを使用することにより、光学系5の駆動による収差の変動が小さい光学系を設計することもできる。
【0053】
このように、本実施例の波面計測装置100は、駆動部を用いて、結像光学系15の一部を構成する光学素子(光学系5、14)、センサ8、または、被検物7、19の少なくとも一つを移動可能である。これにより、センサ共役面10と入射瞳18との間の距離を変化させることができる。このような構成により、どのような被検物に対しても、センサ共役面10を被検物の近傍に形成しつつ、入射瞳18を反射波面の曲率中心の位置の近傍に配置させることが可能となる。その結果、様々な曲率を有する被検物からの大収差反射波面がセンサ8で計測することができる。
【0054】
続いて、結像光学系15の入射瞳18と反射波面の曲率中心21、23との位置関係、換言すると、入射瞳18と被検物7、19との位置関係について説明する。ここでは議論を簡単にするため、センサ共役面10での波面ではなく、センサ8(センサ面)に入射する波面が、入射瞳18と反射波面の曲率中心21、23との位置関係によってどのように変化するかについて述べる。
【0055】
まず、入射瞳18と反射波面の曲率中心21、23とが互いに一致している場合、センサ共役面10上の主光線の角度と反射波面の曲率成分の角度は互いに一致する。従って、被検物7、19の反射波面が無収差の場合、センサ側の主光線はテレセントリックであるため、センサ8には平行光が入射する。また、被検物7、19の反射波面に収差が存在する場合、センサ8では反射波面の収差値のみが計測される。
【0056】
一方、入射瞳18と反射波面の曲率中心21、23とが互いに一致していない場合、センサ共役面10上の主光線の角度と反射波面の曲率成分の角度は互いに一致しない。その結果、反射波面が無収差であっても、センサ8には平行光が入射せず、曲率成分を有する波面が入射する。従って、入射瞳18と反射波面の曲率中心21、23との間の距離を可変とすることにより、センサ入射波面の曲率成分を独立に変化させることができる。
【0057】
センサ入射波面の曲率成分を独立に変化させることができれば、センサ入射波面の収差成分に対して、任意の曲率成分を付与することが可能となる。そこで、波面の収差成分の最大傾きに対して逆符号の傾きを有する曲率成分を付与する。このとき、センサ入射角の最大値は、曲率成分を付与しない場合と比較して小さくなる。このように、センサ入射角が小さくなるようにセンサ入射波面に曲率成分を付与することで、計測可能な収差量を増やすことができる。
【0058】
以上では、センサ8上の波面について述べたが、センサ8は結像光学系15の像面と一致している。従って、センサ入射光線の角度を緩和するというのは、結像光学系15の物体面に相当するセンサ共役面10に入射する被検物の反射光線の角度を小さくしていることと同値(均等)である。
【0059】
続いて、入射瞳18と反射波面の曲率中心21、23との間の距離を可変するための構成について説明する。まず、
図2の構成において、結像光学系15の瞳と被検物7、19との間のレンズのパワー配置は変化しないため、入射瞳18の位置は変化しない。従って、被検物7、19を光軸方向に駆動させて照射波面の曲率と被検物7、19の曲率とを互いにずらすことにより、反射波面の曲率中心21の位置を変化させる。その結果、入射瞳18と反射波面の曲率中心21との間の距離を任意に変えることができる。また、
図3の構成において、結像光学系15の瞳と被検物7、19との間のレンズのパワー配置が変化するため、入射瞳18の位置を自由に変えることができる。その結果、入射瞳18と反射波面の曲率中心21、23との間の距離を任意に変えることが可能である。
【0060】
以上、様々な曲率と大収差を有する波面が計測可能な結像光学系15の条件について説明した。続いて、表1を参照して、この条件を実現可能な結像光学系15の数値例について示す。表1は、本実施例の諸元値を示している。結像光学系15は、センサ共役面10と入射瞳18との間の距離を600mmから300mmまで可変可能である。表1には、その代表点として、センサ共役面10と入射瞳18との間の距離が600、400、300mmのときの数値例を示している。
【0061】
表1において、NAiは結像光学系15の像側開口数、hiは像高である。また、面番号は光学系において光線の進行する方向に沿った物体側からのレンズの面の順序、rは各レンズの曲率半径である。dは各面の間隔であり、表1に3つの値が入っているのは、上から順にセンサ共役面10と入射瞳18との間の距離が600、400、300mmのとき面の間隔である。nは基準波長632.8nmに対する媒質の屈折率であり、空気の屈折率1.000000は省略している。なお、以下の全ての諸元値において、曲率半径r、間隔d、および、その他の長さなどは、特記のない場合、一般に[mm]が使われる。ただし、光学系は比例拡大または比例縮小しても同等の光学性能が得られるため、これに限定されるものではない。
【0062】
【表1】
【0063】
図4は、表1に示される光学系(結像光学系15)の断面図(レンズ断面図)である。
図4(a)、(b)、(c)は、センサ共役面10と入射瞳位置との間の距離が、600、400、300mmのときの断面図をそれぞれ示している。
【0064】
まず
図4の光学系は、光源からの発散光を被検物に照射する照明系も兼ねる。具体的には、第9面および第10面(
図4の右側から数えたレンズ面)がハーフミラー9であり、光源からの発散光を折り返して、第1面から第8面で構成されるレンズ群24に入射させる。レンズ群24は、正の屈折力を有するように設計されている。その結果、光源からの発散光を収斂光とし、物体面に配置された被検物に照射するように構成される。
【0065】
図4の第1面から第22面で構成される結像光学系15の特徴の一つは、ペッツバール和を負とし、物体面(センサ共役面10)の曲率半径が−500mmの球面としていることである。そこで結像光学系15は、瞳を挟んで強いパワーの負レンズを配置して構成される。このような構成により、負レンズで発生するコマ収差の一部を相殺(キャンセル)することができる。さらに、負レンズには屈折率が低い硝材、正レンズには屈折率が高い硝材を用いることで、負レンズのパワーの緩和を図り、発生する収差を低減している。このような構成により、結像光学系15のペッツバール和を負としながら収差補正を行うことができる。
【0066】
続いて、
図4を参照して、結像光学系15のセンサ共役面10と入射瞳18との間の距離の可変機構について説明する。
図4では、第8面(
図4中のレンズ群24の最左端のレンズ面)とハーフミラー9の片面(ハーフミラー9の右側面)である第9面との間隔が可変となるように、第1面から第8面で構成されるレンズ群24を駆動する。レンズ群24は、例えば
図3の駆動部34により駆動される。その結果、結像光学系15の瞳とレンズ群24との間の距離が変化する。ここで、レンズ群24は正の屈折力を有し、その焦点距離は瞳とレンズ群24の主点との間の距離より短く設定される。従って、第8面と第9面との間隔を大きくすると、入射瞳18と第1面(センサ共役面10に最も近いレンズ面)との間隔は小さくなる。一方、第8面と第9面の間隔を小さくすると、入射瞳18と第1面との間隔は大きくなる。
図4では、このような構成により、結像光学系15のセンサ共役面10と入射瞳18との間の距離を可変としている。
【0067】
また、
図4の結像光学系は、第22面と像面との間隔を変化させることにより、各面における周辺光線の高さおよび入射角を変化させ、各面の収差量を変える。そして結像光学系は、これを利用し、第8面と第9面との間隔が変化したことによる結像系の収差の変動をキャンセルするように構成されている。また、以上のような駆動を行うため、物体面と第1面との間隔が変化している。このように、
図4の結像光学系は、物体面(センサ共役面10)の変動に合わせて被検物を駆動することにより、被検物を常にセンサ共役面10の近傍に配置可能に構成されている。
【0068】
前述のように、
図4の結像光学系は、
図2および
図3に示されるセンサ共役面10と入射瞳18との間の距離を変化させる駆動手段(例えば駆動部34)を備えている。従って、
図4および表1の光学系を用いることにより、様々な曲率と大収差を有する波面が計測可能となる。その結果、様々な非球面形状の一括計測が同一の波面計測装置で可能となり、波面計測装置の高スループット化や低コスト化を実現することができる。
【0069】
次に、
図5を参照して、本実施例における波面計測方法(センサ8で計測したデータから被検物の形状を算出する計測方法)について説明する。
図5は、波面計測方法を示すフローチャートである。
図5の各ステップは、波面計測装置100の制御部40(
図2、
図3を参照)により実行される。
【0070】
まずステップS11において、制御部40は、波面計測装置100のセンサ8から、被検物7(被検面)の形状に関するデータ(センサデータ)を取得する。本実施例では、センサ8としてシャックハルトマンセンサが用いられるため、センサ8はセンサデータとして光線角度分布を計測し、計測した光線角度分布を制御部40に出力する。
【0071】
続いてステップS12において、制御部40は、センサ8から得られた光線角度分布を、センサ共役面10への光線位置に変換する(光線位置変換を行う)。またステップS13において、制御部40は、光線角度分布を、センサ共役面10への光線角度に変換する(光線角度変換を行う)。このように制御部40は、センサ8で計測した光線角度分布に対して光線位置変換および光線角度変換を行い、センサ共役面10上の反射光の角度分布に変換する。ここで、光線位置変換とは、センサ面の位置座標をセンサ共役面10上の位置座標へ変換することである。具体的には、制御部40は、結像光学系15の近軸倍率、横収差、および、ディストーション情報を用いて、センサ面の位置座標に対して収差を考慮した倍率で割ることで、センサ共役面10の位置座標を算出する。また、光線角度変換とは、センサ上の光線角度をセンサ共役面10の角度へ変換することである。具体的には、センサ8で計測された角度に、光学系の収差を考慮した角度倍率を掛けることで、センサ共役面10の角度を算出する。
【0072】
続いてステップS14において、制御部40は、センサ共役面10から非球面の被検物7(被検面)まで光線追跡を行い、被検物7で反射した光線角度分布を算出する。最後に、ステップS15において、制御部40は、被検物7上の反射光の角度分布と照明光の角度分布から被検物7の面傾斜を算出し、これを積分することで、被検物の形状を算出する。
【0073】
本実施例において、波面計測装置100の制御部40は、形状が既知である被検物(原器)、および、形状が未知である被検物7を計測し、両方の計測データに対して
図5のフローチャートを実行する。そして制御部40は、算出した2つの面形状の差を算出する。このような方法により、算出された面形状の中の、光学系のシステムエラーで発生する成分を除去し、面計測精度の高精度化を図ることができる。