(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6430691
(24)【登録日】2018年11月9日
(45)【発行日】2018年11月28日
(54)【発明の名称】固体燃料の製造方法及び固体燃料
(51)【国際特許分類】
C10L 5/44 20060101AFI20181119BHJP
C10B 53/02 20060101ALI20181119BHJP
【FI】
C10L5/44
C10B53/02
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2013-135390(P2013-135390)
(22)【出願日】2013年6月27日
(65)【公開番号】特開2015-10137(P2015-10137A)
(43)【公開日】2015年1月19日
【審査請求日】2016年5月26日
【審判番号】不服2017-16163(P2017-16163/J1)
【審判請求日】2017年10月31日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成23〜24年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「バイオマスエネルギー技術研究開発/戦略的次世代バイオマスエネルギー利用技術開発事業(実用化技術開発)/石炭火力微粉炭ボイラーに混焼可能な新規バイオマス固形燃料の研究開発」に係る共同研究、産業技術強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000183484
【氏名又は名称】日本製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126169
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 淳子
(72)【発明者】
【氏名】小野 裕司
(72)【発明者】
【氏名】川真田 友紀
(72)【発明者】
【氏名】新倉 宏
(72)【発明者】
【氏名】高城 亮
【合議体】
【審判長】
國島 明弘
【審判官】
川端 修
【審判官】
木村 敏康
(56)【参考文献】
【文献】
特開2013−82879(JP,A)
【文献】
特表2009−540097(JP,A)
【文献】
特開2006−26474(JP,A)
【文献】
特開2007−198694(JP,A)
【文献】
スギ樹皮を原料にした木質ペレット製造試験,新潟県森林研究所研究報告,2011年、No.52、49−52頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10L 5/44
C10B53/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
嵩密度0.55g/cm3〜1.0g/cm3に高密度化した木質系バイオマス粉砕物を、外熱式ロータリーキルンを用いてキルン外筒内で燃料を燃焼させてキルン内筒内部の木質系バイオマスを間接的に加熱して焙焼して固体燃料を製造する方法であって、キルン内筒内の木質系バイオマスの温度が250〜350℃となるようにし、キルン内筒内で滞留時間が1〜30分かつキルン内筒内の酸素濃度を10%以下とし、さらにキルン外筒内の温度が400〜800℃の条件下において、原料の木質バイオマスに対する物質収率が60〜95%であり、かつJIS M 8801:2004に規定のハードグローブ粉砕性指数(HGI)が30〜70の範囲となるように木質系バイオマスを焙焼し、石炭と混合して粉砕処理に供することを特徴とする固体燃料の製造方法。
【請求項2】
木質系バイオマスのキルン内筒内における滞留時間が2〜15分となるように焙焼することを特徴とする請求項1記載の固体燃料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、木質系バイオマスを焙焼(torrefaction)することによって得られる固体燃料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、化石燃料の枯渇化及びCO
2排出による地球温暖化への対策として、バイオマスを原料とする燃料の利用が検討されている。一般にバイオマスとは、エネルギー源又は工業原料として利用することのできる生物体をいい、代表的なものは木材、建築廃材、農産廃棄物等である。従来よりバイオマスを有効利用する方法が各種提案されている。その中でも、バイオマスを低コストで以って高付加価値物に転換できる有用な方法として、バイオマスを炭化して固体燃料を製造する方法がある。これは、バイオマスを炭化炉に投入して酸素欠乏雰囲気下で所定時間加熱して炭化処理し、固体燃料を製造するものである。
【0003】
このようにして製造された固体燃料は、発電設備や焼却設備等の燃焼設備の燃料に用いられるが、この場合、燃焼効率を向上させるために固体燃料を細かく粉砕して微粉燃料として用いることがある。固体燃料は単独であるいは石炭と混合して粉砕されるが、バイオマスのうち木質系バイオマスは大部分が繊維質であるため、粉砕性が悪く、燃焼効率の低下、粉砕機の運転性低下等の問題があった。
【0004】
特許文献1には、材廃材、間伐材、庭木、建築廃材等の木質系バイオマスを240℃以上300℃以下の温度で、15分以上90分以下の時間で熱分解した後に粉砕する方法が開示されている。加熱温度が240℃より低い温度であると破砕性、粉砕性が向上せず、300℃よりも高い温度であると破砕、粉砕時にサブミクロンオーダーの微粉量が増大して粉体トラブルを生じ易くなるため好ましくないとしている。
【0005】
また、特許文献2には穀類、実、種子を含むバイオマスを酸素濃度1〜5%、処理温度350〜400℃で30〜90分加熱して炭化処理することで、石炭と同等の粉砕性を有する固体燃料を製造する方法が開示されている。
【0006】
また、特許文献3には、内筒(キルンシェル)と外筒(マッフル)からなる外熱式ロータリーキルンで炭化物を得て固体燃料を製造する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−26474号公報
【特許文献2】特開2009−191085号公報
【特許文献3】特開2008−184531号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記方法で製造された炭化物は、物質収率及び熱量収率が低く、石炭に比較すると粉砕性が不十分であり、石炭と混合して粉砕処理して微粉炭ボイラーの燃料として使用することが困難である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、上記課題を解決するため鋭意検討した結果、木質系バイオマスを外熱式ロータリーキルンで焙焼して固体燃料を製造する方法であって、かつキルン内筒の木質系バイオマスの温度を250〜350℃、かつキルン内筒内の酸素濃度を10%以下とし、さらにキルン外筒内の温度が400〜800℃の条件下で焙焼(torrefaction)することによって、石炭と同等の粉砕性を有する固体燃料を効率よく製造できること見出した。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、木質系バイオマスを外熱式ロータリーキルンで焙焼することにより、キルン内での滞留時間が短くても固体燃料を効率よく製造できる。本発明の製造方法にて得られる固形燃料は、物質収率、熱量収率が高く、さらに石炭と同等の粉砕性を有し、高密度であるため、石炭と混合して粉砕処理して微粉炭ボイラーの燃料として高い比率で混炭して使用することできる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明において、原料として木質系バイオマスを使用する。木質系バイオマスとしては、木材チップ、樹皮(バーク)、おが屑、鋸屑等が挙げられる。これらの木質系バイオマスはあまり利用されることなく、廃棄されることが多いの現状である。特に、樹皮を原料として焙焼した場合、木部のチップと比較して良好な性質を有する固形燃料が得られることが判明した。樹皮は木部と比較するとヘミセルロースの含有量が少ないので、焙焼した後の物質収率が高くなる。樹種は広葉樹、針葉樹のいずれも使用できる。
【0012】
本発明において、木質系バイオマスは0.1〜100mmのサイズに粉砕された粉砕物を使用することが好ましく、0.1〜50mmのサイズのものを使用することがさらに好ましい。なお、本発明において、木質系バイオマス粉砕物のサイズとは、篩い分け器の円形の穴の大きさによって篩い分けされたものである。木質系バイオマスを粉砕するための装置としては、ナイフ切削型バイオマス燃料用チッパーで粉砕処理することが好ましい。
【0013】
本発明において、木質系バイオマスは高密度化することが好ましい。本発明における高密度化とは、木質系バイオマス粉砕物をブリケットやペレット状に成型する処理のことを意味する。成型処理を行うことによって、嵩密度を大幅に高めることができる。高密度化する前の木質系バイオマス粉砕物の嵩密度は0.01g/cm
3〜0.3g/cm
3程度であるが、高密度化処理後の嵩密度は0.55g/cm
3〜1.0g/cm
3である。
【0014】
高密度化処理後の木質系バイオマス粉砕物の嵩密度は、0.55g/cm
3以上とすることが好ましく、0.6g/cm
3以上にすることがさらに好ましい。嵩密度が0.55g/cm
3未満であると固体燃料を燃料として微粉炭ボイラーで燃焼させる際、微粉炭ミルの粉砕室中の容積が大きくなり、粉砕室からこぼれ落ちるため、石炭との混合比率をあまり大きくすることが不可能なため、本発明の効果を最大限に得ることができない。
【0015】
本発明における高密度化を行う前に、樹皮粉砕物の水分を10〜50%とすることが望ましい。水分が10%より少ないとブリケッターやペレタイザーの内部で閉塞が発生し、安定した成型物の製造ができない。水分が50%を超えると成型できず、粉体状またはペースト状で排出される。
【0016】
本発明において、木質系バイオマス100質量部に対してバインダーを0〜50質量部添加してもよい。バインダーは特に限定されていないが、有機高分子(リグニンなど)、無機高分子(アクリル酸アミドなど)、農業残渣(ふすま(小麦粉製造時に発生する残渣)など)等が望ましい。樹皮を効率よく有効利用することを目的としている観点から、バインダー添加部数は少ない方が望ましく、木質系バイオマス100質量部に対して0〜50質量部、より好ましくは0〜20質量部が望ましい。ただし、50質量部以上添加しても高密度化が不可能であるというわけではない。
【0017】
本発明において高密度化処理を行うための装置は特に限定されていないが、ブリケッター(北川鉄工所(株)製)、リングダイ式ペレタイザー(CPM(株)製、(株)御池鉄工所製)、フラットダイ式ペレタイザー(ダルトン(株)製)等が望ましい。
【0018】
本発明における焙焼(torrefaction)とは、低酸素雰囲気下で、所謂炭化処理よりも低い温度で加熱する処理のことである。通常の木材の炭化処理の温度は400〜1200℃であるが、焙焼はより低い温度で行われる。焙焼を行うことによって、その出発原料よりも高いエネルギー密度を有する固体燃料が得られる。
【0019】
本発明において、焙焼処理を行うための装置として、外熱式ロータリーキルンを使用する。外熱式ロータリーキルンとは、キルン内筒の一部または全部をキルン外筒で覆う構造を有するもので、内筒内で木質系バイオマスの焙焼を行い、外筒内で燃料を燃焼させて内筒内部の木質系バイオマスを間接的に加熱する。
【0020】
このような外熱式ロータリーキルンの一例を、
図1にて説明する。キルン内筒1は、図示しない回転駆動手段によって回転させることができる。通常、キルン内筒1の回転速度は1〜10rpm程度の速度である。キルン内筒1は原料の供給側から処理物の排出側に向かって緩やかな下りの傾斜が付けられている。キルン内筒1には供給側フード2と排出側フード3が設けられ、これらの内部には図示しないシール手段を設けてキルン内筒1内に空気が侵入しないようにして、キルン内筒1内部を低酸素雰囲気下に保つことができる。また、キルン内筒1には内部の木質系バイオマスの処理物から発生するガスをキルン外筒7内に排出する複数の連通管61、62、63、64が設けられている。なお、連通管はキルン内筒に穿孔された連通孔で代用してもよい。また、供給側フード2には原料である木質系バイオマスをキルン内筒1の供給するための供給手段4が供給側フード2に貫通して設けられており、該供給手段4は原料を定量供給するためのホッパー、原料をキルン内筒1に供給するスクリュウコンベアなどで構成される。排出側フード3には、キルン内筒1から製造された固体燃料(処理物)を排出するための排出手段5が排出側フード3に貫通して設けられている。
【0021】
本発明におけるキルン内筒内の焙焼処理条件は、酸素濃度が10%以下で、木質系バイオマスの温度が250〜350℃となるように処理する。酸素濃度が10%を超えると、得られる固体燃料の物質収率、熱量収率が低下する。従って、キルン内筒内部は、酸素濃度を10%以下に調整するため装置内を窒素等の不活性ガスで置換することが好ましい。また、木質系バイオマスの温度が250℃未満では、得られる固体燃料の後述する粉砕性が不十分である。一方、350℃を超えると、得られる固体燃料の物質収率、熱量収率が低下する。ヘミセルロースは270℃付近で熱分解が顕著になるのに対して、セルロースは355℃付近、リグニンは365℃付近で熱分解が顕著になるので、焙焼の処理温度を250〜350℃とすることで、ヘミセルロースを優先的に熱分解して、物質収率と粉砕性を両立できる固体燃料を製造することが可能になると推察される。
【0022】
一方、キルン外筒内の温度は、400〜800℃とすることが必要であり、450〜750℃とすることが好ましい。キルン外筒内の温度が400℃未満であるとキルン内筒内の木質系バイオマスの熱分解が不十分となり、得られる固体燃料の粉砕性が低下する。一方、800℃を超えるとキルン内筒内の木質系バイオマスの温度が過度に上昇し、得られる固体燃料の物質収率、熱量収率が低下する。
【0023】
木質系バイオマスのキルン内筒内における滞留時間は1〜30分が好ましく、2〜15分がさらに好ましい。
【0024】
本発明で得られる固体燃料は、原料の木質バイオマスに対して物質収率で60〜95%、熱量収率で70〜95%である。また、粉砕性の指標であるJIS M 8801:2004に規定のハードグローブ粉砕性指数(HGI)は30以上が好ましく、40以上がさらに好ましい。HGIが高くなるほど、粉砕され易いことを示している。HGIが30〜70の範囲であれば、石炭と混合して粉砕処理することが可能となる。石炭のHGIは通常40〜70であるので、本発明で得られた固体燃料は石炭と同等の粉砕性を有している。
【実施例】
【0025】
以下に実施例にて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0026】
[実施例1]
杉のチップをナイフ切削型バイオマス燃料用チッパー(緑産(株)製、Wood Hacker MEGA360DL)にて粉砕処理した。粉砕後、70mmのスクリーンを通過した粉砕物を原料として、乾燥機で120℃、10分間乾燥処理を行った。得られた生成物の水分を12%に調整し、リングダイ式ペレタイザー((株)御池鉄工所、MIIKE多目的造粒機ペレットミルSPM−500型)にてダイ穴直径6mm、ダイ厚さ36mmのリングダイを用いて高密度化処理を行い、嵩密度0.60g/cm
3のペレットを得た。続いてこのペレット(水分41%)を原料として、
図1に示すような外熱式のロータリーキルン型炭化炉を用い、窒素パージして、キルン外筒内の温度700℃、キルン内筒内の原料の温度(焙焼温度)292℃、滞留時間6.5分、充填率11%で焙焼を行って固体燃料を得た。この時の原料の外熱式のロータリーキルンへの投入速度は342kg/hであった。なお、嵩密度の測定方法は、JIS K 2151の6「かさ密度試験方法」に従った。
【0027】
[実施例2]
キルン外筒内の温度600℃、キルン内筒内の原料の温度(焙焼温度)286℃、滞留時間9分とした以外は、実施例1と同様に焙焼を行って固体燃料を得た。この時の原料の外熱式のロータリーキルンへの投入速度は268kg/hであった。
【0028】
[実施例3]
キルン外筒内の温度500℃、キルン内筒内の原料の温度(焙焼温度)269℃、滞留時間17分とした以外は、実施例1と同様に焙焼を行って固体燃料を得た。この時の原料の外熱式のロータリーキルンへの投入速度は133kg/hであった。
【0029】
[比較例1]
内筒のみからなるロータリーキルン型炭化炉を用い、窒素パージして、キルン内筒内の原料の温度(焙焼温度)320℃、滞留時間45分で焙焼を行って固体燃料を得た。この時の原料のロータリーキルンへの投入速度は18kg/hであった。
【0030】
[比較例2]
キルン外筒内の温度500℃、キルン内筒内の原料の温度(焙焼温度)447℃、滞留時間24分とした以外は、実施例1と同様に焙焼を行って固体燃料を得た。この時の原料の外熱式のロータリーキルンへの投入速度は91kg/hであった。
【0031】
[比較例3]
キルン外筒内の温度500℃、キルン内筒内の原料の温度(焙焼温度)194℃、滞留時間14分とした以外は、実施例1と同様に焙焼を行って固体燃料を得た。この時の原料の外熱式のロータリーキルンへの投入速度は162kg/hであった。
【0032】
[比較例4]
キルン外筒温度700℃、キルン内筒内の原料の温度(焙焼温度)230℃、滞留時間5.9分とした以外は、実施例1と同様に焙焼を行って固体燃料を得た。この時の原料の外熱式のロータリーキルンへの投入速度は379kg/hであった。
【0033】
実施例1〜3、比較例1〜4で得られた固体燃料について下記の項目について評価し、結果を表1に示した。なお、比較例5は未処理の杉チップ粉砕物のペレットである。
・物質収率:焙焼前後の試料の重量から計算した。
・粉砕性:試料をボールミルで200rpm、4分間粉砕し、200メッシュをパスしたものの重量を測定し、石炭の粉砕性の指標であるハードグローブ粉砕性指数(HGI)の値から換算して、試料のHGIとした。
【0034】
【表1】
【0035】
表1に示されるように、実施例1〜3の固体燃料は、物質収率が高く、ハードグローブ粉砕性指数(HGI)が30〜70の範囲であり粉砕性が良好であった。これに対して、比較例1では投入速度が実施例に比べて遅く、生産性に劣っていた。また、比較例2は物質収率が低く、比較例3〜5では粉砕性が劣っていた。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【
図1】本発明で使用する外熱式ロータリーキルンの概略図である。
【符号の説明】
【0037】
1 キルン内筒
2 供給側フード
3 排出側フード
4 供給手段
5 排出手段
61、62、63、64 連通管
7 キルン外筒