(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
港湾等における船舶の航行の安全性は、AIS(Automatic Identification System)等の航行援助機器や国際VHF等の通信手段の組み合わせにより各船舶の航行の管制を可能とするVTS(Vessel Traffic Service)によって確保され、効率化が図られている。
【0003】
このようなVTSでは、異なるサイトにそれぞれ設置され、かつ少なくとも覆域の一部が同じである2つのレーダによって得られたレーダ信号にレーダ信号処理が施されることにより、個々の船舶が位置し得る海域や航路の安定が確保される。
【0004】
図6は、従来のVTSの構成例を示す図である。
図において、信号変換部31aの入力には、第一のレーダ(以下、「レーダ20a」という。)によって受信されたレーダ信号Saが与えられる。また、信号変換部31bの入力には、第二のレーダ(以下、「レーダ20b」という。)によって受信されたレーダ信号Sbが与えられる。
【0005】
信号変換部31aの出力は、目標検知部32aおよび追尾処理部33aを介して統合処理部34の第一の入力に接続される。信号変換部31bの出力は、目標検知部32bおよび追尾処理部33bを介して統合処理部34の第二の入力に接続される。統合処理部34の出力は、図示されない処理装置に接続される。
【0006】
なお、以下では、レーダ20aおよびレーダ20bはそれぞれ地理的に隔たった異なるサイトに設置される。これらのレーダ20a、20bでは、それぞれの覆域Za、Zbに管制対象の船舶が航行し得る海域(航路)の全てまたは一部を共通に含まれ、かつ18フィート等の大型のアンテナが適用されることによって、船舶レーダに比べて大幅に高い分解能による監視の対象となる。なお、このようなアンテナのサイズについては、例えば、漁協等によって設置されるVTSでは、9フィート、7フィート、6フィート等に設定され得る。
【0007】
このような構成のVTSでは、信号変換部31a、31bは、それぞれレーダ信号Sa、Sbを復調し、これらの復調の結果を個別にAスコープとして示す信号SAa、SAbを生成する。
【0008】
目標探知部32a、32bは、上記信号SAa、SAbを取り込んでスキャン方向およびスイープ方向に対応付けつつ蓄積し、所定の指示方式に基づいて個々の物標を個別に識別すると共に、これらの物標毎に位置・形状・サイズ等を示す情報の列Ia、Ibを生成する。
【0009】
追尾処理部33a、33bは、上記情報の列Ia、Ibを個別に取り込み、該当する情報の列で示される船舶等の物標を捕捉しつつ追尾(ユニークな識別の付与、移動先の推定および現在位置の把握、異なる物標との衝突の予測および警報を実現する。)し、その追尾の下で個別に得られた追尾情報Ta、Tbを生成する。
【0010】
統合処理部34は、これらの追尾情報Ta、Tbに、上記異なるサイトの間における地理的な格差を是正するマッピングを施した後、そのマッピングの下でこれらの追尾情報Ta、Tbを一本化する統合処理を施すことにより追尾情報Tを生成すると共に、その追尾情報Tを所定の情報処理(後続して行われるべきレーダ信号処理、操舵支援等の処理)に演算対象として引き渡す。
【0011】
したがって、レーダ20a、20bの一方のみでは検知が不可能な船舶も、上記航行の管制および追尾の対象となる。
【0012】
なお、船舶に搭載された電子海図情報表示装置(ECDIS:Electronic Chart Display and Information System)では、例えば、自船に搭載されたレーダによって生成された指示画像と、AISによって取得された各種の情報とが海図上に重畳されることによって、衝突事故等の海難事故の防止を可能とするものがあった。
なお、本願に関連性がある先行技術としては、以下に列記する特許文献1、2があった。
【0013】
(1) 「自車両側方の所定の探索覆域に存在する電磁波反射部位毎に当該電磁波反射部位の距離、相対速度、および、方位を含む物標情報をそれぞれ得るレーダ部と、 前記レーダ部で得た各物標情報と自車速とに基づいて静止物体を識別する静止物体識別部と、 前記静止物体識別部で識別した静止物体の相対速度および方位に基づいて自車両の移動状況を算定する車両移動状況算定部とを備え、 前記静止物体識別部は、前記レーダ部で検出した電磁波反射部位のうちから相互に所定間隔以内に接近した密集状態にある複数の電磁波反射部位の集合を識別する密集状態識別処理部と、前記密集状態識別処理部において該密集状態にあることを識別した複数の電磁波反射部位毎にその方位に応じて補正した各相対速度が自車両の走行速度と同等であるか否かを識別する速度識別処理部と、前記速度識別処理部によって相対速度が自車両の走行速度と同等であると識別した当該複数の電磁波反射部位の集合が一の静止物体に対応するものと認識する静止物体認識処理部とを備え、前記車両移動状況算定部は、前記静止物体認識処理部において一の静止物体に対応するものと認識した複数の電磁波反射部位のうち自車両の最至近位置にあるものの相対速度に基づいて自車両の移動状況を算定する」ことによって、「自車両の進行に関する方位と対地車速を正確に検出し物体への接近を確実に回避する」点に特徴がある車両移動状況検出装置…特許文献1
【0014】
(2) 「海底ケーブルが敷設されている予め決められた範囲の監視海域を画する一方の境界ともう一方の境界とにおいて船舶を検知する一組のセンサの出力に基づいて、前記監視海域への船舶の進入と脱出とを判定する手段と、前記一方の境界を通って前記監視海域に船舶が進入したことを判定した後、予め決められた時間が経過しても、前記もう一方の境界を通って前記監視海域から船舶が脱出したことを判定しなかった場合、前記監視海域での当該船舶の停泊を推定する手段と、船舶の停泊を推定した場合、前記監視海域の海上から視認可能な位置に設置した表示器への警告表示によって、海底ケーブルに対する注意を促す手段とを具備する」ことによって、「投錨された錨による海底ケーブルの損傷事故を事前に抑制する」点に特徴がある船舶の停泊監視システム…特許文献2
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、図面に基づいて本発明の実施形態について詳細に説明する。
図1は、本発明の第一ないし第三の実施形態を示す図である。
図において、
図6に示すものと機能および構成が同じものについては、同じ符号を付与し、ここではその説明を省略する。
【0037】
図1に示す実施形態と
図6に示す従来例との構成の相違点は、目標探知部32a、32b、追尾処理部33a、33bおよび統合処理部34に代えて、目標探知部32a′、32b′、追尾処理部33a′、33b′および統合処理部34′が備えられた点にある。
【0038】
〔第一の実施形態〕
図2は、本発明の第一の実施形態の動作フローチャートである。
以下、
図1および
図2を参照して本実施形態の動作を説明する。
【0039】
本発明の特徴は、本実施形態では、後述する手順に基づいて統合処理部34′によって行われる処理の手順にある。
【0040】
目標探知部32a′、32b′は、レーダ20a、20bおよび信号変換部31a、31bが従来例と同様に連携することによって与えられる信号SAa、SAbを取り込みつつ以下の処理を行う。
【0041】
(1) スキャン方向およびスイープ方向に対応付けて蓄積しつつ所定の指示方式に基づいて個々の物標を個別に識別する。
(2) これらの物標毎の位置・形状・サイズ等を示す情報の列Ia′、Ib′を生成し、時系列の順に個別のログ32La′、32Lb′として所定の期間に亘って蓄積する。
【0042】
なお、以下では、符号の末尾に付加された添え文字「a」、「b」の何れにも当てはまり、あるいは共通であって並行して成立する事項については、添え文字「c」を用いて記述する。
【0043】
ここに、上記ログ32Lc′は、
図4に示すように、以下に示す項目が個別に格納されるフィールドの組み合わせであって、時系列の順に対応したレコードの列として構成される。
(1) 探知された船舶等の物標の識別子ID(追尾処理部33c′との連携の下で付与されてもよい。)
【0044】
(2) 該当する物標の位置P(AIS(Automatic Identification System)との連携により取得されてもよい。)
【0045】
(3) 該当する物標のサイズ、またはそのサイズのクラスC(AISとの連携により取得されてもよい。)
(4) 該当する物標の形状K(ここでは、レーダ信号処理の下で識別されると仮定する。)
【0046】
さらに、目標探知部32c′は、上述した処理に併せて(と並行して)適宜、以下の処理を行う。
(1) ログ32Lc′に記録された物標の内、「位置Pの変化が無く、かつ形状KやサイズCに著しい変化を伴わない」との要件を満たす固定目標(陸地、ブイ、フロート、防波堤、養殖・漁業に供される構造物や設備等も該当する。)の全てを識別する(
図2ステップS1)。
【0047】
(2) これらの固定目標で挟まれた海域の内、幅が所定の上限値を下回る海域の全てを「平水区域」として識別する(
図2ステップS2)。
(3) このようにして識別された「平水区域」の位置をログ32Lc′に反映させる(
図2ステップS3)。
【0048】
なお、上述した「平水区域」の識別には、例えば、既述の「幅が所定の上限値を下回る」との要件に併せて(あるいは代えて)、以下の要件の全てまたは一部が適用されてもよい。
− 「海面反射のレベルが既定の値を超える頻度が所定の上限値を下回る」
− 「海面反射が発生する頻度が所定の上限値を下回る」
− 「海図に整合する」
【0049】
また、上述した「平水区域」を識別する処理の過程では、例えば、以下の観点(1)〜(4)の全てまたは一部に基づいて海面反射およびそのレベルが参照されることにより、流氷や流出オイル(タンカーの座標等に起因する。)が分布する水域との混同が回避されてもよい。
【0050】
− 「海面反射が発生する頻度」の時間軸上における増減の経過
− 「海面反射のレベル」の時間軸上における増減の経過
− 「海面反射が発生する水域」の地理的な分布と、その水域の時間軸上における変化の経過
− 上記経過と潮流(季節、天候、時間帯が加味されてもよい。)との相関性
【0051】
追尾処理部33c′は、以下の処理を行う。
(1) 既述のログ(情報の列Ic′を含む)32Lc′を取り込み、該当する情報の列で示される船舶等の物標を捕捉して追尾(ユニークな識別の付与、移動先の推定および現在位置の把握、異なる物標との衝突の予測および警報を実現する。)し、その追尾の下で個別に得られた追尾情報Tc′を生成する(
図2ステップS11)。
【0052】
(2) このような追尾の対象となった物標の内、サイズCが所定の上限値を下回る物標を時系列の順に抽出し、それぞれを小型船舶と推定する(
図2ステップS12)。
(3) さらに、上記追尾の対象となった物標の内、このような小型船舶に該当しない船舶(以下、「大型船舶」という。)を時系列の順に識別する(
図2ステップS13)。
【0053】
(4) 必要に応じて時系列の順にログ32Lc′を参照することにより、下記の処理a)〜f)の内、所望の処理を行う。
a) 覆域Zcの内、上記小型船舶が密集し、あるいは停泊した頻度が所定の閾値th1を超える海域を「小型船舶頻在海域」として識別し、該当する追尾情報Tc′に反映させる(
図2ステップS14)。
【0054】
b) 覆域Zcの内、上記小型船舶が航行した頻度が所定の閾値th2を超える経路を「小型船舶実績航路」として識別し、該当する追尾情報Tc′に反映させる(
図2ステップS15)。なお、このような経路は、特に航路や水路の規定がない海域についても同様に識別される。
【0055】
c) 覆域Zcの内、上記小型船舶以外の船舶(以下、「大型船舶」という。)が航行した実績がなく、あるいはその実績が所定の閾値th3を下回る海域を座礁の危険性が高い「浅瀬」として識別し、該当する追加情報Tc′に反映させる(
図2ステップS16)。
【0056】
d) 覆域Zcの内、上記小型船舶と大型船舶とのそれぞれについて、所定時間以上に亘って停泊した実績があり、またはこのような停泊の頻度が所定の閾値th4を超える海域をそれぞれ「停泊適海域S」、「停泊適海域L」として識別し、該当する追加情報Tc′に反映させる(
図2ステップS17)。
【0057】
e) 覆域Zcの内、上記小型船舶と大型船舶とのそれぞれについて、所定時間以上に亘って停泊した実績があり、またはこのような停泊の頻度が所定の閾値th5を超え、かつ海図上の深度が既定の上限値以下である海域をそれぞれ「投錨適海域S」、「投錨適海域L」として識別し、該当する追加情報Tc′に反映させる(
図2ステップS18)。
【0058】
f) 覆域Zcの内、上記小型船舶が航行した実績がある経路を「小型船泊航跡」として識別し、かつ該当する追加情報Tc′に反映させる(
図2ステップS19)。
【0059】
統合処理部34′は、このようにして得られた追尾情報Ta′、Tb′を取り込み、以下の処理を行う。
(1) 追尾情報Ta′、Tb′に、上記異なるサイトの間における地理的な格差を是正するマッピングを施す(
図2ステップS20)。
【0060】
(2) そのマッピングの下でこれらの追尾情報Ta′、Tb′を一本化することによって、追尾情報T′′を生成する(
図2ステップS21)。以下、このような一本化を「統合処理」という。
(3) この追尾情報T′′を所定の処理(後続して行われるべきレーダ信号処理、指示画像の生成、操舵支援等の処理等々)の演算対象とする(
図2ステップS22)。
【0061】
なお、上記「統合処理」の過程では、「平水区域」、「小型船舶頻在海域」、「小型船舶実績航路」、「浅瀬」、「停泊適海域S」、「停泊適海域L」、「投錨適海域S」、「投錨適海域L」、「小型船泊航跡」の内、レーダ20a、20bの覆域の重なる領域にあるものの全てまたは一部は、それぞれ「積集合」と「和集合」との何れとして一本化されてもよい。
【0062】
このように本実施形態によれば、従来とは異なるレーダ信号処理に基づいて、覆域内における船舶の所在や分布、または航行の実績もしくは頻度が解析され、かつ海面反射の分布や海図(地図)が適宜参照されることによって、「平水区域」、「小型船舶頻在海域」、「小型船舶実績航路」、「浅瀬」、「停泊適海域S」、「停泊適海域L」、「投錨適海域S」、「投錨適海域L」、「小型船泊航跡」の何れもが検知される。
【0063】
したがって、小型船と大型船との何れについても、安全な航行、停泊、投錨が可能な海域の識別が安価に確度高く実現され、航行の安全性と利便性が高められる。
【0064】
なお、本実施形態では、追尾の対象となった船舶は、サイズに基づいて「小型船舶」と「大型船舶」とに区分されている。
【0065】
しかし、本発明はこのような構成に限定されず、例えば、これらの船舶は、3つ以上のクラスに区分され、これらのクラス毎に既述の処理が行われてもよい。
【0066】
また、本実施形態では、下記の項目の何れについても、適宜、海図が併せて参照されることによって確度や精度の不足が補われてもよい。
「平水区域」、「小型船舶頻在海域」、「小型船舶実績航路」、「浅瀬」、「停泊適海域S」、「停泊適海域L」、「投錨適海域S」、「投錨適海域L」、「小型船泊航跡」
【0067】
さらに、これらの項目は、VTSを構成するレーダ20a、20bによって個別に得られたれたレーダ信号Sa、Sbに基づいてそれぞれ識別され、かつ統合処理の過程で併合されている。
しかし、本発明は、このような構成に限定されず、例えば、船舶に搭載された1台のレーダ装置で行われるレーダ信号処理の一部として実現されてもよい。
【0068】
〔第二の実施形態〕
本実施形態と既述の第一の実施形態との構成の相違点は、
図1に点線で示す以下の点にある。
(1) 統合処理部34′の後段に配信処理部35が備えられる。
【0069】
(2) その配信処理部35は、インタネット10に接続される。
(3) インタネット10には、ウェブサーバ11に併せて、公衆無線LAN基地局12および無線基地局13が接続される。
【0070】
(4) レーダ20aの覆域Zaには、電子海図表示装置41が備えられた大型船41vが位置する。
(5) レーダ20bの覆域Zbには、スマートフォン51を携帯する人が乗船している小型船舶51vが位置する。
【0071】
図3は、本発明の第一の実施形態における各部の連携を示す図である。
以下、
図1および
図3を参照して本実施形態の動作を説明する。
本発明の特徴は、本実施形態では、配信処理部35およびスマートフォン51がインタネット10を介して下記の通りに連携する点にある。
本実施形態では、配信処理部35は、以下の処理を行う。
【0072】
(1) 既述の追尾情報T′′に所定の処理が施されることによって生成され、かつ以下の項目の内、所望の項目が反映されるべき「背景画像」、その背景画像上にこれらの所望の項目が反映されるために必要な「オブジェクトの集合」を逐次生成する(
図3(1))。
「平水区域」、「小型船舶頻在海域」、「小型船舶実績航路」、「浅瀬」、「停泊適海域S」、「停泊適海域L」、「投錨適海域S」、「投錨適海域L」、「小型船泊航跡」
【0073】
(2) インタネット10を介してウェブサーバ11に、上記「背景画像」および「オブジェクトの集合」をXML形式やJSON形式の情報として順次転送する(
図3(2))。
【0074】
ウェブサーバ11は、このような「背景画像」および「オブジェクトの集合」を所定の形式のデータベースとして蓄積し、かつ適宜更新する(
図3(3))。
【0075】
一方、レーダ20bの覆域Zbに位置する小型船舶51vに乗船している人が携帯しているスマートフォン51は、内蔵されたGPS受信機にGPS衛星から到来する無線信号に基づいて適宜測位演算を行うことによって、そのスマートフォン51の位置pを識別する。
【0076】
このようなスマートフォン51に搭載されているアプリは、上記ウェブサーバ11によって開設されているウェブサービスに、公衆無線LAN基地局12と無線基地局13と衛星携帯電話系との何れかと、インタネット10とを介してアクセスすることによって、上述した位置pと、所望のレンジ(小型船舶51vが位置する海域の内、既述のVTSによって指示画像等が提供されるべき海域の範囲を示す距離等)rとを「要求」として引き渡す(
図3(5))。
【0077】
ウェブサーバ11は、以下の処理を行う。
(1) 上記データベースとして蓄積されかつ更新されている「背景画像」および「オブジェクトの集合」の内、上記位置pとレンジrとに整合した特定の「背景画像」および「オブジェクトの集合」を抽出する(
図3(6))。
【0078】
(2) 例えば、XML形式やJSON形式の情報に、上記特定の「背景画像」および「オブジェクトの集合」を変換し、インタネット10と、公衆無線LAN基地局12もしくは無線基地局13の何れか一方とを介して既述のアプリに引き渡す(
図3(7))。
【0079】
スマートフォン51に搭載されているアプリは、このようにして引き渡された「背景画像」および「オブジェクトの集合」を併合することによって、小型船舶51vの周囲における所望のレンジ内における指示画像を操作者に提供する(
図3(8))。
【0080】
すなわち、小型船舶51vでは、レーダが搭載されていないにもかからわず、VTSとの連携の下で所望のレンジについて、既述の「平水区域」、「小型船舶頻在海域」、「小型船舶実績航路」、「浅瀬」、「停泊適海域S」、「停泊適海域L」、「投錨適海域S」、「投錨適海域L」、「小型船泊航跡」の何れもが反映された指示画像が提供される。
【0081】
このように本実施形態によれば、レーダが搭載されていない小型船舶51vだけではなく、スマートフォンを携帯する人が乗船している大型船舶41vであっても、それぞれの船舶が位置する海域やその周辺について、従来例では提供されなかった多様な情報が提供される。
【0082】
したがって、従来例のハードウェアの構成に大きな変更が生じることなく、小型船舶による安全な海域および航路の識別(探知)性能が向上し、大型船舶についても、航行の安全性、利便性および効率化が高められる。
【0083】
なお、スマートフォン51(アプリ)とウェブサーバ11とによる機能や負荷の分散の形態は、既述の形態に限定されず、如何なるものであってもよい。
【0084】
また、ウェブサーバ11は、上述したウェブサービスではなく、既述の要求に適応し、かつ動的に生成したウェブページとして、スマートフォン51(に備えられたブラウザ)に同様のサービスを提供してもよい。
【0085】
さらに、本実施形態では、スマートフォン51は、インタネット10に対するアクセスを可能とする通信機能を有するならば、パソコン、タブレットコンピュータその他の多様な情報端末や通信端末(衛星携帯電話系にアクセス可能なものを含む。)であってもよい。
【0086】
また、本実施形態では、小型船舶51vに提供される指示画像には、現在の船舶の位置情報に併せて、「平水区域」、「小型船舶頻在海域」、「小型船舶実績航路」、「浅瀬」、「停泊適海域S」、「停泊適海域L」、「投錨適海域S」、「投錨適海域L」、「小型船泊航跡」の何れもが含まれている。
【0087】
しかし、本発明はこのような構成に限定されず、上記指示画像に含まれる項目は、「平水区域」、「小型船舶頻在海域」、「小型船舶実績航路」、「浅瀬」、「停泊適海域S」、「停泊適海域L」、「投錨適海域S」、「投錨適海域L」、「小型船泊航跡」の内、例えば、既述のアプリ(ブラウザ)とウェブサーバ11との連携の下で識別されたアプリ(ブラウザ)もしくは小型船舶51vの属性に整合した項目のみに限定されてもよい。
【0088】
さらに、本実施形態では、電子海図表示装置やAISの表示画面でスマートフォン51の表示画面が代替されるべき場合には、ウェブサーバ11が提供するウェブサービスやウェブぺージの提供は、携帯電話の無線伝送路や公衆無線LANに代えて、例えば、インマルサットGXやVSAT(Very Small Aperture Terminal)を介する無線伝送路が適用されてもよい。
【0089】
〔第三の実施形態〕
本実施形態の特徴は、既述の第一の実施形態との対比においては、以下に列記する項目a)〜f)の全てまたは一部が後述する「重み付けA」、「重み付けB」の双方または何れか一方に基づいて重み付けられる点にある。
【0090】
a) 固定目標で挟まれた海域の内、「平水区域」として識別されるための基準となる幅の上限値
b) 覆域Zcの内、「小型船舶頻在海域」として識別されるべき海域の基準となる「小型船舶が密集し、あるいは停泊した頻度」
【0091】
c) 覆域Zcの内、「小型船舶実績航路」として識別されるべき経路の基準となる「小型船舶が航行した頻度」
d) 覆域の内、「浅瀬」として識別されるべき海域の基準となる「大型船舶が航行した実績」
【0092】
e) 覆域の内、「停泊適海域S」、「停泊適海域L」として識別されるべき海域の基準となる「小型船舶と大型船舶とがそれぞれ所定時間以上に亘って停泊した実績、またはこのような停泊の頻度」
【0093】
f) 覆域の内、「投錨適海域S」、「投錨適海域L」として識別されるべき海域の順となる「小型船舶と大型船舶とがそれぞれ所定時間以上に亘って停泊した実績、またはこのような停泊の頻度」
【0094】
[重み付けA]
図5(a)に示すように、時系列の順に新しいほど大きく、かつ古いほど小さく重み付けられる。
[重み付けB]
季節、天候、時間帯の全てまたは一部で定まる重み(
図5(b)にグラデーションで示す。)で重み付けられる。
【0095】
すなわち、レーダ信号処理の下で識別された多様な「実績」や「頻度」が定常と見なされ得る期間の長さは、気温、湿度、風向、風量、干満等の変化に柔軟に適応した値として評価される。
【0096】
したがって、本発明によれば、船舶が位置し、あるいは航行する海域の実体的な状況に即した安全性の確保が安定に図られる。
【0097】
なお、上述した各実施形態では、
図1に示す構成要素の連携によって実現される機能分散や負荷分散は、例えば、以下に列記される形態で図られてもよい。
【0098】
(1) 「平水区域」の識別が追尾処理部33Cと統合処理部34との連携、またはこれらの一方によって行われる。
(2) 以下の項目の識別が目標探知部32Cと統合処理部34との連携、またはこれらの一方によって行われる。
「平水区域」、「小型船舶頻在海域」、「小型船舶実績航路」、「浅瀬」、「停泊適海域S」、「停泊適海域L」、「投錨適海域S」、「投錨適海域L」、「小型船泊航跡」
【0099】
また、上述した各実施形態において、目標探知部32c′、追尾処理部33c′、統合処理部34′によって行われるレーダ信号処理の対象(信号SAcを含む。)は、応答性、消費電力その他制約の下で所望の精度で既述の処理が実現されるならば、Bスコープその他の如何なる指示方式に適応した信号であってもよい。
【0100】
さらに、上述した各実施形態では、レーダ20a、20bの空中線系の幅に格差があり、この格差によって両者の分解能に差がある場合には、以下の通りに構成されることによって、これらのレーダ20a、20bによって探知された物標(船舶を含む)が目視により峻別可能な形態で指示画像に反映されてもよい。
【0101】
(1) 目標探知部32a′および追尾処理部33a′と、目標探知部32b′および追尾処理部33b′とでそれぞれ行われる処理の結果には、レーダ20a、20bに対応したユニークな識別子が含まれる。
【0102】
(2) 統合処理部34′によって行われる合成処理では、生成される指示画像に上記識別にそれぞれ対応した異なる表示属性が適用されつつ行われる。
【0103】
また、上述した各実施形態では、既述の処理の過程で参照される閾値、上限値、頻度、重み等は、気象レーダまたはウェブサービス等によって提供される気象情報(雨量、風向、風速、温度、湿度等およびこれらを含む気象予報)に整合した値に、適宜更新され、もしくは維持されることによって、総合的な信頼性が高められ、かつ安定に維持されてもよい。
【0104】
さらに、上述した各実施形態では、識別されるべき「平水区域」、「小型船舶頻在海域」、「小型船舶実績航路」、「浅瀬」、「停泊適海域S」、「停泊適海域L」、「投錨適海域S」、「投錨適海域L」、「小型船泊航跡」の何れについても、気象レーダまたはウェブサービス等によって提供される気象情報(雨量、風向、風速、温度、湿度等およびこれらを含む気象予報)に基づく補正や最適化が図られてもよい。
【0105】
また、上述した各実施形態では、所望の効果が実現されるならば、各部で行われるべき処理は如何なる形態による機能分散や負荷分散の下で行われてもよく、これらの処理の全てまたは一部がクラウド上で行われてもよい。
【0106】
さらに、上述した各実施形態では、統合処理部34′の前段に配置された信号処理部31a、31b、目標探知部32a′、32b′および追尾処理部33a′、33b′の全て一部は、それぞれレーダ20a、20bが設置されるサイトに配置されてもよい。
【0107】
また、本発明は、上述した実施形態に限定されず、本発明の範囲において多様な実施形態の構成が可能であり、構成要素の全てまたは一部に如何なる改良が施されてもよい。
【0108】
以下、本願に開示された発明の内、「特許請求の範囲」に記載しなかった発明の構成、作用および効果を「特許請求の範囲」、「課題を解決するための手段」、「発明の効果」の欄に準じた形式により列記する。
【0109】
[9] 請求項1、2、3、5、6、7の何れか1項に記載のレーダ信号処理装置において、
前記頻度は、時系列の降順に大きく重み付けられた実績である
ことを特徴とするレーダ信号処理装置。
【0110】
すなわち、レーダの覆域の何れの部位についても、船舶の航行、停泊、投錨、密集した実績は、最新の実績だけではなく、古い実績も所望の重み付けにより参酌されることによって評価される。
【0111】
したがって、船舶の航行や安全性がレーダ信号に付帯する干渉やクラッタに起因して無用に低下することが回避される。
【0112】
[10] 請求項1、2、3、5、6、7、8の何れか1項に記載のレーダ信号処理装置において、
前記頻度は、季節、天候、時間帯の全てまたは一部で定まる重みで重み付けられた実績である
ことを特徴とするレーダ信号処理装置。
【0113】
すなわち、レーダの覆域の何れの部位についても、船舶の航行、停泊、投錨、密集した実績は、該当する部位における季節、天候、時間帯に応じた状況およびその変化に柔軟に適応しつつて評価される。
【0114】
したがって、船舶の航行や安全性がレーダ信号に付帯する干渉やクラッタに起因して無用に低下することがさらに確度高く回避される。
【0115】
[11] 請求項4に記載のレーダ信号処理装置において、
前記閾値は、季節、天候、時間帯の全てまたは一部で定まる重みで重み付けられた
ことを特徴とするレーダ信号処理装置。
【0116】
すなわち、覆域の内、固定目標で挟まれて
平水区域として識別されるべき部位の幅の上限値は、該当する部位における季節、天候、時間帯に応じた状況およびその変化に柔軟に適応した値に設定される。
【0117】
したがって、平水区域の識別は、単に海図やクラッタの分布に基づいて行われる場合に比べて、広範な期間に安定に実現される。
【0118】
[12] 請求項1、2、3、4、5、6、7と上記[9]〜[11]との何れか1項に記載されたレーダ信号処理装置において、
前記覆域に位置し得る船舶上に位置する通信端末宛に、前記水域識別手段によって識別された水域を無線伝送し、またはウェブサービスとして提供する水域通知手段を備えた
ことを特徴とするレーダ信号処理装置。
【0119】
すなわち、本発明によって識別される多様な水域は、レーダが備えられていない船舶であっても、その船舶上に位置する通信端末を介して通知される。
【0120】
したがって、多数の小型船舶についても、航行の安全性および利便性が安価に高められる。
【0121】
[13] 上記[12]に記載されたレーダ信号処理装置において、
前記水域通知手段は、
前記識別された水域の内、前記通信端末のアカウントで定まる特定の水域を前記無線伝送または前記ウェブサービスの対象外とする
ことを特徴とするレーダ信号処理装置。
【0122】
すなわち、本発明によって識別可能な多様な水域は、必ずしも全てがユーザに対して通知されず、個々のユーザの属性に適合した水域のみに限定されて通知される。
【0123】
したがって、上記多様な水域の全てがユーザに通知されることに起因して生じ得る問題の発生が柔軟に回避可能となる。
【0124】
[14] 請求項1、2、3、4、5、6、7と上記[9]〜[11]との何れか1項に記載されたレーダ信号処理装置において、
前記水域識別手段によって識別された水域を含む指示画像に、サイズが所定の上限値以下の船舶が航行した実績を示す航跡を重畳させる航行実績重畳手段と
を備えたことを特徴とするレーダ信号処理装置。
【0125】
すなわち、本発明によって識別された何れの水域も、小型船舶の航跡とともにユーザに通知される。
【0126】
したがって、航行の安全性および利便性が相乗的に高められる。
【0127】
[15] 上記[14]に記載されたレーダ信号処理装置において、
前記覆域に位置し得る船舶上に位置する通信端末宛に、前記航行実績重畳手段によって前記航跡が重畳された指示画像を無線伝送し、またはウェブサービスとして提供する指示画像通知手段を備えた
ことを特徴とするレーダ信号処理装置。
【0128】
すなわち、本発明によって識別される多様な水域は、レーダが備えられていない船舶であっても、その船舶上に位置する通信端末を介して通知される。
【0129】
したがって、多数の小型船舶についても、航行の安全性および利便性が安価に高められる。
【0130】
[16] 上記[14]、[15]の何れか1項に記載されたレーダ信号処理装置において、
前記指示画像通知手段は、
前記指示画像の内、前記通信端末のアカウントで定まる特定の部位を前記無線伝送または前記ウェブサービスの対象外とする
ことを特徴とするレーダ信号処理装置。
【0131】
すなわち、本発明によって識別可能な多様な水域は、必ずしも全てがユーザに対して通知されず、個々のユーザの属性に適合した水域のみに限定されて通知される。
【0132】
したがって、上記多様な水域の全てがユーザに通知されることに起因して生じ得る問題の発生が柔軟に回避可能となる。
【0133】
[17] 上記[14]ないし[16]の何れか1項に記載され、かつ複数のレーダから個別に放射された送信波に応じて覆域からそれぞれ到来した複数のレーダ信号を処理する複数のレーダ信号処理装置と、
前記複数のレーダ信号処理装置によって航跡が個別に重畳された指示画像を異なる表示属性で合成する画像合成手段とを備え、
前記複数のレーダ信号処理装置にそれぞれ備えられた水域識別手段は、
前記複数のレーダ信号に基づいて前記水域を個別に識別し、
前記複数のレーダ信号処理装置にそれぞれ備えられた航行実績重畳手段は、
前記複数のレーダ信号に基づいて前記水域識別手段によってそれぞれ識別された水域を個別に含む指示画像に、サイズが所定の上限値以下の船舶が航行した実績を示す航跡を重畳させる
ことを特徴とする指示画像生成装置。
【0134】
すなわち、複数のレーダにそれぞれ対応したレーダ信号処理装置によって個別に生成され、かつ航跡が重畳された指示画像は、これらのレーダ毎に異なる表示属性が保たれつつ合成される。
【0135】
したがって、総合的な覆域内における航行の安全性、利便性の向上に、複数のレーダの探知性能や覆域の相違が積極的に活用される。