(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
(1)放射線重合性モノマーとゲル化剤とを含み、放射線治療計画の検証に用いる予定の放射線重合性ゲル液に関して、治療用放射線照射量の変化と、治療用放射線照射によって形成されるポリマーの磁気共鳴画像(MRI)硬度の変化との相関関係を示す標準曲線を作成する工程、
(2)前記放射線重合性ゲル液を充填室に含むファントムに、放射線治療計画に沿って治療用放射線を照射して、前記充填室内に形成されたポリマーの3次元MRI硬度データを取得する工程、および
(3)前記標準曲線に基づいて、前記3次元MRI硬度データから、放射線照射量の3次元分布画像を求める工程
を含むこと、並びに
前記放射線重合性ゲル液の充填室が、前記放射線重合性ゲル液内に含まれる放射線重合性モノマーの重合反応を励起させる妨害光を遮断するが治療用放射線は通過させる妨害光遮断層で覆われている
ことを特徴とする、放射線照射量の3次元分布画像を取得する方法。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明によるファントムセットの代表的実施態様を図面に沿って説明した後、本発明による放射線治療計画検証方法について説明する。なお、
図2〜
図6に示す態様において、
図1に示す態様と同じ機能を有する部分は、同じ符号(参照番号)で示し、その詳細な説明を省略することがある。
【0015】
<ファントムセット>
図1に示す実施態様では、ファントムセット1Aは、ファントム本体部4と、ファントム蓋部6とを含む。
ファントム本体部4は、1側面を開口側面40Aとする大略6面体のハウジング40の内部に、放射線重合性ゲル液用または水用の充填室41を含む。
図1に示す前記充填室41は、立方体状空隙部であるが、前記充填室は、任意の形状、例えば、直方体状や円柱状の空隙部であることができる。ハウジング40は、前記充填室41の外側壁部に、水充填室45を備える。水充填室45への水の供給および水充填室45からの水の排出は、例えば、蓋キャップ46で開閉することのできる水供給排出口47から行うことができる。ハウジング40の外形は、人体の特定部位(例えば、頭部、胸部、または腹部)の輪郭と同様の形状にすることができる。ハウジング40の外側表面には、放射線照射を実施する際の可視マークとなる参照線48とその交点49を設けるのが好ましい。
【0016】
ファントム蓋部6は、前記ファントム本体部4の開口側面40Aを液体密封性封鎖が可能なプレート部61と、前記プレート部61に設けた3種類の開口部63,65,67と、それらの各開口部の液体密封性封鎖が可能な各々の蓋キャップ62,64,66とを含む。3種類の開口部は、水または放射線重合性ゲル液の供給排出開口部67、放射線重合性ゲル液試験管挿入用開口部65、および放射線量測定装置挿入用開口部63であり、これら3種類の開口部を3枚のプレート部にそれぞれ分散させて含むか、2枚のプレート部に集中ないし分散させて含むか、あるいは、1枚のプレート部に集中させて含むことができる。
【0017】
図1は、プレート部61が、3種類のプレート部の組合せ、すなわち、検証照射用蓋部61T、標準作成用蓋部61S、および線量測定用蓋部61Mの組合せからなる場合を示す。第1のプレート部である検証照射用蓋部61Tは、後述する放射線治療計画の検証工程の際、あるいはコンピュータ断層撮影(CT)検査工程の際に使用する蓋部であり、プレートの任意の位置、例えば、プレート周縁部(あるいはプレート中心部)に、放射線重合性ゲル液の供給排出開口部67Tを含み、前記供給排出開口部67Tの液体密封性封鎖が可能な蓋キャップ66Tを備える。供給排出開口部67Tは、前記充填室41へ放射線重合性ゲル液を注入し、あるいは前記充填室41から放射線重合性ゲル液を排出可能な位置であれば、限定されない。
【0018】
第2のプレート部である標準作成用蓋部61Sは、後述する標準曲線作成工程の際に使用する蓋部であり、プレート中心部に、放射線重合性ゲル液試験管5の液体密封性挿入が可能な開口部65を含み、前記試験管5を挿入しない際に前記試験管挿入用開口部65の液体密封性封鎖が可能な蓋キャップ64を備えると共に、プレート中心部以外の領域、例えば、プレート周縁部に、水の供給排出開口部67Sを含み、前記供給排出開口部67Sの液体密封性封鎖が可能な蓋キャップ66Sを備える。ゲル液試験管5は、放射線重合性ゲル液を充填可能で、試験管キャップ51によって液体密封性封鎖をすることができる。
【0019】
第3のプレート部である線量測定用蓋部61Mは、後述する放射線量測定工程の際に使用する蓋部であり、プレート中心部に、放射線量測定装置8の液体密封性挿入が可能な中心開口部63の少なくとも1つを含み、前記放射線量測定装置8を挿入しない際に前記放射線量測定装置挿入用開口部63の液体密封性封鎖が可能な蓋キャップ62を備える。線量測定用蓋部61Mは、前記の中心開口部63の周囲に、1つまたは2つ以上の周囲開口部を追加的に含むことができ、
図1に示す線量測定用蓋部61Mは、2つの周囲開口部63X,63Yおよび前記放射線量測定装置8を挿入しない際にそれらの液体密封性封鎖が可能な蓋キャップ62X,62Yを備える。線量測定用蓋部61Mは、プレート中心部以外の領域、例えば、プレート周縁部に、水または放射線重合性ゲル液の供給排出開口部67Mを含み、前記供給排出開口部67Mの液体密封性封鎖が可能な蓋キャップ66Mを備えることができる。中心開口部63は、中心部での放射線量測定に使用し、周囲開口部は、中心部から外れた位置の放射線量測定に使用することができる。
【0020】
図2に示す実施態様では、ファントムセット1Bは、プレート部61が、1種類のプレート部、すなわち、検証・標準・線量用蓋部61TSMからなる場合を示す。検証・標準・線量用蓋部61TSMは、後述する放射線治療計画の検証工程、コンピュータ断層撮影(CT)検査工程、標準曲線作成工程、および放射線量測定工程の際のいずれにも使用可能な蓋部であり、プレート中心部に、放射線重合性ゲル液試験管5および放射線量測定装置8の液体密封性挿入が可能な開口部65SMを含み、前記試験管5および前記測定装置8を挿入しない際に前記開口部65SMの液体密封性封鎖が可能な蓋キャップ64SMを備える。放射線重合性ゲル液試験管5と放射線量測定装置8とでは、一般的に口径が異なるので、口径調整用栓68Sとその口径調整用栓68Sの液体密封性封鎖が可能な蓋キャップ68Tを同時に備える。また、プレート中心部以外の領域、例えば、プレート周縁部に、水または放射線重合性ゲル液の供給排出開口部67SMを含み、前記供給排出開口部67SMの液体密封性封鎖が可能な蓋キャップ66SMを備える。
【0021】
図1に示す標準作成用蓋部61Sにおいて、水供給排出開口部67Sを放射線重合性ゲル液の供給排出開口部としても兼用することにより、前記試験管挿入用開口部65を蓋キャップ64で密閉した状態の標準作成用蓋部61Sを、
図1に示す検証照射用蓋部61Tとしても兼用することができる。同様に、
図1に示す線量測定用蓋部61Mにおいて、供給排出開口部67Mを放射線重合性ゲル液の供給排出開口部としても兼用することにより、中心開口部63および周囲開口部63X,63Yを蓋キャップ62および蓋キャップ62X,62Yで密閉した状態の線量測定用蓋部61Mを、
図1に示す検証照射用蓋部61Tとしても兼用することができる。
【0022】
本発明のファントムセットにおいて、ファントム本体部は、ファントム外箱とファントム内箱とからなることもでき、その代表的実施態様を
図3に示す。
図3に示すファントムセット1Cは、ファントム外箱2と、第1のファントム内箱としての標準内箱3と、ゲル液試験管5と、第2のファントム内箱としての検証/線量測定内箱7と、放射線量測定装置8とを含む。
【0023】
ファントム外箱2は、前記標準内箱3または前記検証/線量測定内箱7を、隙間なしに挿入することが可能な挿入室21を備える。前記標準内箱3の外側形状と、前記検証/線量測定内箱7の外側形状とは完全同一なので、挿入室21には、前記標準内箱3および前記検証/線量測定内箱7のいずれもが、隙間を開けずに挿入可能である。ファントム外箱2は、前記挿入室の外側に、水充填室25を備える。水充填室25への水の供給および排出は、例えば、蓋キャップ26で開閉することのできる水供給排出口27から行うことができる。ファントム外箱2の外形は、人体の特定部位(例えば、頭部、胸部、または腹部)の輪郭と同様の形状にすることができる。更に、ファントム外箱2の外側表面には、放射線照射を実施する際の可視マークとなる参照線28とその交点29を設けるのが好ましい。
【0024】
標準内箱3は、1面が開放されており、その開放面の液体密封性封鎖が可能な標準内箱蓋部32との組合せで用いることができ、ゲル液試験管5の挿入保持部33を有している。挿入保持部33は、標準内箱蓋部32に開口部34を有し、標準内箱蓋部32の内側に突出している。標準内箱3は、その内部に水充填室35を有し、水充填室35への水の供給および排出は、例えば、蓋キャップ36で開閉することのできる水供給排出口37から行うことができる。ゲル液試験管5は、放射線重合性ゲル液を充填可能で、試験管キャップ51によって液体密封性封鎖をすることができる。
【0025】
図3に示す挿入保持部33に替えて、
図4および
図5に示すように、標準内箱蓋部32に貫通孔34aを設けると共に、標準内箱3の奥の内側壁面38に係止窪み33aを設けることもできる。
図4に示す態様では、ゲル液試験管5を貫通孔34aから挿入し、ゲル液試験管5の先端部55を係止窪み33aに嵌めることにより、保持することができる。
図4に示す標準内箱蓋部32の貫通孔34aによってゲル液試験管5を保持可能な場合や、前記貫通孔34aに設けた適切な保持補助具(図示せず)を用いてゲル液試験管5を保持可能な場合は、標準内箱3の奥の内側壁面38に係止窪み33aを設ける必要はない。
図4および
図5に示す態様の標準内箱は、前記試験管挿入用開口部34を蓋キャップ64で密閉した状態で、検証内箱として使用することもできる。また、
図4および
図5に示す態様の標準内箱において、内側壁面38に係止窪み33aを有していない態様の標準内箱を検証内箱として使用することもできる。
【0026】
検証/線量測定内箱7は、標準内箱3と同様に、1面が開放されており、その開放面の液体密封性封鎖が可能な検証/線量測定蓋部72との組合せで用いることができる。検証/線量測定内箱7を検証内箱として使用する場合には、中心開口部63および周囲開口部63X,63Yを蓋キャップ62および蓋キャップ62X,62Yで液体密封性に密閉した状態とし、内部室75をゲル充填室として利用し、ゲル充填室75への放射線重合性ゲル液の供給および排出は、例えば、蓋キャップ76で開閉することのできるゲル供給排出口77から行うことができる。検証/線量測定内箱7を線量測定内箱として使用する場合には、中心開口部63または周囲開口部63X,63Yのいずれか1つの開口部から放射線量測定装置8を挿入し、内部室75に供給排出口77から水を入れずに、あるいは内部室75に水を充填した状態で、線量(例えば、照射線量)の測定を実施することができる。
【0027】
図3に示す本発明のファントムセット1Cは、1つのファントム外箱2に対して、1つの標準内箱3および1つの標準内箱蓋部32の組合せと、1つの検証/線量測定内箱7および1つの検証/線量測定蓋部72との組合せとで構成する。この点を、
図3では、矢印Aに沿ってファントム外箱2に標準内箱3を挿入し、矢印Bに沿って同じファントム外箱2に検証/線量測定内箱7を挿入することを示している。従って、標準内箱3と検証/線量測定内箱7とは、それらの外側形状は完全に同一形状であり、一方が立方体であれば、もう一方も同一形状の立方体であり、一方が直方体であれば、もう一方も同一形状の直方体である。
【0028】
図1に示す本発明のファントムセット1において、3種類の検証照射用蓋部61T、標準作成用蓋部61S、および線量測定用蓋部61Mのそれぞれに対応する3種類のファントム内箱を用意して使用することができる。また、
図1に示す本発明のファントムセット1において、3種類の検証照射用蓋部61T、標準作成用蓋部61S、および線量測定用蓋部61Mのいずれにも適用可能な2種または1種類のファントム内箱を用意して使用することもできる。同様に、
図2に示すように、1種類の検証・標準・線量用蓋部61TSMに対応する1種類のファントム内箱を用意して使用することも、1種類の検証・標準・線量用蓋部61TSMに対応する2種類または3種類のファントム内箱を用意して使用することもできる。更に、複数種類のファントム外箱と、1種ないし2種以上のファントム内箱および/または1種ないし2種以上の蓋部との組合せを用いることもできる。
【0029】
標準内箱と検証/線量測定内箱とが円柱状である態様を
図6に示す。
図6に示すファントムセット1Dは、円柱状ファントム外箱2Dと、円柱状標準内箱3Dと、ゲル液試験管5Dと、円柱状検証/線量測定内箱7Dと、放射線量測定装置8Dとを含む。
【0030】
ファントム外箱2Dは、前記標準内箱3Dまたは前記検証/線量測定内箱7Dを、隙間なしに挿入することが可能な挿入室21Dを備える。前記標準内箱3Dの円柱状の外側形状と、前記検証/線量測定内箱7Dの円柱状の外側形状とは完全同一である。ファントム外箱2Dは、前記挿入室の外側に、水充填室25Dを備えることができ、例えば、蓋キャップ26Dで開閉可能な水供給排出口27Dから水の供給および排出を行うことができる。ファントム外箱2Dの外形も、人体の一部の輪郭と同様の形状にすることができる。更に、ファントム外箱2Dの外側表面には、放射線照射を実施する際の可視マークとなる参照線28Dとその交点29Dを設けるのが好ましい。
【0031】
標準内箱3Dは、1面が開放されており、その開放面の液体密封性封鎖が可能な標準内箱蓋部32Dとの組合せで使用することができ、ゲル液試験管5Aの挿入保持部33Dを有している。挿入保持部33Dは、標準内箱蓋部32Dに中心開口部34Dを有し、標準内箱蓋部32Dの内側中央部に突出している。標準内箱3Dは、その内部に水充填室35Dを有し、水充填室35Dへの水の供給および排出は、例えば、蓋キャップ36Dで開閉することのできる水供給排出口37Dから行うことができる。ゲル液試験管5Aは、放射線重合性ゲル液を充填可能で、試験管キャップ51Dによって液体密封性に密閉することができる。
【0032】
検証/線量測定内箱7Dは、標準内箱3Dと同様に、1面が開放されており、その開放面の液体密封性封鎖が可能な検証/線量測定蓋部72Dとの組合せで使用することができ、その内部に水またはゲル充填室75Dを有し、水またはゲル充填室75Dへの水または放射線重合性ゲル液の供給および排出は、例えば、蓋キャップ76Dで開閉することのできる水/ゲル供給排出口77Dから行うことができる。検証/線量測定蓋部72Dは、プレート中心部に、放射線量測定装置8Dの液体密封性挿入が可能な中心開口部63Yと、その周囲に、1つまたは2つ以上の周囲開口部63X,63Yを追加的に含むことができる。検証/線量測定内箱7を検証内箱として使用する場合には、中心開口部63および周囲開口部63X,63Yを蓋キャップ62および蓋キャップ62X,62Yで液体密封性に密閉した状態とし、内部室75をゲル充填室として利用し、ゲル充填室75への放射線重合性ゲル液の供給および排出は、例えば、蓋キャップ76で開閉することのできるゲル供給排出口77から行うことができる。検証/線量測定内箱7を線量測定内箱として使用する場合には、中心開口部63または周囲開口部63X,63Yのいずれか1つの開口部から放射線量測定装置8を挿入し、内部室75に供給排出口77から水を入れずに、あるいは内部室75に水を充填した状態で、線量(例えば、照射線量)の測定を実施することができる。
【0033】
本発明によるファントムセットは、ゲル液試験管、およびファントム外箱またはファントム内箱のゲル充填室に、それぞれ、放射線重合性ゲル液を充填する。
本発明で用いる放射線重合性ゲル液は、従来公知の任意のゲル液を使用することができる。一般に、放射線重合性ゲル液は、放射線重合性モノマーとゲル化剤とを含み、更に、場合により脱酸素剤および/またはラジカル捕捉剤を含む。
【0034】
放射線重合性モノマーとしては、例えば、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸2−メトキシメチル、メタクリル酸2−エトキシエチル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、トリエチレングリコールモノエチルエーテルモノメタクリレート、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2−メトキシエチル、N−ビニルピロリドン、アクリルアミド、アクリロイルモルホリン、N−イソプロピルアクリルアミド、メタクリロイル−L−アラニンメチルエステル、アクリロイル−L−プロリンメチルエステルなどを挙げることができる。
また、ゲル化剤としては、例えば、アガロース、カラギーナン、ジェランガム、キサンタンガム、ゼラチンの天然高分子を挙げることができる。
更に、脱酸素剤としては、例えば、アスコルビン酸やテトラキスヒドロキシメチルホスホニウムクロリド(THPC)を挙げることができる。
更にまた、ラジカル捕捉剤としては、例えば、ハイドロキノン等のフリーラジカル捕捉剤を挙げることができる。
【0035】
本発明によるファントムセットにおいては、その中に充填される放射線重合性ゲル液の周囲を妨害光遮断層によって完全に包囲し、前記放射線重合性ゲル液内に含まれる放射線重合性モノマーの重合反応が妨害光によって励起されることを防止する。本発明による放射線治療計画検証方法で用いる特定の放射線重合性ゲル液に対する特定の妨害光は、前記放射線重合性ゲル液に、各種波長の光を照射して白濁を検出することによって簡単に同定することができる。一般的に使用されている放射線重合性ゲル液に対する妨害光は、例えば、波長10nm〜800nmの範囲の光(すなわち、紫外線および可視光線の範囲の光)であり、特には、波長10nm〜500nmの範囲の光(すなわち、青緑光ないし紫光から紫外線の範囲の光)である。なお、妨害光遮断層は、前記妨害光を完全に遮断するが、治療用放射線を透過させる必要がある。
【0036】
本発明によるファントムセットにおいて、ゲル液試験管、およびファントム外箱またはファントム内箱のゲル充填室の内部に充填された放射線重合性ゲル液は、それぞれ、妨害光遮断層によって完全に包囲される。前記妨害光遮断層は、前記妨害光による照射から完全に遮断することのできる位置に設ける。例えば、ファントム外箱の外側(又は内側)壁面全体、ファントム蓋部の外側壁面(又は内側)全体、および各蓋キャップの露出面全体に設けることができる。ファントム内箱を使用する場合には、妨害光遮断層をファントム外箱へ設ける代わりに、あるいはファントム外箱へ設ける妨害光遮断層に加えて、妨害光遮断層をファントム内箱の外側(又は内側)壁面全体に設けることもできる。
【0037】
本発明によるファントムセットにおいて、妨害光遮断層は、まず、放射線重合性ゲル液を充填したゲル液試験管をファントム外箱または標準内箱に挿入した際に、妨害光が放射線重合性ゲル液に到達しないように妨害光を完全に遮断する位置に設ける必要がある。また、放射線重合性ゲル液をファントム外箱または検証/線量測定内箱のゲル充填室に充填した際に、妨害光が放射線重合性ゲル液に到達しないように妨害光を完全に遮断する位置に設ける必要がある。
【0038】
例えば、
図1に示すファントムセット1Aの場合は、ファントム本体部4の全壁面と、検証照射用蓋部61Tおよび標準作成用蓋部61Sと、蓋キャップ62X,62Yと、試験管キャップ51とに妨害光遮断層を設け、放射線治療計画の検証工程および標準曲線作成工程の際に、ファントムセット1の全周囲が妨害光遮断層によって完全に包囲されるようにすることが好ましい。また、放射線量測定工程を、検証工程および標準曲線作成工程と同一条件下で実施する場合には、線量測定用蓋部61Mと、蓋キャップ62,62X,62Yとに妨害光遮断層を設けることが好ましい。
【0039】
図3に示す標準内箱3の場合には、標準内箱3の5面の全壁面と、標準内箱蓋部32と、蓋キャップ36と、試験管キャップ51とに妨害光遮断層を設け、標準内箱3の全周囲を完全に包囲することが好ましい。また、
図3に示す検証/線量測定内箱7の場合には、検証/線量測定内箱7と、検証/線量測定蓋部72と、蓋キャップ76とに妨害光遮断層を設け、検証/線量測定内箱7の全周囲を完全に包囲することが好ましい。なお、ファントム外箱2の挿入室21の開口部を除く全壁面に妨害光遮断層を設けることにより、標準内箱3の5面の全壁面の妨害光遮断層を省略し、更に、検証/線量測定内箱7の5面の全壁面の妨害光遮断層を省略することもできる。
図6に示すファントムセット1Dの場合も、
図3に示すファントムセット1Cと同様に、妨害光遮断層を設けることが好ましい。
【0040】
妨害光遮断層としては、従来公知の紫外線および青色光遮断材を用いることができ、例えば、紫外線吸収剤を樹脂に含有させたフィルム、または感光紙若しくは感光フィルム等の包装材に使用される遮光フィルムを、ファントム外箱やファントム蓋部、あるいはファントム内箱ないし各蓋キャップなどに貼り付けて設けるのが好ましい。
【0041】
妨害光遮断層を備える代わりに、ファントム外箱2、標準内箱3、検証/線量測定内箱7、ファントム蓋部、および各蓋キャップなどのそれら自体が、前記放射線重合性ゲル液内に含まれる放射線重合性モノマーの重合反応を励起させる妨害光を遮断するが治療用放射線は通過させる機能を有することもできる。
例えば、
図1に示すファントムセット1Aの場合は、ファントム本体部4の全壁部、検証照射用蓋部61Tおよび標準作成用蓋部61S、蓋キャップ62X,62Y、および/または試験管キャップ51の全体あるいは一部の層状部を黒色樹脂で成形することができる。
図3に示す標準内箱3の場合には、標準内箱3、標準内箱蓋部32、蓋キャップ36、試験管キャップ51の全体または一部の層状部を黒色樹脂で成形することができる。また、
図3に示す検証/線量測定内箱7の場合には、検証/線量測定内箱7、検証/線量測定蓋部72、および/または蓋キャップ76の全体または一部の層状部を黒色の樹脂で成形することができる。
なお、
図3に示す態様において、ファントム外箱2を黒色樹脂で成形することにより、標準内箱3を黒色樹脂で成形することを省略し、更に、検証/線量測定内箱7を黒色樹脂で成形することを省略することもできる。
図6に示すファントムセット1Aの場合も、
図1または
図3に示すファントムセットと同様に、妨害光遮断層を設けることが好ましい。
【0042】
3次元データを得るための放射線重合性ゲル液を使用することに加えて、2次元データを得るためのクロミックフィルムを併用することもできる。この場合には、ゲル充填室75に充填した放射線重合性ゲル液中に包囲されるように、2次元データを得るためのクロミックフィルムをゲル充填室75に設置することによって、放射線重合性ゲル液とクロミックフィルムとを同時に使用することが可能となる。
【0043】
<放射線治療計画検証方法>
次に、本発明による放射線治療計画検証方法について説明する。本発明による放射線治療計画検証方法は、本発明による放射線治療計画検証用ファントムセットを用いて実施することができるので、
図3に示すファントムセット1Cを用いる場合について具体的に説明する。
【0044】
<放射線重合性ゲル液準備工程>
本発明の検証方法においては、最初に、放射線重合性ゲル液を準備する。放射線重合性ゲル液は、前記の通り、ポリマーゲルタイプの線量計(ポリマーゲル線量計)として従来公知のゲル液を、従来公知の方法によって調製することができる。あるいは、市販品を用いることもできる。なお、放射線重合性ゲル液に含まれる放射線重合性モノマーは、紫外線や青色光によっても励起され重合反応を開始することがあるので、少なくともこれらの妨害光の影響を直接受けない条件下で、例えば、暗室ないし暗室相当の明室で調製することが好ましい。
【0045】
<標準曲線作成工程>
次に、放射線重合性ゲル液の一部を試料として、ゲル液試験管5に充填し、試験管キャップ51によって液体密封性に閉栓する。次に、放射線重合性ゲル液を充填したゲル液試験管5を、開口部34から挿入保持部33に挿入して固定し、水供給排出口37から水充填室35へ水を充填し、蓋キャップ36で閉栓する。なお、ゲル液試験管5の挿入前に、水充填室35への水の充填を先に実施してもよい。続いて、標準内箱3を、ファントム外箱2の挿入室21へ挿入する。前記挿入室21の周囲を取り囲む水充填室25に、水供給排出口27から水を充填する。水充填室25への水充填は、標準内箱3の挿入室21への挿入の前でも後でもよい。
【0046】
こうして組み立てられた標準用ファントム11Cを、使用予定の治療用放射線照射装置の治療台の患者予定位置に配置し、第1の所定量の治療用放射線を照射する。この照射により、ゲル液試験管5の中の放射線重合性ゲル液に含まれている放射線重合性モノマーが重合してポリマーを形成する。この標準用ファントム11を磁気共鳴画像診断装置(MRI)で分析し、第1の所定量に関する前記ポリマーの位置と硬度のデータを入手して記録する。重合反応後のMRI分析は、ファントム外箱2から取り出した標準内箱3に対して実施するか、あるいは、標準内箱3から取り出したゲル液試験管5に対して実施することもできる。
【0047】
続いて、前記放射線重合性ゲル液の別の試料についても同様の操作を実施する。すなわち、前記放射線重合性ゲル液の別の一部を試料として、新たにゲル液試験管5に充填し、試験管キャップ51によって液体密封性に閉栓し、標準内箱3の挿入保持部33に挿入して固定し、水充填室35へ水を充填する。続いて、標準内箱3を、ファントム外箱2の挿入室21へ挿入し、水充填室25に水を充填する。この標準用ファントム11を、治療用放射線照射装置の治療台の患者予定位置に配置し、第1の所定量とは異なる第2の所定量の治療用放射線を照射し、この標準用ファントム11を磁気共鳴画像診断装置(MRI)で分析し、第2の所定量に関する前記ポリマーの位置と硬度のデータを入手して記録する。前記と同様に、重合反応後のMRI分析は、ファントム外箱2から取り出した標準内箱3に対して実施するか、あるいは、標準内箱3から取り出したゲル液試験管5に対して実施することもできる。
【0048】
このように、各種の所定量の治療用放射線照射と、その各種所定量に対応するMRI検査によるポリマーの位置および硬度のデータを次々に入手し、使用予定の治療用放射線照射装置および使用予定の放射線重合性ゲル液に関して、積算放射線量と、放射線重合性ゲル液に形成されるポリマーの硬度との関係を示す標準曲線を作成することができる。
【0049】
<放射線量測定工程>
本発明方法は、使用予定の治療用放射線照射装置の放射線量(例えば、照射線量)を、放射線量測定装置(例えば、電離箱)によって測定する。
図3に示す本発明のファントムセット1Cを使用する場合は、検証/線量測定内箱7を、そのゲル充填室75が空の状態(水や放射線重合性ゲル液を充填していない状態)でファントム外箱2の挿入室21に収納し、検証/線量測定蓋部72でゲル充填室75を封鎖する。また、蓋キャップ62X,62Yによって開口部63X,63Yを閉栓することが好ましい。次に、中心開口部63から放射線量測定装置8を挿入した後、こうして組み立てられた標準用ファントム12Cを、使用予定の治療用放射線照射装置の治療台の患者予定位置に配置し、治療用放射線を照射して放射線量(例えば、照射線量)を測定する。なお、放射線量測定工程は、水または放射線重合性ゲル液のいずれかをゲル充填室75に充填した状態で実施することもできる。
必要により、中心開口部63の挿入に替えて、2つの周囲開口部63X,63Yのいずれか一方に放射線量測定装置(例えば、電離箱)を挿入した後、同様に治療用放射線を照射して放射線量(例えば、照射線量)を測定することができる。更に必要により、2つの周囲開口部63X,63Yの内の他方の開口部に放射線量測定装置(例えば、電離箱)を挿入した後、同様に治療用放射線を照射して放射線量(例えば、照射線量)を測定することができる。
こうして得られた放射線量(例えば、照射線量)を用いて、前記の標準曲線における積算放射線量を置き換えることにより、例えば、照射線量とポリマー硬度との関係を示す標準曲線を作成することができる。
【0050】
<コンピュータ断層撮影(CT)検査工程>
本発明方法では、コンピュータ断層撮影(CT)検査工程を実施することができる。このCT検査によって、使用予定の放射線重合性ゲル液の密度および外形輪郭のCTデータを得ることにより、放射線治療における治療用放射線の照射量および照射角度の決定に利用することができる。使用予定の放射線重合性ゲル液についての密度および外形輪郭が既に分かっている場合には、このCT検査工程を省略することができる。
図3に示すファントムセット1Cを用いてCT検査を実施する場合は、検証/線量測定内箱7と検証/線量測定蓋部72との組合せを用いることができる。なお、
図1に示すファントムセット1Aを用いてCT検査を実施する場合は、ファントム本体部4と検証照射用蓋部61Tとの組合せを用いることができる。
図3に示すファントムセット1Cを用いる場合は、使用予定の放射線重合性ゲル液で充填室75を充填し、全ての開口部63,63X,63Yを蓋キャップ62,62X,62Yで液体密封性に閉栓した後、ファントム外箱2の挿入室21に挿入する。前記挿入室21の周囲を取り囲む水充填室25に、水供給排出口27から水を充填する。水充填室25への水充填は、検証/線量測定内箱7の挿入室21への挿入の前でも後でもよい。こうして組み立てられたファントムをCT検査装置内に配置してCT検査を実施することができる。
【0051】
<治療用放射線照射工程>
図3に示すファントムセット1Aを用いて治療用放射線照射工程を実施する場合は、検証/線量測定内箱7と検証/線量測定蓋部72との組合せを用いることができる。なお、
図1に示すファントムセット1を用いて治療用放射線照射工程を実施する場合は、ファントム本体部4と検証照射用蓋部61Tとの組合せを用いることができる。
図3に示すファントムセット1Aを用いる場合は、使用予定の放射線重合性ゲル液で充填室72を充填し、全ての開口部63,63X,63Yを蓋キャップ62,62X,62Yで液体密封性に閉栓した後、ファントム外箱2の挿入室21に挿入する。前記挿入室21の周囲を取り囲む水充填室25に、水供給排出口27から水を充填する。水充填室25への水充填は、検証/線量測定内箱7の挿入室21への挿入の前でも後でもよい。こうして組み立てられたファントムを、使用予定の治療用放射線照射装置の治療台の患者予定位置に配置し、個々の患者に即して策定した放射線治療計画に沿って治療用放射線を照射する。この照射により、ゲル充填室75の中の放射線重合性ゲル液に含まれている放射線重合性モノマーが重合してポリマーを形成する。ポリマーは、放射線が照射された位置で、そのまま形成され、しかも照射された放射線量に比例する硬度を伴う。従って、充填室75の内部には、放射線治療計画による治療用放射線照射の3次元的位置をそのまま反映した位置に、放射線治療計画による治療用放射線照射の強度を反映した硬度を有するポリマー3次元構造体が形成される。
【0052】
<MRI検査工程>
治療用放射線照射工程によって形成されたポリマー3次元構造体の立体構造および硬度データを、磁気共鳴画像診断装置(MRI)によって分析して入手することができる。本発明方法で用いるファントムは、内部に充填されている放射線重合性ゲル液が妨害光遮断層で完全に覆われているので、前記の治療用放射線照射工程において照射された放射線以外の光線による重合反応励起を受けることがなく、従って、治療用放射線照射工程の終了からMRI検査工程の開始までの経時変化を考慮する必要がない。また、前記の標準曲線作成工程、CT検査工程、治療用放射線照射工程、およびMRI検査工程は、全て暗室で実施する必要はなく、明室で実施することができる。
【0053】
<検証工程>
前記MRI検査工程で得られた3次元データと、個々の患者に即して策定した放射線治療計画の3次元データ(例えば、CT検査などのがん検査に基づく3次元データ)とを比較して、検証する。この比較検証には、放射線量測定工程で得た放射線量(例えば、照射線量)のデータや、CT検査工程で得た密度および外形輪郭のCTデータを利用することもできる。
この検証により、使用予定の治療用放射線照射装置にひずみなどがある場合には、実際の治療用放射線照射の前に、修正することができる。また、3次元データでの検証が可能なので、測定誤差を最小化することができる。
【符号の説明】
【0055】
1・・・ファントムセット;2・・・ファントム外箱;
2A・・・円柱状ファントム外箱;3・・・標準内箱;4・・・ファントム本体部;
5・・・放射線重合性ゲル液試験管;
6・・・ファントム蓋部;7・・・検証/線量測定内箱;8・・・放射線量測定装置;
11・・・標準用ファントム;21・・・挿入室;25・・・水充填室;
26・・・蓋キャップ;27・・・水供給排出口;28・・・参照線;29・・・交点;
32・・・標準内箱蓋部;33・・・挿入保持部;33a・・・係止窪み;
34・・・開口部;34a・・・貫通孔;35・・・水充填室;36・・・蓋キャップ;
37・・・水供給排出口;38・・・内側壁面;40・・・ハウジング;
40A・・・開口側面;41・・・放射線重合性ゲル液用または水用の充填室;
45・・・水充填室;46・・・蓋キャップ;47・・・水供給排出口;
48・・・参照線;49・・・交点;61・・・プレート部;
61M・・・線量測定用蓋部;61S・・・標準作成用蓋部;
61T・・・検証照射用蓋部;62・・・蓋キャップ;63・・・中心開口部;
64・・・蓋キャップ;65・・・開口部;66S・・・蓋キャップ;
66M・・・蓋キャップ;67S・・・水の供給排出開口部;
67M・・・水または放射線重合性ゲル液の供給排出開口部;
72・・・検証/線量測定蓋部;75・・・内部室;76・・・蓋キャップ;
77・・・ゲル供給排出口;