特許第6429608号(P6429608)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6429608振動型アクチュエータ、超音波モータ、及び光学機器
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6429608
(24)【登録日】2018年11月9日
(45)【発行日】2018年11月28日
(54)【発明の名称】振動型アクチュエータ、超音波モータ、及び光学機器
(51)【国際特許分類】
   H02N 2/04 20060101AFI20181119BHJP
   G02B 7/04 20060101ALI20181119BHJP
【FI】
   H02N2/04
   G02B7/04 E
【請求項の数】9
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2014-241853(P2014-241853)
(22)【出願日】2014年11月28日
(65)【公開番号】特開2016-103939(P2016-103939A)
(43)【公開日】2016年6月2日
【審査請求日】2017年11月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(72)【発明者】
【氏名】山本 晴滋
【審査官】 小林 紀和
(56)【参考文献】
【文献】 特開平08−182354(JP,A)
【文献】 特開2014−212682(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2014/0293463(US,A1)
【文献】 特開2004−096984(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2004/0056564(US,A1)
【文献】 特開2014−183724(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2014/0285066(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02N 2/04
G02B 7/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
摺動部を有する振動子と、
前記摺動部が圧接されるスライダーと、
前記振動子を支持し、被駆動部材を駆動する支持部材とを備え、
前記摺動部と前記スライダーとの摩擦接触により、駆動力発生部において駆動力が発生し、
前記支持部材は、前記被駆動部材に駆動力を伝達する駆動力伝達部を有し、
前記駆動力伝達部は、前記被駆動部材の移動方向に沿って、前記駆動力発生部の前後2箇所に設けられる
ことを特徴とする振動型アクチュエータ。
【請求項2】
前記駆動力伝達部は、前記駆動力発生部が設けられる、前記被駆動部材の移動方向および前記振動子の加圧方向で規定される平面を含む、前記スライダーと前記支持部材との間の空間に設けられる
ことを特徴とする請求項1に記載の振動型アクチュエータ。
【請求項3】
前記駆動力伝達部は、先端半球状であり、
前記被駆動部材は、前記被駆動部材に設けられた係合部が前記駆動力伝達部を押圧する方向に回転付勢される
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の振動型アクチュエータ。
【請求項4】
前記振動子に固定された基台と、
前記基台と前記支持部材とを連結する連結部材とを備える
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の振動型アクチュエータ。
【請求項5】
前記支持部材を光軸に沿った方向にガイドするガイド部を備える
ことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の振動型アクチュエータ。
【請求項6】
前記ガイド部は、
ボール部材が嵌入する第1の溝部を有し、前記支持部材に固定された移動板と、
前記第1の溝部と対向する位置に設けられた、前記ボール部材を挟持する第2の溝部を有するカバープレートとを備える
ことを特徴とする請求項5に記載の振動型アクチュエータ。
【請求項7】
前記振動子を前記被駆動部材の移動方向に直交する方向に加圧する加圧手段を備える
ことを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の振動型アクチュエータ。
【請求項8】
前記振動子は、電圧の印加により超音波振動する
ことを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載の振動型アクチュエータとして機能する超音波モータ。
【請求項9】
前記被駆動部材と、
請求項1乃至7のいずれか1項に記載の振動型アクチュエータと、を備える
ことを特徴とする光学機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、振動型アクチュエータ超音波モータ、及び光学機器に関する。
【背景技術】
【0002】
高周波電圧の印加により周期的に振動する振動子を摺動部材に圧接することで摺動部材を駆動する振動型アクチュエータ(例えば、超音波モータ)が提案されている。特許文献1は、振動子70で発生する駆動力を振動子70の側面に挿入されたピン部材120を介して係合突設部117へ伝達する振動波リニアモータを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−99549号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1が開示する振動波リニアモータでは、駆動力発生部である振動子の駆動接触部76に対し、駆動力を伝達するピン部材120と係合突部117との係合部は駆動力発生部の移動方向に対して側方に位置している。したがって、被駆動部材である第3の移動鏡枠の駆動抵抗により、振動子70には移動方向に対してヨー方向の抵抗力が常に作用する。その結果、被駆動部材の駆動負荷が増えると、上記ヨー方向の力により振動子が螺旋バネ83の加圧力に抗して回転し、第3の移動鏡枠の送り精度が低下する。
【0005】
本発明は、被駆動部材を精度良く駆動させることができる振動型アクチュエータ及び光学機器の提供を目的とする。

【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一実施形態の振動型アクチュエータは、摺動部を有する振動子と、前記摺動部が圧接されるスライダーと、前記振動子を支持し、被駆動部材を駆動する支持部材とを備える。前記摺動部と前記スライダーとの摩擦接触により、駆動力発生部において駆動力が発生する。前記支持部材は、前記被駆動部材に駆動力を伝達する駆動力伝達部を有する。前記駆動力伝達部は、前記被駆動部材の移動方向に沿って、前記駆動力発生部の前後2箇所に設けられる。
【発明の効果】
【0007】
本発明の振動型アクチュエータによれば、被駆動部材を精度良く駆動させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】振動型アクチュエータの構成例を示す図である。
図2】振動板の共振による摺動部の運動を説明する図である。
図3】超音波モータを構成する部品の要部斜視図である。
図4】連結部材と振動子支持部材の締結部を振動子加圧方向から見た図である。
図5】超音波モータが光学機器に組み込まれた状態における要部断面である。
図6】駆動力伝達部が平面Aから外れた位置に設定されたときの構成である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
図1は、本実施形態の振動型アクチュエータの構成例を示す図である。
図1に示す振動型アクチュエータは、超音波モータである。図1(A)は、振動型アクチュエータの駆動移動方向直角断面を示す。図1(B)は、振動型アクチュエータの駆動移動方向断面(図1(A)中の平面Aでの断面)を示す。
【0010】
101は振動板を示す。振動板101が有する被接合部101aが、基台102の接合凸部102aに対して接着などにより固定される。また、振動板101には、圧電素子103が公知の接着剤などにより固着されている。
【0011】
圧電素子103は、高周波電圧が印加されると、振動板101が長手方向、短手方向、それぞれ共振を起こすように設定されている。振動板101と圧電素子103とで、超音波振動する振動子100が構成される。
【0012】
図2は、振動板の共振による摺動部の運動を説明する図である。
図2に示すように、振動板101に形成された摺動部101bの先端が、楕円運動を起こす。圧電素子103に印加する高周波電圧の周波数や位相を変えることで、回転方向や楕円比を適宜変化させて所望の動きを発生させることができる。したがって、摺動部101bは、当該摺動部101bが圧接されるスライダー104と摩擦接触することにより駆動力を発生させる。これにより、振動子100自身が光軸方向(図1(A)中では紙面直行方向、図1(B)中では左右方向) に沿って駆動移動することが可能となる。すなわち、摺動部101bとスライダー104との当接面が、駆動力発生部150として機能する。そして、駆動力発生部150を含み、駆動移動方向である光軸方向と振動子100の加圧方向(図1)とで規定される平面A上に、駆動力伝達部120が形成される。この例では、加圧方向は光軸に直交する方向である。駆動力伝達部120については後述する。
【0013】
スライダー104は、ユニット支持部材116に対して、ネジ117(図1(B))によって固定される。振動子支持部材105は、振動子100が固定された基台102とは、連結部材301によって連結される。加圧板106は、弾性部材107を挟んで圧電素子103を、図1(A),(B)中に示す加圧方向に沿って押圧保持する。
【0014】
加圧バネ108は,バネ保持部材109およびバネ地板110との間に組み込まれる。これにより、加圧手段である加圧バネユニット118が構成される。バネ保持部材109の先端径大部109aは、バネ地板110の嵌合部110aに軽圧入で組み込まれるので、組み立て後は、バネ110のバネ力に抗してユニット状態を維持できる。
【0015】
バネ地板110の外径部には、円周方向の数箇所にバヨネット突部110bが形成されている。バヨネット突部110bは、組み込み状態において、振動子支持部材105に形成されたバヨネット係合部105aにより加圧方向の位置が規定される。この時、バネ保持部材109の先端押圧部109bは、バネ108の付勢力により、加圧板106および弾性部材107を介して、振動子100をスライダー104に加圧する加圧力を発生する。したがって、振動子100とスライダー104とが摩擦接触することが可能となる。
【0016】
移動板111は、振動子支持部材105の当接部105bにネジ113で固定される。振動子支持部材105には、ネジ113が貫通するネジ穴105cが形成されている。移動板111には、ボール部材(ボール)112が嵌入し、振動子支持部材105を光軸方向にガイドする第1の溝部である複数のV溝部111aが形成される。これにより、振動子支持部材105を光軸方向にガイドするガイド部が構成される(図1参照)。
【0017】
カバープレート115は、ユニット支持部材116に公知のネジ等により固定される。カバープレート115は、上述したガイド部の一部を構成しており、移動板111のV溝部111aに対向する位置に設けられた第2の溝部であるV溝部115aによって、ボール114を挟持する。これにより、振動子支持部材105を光軸方向に沿って進退可能に支持することを可能としている。
【0018】
次に、基台102と振動子支持部材105との連結と、駆動力伝達部の構成について説明する。
図3は、本実施形態の振動型アクチュエータの一例としての超音波モータを構成する部品の要部斜視図である。301は連結部材であり、例えばバネ性を有するステンレスの板材により構成されている。連結部材301には振動子支持部材105との締結が行われるネジ穴部301aが形成されている。また、振動子支持部材105に固定された移動版111には、雌ネジ部111bが形成され、止めネジ113により連結部材301と振動子支持部材105とが締結される。ネジ穴部301aと雌ネジ部111b、さらに振動子支持部材に形成されたネジ穴105c(図1(B)参照)により、締結部303が構成される。
【0019】
締結部303は、図3及び図4に示すように振動子の移動方向に前後2箇所形成され、振動子支持部材105と連結部材301との締結をより確実なものにする。さらに、連結部材301には、4箇所の折り曲げ部301bにネジ穴301cが形成されており、基台102に形成されたネジ穴部102bにネジ302により締結される。
【0020】
図4は、連結部材と振動子支持部材との締結部を振動子加圧方向から見た図である。
連結部材301と振動子支持部材105との締結はネジ穴部301aで行われる。ネジ穴周囲の外形部301dは、図に示す通り基台102の投影領域内、つまり図4に示されたハッチング領域内に存在する。図4の方向から見たとき、振動板101に形成された被接合部101aの外形を逸脱しない領域に存在していることがわかる。また、駆動力伝達部120が二箇所に形成されていることがわかる。上述基台と連結部材は先に組み立てることが必要である。ここまでの組み立てが終了した後、連結部材301と基台201をネジ302により締結することで、振動子100と振動子支持部材105の連結が完了する。
【0021】
図3中、ラック305は、駆動力伝達部120と係合し、第二のレンズ保持部材505(図5)を光軸に沿った方向に駆動させる被駆動部材である。ラック305には振動子支持部材105に形成された先端半球状の駆動力伝達部120と係合する係合部305aが形成されている。ラック305は、第二のレンズ保持部材505に形成された嵌合穴部と係合軸部305bで回転可能に結合される。
【0022】
組み込み状態においては、公知のトーションバネにより、係合軸部305bを回転中心として係合部305aが駆動力伝達部120を押圧する方向に回転付勢される(図3参照)。このとき、駆動力発生部150を含む平面A(図1(A))上に駆動力伝達部120が形成されている。したがって、第二レンズ保持部材及び第二レンズの重さや、駆動制御により発生する慣性力が働いたとしても、振動子支持部材105に対しては駆動移動方向に対するヨー方向の負荷は発生しない。その結果、送りの精度を良好にすることができる。また、組み込み状態においては、図1(B)にも示される通り、駆動力伝達部120は、平面A上で、かつスライダーと振動子支持部材105との間に形成される空間Bに設定されている。さらに、駆動力伝達部120は、駆動力発生部150を挟んで、駆動移動方向である光軸方向の前後2箇所に形成されている。
【0023】
また、連結部材は、ステンレスの薄板などで構成され、加圧方向には可撓性を有している。したがって、振動子100が加圧手段(加圧ユニット118)により押圧付勢される際、部品公差等により振動子の高さが前後しても、その誤差を吸収してスライダー104に対して必要な押圧力を発生させることができる。
【0024】
図5は、超音波モータが直動型として光学機器の鏡筒部に組み込まれた状態における要部断面を示す図である。
第一レンズ保持部材501は、第一のレンズ502を保持する。第三レンズ保持部材503は、第三のレンズ504を保持する。第三レンズ保持部材503の外周部には、筒状部503aが設けられており、先端部503bで第一レンズ保持部材501と図外のネジなどにより締結される。筒状部503aの外径部の一部には、超音波モータが固定されるユニット受け部503cが設けられており、公知のネジなどにより着脱自在に固定される。
【0025】
また、筒状部503aの内径部には、第二のレンズ506を保持する第二レンズ保持部材505が配置される。第二のレンズ506は、合焦レンズとして、超音波モータにより光軸に沿って移動する。この時、第二レンズ保持部材505は、公知のガイドバー507と軸受け部505aとが相対摺動可能に嵌合しているので、第二のレンズを光軸に沿って移動させることを可能としている。
【0026】
ラック305が第二レンズ保持部材505の嵌合穴部に対して係合軸部305bが回転可能に結合され、トーションバネの回転付勢力により振動子支持部材に形成された駆駆動力伝達部120に対して、ラック305の係合部305aが押圧力を以て係合される。これにより、第二レンズ保持部材505と振動子支持部材105との連結が完了する。
【0027】
そして、駆動力発生部150と駆動力伝達部120とは、図1(B)に示すように、平面Aすなわち駆動力発生部150を含み駆動移動方向と加圧方向で定義される平面上に設定されている。したがって、第二レンズ保持部材505の駆動負荷や慣性力による負荷に関係なく、正確な送り制御を行うことが可能となる。
【0028】
図6は、駆動力伝達部が平面Aから外れた位置に設定されたときの構成である。
以下に、図6を参照して、駆動負荷によってV溝部がボール120を乗り上げ、その結果、送り精度に与える影響について説明する。
【0029】
図6(A)に示すように、二箇所の駆動力発生部150にF0の駆動力が発生すると仮定する。また、振動子支持部材105にはボール120が3箇所に設定され、それぞれが移動板111及びカバープレート115に形成されたV溝部111a、115aの間で挟持される。駆動力伝達部701は、駆動力発生部150に対してL1の間隔をもって配置されている。この状態で駆動力伝達部に負荷が作用し動けない状態にあるとすると、前述駆動力の作用により駆動力伝達部701には駆動力F0とTなる回転モーメントが発生する。この値は下記の式(1)で表わされる。
T=F0×L1・・・(1)
【0030】
上記回転モーメントにより、移動板111には、加圧力Wに抗してV溝部を乗り上げようとする力F1が発生する。力F1は、下記の式(2)で表わされる。
F1=T/L2・・・(2)
また、加圧力Wは、加圧バネ108の作用により各ボールに作用する反力である。この乗り上げようとする力F1と加圧力WとのV溝部でのつり合いバランスが崩れると、駆動力発生部150が動いても駆動力伝達部701は動かないまま、移動板111(振動子支持部材)がボールを乗り越えて回転方向に動く現象が起こる。その結果、第二レンズ保持部材505の送り精度が低下する。F1とWとのつり合い条件は、下記の式(3)で表わされる。
W・cosθ=F1・sinθ (θ:V溝の片側開角)・・・(3)
【0031】
仮に各条件を下記のように設定する。
L1=L2=6mm
W=100g
θ=45°
上記式(1)、(2)、(3)より、F0=100gとなる。
【0032】
すなわち、第二レンズ保持部材505の駆動負荷が100gを超えると、移動板111には加圧力Wに抗してV溝部を乗り上げる力の方が大きくなり、第二レンズ保持部材505の送り精度が低下する。一方、図5に示す本実施形態の振動型アクチュエータによれば、駆動力発生部150と駆動力伝達部120とが、駆動力発生部150を含み駆動移動方向と加圧方向で定義される平面上に設定されているので、正確な送り制御を行うことが可能となる。
【0033】
以上、本発明に関わる超音波モータおよびそれを組み込んだ光学機器の鏡筒に関してその具体例を詳述したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0034】
100 振動子
101 振動板
120 駆動力伝達部
150 駆動力発生部
図1
図2
図3
図4
図5
図6