(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
アンモニアの供給により機能するSCR触媒を排気系に備えたエンジン、及びバッテリからの電力供給により作動するモータを走行用動力源として搭載し、車両を走行させるための要求トルクを上記エンジン側とモータ側とに配分し、該トルク配分に基づき駆動制御手段により上記エンジン及びモータをそれぞれ駆動制御して走行するハイブリッド車両において、
車両の前方の路面勾配に関する情報を取得する勾配情報取得手段と、
上記勾配情報取得手段により取得された情報に基づき上記車両の前方に登坂路の存在を予測したときに、上記SCR触媒のアンモニア吸着量が予め設定された判定値以上であるか否かを判定する吸着量判定手段と、
上記吸着量判定手段により上記SCR触媒のアンモニア吸着量が判定値以上であると判定されたときに、上記車両が登坂路に到達するまでの走行中において、上記要求トルクの配分をエンジン側の負担を増加させモータ側の負担を軽減させるように補正し、補正後のトルク配分に基づき上記駆動制御手段に上記エンジン及びモータをそれぞれ駆動制御させるSOC温存制御手段と
を備えたことを特徴とするハイブリッド車両の排気浄化装置。
アンモニアの供給により機能するSCR触媒を排気系に備えたエンジン、及びバッテリからの電力供給により作動するモータを走行用動力源として搭載し、車両を走行させるための要求トルクを上記エンジン側とモータ側とに配分し、該トルク配分に基づき駆動制御手段により上記エンジン及びモータをそれぞれ駆動制御して走行するハイブリッド車両において、
車両の前方の路面勾配に関する情報を取得する勾配情報取得手段と、
上記勾配情報取得手段により取得された情報に基づき上記車両の前方に登坂路の存在を予測したときに、上記SCR触媒のアンモニア吸着量が予め設定された判定値以上であるか否かを判定する吸着量判定手段と、
上記吸着量判定手段により上記SCR触媒のアンモニア吸着量が判定値以上であると判定されたときに、上記車両が登坂路に到達するまでの走行中において、上記SCR触媒へのアンモニアの供給を中止すると共に、上記要求トルクを達成しながら、上記SCR触媒に吸着されているアンモニアの脱硝反応を促進可能な運転領域で上記エンジンを運転するように、上記駆動制御手段に上記エンジン及びモータをそれぞれ駆動制御させる吸着量減少制御手段と
を備えたことを特徴とするハイブリッド車両の排気浄化装置。
上記吸着量減少制御手段は、上記車両が登坂路に到達した時点で、上記SCR触媒のアンモニアの吸着量が予めアンモニアスリップを抑制可能な値として設定された目標アンモニア吸着量まで減少するように、上記駆動制御手段に上記エンジンを駆動制御させることを特徴とする請求項2に記載のハイブリッド車両の排気浄化装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、SCR触媒に吸着可能なアンモニアの量はエンジンの排気温度や排ガス流量に応じて相違し、排気温度が低いほど或いは排ガス流量が低いほど、多くのアンモニアをSCR触媒に吸着できる。このため、エンジンの運転領域が高回転・高負荷側に移行すると、それまでSCR触媒に吸着されていたアンモニアの一部がそのまま大気中に放出される、いわゆるアンモニアスリップを引き起こしてしまう場合がある。
特許文献1のようなシリーズ型ハイブリッド車両であれば、発電機の駆動のためにエンジンを用いるだけのため、アンモニアスリップの防止のために最適なエンジンの運転領域を維持することが比較的容易である。しかしながら、パラレル型ハイブリッド車両では、エンジンをモータと共に走行用動力源として機能させている。このため、車両の走行のためにエンジン駆動力を要する状況では、必ずしもアンモニアスリップの防止に最適なエンジンの運転領域を維持できるとは限らない。
【0005】
図8はこのような場合の制御状況を示すタイムチャートであり、車両が降坂路から平坦路を経て登坂路を走行する場合を表している。
車両が降坂路に到達すると(
図8のポイントa)、モータの回生制御を開始し、発電電力の充電によりバッテリのSOC(State Of Charge)が次第に増加する。モータの回生制御中のエンジンは排気温度が低く排ガス流量が少ないため、降坂路の走行中にSCR触媒には多くのアンモニアが吸着される。
【0006】
車両が平坦路に到達するとモータの回生制御を終了する(
図8のポイントb)。エンジンの駆動力はモータの駆動力と共に平坦路の走行に利用される。平坦路の走行中にモータを運転させるためにバッテリは放電し、車両が登坂路に到達した時点ではバッテリのSOCが低下して、車両の走行にモータの駆動力を利用できない状況が生じる(
図8のポイントc)。よって、登坂路の走行に要求されるほとんど全てのトルクをエンジンに負担させるため、エンジンを高回転・高負荷域で運転せざるを得なくなる。
【0007】
一方で、尿素水インジェクタからの尿素水の噴射は排ガス中のNOx量に応じて行われており、平坦路の走行中にSCR触媒に吸着されたアンモニアは大きく減少しない。このため、登坂路の走行によりエンジンの排気温度及び排ガス流量が急激に上昇すると、SCR触媒に吸着しているアンモニアの大半がそのまま排出されるアンモニアスリップが引き起こされてしまうという問題がある。
本発明はこのような問題点を解決するためになされたもので、その目的とするところは、車両の登坂路の走行時において、エンジン排気温度や排ガス流量の急激な上昇に起因するアンモニアスリップを確実に防止することができるハイブリッド車両の排気浄化装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明は、アンモニアの供給により機能するSCR触媒を排気系に備えたエンジン、及びバッテリからの電力供給により作動するモータを走行用動力源として搭載し、車両を走行させるための要求トルクをエンジン側とモータ側とに配分し、トルク配分に基づき駆動制御手段によりエンジン及びモータをそれぞれ駆動制御して走行するハイブリッド車両において、車両の前方の路面勾配に関する情報を取得する勾配情報取得手段と、勾配情報取得手段により取得された情報に基づき車両の前方に登坂路の存在を予測したときに、SCR触媒のアンモニア吸着量が予め設定された判定値以上であるか否かを判定する吸着量判定手段と、吸着量判定手段によりSCR触媒のアンモニア吸着量が判定値以上であると判定されたときに、車両が登坂路に到達するまでの走行中において、要求トルクの配分をエンジン側の負担を増加させモータ側の負担を軽減させるように補正し、補正後のトルク配分に基づき駆動制御手段にエンジン及びモータをそれぞれ駆動制御させるSOC温存制御手段とを備えたことを特徴とする。
【0009】
路面勾配に関する情報に基づき車両の前方に登坂路の存在が予測され、SCR触媒のアンモニア吸着量が判定値以上であると判定されると、車両が登坂路に到達するまでの走行中に、エンジン側の負担を増加させモータ側の負担を軽減させた運転状態となるようにエンジン及びモータが駆動制御される。モータ側の負担が軽減されるためバッテリの放電が抑制され、登坂路への到達時点でもバッテリのSOCは高い状態に保たれる。よって、登坂路の走行中にはエンジン側のトルクを抑制し、要求トルクに対する不足分をモータ側で補うことが可能となる。これによりエンジンの排気温度や排ガス流量の上昇を抑制できるため、SCR触媒のアンモニアスリップを未然に防止することができる。
【0010】
その他の態様として、路面勾配に関する情報に基づき車両の前方に登坂路の存在が予測され、SCR触媒のアンモニア吸着量が判定値以上であると判定された場合、車両が登坂路に到達するまでの走行中において、SCR触媒へのアンモニアの供給を中止すると共に、要求トルクを達成しながら、エンジンからの排ガスに含まれるNOx量をコントロールすることでSCR触媒に吸着されているアンモニアの脱硝反応を促進可能な運転領域でエンジンを運転するように、エンジン及びモータを駆動制御することが好ましい。
【0011】
SCR触媒でのアンモニアの脱硝反応が促進されるため、車両が登坂路に到達した時点では、SCR触媒に吸着しているアンモニアが十分に減少する。よって、登坂路の走行中にエンジンを高回転・高負荷域で運転させて排気温度や排ガス流量が上昇した場合であっても、アンモニアスリップを防止することができる。
【0012】
また別の態様として、吸着量減少制御手段が、車両が登坂路に到達した時点で、SCR触媒のアンモニアの吸着量が予めアンモニアスリップを抑制可能な値として設定された目標アンモニア吸着量まで減少するように、駆動制御手段にエンジンを駆動制御させることが好ましい。
車両が登坂路に到達した時点で、SCR触媒のアンモニア吸着量が目標アンモニア吸着量まで減少するため、より確実にアンモニアスリップを防止することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、車両の登坂路の走行時において、エンジン排気温度や排ガス流量の急激な上昇に起因するアンモニアスリップを確実に防止することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明をハイブリッド型トラックの排気浄化装置に具体化した一実施形態を説明する。
図1は本実施形態の排気浄化装置が搭載されたハイブリッド型トラックを示す全体構成図である。
ハイブリッド型トラック1はいわゆるパラレル型ハイブリッド車両として構成されており、以下の説明では、車両と称する場合もある。車両1には走行用動力源としてディーゼルエンジン(以下、エンジンという)2、及び例えば永久磁石式同期電動機のように発電機としても作動可能なモータ3が搭載されている。エンジン2の出力軸にはクラッチ4が連結され、クラッチ4にはモータ3の回転軸を介して自動変速機5の入力側が連結されている。自動変速機5の出力側にはプロペラシャフト6を介して差動装置7が連結され、差動装置7には駆動軸8を介して左右の駆動輪9が連結されている。
【0016】
自動変速機5は一般的な手動変速機をベースとしてクラッチ4の断接操作及び変速段の切換操作を自動化したものであり、本実施形態では、前進6速後退1速の変速段を有している。当然ながら、変速機5の構成はこれに限るものではなく任意に変更可能であり、例えば手動式変速機として具体化してもよいし、2系統の動力伝達系を備えたいわゆるデュアルクラッチ式自動変速機として具体化してもよい。
【0017】
モータ3にはインバータ10を介してバッテリ11が接続されている。バッテリ11に蓄えられた直流電力はインバータ10により交流電力に変換されてモータ3に供給され(力行制御)、モータ3が発生した駆動力は自動変速機5で変速された後に駆動輪9に伝達されて車両1を走行させる。また、例えば車両1の減速時や降坂路での走行時には、駆動輪9側からの逆駆動によりモータ3が発電機として作動する(回生制御)。モータ3が発生した負側の駆動力は制動力として駆動輪9側に伝達されると共に、モータ3が発電した交流電力がインバータ10で直流電力に変換されてバッテリ11に充電される。
【0018】
このようなモータ3が発生する駆動力は上記クラッチ4の断接状態に関わらず駆動輪9側に伝達され、これに対してエンジン2が発生する駆動力はクラッチ4の接続時に限って駆動輪9側に伝達される。従って、クラッチ4の切断時には、上記のようにモータ3が発生する正側または負側の駆動力が駆動輪9側に伝達されて車両1が走行する。また、クラッチ4の接続時には、エンジン2及びモータ3の駆動力が駆動輪9側に伝達されたり、或いはエンジン2の駆動力のみが駆動輪側に伝達されたりして車両1が走行する。
【0019】
車両ECU13は車両全体を統合制御するための制御回路である。そのために車両ECU13には、アクセルペダル14の操作量θaccを検出するアクセルセンサ15、ブレーキペダル16の踏込操作を検出するブレーキスイッチ17、車両1の速度Vを検出する車速センサ18、エンジン2の回転速度Neを検出するエンジン回転速度センサ19、及びモータ3の回転速度Ntを検出するモータ回転速度センサ20などの各種センサ・スイッチ類が接続されている。
また、車両ECU13には、図示はしないがクラッチ4を断接操作するアクチュエータ、及び自動変速機5を変速操作するアクチュエータなどが接続されると共に、エンジン制御用のエンジンECU22、インバータ制御用のインバータECU23、及びバッテリ11を管理するバッテリECU24が接続されている。
【0020】
車両ECU13は、運転者によるアクセル操作量θaccなどに基づき車両1を走行させるために必要な要求トルクを算出し、その要求トルクやバッテリ11のSOC(State Of Charge)などに基づき車両1の走行モードを選択する。本実施形態では走行モードとして、エンジン2の駆動力のみを用いるE/Gモード、モータ3の駆動力のみを用いるEVモード、及びエンジン2及びモータ3の駆動力を共に用いるHEVモードが設定されており、その何れかの走行モードを車両ECU13が選択するようになっている。
【0021】
車両ECU13は選択した走行モードに基づき、要求トルクをエンジン2やモータ3が出力すべきトルク指令値に換算する。例えばHEVモードでは要求トルクをエンジン2側及びモータ3側に配分した上で、その時点の変速段に基づきエンジン2及びモータ3のトルク指令値を算出する。また、E/Gモードでは要求トルクを変速段に基づきエンジン2へのトルク指令値に換算し、EVモードでは要求トルクを変速段に基づきモータ3へのトルク指令値に換算する。
【0022】
そして、車両ECU13は選択した走行モードを実行すべく、EVモードでは上記クラッチ4を切断し、E/Gモード及びHEVモードではクラッチ4を接続した上で、エンジンECU22及びインバータECU23にトルク指令値を適宜出力する。また、車両1の走行中において車両ECU13は、アクセル操作量θaccや車速Vなどに基づき図示しないシフトマップから目標変速段を算出し、この目標変速段を達成すべく、アクチュエータによりクラッチ4の断接操作及び変速段の切換操作を実行する。
【0023】
一方、エンジンECU22は、車両ECU13から入力された走行モード及びトルク指令値を達成するように噴射量制御や噴射時期制御を実行する。例えばE/GモードやHEVモードでは、正側のトルク指令値に対してエンジン2に駆動力を発生させ、負側のトルク指令値に対してエンジンブレーキを発生させる。また、EVモードの場合には、燃料噴射の中止によりエンジン2を停止保持する、またはアイドル運転状態とする。
【0024】
また、インバータECU23は、車両ECU13から入力された走行モード及びトルク指令値を達成するように、インバータ10を駆動制御する。例えばEVモードやHEVモードでは、正側のトルク指令値に対してモータ3を力行制御して正側の駆動力を発生させ、負側のトルク指令値に対してはモータ3を回生制御して負側の駆動力を発生させる。また、E/Gモードの場合には、モータ3の駆動力を0に制御する。
また、バッテリECU24は、バッテリ11の温度、バッテリ11の電圧、インバータ10とバッテリ11との間に流れる電流などを検出すると共に、これらの検出結果からバッテリ11のSOCを算出し、このSOCを検出結果と共に車両ECU13に出力する。
【0025】
一方、上記したエンジン2の排気通路33には、排気浄化装置としてSCR触媒34(尿素選択還元型触媒)が図示しない他の触媒と共に配設されている。排気通路33のSCR触媒34の上流側の箇所には尿素水インジェクタ35が配設され、この尿素水インジェクタ35は、車両ECU13から出力される駆動信号に応じて排気通路33内に尿素水を噴射する。排気熱及び排ガス中の水蒸気により尿素水は加水分解されてアンモニアを生成し、生成されたアンモニアによりSCR触媒34上では排ガス中のNOxが無害なN
2に還元されてNOxの浄化が行われる。
【0026】
エンジン2の排気温度や排ガス流量の変化によりSCR触媒34はアンモニアスリップを生じるため、アンモニアスリップを発生し難い運転領域となるようにエンジン2を制御する必要がある。しかしながら、[発明が解決しようとする課題]で述べたように、本実施形態のようなパラレル型のハイブリッド車両1では、走行のためにエンジン駆動力を要する状況があるため、アンモニアスリップを防止できない場合がある。例えば
図8のように、降坂路の後の平坦路を走行した際にモータ3の運転のためにバッテリ11が放電し、続く登坂路で車両1の走行のためにモータ3の駆動力を利用できない場合である。このような状況では、エンジン2側の負担の増大により排気温度及び排ガス流量が急激に増加するためアンモニアスリップを引き起こしてしまう。
【0027】
以上の不具合を鑑みた結果、本発明者は以下の2つの対策によりアンモニアスリップを防止できることを見出した。
まず、登坂路の走行時のアンモニアスリップは、エンジン2側の負担の増大による排気温度や排ガス流量の急激な上昇に起因し、ひいては、それ以前の平坦路などの走行中にバッテリ11のSOCが低下して登坂路での走行にモータ3の駆動力を利用できないことに起因する。そこで、平坦路などの走行中にバッテリ11の放電を極力抑制してSOCを温存すれば(以下、SOC温存制御という)、その後の登坂路の走行中にモータ3の駆動力を利用可能となるため、アンモニアスリップを防止できる。
【0028】
また、登坂路の走行時のアンモニアスリップは、車両1が登坂路に到達した時点でSCR触媒34が多量のアンモニアを吸着していることに起因する。そこで、それ以前の平坦路などの走行中にSCR触媒34に吸着しているアンモニアを減少すれば(以下、吸着量減少制御という)、その後の登坂路の走行中にエンジン2の排気温度や排ガス流量が上昇したとしても、アンモニアスリップを防止できる。
以上の2つの対策を、第1及び第2実施形態として以下に順次説明する。
【0029】
[第1実施形態]
まず何れの対策においても、車両1が降坂路の走行を終了する時点までに、自車の前方に登坂路が存在することを予測する必要がある。事前に登坂路を予測できなければ、登坂路に到達するまでの走行中に上記SOC温存制御や吸着量減少制御を実行できないためである。そこで、実際に自車が登坂路に到達する以前に、自車の道路上の前方の路面勾配に関する情報を取得しており、そのために
図1に示すように、車両ECU13にはナビゲーション装置31(勾配情報取得手段)及び通信装置32(勾配情報取得手段)が接続されている。
【0030】
ナビゲーション装置31は自己の記憶領域に記憶されている地図データ、及びアンテナを介して受信されるGPS情報やVICS(登録商標)情報などに基づき、車両1の走行中に地図上の自車位置を特定する。通信装置32は、路側に適宜設置されているデータセンタの路側通信システムとの間で路車間通信を行うと共に、周囲を走行中の他車との間で車々間通信を行う。
通信対象となる情報は多岐にわたり、例えば自車が保有しない地図情報、或いは道路情報(道路のカーブや勾配など)や交通情報(渋滞情報、事故情報、工事情報など)、或いは地域情報(観光スポットの案内など)を路側通信システムや他車から取得したり、逆にこれらの情報を他車に供給したりする。
【0031】
図2は第1実施形態の車両ECU13が実行するアンモニアスリップ抑制ルーチンを示すフローチャートであり、車両ECU13は車両1の走行中に当該ルーチンを所定の制御インターバルで実行する。
まず車両ECU13は、ステップS2でナビゲーション装置31及び通信装置32を利用して自車の前方の路面勾配に関する情報を取得する(勾配情報取得手段)。続くステップS4では取得した路面勾配の情報に基づき、自車の前方に登坂路の存在が予測されるか否かを判定し、判定がNoのときにはルーチンを終了する。また、ステップS4の判定がYesの場合にはステップS6に移行し、現在のSCR触媒34へのアンモニアの吸着量が予め設定された上限判定値以上であるか否かを判定する(吸着量判定手段)。上限判定値は、例えばエンジン2を高回転・高負荷域で運転させてもアンモニアスリップを発生しない上限の吸着量として予め設定されている。
なお、SCR触媒34へのアンモニア吸着量は、常に、尿素水インジェクタ35からの尿素水の噴射量に対して、SCR触媒34の入口と出口とのNOx量の偏差を求めることで,SCR触媒34のNOx浄化率を算出し、そのNOx浄化率に基づきアンモニア吸着量を推定する。
【0032】
ステップS6の判定がNoのときにはアンモニアスリップのおそれ無しと見なし、一旦ルーチンを終了する。また、ステップS6の判定がYesのときにはアンモニアスリップのおそれが有るため、ステップS8に移行してSOC温存制御を実行する。
この時点の車両1は未だ前方に存在する登坂路には到達しておらず、例えばそれほど起伏の変化しない路面(以下、平坦路という)を走行中である。このような路面では、車両ECU13は走行モードとしてHEVモードを選択し。要求トルクをエンジン2側及びモータ3側に配分する。
【0033】
SOC温存制御では、このような通常時のトルク配分をベースとして、エンジン2側の負担を増加させモータ3側の負担を軽減させるように補正する(SOC温存制御手段)。よって、SOC温存制御の実行中には、補正後のトルク配分から求められたトルク指令値に基づき、エンジンECU22によりエンジン2の運転が制御され、インバータECU23によりモータ3の運転が制御される。
その後、車両ECU13はステップS10で車両1が登坂路に到達して登坂路の走行を開始したか否かを判定する。判定がNoの間はステップS8でSOC温存制御を継続し、判定がYesになるとルーチンを終了する。
【0034】
次に、以上の車両ECU13によるアンモニアスリップ抑制制御の実行状況を
図3のタイムチャートに基づき説明する。このタイムチャートでは、車両1が降坂路から平坦路を経て登坂路を走行する場合を表している。
車両1が降坂路の走行を終了するまでの制御状況は、
図8の従来技術と同様である。まず、車両1が降坂路に到達すると(
図3のポイントa)、モータ3の回生制御が開始され、発電電力がバッテリ11に充電される。車両1が平坦路に到達するとモータ3の回生制御が終了される(
図3のポイントb)。
【0035】
平坦路の走行中にはSOC温存制御が実行され、通常時のトルク配分の場合に比較してモータ3側の負担軽減によりバッテリ11の放電が抑制される。よって、車両1が登坂路に到達した時点でもバッテリ11のSOCは高い状態に保たれている(
図3のポイントc)。
平坦路から引き続いて登坂路でもHEVモードが継続され、要求トルクの増加に応じてエンジン2側に配分されるトルクも増加する。しかし、このトルク達成のためにエンジン2を高回転・高負荷域で運転させると、排気温度や排ガス流量が上昇してアンモニアスリップが発生してしまう。
【0036】
本実施形態では登坂路への到達時点でバッテリ11のSOCが十分に確保されているため、
図3に示すようにエンジン2側のトルクを抑制したとしても、そのトルク不足分をモータ3側で補うことができる。よって、登坂路での走行中に要求トルクを達成した上で、エンジン2の排気温度や排ガス流量の上昇を抑制でき、アンモニアスリップを未然に防止することができる。
【0037】
[第2実施形態]
次いで、第2実施形態を説明する。
図4は第2実施形態の車両ECU13が実行するアンモニアスリップ抑制ルーチンを示すフローチャートであり、
図2に示す第1実施形態のフローチャートと共通する処理には同一のステップ番号を付している。
【0038】
第1実施形態と同じく、ステップS2で路面勾配の情報を取得し(勾配情報取得手段)、続くステップS4で自車の前方に登坂路が予測されると、ステップS6でSCR触媒34のアンモニア吸着量が上限判定値以上であるか否かを判定する(吸着量判定手段)。ステップS6の判定がYesのときにはアンモニアスリップのおそれが有るため、ステップS22に移行して吸着量減少制御を実行する(吸着量減少制御手段)。
吸着量減少制御では、尿素水インジェクタ35からの尿素水の噴射を中止すると共に、SCR触媒34に吸着されているアンモニアの脱硝反応を促進するために、エンジンからの排ガスに含まれるNOx量を増やす好適な運転領域でエンジン2を運転させる。このときのエンジン制御は、以下の知見に基づき行われる。
まず、アンモニアとNOxとの反応は1:1であるため、現在のアンモニアの吸着量(NH
3 n1)は次式(1)で表すことができる。
【0039】
NH
3 n1=NH
3 n-1−NOx
n1 …… (1)
次式(2)に基づきNOxを変化させればSCR触媒34へのアンモニアの吸着量を調整可能となる。
NH
3 n1−NH
3 n-1=−NOx
n1 …… (2)
【0040】
エンジン2から排出されるNOxとエンジン2のトルクTrqとは比例関係(NOx∝Trq)にあるため、次式(3)のように表すことができる。
NH
3 n1−NH
3 n-1=−Trq
n1 …… (3)
ここで、車両1が登坂路に到達するまでの時間をΔTとすると、
(NH
3 n1−NH
3 n-1)/ΔT=−Trq
n1/ΔT…… (4)
が成立する。
【0041】
よって、上式(4)に基づきエンジン2のトルクTrqを変化させることにより、SCR触媒34のアンモニアの吸着量を調整できる。
実際の目標トルクTrq-tgtの算出処理は、
図5に示す制御フローに従って車両ECU13により行われる。現在のアンモニア吸着量と目標アンモニア吸着量との偏差、及び登坂路までの時間ΔTに基づき最適値αが算出され、予め設定したマップに従って目標トルクTrq-tgtが算出される。
【0042】
目標トルクTrq-tgtは、時間ΔTが経過するまで(車両1が登坂路に到達するまで)にSCR触媒34のアンモニアの吸着量を目標アンモニア吸着量まで減少可能な値として算出される。そして、この目標トルクTrq-tgtに対応してエンジン2のトルク指令値が設定され、要求トルクに対する目標トルクTrq-tgtの不足分に応じてモータ3のトルク指令値が設定され、それぞれのトルク指令値がエンジンECU22及びインバータECU23に出力される。
その後、車両ECU13はステップS10で車両1が登坂路の走行を開始したか否かを判定し、判定がNoの間はステップS22で吸着量減少制御を継続し、判定がYesになるとルーチンを終了する。
【0043】
次に、以上の車両ECU13によるアンモニアスリップ抑制制御の実行状況を
図6のタイムチャートに基づき説明する。
車両1が降坂路の走行を終了するまでの制御状況(
図6のポイントa〜b)は、
図3の第1実施形態と同様である。そして、降坂路が終了して平坦路に移行すると、モータ3の回生制御が終了する。
平坦路の走行中には吸着量減少制御が実行され、尿素水インジェクタ35からの尿素水の噴射が中止されると共に、
図5の制御フローから算出された目標トルクTrq-tgtに基づきエンジン2が制御される。結果として平坦路の走行中にエンジントルクは目標トルクTrq-tgtに保たれ、要求トルクに対する不足分がモータ3側のトルクにより補われる。
図6中に太い破線で示すように要求トルクが増減した場合でも、エンジントルクは目標トルクTrq-tgtに保持され、モータ3側のトルクが増減することによって要求トルクが達成され続ける。
【0044】
そして、吸着量減少制御の実行中において、SCR触媒34上のアンモニアはエンジン2からの排ガス中のNOxと脱硝反応して消費される。このため、
図6に示すようにSCR触媒34のアンモニアの吸着量は略一定の変化率で減少し、車両1が登坂路に到達した時点では目標アンモニア吸着量まで減少する(
図6のポイントc)。
平坦路の走行中にモータ3を運転させるため、車両1が登坂路に到達した時点ではバッテリ11のSOCが低下し、従来技術と同じく登坂路の走行中にモータ3の駆動力を利用できなくなる。よって、要求トルクの達成のためにエンジン2を高回転・高負荷域で運転させる必要が生じ、その排気温度及び排ガス流量が急激に上昇してしまう。しかしながら、本実施形態では、平坦路の走行中にSCR触媒34のアンモニア吸着量を減少させているため、たとえエンジン2の排気温度及び排ガス流量が上昇したとしてもSCR触媒34から排出されるアンモニアはごく微量であり、アンモニアスリップを未然に防止することができる。
【0045】
ところで、第1実施形態のSOC温存制御と第2実施形態の吸着量減少制御とを比較すると、SOC温存制御では、SCR触媒34に多量のアンモニアが吸着されている場合には、たとえ登坂路の走行中にエンジン2側のトルクを抑制したとしてもアンモニアスリップを防止できない可能性がある。これに対して吸着量減少制御では、SCR触媒34に吸着されているアンモニア自体を減少させることから、より確実にアンモニアスリップを防止できる。そこで、SCR触媒34へのアンモニア吸着量に応じて双方の制御を切り換えてもよく、以下に第3実施形態として説明する。
【0046】
[第3実施形態]
図7は第3実施形態の車両ECU13が実行するアンモニアスリップ抑制ルーチンを示すフローチャートである。
第1,2実施形態と同じくステップS2〜6を実行し、ステップS6の判定がYesのときにはステップS32に移行する。ステップS32では、SCR触媒34へのアンモニアの吸着量が予め設定されたモード判定値未満であるか否かを判定する。モード判定値は、SOC温存制御でも確実にアンモニアスリップを防止可能な上限の吸着量として予め設定されている。
【0047】
ステップS32の判定がYesの場合には、ステップS8,34で登坂路の走行が開始されるまでSOC温存制御を実行する。また、ステップS32の判定がNoの場合には、ステップS22,36で登坂路の走行が開始されるまで吸着量減少制御を実行する。
以上の切換処理により、現在のSCR触媒34へのアンモニア吸着量に対して最適な手法によりアンモニアスリップを防止することができる。
以上で実施形態の説明を終えるが、本発明の態様はこの実施形態に限定されるものではない。例えば上記各実施形態ではハイブリッド型トラック1に具体化したが、これに代えてバスや乗用車に適用してもよい。