(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記天井側非構造材には、前記区画内天井材側に取り付けられている照明灯や換気扇等の天井側設置器具を含む請求項2に記載の構築物における天井側非構造材の崩落防止方法。
前記高延性材は、前記定着部と前記スリットとの間にひねりを持たせて設置され、前記定着部は、前記躯体側構造材の側面に設ける請求項1ないし3のいずれかに記載の構築物における天井側非構造材の崩落防止方法。
請求項1ないし5のいずれかに記載の天井側非構造材の崩落防止方法を用いて前記支持対象部材である前記天井側非構造材のそれぞれを前記躯体側構造材に各別に支持させたことを特徴とする構築物における天井側非構造材の崩落防止構造。
請求項1ないし5のいずれかに記載の天井側非構造材の崩落防止方法を用いて前記支持対象部材である前記天井側非構造材のそれぞれを前記躯体側構造材に各別に支持させた際、前記定着部と前記スリットとの間、または前記定着部と前記天井懐設置器具との間に位置する前記高延性材を100mm程度までの長さの緩みを持たせて設置した請求項6に記載の構築物における天井側非構造材の崩落防止構造。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、非特許文献1,2等で提案されている従来技術は、いずれも天井材下地のクリップをビス入りのものに取り換えて落下を防止したり、吊りボルトの間に鉄製の斜材を入れて揺れを抑えたりするために剛結するものであることから、施工が困難である上に、想定を超える揺れに遭遇した際には依然として崩落、落下するおそれを免れないという課題がある。また、天井材については、落下しても人命を傷つけない軽量なものに置き換えることも提案されてはいるものの、このような軽量化された天井材ではそれ自体の設置理由であったはずの吸音、遮熱等の所要性能を十分には発揮させることができなくなるおそれがある。また、フェイルセーフとして、例示されている落下防止ネットは、意匠性が低く、定着部分のディテールに注意を払う必要があること、また、落下防止ワイヤは、天井板そのものの落下防止を行うには不向きであることは非特許文献2にも述べられているとおりである。
【0005】
本発明は、従来技術にみられた上記課題に鑑みてなされたものであり、構築物の仕上げ材、設備等からなる天井側非構造材を安定的に支持して地震等による崩落を防止することができる構築物における天井側非構造材の崩落防止方法および崩落防止構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記目的を達成すべくなされたものであり、そのうちの第1の発明(崩落防止方法)は、梁や柱などの躯体側構造材で囲繞された天井側の所定区画領域内に設置されている天井側非構造材を支持対象部材とし、該天井側非構造材のそれぞれは、扁平で、引張以外の剛性が、前記支持対象部材の剛性より無視できるほど小さいテープ状織物からなる複数本の高延性材により略均等に保持させた状態のもとでそれぞれの一端部側と他端部側とを、天井懐内に位置する中途部位のそれぞれに緩みを持たせながら近傍に位置する前記躯体側構造材に各別に高靱性接着剤および/または止着金具を用いて定着して形成される定着部を介して支持させることを最も主要な特徴とする。
【0007】
また、第1の発明において前記天井側非構造材が前記所定区画領域内に位置する区画内天井材である場合、前記高延性材は、前記区画内天井材に対し縦横2m程度の間隔で各2本ずつ以上を該区画内天井材の下表面側と対面する保持面のそれぞれを高靱性接着剤を介して前記下表面側に接合させた状態のもとで下支え可能に略直交配置し、前記高延性材のそれぞれの前記一端部と前記他端部とは、対応する位置関係にある前記区画内天井材におけるそれぞれの周縁部に各別に設けられているスリットを介して天井懐内へと引き込んで前記躯体側構造材に各別に定着して前記区画内天井材を支持するするするのが望ましい。この場合、前記天井側非構造材には、前記区画内天井材側に取り付けられている照明灯や換気扇等の天井側設置器具を含むこともできる。
【0008】
さらに、第1の発明において前記天井側非構造材が前記所定区画領域内の1以上の天井懐設置器具である場合、前記高延性材は、1の前記天井懐設置器具に対し少なくとも2本を該天井懐設置器具に対し保持を可能に配置し、前記高延性材のそれぞれの前記一端部側と前記他端部側とは、天井懐内にて前記躯体側構造材に各別に定着して前記天井懐設置器具を支持するのが望ましい。
【0009】
一方、第2の発明(崩落防止構造)は、請求項1ないし4のいずれかに記載の天井側非構造材の崩落防止方法を用いて前記支持対象部材である前記天井側非構造材のそれぞれを前記躯体側構造材に各別に支持させたことを最も主要な特徴とする。この場合、前記定着部と前記スリットとの間、または前記定着部と前記天井懐設置器具との間に位置する前記高延性材を100mm程度までの長さの緩みを持たせて設置するのが望ましい。
【発明の効果】
【0010】
請求項1に記載の発明によれば、天井側の所定区画領域内に設置されている支持対象部材としての天井側非構造材は、複数本の高延性材で略均等に保持させた状態のもとでそれぞれの一端部側と他端部側とを、天井懐内に位置するそれぞれの中途部位に緩みを持たせながら近傍に位置する前記躯体側構造材に各別に定着して安定的に支持させることができるので、地震発生時に確実にその崩落を防止して地震災害の軽減に資するところが大きい。また、高延性材は、適度の緩みをもたせて定着されているので、その定着作業時や大地震等で震動した際にも、配管等の設備、既存の吊り金具等を傷めることもない。
【0011】
しかも、高延性材は、扁平で、引張以外の剛性が、前記支持対象部材の剛性より無視できるほど小さいテープ状織物により形成されていることから、曲げたり、ひねったりすることで天井懐内の既設の諸設備や既存の吊り具等を容易にかわすことができるので、これらの既設の諸設備や既存の吊り金具等を傷めたりせずに迅速に施工することができる。また、定着場所と施工方法については、現地の状況に臨機応変に対応すべく柔軟に適宜選択することができので、工事が不可能になるということもない。また、高延性材の一端部と他端部との躯体側構造材側への定着は、各別に高靱性接着剤および/または止着金具を用いて形成される定着部により確実に行うことができる。さらに、施工は、事前の調査に基づいて、高延性材および定着部の配置と仕様とを決めて、これに従って簡単な手作業で実施することができることになる。
【0012】
請求項2に記載の発明によれば、天井側非構造材が区画内天井材であることから、高延性材は、縦横2m程度の間隔で各2本ずつ以上を区画内天井材の下表面側に略直交配置し、それぞれの保持面を高靱性接着剤を介して区画内天井材側に接合させた上で、それぞれの一端部と他端部とをスリットを介して天井懐内に引き込んで躯体側構造材に各別に定着することで、区画内天井材を一単位としてその全体を安定的に支持することができる。
【0013】
しかも、高延性材は、扁平で、引張以外の剛性が、前記支持対象部材の剛性より無視できるほど小さいテープ状織物により形成されているので、区画内天井材の下表面側に見えるように設置しても、目立たないばかりでなく、さらに塗装を施すことでほとんど気づかれなくすることができるので、施工後であっても区画内天井材の下表面側の美観を損ねることもない。また、落下防止ネットのような意匠性の問題も生じにくい。
【0014】
請求項3に記載の発明によれば、天井側非構造材には、区画内天井材側に取り付けられている照明灯や換気扇等の天井側設置器具が含まれるので、該天井側設置器具も区画内天井材側と一体的に高延性材で支持することで、天井側設置器具側が区画内天井材側から離脱して崩落するのを確実に防止することができる。
【0015】
請求項4に記載の発明によれば、高延性材は、定着部と前記スリットとの間にひねりを持たせて設置され、定着部は、躯体側構造材の側面に設けられるので、天井材等が崩落しようとして高延性材に生ずる張力(鉛直力)に対して概ね並行な面になり、定着部を構成する高靱性接着剤、あるいはボルトに対して、抵抗力がせん断力となって作用するので、定着部により形成される定着機構に安定した効果を発揮させることができる。
【0016】
請求項5記載の発明によれば、天井側非構造材が所定区画領域内の1以上の天井懐設置器具であることから、高延性材は、1の天井懐設置器具に対し少なくとも2本で吊持するように保持させた状態のもとでそれぞれの一端部側と他端部側とを天井懐内にて躯体側構造材に各別に定着することで、天井懐内の天井懐設置器具を個別に安定的に支持することができる。
【0017】
請求項6記載の発明によれば、請求項1ないし4のいずれかに記載の天井側非構造材の崩落防止方法を用いて支持対象部材である天井側非構造材のそれぞれを躯体側構造材に各別に安定的に支持させて、地震発生時に確実にその崩落を防止することができる。また、高延性材は、容易にひねったり、曲げたりでき、削孔できるので、梁・スラブ等の側面にビス等を用いた単純明快な機械的定着機構を形成できるので、落下防止ワイヤのように定着部のディテールの設計・施工によって効果が限られるといったような問題を少なくすることができる。さらに、高延性材、定着部の重量は、従来法に用いられる吊り金具、ワイヤーなどに比べて小さく、重量増による危険性の増大をほとんどなくすことができる。また、高延性材、定着部に用いる止着金具自体が落下して人命に危害を加えたり、設備を破損したりする危険性もほとんどなくすことができる。
【0018】
請求項7に記載の発明によれば、請求項1ないし4のいずれかに記載の天井側非構造材の崩落防止方法を用いて支持対象部材である天井側非構造材のそれぞれを躯体側構造材に各別に安定的に支持させた際に、定着部とスリットとの間、または定着部と天井懐設置器具との間に位置する高延性材を100mm程度までの長さの緩みを持たせて設置してあるので、その定着作業時や大地震等で震動した際にも、配管等の設備、既存の吊り金具等を傷めることもない。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明は、第1の発明である構築物における天井側非構造材の崩落防止方法と、第2の発明である構築物における天井側非構造材の崩落防止構造とで構成されており、基本的には、
図1および
図2に示されているように、RC梁(大梁、小梁)1aやスラブ1bや柱1c等の躯体側構造材1で囲繞された天井側の所定区画領域3内に設置されている天井側非構造材2を支持対象部材とし、該天井側非構造材2のそれぞれは、扁平で、引張以外の剛性が、前記支持対象部材の剛性より無視できるほど小さいテープ状織物からなる複数本の高延性材11の支持面12により略均等に下支えさせた状態のもとでそれぞれの一端部13側と他端部14側とを、天井懐6内に位置する各中途部位15のそれぞれに緩みを持たせながら近傍に位置する躯体側構造材1に高靱性接着剤2および/または止着金具31を用いて各別に形成される定着部41を介して定着して支持させることで行われる。なお、止着金具31の詳細については、後述するが、基本的にはボルト、プレート、後施工アンカーボルト等の一般材料を所望に応じて適宜使用することができる。
【0021】
この場合、天井側の所定区画領域3とは、例えば
図2に示されているように、天井側のRC梁(大梁、小梁)1aやスラブ1bや柱1cなどの躯体側構造材1と天井材(後述する区画内天井材4)により囲繞されている例えば、8m×8m程度の面領域をいい、該所定区画領域3内に位置する天井側非構造材2が本発明における支持対象部材となる。
【0022】
また、本発明における天井側非構造材2には、天井板4aや吸音板4bなどのような所定区画領域3内に位置する区画内天井材4と、該区画内天井材4の下表面側に取り付けられている照明器具や換気扇などの天井側設置器具(図示せず)が含まれるほか、エアコン室内機8や図示しないダクトや配管などのように天井懐6側の所定区画領域3内に設置されている天井懐設置器具7も含まれる。
【0023】
本発明に用いられる高延性材11は、その支持面12を介して天井側非構造材2を下支えした状態のもとで一端部13側と他端部14側とがコンクリート打ちされたRC梁(大梁、小梁)1aやスラブ1bなどからなる躯体側構造材1に定着することで配置される。
【0024】
本発明に用いられる、扁平で、引張以外の剛性が、支持対象部材の剛性より無視できるほど小さいテープ状織物からなる高延性材11とは、ポリエステル繊維をテープ状に織成したものをいい、その具体的な諸元は、次の表1のとおりである。高延性材11の種別については、既に出願人により製品化されている高延性材A(本出願人会社の製品名「SRF100W90」)と高延性材B(同製品名「SRF200W100」)とがあり、施工現場の具体的な状況に応じて適宜使い分けられる。
【表1】
【0025】
また、本発明に用いられる高靱性接着剤21は、ウレタン系の一液性、無溶剤、湿気硬化タイプの剥離限界変位の大きい接着剤を好適に用いることができ、その具体的な諸元は、次の表2に示すとおりである。また、高靱性接着剤21の種別については、既に出願人により製品化されている表2の高靱性接着剤A(本出願人会社の製品名「SRF20」)と高靱性接着剤B(同製品名「SRF30」)とがあり、施工現場の具体的な状況に応じて適宜使い分けられる。
【表2】
【0026】
図3は、躯体側構造材1がRC梁1aである場合を例に、高延性材11の一端部13と他端部14とを定着する際の定着部41の詳細例を示す説明図であり、各定着部41に用いられる高靱性接着剤21については、表2における高靱性接着剤Bが用いられている。また、止着金具31については、幅が90mm前後で厚さが1.0mm前後の2枚のSUS板32と例えば規格番号がM10の1本の金属拡張アンカー33とで構成されたものが用いられている。
【0027】
ここで、
図3に基づいて定着部41の構造例を説明すれば、RC梁1aの垂直な表面に沿わせるようにして高延性材11の一端部13または他端部14が取り付けられる。
【0028】
これを高延性材11の一端部13を取り付ける場合を例により具体的に説明すれば、
図3(a)に示されているように、RC梁1aの表面側に定着させるために上方に向けて配置される高延性材11の一端部13は、先端部13a側を下方に向けて折り返し部16を介して折り返すことで往路片部17と復路片部18との二枚重ねとなってRC梁1aの表面側に配置される。
【0029】
そして、RC梁1aの表面上に位置する高延性材11の往路片部17と復路片部18との間と復路片部18上との二カ所には、
図3(b)に示されているように、各1個の通孔32aを備えるSUS板32が相互に対向する位置関係のもとで配置される。このとき、往路片部17と復路片部18との間に位置するSUS板32は、高靱性接着剤(高靱性接着剤B)21を介して往路片部17と復路片部18とのそれぞれの内側面側に接合される。また、RC梁1aの表面と直面する往路片部17の外側面側も高靱性接着剤(接着剤B)21を介してRC梁1aの表面側に接合される。
【0030】
また、この場合における定着部41は、1本の金属拡張アンカー33を一方のSUS板32の通孔32a→高延性材11の復路片部18→一方のSUS板32の通孔32a→往路片部17の順に挿通させた上で、RC梁1aの表面側へと打ち込むことで形成される。上記の例で、定着部41には、必ずしも高靱性接着剤21を用いなくてもよい。
【0031】
図4は、躯体側構造材1としての梁1a、柱1cが耐火被覆されていて定着部を設けることが困難な際において、スラブ1bの下底部がフラットデッキ35である場合を例に、高延性材11の一端部13または他端部14を定着する際の定着部41の詳細例を示す説明図であり、各定着部41における高靱性接着剤21としては、表2における高靱性接着剤Bが用いられている。また、止着金具31については、幅が90mm前後で厚さが1.0mm前後の2枚のSUS板34と、フラットデッキ35と、二組のボルト38とナット39とのセットと、1本のボルト38に対し各2枚用意されるワッシャー40とで構成されたものが用いられている。
【0032】
ここで、
図4(a)に基づいて定着部41の構造例を説明すれば、下方に向けて略二等辺三角形状を呈して突出するように折曲形成されてスラブ1bの下底部を形成するフラットデッキ35が備えるリブ36の左側斜面36aと右側斜面36bとのいずれかの斜面、図示例では右側斜面36bを利用して高延性材11の一端部13または他端部14が取り付けられる。なお、リブ36の左側斜面36aと右側斜面36bとには、相互に対向する位置関係のもとで横列方向に各2個のボルト用孔37が穿設されている。
【0033】
これを高延性材11の一端部13を取り付ける場合を例により具体的に説明すれば、
図4(b)に示されているように、フラットデッキ35側に定着させるために上方に向けて配置される高延性材11の一端部13は、その先端部13a側を折り返し部16を介して下方に向けて折り返すことで往路片部17と復路片部18との二枚重ねとなってリブ36の右側斜面36b側に配置される。
【0034】
そして、リブ36の右側斜面36b上に位置する高延性材11の往路片部17と復路片部18との間と復路片部18上との二カ所には、横列方向に各2個の通孔34aを備えるSUS板34が相互に対向する位置関係のもとで配置される。このとき、往路片部17と復路片部18との間に位置する一方のSUS板34は、高靱性接着剤(高靱性接着剤B)21を介して往路片部17と復路片部18とのそれぞれの内側面側に接合される。また、また、リブ36の右側斜面36aと対面する位置にある往路片部17も高靱性接着剤(高靱性接着剤B)21を介して支持片部36の右側斜面36b側に接合される。
【0035】
そして、この場合における定着部41は、それぞれのボルト38に1枚のワッシャー40を介在させた上で、一方のSUS板34の通孔34a→高延性材11の復路片部18→他方のSUS板34の通孔34a→往路片部17→リブ36の右側斜面36bのボルト用孔37→左側斜面36aのボルト用孔37の順に貫通させ、さらに1枚のワッシャー40を介在させた上でナット39を緊締することで形成される。
【0036】
次に、以上に述べた定着部41を介して高延性材11を定着することで支持される支持対象部材としての天井側非構造材2が所定区画領域3内に位置する軽量な区画内天井材4である場合を例に、
図2に基づいて第1の発明を説明する。
【0037】
すなわち、
図2(b)に示されているように、区画内天井材4に対し縦横2m程度の間隔で各2本ずつ以上、
図2(b)に示す例では縦横各3本ずつ用意される高延性材11は、
図2(a)に示されているように区画内天井材4の下表面側と対面する保持面12のそれぞれを高靱性接着剤21を介して下表面に接合させた状態のもとで、縦横方向でのそれぞれの安定的な下支えを可能に略直交配置される。
【0038】
また、各高延性材11の一端部13と他端部14とは、それぞれが対応する位置関係にある区画内天井材4におけるそれぞれの周縁部5に各別に設けたスリット5aを介して天井懐7内へと引き込む。なお、
図2(b)中の符号56は、定期点検用の点検口を示す。
【0039】
図5は、区画内天井材4の周縁部5に設けられたスリット5aと高延性材11との配置関係を詳細に示す説明図である。同図によれば、天井板4aとその下面に一体的に配置される吸音板4bとで構成されている区画内天井材4は、る野縁材51を介して支持されている。また、該野縁材51は、チャンネルクリップ52を介して天井懐7内の野縁材受け53に連結されており、該野縁材受け53は、吊り金具54を介して例えばスラブ1b側に支持されている。
【0040】
また、区画内天井材4は、使用される高延性材の本数とその位置により特定される周縁部5の適宜位置にスリット5aが各別に形成されており、
図1、
図2および
図5に示されているように、これらのスリット5aを介して各高延性材のそれぞれの一端部13と他端部14とを天井懐6内へと引き込むことができるようになっている。
【0041】
そして、天井懐6内に引き込まれた高延性材11の一端部13と他端部14とは、それぞれの中途部位15に緩みを持たせた状態のもとで近傍に位置する躯体側構造材1に各別に既に説明した定着部41を形成して定着することにより、それぞれの保持面12を介して区画内天井材4がその下表面側から各別に下支えされた状態で支持されることになる。なお、この場合の高延性材11の中途部位15における緩みの程度は、1カ所につき、定着部41からスリット5aまでの間で100m程度までとするのが好ましい。また、高延性材11の一端部13と他端部14とを各別に天井懐6側に引き込んだ後の各スリット5aは、パテなどの適宜の充填材55を用いて穴埋めされる。
【0042】
さらに、定着部41を介して高延性材11を定着することで支持される天井側非構造材2が所定区画領域3内の天井懐設置器具7のひとつであるエアコン室内機8である場合を例に第1の発明を説明する。
【0043】
すなわち、天井懐設置器具7としてのエアコン室内機8は、
図1および
図2に示されているように、天井カセット型タイプのもであり、天井懐6側にて例えばスラブ1b側に四隅の吊元部9を介して吊持されている。この場合、2本の高延性材11は、吊元部9の各側面9aの少なくとも2カ所に設けられている把手等の把持金具10に対応部位を各別に巻き付けたり結び付けて形成される保持部19を介することでエアコン室内機8の吊持を可能に配置される。
【0044】
そして、高延性材11のそれぞれの一端部13側と他端部14側とは、天井懐7内にて躯体側構造材1に対し、既に説明した定着部41を形成して各別に定着することにより、天井懐設置器具7としてのエアコン室内機8は、吊元部9にあって対面する両側面9a側に位置して各別に形成されるそれぞれの保持部19を介することで吊持するようにして保持されることになる。なお、この場合の高延性材11の中途部位15における緩みの程度は、1カ所につき、定着部41からエアコン室内機9がその吊元部9までの間で100m程度までとするのが好ましい。
【0045】
一方、第2の発明(崩落防止構造)は、以上に述べたいずれかの第1の発明(崩落防止方法)を用いて支持対象部材である天井側非構造材2のそれぞれを躯体側構造材1に各別に支持させたことを特徴としている。この場合、定着部41とスリット5aとの間、または定着部41と天井懐設置器具7との間の中途部位15に位置する高延性材11を100mm程度までの長さの緩みを持たせて設置するのが望ましい。
【0046】
次に、本発明についての安全性を照査する方法を述べる。以下、個々の数値は、事務所等の一般建物における代表的な値であり、個々の施設の区画内天井材4等の天井側非構造材2の重量、寸法、数量に応じて変更することとする。まず、荷重条件についてみれば、一般的な天井材等は、合計で20kgf/m
2(=200N/m
2)程度の重量である。8m×8mの補強範囲に位置する区画内天井材4であれば、総重量Wは、次の「数1」の式で求めることができる。
【数1】
【0047】
また、高延性材11の破断について検討すれば、表1の高延性材Aの破断張力Quは、一本当たりについて、次の「数2」の式から求めることができる。
【数2】
【0048】
しかも、
図1に示されているように、高延性材11(表1の高延性材A)は、8m×8mの補強範囲に位置する区画内天井材4を6本で吊っている。仮に、この半数しか効かない場合でも、一本当たりの張力Qは、次の「数3」の式に示すように、破断張力を遙かに下回るので、天井材等が崩落しようとして、高延性材11に張力が発生しても、該高延性材11は破断しない。
【数3】
【0049】
また、天井カセットタイプのエアコン室内機8の重量(W)は、W=40kgf=400N前後である。これを
図1および
図2(b)に示すように2本の高延性材11で支持する。仮に半数のみ有効であるとした場合でも、一本当たりの張力Qは、次の「数4」の式に示すように、破断張力Quを遙かに下回るので、これが崩落しようとして高延性材11に張力が発生しても、該高延性材11は破断しない。
【数4】
【0050】
次いで、定着部41の破壊について検討すれば、
図2(b)に示されているように、8m×8mの補強範囲に位置する区画内天井材4に対して定着部41が12カ所、エアコン室内機8の吊元部9に対して定着部41が4カ所それぞれ設けられている。定着部41の強度は、高延性材11の高靱性接着剤21に対する剥離限界強度Fe、ボルト38のせん断破壊Fsのうち、小さい方で決まる。このうち、高延性材11の高靱性接着剤21に対する剥離限界強度Feは、次の「数5」の式で求めることができる。ただし、wは高延性材11の幅、Efは有効ヤング率、tは厚さであり、表1に記載している。また、Gfは高靱性接着剤21の界面剥離エネルギーであり、表2に記載している。
【数5】
【0051】
また、ボルト(例えば、M6SUS、一か所につき2本使用)38のせん断強度Fsは、有効断面積(20.1mm
2)と許容応力度(135N/mm
2)とを乗じる次の「数6」の式により求めることができる。
【数6】
【0052】
したがって、定着部41の強度Fuは、次の「数7」の式から求めることができる。
【数7】
【0053】
図2(b)に示す例では、12カ所の定着部41があり、仮に、半数のみ有効な場合であっても、一か所当たりに作用する力Fは、次の「数8」の式に示すように定着部41の強度Fuを下回るので、定着部41が破壊されることはない。
【数8】
【0054】
したがって、
図2(b)に示す構造は、8m×8mの補強範囲に位置する区画内天井材4およびエアコン室内機8の崩落を防止する強度を有するものであることが確認された。
【0055】
以上に述べたように、第1の発明(崩落防止方法)によれば、天井側の所定区画領域3内に設置されている支持対象部材としての天井側非構造材2は、複数本の高延性材11の保持面12を介して略均等に下支えさせた状態のもとでそれぞれの一端部13側と他端部14側とを、天井懐7内に位置するそれぞれの中途部位15に緩みを持たせながら近傍に位置する躯体側構造材1に各別に定着して安定的に支持させることができるので、地震発生時に確実にその崩落を防止して地震災害の軽減に資するところが大きい。また、高延性材11は、適度の緩みをもたせて定着されているので、その定着作業時や大地震等で震動した際にも、配管等の設備、既存の吊り金具等の天井懐設置器具7を傷めることもない。
【0056】
さらに、本発明の設置法により、定着部41付近の高延性材11は概ね鉛直方向を向いており、崩落しようとする物体の荷重を張力として受けることになる。一方、従来からある崩落防止ネットの定着部は、ほぼ水平に張られたケーブル張力の鉛直方向分力で落下防止しようとすることが多く、崩落しようとする物体の重量に比べて非常に大きな張力を受ける危険性が非特許文献2でも指摘されている。また、吊りボルト等は鉛直方向に設置されている点では、本発明と同様であるが、吊りボルト自体に曲げ、せん断剛性があり、地震による揺れで左右に天井材等が変位した場合に、取り付け部位、および定着部に直接様々な荷重が作用して破壊する可能性がある。本発明は、緩みを持たせて、ほぼ鉛直方向に設置した引張以外の剛性がほとんどない高延性材11で天井材等を吊る構造を用いることでこれらの問題を避けている。
【0057】
しかも、高延性材11は、扁平で、引張以外の剛性が、支持対象部材である天井側非構造材2の剛性より無視できるほど小さいテープ状織物により形成されていることから、曲げたり、ひねったりすることで天井懐6内の既設の諸設備や既存の吊り金具54等を容易にかわすことができるので、これらの既設の諸設備や既存の吊り具等を傷めたりせずに迅速に施工することができる。また、定着場所と施工方法については、現地の状況に臨機応変に対応すべく柔軟に適宜選択することができので、工事が不可能になるということもない。また、高延性材11の一端部13と他端部14との躯体側構造材1側への定着は、高靱性接着剤21と止着金具31とを用いて形成される定着部41により確実に行うことができる。さらに、施工は、事前の調査に基づいて、高延性材11および定着部41の配置と仕様とを決めて、これに従って簡単な手作業で実施することができることになる。
【0058】
また、第1の発明において天井側非構造材2が軽量な区画内天井材4である場合には、縦横各3本ずつ、高延性材11を区画内天井材4の下表面側に略直交配置し、それぞれの保持面12を高靱性接着剤21を介して区画内天井材4側に接合させた上で、それぞれの一端部13と他端部14とをスリット5aを介して天井懐6内に引き込んで躯体側構造材1に各別に定着することで、区画内天井材4を一単位としてその全体を安定的に支持することができる。
【0059】
しかも、高延性材11は、扁平で、引張以外の剛性が、支持対象部材である天井側非構造材2の剛性より無視できるほど小さいテープ状織物により形成されているので、区画内天井材4の下表面側に見えるように設置しても、目立たないばかりでなく、さらに塗装を施すことでほとんど気づかれなくすることができるので、施工後であっても区画内天井材4の下表面側の美観を損ねることもない。
【0060】
さらに、高延性材11が定着部41とスリット5aとの間にひねりを持たせて設置され、定着部41が躯体側構造材1の側面1dに設けられている場合には、天井材等が崩落しようとして高延性材11に生ずる張力(鉛直力)に対して概ね並行な面になり、定着部41を構成する高靱性接着剤21、あるいはボルト38に対して、抵抗力がせん断力となって作用するので、定着部41により形成される定着機構に安定した効果を発揮させることができる。
【0061】
また、第1の発明において区画内天井材4側に取り付けられている照明灯や換気扇等の天井側設置器具(図示せず)も天井側非構造材2に含まれる場合には、該天井側設置器具も区画内天井材4側と一体的に高延性材11で支持することで、天井側設置器具側が区画内天井材4側から離脱して崩落するのを確実に防止することができる。
【0062】
さらに、天井側非構造材2が所定区画領域3内の1以上の天井懐設置器具7である場合には、高延性材11を1の天井懐設置器具7に対し少なくとも2本で吊持するように保持させた状態のもとでそれぞれの一端部13側と他端部14側とを天井懐6内にて躯体側構造材1に各別に定着することで、天井懐6内の天井懐設置器具7を個別に安定的に支持することができる。
【0063】
一方、第2の発明(崩落防止構造)によれば、請求項1ないし4のいずれかに記載の構築物の天井側非構造材の崩落防止方法を用いて支持対象部材である天井側非構造材2のそれぞれを躯体側構造材1に各別に支持させてあるので、支持対象部材としての天井側非構造材2のそれぞれを躯体側構造材1に各別に安定的に支持させることで、地震発生時に確実にその崩落を防止することができる。また、高延性材11は、容易にひねったり、曲げたりでき、削孔できるので、梁1a・スラブ1b等の側面にビス等を用いた単純明快な機械的定着機構を形成でき、崩落防止ネットのように定着部のディテールの設計・施工によって効果が限られるといったような問題を少なくすることができる。さらに、高延性材11、定着部41の重量は、従来法に用いられる吊り金具、ワイヤーなどに比べて小さく、重量増による危険性の増大をほとんどなくすことができる。また、高延性材11、定着部41に用いるボルト38やプレート等からなる止着金具31自体が落下して人命に危害を加えたり、設備を破損したりする危険性もほとんどなくすことができる。しかも、このとき、、定着部41とスリット5aとの間、または定着部41と天井懐設置器具7との間に位置する高延性材を100mm程度までの長さの緩みを持たせて設置してあれば、その定着作業時や大地震等で震動した際にも、配管等の設備、既存の吊り金具等を傷めることもない。