特許第6429778号(P6429778)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6429778吸着剤組成物、吸着剤含有フィルム及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6429778
(24)【登録日】2018年11月9日
(45)【発行日】2018年11月28日
(54)【発明の名称】吸着剤組成物、吸着剤含有フィルム及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 20/18 20060101AFI20181119BHJP
   B01J 20/30 20060101ALI20181119BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20181119BHJP
   C08K 3/34 20060101ALI20181119BHJP
   C08K 5/098 20060101ALI20181119BHJP
   C08L 23/04 20060101ALI20181119BHJP
   C08L 23/10 20060101ALI20181119BHJP
   B29C 55/28 20060101ALI20181119BHJP
   B29K 23/00 20060101ALN20181119BHJP
   B29L 7/00 20060101ALN20181119BHJP
【FI】
   B01J20/18 A
   B01J20/30
   C08L101/00
   C08K3/34
   C08K5/098
   C08L23/04
   C08L23/10
   B29C55/28
   B29K23:00
   B29L7:00
【請求項の数】12
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-531787(P2015-531787)
(86)(22)【出願日】2014年8月6日
(86)【国際出願番号】JP2014070754
(87)【国際公開番号】WO2015022896
(87)【国際公開日】20150219
【審査請求日】2017年6月2日
(31)【優先権主張番号】特願2013-167710(P2013-167710)
(32)【優先日】2013年8月12日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000162113
【氏名又は名称】共同印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100077517
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 敬
(74)【代理人】
【識別番号】100087413
【弁理士】
【氏名又は名称】古賀 哲次
(74)【代理人】
【識別番号】100128495
【弁理士】
【氏名又は名称】出野 知
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100170874
【弁理士】
【氏名又は名称】塩川 和哉
(72)【発明者】
【氏名】小泉 真一
(72)【発明者】
【氏名】加藤 みどり
(72)【発明者】
【氏名】寺田 暁
(72)【発明者】
【氏名】中里 祥之
【審査官】 池田 周士郎
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2011/052433(WO,A1)
【文献】 特開昭59−133243(JP,A)
【文献】 特開昭61−051043(JP,A)
【文献】 特開平09−125058(JP,A)
【文献】 特開2000−221640(JP,A)
【文献】 特開昭56−004642(JP,A)
【文献】 特開2008−069223(JP,A)
【文献】 特開2009−270017(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 20/00− 20/34
B29C 47/00− 47/96
B29C 55/00− 55/30
C08K 3/00− 13/08
C08L 1/00−101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂、ゼオライト、及び金属石鹸を含む樹脂組成物であって、前記金属石鹸は、炭素数5〜30の長鎖脂肪酸とカルシウムとの二価塩である長鎖脂肪酸カルシウム、及び炭素数5〜30の長鎖脂肪酸と亜鉛との二価塩である長鎖脂肪酸亜鉛を含み、
前記長鎖脂肪酸カルシウムの前記長鎖脂肪酸亜鉛に対するモル比が、1.2以上3.5以下であり、かつ
前記金属石鹸が、前記樹脂に対して、1.0重量%以上3.8重量%以下で含まれる、
吸着剤組成物。
【請求項2】
前記長鎖脂肪酸カルシウムの前記長鎖脂肪酸亜鉛に対するモル比が、1.4以上2.8以下である、請求項1に記載の吸着剤組成物。
【請求項3】
前記金属石鹸が、前記樹脂に対して、1.4重量%以上3.4重量%以下で含まれる、請求項1又は2に記載の吸着剤組成物。
【請求項4】
ゼオライトが、組成物全体に対して30重量%以上含まれる、請求項1〜3のいずれか一項に記載の吸着剤組成物。
【請求項5】
前記長鎖脂肪酸カルシウム及び長鎖脂肪酸亜鉛が、それぞれステアリン酸カルシウム及びステアリン酸亜鉛である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の吸着剤組成物。
【請求項6】
前記樹脂のメルトフローレートが、温度190℃かつ荷重21.18Nの条件の下で、JIS K7210に準拠して測定した場合に、10g/10分以上である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の吸着剤組成物。
【請求項7】
前記樹脂が、ポリエチレン系樹脂及び/又はポリプロピレン系樹脂である、請求項1〜6のいずれか一項に記載の吸着剤組成物。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか一項に記載の吸着剤組成物を成形してなる、吸着剤含有フィルム。
【請求項9】
インフレーションフィルムである、請求項8に記載の吸着剤含有フィルム。
【請求項10】
請求項9に記載の吸着剤含有フィルムとバリアフィルムとを少なくとも含む包装材料用積層体。
【請求項11】
請求項10に記載の包装材料用積層体同士、又は請求項10に記載の包装材料用積層体とヒートシール性を有する積層体と、が接着されている包装体。
【請求項12】
30重量%以上のゼオライト、ポリエチレン系樹脂、及び金属石鹸を混合して、吸着剤組成物を得る工程であって、
前記ポリエチレン系樹脂は、温度190℃かつ荷重21.18Nの条件の下で、JIS K7210に準拠して測定した場合のメルトフローレートが、10g/10分以上であり、
前記金属石鹸は、ステアリン酸カルシウム及びステアリン酸亜鉛を含み、前記ステアリン酸カルシウムの前記ステアリン酸亜鉛に対するモル比が、1.4以上2.8以下であり、かつ
前記金属石鹸は、前記ポリエチレン系樹脂に対して、1.4重量%以上3.4重量%以下で含む工程、並びに
前記吸着剤樹脂組成物を、150℃以上200℃未満の温度でインフレーション法によって成形する工程、
を含む、吸着剤含有フィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸着剤組成物、その吸着剤組成物から形成した吸着剤含有フィルム及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
食品、医薬品等は水(湿気)に弱く、水を吸収することがある。この場合、食品は腐敗したり、カビが生えたりすることがあり、また医薬品は薬効成分が変質したり、性能が低下したりすることがある。そのため従来は、食品や医薬品の包装内にシリカゲル等の乾燥剤を封入した小袋を入れていた。しかし、包装内に乾燥剤の小袋を投入する作業は手作業となることが多く、面倒であった。また、このような小袋では誤飲や誤食の恐れもあった。そのため、包装自体に水等の吸収機能を持たせることが望まれている。
【0003】
さらに、食品や医薬品によっては、酸化分解しやすいものや、特有のにおいを発する製品もあり、包装内で酸素やにおいを吸収したいという要望もあった。
【0004】
そのような要望に対し、特許文献1では、乾燥剤練り込み型樹脂組成物、及びそれを用いた乾燥剤練り込み型樹脂成形品を開示している。ここでは、メルトフローレート(MFR)10以上のベース樹脂に対し、乾燥剤であるモレキュラーシーブを混合してペレット状樹脂とした後、該ペレット状樹脂に、添加剤としてエチレン・アクリル酸エステル・無水マレイン酸共重合体を混合して、乾燥剤練り込み型樹脂組成物を作製する。さらに、この乾燥剤練り込み型樹脂組成物を、押出成形又は射出成形して、乾燥剤練り込み型樹脂成形品を作製する。
【0005】
モレキュラーシーブは、分子の大きさの違いによって物質を分離するのに用いられる多孔質の粒状物質であり、均一な細孔をもつ構造であって、細孔の空洞に入る小さな分子を吸収して一種のふるいの作用をする代表的な合成ゼオライトである。細孔の大きさによって吸収する物質が異なり、水や水蒸気、有機ガス等を吸収することができる。モレキュラーシーブを含有させることで、包装自体に水や水蒸気、有機ガス(におい)の吸収性を持たせることができるため、包装内に別途乾燥剤の小袋を投入しなくても、内容物の腐敗や劣化等を防ぐことができると考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−192908号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1において、添加剤であるエチレン・アクリル酸エステル・無水マレイン酸共重合体は、モレキュラーシーブとベース樹脂との親和性を高める極性基を有しており、モレキュラーシーブとベース樹脂との親和性を良好なものとし、乾燥剤練り込み型樹脂組成物の溶融流れ性を高めることで、成形性と成形品表面の平滑性を向上させることができる。
【0008】
しかし、この特許文献1の乾燥剤練り込み型樹脂組成物を用いて、押出成形又は射出成形を行うと、比較的高い温度を用いるために、乾燥剤に含まれている水分等による発泡が発生することがあった。インフレーション成形によれば比較的低い温度で成形が可能であるが、低温でのインフレーション成形でフィルムを製造しようとした場合、この樹脂組成物では装置内での流動性(溶融流れ性)が低くなり、樹脂滞留部で劣化樹脂が発生することでフィルムにピンホールが発生するという問題があった。また、樹脂組成物が混練押出機やインフレーション成形機の壁面に付着することで、劣化した樹脂が発生し、これが固化してフィルム成形時にピンホールが発生することもあった。
【0009】
さらに、ゼオライトを樹脂組成物に配合した場合には、樹脂ペレット作製時、及びインフレーション成形時の樹脂押出工程において、樹脂組成物とスクリューとの摩擦が高くなり、高い摩擦熱が発生することで樹脂が劣化し、樹脂組成物が固化してフィルム成形時にピンホールが発生するという問題もあった。
【0010】
そこで、本発明は、上記課題を解決すること、すなわち無機吸着剤であるゼオライトを含有していても、比較的低温でのインフレーション成形でフィルムを成形しやすく、かつピンホールを発生させにくい吸着剤組成物を提供することを目的とする。さらに、本発明は、その組成物を用いた、水や水蒸気、有機ガス等を吸収するフィルム、及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、長鎖脂肪酸カルシウムと長鎖脂肪酸亜鉛とを組み合わせた金属石鹸を用いた場合に、これらを単独で用いた場合や他の金属石鹸を組み合わせた場合からは、思いがけずに成形性に優れた吸着剤組成物を与えることを見出し、本発明に至った。すなわち、本発明は、以下の通りである。
[1] 樹脂、ゼオライト、及び金属石鹸を含む樹脂組成物であって、前記金属石鹸は、炭素数5〜30の長鎖脂肪酸とカルシウムとの二価塩である長鎖脂肪酸カルシウム、及び炭素数5〜30の長鎖脂肪酸と亜鉛との二価塩である長鎖脂肪酸亜鉛を含む、吸着剤組成物。
[2] 前記長鎖脂肪酸カルシウムの前記長鎖脂肪酸亜鉛に対するモル比が、0.5以上5.0以下である、[1]に記載の吸着剤組成物。
[3] 前記金属石鹸が、前記樹脂に対して、0.5重量%以上5.0重量%以下で含まれる、[1]又は[2]に記載の吸着剤組成物。
[4] ゼオライトが、組成物全体に対して30重量%以上含まれる、[1]〜[3]のいずれか一項に記載の吸着剤組成物。
[5] 前記長鎖脂肪酸カルシウム及び長鎖脂肪酸亜鉛が、それぞれステアリン酸カルシウム及びステアリン酸亜鉛である、[1]〜[4]のいずれか一項に記載の吸着剤組成物。
[6] 前記樹脂のメルトフローレートが、温度190℃かつ荷重21.18Nの条件の下で、JIS K7210に準拠して測定した場合に、10g/10分以上である、[1]〜[5]のいずれか一項に記載の吸着剤組成物。
[7] 前記樹脂が、ポリエチレン系樹脂及び/又はポリプロピレン系樹脂を含む、[1]〜[6]のいずれか一項に記載の吸着剤組成物。
[8] [1]〜[7]の吸着剤組成物を成形してなる、吸着剤含有フィルム。
[9] 前記成形が、インフレーション法によってなされている、[8]に記載の吸着剤含有フィルム。
[10] [9]に記載の吸着剤含有フィルムとバリアフィルムとを少なくとも含む包装材料用積層体。
[11] [10]に記載の包装材料用積層体同士、又は[10]に記載の包装材料用積層体とヒートシール性を有する積層体と、が接着されている包装体。
[12] 30重量%以上のゼオライト、ポリエチレン系樹脂、及び金属石鹸を混合して、吸着剤組成物を得る工程であって、
前記ポリエチレン系樹脂は、温度190℃かつ荷重21.18Nの条件の下で、JIS K7210に準拠して測定した場合のメルトフローレートが、10g/10分以上であり、
前記金属石鹸は、ステアリン酸カルシウム及びステアリン酸亜鉛を含み、前記ステアリン酸カルシウムの前記ステアリン酸亜鉛に対するモル比が、1.4以上2.8以下であり、かつ
前記金属石鹸は、前記ポリエチレン系樹脂に対して、1.4重量%以上3.4重量%以下で含む工程、並びに
前記吸着剤樹脂組成物を、150℃以上200℃未満の温度でインフレーション法によって成形する工程、
を含む、吸着剤含有フィルムの製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ゼオライトを含有していても、比較的低い温度のインフレーション成形でフィルムを成膜しやすく、かつそのフィルムにピンホールを発生させにくい吸着剤組成物を提供することができる。また、その吸着剤組成物を用いて製造されたフィルムは、水や水蒸気、有機ガス等を吸収するため、内容物の腐敗や劣化等を防ぐことができる包装材料を提供することができる。そのため、本発明のフィルムを用いて作製した包装材料を用いれば、包装内に別途乾燥剤の小袋を投入する手間が省け、また、誤飲や誤食の恐れをなくすことができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の吸着剤組成物、及びこれを用いて成形したフィルム、さらにはそのフィルムの製造方法等の実施形態について説明する。
【0014】
<吸着剤組成物>
本実施形態の吸着剤組成物は、樹脂、ゼオライト、及び金属石鹸を含み、この金属石鹸は、炭素数5〜30の長鎖脂肪酸とカルシウムとの二価塩である長鎖脂肪酸カルシウム、及び炭素数5〜30の長鎖脂肪酸と亜鉛との二価塩である長鎖脂肪酸亜鉛を含む。このような構成の吸着剤組成物は、組成物のすべり性が良好であり、押出時(樹脂ペレット作成時、インフレーション成形時)のスクリューと吸着剤組成物との摩擦が低減される。これにより、樹脂の劣化を防ぐことができ、吸着剤組成物の固化、及びピンホールの発生を防ぐことができる。また、この吸着剤組成物は、金属石鹸がゼオライトと樹脂との親和性を高め、密着が良好となるためにピンホールが発生しにくい。
【0015】
この吸着剤組成物のメルトフローレートは、温度190℃かつ荷重21.18Nの条件の下で、JIS K7210に準拠して測定した場合に、好ましくは1.0g/10分以上、又は1.3g/10分以上である。また、インフレーション法による成形に適するため、好ましくは15g/10分以下、又は10g/10分以下である。
【0016】
(樹脂)
本実施形態において用いる樹脂としては、特に限定されないが、高メルトフローレート(以下「MFR」という)であり、かつ低融点(低軟化点)、低温ドローダウン性に優れた熱可塑性樹脂であることが望ましい。高MFR樹脂であれば、ゼオライトを比較的大量に添加することによりMFRが低下しても、ある程度の流れ特性を確保することができる。好ましくは、本実施形態において用いる樹脂のメルトフローレートは、温度190℃かつ荷重21.18Nの条件の下で、JIS K7210に準拠して測定した場合に、1g/10分以上、3g/10分以上、5g/10分以上、10g/10分以上、又は20g/10分以上である。
【0017】
このような観点から、本実施形態で用いる樹脂としては、ポリオレフィン系樹脂、特にポリエチレン系樹脂及びポリプロピレン系樹脂が挙げられる。具体的なポリエチレン系樹脂としては、低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、エチレン−アクリル酸共重合体(EAA)、エチレン−メタクリル酸共重合体(EMAA)、エチレン−エチルアクリレート共重合体(EEA)、エチレン−メチルアクリレート共重合体(EMA)、エチレンビニルアセテート共重合体(EVA)、カルボン酸変性ポリエチレン、カルボン酸変性エチレンビニルアセテート共重合体、アイオノマー、及びこれらの誘導体、並びにこれらの混合物が挙げられ、具体的なポリプロピレン系樹脂としては、ポリプロピレン(PP)ホモポリマー、ランダムポリプロピレン(ランダムPP)、ブロックポリプロピレン(ブロックPP)、塩素化ポリプロピレン、カルボン酸変性ポリプロピレン、及びこれらの誘導体、並びにこれらの混合物が挙げられる。
【0018】
(ゼオライト)
本実施形態の組成物では、吸着剤としてゼオライトが用いられる。ゼオライトは、アルミノケイ酸塩に基づいており、理論に拘束されないが、その極性部分(アルミ)部分が、後述の金属石鹸の金属イオン及び/又は長鎖脂肪酸と相互作用をし、ゼオライトに金属石鹸が配位して、押出機中の金属部分との摩擦低減に寄与していると考えられる。したがって、吸着剤がゼオライトであることによって、本実施形態の組成物は有利な効果を与えることができる。
【0019】
本実施形態で用いるゼオライトとしては、天然ゼオライト、人工ゼオライト、合成ゼオライトを使用することができる。ゼオライトは、分子の大きさの違いによって物質を分離するのに用いられる多孔質の粒状物質であり、均一な細孔をもつ構造であって、細孔の空洞に入る小さな分子を吸収して一種の篩の作用を有するため、水(蒸気、水蒸気)、有機ガス等を吸収することができる。合成ゼオライトの一例としてはモレキュラーシーブがあり、この中でも特に細孔(吸収口)径が0.3nm〜1nmのモレキュラーシーブを使用することができる。通常、細孔径が0.3nm、0.4nm、0.5nm、1nmのモレキュラーシーブを、それぞれモレキュラーシーブ3A、モレキュラーシーブ4A、モレキュラーシーブ5A、モレキュラーシーブ13Xと称する。モレキュラーシーブの平均粒子径(レーザー回折・散乱法によって求めた粒度分布における積算値50%での粒径)は、例えば10μm前後のものが用いられる。本発明では、吸収する目的物や内容物の性質等に合わせて、これらのゼオライトを適宜使い分けることができる。
【0020】
また、特ににおいを吸収する場合、有機ガスが原因物質であることが多いため、疎水性ゼオライトを用いることが好ましい。疎水性ゼオライトとは、ゼオライトの結晶骨格内のアルミニウム原子を脱アルミニウム処理して減少させ、シリカアルミナ比を高めて、いわゆるハイシリカゼオライトとしたものを総称する。疎水性ゼオライトは、水等の極性物質に対する親和性を失い、非極性物質をより強く吸収するゼオライトであり、有機ガス等をより吸収しやすくなっている。疎水性ゼオライトの一例である疎水性のモレキュラーシーブとしては、細孔径0.6〜0.9nmのものを使用することができ、Abscents1000、Abscents2000、Abscents3000(以上ユニオン昭和株式会社製)等が挙げられる。細孔径は、X線回折法による構造解析で確認することができる。また、疎水性ゼオライトの平均粒径(レーザー回折・散乱法によって求めた粒度分布における積算値50%での粒径)は、例えば3〜5μmのものが用いられる。
【0021】
吸着剤組成物中におけるゼオライトの混合比は、吸着剤組成物全体に対して、3重量%以上、5重量%以上、10重量%以上、20重量%以上、30重量%以上、40重量%以上、又は50重量%以上であることが好ましく、60重量%以下であることが好ましい。ゼオライトの混合比が高いと、その成形体であるフィルムの吸着性能が高くなり、水や有機ガスを十分に吸収することができる。また、ゼオライトの混合比が低いと、成形性が良好であり、インフレーション成形によりフィルムを成形しやすくなる。ゼオライトの混合比は、包装形態や内容物に応じて、上記の範囲で選択することができる。上記範囲の重量比とすれば、成形性が良好であり、適切な吸収性能を有するフィルムを提供することができる。
【0022】
(金属石鹸)
本実施形態の吸着剤組成物は、炭素数5〜30の長鎖脂肪酸とカルシウムとの二価塩である長鎖脂肪酸カルシウム、及び炭素数5〜30の長鎖脂肪酸と亜鉛との二価塩である長鎖脂肪酸亜鉛を組み合わせて用いる金属石鹸を含む。この組合せの金属石鹸は、すべり性を良くし押出機内の樹脂残りを抑制でき、また押出時(樹脂ペレット作成時、インフレーション成形時)のスクリューと吸着剤組成物との摩擦を低減することで、いずれも押出時の樹脂劣化を防ぎ、ピンホールの発生を防ぐことができる。特に、金属接着性の高い樹脂を用いた場合には、このような金属石鹸は高い効果を発揮する。また、このような組合せの金属石鹸は、ゼオライトと樹脂との親和性を高め、相溶性を向上させることができるので、ゼオライトと樹脂との界面での密着を向上させることができる。これにより、フィルムにピンホールが発生しにくくなる作用もある。
【0023】
原理の詳細は不明であるが、長鎖脂肪酸カルシウムは混練機や押出機の壁面と樹脂との密着性を下げ、これにより樹脂組成物がゼオライトを比較的多く含んでいたとしても、樹脂組成物が機器中で流れやすくなると考えられる。そして、樹脂残りによるゼオライト濃度の変化や樹脂の劣化を防止することができると考えられる。また、混練機等のスクリューと樹脂組成物とでは摩擦が発生し、この摩擦はゼオライトの量が多いほど高くなる傾向にあり、スクリューに削れが発生する場合もある。長鎖脂肪酸亜鉛はこの摩擦を低減し、摩擦熱による樹脂の劣化を防止する機能を有すると考えられる。
【0024】
上記の長鎖脂肪酸は、飽和脂肪酸であっても不飽和脂肪酸であってもよい。この飽和脂肪酸又は不飽和脂肪酸としては、限定されないが、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキン酸、ベヘニン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレイン酸、パルミトオレイン酸、イソステアリン酸、ヒドロキシステアリン酸、リシノール酸、モンタン酸等を挙げることができる。好ましくは、上記の長鎖脂肪酸カルシウム及び長鎖脂肪酸亜鉛の長鎖脂肪酸の炭素数は、10〜25の範囲であり、より好ましくは12〜20の範囲である。
【0025】
長鎖脂肪酸カルシウムの長鎖脂肪酸亜鉛に対するモル比は、好ましくは0.5以上5.0以下であり、より好ましくは1.0超4.2未満であり、さらに好ましくは1.2以上3.5以下であり、さらにより好ましくは1.4以上2.8以下である。このような範囲とすることで、押出時(樹脂ペレット作成時、インフレーション成形時)のスクリューと樹脂組成物との摩擦が低減され、また混練押出機やインフレーション成形の壁面と樹脂との密着性を下げ、樹脂の劣化を防ぎ、樹脂組成物が固化してフィルム成形時にピンホールが発生するのを特に防ぐことができることがわかった。
【0026】
本発明では、これら2つの機能を適度に有することが重要であるため、長鎖脂肪酸カルシウム又は長鎖脂肪酸亜鉛のそれぞれ単独では、フィルム成形時のピンホール発生を抑制できない。なお、上記のモル比の範囲で長鎖脂肪酸亜鉛が多い場合には、混練機のスクリューと樹脂組成物との摩擦が低くなり、摩擦熱による樹脂の劣化が発生しにくく、フィルム成膜時にピンホールが発生しにくいものと思われる。また、上記モル比の範囲で長鎖脂肪酸カルシウムが多い場合には、混練機や押出機の壁面と樹脂との密着性を下げて樹脂組成物が流れやすくする機能が強く、樹脂残りによるゼオライト濃度の変化や樹脂の劣化を防止することができる。これらについては、実験例を交えて後述する。
【0027】
また好ましくは、金属石鹸は、上記樹脂に対して、合計で0.5重量%以上5.0重量%以下で吸着剤組成物中に含まれ、より好ましくは0.7重量%超4.2重量%未満で含まれ、さらに好ましくは1.0重量%以上3.8重量%以下で含まれ、さらにより好ましくは1.4重量%以上3.4重量%以下で含まれる。金属石鹸の含有量が十分に高い場合には、混練機のスクリューと樹脂組成物との摩擦低減機能および混練機や押出機の壁面と樹脂との密着性を下げる機能が高いため、押出成形時の劣化樹脂の発生を防ぐことができ、フィルムへのピンホールの発生を防止することができる。金属石鹸の含有量が高すぎる場合には、樹脂組成物における樹脂の割合が低くなるため、樹脂がバインダーとしての機能を有効に果たせなくなる場合がある。
【0028】
<吸着剤含有フィルム及びその製造方法>
本発明の吸着剤含有フィルムは、上記の吸着剤組成物をフィルム状に成形することによって製造することができる。成形法は特に限定されないが、比較的低温で成形できることで発泡の可能性を低くできるインフレーション法が好ましい。
【0029】
本発明の吸着剤含有フィルムをインフレーション法によって製造する場合には、例えば以下のようにして製造することができる。ゼオライト、樹脂、金属石鹸を混合し、ニーダーミキサーやヘンシェルミキサーなどにより混合分散し、押出機にて100℃以上250℃以下、好ましくは150℃以上200℃未満で加熱混練後、ペレット状に押し出して冷却することで、ペレット状の樹脂組成物(マスターバッチ)を作製する。このとき、さらに酸化防止剤を添加しても良い。作製したマスターバッチを再加熱して、インフレーション成形により成膜して吸着剤含有フィルムを製造する。このとき、吸着剤含有フィルムの両面にはオレフィン系樹脂等からなるスキン層を設けて、吸着剤含有多層フィルムとしてもよい。
【0030】
スキン層は吸着剤組成物と同時にスキン層用の樹脂を共押出することで形成され、スキン層によるサンドイッチ構造を有する3層構造のフィルムとなる。すなわち吸着剤含有多層フィルムは、中間層である吸着剤含有層とこれを間に挟んだ外スキン層及び内スキン層を有している。このうち中間層は、水や水蒸気、有機ガスの吸収を主に担う機能層としての中核をなす。また、外スキン層及び内スキン層は、中間層を挟んでその内外(積層方向でみて上下)に積層されることで、主に中間層の表皮層となっており、ゼオライトの含有率が高くても、フィルムの機械的強度が強く、また表面が平滑なフィルムを得ることができる。なお、内外スキン層に吸収機能は付与されていない。以下、吸着剤含有フィルム及び吸着剤含有多層フィルムのことを併せて吸着剤含有フィルムと呼ぶことがある。
【0031】
製造した吸着剤含有フィルムは、ポリエステルフィルム、アルミ箔、シリカアルミナ蒸着ポリエステルフィルム、塩化ビニリデンコートフィルム、塩化ビニルフィルム、無延伸ポリプロピレンフィルム(CPP)などから選択する1種類または複数種類組み合わせたバリアフィルムとラミネートして、包装材料用積層体とすることができる。また、この吸着剤含有フィルムを、上記バリアフィルムと共に、又はバリアフィルムがない状態で、紙等の包装材料として通常用いられる基材とラミネートして包装材料用積層体とすることができる。ラミネートの方法としては、ドライラミネート、押出ラミネートなど、公知のラミネート方法を用いることができる。この包装材料用積層体を、該積層体同士又は他のフィルム及び積層体とヒートシール等によって接着することで、包装体を作製することができる。包装体の形態としては、袋状のもののほか、PTP、ブリスターパック、チューブ、箱などが挙げられ、所望の形状で利用することができる。
【実施例】
【0032】
<サンプル作成>
表1に記載の材料を用いて、表2に記載の構成の吸着剤含有フィルムをインフレーション法によって製造した。
【0033】
【表1】
【0034】
ゼオライト、樹脂、金属石鹸を所定の配合割合となるようにそれぞれ二軸混練押出機((株)池貝製PCM−30)に入れ、加熱溶融させながら混合した後、ペレット状に押し出して冷却することでマスターバッチを作製した。そのマスターバッチを中間層の材料に用いて、インフレーション成形による共押出成形で、スキン層を有する吸着剤含有多層フィルムを成膜した。このとき成膜した吸着剤含有フィルムは、中間層が50μm、内外スキン層が10μmであった。インフレーション成形条件は以下の通りであった。
【0035】
加工機名:三層インフレーション成形機3SOIB
メーカー:株式会社プラコー
樹脂温度:各層ともに180°C
引取速度:13m/min
【0036】
<評価方法>
(Tダイでの成膜性)
上記のようにして作製したマスターバッチをラボプラストミル(東洋精機)のTダイを用いて樹脂温度約180℃、Tダイのリップ幅1mm、スクリュー回転数30rpmに固定して押出製膜し、引取速度(m/分)を変えて、ピンホールが発生してフィルムが切れるまでの速度で評価した。なお、別途Tダイによる製膜と多層インフレーション機におけるピンホール発生との相関を比較した。その結果、フィルムが切れるときのTダイでの引取速度が5.0m/分以上であった場合は、インフレーション成形においてピンホールが10個未満/mであり、安定した製膜が可能であることがわかった。一方、フィルムが切れるときのTダイでの引取速度が5.0m/分未満であった場合、インフレーション成形におけるピンホールが10個以上/mになることがあり、製品として安定した製膜ができない場合があった。
【0037】
(耐ピンホール性)
上記インフレーション成形条件で多層の吸着剤含有フィルムを成膜し、そして目視検査を行い、ピンホールの発生について評価した。合否の評価は「○」及び「×」とし、合格の「○」にはピンホールが10個/m未満の場合が該当することとし、不合格の「×」にはピンホールが10個/m以上の場合に該当することとした。表2に、評価結果を示す。
【0038】
【表2】
【0039】
以下、各実施例および比較例の結果について具体的に説明する。
【0040】
まず比較例1として、金属石鹸を一切含まない条件で実験を行ったところ、ピンホールが発生し、良好な成膜性は得られなかった。次に、比較例2〜13は、金属石鹸としてステアリン酸カルシウム(St−Ca)、ステアリン酸亜鉛(St−Zn)、又はステアリン酸マグネシウム(St−Mg)をそれぞれ単独で使用した場合の結果を示している。これらの結果をみると、単独の金属石鹸の使用では、ピンホールの発生を抑えきれず、満足な成膜性は得られていないことが分かる。
【0041】
比較例14は、金属石鹸としてステアリン酸カルシウムとステアリン酸マグネシウムとを混合して加えて実験を行った結果である。この結果をみると、金属石鹸の配合割合は樹脂に対して2.7重量%であり、十分な量が添加されていると思われるが、製膜性は不十分であった。これは、ステアリン酸マグネシウムが、ステアリン酸亜鉛のように、混練機のスクリューと樹脂組成物との摩擦を低減し、摩擦熱による樹脂の劣化を防止する機能を有しないためと考えられる。
【0042】
参考例1及び6並びに実施例2〜5は、金属石鹸としてステアリン酸カルシウムとステアリン酸亜鉛を両方加えた場合であって、両者の配合割合を変えて実験を行った結果を示している。金属石鹸としてステアリン酸カルシウムとステアリン酸亜鉛を両方加えた場合には、一定程度の製膜性を得ることができた。また、実施例2〜5をみると、ステアリン酸カルシウムとステアリン酸亜鉛をモル比で1.4〜2.8の割合で樹脂組成物に配合した場合にピンホールの発生が減少し、特に良好な成膜性が得られた。
【0043】
実施例3及び8〜9並びに参考例7及び10は、金属石鹸としてステアリン酸カルシウムとステアリン酸亜鉛を所定の割合で両方加えた上で、金属石鹸全体の配合割合を変えた実験の結果を示している。これらの結果をみると、樹脂に対して1.4〜3.4重量%の金属石鹸を加えた場合、ピンホールの発生が特に減少し、良好な成膜性が得られた。
【0044】
実施例11及び12は、ゼオライトの配合割合を変えて実験を行った場合の結果である。これらの結果からわかるように、本発明はゼオライトが組成物全体に対して50重量%以上配合されている場合であっても、十分な効果があることが分かる。
【0045】
本発明は、上述した実施形態及び実施例に制約されることなく、各種の変形や置換を伴って実施することができる。また、上述した実施形態及び実施例で挙げた構成や材料はいずれも好ましい例示であり、これらを適宜変形して実施可能であることはいうまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明の吸着剤組成物は、ゼオライトを含有していても、比較的低温でのインフレーション成形でフィルムを成形することができ、かつピンホールを発生させにくい。本発明のフィルムを用いて作製した包装材料を用いれば、包装内に別途乾燥剤の小袋を投入する手間が省け、また、誤飲や誤食の恐れをなくすことができる。