【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成26年6月20日 日本検査血液学会発行の「日本検査血液学会雑誌,第15巻,学術集会号,第S154頁」および 平成26年7月21日 仙台国際センター(宮城県仙台市青葉区青葉山無番地)にて開催された「第15回 日本検査血液学会学術集会」において発表
【文献】
SHIMA, M. et al.,Towards standardization of clot waveform analysis and recommendations for its clinical applications,Journal of Thrombosis and Haemostasis,2013年 5月,Vol. 11,pp. 1417-1420
【文献】
DAVIDSON, S.J. et al.,Abnormal APTT second derivative clot curves on the ACL top analyser and their diagnostic utility,Journal of Thrombosis and Haemostasis,2011年 7月,Vol. 9, Suppl. 2,pp. 124, P-MO-211
【文献】
MATSUMOTO, T. et al.,The measurement of low levels of factor VIII or factor IX in hemophilia A and hemophilia B plasma by clot waveform analysis and thrombin generationn assay,Journal of Thrombosis and Haemostasis,2006年,Vol. 4,pp. 337-384
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ループスアンチコアグラント又は凝固因子インヒビターを保有する被験者に由来する疑いのある血液検体と凝固時間測定試薬とが混和されてなる測定試料に光を照射し、前記測定試料から光量に関する光学的情報を取得する工程と、
取得した光学的情報に基づいて、凝固波形の微分に関するパラメータを少なくとも1つ取得する工程と、
取得したパラメータの値に基づいて、前記血液検体が、ループスアンチコアグラントを保有する被験者に由来する検体の疑いがあるか又は凝固因子インヒビターを保有する被験者に由来する検体の疑いがあるかを判定する工程と
を含む、血液検体の判定方法。
前記光学的情報が、連続的又は断続的に測定された散乱光量、透過度又は吸光度であり、前記凝固波形が、前記散乱光量、透過度又は吸光度の経時的変化を表す波形である請求項1又は2に記載の血液検体の判定方法。
前記凝固波形の微分に関するパラメータが、最大凝固速度(|min 1|)、最大凝固加速度(|min 2|)、及び最大凝固減速度(max 2)からなる群より選択される少なくとも1つである請求項1〜3のいずれか1項に記載の血液検体の判定方法。
前記凝固時間測定試薬が、プロトロンビン時間、活性化部分トロンボプラスチン時間、希釈プロトロンビン時間、希釈活性化部分トロンボプラスチン時間、カオリン凝固時間、希釈ラッセル蛇毒時間、トロンビン時間、及び希釈トロンビン時間からなる群より選択される少なくとも1種を測定するための試薬である請求項1〜7のいずれか1項に記載の血液検体の判定方法。
分析結果を表示する表示部をさらに備え、前記制御部が、前記血液検体についての参考情報を前記表示部に出力することを特徴とする請求項11に記載の血液検体分析装置。
前記制御部は、前記光学的情報に基づいて凝固時間を取得し、取得した凝固時間が、所定の時間より長い場合、前記参考情報を出力する請求項11〜13のいずれか1項に記載の血液検体分析装置。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[1.血液検体の判定方法]
第1の態様に係る血液の判定方法(以下、単に「方法」ともいう)では、まず、LA又は凝固因子インヒビターを保有する被験者に由来する疑いのある血液検体と凝固時間測定試薬とが混和されてなる測定試料に光を照射し、上記の測定試料から光量に関する光学的情報を取得する。
【0016】
血液検体は、LA又は凝固因子インヒビターを保有する被験者に由来する疑いのある検体であれば、特に限定されない。そのような検体としては、例えば、LAを保有する者及び/又は凝固因子インヒビターを保有する者を含む複数の被験者から得た検体群などが挙げられる。あるいは、血液検体の一部を凝固検査に付して、凝固時間が延長することが予め確認されている血液検体であってもよい。血液検体の種類としては、全血又は血漿であればよいが、好ましくは血漿である。血液検体には、凝固検査に通常用いられる公知の抗凝固剤が添加されていてもよい。そのような抗凝固剤としては、例えば、クエン酸3ナトリウムが挙げられる。
【0017】
本実施形態において、凝固時間測定試薬(以下、単に「試薬」ともいう)は、当該技術において公知の測定原理に基づく凝固時間を測定するための試薬であればよい。例えば、プロトロンビン時間、活性化部分トロンボプラスチン時間、希釈プロトロンビン時間、希釈活性化部分トロンボプラスチン時間、カオリン凝固時間、希釈ラッセル蛇毒時間、トロンビン時間、及び希釈トロンビン時間の少なくとも1種を測定するための試薬が挙げられる。また、市販の凝固時間測定試薬及び試薬キットを用いてもよい。
【0018】
本実施形態において、測定試料は、用いる試薬の測定原理に応じて公知の手法により、血液検体と試薬とを混和して調製すればよい。血液検体と試薬との反応時間は、通常1分以上10分以下であり、好ましくは3分以上5分以下である。温度条件は、通常25℃以上45℃以下であり、好ましくは35℃以上38℃以下である。測定試料の調製は、用手法で行ってもよいし、全自動測定装置により行ってもよい。そのような装置としては、例えば、全自動血液凝固測定装置のCSシリーズ(シスメックス株式会社)などが挙げられる。
【0019】
本実施形態において、測定試料に照射する光は、凝固時間の測定に通常用いられる光であればよく、例えば、波長が660 nm近傍、好ましくは660 nmの光が挙げられる。光源は特に限定されないが、例えば、発光ダイオード、ハロゲンランプなどが挙げられる。
【0020】
上記の光源から測定試料に光を照射することにより、該測定試料から散乱光及び透過光が生じる。本実施形態では、光量に関する光学的情報として、例えば、散乱光量又は透過光量に関する情報が挙げられ、散乱光強度、透過度、吸光度などが好ましい。
【0021】
本実施形態では、測定条件は特に限定されないが、光の照射と、光量に関する光学的情報の取得は、血液検体と試薬との混和後(測定試料の調製の直後)から凝固反応の終了(フィブリン塊の形成)までの間、連続的又は断続的に行うことが好ましい。このように、凝固の全過程にわたって連続的又は断続的に測定された光量に関する光学的情報(例えば、散乱光強度、透過度又は吸光度)に基づけば、凝固過程の任意の時点又は時間において、後述の凝固波形の微分に関するパラメータを取得することが可能となる。なお、光の照射と、光量に関する光学的情報の取得は、全自動測定装置により行ってもよい。そのような装置としては、例えば、全自動血液凝固測定装置のCSシリーズ(シスメックス株式会社)などが挙げられる。
【0022】
次いで、本実施形態に係る方法では、取得した光学的情報に基づいて、凝固波形の微分に関するパラメータを少なくとも1つ取得する。
【0023】
本実施形態において、凝固波形は、血液検体と凝固時間測定試薬とが混和されてなる測定試料を光学的に測定することにより得られる、該測定試料の凝固過程における光量に関する光学的情報の経時的変化を表す波形である。
図1を参照して、凝固波形及びその波形解析について説明する。
図1の凝固波形(上段のグラフ)において、a点は測定開始点(測定試料の調製の直後)であり、b点はフィブリン析出(凝固の開始)点であり、a-bは凝固時間を表す。c点は凝固の中点であり、d点は凝固の終点であり、e点は測定の終点である。凝固波形を微分(1次微分)すると、凝固速度が算出される(
図1の中段のグラフ参照)。なお、凝固波形のc点は1次微分の最大値に当たる。凝固速度を微分(2次微分)すると、凝固加速度が算出される(
図1の下段のグラフ参照)。なお、本実施形態に係る方法では、後述の凝固波形の微分に関するパラメータを用いて判定を行うので、凝固時間及び凝固波形の取得は任意である。
【0024】
本実施形態において、凝固波形の微分に関するパラメータは、取得した光学的情報に基づいて得られる、凝固速度、凝固加速度及び凝固減速度の少なくとも1つを示す値であれば、特に限定されない。ここで、凝固速度を示す値は、凝固波形の一次微分から得ることができる値に相当し、凝固加速度を示す値及び凝固減速度を示す値は、凝固波形の二次微分から得ることができる値に相当する。そのようなパラメータとしては、例えば、|min 1|、|min 2|及びmax 2が挙げられる。|min 1|とは、凝固波形の一次微分の最小値の絶対値であり、最大凝固速度を表す。|min 2|とは、凝固波形の二次微分の最小値の絶対値であり、最大凝固加速度を表す。max 2とは、凝固波形の二次微分の最大値であり、最大凝固減速度を表す。なお、|min 1|、|min 2|及びmax 2という用語自体は、当該技術において公知である。また、凝固波形の微分に関するパラメータは、これらの値を2つ以上組み合わせて得られる値であってもよく、例えば、|min 1|、|min 2|及びmax 2から選択される少なくとも2つの値の和、差、積、比などが挙げられる。
【0025】
凝固時間も取得している場合は、凝固波形の微分に関するパラメータは、凝固波形の一次微分又は二次微分から取得される値と、凝固時間とを組み合わせて得られる値であってもよい。そのような値としては、例えば、|min 1|、|min 2|及びmax 2から選択される少なくとも1つの値と凝固時間の値の和、差、積、比などが挙げられる。
【0026】
そして、本実施形態に係る方法では、取得したパラメータの値に基づいて、上記の血液検体が、LAを保有する被験者に由来する検体の疑いがあるか又は凝固因子インヒビターを保有する被験者に由来する検体の疑いがあるかを判定する。
【0027】
本実施形態において、判定は、取得したパラメータの値と、そのパラメータに対応する所定の閾値とを比較し、その比較結果に基づいて行うことが好ましい。例えば、|min 1|を取得している場合は|min 1|の値と第1の閾値とを比較し、|min 2|を取得している場合は|min 2|の値と第2の閾値とを比較し、max 2を取得している場合はmax 2の値と第3の閾値とを比較して、その比較結果に基づいて判定することができる。例えば、|min 1|、|min 2|及びmax 2のうち、取得している値の少なくとも1つが、その値に対応する所定の閾値以上であるとき、血液検体は、LAを保有する被験者に由来する検体の疑いがあると判定できる。一方、|min 1|、|min 2|及びmax 2のうち、取得している値の全てが、その値に対応する所定の閾値より小さいとき、血液検体は、凝固因子インヒビターを保有する被験者に由来する検体の疑いがあると判定できる。
【0028】
凝固波形の微分に関するパラメータとして、|min 1|、|min 2|及びmax 2のいずれか1つを取得している場合、例えば、以下のようにして判定できる:
・|min 1|の値と第1の閾値とを比較して、|min 1|の値が第1の閾値以上であるとき、血液検体は、LAを保有する被験者に由来する検体の疑いがあると判定する。一方、|min 1|の値が第1の閾値より小さいとき、血液検体が、凝固因子インヒビターを保有する被験者に由来する検体の疑いがあると判定する。
・|min 2|の値と第2の閾値とを比較して、|min 2|の値が第2の閾値以上であるとき、血液検体は、LAを保有する被験者に由来する検体の疑いがあると判定する。一方、|min 2|の値が第2の閾値より小さいとき、血液検体が、凝固因子インヒビターを保有する被験者に由来する検体の疑いがあると判定する。
・max 2の値と第3の閾値とを比較して、max 2の値が第3の閾値以上であるとき、血液検体は、LAを保有する被験者に由来する検体の疑いがあると判定する。一方、max 2の値が第3の閾値より小さいとき、血液検体が、凝固因子インヒビターを保有する被験者に由来する検体の疑いがあると判定する。
【0029】
凝固波形の微分に関するパラメータとして、|min 1|、|min 2|及びmax 2のいずれか2つを取得している場合、例えば、以下のようにして判定できる:
・|min 1|の値と第1の閾値とを比較し、|min 2|の値と第2の閾値とを比較して、|min 1|の値が第1の閾値以上であるか、又は、|min 2|の値が第2の閾値以上であるとき、血液検体は、LAを保有する被験者に由来する検体の疑いがあると判定する。一方、|min 1|の値が第1の閾値より小さく、且つ、|min 2|の値が第2の閾値より小さいとき、血液検体が、凝固因子インヒビターを保有する被験者に由来する検体の疑いがあると判定する。
・|min 1|の値と第1の閾値とを比較し、max 2の値と第3の閾値とを比較して、|min 1|の値が第1の閾値以上であるか、又は、max 2の値が第3の閾値以上であるとき、血液検体は、LAを保有する被験者に由来する検体の疑いがあると判定する。一方、|min 1|の値が第1の閾値より小さく、且つ、max 2の値が第3の閾値より小さいとき、血液検体が、凝固因子インヒビターを保有する被験者に由来する検体の疑いがあると判定する。
・|min 2|の値と第2の閾値とを比較し、max 2の値と第3の閾値とを比較して、|min 2|の値が第2の閾値以上であるか、又は、max 2の値が第3の閾値以上であるとき、血液検体は、LAを保有する被験者に由来する検体の疑いがあると判定する。一方、|min 2|の値が第2の閾値より小さく、且つ、max 2の値が第3の閾値より小さいとき、血液検体が、凝固因子インヒビターを保有する被験者に由来する検体の疑いがあると判定する。
【0030】
凝固波形の微分に関するパラメータとして、|min 1|、|min 2|及びmax 2の3つを取得している場合、例えば、以下のようにして判定できる:
|min 1|の値と第1の閾値とを比較し、|min 2|の値と第2の閾値とを比較し、max 2の値と第3の閾値とを比較して、|min 1|の値が第1の閾値以上であるか、又は、|min 2|の値が第2の閾値以上であるか、又は、max 2の値が第3の閾値以上であるとき、血液検体が、LAを保有する被験者に由来する検体の疑いがあると判定する。一方、|min 1|の値が第1の閾値より小さく、且つ、|min 2|の値が第2の閾値より小さく、且つ、max 2の値が第3の閾値より小さいとき、血液検体が、凝固因子インヒビターを保有する被験者に由来する検体の疑いがあると判定する。
【0031】
本実施形態では、所定の閾値は特に限定されない。例えば、LA陽性検体及び凝固因子インヒビター陽性検体について、凝固波形の微分に関する種々のパラメータのデータを蓄積することにより、各パラメータに対応する所定の閾値を経験的に設定できる。あるいは、LA陽性検体群と凝固因子インヒビター陽性検体群のそれぞれについて、凝固波形の微分に関する種々のパラメータの値を取得し、両群を明確に区別可能な値を所定の閾値として設定してもよい。
【0032】
別の実施形態においては、血液検体について、凝固波形の微分に関するパラメータに加えて、凝固時間を取得し、凝固時間の延長が認められる血液検体について上記の判定を行うことができる。この実施形態では、凝固時間に基づいて、LA又は凝固因子インヒビターを保有する被験者に由来する疑いのある血液検体を選別して判定することができる。以下に、この実施形態(第2の態様)に係る血液検体の判定方法について説明する。
【0033】
本実施形態では、血液検体は、血液又は血漿であれば特に限定されない。なお、本実施形態において、凝固時間測定試薬、測定試料の調製、及び光量に関する光学的情報の取得に関する詳細は、第1の態様に係る方法について述べたことと同様である。
【0034】
本実施形態では、取得した光学的情報に基づいて、凝固時間を取得するとともに凝固波形の微分に関するパラメータを少なくとも1つ取得する。凝固波形の微分に関するパラメータの取得に関する詳細は、第1の態様に係る方法について述べたことと同様である。凝固時間を取得する方法自体は、当該技術において公知である。よって、当業者は、用いる凝固時間測定試薬の測定原理に応じて、血液検体の凝固時間を適宜取得できる。
【0035】
本実施形態では、凝固時間の延長が認められた血液検体について、取得したパラメータの値に基づいて、この血液検体が、LAを保有する被験者に由来する検体の疑いがあるか又は凝固因子インヒビターを保有する被験者に由来する検体の疑いがあるかを判定する。なお、判定の手順及び各パラメータに対応する所定の閾値などに関する詳細は、第1の態様に係る方法について述べたことと同様である。
【0036】
本実施形態において、血液検体の凝固時間が延長しているか否かは、取得した凝固時間と、所定の凝固時間とを比較し、比較結果に基づいて決定することが好ましい。例えば、取得した凝固時間が所定の凝固時間よりも長いとき、血液検体は、凝固時間の延長が認められる検体であると決定できる。一方、取得した凝固時間が所定の凝固時間以下のとき、血液検体は、凝固時間の延長が認められない検体であると決定できる。
【0037】
所定の凝固時間は、正常検体の凝固時間が好ましい。正常検体としては、例えば、健常者に由来する血液又は血漿が挙げられる。また、市販の正常血漿などであってもよい。そのような正常検体の凝固時間は、血液検体と同様にして、正常検体について実際に測定した凝固時間であってもよいし、用いる凝固時間測定試薬の測定原理において正常値又は基準値として知られている凝固時間であってもよい。
【0038】
なお、本実施形態において、凝固時間の延長が認められなかった血液検体は、LA又は凝固因子インヒビターを保有する被験者に由来する疑いはないと考えられる。
【0039】
[2.血液検体分析装置、システム及びコンピュータプログラム]
以下に、本実施形態の血液検体分析装置の一例を、図面を参照して説明する。しかし、本実施形態はこの例のみに限定されない。
図2に示されるように、血液検体分析装置10は、測定試料からの光量に関する光学的情報を取得する測定部20と、測定部20の前方に配置された検体搬送部30と、測定部20により取得された測定データを分析すると共に測定部20に指示を与える制御装置40を備えている。なお、測定部20と検体搬送部30とは、光学的情報取得部50を構成している。
【0040】
測定部20には、蓋2a及び2bと、カバー2cと、電源ボタン2dが設けられている。ユーザは、蓋2aを開けて、試薬テーブル11及び12(
図3参照)に設置されている試薬容器103を新たな試薬容器103と交換したり、また、別の試薬容器103を新たに追加したりすることができる。試薬容器103には、収容する試薬の種類と、試薬に付与されたシリアルナンバーからなる試薬IDとを含むバーコードが印刷されたバーコードラベル103aが貼付されている。
【0041】
ユーザは、蓋2bを開けて、ランプユニット27(
図3参照)を交換できる。また、ユーザは、カバー2cを開けて、ピアサ17a(
図3参照)を交換できる。検体搬送部30は、検体ラック102に支持された検体容器101を、ピアサ17aによる吸引位置まで搬送する。検体容器101は、ゴム製の蓋101aにより密封されている。
【0042】
血液検体分析装置10を使用する場合、ユーザは、まず、測定部20の電源ボタン2dを押して測定部20を起動させ、制御装置40の電源ボタン439を押して制御装置40を起動させる。制御装置40が起動すると、表示部41にログオン画面が表示される。ユーザは、ログオン画面にユーザ名及びパスワードを入力して制御装置40にログオンし、血液検体分析装置10の使用を開始する。
【0043】
図3に示されるように、測定部20は、試薬テーブル11及び12と、キュベットテーブル13と、バーコードリーダ14と、キュベット供給部15と、キャッチャ16と、検体分注アーム17と、試薬分注アーム18と、緊急検体セット部19と、光ファイバ21と、検出部22と、キュベット移送部23と、加温部24と、廃棄口25と、流体部26と、ランプユニット27とを備えている。
【0044】
試薬テーブル11及び12とキュベットテーブル13は、それぞれ、円環形状を有し、回転可能に構成されている。試薬テーブル11及び12には、試薬容器103が載せ置かれる。試薬テーブル11及び12に載せ置かれた試薬容器103のバーコードは、バーコードリーダ14により読み取られる。バーコードから読み取られた情報(試薬の種類、試薬ID)は、制御装置40に入力され、ハードディスク434(
図6参照)に格納される。
【0045】
キュベットテーブル13には、キュベット104を支持可能な複数の孔からなる支持部13aが形成されている。ユーザによってキュベット供給部15に投入された新しいキュベット104は、キュベット供給部15により順次移送され、キャッチャ16によりキュベットテーブル13の支持部13aに設置される。
【0046】
検体分注アーム17と試薬分注アーム18には、それぞれ、上下移動及び回転移動できるようステッピングモータが接続されている。検体分注アーム17の先端には、検体容器101の蓋101aを穿刺できるよう先端が鋭利に形成されたピアサ17aが設置されている。試薬分注アーム18の先端にはピペット18aが設置されている。ピペット18aの先端は、ピアサ17aと異なり平坦に形成されている。また、ピペット18aには、静電容量式の液面検知センサ213(
図4参照)が接続されている。
【0047】
ランプユニット27は、検出部22による光学的信号の検出に用いられる複数種類の波長の光を供給する。ランプユニット27からの光は、光ファイバ21を介して、検出部22に供給される。検出部22には、穴状の支持部22aが複数設けられており、各支持部22aには、キュベット104が挿入可能となっている。各支持部22aには、それぞれ、光ファイバ21の端部が装着され、支持部22aに支持されたキュベット104に光ファイバ21からの光が照射可能となっている。検出部22は、光ファイバ21を介して、ランプユニット27から供給される光をキュベット104に照射し、キュベット104を透過する光(又はキュベット104からの散乱光)の光量を検出する。
【0048】
検体搬送部30(
図2参照)によって検体容器101が所定位置に搬送されると、ピアサ17aが、検体分注アーム17の回転移動により検体容器101の真上に位置付けられる。そして、検体分注アーム17が下方向に移動され、ピアサ17aが検体容器101の蓋101aを貫通し、検体容器101に収容されている血液検体が、ピアサ17aにより吸引される。緊急を要する血液検体が緊急検体セット部19にセットされている場合、ピアサ17aは、検体搬送部30から供給される検体に割り込んで、緊急を要する血液検体を吸引する。ピアサ17aにより吸引された血液検体は、キュベットテーブル13上の空のキュベット104に吐出される。
【0049】
血液検体が吐出されたキュベット104は、キュベット移送部23のキャッチャ23aにより、キュベットテーブル13の支持部13aから、加温部24の支持部24aに移送される。加温部24は、支持部24aに設置されたキュベット104に収容されている血液検体を、所定の温度(例えば37℃)に加温する。加温部24による血液検体の加温が終了すると、このキュベット104は、キャッチャ23aによって再び把持される。そして、このキュベット104は、キャッチャ23aにより把持されたまま所定位置に位置付けられ、この状態で、ピペット18aにより吸引された試薬がキュベット104内に吐出される。
【0050】
ピペット18aによる試薬の分注では、まず、試薬テーブル11及び12が回転され、測定項目に対応する試薬を収容する試薬容器103が、ピペット18aによる吸引位置に搬送される。そして、原点位置を検知するためのセンサに基づいて、ピペット18aの上下方向の位置が原点位置に位置付けられた後、液面検知センサ213によりピペット18aの下端が試薬の液面に接触するまで、ピペット18aが下降される。ピペット18aの下端が試薬の液面に接触すると、必要な量の試薬を吸引できる程度に、さらにピペット18aが下降される。そして、ピペット18aの下降が停止され、ピペット18aにより試薬が吸引される。ピペット18aにより吸引された試薬は、キャッチャ23aによって把持されたキュベット104に吐出される。そして、キャッチャ23aの振動機能により、キュベット104内の血液検体と試薬が攪拌される。これにより、測定試料の調製が行われる。
【0051】
その後、測定試料を収容するキュベット104は、キャッチャ23aにより、検出部22の支持部22aに移送される。上記のように、検出部22は、ランプユニット27から供給される光をキュベット104に照射し、測定試料からの光学的情報を取得する。取得された光学的情報は、制御装置40に送信される。制御装置40は、光学的情報に基づいて分析を行い、分析結果を表示部41に表示する。
【0052】
測定終了後、不要となったキュベット104は、キュベットテーブル13により搬送され、キャッチャ16により廃棄口25に廃棄される。なお、測定動作の際に、ピアサ17aとピペット18aは、流体部26から供給される洗浄液などの液体により、適宜洗浄される。
【0053】
図5に示されるように、測定部20は、制御部200と、ステッピングモータ部211と、ロータリーエンコーダ部212と、液面検知センサ213と、センサ部214と、機構部215と、取得部216と、バーコードリーダ14と、ランプユニット27を含んでいる。また、制御部200は、CPU201と、メモリ202と、通信インターフェース203と、I/Oインターフェース204を含んでいる。
【0054】
CPU201は、メモリ202に記憶されているコンピュータプログラムを実行する。メモリ202は、ROM、RAM、ハードディスクなどからなる。また、CPU201は、通信インターフェース203を介して、検体搬送部30を駆動させると共に、制御装置40との間で指示信号及びデータの送受信を行う。また、CPU201は、I/Oインターフェース204を介して、測定部20内の各部を制御すると共に、各部から出力された信号を受信する。
【0055】
ステッピングモータ部211は、試薬テーブル11及び12と、キュベットテーブル13と、キャッチャ16と、検体分注アーム17と、試薬分注アーム18と、キュベット移送部23を、それぞれ駆動するためのステッピングモータを含んでいる。ロータリーエンコーダ部212は、ステッピングモータ部211に含まれる各ステッピングモータの回転変位量に応じたパルス信号を出力するロータリーエンコーダを含んでいる。
【0056】
液面検知センサ213は、試薬分注アーム18の先端に設置されたピペット18aに接続されており、ピペット18aの下端が試薬の液面に接触したことを検知する。センサ部214は、ピペット18aの上下方向の位置が原点位置に位置付けられたことを検知するセンサと、電源ボタン2dが押されたことを検知するセンサを含んでいる。機構部215は、キュベット供給部15と、緊急検体セット部19と、加温部24と、流体部26を駆動するための機構と、ピアサ17aとピペット18aによる分注動作が可能となるようピアサ17aとピペット18aに圧力を供給する空圧源を含んでいる。取得部216は、検出部22を含んでいる。
【0057】
図2に示されるように、制御装置40は、表示部41と、入力部42と、コンピュータ本体43とから構成されている。制御装置40は、測定部20から光学的情報を受信する。そして、制御装置40のプロセッサは、光学的情報に基づいて、血液検体の判定のためのコンピュータプログラムを実行する。
【0058】
図5は、制御装置40の機能構成を示す図である。
図5に示されるように、制御装置40は、取得部401と、記憶部402と、算出部403と、判定部404と、出力部405とを備える。取得部401は、測定部20と、ネットワークを介して通信可能に接続されている。
【0059】
取得部401は、測定部20から送信された光学的情報を取得する。記憶部402は、判定に必要な所定の閾値及び凝固波形の微分に関する各種パラメータの値を算出するための式などを記憶する。また、記憶部402は、凝固時間を算出するための式も記憶していてもよい。算出部403は、取得部401で取得された情報を用い、記憶部402に記憶された式にしたがって、各種パラメータの値を算出する。判定部404は、算出部403によって算出されたパラメータの値が、記憶部402に記憶された所定の閾値よりも小さいか否かを判定する。出力部405は、判定部404による判定結果を、血液検体についての参考情報として出力する。
【0060】
図6に示されるように、制御装置40のコンピュータ本体43は、CPU431と、ROM432と、RAM433と、ハードディスク434と、読出装置435と、入出力インターフェース436と、通信インターフェース437と、画像出力インターフェース438と、電源ボタン439とを備える。CPU431、ROM432、RAM433、ハードディスク434、読出装置435、入出力インターフェース436、通信インターフェース437、画像出力インターフェース438及び電源ボタン439は、バス440によって通信可能に接続されている。
【0061】
CPU431は、ROM432に記憶されているコンピュータプログラム及びRAM433にロードされたコンピュータプログラムを実行する。CPU431がアプリケーションプログラムを実行することにより、上述した各機能ブロックが実現される。これにより、コンピュータシステムが、血液検体を判定するための判定装置としての端末として機能する。
【0062】
ROM432は、マスクROM、PROM、EPROM、EEPROMなどによって構成されている。ROM432には、CPU431によって実行されるコンピュータプログラム及びこれに用いるデータが記録されている。
【0063】
RAM433は、SRAM、DRAMなどによって構成されている。RAM433は、ROM432及びハードディスク434に記録されているコンピュータプログラムの読み出しに用いられる。また、RAM433はこれらのコンピュータプログラムを実行するときに、CPU431の作業領域としても利用される。
【0064】
ハードディスク434は、オペレーティングシステム、CPU431に実行させるためのアプリケーションプログラム(血液検体の判定のためのコンピュータプログラム)などのコンピュータプログラム、当該コンピュータプログラムの実行に用いるデータ、及び制御装置40の設定内容がインストールされている。
【0065】
読出装置435は、フレキシブルディスクドライブ、CD−ROMドライブ、DVD−ROMドライブなどによって構成されている。読出装置435は、CD、DVDなどの可搬型記録媒体441に記録されたコンピュータプログラムまたはデータを読み出すことができる。
【0066】
入出力インターフェース436は、例えば、USB、IEEE1394、RS−232Cなどのシリアルインターフェイスと、SCSI、IDE、IEEE1284などのパラレルインターフェイスと、D/A変換器、A/D変換器などからなるアナログインターフェイスとから構成されている。入出力インターフェース436には、キーボード、マウスなどの入力部42が接続されている。ユーザは入力部42を介して指示を入力し、入出力インターフェース436は、入力部42を介して入力された信号を受け付ける。
【0067】
通信インターフェース437は、例えば、Ethernet(登録商標)インターフェースなどである。制御装置40は、通信インターフェース437により、プリンタへの印刷データの送信が可能である。通信インターフェース437は測定部20に接続されており、CPU441は、通信インターフェース437を介して、測定部20との間で指示信号及びデータの送受信を行う。
【0068】
画像出力インターフェース438は、LCD、CRTなどで構成される表示部41に接続されている。画像出力インターフェース438は、画像データに応じた映像信号を表示部41に出力し、表示部41は、画像出力インターフェース438から出力された映像信号に基づいて画像を表示する。
【0069】
図4を参照して、測定動作の際、測定部20のCPU201は、検出部22(
図3参照)から出力された検出信号をデジタル化したデータ(光学的情報)を、メモリ202に一時格納する。メモリ202の記憶領域は、支持部22a毎にエリア分割される。各エリアには、対応する支持部22aに支持されたキュベット104に対して所定波長の光を照射したときに取得されるデータ(光学的情報)が、順次格納される。こうして、所定の測定時間にわたって順次、データがメモリ202に格納される。測定時間が経過すると、CPU201は、メモリ202に対するデータの格納を中止し、格納したデータを、通信インターフェース203を介して制御装置40に送信する。制御装置40は、受信したデータを処理して解析を行い、解析結果を表示部41に表示する。
【0070】
測定部20における処理は、主として測定部20のCPU201の制御のもとで行われ、制御装置40における処理は、主として制御装置40のCPU431の制御のもとで行われる。
図7を参照して、測定処理が開始されると、測定部20は、上記のように、検体容器101から血液検体(血漿)を吸引し、吸引した血液検体を、キュベットテーブル13上の空のキュベット104に分注する。次いで、測定部20は、血液検体が分注されたキュベット104を加温部24に移送して、キュベット104内の血液検体を所定温度(例えば37℃)に加温し、その後、キュベット104に試薬を添加して、測定試料を調製する(ステップS11)。測定部20は、キュベット104に試薬を添加した時点から時間の計測を開始する。
【0071】
その後、測定部20は、試薬が添加されたキュベット104を検出部22に移送し、キュベット104に光を照射して測定試料を測定する(ステップS12)。この測定では、波長660 nmの光に基づくデータ(散乱光量又は透過光量)が、測定時間の間、順次、メモリ202に格納される。このとき、データは、試薬添加時点からの経過時間に対応付けられた状態でメモリ202に格納される。そして、測定時間が経過すると、測定部20は、測定を中止し、メモリ202に格納された測定結果(データ)を制御装置40に送信する(ステップS13)。これにより、制御装置40が測定部20から測定結果(データ)を受信すると(ステップS21:YES)、制御装置40は、受信した測定結果に対して分析処理を実行する(ステップS22)。すなわち、制御装置40は、測定試料について、凝固波形の微分に関するパラメータ(|min 1|、|min 2|及びmax 2)の算出と、該パラメータに基づく判定とを行う。なお、制御装置40は、測定試料について、凝固時間及び凝固波形も算出してもよい。また、制御装置40は、凝固時間に基づいて、測定試料が、凝固時間の延長が認められるか否かの判定を行ってもよい。
【0072】
図8Aを参照して、凝固波形の微分に関するパラメータを1つ用いる場合の処理のフローを説明する。ここでは、測定試料からの光量に関する光学的情報から、凝固波形の微分に関するパラメータの値として|min 1|の値取得し、取得した値と、対応する所定の閾値とを比較して血液検体の判定を行なう場合を例として説明する。しかし、本実施形態は、この例のみに限定されるものではない。この例においては、|min 1|に代えて、|min 2|又はmax 2の値を取得して判定を行ってもよい。
【0073】
まず、ステップS1−1において、制御装置40の取得部401は、測定部20から受信したデータ(散乱光量又は透過光量)に基づいて、光学的情報(散乱光強度、又は透過度もしくは吸光度)を取得する。次に、ステップS1−2において、算出部403は、取得部401が取得した光学的情報から、記憶部402に記憶された凝固波形の微分に関するパラメータを算出するための式にしたがって、|min 1|の値を算出する。なお、凝固時間及び凝固波形は後述の判定の処理には利用されないが、算出部403は、取得部401が取得した光学的情報から凝固時間及び凝固波形をさらに算出してもよい。
【0074】
ステップS1−3において、判定部404は、算出部403で算出された|min 1|の値と、記憶部402に記憶された所定の閾値とを用いて、血液検体が、凝固因子インヒビター及びLAのいずれを保有する被験者に由来する検体の疑いがあるかを判定する。ここで、|min 1|の値が第1の閾値よりも小さいとき、処理はステップS1−4に進行する。ステップS1−4において、判定部404は、血液検体が凝固因子インヒビターを保有する被験者に由来する検体の疑いがあるとの判定結果を出力部405に送信する。一方、|min 1|の値が第1の閾値よりも小さくないとき(すなわち、|min 1|の値が第1の閾値以上であるとき)、処理はステップS1−5に進行する。ステップS1−5において、判定部404は、血液検体がLAを保有する被験者に由来する検体の疑いがあるとの判定結果を出力部405に送信する。なお、|min 2|の値を用いる場合は|min 2|の値と第2の閾値とを比較し、max 2の値を用いる場合はmax 2の値と第3の閾値とを比較する。
【0075】
ステップS1−6において、出力部405は、判定結果を出力し、表示部41に表示させたり、プリンタに印刷させたりする。あるいは、音声で出力してもよい。これにより、判定結果を、血液検体についての参考情報としてユーザに提供できる。
【0076】
図8Aに示される処理において、凝固時間と所定の時間とを比較するステップをさらに含む場合のフローを、
図8Bを参照して説明する。ここでは、測定試料からの光量に関する光学的情報から凝固時間及び|min 1|の値を取得し、凝固時間が所定の時間より長い場合に、取得したパラメータの値と、対応する所定の閾値とを比較して血液検体の判定を行なう場合を例として説明する。しかし、本実施形態は、この例のみに限定されるものではない。この例においては、|min 1|に代えて、|min 2|又はmax 2の値を取得して判定を行ってもよい。
【0077】
まず、ステップS2−1において、制御装置40の取得部401は、測定部20から受信したデータに基づいて、光学的情報を取得する。次に、ステップS2−2において、算出部403は、取得部401が取得した光学的情報から、記憶部402に記憶された凝固時間を算出するための式及び凝固波形の微分に関するパラメータを算出するための式にしたがって、凝固時間(Clotting Time:以下、「CT」ともいう)及び|min 1|の値を算出する。算出部403は、取得部401が取得した光学的情報から凝固波形をさらに算出してもよい。
【0078】
ステップS2−3において、判定部404は、算出部403で算出されたCTと、所定の時間とを比較する。ここで、所定の時間は、記憶部402に予め記憶された正常検体の凝固時間であってもよいし、正常検体について血液検体と同様に測定して算出された凝固時間であってもよい。ステップS2−3において、CTが所定の時間よりも長いとき、処理はステップS2−4に進行する。一方、CTが所定の時間よりも長くないとき(すなわち、CTが所定の時間以下であるとき)、処理はステップS2−5に進行する。ステップS2−5において、判定部404は、血液検体は凝固時間の延長が認められない検体であるとの判定結果を出力部405に送信する。
【0079】
ステップS2−4において、判定部404は、算出部403で算出された|min 1|の値と、記憶部402に記憶された第1の閾値と比較する。ここで、|min 1|の値が第1の閾値よりも小さいとき、処理はステップS2−6に進行する。ステップS2−6において、判定部404は、血液検体が凝固因子インヒビターを保有する被験者に由来する検体の疑いがあるとの判定結果を出力部405に送信する。
【0080】
一方、ステップS2−4において、|min 1|の値が第1の閾値よりも小さくないとき(すなわち、|min 1|の値が第1の閾値以上であるとき)、処理はステップS2−7に進行する。ステップS2−7において、判定部404は、血液検体がLAを保有する被験者に由来する検体の疑いがあるとの判定結果を出力部405に送信する。
【0081】
ステップS2−8において、出力部405は、判定結果を出力し、表示部41に表示させたり、プリンタに印刷させたりする。あるいは、音声で出力してもよい。これにより、判定結果を、血液検体についての参考情報としてユーザに提供できる。
【0082】
図8Cを参照して、凝固波形の微分に関するパラメータを2つ用いる場合の処理のフローを説明する。ここでは、測定試料からの光量に関する光学的情報から、|min 1|及び|min 2|の値を取得し、取得した値と、対応する所定の閾値とを比較して血液検体の判定を行なう場合を例として説明する。しかし、本実施形態は、この例のみに限定されるものではない。この例においては、|min 1|及び|min 2|のいずれか一方に代えて、max 2の値を取得して判定を行ってもよい。また、この例においては、凝固時間と所定の時間とを比較する工程をさらに含み、凝固時間が所定の時間より長い場合に、取得したパラメータの値と、対応する所定の閾値とを比較して血液検体の判定を行ない、凝固時間が所定の時間以下である場合に、血液検体は凝固時間の延長が認められない検体であるとの判定結果を出力してもよい。
【0083】
まず、ステップS3−1において、制御装置40の取得部401は、測定部20から受信したデータに基づいて、光学的情報を取得する。次に、ステップS3−2において、算出部403は、取得部401が取得した光学的情報から、記憶部402に記憶された凝固波形の微分に関するパラメータを算出するための式にしたがって、|min 1|及び|min 2|の値を算出する。算出部403は、取得部401が取得した光学的情報から凝固時間及び凝固波形をさらに算出してもよい。
【0084】
ステップS3−3において、判定部404は、算出部403で算出された|min 1|の値と、記憶部402に記憶された第1の閾値とを比較する。ここで、|min 1|の値が第1の閾値よりも小さいとき、処理はステップS3−4に進行する。ステップS3−4において、判定部404は、算出部403で算出された|min 2|の値と、記憶部402に記憶された第2の閾値と比較する。ここで、|min 2|の値が第2の閾値よりも小さいとき、処理はステップS3−5に進行する。ステップS3−5において、判定部404は、血液検体が凝固因子インヒビターを保有する被験者に由来する検体の疑いがあるとの判定結果を出力部405に送信する。
【0085】
一方、ステップS3−3において、|min 1|の値が第1の閾値よりも小さくないとき(すなわち、|min 1|の値が第1の閾値以上であるとき)、処理はステップS3−6に進行する。また、ステップS3−4において、|min 2|の値が第2の閾値よりも小さくないとき(すなわち、|min 2|の値が第2の閾値以上であるとき)、処理はステップS3−6に進行する。ステップS3−6において、判定部404は、血液検体がLAを保有する被験者に由来する検体の疑いがあるとの判定結果を出力部405に送信する。なお、本実施形態においては、ステップS3−3とステップS3−4との処理は順番を任意に入れ替えることができる。
【0086】
ステップS3−7において、出力部405は、判定結果を出力し、表示部41に表示させたり、プリンタに印刷させたりする。あるいは、音声で出力してもよい。これにより、判定結果を、血液検体についての参考情報としてユーザに提供できる。
【0087】
図8Dを参照して、凝固波形の微分に関するパラメータを3つ用いる場合の処理のフローを説明する。ここでは、測定試料からの光量に関する光学的情報から、|min 1|、|min 2|及びmax 2の値を取得し、取得した値と、対応する所定の閾値とを比較して血液検体の判定を行なう場合を例として説明する。しかし、本実施形態は、この例のみに限定されるものではない。また、この例においては、凝固時間と所定の時間とを比較する工程をさらに含み、凝固時間が所定の時間より長い場合に、取得したパラメータの値と、対応する所定の閾値とを比較して血液検体の判定を行ない、凝固時間が所定の時間以下である場合に、血液検体は凝固時間の延長が認められない検体であるとの判定結果を出力してもよい。
【0088】
まず、ステップS4−1において、制御装置40の取得部401は、測定部20から受信したデータに基づいて、光学的情報を取得する。次に、ステップS4−2において、算出部403は、取得部401が取得した光学的情報から、記憶部402に記憶された凝固波形の微分に関するパラメータを算出するための式にしたがって、|min 1|、|min 2|及びmax 2の値を算出する。算出部403は、取得部401が取得した光学的情報から凝固時間及び凝固波形をさらに算出してもよい。
【0089】
ステップS4−3において、判定部404は、算出部403で算出された|min 1|の値と、記憶部402に記憶された第1の閾値とを比較する。ここで、|min 1|の値が第1の閾値よりも小さいとき、処理はステップS4−4に進行する。ステップS4−4において、判定部404は、算出部403で算出された|min 2|の値と、記憶部402に記憶された第2の閾値と比較する。ここで、|min 2|の値が第2の閾値よりも小さいとき、処理はステップS4−5に進行する。ステップS4−5において、判定部404は、算出部403で算出されたmax 2の値と、記憶部402に記憶された第3の閾値と比較する。ここで、max 2の値が第3の閾値よりも小さいとき、処理はステップS4−6に進行する。ステップS4−6において、判定部404は、血液検体が凝固因子インヒビターを保有する被験者に由来する検体の疑いがあるとの判定結果を出力部405に送信する。
【0090】
一方、ステップS4−3において、|min 1|の値が第1の閾値よりも小さくないとき(すなわち、|min 1|の値が第1の閾値以上であるとき)、処理はステップS4−7に進行する。また、ステップS4−4において、|min 2|の値が第2の閾値よりも小さくないとき(すなわち、|min 2|の値が第2の閾値以上であるとき)、処理はステップS4−7に進行する。また、ステップS4−5において、max 2の値が第3の閾値よりも小さくないとき(すなわち、max 2の値が第3の閾値以上であるとき)、処理はステップS4−7に進行する。ステップS4−7において、判定部404は、血液検体がLAを保有する被験者に由来する検体の疑いがあるとの判定結果を出力部405に送信する。なお、本実施形態においては、ステップS4−3と、ステップS4−4と、ステップS4−5との処理は順番を任意に入れ替えることができる。
【0091】
ステップS4−8において、出力部405は、判定結果を出力し、表示部41に表示させたり、プリンタに印刷させたりする。あるいは、音声で出力してもよい。これにより、判定結果を、血液検体についての参考情報としてユーザに提供できる。
【0092】
分析結果を表示する画面の一例として、
図9を参照して、プロトロンビン時間測定試薬を用いて血液検体の凝固過程を分析した結果を表示する画面について説明する。画面D1は、検体番号を表示する領域D11と、測定項目名を表示する領域D12と、詳細画面を表示させるためのボタンD13と、測定日時を表示するための領域D14と、測定結果を表示する領域D15と、解析情報を表示する領域D16と、凝固波形及びそれを微分したグラフを表示する領域D17を含む。
【0093】
領域D15には、測定項目と測定値が表示される。領域D15において、「PT sec」は、プロトロンビン時間である。領域D15には、プロトロンビン時間(PT sec)の他、プロトロンビン時間を所定のパラメータ値に変換した値(PT %、PT R、PT INR)が表示されてもよい。
【0094】
領域D16には、解析項目と参考情報が表示される。領域D16において、「Index」は、判定に用いた凝固波形の微分に関するパラメータの値である。「Cutoff(参考)」は、判定に用いたパラメータ値に対応する所定の閾値である。「判定(参考)」は、血液分析装置による判定結果であり、血液検体が、凝固因子インヒビター及びLAのいずれかを保有する被験者に由来する検体の疑いがあることを示す。なお、疾患の診断は、この判定結果だけでなく、他の検査結果などの情報も考慮して行われることが望ましい。よって、本実施形態に係る血液分析装置による判定結果及び所定の閾値が参考情報であることを示すために、「(参考)」と表示している。
図9では、判定結果を「LA疑い」という文字で表示しているが、フラグなどの記号や図形標識で表示してもよい。あるいは、判定結果を音声で出力してもよい。
【0095】
以下に実施例を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0096】
実施例1: 凝固波形解析による血液検体の判定
凝固波形の微分に関するパラメータに基づいて、LA陽性検体と凝固因子インヒビター陽性検体とを鑑別することが可能であるか否かを検討した。
【0097】
(1)試薬及び検体
凝固時間測定試薬として、APTT試薬のトロンボチェックAPTT-SLA(シスメックス株式会社)及びトロンボチェック20 mM塩化カルシウム液(シスメックス株式会社)を用いた。被検血漿として、LA陽性患者の血漿(8例)及び第VIII因子インヒビター陽性患者の血漿(5例)を用いた。また、正常血漿として、クロスミキシングテスト用正常血漿のCRYOcheck Pooled Normal Plasma(Precision BioLogic Inc社)を用い、精度管理用コントロール試料として、コアグトロールIX及びコアグトロールIIX(シスメックス株式会社)を用いた。
【0098】
(2)検体の測定
各検体(50μL)を反応キュベットに分注し、37℃で1分間加温した。ここに、予め37℃で加温した上記のAPTT試薬(50μL)を添加して、37℃で3分間反応させた。そして、20 mM塩化カルシウム液(50μL)を混合して、透過度を420秒間連続的に測定した。なお、測定には、全自動血液凝固測定装置CS-2400(シスメックス株式会社)を用いた。
【0099】
(3)解析結果
得られた透過度の経時的変化に基づいて、凝固波形の微分に関するパラメータとして|min 1|、|min 2|及びmax 2を算出した。正常血漿の|min 1|、|min 2|及びmax 2の値に対する各被検血漿の|min 1|、|min 2|及びmax 2の割合を算出し、グラフにプロットした。得られたグラフを
図10A〜10Cに示す。
【0100】
図10A〜10Cに示されるように、|min 1|、|min 2|及びmax 2はいずれも、LA陽性検体群の方が凝固因子インヒビター陽性検体群よりも高いことがわかる。また、|min 1|、|min 2|及びmax 2のいずれにおいても、LA陽性検体群の最低値と、凝固因子インヒビター陽性検体群の最高値との間には隔たりが認められたことから、各パラメータについて、LA陽性検体と凝固因子インヒビター陽性検体とを切り分ける閾値の設定が可能であることが示唆される。これらのことから、凝固波形の微分に関するパラメータに基づいて、LA陽性検体と凝固因子インヒビター陽性検体とを明確に鑑別できることが示された。これらのパラメータは定量的指標であるので、熟練者でなくても検体の明確な判定が可能と考えられる。
【0101】
参考例1: クロスミキシングテストのグラフパターンによる検体の判定
クロスミキシングテストにおいて、即時型(正常血漿と被検血漿との混合直後に凝固時間を測定する方法)のグラフパターンと、遅延型(正常血漿と被検血漿とを混合して、2時間37℃で加温後に凝固時間を測定する方法)グラフパターンとのグラフ変化度合いを比較することにより、LA陽性検体と凝固因子インヒビター陽性検体とを鑑別し得るとの情報に基づき、実際に検討を行った。
【0102】
(1)試薬及び検体
この参考例で用いた試薬、被検血漿、正常血漿及び精度管理用コントロール試料は、実施例1と同じである。
【0103】
(2)検体の測定
正常血漿と被検血漿とを10:0、9:1、8:2、5:5、2:8、1:9、及び、0:10の各比率で混合し、得られた各検体の凝固時間を測定した。なお、即時型のグラフパターンを得る測定では、正常血漿と被検血漿との混合及び凝固時間の測定をCS-2400(シスメックス株式会社)により行った。遅延型のグラフパターンを得る測定では、正常血漿と被検血漿との混合を用手法で行い、得られた各検体を37℃で2時間加温した後、凝固時間の測定をCS-2400(シスメックス株式会社)により行った。各検体について得られた凝固時間を、検体中の被検血漿の割合をX軸とし、凝固時間をY軸とするグラフにプロットした。
【0104】
(3)解析結果
LA陽性検体群の一部について、即時型及び遅延型のグラフパターンを
図11Aに示した。また、凝固因子インヒビター陽性検体群の一部について、即時型及び遅延型のグラフパターンを
図11Bに示した。これらの図に示されるように、LA陽性検体及び凝固因子インヒビター陽性検体のグラフパターンの変化は類似していた。よって、グラフパターンの変化による両者の鑑別は定性的評価にならざるを得ず、熟練者でない場合は判定が困難であることがわかる。
【0105】
参考例2: ICAによる検体の判定
近年、クロスミキシングテストの定量化指標としてICAが考案され、LAの診断方法として推奨されている。ICAによりLA陽性検体と凝固因子インヒビター陽性検体とを鑑別できるか否かを検討した。
【0106】
(1)試薬及び検体
この参考例で用いた試薬、被検血漿、正常血漿及び精度管理用コントロール試料は、実施例1と同じである。
【0107】
(2)検体の測定
正常血漿と被検血漿とを10:0、5:5、及び、0:10の各比率で混合し、得られた各検体の凝固時間を測定した。なお、即時型のグラフパターンを得る測定では、正常血漿と被検血漿との混合及び凝固時間の測定をCS-2400(シスメックス株式会社)により行った。遅延型のグラフパターンを得る測定では、正常血漿と被検血漿との混合を用手法で行い、得られた各検体を37℃で2時間加温した後、凝固時間の測定をCS-2400(シスメックス株式会社)により行った。各検体について得られた凝固時間を、下記の式に当てはめてICAを算出し、グラフにプロットした。得られたグラフを
図12に示す。
【0108】
ICA = (B−A)/C×100
(式中、Aは、正常血漿の凝固時間を表し、Bは、正常血漿と被検血漿とを混合して得た検体の凝固時間を表し、Cは、被検血漿の凝固時間を表す。)
【0109】
(3)解析結果
図12に示されるように、ICAの値は、LA陽性検体群と凝固因子インヒビター陽性検体群との間に明確な差は認められなかった。よって、ICAによって、LA陽性検体と凝固因子インヒビター陽性検体とを鑑別することは困難である。