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特許6429861ゼオライト、分離膜構造体及びゼオライトの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6429861
(24)【登録日】2018年11月9日
(45)【発行日】2018年11月28日
(54)【発明の名称】ゼオライト、分離膜構造体及びゼオライトの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01D 71/02 20060101AFI20181119BHJP
   C01B 39/16 20060101ALI20181119BHJP
   C01B 39/24 20060101ALI20181119BHJP
   C01B 39/36 20060101ALI20181119BHJP
   C01B 39/48 20060101ALI20181119BHJP
【FI】
   B01D71/02 500
   C01B39/16
   C01B39/24
   C01B39/36
   C01B39/48
【請求項の数】9
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2016-511536(P2016-511536)
(86)(22)【出願日】2015年3月20日
(86)【国際出願番号】JP2015058449
(87)【国際公開番号】WO2015151854
(87)【国際公開日】20151008
【審査請求日】2017年10月20日
(31)【優先権主張番号】特願2014-75557(P2014-75557)
(32)【優先日】2014年4月1日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000202
【氏名又は名称】新樹グローバル・アイピー特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】野田 憲一
(72)【発明者】
【氏名】萩尾 健史
【審査官】 手島 理
(56)【参考文献】
【文献】 特表2005−520680(JP,A)
【文献】 特開平10−95611(JP,A)
【文献】 特開平10−95612(JP,A)
【文献】 特開平08−245326(JP,A)
【文献】 特開平04−224505(JP,A)
【文献】 特開平04−21517(JP,A)
【文献】 特開平04−202010(JP,A)
【文献】 特開2015−174081(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 33/20−39/54
B01D 71/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
オレフィン/パラフィンの分離に用いられるゼオライトであって、
Siと、Alと、Agと、アルカリ金属及びアルカリ土類金属の少なくとも一方とを含み、下記数1を満たすゼオライト。
【数1】
(数1において、T[mol%]は、アルカリ金属及びアルカリ土類金属のモル濃度を示す。)
【請求項2】
下記数2を満たす請求項1に記載のゼオライト。
【数2】
(数2において、T[mol%]は、アルカリ金属及びアルカリ土類金属のモル濃度を示す。)
【請求項3】
複数の細孔の少なくとも1つの内径の最大値は0.4nm以上である、
請求項1又は2に記載のゼオライト。
【請求項4】
前記複数の細孔それぞれの内径の最大値は0.7nm以下である、
請求項1から3のいずれかに記載のゼオライト。
【請求項5】
オレフィン/パラフィンの分離に用いられる分離膜構造体であって、
多孔質の基材本体と、
前記基材本体の表面に配置されるゼオライト膜と、
を備え、
前記ゼオライト膜は、Siと、Alと、Agと、アルカリ金属及びアルカリ土類金属の少なくとも一方とを含み、下記数1を満たす、分離膜構造体。
【数1】
(数1において、T[mol%]は、アルカリ金属及びアルカリ土類金属のモル濃度を示す。)
【請求項6】
下記数2を満たす請求項5に記載の分離膜構造体。
【数2】
(数2において、T[mol%]は、アルカリ金属及びアルカリ土類金属のモル濃度を示す。)
【請求項7】
前記ゼオライト膜は複数の細孔を有し、
前記複数の細孔の少なくとも1つの内径の最大値は0.4nm以上である、
請求項5又は6に記載の分離膜構造体。
【請求項8】
前記複数の細孔それぞれの内径の最大値は0.7nm以下である、
請求項5から7のいずれかに記載の分離膜構造体。
【請求項9】
水熱合成法によってSiと、Alと、アルカリ金属及びアルカリ土類金属の少なくとも一方とを含むゼオライトを作製する工程と、
少なくとも銀化合物とアルカリ金属化合物又は/及びアルカリ土類金属化合物とを含む混合溶液に前記ゼオライトを浸漬することによって、前記ゼオライトをAgでイオン交換する工程と、
を備え、
イオン交換後のゼオライトが、下記数1を満たすゼオライトの製造方法。
【数1】
(数1において、T[mol%]は、アルカリ金属及びアルカリ土類金属のモル濃度を示す。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゼオライト、分離膜構造体及びゼオライトの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、Na−Y型ゼオライト膜をイオン交換することによって作製されるAg−Y型ゼオライト膜を用いて、オレフィンとパラフィンの混合物から一方を分離する手法が知られている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】松方 正彦ほか2名、“銀カチオン交換型Y型ゼオライト膜によるプロパン/プロピレン分離の可能性”、2013年3月17日〜19日、SCEJ(The Society of Chemical Engineers Japan) 78th Annual Meeting Q109 [平成26年2月24日検索]、インターネット<URL:http://www3.scej.org/meeting/78a/prog/sess_22.html>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、非特許文献1に記載の手法では、Na−Y型ゼオライト膜を硝酸銀水溶液に浸漬することによってAgイオン交換が行われるため、大部分のNaがAgに交換されてしまう。その結果、イオン状態のAg同士が凝集して金属状態のAgが形成されやすくなってしまい、長期間にわたってオレフィンとパラフィンの分離機能を十分に発揮できないという問題がある。
【0005】
本発明は、上述の状況に鑑みてなされたものであり、オレフィンとパラフィンの分離機能を安定的に発現可能なゼオライト、分離膜構造体及びゼオライトの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るゼオライトは、Siと、Alと、Agと、アルカリ金属及びアルカリ土類金属の少なくとも一方とを含み、下記数1を満たす。
(数1)
0.02≦Ag[mol%]/(Si[mol%]+10×T[mol%])≦0.17
(数1において、T[mol%]は、アルカリ金属及びアルカリ土類金属のモル濃度を示す。)
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、オレフィンとパラフィンの分離機能を安定的に発現可能なゼオライト、分離膜構造体及びゼオライトの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】分離膜構造体の斜視図
図2図1のA−A断面図
図3図2のB−B断面図
図4図3のX部分の拡大平面図
図5図3のX部分の拡大断面図
【発明を実施するための形態】
【0009】
次に、図面を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。以下の実施形態では、本発明に係るゼオライトを分離膜構造体のゼオライト膜に適用した場合について説明する。以下の図面の記載において、同一又は類似の部分には、同一又は類似の符号を付している。ただし、図面は模式的なものであり、各寸法の比率等は現実のものとは異なっている場合がある。従って、具体的な寸法等は以下の説明を参酌して判断すべきものである。又、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれていることは勿論である。
【0010】
(分離膜構造体100の構成)
図1は、分離膜構造体100の斜視図である。図2は、図1のA−A断面図である。
【0011】
分離膜構造体100は、基材200と、ゼオライト膜300とを備える。
【0012】
基材200は、基材本体210と、第1シール部220と、第2シール部230とを有する。
【0013】
基材本体210は、多孔体である。基材本体210は、円柱状に形成される。長手方向における基材本体210の長さは150〜2000mmとすることができ、短手方向における基材本体210の直径は30〜220mmとすることができるが、これに限られるものではない。基材本体210は、多孔質材料によって構成される。基材本体210の多孔質材料としては、セラミックス、金属、樹脂などを用いることができ、特に多孔質セラミックス材料が好適である。多孔質セラミックス材料の骨材粒子としては、アルミナ(Al)、チタニア(TiO)、ムライト(Al・SiO)、セルベン及びコージェライト(MgAlSi18)などを用いることができ、入手容易性と坏土安定性と耐食性を考慮すると特にアルミナが好適である。
【0014】
基材本体210は、多孔質材料に加えて、無機結合材を含んでいてもよい。無機結合材としては、チタニア、ムライト、易焼結性アルミナ、シリカ、ガラスフリット、粘土鉱物、易焼結性コージェライトのうち少なくとも一つを用いることができる。基材本体210の気孔率は、25%〜50%とすることができる。基材本体210の平均細孔径は、0.05μm〜25μmとすることができる。基材本体210を構成する多孔質材料の平均粒径は、0.1μm〜100μmとすることができる。
【0015】
なお、本実施形態において、「平均粒径」とは、SEM(Scanning Electron Microscope)を用いた断面微構造観察によって測定される30個の測定対象粒子の最大直径の算術平均値である。
【0016】
基材本体210は、第1端面S1と、第2端面S2と、側面S3と、複数の貫通孔THとを有する。第1端面S1は、第2端面S2の反対に設けられる。側面S3は、第1端面S1と第2端面S2の外縁に連なる。複数の貫通孔THは、第1端面S1から第2端面S2まで連なる。貫通孔THの断面形状は円形であるが、これに限られるものではない。貫通孔THの内径は1mm〜5mmとすることができる。
【0017】
第1シール部220は、第1端面S1の全面と側面S3の一部を覆う。第1シール部220は、濾過対象である混合流体が第1端面S1から基材本体210に浸潤することを抑制する。第1シール部220は、後述するセルCの流入口を塞がないように形成される。第1シール部220を構成する材料としては、ガラスや金属などを用いることができるが、基材本体210の熱膨張係数との整合性を考慮するとガラスが好適である。
【0018】
第2シール部230は、第2端面S2の全面と側面S3の一部を覆う。第2シール部230は、混合流体が第2端面S2から基材本体210に浸潤することを抑制する。第2シール部230は、セルCの流出口を塞がないように形成される。第2シール部230は、第1シール部220と同様の材料によって構成することができる。
【0019】
ゼオライト膜300は、基材本体210の貫通孔THの内表面上に形成される。この場合、ゼオライト膜300は、筒状に形成される。ゼオライト膜300は、FAU(Y型、X型)、LTA(A型)、LTL(L型)、MFI、MEL、DDR、MOR、FER、CHA、BEA、CON、MSE、MWWなどの結晶構造を有する。ゼオライト膜300の内側には、濾過対象である混合流体を流通させるための空間(以下、「セルC」という。)が形成される。本実施形態では、オレフィンとパラフィンの混合流体が濾過対象として想定されている。ゼオライト膜300は、オレフィンとパラフィンの一方を選択的に分離する機能を有する。
【0020】
図3は、図2のB−B拡大断面図である。ゼオライト膜300は、複数の細孔300a〜300a(以下、「細孔300a」と適宜総称する)を有する。細孔300aそれぞれの内径R1〜Rnは、細孔ごとに異なっていてもよい。内径R1〜Rnは、各細孔の最小径であり、細孔に長径と短径がある場合には短径である。
【0021】
内径R1〜Rnの少なくとも1つは、0.4nm以上であることが好ましい。すなわち、内径R1〜Rnの最大値は、0.4nm以上であることが好ましい。内径R1〜Rnの最大値を0.4nm以上とすることによって、オレフィン透過速度が小さくなることを抑制できる。内径R1〜Rnのそれぞれは、0.7nm以下であることが好ましい。すなわち、内径R1〜Rnの最大値は、0.7nm以下であることが好ましい。内径R1〜Rnの最大値を0.7nm以下とすることによって、オレフィン選択性が低くなることを抑制できる。
【0022】
ゼオライト膜300における細孔300aの内径R1〜Rnは、ゼオライト膜300の骨格構造によって一義的に決定される。骨格構造ごとの内径R1〜Rnは、The International Zeolite Association (IZA) “Database of Zeolite Structures” [online]、[平成27年2月13日検索]、インターネット<URL:http://www.iza-structure.org/databases/>に開示されている値から求めることができる。内径R1〜Rnの最大値が0.4nm以上かつ0.7nm以下を満たすゼオライト膜300の骨格構造としては、例えばLTA(A型)、MFI、MEL、MOR、FER、BEA、CON、MSE、MWWなどが挙げられる。
【0023】
ゼオライト膜300の径方向における厚みは、オレフィン透過速度の観点から、10μm以下であることが好ましく、3μm以下がより好ましい。ゼオライト膜300の厚みを10μm以下とすることによって、オレフィン透過速度が小さくなることを抑制できる。
【0024】
図4は、図3の破線部分Xの平面図である。図5は、図4の破線部分Yの断面図である。図4及び図5では、3次元的な原子配列が2次元的に示されているが、4価元素であるSiと3価元素であるAlのそれぞれが4つの共有結合を形成している。なお、図4図5は模式的な原子配列を示したものであり、実際の3次元的な原子配列は、ゼオライト膜300の骨格構造によって決定されるものである。
【0025】
ゼオライト膜300は、少なくともSiと、Alと、Agと、アルカリ金属及びアルカリ土類金属の少なくとも一方とを含む。アルカリ金属としては、Li、Na、K、Rb、Cs及びFrが挙げられる。アルカリ土類金属としては、Mg、Ca、Sr、Ba及びRaが挙げられる。図4及び図5では、「アルカリ金属及びアルカリ土類金属」が「T」と示されている。
【0026】
ゼオライト膜300は、SiO四面体とAlO四面体が頂点において酸素を共有しつつ三次元的に連なった構造を有する。Siよりも低原子価原子であるAlが存在することによる電荷のバランスを保つため、細孔300a内にはイオン状態のAgやTが含まれる。Agイオンはパラフィンよりもオレフィンと錯形成しやすいため、オレフィンはAgイオンとの錯形成とAgイオンからの解離を繰り返しながら細孔300a内を移動できる一方、パラフィンはオレフィンの存在によって細孔300aに流入できない。その結果、ゼオライト膜300のパラフィン/オレフィン選択性が発現する。本実施形態では、Ag同士の間隔が離れており、さらに2つのAgの間にはTが配置されている。そのため、イオン状態のAg同士が凝集して金属状態のAgが形成されることが抑制される。
【0027】
ここで、Agの接近度ADは、モル比を用いた次の式(1)によって表される。
Agの接近度AD=Ag[mol%]/(Si[mol%]+10×T[mol%])…(1)
なお、T[mol%]は、ゼオライト膜300に含まれるアルカリ金属とアルカリ土類金属のモル濃度の合計を示す。
【0028】
2個のAgの間にTが配置された場合のAg同士の凝集抑制効果を理論的に導出することは困難であるが、本発明者達による実験的検討の結果から、2個のAgの間に1個のTを配置することによって、2個のAgの間に10個のSiを配置するのと同等のAg凝集抑制効果を得られることが確認されている。式(1)によって表されるAgの接近度ADは、以上のような思想に基づいて導出したものである。
【0029】
式(1)によって表されるAgの接近度ADは、0.02以上0.17以下であることが好ましく、0.03以上0.14以下であることがより好ましい。
【0030】
本発明のゼオライトを備える分離膜構造体100は、オレフィン/パラフィンの分離機能を表す選択性が、2以上であることが好ましく、5以上であることがより好ましく、10以上であることが更に好ましい。この選択性は、以下のように求めるものとする。オレフィン単体ガス又はパラフィン単体ガスを用い、23℃、0MPa〜1MPaの測定条件でゼオライト粉末にこのガスを吸着させる。この吸着を10回繰り返して行った結果を用いて、(1MPaでのオレフィン吸着量)/(1MPaでのパラフィンの吸着量)を選択性(オレフィン選択性)として算出する。この選択性が高いほど、ガス分離機能が高い。オレフィン単体ガスには、例えば、エチレン、プロピレンなどを用いることができる。また、パラフィン単体ガスには、メタン、エタン、プロパンなどを用いることができる。
【0031】
(分離膜構造体100の製造方法)
まず、多孔質材料を含む坏土を用いて、複数の貫通孔THを有する基材本体210の成形体を形成する。基材本体210の成形体を形成する方法としては、真空押出成形機を用いた押出成形法のほかプレス成型法や鋳込み成型法を用いることができる。
【0032】
次に、基材本体210の成形体を焼成(例えば、1000℃〜1600℃、1時間〜50時間)することによって、基材本体210を形成する。
【0033】
次に、基材本体210の両端部にガラスを塗布・焼成(800〜900℃)する。これによって、第1シール部220と第2シール部230が形成され、基材200が完成する。
【0034】
次に、以下の工程を経て各貫通孔THの内表面上にゼオライト膜300を形成する。
【0035】
まず、貫通孔THの内表面にゼオライト粉末(ゼオライト種結晶)を付着させる。次に、ケイ素源、アルミ源、アルカリ源、溶媒を混合することによって原料溶液を調製する。原料溶液には、必要に応じて、更に構造規定剤を加えてもよい。
【0036】
ケイ素源としては、コロイダルシリカ、テトラエトキシシラン、水ガラス、シリコンアルコキシド、ヒュームドシリカ、沈降シリカなどが挙げられる。アルミ源としては、水酸化アルミニウム、アルミン酸ナトリウム、硫酸アルミニウム、硝酸アルミニウム、塩化アルミニウム等のアルミニウム塩の他、アルミナ粉末、コロイダルアルミナなどが挙げられる。アルカリ源としては、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属や、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウムなどのアルカリ土類金属が挙げられる。なお、ケイ素源またはアルミ源の化合物中にアルカリ金属やアルカリ土類金属が必要量含まれる場合には、アルカリ源を別途添加しなくてもよい。
【0037】
溶媒としては、水などが挙げられる。構造規定剤としては、水酸化テトラエチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウムブロミド、1−アダマンタンアミン、水酸化テトラプロピルアンモニウム、テトラプロピルアンモニウムブロミド、水酸化テトラメチルアンモニウムなどの有機化合物が挙げられる。シリカ源に対する構造規定剤のモル比率は0.03〜0.4とすることができ、シリカに対する溶媒のモル比率は50〜500とすることができる。なお、原料溶液にはフッ酸などのフッ素源を含ませてもよい。
【0038】
次に、原料溶液を入れた耐圧容器に基材200を浸漬して水熱合成を行う。合成温度は、90℃〜200℃とすることができ、合成時間は0.5〜300時間とすることができる。
【0039】
次に、ゼオライト膜が形成された基材200を水または温水(40〜100℃)で洗浄した後に70〜100℃で乾燥する。
【0040】
ゼオライト膜が構造規定剤を含む場合は、細孔300aを形成するために、ゼオライト膜が形成された基材200を電気炉に入れて、大気中で加熱(400〜800℃、1〜200時間)することによって構造規定剤を燃焼除去する。
【0041】
次に、ゼオライト膜を少なくとも銀化合物とアルカリ金属化合物又は/及びアルカリ土類金属化合物とを含む混合溶液(0.01mol/L〜1mol/L)に接触させることによって、ゼオライト膜中のアルカリ金属又は/及びアルカリ土類金属をAgにイオン交換する。この混合溶液には、アルカリ金属化合物及びアルカリ土類金属化合物の少なくとも一方が入っていてもよい。混合溶液は、例えば、銀化合物を含む水溶液とアルカリ金属化合物又は/及びアルカリ土類金属化合物を含む水溶液を混合することによって作成できる。この際、混合溶液には、Agだけでなく、アルカリ金属化合物又は/及びアルカリ土類金属化合物が含まれているため、ゼオライト中のアルカリ金属やアルカリ土類金属の全てがAgにイオン交換されることはなく、アルカリ金属やアルカリ土類金属がゼオライト中に残留する。
【0042】
銀化合物とアルカリ金属化合物又は/及びアルカリ土類金属化合物との混合比は、上記式(1)を考慮して設定することができる。銀化合物としては、硝酸銀、過塩素酸銀、酢酸銀、テトラフルオロホウ酸銀、ヘキサフルオロリン酸銀、ジアンミン銀などの錯体などが挙げられる。アルカリ金属化合物又はアルカリ土類金属化合物としては、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の、水酸化物、塩化物、硝酸塩、硫酸塩、フッ化物、酢酸塩、フルオロ錯体、アンミン錯体などが挙げられる。また、混合溶液には、銀化合物、アルカリ金属化合物及びアルカリ土類金属化合物以外の成分が入っていてもよい。
【0043】
以上により、基材200とゼオライト膜300を備える分離膜構造体100が完成する。なお、上記のゼオライト膜300の製造方法は、FAU(Y型、X型)、LTA(A型)、LTL(L型)、MFI、MEL、DDR、MOR、FER、CHA、BEA、CON、MSE、MWWなどの結晶構造のゼオライト膜の作製に適用可能である。
【0044】
(その他の実施形態)
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0045】
(A)上記実施形態において、基材200は、基材本体210と、第1シール部220と、第2シール部230を有することとしたが、第1シール部220及び第2シール部230の少なくとも一方を有していなくてもよい。
【0046】
(B)第1シール部220及び第2シール部230は、基材本体210の側面S3の一部を被覆することとしたが、基材本体210の側面S3を被覆していなくてもよい。
【0047】
(C)上記実施形態では特に触れていないが、基材200は、基材本体210とゼオライト膜300との間に介挿される1層以上の中間層や表層を有していてもよい。中間層や表層は、基材本体210と同様の材料によって濾過法や流下法によって形成することができる。中間層は、基材本体210よりも小さな細孔径を有していてもよく、表層は、中間層よりも小さな細孔径を有していてもよい。基材200が中間層と表層を有する場合、ゼオライト膜300は表層の内表面上に形成され、基材200が中間層を有する場合、ゼオライト膜300は中間層の内表面上に形成される。
【0048】
(D)上記実施形態では、ゼオライト膜は、1回の連続的な水熱合成によって形成されることとしたが、複数回の断続的な水熱合成によって形成されてもよい。
【0049】
(E)上記実施形態では、貫通孔THの内表面にゼオライト粉末(ゼオライト種結晶)を付着させることとしたが、ゼオライト粉末を分散させた原料溶液を用いてもよいし、ゼオライト粉末を用いなくてもよい。
【0050】
(F)基材本体210には複数の貫通孔THが形成されることとしたが、基材本体210には少なくとも一つの貫通孔THが形成されていればよい。すなわち、基材200は、いわゆるモノリス型に限らず筒型であってもよい。なお、「モノリス」とは、長手方向に形成された複数の貫通孔を有する形状を意味し、ハニカム形状を含む概念である。また、ゼオライト膜は、基材200の外表面又は内表面のみに形成されていてもよいし、内表面と外表面の両方に形成されてもよい。
【0051】
(G)上記実施形態では、基材本体210とゼオライト膜300から構成される分離膜構造体100について説明したが、分離膜構造体100はゼオライト膜300のみを備えていてもよい。
(H)上記実施形態では、本発明に係るゼオライトを分離膜構造体100のゼオライト膜300に適用した場合について説明したが、本発明に係るゼオライトは膜体としてだけでなく粉末体としても利用可能である。このようなゼオライト粉末は、例えば、吸着剤や触媒として利用することができる。
【実施例】
【0052】
以下において本発明の実施例について説明する。ただし、本発明は以下に説明する実施例に限定されるものではない。
【0053】
(サンプルNo.1〜13の作製)
以下のようにして、サンプルNo.1〜13に係るゼオライト粉末を作製した。
【0054】
まず、フッ素樹脂製の広口瓶に、表1に示した原料(ケイ素源、アルミ源、アルカリ源、溶媒)を所定比で混合して攪拌することによって原料溶液を調製した。原料の混合比は、後述のイオン交換後の粉末のAg/(Si+10×Na)の値が表1に示す値になるように調整した。
【0055】
次に、内容積100mlのステンレス製耐圧容器(フッ素樹脂製内筒付き)内に上記原料溶液を注ぎ入れた後、表1の合成条件で加熱処理(水熱合成)を行った。
【0056】
次に、水熱合成によって得られた粉末を水洗し、80℃で乾燥することで粉末を得た。
【0057】
次に、サンプルNo.7,8,11〜13の粉末を電気炉に入れて、大気中で加熱(500℃、4時間)することによって構造規定剤を燃焼除去した。
【0058】
次に、得られた粉末を0.1mol/Lの硝酸銀水溶液と0.1mol/Lの硝酸ナトリウム水溶液を所定比で混合した溶液中に24時間浸漬することでAgイオン交換を行った。硝酸銀水溶液と硝酸ナトリウム水溶液の混合比は、Ag/Naの値が表1に示す値になるように調整した。
【0059】
次に、Agイオン交換した粉末を水洗し、80℃で乾燥することでゼオライト粉末を得た。
【0060】
次に、ゼオライト粉末をXRD測定することによって、結晶相(ゼオライトの種類)を同定した。各サンプルの結晶相は表1に示す通りであった。
【0061】
次に、重量法(JIS M 8853)によって、各サンプルに含まれるケイ素のモル濃度を定量した。また、ICP発光分析(堀場製作所製ULTIMA2)によって、各サンプルに含まれる他の成分のモル濃度を定量した。定量した各元素のモル濃度を用いて算出されたAg/(Si+10×Na)とAg/Naの値を表1にまとめて示す。
【0062】
(ガス分離機能の耐久性試験)
サンプルNo.1〜13のゼオライト粉末を用いて、ガス分離機能の耐久性試験を実施した。ここでは、オレフィン/パラフィンの分離機能を考察するために、エチレン/エタンの吸着測定を実施した。エタンよりもエチレンを吸着しやすい特性が確認できれば、オレフィン/パラフィンの分離機能が高いと判断できる。さらに、ゼオライト粉末のAgの凝集抑制効果を確認する目的で、Agの凝集が促進される水素雰囲気への暴露を行った場合の、エチレン/エタンの吸着特性の変化を評価した。水素雰囲気への暴露前後でのエチレン/エタンの吸着特性の変化が小さい程、通常の使用環境下でもAgの凝集が起こりにいため、オレフィン/パラフィンの分離機能の低下が少なく、耐久性を有するということができる。
【0063】
まず、23℃、0MPa〜1MPaの環境下において、ゼオライト粉末にエチレン単体ガス及びエタン単体ガスをそれぞれ供給して、(1MPaでのエチレン吸着量)/(1MPaでのエタンの吸着量)を算出した。
【0064】
次に、ガラス管中に配置したゼオライト粉末に水素単体ガスを常圧で流通(70℃、24時間)させることによって、ゼオライト粉末を水素雰囲気に暴露した。
【0065】
次に、23℃、0MPa〜1MPaの環境下において、ゼオライト粉末にエチレン単体ガス及びエタン単体ガスをそれぞれ供給して、(1MPaでのエチレン吸着量)/(1MPaでのエタンの吸着量)を再び算出した。
【0066】
そして、水素暴露前後における(1MPaでのエチレン吸着量)/(1MPaでのエタンの吸着量)の算出結果に基づいて、オレフィン/パラフィンの分離機能を評価した。表1では、分離機能が高いと評価されたサンプルの選択性が「○」、特に高いと評価されたサンプルの選択性が「◎」、低いと評価されたサンプルの選択性が「×」と評価されている。
【0067】
また、水素暴露前後におけるオレフィン/パラフィンの分離機能の維持率を算出し、水素暴露前後においてオレフィン/パラフィンの分離機能が維持されているかどうかを評価した。表1では、オレフィン/パラフィンの分離機能の維持率が高いと評価されたサンプルの耐久性が「○」、特に高いと評価されたサンプルの耐久性が「◎」、低いと評価されたサンプルの耐久性が「×」と評価されている。
【0068】
【表1】
【0069】
表1に示すように、0.02≦Ag/(Si+10×Na)≦0.17が成立するサンプルNo.1,2,4〜12では、選択性及び耐久性の両方について良好な結果を得ることができた。これは、Ag同士の間隔を離すとともに、2つのAgの間にアルカリ金属又はアルカリ土類金属を配置することによって、イオン状態のAg同士が凝集することを抑制できたためである。なお、このような効果は、0.03≦Ag/(Si+10×Na)≦0.14が成立するサンプルNo.2,4,7,8,10,11において顕著であった。
【0070】
一方で、サンプルNo.3では、Agが高密度に凝集して金属状態となったため十分な耐久性を得ることができなかった。また、サンプルNo.13では、Ag濃度が低すぎたため十分な選択性を得ることができなかった。
【0071】
なお、表1には示していないが、KもしくはCaにイオン交換を行った後にAgイオン交換を行ったサンプルにおいてもサンプルNo.1〜13と同様の結果が得られることを実験的に確認済みである。
【0072】
(サンプルNo.14〜18の作製)
以下のようにして、サンプルNo.14〜18に係る分離膜構造体を作製した。
【0073】
まず、平均粒径50μmのアルミナ粒子100質量部に対して無機結合材20質量部を添加し、さらに、水、分散剤及び増粘剤を加えて混練することによって坏土を作製した。
【0074】
次に、坏土を押出成形することによって、複数の貫通孔を有するモノリス型基材の成形体を形成した。
【0075】
次に、モノリス型基材の成形体を焼成(1250℃、1時間)した。モノリス型基材のサイズは、直径30mm×長さ15cmであった。続いて、貫通孔の表面に、順次、平均細孔径0.5μmと平均細孔径0.1μmとなるアルミナ多孔体からなる中間層を配設することで、モノリス型支持体を作製した。
【0076】
次に、フッ素樹脂製の広口瓶に原料(ケイ素源、アルミ源、アルカリ源、溶媒)を加えて攪拌することによって原料溶液を調製した。具体的に、サンプルNo.14では上記サンプルNo.2と同じ原料溶液を調整し、サンプルNo.15では上記サンプルNo.4と同じ原料溶液を調整し、サンプルNo.16では上記サンプルNo.7と同じ原料溶液を調整し、サンプルNo.17では上記サンプルNo.8と同じ原料溶液を調整し、サンプルNo.18では上記サンプルNo.11と同じ原料溶液を調整した。
【0077】
次に、ゼオライト種結晶をエタノールで希釈し、濃度0.1質量%になるように調整した種付け用スラリー液をモノリス型支持体のセル内に流し込んだ。サンプルNo.14では上記サンプルNo.2と同様の方法で加熱処理(水熱合成)して得られたゼオライ粉末をゼオライト種結晶とし、サンプルNo.15では上記サンプルNo.4と同様の方法で加熱処理して得られたゼオライ粉末をゼオライト種結晶とし、サンプルNo.16では上記サンプルNo.7と同様の方法で加熱処理して得られたゼオライ粉末をゼオライト種結晶とし、サンプルNo.17では上記サンプルNo.8と同様の方法で加熱処理して得られたゼオライ粉末をゼオライト種結晶とし、サンプルNo.18では上記サンプルNo.11と同様の方法で加熱処理して得られたゼオライ粉末をゼオライト種結晶として用いた。
【0078】
次に、セル内を通風乾燥させた後に、内容積300mlのステンレス製耐圧容器(フッ素樹脂製内筒付き)内に上記原料溶液を注ぎ入れた後、種結晶を付着させたモノリス型支持体を浸漬して加熱処理(水熱合成)を行った。サンプルNo.14では上記サンプルNo.2と同様の条件で加熱処理を行い、サンプルNo.15では上記サンプルNo.4と同様の条件で加熱処理を行い、サンプルNo.16では上記サンプルNo.7と同様の条件で加熱処理を行い、サンプルNo.17では上記サンプルNo.8と同様の条件で加熱処理を行い、サンプルNo.18では上記サンプルNo.11と同様の条件で加熱処理を行った。
【0079】
次に、モノリス型支持体を水洗した後に80℃で乾燥することでゼオライト膜が形成されたモノリス型支持体を得た。次に、サンプルNo.16〜18のモノリス型支持体を電気炉に入れて、大気中で加熱(500℃、4時間)することによって構造規定剤を燃焼除去した。次に、硝酸銀水溶液と硝酸ナトリウム水溶液の混合溶液を用いて、サンプルNo.14〜18のAgイオン交換を行ってゼオライト膜を形成した。
【0080】
次に、ゼオライト膜をXRD測定することによって、結晶相(ゼオライトの骨格構造)を同定した。各サンプルの結晶相は表2に示す通りであった。
【0081】
次に、結晶相からゼオライトの細孔の内径を算出した。各サンプルの細孔の内径は表2に示す通りであった。
【0082】
(ガス透過性の評価)
サンプルNo.14〜18に係る分離膜構造体のガス透過性を評価した。具体的には、エチレン/エタン混合ガス(1:1)を23℃、1MPaの測定条件下でセルに供給しながら、支持体の側面から流出するガスの量と成分を検出した。そして、検出されたガスの量と成分に基づいて、エチレンの選択性と透過性を評価した。
【0083】
【表2】
【0084】
表2に示すように、サンプルNo.14〜18のいずれにおいても、エチレンについての良好な選択性と透過性を得ることができた。従って、上記サンプルNo.1,2,4〜12に係るゼオライトは、ガス分離膜構造体に好適であることが確認された。
【0085】
また、表2に示すように、サンプルNo.14,16〜18では、サンプルNo.15に比べてより高い選択性を得ることができた。これは、No.15に比べてサンプルNo.14,16〜18のゼオライトの細孔の内径が小さいために、オレフィンによる細孔内へのパラフィン流入の抑制効果がより強くなったためと考えられる。従って、ゼオライトの細孔の内径は0.7nm以下であることが好ましいことが分かった。
【0086】
また、サンプルNo.14〜16,18では、サンプルNo.17に比べてより高い透過性を得ることができた。これは、No.17に比べてサンプルNo.14〜16,18のゼオライトの細孔の内径が大きいために、オレフィンが細孔内へ侵入しやすいためと考えられる。従って、ゼオライトの細孔の内径は0.4nm以上であることが好ましいことが分かった。
【符号の説明】
【0087】
100 分離膜構造体
200 基材
210 基材本体
220 第1シール部
230 第2シール部
300 ゼオライト膜
TH 貫通孔
図1
図2
図3
図4
図5