特許第6429987号(P6429987)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6429987
(24)【登録日】2018年11月9日
(45)【発行日】2018年11月28日
(54)【発明の名称】ロータリ圧縮機
(51)【国際特許分類】
   F04C 29/00 20060101AFI20181119BHJP
   F04C 18/356 20060101ALI20181119BHJP
【FI】
   F04C29/00 G
   F04C18/356 E
   F04C18/356 J
   F04C18/356 Z
【請求項の数】3
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2017-503238(P2017-503238)
(86)(22)【出願日】2015年3月2日
(86)【国際出願番号】JP2015056121
(87)【国際公開番号】WO2016139735
(87)【国際公開日】20160909
【審査請求日】2017年5月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001461
【氏名又は名称】特許業務法人きさ特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】石部 祐策
【審査官】 岩田 健一
(56)【参考文献】
【文献】 特開平05−005491(JP,A)
【文献】 特開2002−257057(JP,A)
【文献】 特開2013−181420(JP,A)
【文献】 特開2013−064395(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04C 29/00
F04C 18/356
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷媒を圧縮する圧縮機構部と、
前記圧縮機構部に回転駆動力を伝達するクランクシャフトと、
前記クランクシャフトの外径面を冷凍機油を介して支持する内径面を有するすべり軸受と、
前記すべり軸受の内径面に設けられた溝に固定された外輪部と前記すべり軸受に回転可能に支持された内輪部とを有する転がり軸受と
を備え、前記クランクシャフトの外径面と前記転がり軸受の内輪部との間にクリアランスを有し、前記クリアランスに前記冷凍機油によるオイルシールが形成されている場合に、前記クランクシャフトは前記転がり軸受の内輪部と接触することなく回転運動するロータリ圧縮機。
【請求項2】
前記冷凍機油は、前記クランクシャフトに設けられた中空穴と給油穴とを介して、前記クランクシャフトの外径面と前記すべり軸受の内径面との間、及び前記クリアランスに供給される請求項1に記載のロータリ圧縮機。
【請求項3】
前記クリアランスの径方向の幅が10〜50μmである請求項1又は2に記載のロータリ圧縮機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロータリ圧縮機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のロータリ圧縮機としては、例えば、すべり軸受の上部に転がり軸受構造を設けたものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。また、従来のロータリ圧縮機としては、すべり軸受の内径部に転がり軸受を設けたものが提案されている(例えば、特許文献2〜4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−169827号公報
【特許文献2】特開2001−323886号公報
【特許文献3】特開2007−285180号公報
【特許文献4】特開平5−256283号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載のようなすべり軸受では、冷凍機油が枯渇した場合に、クランクシャフトとすべり軸受との接触部分が損傷する可能性があるという問題点があった。また、特許文献1〜4に記載のような転がり軸受では、転がり軸受における摩擦による一定の摺動損失が生じるという問題があった。
【0005】
本発明は、上述の問題を解決するためになされたものであり、クランクシャフトと軸受との接触部分の損傷を防ぐとともに、摺動損失を低減することが可能なロータリ圧縮機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のロータリ圧縮機は、冷媒を圧縮する圧縮機構部と、前記圧縮機構部に回転駆動力を伝達するクランクシャフトと、前記クランクシャフトの外径面を冷凍機油を介して支持する内径面を有するすべり軸受と、前記すべり軸受の内径面に設けられた溝に固定された外輪部と前記すべり軸受に回転可能に支持された内輪部とを有する転がり軸受とを備え、前記クランクシャフトの外径面と前記転がり軸受の内輪部との間にクリアランスを有し、前記クリアランスに前記冷凍機油によるオイルシールが形成されている場合に、前記クランクシャフトは前記転がり軸受の内輪部と接触することなく回転運動する。
【発明の効果】
【0007】
本発明のロータリ圧縮機は、クランクシャフトの外径面と転がり軸受の内輪部との間にクリアランスを有し、冷凍機油が枯渇した場合には、クランクシャフトの外径面は転がり軸受の内輪部に接触したときに、転がり軸受の内輪部と一体となり摺動する。また、クリアランスにオイルシールが形成されている場合は、転がり軸受の内輪部はクランクシャフトのすべり軸受として機能する。したがって、本発明によれば、クランクシャフトとすべり軸受との接触部分の損傷を防ぐとともに、摺動損失を低減することが可能なロータリ圧縮機を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の実施の形態1に係るロータリ圧縮機100の一例を概略的に示す断面図である。
図2】本発明の実施の形態1に係るロータリ圧縮機100の圧縮機構部50を概略的に示す拡大断面図である。
図3】本発明の実施の形態1に係るロータリ圧縮機100のクランクシャフト5の構造を概略的に示す平面図である。
図4】本発明の実施の形態1に係るロータリ圧縮機100の主軸受9及び転がり軸受19の構造を概略的に示す断面図である。
図5】本発明の実施の形態1に係るロータリ圧縮機100の転がり軸受19の構造を概略的に示す平面図である。
図6】本発明の実施の形態1に係るロータリ圧縮機100の効果を概略的に示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
実施の形態1.
本発明の実施の形態1に係るロータリ圧縮機100の構成について図1〜3を用いて説明する。図1は、本発明の実施の形態1に係るロータリ圧縮機100の一例を概略的に示す断面図である。図2は、本発明の実施の形態1に係るロータリ圧縮機100の圧縮機構部50を概略的に示す拡大断面図である。図3は、本発明の実施の形態1に係るロータリ圧縮機100のクランクシャフト5の構造を概略的に示す平面図である。なお、図1〜3を含む以下の図面では各構成部材の寸法の関係及び形状が、実際のものとは異なる場合がある。また、以下の図面では、同一の又は類似する部材又は部分には、同一の符号を付すか、又は、符号を付すことを省略している。
【0010】
図1では、縦置型の2シリンダ型のロータリ圧縮機100が一例として例示されている。ロータリ圧縮機100は、シリンダ形状の筐体である密閉容器1を備えている。密閉容器1内上部にはモータ30が収容されており、下部には圧縮機構部50が収容されている。密閉容器1の内部は、圧縮機構部50で圧縮された高圧のガス冷媒で満たされており、密閉容器1の底部には、圧縮機構部50の潤滑のための冷凍機油2が封入されている。
【0011】
モータ30は、回転子3と固定子4とを備えており、固定子4は密閉容器1の内側面に固定されている。モータ30は固定子4に通電することにより、回転子3を回転させるものであり、例えばDCブラシレスモータ等が用いられる。
【0012】
クランクシャフト5は、回転子3の中心部を貫通し、回転子3に固定されている。クランクシャフト5は、円筒形状の第1の偏心部5aと、第1の偏心部5aの下方に配置された円筒形状の第2の偏心部5bとを有している。第2の偏心部5bは、クランクシャフト5の中心軸に対し、第1の偏心部5aと180度対向するように配置される。
【0013】
図1、2に示すように、圧縮機構部50は、クランクシャフト5の第1の偏心部5aが回転可能な円筒形の中空部分を有する第1のシリンダ6と、クランクシャフト5の第2の偏心部5bが回転可能な円筒形の中空部分を有する第2のシリンダ7を備える。第1のシリンダ6及び第2のシリンダ7の外側面は密閉容器1の内側面に固定されている。
【0014】
圧縮機構部50は、第1のシリンダ6と第2のシリンダ7との間に固定され、第1のシリンダ6の中空部分と第2のシリンダ7の中空部分とを分離する中間板8を備える。中間板8は、クランクシャフト5の第1の偏心部5aと第2の偏心部5bとの間に位置する回転部分を摺動可能に支持する内径面を有している。
【0015】
圧縮機構部50は、すべり軸受である主軸受9と副軸受12とを備えている。主軸受9は、第1のシリンダ6の上面に固定され、クランクシャフト5を摺動可能に支持する内径面を有する。副軸受12は、第2のシリンダ7の下面に固定され、クランクシャフト5を摺動可能に支持する内径面を有する。
【0016】
中間板8と主軸受9とに囲まれた第1のシリンダ6の中空部分は、第1の圧縮室10を構成する。第1の圧縮室10には、クランクシャフト5の第1の偏心部5aの外周に回転自在に取付けられた第1のローリングピストン11が配置される。また、中間板8と副軸受12とに囲まれた第2のシリンダ7の中空部分は第2の圧縮室13を構成する。第2のシリンダ7の中空部分には、クランクシャフト5の第2の偏心部5bの外周に回転自在に取付けられた第2のローリングピストン14が配置される。
【0017】
図1に示すように、クランクシャフト5は、密閉容器1の底部に封入された冷凍機油2を圧縮機構部50に給油可能なように、一端が密閉容器1の底部に延びている。密閉容器1の上部方向のクランクシャフト5の一端には、ロータリ圧縮機100の外へ冷凍機油2が流出するのを抑制するための油分離器15が嵌合されている。クランクシャフト5の軸中心部には、図3に示すように、密閉容器1の底部側のクランクシャフト5の一端から軸方向に沿って延在する、冷凍機油2を吸い上げるための中空穴5cが設けられている。
【0018】
また、図3に示すように、クランクシャフト5の内部には、第1の給油穴5d、第2の給油穴5e、第3の給油穴5f、及び第4の給油穴5gが設けられている。
【0019】
第1の給油穴5dは、クランクシャフト5の第1の偏心部5aの上方に位置し、中空穴5cから分岐しクランクシャフト5の外径面まで延びている。第1の給油穴5dは、主軸受9の内径面とクランクシャフト5の外径面との間に冷凍機油2を供給するために設けられる。
【0020】
第2の給油穴5eは、クランクシャフト5の第1の偏心部5aの内部に位置し、中空穴5cから分岐し第1の偏心部5aの外径面まで延びている。第2の給油穴5eは、第1の圧縮室10の内部に冷凍機油2を供給するために設けられる。
【0021】
第3の給油穴5fは、クランクシャフト5の第2の偏心部5bの内部に位置し、中空穴5cから分岐し第2の偏心部5bの外径面まで延びている。第3の給油穴5fは、第2の圧縮室13の内部に冷凍機油2を供給するために設けられる。
【0022】
第4の給油穴5gは、クランクシャフト5の第2の偏心部5bの下方に位置し、中空穴5cから分岐しクランクシャフト5の外径面まで延びている。第4の給油穴5gは、副軸受12の内径面とクランクシャフト5の外径面との間に冷凍機油2を供給するために設けられる。
【0023】
図1に示すように、ロータリ圧縮機100は、第1の冷媒配管16と第2の冷媒配管17を備える。第1の冷媒配管16は、密閉容器1の側面を貫通して第1の圧縮室10と連通する。第1の冷媒配管16は、吸入マフラ(図示せず)からの低圧のガス冷媒を第1のシリンダ6内の第1の圧縮室10に流入させるものである。第2の冷媒配管17は、密閉容器1の側面を貫通して第2の圧縮室13と連通する。第2の冷媒配管17は、吸入マフラ(図示せず)からの低圧のガス冷媒を第2のシリンダ7内の第2の圧縮室13に流入させるものである。
【0024】
また、ロータリ圧縮機100は、ロータリ圧縮機100の密閉容器1内に充満した高圧のガス冷媒を、冷凍サイクル回路の冷媒配管(図示せず)に吐出する吐出管18を備えている。吐出管18は、密閉容器1の上面を貫通して密閉容器1の内部と連通している。
【0025】
本実施の形態1のすべり軸受である主軸受9及び副軸受12は、図1に示すように、1以上の転がり軸受19を備えている。以降では、図4、5を用いて転がり軸受19の構造について詳しく説明する。
【0026】
図4は、本実施の形態1に係るロータリ圧縮機100の主軸受9及び転がり軸受19の構造を概略的に示す断面図である。図5は、本発明の実施の形態1に係るロータリ圧縮機100の転がり軸受19の構造を概略的に示す平面図である。
【0027】
図5に示すように、転がり軸受19は、起動輪である内輪部19a(内径部)及び外輪部19b(外径部)と、内輪部19aと外輪部19bとの間に配置される複数の転動体19cとを備える中空円筒状の外観を有する機械要素である。転がり軸受19は、玉軸受であっても、円筒ころ軸受等のころ軸受であってもよい。
【0028】
本実施の形態1に係る転がり軸受19では、外輪部19bの外側面が主軸受9の内径面に設けられた溝9aに固定され、内輪部19aは回転可能に溝9aに支持されている。すなわち、本実施の形態1に係る転がり軸受19は、主軸受9の内径面に設けられた溝9aに固定された構成となっている。図4においては、主軸受9の内径面の上端部及び下端部に階段状の溝9aが設けられ、階段状の溝9aに外輪部19bの外側面が固定されることにより、転がり軸受19は、主軸受9の内径面に設けられた溝9aに固定されている。
【0029】
なお、本実施の形態1に係る転がり軸受19の配置位置は、主軸受9の内径面の上端部及び下端部に限られない。本実施の形態1に係る転がり軸受19は、冷凍機油2が枯渇しやすい主軸受9及び副軸受12の内径部の任意の位置に溝9aを設けて固定することができる。
【0030】
本実施の形態1に係る転がり軸受19の内輪部19aの中空部分には、クランクシャフト5が内輪部19aに対し摺動可能に支持されている。本実施の形態1においては、クランクシャフト5と転がり軸受19の内輪部19aとの間にはクリアランス20が設けられており、クリアランス20の径方向の幅は、10〜50μmとなるように調整される。すなわち、本実施の形態1においては、クランクシャフト5の外径部は、転がり軸受19の内輪部19aに嵌合も固定もされない構成となっている。
【0031】
クランクシャフト5と転がり軸受19の内輪部19aとの間に冷凍機油2が潤沢にある場合、図5(a)の斜線部分に示されるように、クリアランス20はオイルシール70(油膜)となり、クランクシャフト5の外径部は、転がり軸受19の内輪部19aと接触することがなくなる。
【0032】
一方、クランクシャフト5と転がり軸受19の内輪部19aとの間の冷凍機油2が枯渇している場合、図5(b)の黒塗りつぶし部分に示されるように、クリアランス20は空洞90となり、クランクシャフト5の外径部は、転がり軸受19の内輪部19aと接触可能となる。
【0033】
なお、転がり軸受19が機能し始める冷媒ガスの荷重は、転がり軸受19の内輪部19aの耐力限界である内輪部19aが損傷し始める荷重よりも低く設定されている。
【0034】
次に、本実施の形態1に係るロータリ圧縮機100の動作について説明する。
【0035】
モータ30の固定子4に駆動電圧が供給されると、回転子3は、固定子4が発生する回転磁界からの回転力を受けて回転する。回転子3が回転すると、回転子3に固定されたクランクシャフト5が回転し、クランクシャフト5の第1の偏心部5a及び第2の偏心部5bが偏心回転する。第1の偏心部5aの偏心回転運動と連動して、第1の圧縮室10内で第1のローリングピストン11が偏心回転し、第1の圧縮室10の体積が縮小される。第2の偏心部5bの偏心回転運動と連動して、第2の圧縮室13内で第2のローリングピストン14が偏心回転し、第2の圧縮室13の体積が縮小される。
【0036】
第1の圧縮室10の体積が縮小されることによって、第1の冷媒配管16から第1の圧縮室10内に吸入された低圧のガス冷媒が、高圧のガス冷媒に圧縮され、密閉容器1内に吐出される。第2の圧縮室13の体積が縮小されることによって、第2の冷媒配管17から第2の圧縮室13内に吸入された低圧のガス冷媒が、高圧のガス冷媒に圧縮され、密閉容器1内に吐出される。密閉容器1内に吐出された高圧のガス冷媒は、吐出管18を介して冷凍サイクル回路の冷媒配管(図示せず)に吐出される。
【0037】
なお、本実施の形態1に係るロータリ圧縮機100では、第2の偏心部5bは、クランクシャフト5の中心軸に対し、第1の偏心部5aと180度対向するように配置されている。したがって、第2の圧縮室13での圧縮工程は、第1の圧縮室10での圧縮工程に対し、回転角で180度ずらすことができる。したがって、2シリンダ型のロータリ圧縮機100においては、クランクシャフト5の負荷を小さくし、信頼性を向上させることができる。また、クランクシャフト5の回転トルクの変動を小さくし、回転方向の振動を低減することができる。
【0038】
また、密閉容器1の底部に封入された冷凍機油2は、クランクシャフト5の回転による遠心力により、クランクシャフト5に設けられた中空穴5cから遠心ポンプの原理で吸い上げられる。中空穴5cに吸い上げられた冷凍機油2は、第1の給油穴5d〜第4の給油穴5gを通って潤滑油(潤滑材)として、圧縮機構部50に給油される。例えば、第1の給油穴5dからは、主軸受9の内径面とクランクシャフト5の外径面との間に冷凍機油2が供給される。第2の給油穴5eからは、第1の圧縮室10の内部に冷凍機油2が供給される。第3の給油穴5fからは、第2の圧縮室13の内部に冷凍機油2を供給される。第4の給油穴5gからは、副軸受12の内径面とクランクシャフト5の外径面との間に冷凍機油2が供給される。
【0039】
例えば、冷凍機油2が第2の給油穴5eを介して第1の圧縮室10の内部に給油されることにより、中間板8とクランクシャフト5との間の空隙部に冷凍機油2による油膜が形成される。油膜の形成により、第1の圧縮室10又は第2の圧縮室13からの冷媒の漏れが回避されるため、第1の圧縮室10又は第2の圧縮室13における圧縮性能を向上させることができる。また、油膜の形成により、中間板8の内径面とクランクシャフト5の外径面とが直接的に接触することを回避できるため、圧縮機構部50の損傷を防止することができる。
【0040】
また、冷凍機油2は、第1の給油穴5d及び第4の給油穴5gを介して、すべり軸受である主軸受9及び副軸受12の内径面に配置された転がり軸受19の内輪部19aと、クランクシャフト5の外径面との間のクリアランス20に給油される。クリアランス20に冷凍機油2が給油されることによって、図5(a)に示すように、クリアランス20にオイルシール70が形成される。オイルシール70が形成されることによって、クランクシャフト5は、転がり軸受19の内輪部19aと接触することなく回転運動する。すなわち、転がり軸受19はすべり軸受として機能することとなる。
【0041】
ここで、長期間運転しなかったために冷凍機油2が密閉容器1の底部に溜り、更に冷媒が液化して冷凍機油2に溶け込んでいる状態で、ロータリ圧縮機100を起動した場合を考える。ロータリ圧縮機100の起動時は、クリアランス20における冷凍機油2が枯渇した状態となり、図5(b)に示すように、クリアランス20には空洞90が形成される。クリアランス20に空洞90が形成された場合、クランクシャフト5の外径部は、転がり軸受19の内輪部19aと接触可能となる。クランクシャフト5の外径部が転がり軸受19の内輪部19aと接触したとき、転がり軸受19の内輪部19aは、クランクシャフト5と一体となって摺動する。すなわち、冷凍機油2が枯渇した状態では、転がり軸受19の内輪部19aは、転がり軸受19としての本来の機能を発揮する。
【0042】
なお、第1の圧縮室10又は第2の圧縮室13内に給油された冷凍機油2の一部は、第1の圧縮室10又は第2の圧縮室13で圧縮された高圧のガス冷媒と一緒に、第1の圧縮室10又は第2の圧縮室13から吐出される。吐出管18へ向かって流れる高圧のガス冷媒と冷凍機油2との混合流体は、クランクシャフト5上部に嵌められている油分離器15に衝突し、遠心力により冷媒と冷凍機油2とが分離され、冷凍機油2は密閉容器1の底部に戻される。すなわち、本実施の形態1に係るロータリ圧縮機100では、油分離器15の有する遠心分離構造によって、冷凍機油2が吐出管18を介して冷凍サイクル回路の冷媒配管(図示せず)に吐出されるのが抑制される。
【0043】
以上に説明したとおり、本実施の形態1に係るロータリ圧縮機100は、すべり軸受である主軸受9及び副軸受12の内径面に設けられた溝9aに転がり軸受19の外輪部19bが固定され、転がり軸受19の内輪部19aが摺動可能に支持され、内輪部19aに摺動可能に支持されたクランクシャフト5の外径面と、前記転がり軸受19の内輪部19aとの間にクリアランス20を有するものである。本実施の形態1に係るロータリ圧縮機100による効果について図6を用いて説明する。
【0044】
図6は、本発明の実施の形態1に係るロータリ圧縮機100の効果を概略的に示すグラフである。グラフの横軸は、クリアランス20における冷凍機油2の油量、すなわち、オイルシール70の厚さを示す。グラフの縦軸は摺動損失を示す。横軸における符号Aの領域は冷凍機油2が枯渇した状態、すなわち、クリアランス20に空洞90が形成された状態を示す。横軸における符号Bの領域は、冷凍機油2が潤沢な状態、すなわち、クリアランス20にオイルシール70が形成された状態を示す。符号Aと符号Bとの境界は、一点鎖線で示している。
【0045】
図6における実線は、本実施の形態1に係るロータリ圧縮機100における摺動損失を示すものである。図6の符号Aの領域における点線は、冷凍機油2が枯渇した状態において、従来の圧縮機の軸受がすべり軸受として機能する場合における摺動損失を示すものである。図6の符号Bの領域における二重線は、冷凍機油2が潤沢な状態において、従来の圧縮機の軸受が転がり軸受として機能する場合における摺動損失を示すものである。
【0046】
図6の点線のグラフに示すように、冷凍機油2が枯渇した状態において軸受がすべり軸受として機能する場合、回転軸と軸受とが直接接触するために、油膜が少なくなるに従い、摺動損失が大きくなる。そして、点線のグラフ上の×印の数値に摺動損失が達すると、シャフトと軸受との接触部分が損傷するといった問題があった。
【0047】
また、図6の二重線のグラフに示すように、冷凍機油2が潤沢な状態において軸受が転がり軸受として機能する場合、回転軸と軸受とが常に接触して摺動するため、すべり軸受を用いた場合と比較して、摺動損失が大きくなるという問題があった。
【0048】
これに対し、本実施の形態1に係るロータリ圧縮機100は、クランクシャフト5の外径面と転がり軸受19の内輪部19aとの間にクリアランス20を有している。
【0049】
冷凍機油2が枯渇した場合には、クリアランス20に空洞90が形成される。空洞90が形成された場合、クランクシャフト5の外径部は、転がり軸受19の内輪部19aと接触可能となる。クランクシャフト5の外径面は転がり軸受19の内輪部19aに接触したときに、転がり軸受19の内輪部19aと一体となり摺動する。すなわち、図6の領域Aの実線のグラフに示されるように、クランクシャフト5と転がり軸受19の内輪部19aが直接接触することで、摩擦係数は限りなく1に近くなり、転がり軸受19の内輪部19aは、転がり軸受19としての本来の機能を発揮する。
【0050】
一方、冷凍機油2が潤沢な場合は、クリアランス20にオイルシール70が形成される。オイルシール70が形成されることによって、クランクシャフト5の外径面と転がり軸受19の内輪部19aとの間の摩擦係数は低下する。すなわち、クランクシャフト5は、転がり軸受19の内輪部19aと接触することなく回転運動するため、図6の領域Bの実線のグラフに示されるように、転がり軸受19はすべり軸受として機能することとなる。
【0051】
以上のように、本実施の形態1のロータリ圧縮機100では、クリアランス20に形成されるオイルシール70の状態によって、すべり軸受としての機能及び転がり軸受としての本来の機能の両方の機能の利点を活かすことができ、部品損傷の低減と摺動損失の低減を両立することができる。よって、本実施の形態1によれば、クランクシャフト5とすべり軸受である主軸受9及び副軸受12との接触部分の損傷を防ぐとともに、摺動損失を低減することが可能なロータリ圧縮機100を提供することができる。
【0052】
また、本実施の形態1によれば、冷凍機油2が枯渇したときの耐力が大きく向上するため、長期使用可能なロータリ圧縮機100を提供することができ、ロータリ圧縮機100に封入する冷凍機油2の量を少なくすることができる。よって、本実施の形態1によれば、ロータリ圧縮機100から冷媒とともに吐出される冷凍機油2の量を低減することができる。ロータリ圧縮機100から吐出される冷凍機油2の量を低減することによって、例えば、冷凍サイクルの熱交換器における、冷凍機油2による熱交換の性能低下を回避することができる。
【0053】
また、本実施の形態1によれば、ロータリ圧縮機100に封入する冷凍機油2の量を少なくすることができるため、例えば油分離器15等の冷媒と冷凍機油2を分離する構造を無くすことも可能となる。したがって、本実施の形態1の構成は、ロータリ圧縮機100の小型化及び材料費の低減にも効果があるといえる。
【0054】
その他の実施の形態.
上述の実施の形態に限らず種々の変形が可能である。例えば、上述の実施の形態1ではロータリ圧縮機100を縦置型のものとしたが、横置型のものとしてもよい。
【0055】
また、上述の実施の形態1では、2シリンダ型のロータリ圧縮機100としたがこれに限られない。例えば、1シリンダ型のロータリ圧縮機100としてもよいし、3以上のシリンダを有するロータリ圧縮機100としてもよい。
【符号の説明】
【0056】
1 密閉容器、2 冷凍機油、3 回転子、4 固定子、5 クランクシャフト、5a 第1の偏心部、5b 第2の偏心部、5c 中空穴、5d 第1の給油穴、5e 第2の給油穴、5f 第3の給油穴、5g 第4の給油穴、6 第1のシリンダ、7 第2のシリンダ、8 中間板、9 主軸受、9a 溝、10 第1の圧縮室、11 第1のローリングピストン、12 副軸受、13 第2の圧縮室、14 第2のローリングピストン、15 油分離器、16 第1の冷媒配管、17 第2の冷媒配管、18 吐出管、19 転がり軸受、19a 内輪部、19b 外輪部、19c 転動体、20 クリアランス、30 モータ、50 圧縮機構部、70 オイルシール、90 空洞、100 ロータリ圧縮機。
図1
図2
図3
図4
図5
図6