特許第6429688号(P6429688)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6429688トンネル電界効果トランジスタ及びその使用方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6429688
(24)【登録日】2018年11月9日
(45)【発行日】2018年11月28日
(54)【発明の名称】トンネル電界効果トランジスタ及びその使用方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/336 20060101AFI20181119BHJP
   H01L 29/78 20060101ALI20181119BHJP
   H01L 29/66 20060101ALI20181119BHJP
【FI】
   H01L29/78 301J
   H01L29/78 301H
   H01L29/66 T
【請求項の数】4
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2015-50089(P2015-50089)
(22)【出願日】2015年3月12日
(65)【公開番号】特開2016-171216(P2016-171216A)
(43)【公開日】2016年9月23日
【審査請求日】2018年1月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(72)【発明者】
【氏名】屋山 巴
(72)【発明者】
【氏名】知京 豊裕
【審査官】 棚田 一也
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2011/0042757(US,A1)
【文献】 特開2014−041974(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/033706(WO,A1)
【文献】 特開2006−147805(JP,A)
【文献】 特開2010−153501(JP,A)
【文献】 特表2014−502429(JP,A)
【文献】 特表2012−514345(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2012/0043607(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/336
H01L 29/66
H01L 29/78
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高濃度p型領域であるソース領域と、 前記ソース領域に接合する低濃度p型領域である第1チャネル領域と、
前記ソース領域との接合面とは別の面で接合する低濃度n型領域である第2チャネル領域と、
前記第2チャネル領域の前記第1チャネル領域との接合面とは別の面で接合する高濃度n型領域であるドレイン領域と、
前記ソース領域、前記第1チャネル領域、前記第2チャネル領域及び前記ドレイン領域で構成される通電領域と絶縁膜を介して接するゲート電極と
を備え、
前記第1チャネル領域には、シリコン(Si)単結晶にインジウム(In)と窒素(N)が添加物として加わっていることを特徴とするトンネル電界効果トランジスタ。
【請求項2】
前記第2チャネル領域がn型シリコン(Si)単結晶であることを特徴とする請求項1に記載のトンネル電界効果トランジスタ。
【請求項3】
インジウム(In)の代わりにガリウム(Ga)が添加されていることを特徴とする請求項1又は2に記載のトンネル電界効果トランジスタ。
【請求項4】
前記ソース領域と前記第1チャネル領域の接合領域において、前記ソース領域の価電子帯と前記第1チャネル領域の伝導帯との間でバンド間トンネル現象を生じさせることによってソース領域からドレイン領域に電子流を流すことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のトンネル電界効果トランジスタを使用する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トンネル電界効果トランジスタに関する。
【背景技術】
【0002】
トランジスタは世の中に必要不可決なものとなっており、その低消費電力化が重要な課題となっている。消費電力の少ないトランジスタ構造はこれまで様々なものが提案・開発されてきたが、トンネル電界効果トランジスタは消費電力を極めて低くできるトランジスタとして注目されている。
トンネル電界効果トランジスタは、非特許文献1に記載されているように、半導体中のエネルギー障壁を超えてトンネリングする電流を別の電極の電圧によって制御することで電流のスイッチング動作を行うデバイスである。
トンネル電界効果トランジスタは、世界各地で開発されており、特許文献1には、細長い単結晶ナノ構造のシリコンとゲルマニウムのヘテロ接合を持つことを特徴としたトンネル電界効果トランジスタが記載されており、特許文献2には、ソース層形成領域を一度アモルファス化した後にドーパントを導入することを特徴としたトンネル電界効果トランジスタの技術が記載されている。特許文献3には、ソース領域と接合するエピタキシャル成長層を備えることを特徴としたトンネル電界効果トランジスタが記載されている。
非特許文献2には、別の構造のトンネル電界効果トランジスタが記載されている。非特許文献2のトンネル電界効果トランジスタは、トンネル電界効果トランジスタのトンネル接合領域にアルミニウム(Al)と窒素(N)をともに添加することにより、オン電流を従来の約10倍に増大させるという提案である。非特許文献2のトンネル電界効果トランジスタは他のトンネル電界効果トランジスタと比べて、通常のCMOSトランジスタプロセスに近いプロセスで形成できるので、CMOSトランジスタ回路とトンネル電界効果トランジスタの回路を組み合わせた回路を構成できるなど実用性の高いトランジスタ技術である。非特許文献2で提案されているトランジスタに関して、屋山らは、非特許文献3において、AlとNを添加したSiの構造の安定性と電子状態について検討した。その結果、Si単結晶内に分布するAl原子とN原子が第一近接の配置の場合が他の配置に比べて1eV以上エネルギーが低く安定な配置であることを報告している。この報告の中で、Al原子とN原子といった不純物原子が離れた位置にある場合にはSiは共有結合を保っているが不純物原子近傍では電気陰性度の大きいN原子に電子が引きつけられていることでNが局在準位を形成することも報告している。この報告では、Siは間接エネルギーギャップを有しているが、Nが形成する局在準位によって、運動量保存の条件が緩和されて電子―フォノン結合なしに電子遷移を生じる確率が高められることでトンネル電界効果トランジスタのオン電流が増大したのだろうということも述べている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2015−19072号公報
【特許文献2】特開2013−69977号公報
【特許文献3】特開2013−187291号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】International Electron Devices Meeting(IEDM)2013予稿集“High Ion/Ioff and low subthreshold slope planar-type InGaAs Tunnel FETs with Zn-diffused source junctions”
【非特許文献2】T.Mori et al., 2014 Symposium on VLSI Technology Digest of Technical Papers, “Band-to-Band Tunneling Current Enhancement Utilizing Isoelectronic Trap and its Application to TFETs”
【非特許文献3】屋山、他 第62回応用物理学会春季学術講演会講演予稿集12−366(2015年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
非特許文献2で提案されている、Si中にAlとNを添加することを特徴としたトンネル電界効果トランジスタについて、なぜこの特徴を有することでオン電流が向上するのか理由が不明瞭であり、さらなる特性向上ができないという課題を抱えていた。
非特許文献3では、この課題を解決すべくオン電流向上の原因検討を行い、Alと第一近接の配置にあるN原子が形成する局在準位によって、運動量保存の条件が緩和されて電子―フォノン結合なしに電子遷移を生じる確率が高められることでトンネル電界効果トランジスタのオン電流が増大したのだろうということまで考察するに至った。
しかしながら、まだ解明したというレベルには至っておらず、依然、この構造でのオン電流の更なる向上が進まないという課題が残っている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本願発明は、具体的には以下の構成を有する。
(1)本願発明の一側面によれば、高濃度p型領域であるソース領域と、前記ソース領域に接合する低濃度p型領域である第1チャネル領域と、前記ソース領域との接合面とは別の面で接合する低濃度n型領域である第2チャネル領域と、前記第2チャネル領域の前記第1チャネル領域との接合面とは別の面で接合する高濃度n型領域であるドレイン領域と、前記ソース領域、前記第1チャネル領域、前記第2チャネル領域及び前記ドレイン領域で構成される通電領域と絶縁膜を介して接するゲート電極とを備え、前記第1チャネル領域には、シリコン(Si)単結晶にインジウム(In)と窒素(N)が添加物として加わっていることを特徴とするトンネル電界効果トランジスタが与えられる。
(2)ここで、前記第2チャネル領域がn型シリコン(Si)単結晶であってもよい。
(3)インジウム(In)の代わりにガリウム(Ga)が添加されていてもよい。
(4)本願発明の他の側面によれば、前記ソース領域と前記第1チャネル領域の接合領域において、前記ソース領域の価電子帯と前記第1チャネル領域の伝導帯との間でバンド間トンネル現象を生じさせることによってソース領域からドレイン領域に電子流を流すことを特徴とするトンネル電界効果トランジスタを使用する方法が与えられる。
【発明の効果】
【0007】
本発明の技術を用いることで、トンネル電界効果トランジスタのオン電流量を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の実施形態によるトンネル電界効果トランジスタの断面図である。
図2】シリコン中のアルミニウム原子と窒素原子の位置関係を示す斜視図である。
図3】シリコン中のアルミニウム原子と窒素原子に関するエネルギーの計算結果を示すグラフである。
図4】バンド間トンネル電流の計算モデルと計算結果を説明するための概念図である。
図5】III−N族元素添加による遷移確率の計算結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を詳細に説明する。
図1は、本発明の実施形態によるトンネル電界効果トランジスタの断面図である。
シリコン単結晶基板100の表面領域に高濃度p型領域であるソース領域1が形成されている。ソース領域1は高濃度のp型半導体の状態にしてある。ソース領域1の左側には低濃度p型領域である第1チャネル領域2が形成されている。第1チャネル領域2は図1に示す通り表面近傍だけに形成されている。この理由は、ソース領域1と第1チャネル領域2との接合部分でバンド間トンネル電流が流れればよく、後述するように外部からの制御電圧が最も効果的に印加される表面領域だけに第1チャネル領域2ができればよいからである。
第1チャネル領域2には、インジウム(In)と窒素(N)が添加されている。添加方法としては、イオン注入法でインジウムと窒素を同量注入し、注入によるシリコン結晶のダメージを熱処理で回復させることで得るなど、様々な方法が用いられる。
添加物については、インジウム(In)と窒素(N)の代わりに、ガリウム(Ga)と窒素(N)を同量添加する場合もある。第1チャネル領域2の右側には第2チャネル領域3が接合する形で形成されている。
1つの実施の形態として、第1チャネル領域2が、インジウム(In)と窒素(N)又はガリウム(Ga)と窒素(N)で、第2チャネル領域3が五属元素と窒素(N)の両方を添加する場合がある。
別の実施の形態として、第1チャネル領域2が、インジウム(In)と窒素(N)又はガリウム(Ga)と窒素(N)で、第2チャネル領域3が五属元素のみを添加する場合がある。第2チャネル領域3にはn型となる添加物量を添加する。第2チャネル領域3の右側には、高濃度のn型領域であるドレイン領域4が形成される。第1チャネル領域2に対して第2チャネル領域3が高めの電圧(ポテンシャルとしては深めのポテンシャル)になるようにソース領域1とドレイン領域4に電圧を印加することで第1チャネル領域2から第2チャネル領域3への電子流を円滑に流すことができる。電子流が流れるソース領域1、第1チャネル領域2、第2チャネル領域3、ドレイン領域4で構成される通電領域5と絶縁膜6を介して接するゲート電極7でトンネル電界効果トランジスタが形成される。このゲート電極7に印加する電圧によって通電領域に流れる電子流を遮断(off)したり通電(on)したりできる。添加物がアルミニウム(Al)の場合に比べて、ガリウム(Ga)やインジウム(In)の場合はオン電流が多く確保できる。これは、ソース領域と第1チャネル領域との境界領域に発生する窒素(N)の局在準位が、アルミニウム(Al)の場合に比べて、ガリウム(Ga)やインジウム(In)のほうはより低いことで、バンド間トンネル電流が、より流れやすくなることに起因している。
【実施例】
【0010】
以下、実施例 によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例により何ら限定されるものではない。
【0011】
図2は、シリコン中のアルミニウム原子と窒素原子の位置関係を示す斜視図である。左下の角にAlとして示したところにアルミニウム(Al)を置いて、その近傍に窒素(N)原子を様々な位置において、その場合の全体のエネルギー状態を計算して比較した。
図3は、シリコン中のアルミニウム原子と窒素原子に関するエネルギーの計算結果を示すグラフである。図3から明らかなように、窒素(N)がアルミニウム(Al)に最も近い第一近接位置にある場合、それよりも遠い位置にある場合よりもこの計算系のエネルギーが1eV程度低い。つまり、より安定であると言える。この結果から、添加したアルミニウム(Al)と窒素(N)も大半は、互いに最も近い位置である第一近接の配置で存在することが予測される。この傾向はインジウム(In)と窒素(N)の組合せでも、ガリウム(Ga)と窒素(N)の組合せでも同様である。
【0012】
図4にバンド間トンネル電流の計算モデルと計算結果を説明するための概念図である。アルミニウム(Al)と窒素(N)の組合せ、インジウム(In)と窒素(N)の組合せ、ガリウム(Ga)と窒素(N)の組合せのそれぞれの場合に、高濃度p型シリコン領域とこれらの組合せを添加した領域の界面領域に発生する準位レベルを算出したところ、図4に示すようにインジウム(In)が最も浅く、ガリウム(Ga)が次に浅く、アルミニウム(Al)が最も深いことがわかった。この中間準位が浅いほど、バンド間トンネリングが効率的に起きる。
その結果、図5に示すIII−N族元素添加による遷移確率の計算結果のグラフが得られた。三属元素と窒素を合わせて添加したものは、シリコン単結晶よりもバンド間トンネリングが4ケタ程度向上することが計算で得られており、その中でもアルミニウム(Al)よりもインジウム(In)やガリウム(Ga)がより遷移確率が高い。
【産業上の利用可能性】
【0013】
トンネル電界効果トランジスタは低消費電力であるので電力の消耗が気になるモバイル機器への応用な電力供給が難しいセンサーネットワークの超低消費電力回路をはじめ非常に多くの応用が期待される。
【符号の説明】
【0014】
1・・・ソース領域、2・・・第1チャネル領域、3・・・第2チャネル領域、4・・・ドレイン領域、5・・・通電領域、6・・・絶縁膜、7・・・ゲート電極、100・・・シリコン単結晶基板
図1
図2
図3
図4
図5