(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6429894
(24)【登録日】2018年11月9日
(45)【発行日】2018年11月28日
(54)【発明の名称】軌条車両
(51)【国際特許分類】
B61D 29/00 20060101AFI20181119BHJP
B61D 27/00 20060101ALI20181119BHJP
B60Q 3/43 20170101ALI20181119BHJP
F21V 29/60 20150101ALI20181119BHJP
F21Y 115/10 20160101ALN20181119BHJP
【FI】
B61D29/00
B61D27/00 V
B60Q3/43
F21V29/60
F21Y115:10
【請求項の数】7
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2016-557425(P2016-557425)
(86)(22)【出願日】2014年11月7日
(86)【国際出願番号】JP2014079586
(87)【国際公開番号】WO2016072016
(87)【国際公開日】20160512
【審査請求日】2017年4月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110002365
【氏名又は名称】特許業務法人サンネクスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】福原 亮太
(72)【発明者】
【氏名】山本 隆久
(72)【発明者】
【氏名】山岡 康宏
【審査官】
志水 裕司
(56)【参考文献】
【文献】
特開2007−026739(JP,A)
【文献】
特開2000−213766(JP,A)
【文献】
特開2011−162085(JP,A)
【文献】
特開平11−192942(JP,A)
【文献】
特開2006−079918(JP,A)
【文献】
特開2007−137405(JP,A)
【文献】
中国特許出願公開第102372008(CN,A)
【文献】
特開平04−334654(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B61D 17/00 − 29/00
B60H 1/00 − 1/34
B60Q 3/00 − 3/88
F21V 7/00 − 33/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
照明装置モジュールを備える軌条車両において、
前記照明装置モジュールは、
長手方向に交差する断面形状の上辺が下辺よりも短い略台形状であり、
調和空気ダクトの吹き出し口近傍に設置され、
前記吹き出し口から吹き出される調和空気を分流する分流板と、
前記分流板の下方に設置されるとともに発光部を収容するケーシングとから構成され、
前記分流板は、幅方向の端部に載置部を備え、
前記ケーシングは、幅方向の端部に係止部を備え、前記ケーシングの固定を解除すると、前記係止部を前記載置部に載置させた状態のまま前記係止部を支点として下方に展開する
ことを特徴とする軌条車両。
【請求項2】
前記調和空気ダクトは、
前記吹き出し口に該吹き出し口の開口率を調整する流量調整板を備える
ことを特徴とする請求項1に記載の軌条車両。
【請求項3】
照明装置モジュールを備える軌条車両において、
前記照明装置モジュールは、
調和空気ダクトの吹き出し口近傍に設置され、
前記吹き出し口から吹き出される調和空気を分流する分流板と、
前記分流板の下方に設置されるとともに発光部を収容するケーシングとから構成され、
前記分流板は、幅方向の端部に載置部を備え、
前記ケーシングは、幅方向の端部に係止部を備え、前記ケーシングの固定を解除すると、前記係止部を前記載置部に載置させた状態のまま前記係止部を支点として下方に展開し、
前記調和空気ダクトは、
前記吹き出し口に該吹き出し口の開口率を調整する流量調整板を備え、
前記照明装置モジュールは、
長手方向に交差する断面形状の上辺が下辺よりも短い略台形状であり、前記下辺は下方に向けて凸の円弧形状である
ことを特徴とする軌条車両。
【請求項4】
前記ケーシングは、
幅方向の両端部に前記発光部を収容する収容部と、
前記収容部に収容された発光部を保護する保護部材とを備える
ことを特徴とする請求項3に記載の軌条車両。
【請求項5】
前記分流板は、
前記調和空気を幅方向の中央部に向かう流れと、端部に向かう流れとに分流する
ことを特徴とする請求項4に記載の軌条車両。
【請求項6】
前記ケーシングは、アルミニウム合金を押出成形した形材であり、
前記発光部は、基板の一方の面にLED素子が設置され、他方の面に配線が設置され、
前記発光部の熱は、前記ケーシングを介して前記調和空気によって取り除かれる
ことを特徴とする請求項5に記載の軌条車両。
【請求項7】
前記発光部から照射された光は、前記照明装置モジュールの近傍に設置される天井パネルに反射した後、前記軌条車両の車内を照らす
ことを特徴とする請求項6に記載の軌条車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軌条車両に関し、特に照明装置モジュールを備える軌条車両に適用して好適なものである。
【背景技術】
【0002】
軌条車両に供される照明装置は、例えば乗客が車内に持ち込むスキー板等の長尺物が衝突した場合に破片が飛散したり、或いは火災時に溶融した一部が車内に滴下したりしないように安全性を考慮した構成が要求される。
【0003】
また短時間で点検又は交換することができるように保全性を考慮した構成が望まれる。さらには軌条車両の天井部と側壁との境界部には広告が掲出される場合があり、車内とともにこの広告も照らすことが要求される。
【0004】
特許文献1には、車内とともに広告も照らす照明装置が開示されている。具体的には、光源から出射された光を下方に向けて反射し、反射した間接光により客室内を照らす反射面を備えるケーシング本体と、光源から出射された光のうち、下方に向かう直接光を遮るための受け部とから構成される照明装置が開示されている。
【0005】
この特許文献1に記載の照明装置によれば、光源から出射された光のうち、ケーシング本体の下端縁と受け部の上端縁との間から側方に向かう直接光が、天井部と側壁との境界部に掲出された広告を照らすことができるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2013−91472号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで軌条車両を少ない工数で製造するためには、従来は別々に取り付けていた部品を一つのまとまった部品に集約して取り付け工数を低減したり、或いは従来は機能ごとに分散して配置されていた部品の機能を一の部品に集約して部品点数を削減したりする等の対策が講じられる。
【0008】
また軌条車両の天井部には、天井パネル、調和空気の吹き出し口及び照明装置等が設置される。鉄道車両の客室は、幅方向(枕木方向)及び高さ方向の寸法に比較して長手方向(レール方向)に大きな寸法を有しているため、客室内にバランスのよい温度分布を提供するためには調和空気の吹き出し方向や調和空気の流量を微調整する必要がある。
【0009】
特許文献1に記載の照明装置は、照明装置単体の構成について開示されているだけであり、天井部に設置される部品及び機能を集約して部品点数を削減したり、少ない工数で取り付け又は点検したり、調和空気の流量を調整したりする点で課題がある。
【0010】
本発明は以上の点を考慮してなされたもので、安全性を維持しつつ、工数を削減するとともに保全性を向上し得る照明装置モジュールを備える軌条車両を提案する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
かかる課題を解決するために、本発明においては、照明装置モジュールを備える軌条車両において、照明装置モジュールは、調和空気ダクトの吹き出し口近傍に設置され、吹き出し口から吹き出された調和空気を分流する分流板と、分流板の下方に設置されるとともに発光部を収容するケーシングとから構成され、分流板は、幅方向の端部に載置部を備え、ケーシングは、幅方向の端部に係止部を備え、ケーシングの固定を解除すると、係止部を載置部に載置させた状態のまま係止部を支点として下方に展開することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、安全性を維持しつつ、工数を削減するとともに保全性を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図3】照明装置モジュールの拡大断面構成図である。
【
図4】照明装置モジュールの展開時の拡大断面構成図である。
【
図5】照明装置モジュールを展開時の斜視構成図である。
【
図6】照明装置モジュールを構成するケーシングの断面構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下図面について、本発明の一実施の形態を詳述する。なお軌条車両とは、敷設された軌条に沿って運行する交通車両の総称であり、鉄道車両、路面電車、新交通システム車両及びモノレール車両等が含まれる。以下鉄道車両を例に挙げて説明する。
【0015】
(1)鉄道車両の構成
図1は、本実施の形態における鉄道車両1の長手方向の断面構成を示す。まず鉄道車両1に関係する方向を定義する。鉄道車両1に関係する3方向は、鉄道車両1の車体幅方向80、車体長手方向81及び車体高さ方向82である。以下では、単に幅方向80、長手方向81及び高さ方向82と称する場合がある。
【0016】
鉄道車両1は、床面をなす台枠10、台枠10の幅方向80の両端部に立設される側構体12、台枠10の長手方向の両端部に設置される妻構体14、側構体12及び妻構体14の上端部に設置される屋根構体16から構成される6面体の箱状の客室20を有する。
【0017】
妻構体14には、長手方向81に隣接する他の鉄道車両1に移動するための貫通扉24が設置され、また客室20内には、座席26やテーブル(図示省略)等が設置される。
【0018】
屋根構体16の車外側には、調和空気を生成して鉄道車両1の内部の温湿度環境を整える空調装置70が設置される。屋根構体16の車内側には、調和空気を鉄道車両1の車体の各部に送風するダクトや天井パネル等を有する天井モジュールAが設置される。
【0019】
天井モジュールAは、幅方向80の中心線90を含む中心断面に対して面対称の構成である。以下では一方の天井モジュールA(
図2)及び天井モジュールAに含まれる照明装置モジュールB(
図3)について説明する。
【0020】
(2)天井モジュールの構成
図2は、天井モジュールAの拡大断面構成を示す。天井モジュールAは、屋根構体16の車内側に設置される部材であり、車外と車内との熱の出入りを抑制する断熱材32、幅方向80の中央部に長手方向81に沿って設置される調和空気ダクト34、幅方向80の両端部に長手方向81に沿って設置される排気空気ダクト36、天井パネル23及び照明装置を備える照明装置モジュールB等を含む。
【0021】
なお屋根構体16は、対向する2枚の面板を複数のリブで接続したアルミ合金製の中空押出形材から構成される。台枠10や側構体12も同様に構成される。
【0022】
(3)照明装置モジュールの構成
図3は、照明装置モジュールBの拡大断面構成を示し、
図4は、照明装置モジュールBを展開した状態の拡大断面構成を示す。また
図5は、照明装置モジュールBを展開した状態の斜視構成を示し、
図6は、照明装置モジュールBを構成するケーシングの断面構成を示す。以下
図3〜
図6を参照して、照明装置モジュールBの構成について説明する。
【0023】
空調装置70により生成された調和空気は、室内送風機(図示省略)により調和空気ダクト34に圧送される。調和空気ダクト34は、屋根構体16の近傍にほぼ水平に配置されるダクト壁33a、天井パネル23及びダクト壁33aと天井パネル23とを接続するとともにほぼ垂直に備えられるダクト壁33bから構成される。
【0024】
ダクト壁33aは、屋根構体16を構成する中空押出形材と一体に押出成形されたスロット16aに頭部が挿入されたボルト18aによって、屋根構体16に固定されている。
【0025】
ダクト壁33bには、長手方向81に沿って離散的に開口部37が形成される。開口部37には、その開口率を任意に設定して調和空気ダクト34から客室20内に供給される調和空気の流量を調整する流量調整板35が設置される。
【0026】
流量調整板35は、ダクト壁33bにボルト18dで固定されており、ケーシング50を矢印98の方向に係止部56を支点に下方へ展開した後、ボルト18dを緩めて流量調整板35を高さ方向82に位置調整することで調和空気94の流量を任意に調整することができる。
【0027】
照明装置モジュールBは、発光部52や非常時に発光部52に給電する電池62を保持するケーシング50と、ケーシング50を展開可能に支持するとともに開口部37から客室20内に供給される調和空気を幅方向80に分流する分流板39とから構成される。
【0028】
分流板39の長手方向81に交差する断面形状は、幅方向80の一方の端部が緩やかに下方に傾斜する形状である。またケーシング50の長手方向81に交差する断面形状は、下面の幅方向の両端部が上方に持ち上げられる円弧形状である。
【0029】
分流板39の下方にケーシング50を備えた照明装置モジュールBの断面形状は、全体として、上辺が下辺より短い略台形状であり、下辺が下方に向けて凸の円弧形状を有する。
【0030】
分流板39の幅方向80の一方の端部には、ケーシング50の一方の端部に設置される係止部56が載置される載置部39aが形成される。照明装置モジュールBを構成する分流板39は、ボルト18bによりブラケット38の一端に接続して固定される。
【0031】
ブラケット38の他端は、ボルト18aを介して屋根構体16のスロット16aに接続して固定される。ブラケット38は、照明装置モジュールBを長手方向81に沿って離散的に支持しており、所定の間隔で設置される。
【0032】
ケーシング50の他方の端部には、留め板58が固定されている。留め板58は、分流板39の他方の端部に設けられる係合部39bにボルト18cで接続される。係合部39bは、長手方向81に沿って所定の間隔で離散的に設置されている(
図5)。
【0033】
係合部39bは、分流板39の他方の端部を曲げ加工によって分流板39と一体に構成してもよいし、別部品で準備した分流板39bをスポット溶接やリベット等で分流板39に固定してもよい。ボルト18cを取り除くと、係止部56を支点にしてケーシング50を矢印98の方向に展開することができる(
図4)。
【0034】
照明装置モジュールBの幅方向80の両端部と各天井パネル23との間には調和空気94の流路が形成される。調和空気94は、開口部37から側構体12に向かう調和空気94aと、客室20の幅方向80の中央部に向かう調和空気94bとに分流される。
【0035】
照明装置モジュールBを形成するケーシング50は、アルミニウム合金または不燃性の樹脂を押出成形によって製造される。ケーシング50の幅方向80の両端部には、発光部52が納められる収容部54が形成される。発光部52の設置や点検等に供される収容部54の開口部は、例えばポリカーボネード樹脂のような透過性を有す保護カバー60によって開閉可能に閉じられる。
【0036】
発光部52は、細幅状に延びる基板の一方の実装面上にほぼ等間隔に配列された複数個のLED素子であり、基板の他方の面にはLED素子を電気的に接続する配線回路が形成されるとともにケーシング50の収容部54に固定される。発光部52から照射される光跡96は、保護カバー60を透過し、天井パネル23で反射して拡散する。反射光は、客室20内を間接的に照らす。
【0037】
(4)本実施の形態による効果
以上のように本実施の形態によれば、断面形状が略台形状の照明装置モジュールBを調和空気ダクト34の開口部37の下流の流路上に配置するようにしたので、客室20内に供給される調和空気94を調和空気94a及び94bに分流することができる。これら調和空気94a及び94bは、天井パネル23の表面に沿うように流れるため、吹き出された調和空気に乗客が直接さらされる不快なドラフトを抑制することができる。
【0038】
また高い強度を有するケーシング50の下辺が客室20側に広範囲に対向するようにしたので、乗客が客室20に持ち込んだスキー板等の手荷物が照明装置モジュールBに衝突しても、保護カバー60及び発光部52の破損を抑制することができる。
【0039】
また万が一、保護カバー60が破損した場合又は発光部52が電気的なショート等の熱で溶融した場合であっても、保護カバー60の破片や溶融物をケーシング50の収容部54が保持するようにしたので、保護カバー60が飛散したり溶融物が滴下したりすることを抑制することができる。
【0040】
また略台形状の幅方向80の両端部に収容部54を設置し、この収容部54に発光部52を収容し、発光部52からの光を天井パネル23で反射させるようにしたので、間接照明を実現することができる。
【0041】
また分流板39に設けた載置部39aにケーシング50の係止部56を係止し、係止部56を支点としてケーシング50を下方に展開できる構成としたので、天井モジュールAからケーシング50を取り外すことなく、調和空気94の流量を流量調整板35により調整することができる。よって鉄道車両1の風量分布を少ない保守工数で容易に調整することができる。
【0042】
またケーシング50を取り外すことなく、ケーシング50に備えられる電池62を保持する点検蓋63を開けて電池62を容易に点検することができる。
【0043】
またケーシング50は、熱伝導率の高いアルミニウム合金を押出成形して製造し、このケーシング50を調和空気94の流路上に配置し、ケーシング50の収容部54に発光部52を備えるようにしたので、発光部52の熱をケーシング50を介して効率的に取り除くことができ、発光部52の劣化の促進を抑制することができる。よって発光部52の長寿命化を促進して保守コストを抑制することできる。
【符号の説明】
【0044】
1 鉄道車両
16 屋根構体
20 客室
22 天井部
23 天井パネル
34 調和空気ダクト
35 流量調整板
37 開口部
38 ブラケット
39 分流板
39a 載置部
50 ケーシング
52 発光部
54 収容部
56 係止部
58 留め板
60 保護カバー
62 電池
63 点検蓋
70 空調装置
80 幅方向
81 長手方向
82 高さ方向
94 調和空気の流れ
96 光線の軌跡
A 天井モジュール
B 照明装置モジュール