(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
コンバインの大型化・高出力化に伴って、動力伝達装置にかかる牽引力やトルク等の負荷も増大する。この増大した負荷に耐え得るためには、動力伝達装置と走行装置とを連結する部分や、走行装置の軸受に構造的な強化が必要となる。
しかし、構造的な強化は部品の大型化を招きやすく、上記のような左右分配式の動力伝達機構においては、機体の最低地上高が低くなってしまうという点で改良の余地があった。また、上記のような左右分配式の動力伝達機構においては、旋回時の駆動力の伝達ロスが大きく、滑らかな旋回の点で改良の余地があった。
【0005】
旋回時の滑らかさを確保するために、動力伝達装置を二つ備えて、左右一対の走行装置を独立して駆動させることが考えられる。
しかし、このような左右独立式の動力伝達機構は、二つの動力伝達装置の夫々を構成する二つの無段変速装置の伝達効率の差や、左右一対の走行装置にかかる負荷に起因する作動油の漏れ(オイルリーク)等に起因して左右一対の走行装置の回転数に差が生じてしまうため、直進性を確保することが難しいという点で改良の余地があった。
【0006】
特に、自脱式のコンバインは条刈りをするために直進性が重要であるため、左右独立方式の動力伝達機構の採用が困難であった。
【0007】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであって、機体の最低地上高を高くでき、旋回時の滑らかさを確保しながら、直進性も確保できる収穫機の動力伝達装置及び収穫機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述の目的を達成するための、本発明に係る収穫機の動力伝達装置の特徴は、駆動源の駆動力を左右一対の走行装置へ伝達する収穫機の動力伝達装置であって、前記駆動源の駆動力が入力される第一油圧ポンプと、前記第一油圧ポンプと第一油圧回路で連結され、前記入力された駆動力を前記左右一対の走行装置のうち一方の走行装置へ出力する第一出力軸を有する第一油圧モータとを備えた静油圧式の第一無段変速装置と、前記駆動源の駆動力が入力される第二油圧ポンプと、前記第二油圧ポンプと第二油圧回路で連結され、前記入力された駆動力を前記左右一対の走行装置のうち他方の走行装置へ出力する第二出力軸を有する第二油圧モータとを備えた静油圧式の第二無段変速装置と、
前記第一出力軸からの駆動力が入力され、前記第一出力軸と平行な状態で前記第一出力軸よりも高い位置に設けられた第一入力軸、及び、前記第二出力軸からの駆動力が入力され、前記第二出力軸と平行な状態かつ前記第一入力軸と同一軸芯となる状態で前記第二出力軸よりも高い位置に設けられた第二入力軸を有し、前記第一出力軸の回転と前記第二出力軸の回転とを、一致させる同調駆動状態または一致させない非同調駆動状態に切り替え可能な状態切替機構と、
前記第一出力軸から前記第一入力軸への駆動力の伝達を行う第一連結機構と、前記第二出力軸から前記第二入力軸への駆動力の伝達を行う第二連結機構と、を備え、前記第一連結機構は、前記第一出力軸及び前記第一入力軸に直交する中間伝達軸を備え、前記第二連結機構は、前記第二出力軸及び前記第二入力軸に直交する中間伝達軸を備えている点にある。
【0009】
本発明であれば、第一無段変速装置と第二無段変速装置とが独立しているため、第一無段変速装置と第二無段変速装置を、機体フレームのうち左右一対の走行装置の夫々に近い位置に配置することができる。状態切替機構は、機体フレームにおいて、ある程度自由にレイアウトできるため、第一無段変速装置及び第二無段変速装置が配置されている位置より高い位置に配置すれば、従来のような左右分配式の動力伝達機構に比べて、機体の最低地上高を高くすることができる。
【0010】
状態切替機構により、第一出力軸の回転と第二出力軸の回転とを一致させない非同調駆動状態にすると、左右一対の走行装置の独立駆動が可能となるため、旋回時の滑らかさを確保できる。状態切替機構により、第一出力軸の回転と第二出力軸の回転とを一致させる同調駆動状態にすると、左右一対の走行装置の独立駆動が不可能となるため、直進性を確保できる。
本発明においては、
前記第一連結機構における前記中間伝達軸及び前記第二連結機構における前記中間伝達軸は、軸方向に分割された分割軸体と、前記分割軸体同士を、軸心方向に相対移動可能かつ、周方向に相対回転不能なように連結する第二連結部と、を備えていると好適である。
【0011】
本発明においては、前記状態切替機構は、噛合状態または非噛合状態のいずれか一方から他方に切り替え可能な噛合クラッチを、前記第一出力軸と前記第二出力軸の間に備えていると好適である。
【0012】
同調駆動状態においては、噛合クラッチの噛合により第一出力軸の回転と第二出力軸の回転の確実な一致が可能となる。
【0013】
本発明においては、前記噛合クラッチは、前記非噛合状態から前記噛合状態への切替時及び前記噛合状態の維持時に、弾性体の弾性力を利用し、前記噛合状態から前記非噛合状態への切替時及び前記非噛合状態の維持時に、前記弾性体の弾性力に抗する油圧機構の油圧力を利用すると好適である。
【0014】
一般的な収穫作業に鑑みると、収穫機は圃場を直進しながら数条の稲や麦を刈取り、例えば往復刈りの場合は圃場の端で旋回して未刈り地の反対側へ移動して、次の数条の稲や麦を刈取ること繰り返す。したがって、直進時に比べて旋回時が圧倒的に短い。この短いタイミングにおいてのみ油圧機構を作動させればよいので、常に油圧機構を作動させる必要がない点で省エネを図ることができる。
【0015】
本発明においては、前記状態切替機構は、接続状態または非接続状態のいずれか一方から他方へ連続的に移行可能な多板クラッチを、前記第一出力軸と前記第二出力軸の間に備えていると好適である。
【0016】
多板クラッチのすべりを利用することで、同調駆動状態と非同調駆動状態との移行を徐々に行うことができる。
【0017】
本発明においては、前記多板クラッチは、前記接続状態から前記非接続状態への移行時及び前記非接続状態の維持時に、弾性体の弾性力を利用し、前記非接続状態から前記接続状態への移行時及び前記接続状態の維持時に、前記弾性体の弾性力に抗する油圧機構の油圧力を利用すると好適である。
【0018】
多板クラッチは、同調駆動状態の維持時、すなわち直進時に多板クラッチにすべりが生じないようにするために強い圧接力を必要とする。この強い圧接力を弾性体の弾性力により得る構成とした場合、同調駆動状態から非同調駆動状態への移行時及び非同調駆動状態の維持時、すなわち旋回時に、その弾性体の強い弾性力に打ち勝つように、強い油圧力を発生可能な油圧機構が必要となってしまう。
【0019】
多板クラッチを、同調駆動状態の維持時、すなわち直進時に、油圧機構の油圧力を利用し、同調駆動状態から非同調駆動状態への移行時及び非同調駆動状態の維持時、すなわち旋回時に、弾性体の弾性力を利用する構成としたことにより、弾性体は、油圧力が下がっている状態のときに機能する程度の弱い弾性力のものでよく、そして油圧機構も、その弱い弾性力に打ち勝つ程度の油圧力を発揮できるものでよい。弾性力が強い弾性体や、強い油圧力を発生可能な油圧機構に比べて、弾性力が弱い弾性体や、小さな油圧力を発生可能な油圧機構を用いることができる。
【0020】
本発明において、前記状態切替機構は、噛合状態または非噛合状態のいずれか一方から他方に切り替え可能な噛合クラッチと、接続状態または非接続状態のいずれか一方から他方へ連続的に移行可能な多板クラッチとを、前記第一出力軸と前記第二出力軸の間に直列的にまたは並列的に備えていると好適である。
【0021】
噛合クラッチと多板クラッチとを、前記第一出力軸と前記第二出力軸の間に並列的に備えると、噛合クラッチと多板クラッチの両方の利点を得ることができる。すなわち、同調駆動状態においては、噛合クラッチの噛合により、第一出力軸の回転と第二出力軸の回転の確実な一致が可能となり、多板クラッチのすべりを利用することで、同調駆動状態と非同調駆動状態との移行を徐々に行うことができる。
噛合クラッチと多板クラッチとを、前記第一出力軸と前記第二出力軸の間に直列的に備えると、噛合クラッチによる切り替えか、多板クラッチによる切り替えかを選択することができる。
【0022】
本発明においては、前記噛合クラッチは、前記非噛合状態から前記噛合状態への切替時及び前記噛合状態の維持時に、第一弾性体の弾性力を利用し、前記噛合状態から前記非噛合状態への切替時及び前記非噛合状態の維持時に、前記第一弾性体の弾性力に抗する第一油圧機構の油圧力を利用し、前記多板クラッチは、前記接続状態から前記非接続状態への移行時及び前記非接続状態の維持時に、第二弾性体の弾性力を利用し、前記非接続状態から前記接続状態への移行時及び前記接続状態の維持時に、前記第二弾性体の弾性力に抗する第二油圧機構の油圧力を利用すると好適である。
【0023】
上記のように、収穫機は直進時に比べて旋回時が圧倒的に短い。この短いタイミングにおいてのみ油圧機構を作動させればよいので、常に油圧機構を作動させる必要がない点で省エネを図ることができる。そして、同調駆動状態と非同調駆動状態との切り替え時には、多板クラッチのすべりを利用することで、前記切り替えを徐々に行うことができる。
【0024】
【0025】
【0026】
本発明に係る収穫機の特徴は、上述したいずれかの特徴を備えた収穫機の動力伝達装置を備えた点にある。
【0027】
機体の最低地上高を高くでき、旋回時の滑らかさを確保しながら、直進性も確保できる収穫機を実現することができる。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
本発明の実施形態に係る収穫機の動力伝達装置は、
図1に示すように、収穫機の一例としての、圃場を自走しながら稲や麦の刈取り脱穀をするいわゆる自脱型のコンバイン1に備えられている。以下の説明において、「前」、「後」、「右」、「左」、「上」、「下」等相対的な方向を伴う文言は基本的にコンバイン1の進行方向を基準とする。
【0030】
コンバイン1は、機体フレーム9の前部右領域に運転部3を備え、前部左領域に刈取部4を備え、後部左領域に脱穀装置5を備え、後部右領域に穀粒タンク6を備え、下部に左右一対の走行装置の一例としての無限軌道式の走行装置2を備えている。本実施形態では、刈取部4は六条刈りができるように構成されている。したがって、コンバイン1は、圃場を直進しながら六条の稲や麦を刈取り、例えば往復刈りの場合は圃場の端で旋回して未刈り地の反対側へ移動して、次の六条の稲や麦を刈取ること繰り返す。
【0031】
図2に示すように、コンバイン1の動力源であるエンジン7は、機体フレーム9のうち、運転部3(図示せず)の運転席の支持フレームの下方にあるエンジン支持フレーム9aに支持されている。つまり、エンジン7は、機体フレーム9のうち、左右一対の走行装置2の車軸より高い位置に配置されている。
【0032】
エンジン7の出力軸7aの駆動力は、作業伝動手段が備える伝動ベルト等の伝動手段を介して、刈取部4や脱穀装置5等に伝動される。さらに、エンジン7の出力軸7aの駆動力は、出力軸7aに直結された動力伝達装置10にも伝達される。
【0033】
動力伝達装置10は、エンジン7の駆動力を変速する主変速装置を構成し、ここで変速された駆動力が副変速装置8a,8bに出力され、副変速装置8a,8bから左右一対の走行装置2の起動輪2a,2bに伝達される。
【0034】
図2に示すように、動力伝達装置10は、左右一対の静油圧式の第一無段変速装置20と第二無段変速装置30を備えている。
【0035】
第一無段変速装置20は、第一油圧ポンプ21、第一油圧モータ22、及び第一油圧ポンプ21と第一油圧モータ22を接続する油圧ホース23,24を有する第一油圧回路を備えている。
【0036】
第一油圧ポンプ21は、エンジン7の駆動力により駆動する可変容量型のポンプで構成され、運転部3における操作に基づいて、斜板の角度を中立停止位置、前進側及び後進側に無段階に変更することにより容量(吐出量)が変更される。第一油圧ポンプ21は、斜板の角度が大きくなるほど、作動油の吐出量が多くなり、斜板の角度が小さくなるほど、作動油の吐出量が少なくなる。
【0037】
第一油圧モータ22は、斜板が固定された定容量型のモータで構成され、第一油圧ポンプ21から吐出された作動油の吐出量に応じた回転数で第一出力軸25が回転し、走行装置2の起動輪2aを駆動する。すなわち、第一無段変速装置20は、エンジン7から入力された駆動力を、第一油圧ポンプ21により無段階に変更し、第一油圧モータ22の第一出力軸25から出力する。
【0038】
第二無段変速装置30は、第二油圧ポンプ31、第二油圧モータ32、及び第二油圧ポンプ31と第二油圧モータ32を接続する油圧ホース33,34を有する第二油圧回路を備えている。
【0039】
第二油圧ポンプ31は、エンジン7の駆動力により駆動する可変容量型のポンプで構成され、運転部3における操作に基づいて、斜板の角度を中立停止位置、前進側及び後進側に無段階に変更することにより容量(吐出量)が変更される。第二油圧ポンプ31は、斜板の角度が大きくなるほど、作動油の吐出量が多くなり、斜板の角度が小さくなるほど、作動油の吐出量が少なくなる。
【0040】
第二油圧モータ32は、斜板が固定された定容量型のモータで構成され、第二油圧ポンプ31から吐出された作動油の吐出量に応じた回転数で第二出力軸35が回転し、走行装置2の起動輪2bを駆動する。すなわち、第二無段変速装置30は、エンジン7から入力された駆動力を、第二油圧ポンプ31により無段階に変更し、第二油圧モータ32の第二出力軸35から出力する。
【0041】
図2に示すように、第一油圧モータ22と第二油圧モータ32は、機体フレーム9のうち走行装置2に近い位置に夫々独立して支持されている。
これに対して、第一油圧ポンプ21と第二油圧ポンプ31は、機体フレーム9のうちエンジン7に近い位置に夫々独立して支持されている。
【0042】
第一無段変速装置20を構成する第一油圧回路を油圧ホース23,24で構成することで、第一油圧ポンプ21を機体フレーム9のうちエンジン7に近い位置に配置し、第一油圧モータ22を機体フレーム9のうち走行装置2に近い位置に配置することができる。
第二無段変速装置30を構成する第二油圧回路を油圧ホース33,34で構成することで、第二油圧ポンプ31を機体フレーム9のうちエンジン7に近い位置に配置し、第二油圧モータ32を機体フレーム9のうち走行装置2に近い位置に配置することができる。
動力伝達装置10を構成する各要素を、機体フレーム9を構成する各フレームに分散して配置する構成であるため、各フレームは独立した強度を有していればよい。
【0043】
第一油圧モータ22と第二油圧モータ32の間には、第一出力軸25の回転と第二出力軸35の回転とを、一致させる同調駆動状態または一致させない非同調駆動状態に切り替え可能な状態切替機構50が備えられている。
つまり、状態切替機構50は、第一油圧モータ22と第二油圧モータ32が支持されている位置よりも高い位置において機体フレーム9に支持されている。したがって、従来のような左右分配式の動力伝達機構に比べて、機体の最低地上高を高くすることができる。
なお、機体フレーム9のうち状態切替機構50が支持されている箇所と、機体フレーム9のうち第一油圧モータ22と第二油圧モータ32が支持されている箇所は、剛連結されていない。
【0044】
状態切替機構50は、第一出力軸25から出力された駆動力が入力される第一入力軸51と、第二出力軸35から出力された駆動力が入力される第二入力軸52とを備えている。
第一出力軸25から第一入力軸51へは第一連結機構40を介して駆動力が伝達され、第二出力軸35から第二入力軸52へは第二連結機構41を介して駆動力が伝達される。
【0045】
図3に示すように、第一連結機構40は、第一出力軸25と第一伝達軸43aとを、軸心方向に相対移動可能かつ、周方向に相対回転不可なように連結する第一連結部42と、第一伝達軸43aに備えられ、第一伝達軸43aとともに回転する第一傘歯車43bと、第一傘歯車43bと噛み合って、第二伝達軸44aに駆動力を伝達する第二傘歯車44bと、第二伝達軸44aと第三伝達軸46aとを、軸心方向に相対移動可能かつ、周方向に相対回転不可なように連結する第二連結部45と、第三伝達軸46aに備えられ、第三伝達軸46aとともに回転する第三傘歯車46bと、第三傘歯車46bと噛み合って、第四伝達軸47aに駆動力を伝達する第四傘歯車47bと、第四伝達軸47aと第一入力軸51とを、軸心方向に相対移動可能かつ、周方向に相対回転不可なように連結する第三連結部48とを備えている。
第二伝達軸44aと第二連結部45と第三伝達軸46aにより、第一出力軸25及び第一入力軸51に直交する中間伝達軸、及び、第二出力軸35及び第二入力軸52に直交する中間伝達軸を構成している。第二伝達軸44aと第三伝達軸46aとは、中間伝達軸において分割された分割軸体である。
【0046】
第一連結機構40が備える第一連結部42、第二連結部45、及び第三連結部48により、第一油圧モータ22と状態切替機構50との相対的な移動が許容される。
なお、第二連結機構41も第一連結機構40と同様に構成され、第二油圧モータ32と状態切替機構50との相対的な移動が許容される。なお、第二連結機構41を構成する各部について、第一連結機構40と対応する構成に同じ符号を付して説明を省略する。
【0047】
状態切替機構50は、第一出力軸25の回転と第二出力軸35の回転とを同調させるために設けられており、本実施形態では、
図3に示すような噛合クラッチで構成されている。
【0048】
噛合クラッチは、ケーシングの内部に、第一入力軸51の端部に、軸心方向に相対移動可能かつ、周方向に相対回転不可なように備えられた第一噛合部53と、第二入力軸52の端部に備えられるとともに、第一噛合部53と噛み合い可能な第二噛合部55と、第一噛合部53と第二噛合部55とが噛み合うように、第一噛合部53を第二噛合部55の方向へ付勢するような弾性力を発生する弾性体としての圧縮コイルばね54と、第一噛合部53と第二噛合部55とが噛み合わないように、第一噛合部53を第二噛合部55から離間する方向へ移動させるための操作ロッド57とを備えている。操作ロッド57は、図示しない油圧機構の油圧力により操作される。なお、特に図示はしないが、油圧機構は、エンジン7の駆動力により駆動する油圧ポンプ等で構成されている。
【0049】
状態切替機構50は、エンジン7から走行装置2に至る駆動力の伝達系の中で、比較的に高回転低トルクである第一出力軸25の回転と第二出力軸35の回転とを、第一噛合部53と第二噛合部55との噛み合いにより、同調させる構成である。したがって、エンジン7から走行装置2に至る駆動力の伝達系の中で、低回転高トルクの状態となっている場所において、第一出力軸25の回転と第二出力軸35の回転とを同調する場合に比べて、第一噛合部53と第二噛合部55を安価な材料で作成することができる。
【0050】
ところで、状態切替機構50により一致させるべき第一出力軸25の回転数と第二出力軸35の回転数の差は、第一無段変速装置20と第二無段変速装置30の伝達効率の差や、左右の走行装置2にかかる負荷に応じた作動油の漏れ(オイルリーク)等に起因する。第一無段変速装置20と第二無段変速装置30や、左右の走行装置2を同一の構成とすることで、状態切替機構50により一致させるべき第一出力軸25の回転数と第二出力軸35の回転数の差を小さくすることができる。
【0051】
運転部3には、コンバイン1の進行方向を決める操向操作具(レバーやハンドル)や、コンバイン1の走行方向及び速度を無段階に決める変速操作具(レバー)等が備えられている。操向操作具や変速操作具は第一油圧ポンプ21と第二油圧ポンプ31の斜板の角度を独立に変更操作する操向装置に連携されてあり、操向操作具や変速操作具が操作されることでコンバイン1は、直進、後進、右旋回、左旋回、停止等自在に構成されている。
【0052】
操向操作具が直進操作されると、操向装置は、第一油圧ポンプ21と第二油圧ポンプ31の斜板を同じ角度に操作して、同じ吐出量の作動油が第一油圧モータ22と第二油圧モータ32に供給され、第一出力軸25と第二出力軸35から出力される駆動力により、副変速装置8a,8bを介して起動輪2a,2b、すなわち左右一対の走行装置2が同じ速度で駆動されて、コンバイン1は直進する。
【0053】
この状態において変速操作具が前進側または後進側に操作されると、第一油圧ポンプ21と第二油圧ポンプ31は、それぞれ斜板を同じ角度に保ったまま、前進側または後進側に操作され、コンバイン1の走行速度の変速や、前後進の切換、または停止を行うことができる。
【0054】
操向操作具が直進操作されると、第一無段変速装置20及び第二無段変速装置30は、同じエンジン7から入力される同じ大きさの駆動力を、同じように変速したあとに、同じ大きさで左右一対の走行装置2に出力するように構成されているはずであるが、第一無段変速装置20と第二無段変速装置30の伝達効率の差や、二つの走行装置にかかる負荷に応じた作動油の漏れ(オイルリーク)等により、出力される回転数に差が発生すると、すなわち左右一対の走行装置2に出力される駆動力に差が発生すると、コンバイン1は直進走行せずに、出力される駆動力が小さい方に旋回してしまう。
【0055】
このような意図しない旋回を回避するため、操向操作具が直進操作されたときに、状態切替機構50である噛合クラッチは、第一噛合部53と第二噛合部55とが噛み合うことで第一入力軸51の回転と第二入力軸52の回転、すなわち第一出力軸25の回転と第二出力軸35の回転とを一致させる同調駆動状態となる。
【0056】
したがって、第一無段変速装置20と第二無段変速装置30とに伝達効率の差や、二つの走行装置にかかる負荷に応じた作動油の漏れ(オイルリーク)等があったとしても、左右一対の走行装置2に出力される駆動力は一致するため直進性が確保できる。
【0057】
コンバイン1が直進走行しているときに、操向操作具が右側に旋回操作されると、操向装置により第一油圧ポンプ21の斜板が現在の角度が変速操作具の操作位置により決まる角度に保持された状態で、第二油圧ポンプ31の斜板の角度が吐出量が低くなる側に操作される。
【0058】
これにより、第二油圧ポンプ31から吐出された作動油で駆動する第二油圧モータ32の第二出力軸35の回転数は、第一油圧ポンプ21から吐出された作動油で駆動する第一油圧モータ22の第一出力軸25の回転数より少なくなり、コンバイン1は右に旋回する。操向操作具が右旋回側に大きく操作されるほど、第二油圧ポンプ31の斜板の角度が吐出量が低くなる側に操作されて、コンバイン1はより小さな旋回半径で右に旋回する。第二油圧ポンプ31の斜板の角度が吐出量が零になるように操向操作具が操作されると、コンバイン1は停止している走行装置2を中心に右側に信地旋回する。
【0059】
コンバイン1が直進走行しているときに、操向操作具が左側に旋回操作されると、操向装置により第二油圧ポンプ31の斜板が現在の角度が変速操作具の操作位置により決まる角度に保持された状態で、第一油圧ポンプ21の斜板の角度が吐出量が低くなる側に操作される。
【0060】
これにより、第一油圧ポンプ21から吐出された作動油で駆動する第一油圧モータ22の第一出力軸25の回転数は、第二油圧ポンプ31から吐出された作動油で駆動する第二油圧モータ32の第二出力軸35の回転数より少なくなり、コンバイン1は左に旋回する。操向操作具が左旋回側に大きく操作されるほど、第一油圧ポンプ21の斜板の角度が吐出量が低くなる側に操作されて、コンバイン1はより小さな旋回半径で左に旋回する。第一油圧ポンプ21の斜板の角度が吐出量が零になるように操向操作具が操作されると、コンバイン1は停止している走行装置2を中心に左側に信地旋回する。
【0061】
また、第一出力軸25と第二出力軸35とを逆方向に回転させた場合は、第一油圧モータ22から出力される駆動力により駆動される一方の走行装置2の回転方向と、第二油圧モータ32から出力される駆動力により駆動される他方の走行装置2の回転方向が逆となるため、コンバイン1はその場で超信地旋回する。
【0062】
このように、操向操作具が旋回操作されたときに、状態切替機構50である噛合クラッチは、第一噛合部53と第二噛合部55とが噛み合わないようにすることで第一入力軸51の回転と第二入力軸52の回転、すなわち第一出力軸25の回転と第二出力軸35の回転とを一致させない非同調駆動状態となるので、コンバイン1は滑らかに旋回することができる。
【0063】
〔別実施形態〕
(1)上述した実施形態は、何れも本発明の一例であり、上記の記載により本発明が限定されるものではなく、各部の具体的構成は本発明の作用効果が奏される範囲で適宜変更設計可能である。
【0064】
(2)状態切替機構50は、
図4に示すような多板クラッチで構成してもよい。
多板クラッチは、ケーシングの内部に、第一入力軸51の端部に、軸心方向に相対移動可能かつ、周方向に相対回転不可なように備えられた円筒部の内周に、軸心方向に摺動可能に配設された摩擦プレート58と、第二入力軸52の周囲に軸心方向に摺動可能に配設された摩擦プレート59とが備えられるとともに、摩擦プレート58と摩擦プレート59とを圧接する方向に油圧力を発生する油圧シリンダ60と、油圧シリンダ60による圧接を解除する方向へ弾性力を発生する弾性体としての圧縮コイルばね56とを備えている。油圧シリンダ60は、図示しない油圧機構の油圧力により操作される。なお、特に図示はしないが、油圧機構は、エンジン7の駆動力により駆動する油圧ポンプ等で構成されている。
【0065】
摩擦プレート58と摩擦プレート59の接続状態と非接続状態は、油圧シリンダ60が発生する油圧力の大きさと、圧縮コイルばね56の弾性力の大きさとの関係により決定される。油圧力を、弾性力より大きくすれば、摩擦プレート58と摩擦プレート59とは圧接される。油圧シリンダ60の押圧力を徐々に弱めることで摩擦プレート58と摩擦プレート59とに徐々にすべり始め、やがてすべりが大きくなり、最終的に摩擦プレート58と摩擦プレート59は接続状態から非接続状態へと移行する。
非接続状態であるときに、油圧シリンダ60の押圧力を徐々に強めると、摩擦プレート58と摩擦プレート59は非接続状態から接続状態へと移行し、徐々にすべりが小さくなり、最終的に摩擦プレート58と摩擦プレート59はすべらないように圧接される。
このように、摩擦プレート58と摩擦プレート59のすべりを利用することで、同調駆動状態と非同調駆動状態との移行を徐々に行うことができる。
【0066】
多板クラッチは、同調駆動状態の維持時、すなわち直進時に摩擦プレート58と摩擦プレート59にすべりが生じないようにするために強い圧接力を必要とする。この強い圧接力を圧縮コイルばねの弾性力により得る構成とした場合、同調駆動状態から非同調駆動状態への移行時及び非同調駆動状態の維持時、すなわち旋回時に、その圧縮コイルばねの強い弾性力に打ち勝つように、強い油圧力を発生可能な油圧機構が必要となってしまう。
【0067】
多板クラッチを、同調駆動状態の維持時、すなわち直進時に、油圧シリンダ60の油圧力を利用し、同調駆動状態から非同調駆動状態への移行時及び非同調駆動状態の維持時、すなわち旋回時に、圧縮コイルばね56の弾性力を利用する構成としたことにより、圧縮コイルばね56は、油圧力が下がっている状態のときに機能する程度の弱い弾性力のものでよく、そして、油圧シリンダ60もその弱い弾性力に打ち勝つ程度の油圧力を発揮できるものでよい。
【0068】
(3)状態切替機構50は、
図5に示すように、噛合クラッチと多板クラッチを第一出力軸25と第二出力軸35の間に並列的に備えた構成であってもよい。
【0069】
噛合クラッチは、基本的には
図3に示した噛合クラッチと同様の構成であり、多板クラッチは、基本的には
図4に示した多板クラッチと同様に構成であるが、本実施形態では、噛合クラッチの第一噛合部53と、多板クラッチの摩擦プレート58とが一体的に回転するように接続され、噛合クラッチの第二噛合部55と、多板クラッチの第二入力軸52とが一体的に回転するように接続されている。
【0070】
このような構成によると、噛合クラッチにより、第一出力軸25の回転と第二出力軸35の回転の確実な一致が実現でき、多板クラッチにより、摩擦プレート58と摩擦プレート59のすべりを利用することで、同調駆動状態と非同調駆動状態との移行を徐々に行うことができる。
【0071】
(4)状態切替機構50は、
図3に示すような噛合クラッチと、
図4に示す多板クラッチを第一出力軸25と第二出力軸35の間に直列的に備えた構成であってもよい。これにより、噛合クラッチによる切り替えか、多板クラッチによる切り替えかを選択することができる。
【0072】
(5)状態切替機構50は、または流体クラッチ、遠心クラッチ、電磁クラッチ等の公知のクラッチや、自動車等に用いられる差動装置を応用してもよい。
【0073】
(6)第一連結機構40による、第一出力軸25から第一入力軸51への駆動力の伝達は、第一傘歯車43b等の歯車の噛み合いによる構成に限らず、例えば、第一伝達軸43aに設けたスプロケットと第四伝達軸47aに設けたスプロケットとに配設した動力伝達ベルトや動力伝達チェーンによって、第一出力軸25から第一入力軸51へ駆動力を伝達するように構成してもよい。第二連結機構41も同様である。
【0074】
(7) 第一無段変速装置20は、第一油圧ポンプ21と第一油圧モータ22とが同一のケーシング内に一体的に備えられ、第一油圧回路として同ケーシングに配設された油路によって第一油圧ポンプ21と第一油圧モータ22が接続される構成であってもよい。第二無段変速装置30も同様である。