【実施例】
【0056】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0057】
[実施例1]
以下の合成スキーム1に従って、本発明の化合物(1)6−(ベンジルオキシ)−3−(4,7−ジメトキシベンゾ[d][1,3]ジオキソール−5−イル)−7−メトキシ−4H−クロメン−4−オン(化合物A)を合成した。
【0058】
合成スキーム1
【0059】
(1)化合物1の合成
【0060】
市販の1−(2−ヒドロキシ−4−メトキシフェニル)エタン−1−オン502mg(3.02mmol)を1.45M水酸化ナトリウム水溶液15.0mL(21.8mmol、7.2eq.)、ピリジン15mLに溶解させる。この溶液に0.16Mペルオキソ二硫酸カリウム水溶液36mL(5.8mmol、1.9eq.)を0℃で加える。この溶液を室温で12時間撹拌する。反応終了後、反応溶液を0℃に冷却し、濃塩酸を用いてpH=1にする。この溶液に塩化ナトリウム10gを加え、エチルエーテル60mLで5回抽出する。有機層を合わせ,溶媒を減圧下留去する。残渣に濃塩酸20mLを加え、100℃で45分間加熱還流する。室温まで冷却した後、水30mLを加え、酢酸エチル60mLで5回抽出する。有機層を合わせ、飽和食塩水で洗浄する。有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥し、乾燥剤を濾過により取り除いた後に溶媒を減圧下留去する。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=15:1→5:1)で精製し、1−(2,5−ジヒドロキシ−4−メトキシフェニル)エタン−1−オン15.3mgを得た。
【0061】
1H NMR (400 MHz, CDCl
3) δ 12.48 (s, 1H), 7.21 (s, 1H), 6.44 (s, 1H), 5.23 (br s, 1H), 3.93 (s, 3H), 2.52 (s, 3H);
13C NMR (100 MHz, CDCl
3) δ 202.6, 158.9, 153.7, 138.0, 114.0, 112.5, 99.7, 56.2, 26.5
【0062】
(2)化合物2の合成
【0063】
窒素雰囲気下、1−(2,5−ジヒドロキシ−4−メトキシフェニル)エタン−1−オン50mg(0.28mmol)を無水アセトニトリル1.0mLに溶解させる。この溶液に炭酸カリウム95mg(0.69mmol、2.5eq.)、ベンジルクロリド40μL(0.35mmol、1.3eq.)、テトラブチルアンモニウムヨージド152mg(412μmol、1.5eq.)を室温で加える。この溶液を室温で5時間撹拌する。反応終了後、反応溶液をセライトを用いてろ過した後、溶媒を減圧下留去する。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=20:1)で精製し、1−(5−(ベンジルオキシ)−2−ヒドロキシ−4−メトキシフェニル)エタン−1−オン45mgを得た。
【0064】
1H NMR (400 MHz, CDCl
3) δ 12.58 (s, 1H), 7.44-7.30 (m, 5H), 7.10 (s, 1H), 6.45 (s, 1H), 5.13 (s, 2H), 3.91 (s, 3H), 2.43 (s, 3H);
13C NMR (100 MHz, CDCl
3) δ 202.1, 160.5, 157.9, 140.5, 136.9, 128.6 (2C), 128.1, 127.7 (2C), 116.5, 111.8, 100.7, 72.7, 56.1, 26.3
【0065】
(3)化合物3の合成
窒素雰囲気下、1−(5−(ベンジルオキシ)−2−ヒドロキシ−4−メトキシフェニル)エタン−1−オン6.5mg(24μmol)にN,N−ジメチルホルムアミドジメチルアセタール0.10mL(0.75mmol、31eq.)を室温で加える。この溶液を95℃で2時間撹拌する。反応終了後、この溶液を減圧下留去し、粗(E)−1−(5−(ベンジルオキシ)−2−ヒドロキシ−4−メトキシフェニル)−3−(ジメチルアミノ)プロプ−2−エン−1−オン10mgを得た。得られた粗(E)−1−(5−(ベンジルオキシ)−2−ヒドロキシ−4−メトキシフェニル)−3−(ジメチルアミノ)プロプ−2−エン−1−オンは精製せずに次の反応に用いた。
【0066】
(4)化合物4の合成
【0067】
窒素雰囲気下、粗(E)−1−(5−(ベンジルオキシ)−2−ヒドロキシ−4−メトキシフェニル)−3−(ジメチルアミノ)プロプ−2−エン−1−オン10mgをクロロホルム0.40mLに溶解させる。この溶液を0℃に冷却し、ピリジン4.0μL(50μmol、2.1eq.)、ヨウ素9.5mg(37μmol、1.5eq.)を加える。この溶液を、遮光条件下室温で15時間撹拌する。反応終了後、反応溶液を0℃に冷却し、飽和チオ硫酸ナトリウム水溶液1mLとクロロホルム3mLを加え、抽出する。水層をさらにクロロホルム3mLで3回抽出する。有機層を合わせ、飽和食塩水で洗浄する。有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥し、乾燥剤を濾過により取り除いた後に溶媒を減圧下留去する。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(クロロホルム)により精製し、6−(ベンジルオキシ)−3−ヨード−7−メトキシ−4H−クロメン−4−オン8.4mgを得た。
【0068】
1H NMR (400 MHz, CDCl
3) δ 8.21 (s, 1H), 7.58 (s, 1H), 7.47 (d, J = 7.2 Hz, 2H), 7.39-7.28 (m, 3H), 6.86 (s, 1H), 5.21 (s, 2H), 3.96 (s, 3H);
13C NMR (100 MHz, CDCl
3) δ 172.4, 156.9, 155.3, 152.4, 147.2, 136.0, 128.7 (2C), 128.2, 127.7 (2C), 115.1, 107.0, 99.6, 86.6, 71.2, 56.5
【0069】
(5)化合物Aの合成
【0070】
窒素雰囲気下、6−(ベンジルオキシ)−3−ヨード−7−メトキシ−4H−クロメン−4−オン8.0mg(20μmol)、2−(4,7−ジメトキシベンゾ[d][1,3]ジオキソール−5−イル)−4,4,5,5−テトラメチル−1,3,2−ジオキサボロラン8.4mg(24μmol、1.2eq.)、PdCl
2(dppf)・CH
2Cl
23.5mg(4.3μmol、0.21eq.)の混合物に凍結脱気した1,4−ジオキサン0.45mlと1M炭酸ナトリウム水溶液0.15mlを加える。この溶液を窒素気流下,室温で20時間撹拌する。反応終了後、この溶液に水1mLとクロロホルム3mLを加え、抽出する。水層をさらにクロロホルム3mLで3回抽出する。有機層を合わせ,飽和食塩水で洗浄する。有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥し、乾燥剤を濾過により除いた後に溶媒を減圧下留去する。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=4:1)で精製する。得られた化合物A7.4mgをクロロホルムに溶解させる。この溶液にPdスカベンジャ(SiliaMetsS(登録商標)Thiourea)10mgを加え、12時間、室温で撹拌する。Pdスカベンジャーを濾過により除いた後に溶媒を減圧下留去する。残渣をゲル濾過リサイクルHPLC(クロロホルム)により精製し、化合物A(6.3mg)を得た。化合物AのNMRスペクトルのチャートを
図1に示す。
【0071】
1H NMR (400 MHz, CDCl
3) δ 8.01 (s, 1H), 7.71 (s, 1H), 7.48 (d, J = 7.2 Hz, 2H), 7.40-7.28 (m, 3H), 6.89 (s, 1H), 6.52 (s, 1H), 6.01 (s, 2H), 5.22 (s, 2H), 3.98 (s, 3H), 3.87 (s, 3H), 3.85 (s, 3H);
13C NMR (100 MHz, CDCl
3) δ 175.4, 154.9, 153.5, 152.5, 146.8, 139.2, 139.0, 137.1, 136.8, 136.2, 128.7 (2C), 128.2, 127.7 (2C), 121.7, 118.1, 117.8, 110.2, 107.0, 101.9, 99.8, 71.1, 60.2, 56.9, 56.4
【0072】
[実施例2]
生物活性の評価
(1)チューブリン重合阻害活性
チューブリン重合阻害活性測定は、豚脳から精製したチューブリンをRB緩衝液(100mM MES、1mM EGTA、0.5mM MgCl
2、pH6.8)に1mg/mlになるように希釈し、薬剤を加えて氷上に5分置いた後、1mMのGTPと1MのGlutamateを加え、37℃に加温することで重合反応を開始した。チューブリン重合は350nmの吸光度で判定した。
【0073】
(2)K
d値の算出
αβ-チューブリンに対する親和性(K
d値)は、トリプトファン蛍光法により判定した。豚脳から精製したチューブリンを1mMのGTPを含むRB緩衝液(100mM MES、1mM EGTA、0.5mM MgCl
2、pH6.8)に1mg/mlになるように希釈し、薬剤を加えて室温で30分置いた後、蛍光分光器によりトリプトファン蛍光を定量した(励起295nm、蛍光310〜450nm)。蛍光の減少からK
d値を算出した。
【0074】
(3)殺細胞活性の評価
殺細胞活性は、ヒト子宮頸がん細胞、HeLa細胞を用いて評価した。10%の牛胎児血清を含むDMEM培地で継代し、37℃、5%CO
2下で培養したHeLa細胞を、各穴3x10
4cells/ml、100μlずつ96穴プレートに播いた後、18時間後に薬剤を添加した。薬剤添加後48時間後にWST−8試薬を用いて生細胞数を定量した。
【0075】
(4)動物細胞紡錘体に対する作用
動物細胞紡錘体に対する作用は、ヒト子宮頸がん細胞、HeLa細胞を用いて評価した。10%の牛胎児血清を含むDMEM培地で継代し、37℃、5%CO
2下で培養したHeLa細胞を、予めカバーグラスを置いた24穴プレートに各穴3×10
4cells/ml、1mlずつ、播いた後18時間後に薬剤を添加した。薬剤添加後6時間後に3.7%ホルマリンを用いて細胞を固定し、抗チューブリン抗体とヘキスト33258を用いて染色し、蛍光顕微鏡で観察した。
【0076】
化合物A、比較例として従来技術の化合物であるGlaziovianin A及びColchicineを用いて、チューブリン重合阻害作用、殺細胞活性及びαβ-チューブリン対するK
d値を測定した結果を表1に示す。
【0077】
【表1】
【0078】
表1から、本発明の化合物Aは、チューブリン重合阻害作用、殺細胞活性及びαβ-チューブリン対するK
d値のいずれにおいても従来技術の化合物に比べて強い微小管重合阻害活性を示すことが分かる。特にαβ-チューブリン対するK
d値(結合の親和性)については、Glaziovianin Aの80倍の値を示した。
【0079】
図2に、化合物A、比較例として従来技術の化合物であるGlaziovianin A(AG1)を用いて、動物細胞紡錘体に対する作用を評価した結果を示す。化合物Aは、AG1より低濃度で紡錘体微小管を破壊したことを示している。また、その濃度域はビンカアルカロイド類と同程度であった。
【0080】
図3に、化合物A(1.5μM(■)、3μM(▲))、AG1(10μM(○))、DMSO(コントロール(●))について、微小管重合に対する作用を調べた結果を示す。AG1では、ゆっくりではあるが微小管重合が進行していくのに対して、本発明の化合物Aを用いると、特に3μMでは微小管重合が完全に阻害されることが示されている。
本発明の化合物Aの微小管重合の阻害パターン及び阻害活性は、現在臨床で用いられているビンカアルカロイド類と同等であることから抗がん剤としての利用が可能であると考えられる。