(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照して本発明に係る実施形態を説明する。本実施形態は、本発明を限定するものではない。
【0010】
(第1の実施形態)
図1は、第1の実施形態による列車制御システム100の構成の一例を示す図である。列車1は、単数の電気車または複数の電気車を連結して編成されており、方向Drへ走行している。列車1は、線路2上を走行しており、駅のホーム3において停車しようとしている。
【0011】
ホーム3またはホーム3に並んで設置された線路には、第1の通信部としてのトランスポンダ開地上子(以下、開地上子ともいう)21および第2の通信部としてのトランスポンダ閉地上子(以下、閉地上子ともいう)22が配置されている。開地上子21は、ホーム3の一端付近に設けられており、閉地上子22はホーム3の他端付近に設けられている。開地上子21、閉地上子22は、車上子70が開地上子21、閉地上子22の上を通過するときに、列車1に配置されているトランスポンダ車上子(以下、車上子ともいう)70と通信することができる。列車1の演算処理部15は、開地上子21、閉地上子22からの情報を得て、列車1のドア(図示せず)の開扉方向を判断し、並びに、ドアの開扉の許可を判断する。尚、開扉方向とは、例えば、列車1の進行方向Drに対して右側または左側のいずれか、または、両方を示す。以下、右側および左側は、第1側および第2側ともいう。
【0012】
列車1は、車上子10と、車輪12と、演算処理部15と、速度発電機(Tacho-Generator)17と、記憶部20と、表示部30と、扉制御部40と、扉開閉スイッチ50と、停車検知部60と、運行情報受信部80とを備えている。
【0013】
車上通信部としての車上子10は、開地上子21、閉地上子22と通信可能であり、列車1の先端から後端までのいずれかの位置に配置されている。列車1の後端から車上子10までの距離を第1距離D1とし、列車1の先端から車上子10までの距離を第2距離D2とする。この場合、列車1の全長は、D1+D2となる。第1距離D1および第2距離D2は、後述するように、演算処理部15が列車1の開扉許可を判断するために用いられる。車上子10は、列車1に少なくとも1つ配置すればよい。ここでは、車上子10は、1編成の列車1に1つだけ配置されているものとして説明する。尚、複数の車上子10が列車1に配置されている場合、複数の車上子10のうち1つの車上子10に着目して考えればよい。
【0014】
本実施形態において、トランスポンダ地上子を送信部として用い、トランスポンダ車上子を受信部として用いている。しかし、送信部および受信部は、トランスポンダ以外の送受信装置でもよい。例えば、送信部および受信部は、RFID(Radio Frequency Identifier)、または、レーザ送受信装置であってもよい。
【0015】
演算処理部15は、地上子21、22から得られた情報、運行情報受信部80から得られた情報、記憶部20に格納されている情報等に基づいて、ホーム3に対する列車1の停車位置を判断する。地上子21、22および/または運行情報受信部80から得られる情報は、例えば、列車1の開扉方向、列車1が停車しようとする駅コードや番線コード、列車1が停車しようとするホーム3における地上子21と地上子22との間の距離L等である。尚、距離Lは、駅またはホームに固有の数値である。従って、車上子10が開地上子21上を通過する際に車上子10が距離Lの情報を開地上子21から獲得すればよい。演算処理部15は、これらの情報を用いて得られた上記停車位置に基づいて、開扉を許可してよいかどうかを判断する。列車1のドアの開扉の許可判断については、後で説明する。また、演算処理部15は、列車1の構成要素のその他の動作の制御も行う。
【0016】
速度発電機17は、車輪12の軸に設けられており、列車1の速度または走行距離を測定するために用いられる。速度発電機17は、例えば、車輪12の回転に従ってパルスを出力する。速度発電機17または演算処理部15は、或る期間におけるパルス数をカウントすることによって、列車1の速度または走行距離を算出することができる。
【0017】
記憶部20は、列車1の運行に必要な情報、あるいは、上記開扉の許可判断のために必要な情報を格納する。例えば、記憶部20は、第1距離D1および第2距離D2を格納する。第1距離D1および第2距離D2は、列車1の固有の情報であるので、記憶部20に予め格納することができる。
【0018】
表示部30は、運転室または車掌室に設けられており、運転手または車掌(以下、乗務員という)に様々な情報を提示する。例えば、表示部30は、列車1のドアの開扉の許否情報、開扉方向の情報(例えば、第1側または第2側)等を表示する。また、表示部30は、列車1の開扉を禁止した場合に警報等を表示してもよい。列車1の開扉を禁止した場合、表示部30とは別に設けられた警報部がアラームを表示あるいは発してもよい。
【0019】
扉制御部40は、演算処理部15の制御を受けて、列車1のドアの開/閉を制御する制御回路である。列車1のドアは、扉制御部40に指令を受けて動作する。
【0020】
扉開閉スイッチ50は、列車1のドアを開き、あるいは、閉じるときに乗務員が操作するスイッチである。扉開閉スイッチ50は、第1側と第2側とで別々に設けられている。乗務員が第1側(例えば、右側)の扉開閉スイッチ50を操作することによって、列車1の第1側のドアを開閉することができ、乗務員が第2側(例えば、左側)の扉開閉スイッチ50を操作することによって、列車1の第2側のドアを開閉することができる。
【0021】
停車検知部60は、列車1が停車したことを検知し、演算処理部15へ停車したことを示す信号を送信する。
【0022】
運行情報受信部80は、外部のATS(Automatic Train Stop)、ATC(Automatic Train Control)等からの情報、ホーム3の識別子(例えば、駅コードや番線コード)、ホーム3の臨時工事情報、運転台からのノッチ指令等を受けて演算処理部15へ送る。これらの情報は、表示部30に表示させてもよい。
【0023】
次に、本実施形態による列車制御システム100の動作の一例を説明する。
【0024】
列車1がホーム3で停止してドアを開扉する際、列車1の両端は、開地上子21と閉地上子22との間にある必要がある。即ち、開地上子21と閉地上子22との間の距離をLとすると、列車1は、乗客の安全上の観点から距離Lの区間(開扉許可範囲)内で停止しなければドアを開扉してはならない。
【0025】
列車1が開扉許可範囲内にあることを検知するために、演算処理部15は、車上子10が開地上子21の直上を通過してからの列車1の走行距離の測定値Dtを用いる。例えば、演算処理部15は、Dtが式1を満たすか否かを判断することによって、列車1が開地上子21と閉地上子22との間にあることと判断する。
【0026】
D1≦Dt≦L−D2 (式1)
図2(A)〜
図2(C)を参照して式1を説明する。
図2(A)〜
図2(C)は、列車1の開扉許可範囲を示す図である。開扉許可範囲は、ホーム3における開地上子21と閉地上子22との間の距離Lの区間である。
【0027】
まず、列車1がホーム3に進入し、車上子10が開地上子21の直上を通過する。その後、列車1が列車1の後端から車上子10までの第1距離D1だけ走行したときに、列車1の車両全体が開扉許可範囲内に入る(
図2(A))。即ち、列車1の後端が開地上子21の直上を通過し、列車1の車両全体が開扉許可範囲内に入る。
【0028】
次に、列車1が開扉許可範囲内を進行すると、
図2(B)に示す状態となる。さらに、車上子10が開地上子21の直上を通過してから列車1がL−D2だけ進行すると、
図2(C)に示すように、列車1の先端が閉地上子21の直上に来る。この後、列車1の先端は開扉許可範囲から出てしまう。
【0029】
このように、列車1の全体が開扉許可範囲内に入っている期間は、
図2(A)に示す状態から
図2(C)に示す状態までの期間である。即ち、車上子10が開地上子21の直上を通過してからの走行距離の測定値Dtが、第1距離D1以上であり、かつ、L−D2以下であることが必要となる。従って、演算処理部15は、測定値Dtが上記式1を満たすことを開扉許可の条件とする。
【0030】
列車1が停止したときに、測定値Dtが上記式1を満たす場合、演算処理部15は、列車1のドアの開扉を許可する。一方、測定値Dtが上記式1を満たさない場合、演算処理部15は、列車1のドアの開扉を禁止する。
【0031】
勿論、上記式1は、必要条件であり、十分条件ではない。従って、列車1のドアが実際に開扉するためには、停車検知部60が列車1の停車を検知していること、乗務員が扉開閉スイッチ50を正しく押すこと等の条件がさらに必要となる。例えば、車上子10が開地上子21の直上を通過する際に、車上子10は、開地上子21から列車の開扉方向情報を受け取る。開扉方向情報は、列車1のドアの開扉方向を示す情報であり、例えば、列車1の進行方向Drに対して右側または左側のいずれか、または、両方を示す情報である。演算処理部15は、開扉方向情報に基づいて、列車1の左右の扉のうちいずれか一方または両方を開扉可能とする。乗務員が扉開閉スイッチ50の開扉方向を正しく操作した場合には、演算処理部15は、列車1のドアを開扉する。一方、乗務員が扉開閉スイッチ50の開扉方向を誤って操作した場合には、演算処理部15は、列車1のドアを開扉すること無く、表示部30に警報を表示する。
【0032】
このように、本実施形態では、演算処理部15は、第1距離D1、第2距離D2、および、列車の走行距離の測定値Dtに基づいて、列車1の開扉の許可を判断する。これにより、列車1における車上子10の設置個数は少なくとも1つで足りる。また、車上子10の設置位置は、列車1の先端近傍または後端近傍である必要は無く、列車1の先端と後端との間の任意の位置に配置することができる。車上子10の設置位置を変更する場合には、記憶部20に格納される第1距離D1および第2距離D2の情報を、車上子10の設置位置に応じて変更すればよい。このように、本実施形態によれば、車上子10の設置個数および設置位置の自由度を高めることができる。その結果、互いに異なる路線間において、互いに異なる車種の列車の交互乗り入れが容易になる。
【0033】
(変形例1)
図3は、第1の実施形態の変形例1による列車制御システム100の一例を示す図である。変形例1では、地上子23(以下、停目地上子23ともいう)が停止目標位置24から第2距離D2だけ手前(列車1の進行方向Drと逆方向)に設けられている。
【0034】
停止目標位置24は、列車1をホーム3に停車させる際に、列車1の先端の停止目標となる位置である。尚、開地上子21から停止目標位置24までの距離をLsとする。距離Lsは、駅またはホーム3に固有の数値である。従って、車上子10が開地上子21上を通過する際に車上子10が距離Lsの情報を開地上子21から獲得すればよい。
【0035】
停目地上子23は、列車1が停止目標位置24に停止したときに車上子10が停目地上子23の直上に来るように配置されている。ここで、車上子10は、列車1の先端から第2距離D2だけ後方に位置する。従って、停目地上子23は、停止目標位置24から列車1の進行方向Drと逆方向に第2距離D2だけ移動させた位置(以下、車上子目標位置ともいう)に配置される。変形例1のその他の構成は、第1の実施形態の対応する構成と同様でよい。
【0036】
変形例1では、演算処理部15は、列車1の先端が停止目標位置24から所定の範囲内に停止したときに、列車1の開扉を許可する。即ち、車上子10が停目地上子23(車上子目標位置)の前後の所定範囲内にあるときに、演算処理部15は、列車1の開扉を許可する。この場合、列車1の先端についての開扉可能範囲は、例えば、停止目標位置24より列車1の後方側に許容誤差Δ1だけずれた位置P24−1と、停止目標位置24より列車1の前方側に許容誤差Δ2だけずれた位置P24−2との間の範囲となる。また、車上子10についての開扉可能範囲は、例えば、車上子目標位置23より列車1の後方側に許容誤差Δ1だけずれた位置P23−1と、車上子目標位置23より列車1の前方側に許容誤差Δ2だけずれた位置P23−2との間の範囲となる。
【0037】
演算処理部15は、列車1がこのような開扉可能範囲に停車したか否かを判断するために、走行距離の測定値Dtが式2を満たすか否かを判断する。開扉可能範囲に列車1は停車したときに、演算処理部15は、列車1の開扉を許可する。
【0038】
Ls−D2−Δ1≦Dt≦Ls−D2+Δ2 (式2)
ここで、
図3に示すように、Ls−D2は、車上子目標位置23を示す。従って、車上子10がP23−1〜P23−2の開扉可能範囲内に入るためには、Dtは、式2を満たす必要があることがわかる。式2を満たすとき、列車1の先端は、P24−1〜P24−2の開扉可能範囲内に入っている。
【0039】
変形例1では、列車1が停止したときに、測定値Dtが上記式2を満たす場合、演算処理部15は、列車1のドアの開扉を許可する。一方、測定値Dtが上記式2を満たさない場合、演算処理部15は、列車1のドアの開扉を禁止する。勿論、上記式2も、式1と同様に必要条件であり、十分条件ではない。従って、停車検知部60が列車1の停車を検知していること、乗務員が扉開閉スイッチ50を正しく押すこと等の条件を満たすことで、列車1のドアが実際に開扉され得る。
【0040】
変形例1のように停目地上子23を用いて開扉可能範囲を停止目標位置に周辺に設定しても、列車制御システム100は、第1の実施形態と同様の効果を得ることができる。尚、本変形例では、車上子目標位置に停目地上子23が設けられているが、測定値Dtは、開地上子21と車上子10とで得ることができるので、停目地上子23は、必ずしも設けられていなくてもよい。この場合であっても、測定値Dtを得ることができるので、演算処理部15は、式2に基づいて列車1の先端がP24−1〜P24−2の開扉可能範囲内に入っていることを判断することができる。
【0041】
(変形例2)
第1の実施形態および変形例1では、距離LまたはLsは、車上子10が開地上子21の直上を通過する際に、開地上子21から車上子10へ送信されている。
【0042】
変形例2では、記憶部20が、駅やホーム3の識別子と距離Lまたは距離Lsとの対応関係を示すテーブル、あるいは、駅やホーム3の識別子とDtの開扉許可範囲との対応関係を示すテーブルを予め格納する。駅やホーム3の識別子は、駅コードあるいは番線コードである。駅コードあるいは番線コードは、上述のように運行情報受信部80および/または開地上子21から得ることができる。
【0043】
例えば、或る駅またはホームの距離LまたはLsは、その駅またはホーム固有の数値である。従って、駅やホーム3の識別子と距離Lまたは距離Lsとは、互いに関連付けて記憶部20にテーブルとして格納することができる。そして、演算処理部15は、駅コードあるいは番線コードによって、その駅または番線(ホーム)に対応する距離LまたはLsをテーブルから得ることができる。
【0044】
また、例えば、或る駅またはホーム3におけるDtの開扉許可範囲は、上記式1または式2で表され、その駅またはホーム固有の範囲である。従って、駅やホーム3の識別子とDtの開扉許可範囲とは、互いに関連付けて記憶部20にテーブルとして格納することができる。そして、演算処理部15は、駅コードあるいは番線コードによって、その駅または番線(ホーム)に対応する開扉許可範囲(式1または式2)をテーブルから得ることができる。
【0045】
このように、変形例2では、駅コードあるいは番線コードによって、テーブルから距離LまたはLsを得て、列車1の開扉の許可を判断することができる。あるいは、駅コードあるいは番線コードによって、テーブルからDtの開扉許可範囲を得て、列車1の開扉の許可を判断することができる。開扉許可の判断は、第1の実施形態または変形例1のそれと同じでよい。従って、変形例2も第1の実施形態または変形例1と同様の効果を得ることができる。
【0046】
(変形例3)
例えば、駅のホーム3が工事中である場合、ホーム3における停止目標位置が臨時で変更される場合がある。この場合、運行情報受信部80は、駅のホーム3の臨時停止目標位置を受信する。演算処理部15は、駅のホーム3での列車1の停止目標位置を臨時停止目標位置に変更して列車1の開扉の許可を判断すればよい。
【0047】
また、このような場合、ホーム3における開扉許可範囲についても臨時で変更される場合がある。この場合、運行情報受信部80は、駅のホーム3の臨時開扉許可範囲を受信する。演算処理部15は、駅のホーム3での列車1の開扉許可範囲を臨時開扉許可範囲に変更して列車1の開扉の許可を判断すればよい。
【0048】
開扉許可の判断は、第1の実施形態または変形例1のそれと同じでよい。従って、変形例3も第1の実施形態または変形例1と同様の効果を得ることができる。変形例3は、変形例2と組み合わせてもよい。
【0049】
(変形例4)
速度発電機17によって測定される走行距離Dtは、実際の走行距離に対して誤差が生じる。このような測定誤差は、列車1固有のものであり、或る程度推測することができる。そこで、変形例4では、車上子10が開地上子21上を通過してからの列車1の走行距離について、測定値Dtと実際の走行距離との測定誤差Δerrを記憶部20に予め格納する。そして、演算処理部15は、測定誤差Δerrを用いて列車1の開扉の許可判断の可否を判断する。
【0050】
例えば、測定誤差Δerrが地上子21と地上子22との間の距離Lと列車1の長さ(D1+D2)との差よりも大きい場合、上記式1を満たしていても、列車1は実際には開扉許可範囲外に停止している可能性がある。即ち、測定値Dtの精度が低いか、距離Lが小さいか、あるいは、列車1の長さが長いことによって、式3が成立する状態である場合、演算処理部15は、列車1のドアの開扉の許可を判断することはできない。
【0051】
L−(D1+D2)<Δerr (式3)
この場合、演算処理部15は、アラームを表示または出力し、列車1のドアの開扉の許可を判断しない。即ち、演算処理部15は、ホーム検知不可を出力し、式1以外の他の条件を用いて開扉を許可する。例えば、停車検知部60が列車1の停止を検知し、かつ、乗務員が扉開閉スイッチ50を操作することによって、演算処理部150は、列車1のドアを開扉する。尚、このとき、列車1のドアの開扉方向は、開地上子21からすでに得られるため、演算処理部15は、その開扉方向(第1側または第2側のいずれかまたは両方)に従って開扉を許可する。
【0052】
一方、測定誤差ΔerrがL−(D1+D2)より小さく、式3が成立しない場合、演算処理部15は、第1の実施形態と同様に、式1を用いて列車1のドアの開扉の許可を判断することができる。
【0053】
このように、変形例4では、演算処理部15は、距離L、D1、D2だけでなく、測定誤差Δerrを考慮して、列車1の開扉の許可判断の可否を判断することができる。変形例4は、さらに第1の実施形態の効果も得ることができる。
【0054】
変形例4は、変形例2と組み合わせてもよい。
【0055】
(変形例5)
変形例5では、変形例4と同様に、測定誤差Δerrを記憶部20に予め格納する。さらに、変形例5による演算処理部15は、車輪12が滑走または空転している期間に列車1の進んだ距離の推定値(滑走推定値)Δslを求める。そして、演算処理部15は、測定誤差Δerrおよび滑走推定値Δslを用いて列車1の開扉の許可判断の可否を判断する。車輪12の滑走または空転の検知技術は、特開2003−164016号公報および特開2004−173399号公報に記載されている技術を用いればよい。
【0056】
これらの滑走または空転検知技術によって、演算処理部15は、車輪12が滑走または空転している期間Tslを検出できる。また、演算処理部15は、車輪12が滑走または空転を開始および終了した時点のいずれか速い方の列車1の速度Vslも得ることができる。これにより、演算処理部15は、滑走推定値ΔslをTsl×Vslと演算することができる。
【0057】
例えば、測定誤差Δerrが開地上子21と閉地上子22との間の距離Lから列車1の長さ(D1+D2)および滑走推定値Δslを減算した値(L−(D1+D2)−Δsl)よりも大きい場合、上記式1を満たしていても、列車1は実際には開扉許可範囲外に停止している可能性がある。即ち、測定値Dtの精度が低いか、距離Lが小さいか、列車1の長さが長いか、あるいは、滑走推定値Δslが大きいことによって、式4が成立する場合、演算処理部15は、列車1のドアの開扉の許可を判断しない。
【0058】
L−(D1+D2)−Δsl<Δerr (式4)
この場合、演算処理部15は、アラームを表示または出力し、列車1のドアの開扉の許可を判断しない。即ち、演算処理部15は、ホーム検知不可を出力し、式1以外の他の条件を用いて開扉を許可する。例えば、停車検知部60が列車1の停止を検知し、かつ、乗務員が扉開閉スイッチ50を操作することによって、演算処理部10は、列車1のドアを開扉する。尚、このとき、列車1のドアの開扉方向は、開地上子21からすでに得られるため、演算処理部15は、その開扉方向(第1側または第2側のいずれかまたは両方)に従って開扉を許可する。
【0059】
一方、測定誤差ΔerrがL−(D1+D2)−Δslより小さい場合、演算処理部15は、第1の実施形態と同様に、式1を用いて列車1のドアの開扉の許可を判断することができる。
【0060】
このように、変形例5では、演算処理部15は、測定誤差Δerr、距離L、D1、D2だけで無く、さらに、車輪12の滑走期間または空転期間における滑走推定値Δslを考慮して、列車1の開扉の許可判断の可否を判断する。これにより、列車1の車輪12の滑走または空転により走行距離の測定値Dtにズレが生じた場合に、演算処理部15は、列車1の開扉を誤って許可してしまうことを抑制することできる。変形例5は、さらに第1の実施形態の効果も得ることができる。
【0061】
変形例5は、変形例2と組み合わせてもよい。
【0062】
(変形例6)
変形例6では、表示部30が、ブレーキ指示情報を表示する。ブレーキ指示情報は、例えば、列車1を停止目標位置24に停止させるために運転手が選択すべきブレーキノッチの段数を示す情報である。運転手は、ブレーキ指示情報に従って操作レバーを操作することによって列車1を停止目標位置24に停止させることができる。
【0063】
演算処理部15は、車上子10が開地上子21の直上を通過したときの速度と開地上子21から停止目標位置24までの距離Lsとに基づいて適切なブレーキノッチの段数をブレーキ指示情報として表示部30に示す。表示部30は、列車1がホーム3へ進入し、車上子10が開地上子21の直上を通過した時点からブレーキ指示情報を表示すればよい。
【0064】
変形例6によれば、運転手は、表示部30に表示されるブレーキ指示情報に従って操作レバーを操作すれば、列車1を停止目標位置24に停止させることができる。
【0065】
(変形例7)
停目地上子23は、無電源地上子であってもよく、有電源地上子であってもよい。例えば、停目地上子23が無電源地上子である場合、車上子10は、停目地上子23の通信可能範囲内で停止したときに停目地上子23を検知することができる。これにより、車上子10がホーム3での列車1の停止目標位置24から第2距離D2だけ後方にずれた車上子目標位置の近傍に停止し、停目地上子23を検知可能である場合、演算処理部15は、列車1の開扉を許可する。
【0066】
停目地上子23が有電源地上子である場合、車上子10は、停目地上子23を検知するだけでなく、停目地上子23と通信することができる。例えば、車上子10は、開扉許可条件を停目地上子23から得てもよい。開扉許可条件は、例えば、式1〜式4のいずれか、あるいは、駅コード、番線コード、または、地上子設置位置(キロ程)コード等である。さらに、ホームドアの設けられた駅においては、車上子10は、ホームドア開閉動作の許可条件を有電源地上子23に送信することができる。
【0067】
このように、停目地上子23が無電源地上子あるいは有電源地上子であっても第1の実施形態あるいは上記変形例の効果は失われない。
【0068】
尚、車上子10が地上子21〜23の直上を通過する時点は、車上子10における地上子21〜23の電波波形がピークとなる時点とすればよい。これにより、演算処理部15は、車上子10が地上子21〜23の直上を通過する時点を検知することができる。
【0069】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。