(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
金属母材と、金属母材の上に形成した第1メッキ層と、第1メッキ層の上に形成した第2メッキ層とを有する金属材料と、樹脂との接合体であって、第1メッキ層がニッケル、鉄、銅、亜鉛、コバルト及びそれらの合金から選ばれる少なくとも1種の金属を含み、第2メッキ層が貴金属から選ばれる少なくとも1種の金属を含み、第1メッキ層の金属が第2メッキ層の表面に析出し、金属材料と樹脂が、第2メッキ層の上に形成したシランカップリング剤(但し、メルカプト系のシランカップリング剤を除く)層を介して接合した接合体(但し、ポリエステル系接着剤層を有する接合体を除く)。
【背景技術】
【0002】
金属材料と樹脂との接合体は、電気・自動車分野を中心に幅広い産業分野で使用されている。このような金属材料と樹脂との接合体としては、例えば、電子部品に用いられる半導体パッケージのリードフレームや、自動車に用いられるパワーカードがある。自動車部品のパワーカードは、金属製の放熱板や金属素子を、エポキシ樹脂等のモールド樹脂で包み込んだ構造をしており、現状、高価なプライマーで処理して、金属材料と樹脂とを接合している。
【0003】
金属材料と樹脂との接合体として、例えば、特許文献1には、金属部品がインサートされた樹脂複合成形品であって、上記金属部品とフェノール樹脂とがシランカップリング剤で結合されていることを特徴とする金属インサート樹脂複合成形品が記載されている。
【0004】
また、特許文献2には、金属部材と樹脂の界面において、上記金属部材上に形成された中間層とシランカップリング剤層を有し、上記シランカップリング剤層と上記樹脂とが接触し、上記中間層は、上記金属の酸化物層、キレート剤層、上記酸化物層とキレート剤層との複合層及び上記酸化物キレート剤の混層のいずれかであり、上記中間層は、電気的被絶縁性であることを特徴とする金属部材と樹脂の接合体が記載されている。
【0005】
金属材料と樹脂との接合体は、場合によっては過酷な状況下で使用されることがあるため、接合体の接合強度が高いことが必要である。しかし、特許文献1や特許文献2の接合体は、接合強度に改善の余地がある。
【0006】
また、金メッキを最表面に有する金属材料が樹脂との接合体に用いられることがあるが、金メッキ表面は官能基等がなく安定なため、最表面に金メッキ層を有する金属材料と、樹脂とを接合させるためには、金メッキ表面にアミノ基やカルボキシ基等の官能基を導入する必要がある。金メッキ表面に官能基を導入する方法としては、金と結合しやすいチオール基を有するアルカンチオール誘導体を用いる方法が知られている(特許文献3)。
【0007】
しかし、アルカンチオール誘導体を用いて金メッキ表面に官能基を導入する方法は、用いるアルカンチオール誘導体が高価であり、また、アルカンチオール誘導体は金メッキ表面で自己組織化的に集合する必要があるため、反応に時間がかかる。さらに、得られる接合体の接合強度も不十分である。
【0008】
また、金メッキを最表面に有する金属材料と樹脂との接合体について、メルカプト基を有するシランカップリング剤を用いて接合体を得ることができることが知られており、例えば、特許文献4には、(A)エポキシ樹脂、(B)フェノール樹脂系硬化剤、(C)無機充填材、(D)硬化促進剤、(E)カップリング剤を含むエポキシ樹脂組成物において、上記硬化促進剤(D)がエポキシ樹脂の硬化反応を促進し得るカチオン部と、上記硬化反応を促進するカチオン部の触媒活性を抑制するシリケートアニオン部とを有する硬化促進剤(d1)を含み、上記カップリング剤(E)がメルカプト基を有するシランカップリング剤(e1)を含むことを特徴とする半導体封止用エポキシ樹脂組成物、及び該組成物を用いて半導体素子を封止した半導体装置が記載されている。特許文献4の実施例では、NiPd合金フレームに金メッキしたものを金属材料として用いている。しかし、特許文献4の方法では、金メッキ表面とシランカップリング剤のチオール基の結合が弱いため、得られる接合体の接合強度に改善の余地がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記のように、金属材料の最表面に金等の貴金属のように、官能基を有していない金属メッキ層を有する金属材料と、樹脂との接合体では、製造コストが高くなり、また、反応時間が長くなるため、効率の面でも不利であり、さらに、得られる接合体の接合強度について改善の余地がある。それ故、本発明は、金属材料の最表面に官能基を有していない貴金属メッキ層を有する金属材料と、樹脂との接合体を、高い接合強度で、低コストにて効率的に提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決するための手段を種々検討した結果、貴金属メッキ層の下に特定の金属を有する金属メッキ層を設け、該金属メッキ層の金属を、熱処理により、貴金属メッキ層表面に析出させることで、金属材料と樹脂との接合体の接合強度が高くなることを見出し、本発明を完成した。
【0012】
すなわち、本発明の要旨は以下の通りである。
(1)金属母材と、金属母材の上に形成した第1メッキ層と、第1メッキ層の上に形成した第2メッキ層とを有する金属材料と、樹脂との接合体であって、第1メッキ層がニッケル、鉄、銅、亜鉛、コバルト及びそれらの合金から選ばれる少なくとも1種の金属を含み、第2メッキ層が貴金属から選ばれる少なくとも1種の金属を含み、第1メッキ層の金属が第2メッキ層の表面に析出し、金属材料と樹脂が、第2メッキ層の上に形成したシランカップリング剤層を介して接合した接合体。
(2)第2メッキ層の表面に析出した第1メッキ層の金属が酸化又は水酸化されている(1)の接合体。
(3)第2メッキ層に含まれる金属が金である(1)又は(2)の接合体。
(4)第1メッキ層に含まれる金属がニッケル又はその合金である(1)〜(3)のいずれかの接合体。
(5)シランカップリング剤が、アミノ基、エポキシ基、メルカプト基及びビニル基から選ばれる少なくとも1種の官能基を有する、(1)〜(4)のいずれかの接合体。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、金属材料の最表面に官能基を有していない貴金属メッキ層を有する金属材料と、樹脂との接合体を、高い接合強度で、低コストにて効率的に提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図2】
図2(a)は、実施例3における、金メッキ層表面上のニッケル(Ni)原子についての熱処理前のFE−AES分析の結果を示す図である。
図2(b)は、実施例3における、金メッキ層表面上のニッケル(Ni)原子についての熱処理後のFE−AES分析の結果を示す図である。
【
図3】
図3(a)は、実施例3における、金メッキ層表面上の金(Au)原子についての熱処理前のFE−AES分析の結果を示す図である。
図3(b)は、実施例3における、金メッキ層表面上の金(Au)原子についての熱処理後のFE−AES分析の結果を示す図である。
【
図4】
図4(a)は、実施例3における、金メッキ層表面上のリン(P)原子についての熱処理前のFE−AES分析の結果を示す図である。
図4(b)は、実施例3における、金メッキ層表面上のリン(P)原子についての熱処理後のFE−AES分析の結果を示す図である。
【
図5】
図5(a)は、実施例3における、金メッキ層表面上の酸素(O)原子についての熱処理前のFE−AES分析の結果を示す図である。
図5(b)は、実施例3における、金メッキ層表面上の酸素(O)原子についての熱処理後のFE−AES分析の結果を示す図である。
【
図6】
図6は、実施例1−4及び比較例1の接合体の接合強度を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の好ましい実施形態について詳細に説明する。
本発明は、金属材料と樹脂との接合体に関する。
【0016】
図1は、本発明の接合体の構造を説明した模式図である。
図1で示すように、本発明の接合体1は、金属母材2と、金属母材2の上に形成した第1メッキ層3と、第1メッキ層3の上に形成した第2メッキ層4とを有する金属材料5と、樹脂7との接合体であり、金属材料5と樹脂7は、第2メッキ層4の上に形成したシランカップリング剤層6を介して接合している。本発明の接合体において、第1メッキ層の金属8が第2メッキ層4の表面に析出している。
【0017】
I.接合体
1.金属材料
金属材料は、金属母材と、金属母材の上に形成した第1メッキ層と、第1メッキ層の上に形成した第2メッキ層とを有する。
【0018】
金属母材の金属としては、特に限定されずに、例えば、ニッケル、鉄、銅、亜鉛、コバルト、スズ、クロム及びそれらの合金等が挙げられ、高い熱拡散性の観点から銅が好ましい。金属母材の厚さは、特に限定されない。
【0019】
第1メッキ層に含まれる金属は、ニッケル、鉄、銅、亜鉛、コバルト及びそれらの合金から選ばれる少なくとも1種の金属であり、耐食性の観点から、ニッケル及びその合金が好ましい。第1メッキ層の厚さは、特に限定されずに、通常、1nm〜100μmである。
【0020】
第2メッキ層に含まれる金属は、貴金属から選ばれる少なくとも1種の金属であり、例えば、金、銀、白金、パラジウム、ロジウム、ルテニウム及びイリジウムであり、半田付け性の観点から、金がより好ましい。第2メッキ層の厚さは、特に限定されずに、通常、1nm〜100μmである。
【0021】
金属材料において、第1メッキ層の金属は第2メッキ層の表面に析出している。本発明において、第2メッキ層の表面とは、通常、第2メッキ層の最表面から深さ数nm程度までをいう。第2メッキ層の表面に析出した第1メッキ層の金属は、好ましくは、酸化又は水酸化されている。すなわち、第2メッキ層の表面は、好ましくは、酸素原子又は水酸基を有する。第2メッキ層の表面に析出した第1メッキ層の金属が酸化又は水酸化されていると、第2メッキ層の表面に析出した酸化又は水酸化された第1メッキ層の金属と、第2メッキ層の上に形成されるシランカップリング剤層のシランカップリング剤のシラノール基とが共有結合するため、該シランカップリング剤層を介して第2メッキ層と樹脂とが強固に接合され、得られる接合体の接合強度が高くなる。第2メッキ層の表面に析出した第1メッキ層の金属及び酸化又は水酸化されている該金属は、通常の表面分析法、例えば、電界放射型オージェ電子分光法(Field Emission-Auger ElectronSpectroscopy;FE-AES)によって確認することができる。
【0022】
金属材料において、第2メッキ層は、少なくともその表面に第1メッキ層の金属が析出していればよい。すなわち、第2メッキ層内部には、第1メッキ層の金属が含まれていなくてもよい。第2メッキ層の表面に対して析出した第1メッキ層の金属が占める割合は、特に限定されずに、例えば、第2メッキ層の表面積に対して10%以上であり、得られる接合体の高い接合強度の観点から、好ましくは50%以上である。
【0023】
好ましくは、金属材料を熱処理することによって、第1メッキ層の金属を第2メッキ層の表面に析出させることができる。熱処理温度は、特に限定されずに、例えば、150〜500℃であり、得られる接合体の接合強度の観点から、好ましくは、200〜400℃であり、より好ましくは、250〜400℃であり、特に好ましくは、275〜350℃である。
【0024】
熱処理時間は、熱処理温度によって異なるが、例えば、10秒〜24時間であり、生産性の観点から、好ましくは、10秒〜3時間であり、さらに、品質の観点から、より好ましくは、5分〜3時間である。熱処理時間は、例えば、熱処理温度が300℃であれば5分〜1時間であり、熱処理温度が200℃であれば30分〜3時間である。
【0025】
本発明において、金属材料として、150〜500℃、好ましくは、200〜400℃、より好ましくは、250〜400℃、特に好ましくは、275〜350℃の温度で熱処理したものを用いることが好ましい。上記範囲の温度で熱処理された金属材料を用いると、得られる接合体の接合強度が高くなる。
【0026】
2.シランカップリング剤層
シランカップリング剤層は、金属材料の第2メッキ層の上に形成し、金属材料と樹脂とは、シランカップリング剤層を介して接合する。より詳細には、シランカップリング剤層は、シランカップリング剤のシラノール基が、第2メッキ層表面に析出した第1メッキ層の金属と結合し、シランカップリング剤の末端官能基が、樹脂と結合することによって、第2メッキ層と樹脂とを接合する。本発明において、シランカップリング剤層と樹脂とは、好ましくは、別々の層として存在するが、シランカップリング剤層が樹脂に含まれた構造であってもよい。
【0027】
シランカップリング剤は、特に限定されないが、樹脂の種類に応じた官能基と、アルコキシ基とを有するアルコキシシランであることが好ましい。本発明において、アルコキシ基の加水分解によって生成するシラノール基が、第2メッキ層の表面に析出した第1メッキ層の金属と結合することができる。シランカップリング剤の官能基としては、アミノ基、エポキシ基、メルカプト基及びビニル基が好ましい。シランカップリング剤層の厚さは、特に限定されずに、通常、数nm〜数μmである。
【0028】
3.樹脂
樹脂は、シランカップリング剤の官能基に応じて選択することができ、特に限定されずに、熱可塑性樹脂及び熱硬化性樹脂のいずれも用いることができる。熱可塑性樹脂としては、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリスチレン樹脂、アクリル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ナイロン樹脂、ウレタン樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂、ポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS)樹脂等が挙げられる。熱硬化性樹脂としては、例えば、メラミン樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、ポリイミド樹脂、ジアリルフタレート樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、フラン樹脂等が挙げられる。本発明の接合体に用いる樹脂としては、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリスチレン樹脂、アクリル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ナイロン樹脂、フェノール樹脂及びエポキシ樹脂が好ましい。樹脂層の厚さは、特に限定されない。
本発明において、シランカップリング剤の官能基と、樹脂との組み合わせは、特に限定されずに、様々な組み合わせが可能である。
【0029】
II.接合体の製造方法
本発明は、上記の接合体の製造方法も含む。
本発明の接合体の製造方法は、上記の金属材料を150〜500℃の温度で熱処理することを含む。金属材料の熱処理により、第1メッキ層の金属が第2メッキ層の表面に析出する。第2メッキ層表面に析出した第1メッキ層の金属は、好ましくは、酸化又は水酸化されている。
【0030】
金属材料の熱処理温度は、好ましくは、200〜400℃であり、より好ましくは、250〜400℃であり、特に好ましくは、275〜350℃である。上記範囲の温度で金属材料を熱処理すると、得られる接合体の接合強度が高くなる。
【0031】
熱処理時間は、上記の通りであり、熱処理温度によって異なるが、例えば、10秒〜24時間であり、生産性の観点から、好ましくは、10秒〜3時間であり、さらに、品質の観点から、より好ましくは、5分〜3時間である。熱処理時間は、例えば、熱処理温度が300℃であれば5分〜1時間であり、熱処理温度が200℃であれば30分〜3時間である。
【0032】
本発明の接合体の製造方法は、上記の金属材料の熱処理に加えて、熱処理した金属材料の上にシランカップリング剤層を形成させることと、該シランカップリング剤層を介して、金属材料と樹脂とを接合することとを含むことができる。
【0033】
シランカップリング剤層の形成は、例えば、熱処理した金属材料をシランカップリング剤溶液に浸漬させ、シランカップリング剤層を金属材料の第2メッキ層上に薄膜として形成させることで行う。
【0034】
シランカップリング剤溶液の溶媒としては、水が好ましいが、シランカップリング剤の溶解性を上げるために、エタノール、メタノール、アセトン等の水溶性有機溶媒を水と併用しても良い。有機溶媒を水と併用する場合、溶媒中の有機溶媒の割合は、例えば、1〜70重量%であり、好ましくは、5〜30重量%である。シランカップリング剤溶液の濃度は、通常、0.1重量%〜20重量%である。
【0035】
金属材料のシランカップリング剤溶液への浸漬時間は、特に限定されずに、通常、5秒〜16時間であり、シランカップリング剤層の確実な形成及びコストの観点から、好ましくは、1分〜1時間である。シランカップリング剤層の薄膜化は、液体を除去可能な手段であれば特に限定されずに通常の方法で行うことができ、例えば、スピンコーター、バーコーター等を用いることができる。シランカップリング剤層が形成した金属材料は、通常、熱処理することにより、シランカップリング剤を金属材料に固定化することができる。熱処理条件は、特に限定されずに、通常、80〜140℃で5分〜1時間である。
【0036】
金属材料と樹脂との接合は、特に限定されずに、射出成形法、トランスファー成形法、圧縮成形法等の通常の方法によって行うことができる。例えば、射出成形法では、金属材料を射出成形用金型内に配置し、溶融状態の樹脂を射出成形用金型内に射出することによって、金属材料と樹脂とを接合する。成形条件は特に限定されず、用いる樹脂の物性等に応じて、適宜、好ましい条件を設定することができる。或いは、予め射出成形法等の一般的な成形方法で樹脂を製造し、金属材料と樹脂とを当接させ、当接面に熱を与え、樹脂の当接面付近を溶融させることによって、金属材料と樹脂とを接合してもよい。
【0037】
本発明の接合体の製造方法において、製造工程の短縮化のために、上記のシランカップリング剤層の形成と、金属材料と樹脂との接合は同時に行ってもよい。この場合、シランカップリング剤と樹脂を予め混合して用いる。本発明の製造方法において、第2メッキ層の表面に析出した第1メッキ層の金属とシランカップリング剤との結合の効率性が高くなるため、シランカップリング剤層の形成と、金属材料と樹脂との接合は、別々に行うことが好ましい。
本発明は、上記の製造方法で製造した接合体も含む。
【0038】
本発明の好ましい実施形態において、接合体は、金属母材と、金属母材の上に形成した第1メッキ層と、第1メッキ層の上に形成した第2メッキ層とを有する金属材料と、樹脂との接合体であって、第1メッキ層がニッケル、鉄、銅、亜鉛、コバルト及びそれらの合金から選ばれる少なくとも1種の金属を含み、第2メッキ層が貴金属から選ばれる少なくとも1種の金属を含み、150〜500℃(好ましくは、200〜400℃、より好ましくは、250〜400℃、特に好ましくは、275〜350℃)で熱処理することによって、第1メッキ層の金属が第2メッキ層の表面に析出し、金属材料と樹脂が、第2メッキ層の上に形成したシランカップリング剤層を介して接合したものである。
【実施例】
【0039】
以下、実施例を用いて本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明の技術的範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
【0040】
(実施例1)
シランカップリング剤として、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン(信越シリコーン社製:KBM−603)を用いて、その水溶液を調製した。
【0041】
金属材料として、銅母材と、銅母材の上に形成したニッケル−リンメッキ層と、ニッケル−リンメッキ層の上に形成した金メッキ層とを有する金属材料を用いた。金属材料を大気中で、200℃で1時間熱処理した。
【0042】
熱処理した金属材料を、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン水溶液に浸漬させた。スピンコーターを用いて余分な液を除き、金属材料の金メッキ層上にシランカップリング剤の薄膜を形成させた。金属材料を100℃で15分間熱処理して、金メッキ層上にシランカップリング剤を固定化した。
【0043】
得られた、金メッキ層上にシランカップリング剤層が固定化された金属材料に、エポキシ樹脂を175℃、7MPaにてトランスファー成形して接合した。得られた接合体を180℃で2時間ポストキュアした後、接合体の接合強度を圧縮試験機にて測定した。接合体の接合強度は3回の測定値の平均として求めた。得られた接合体の接合強度は、16.0MPaであった。
【0044】
(実施例2)
金属材料の熱処理温度を200℃から250℃に変更した以外は実施例1と同様にして接合体を得た。得られた接合体の接合強度は、23.6MPaであった。
【0045】
(実施例3)
金属材料の熱処理温度を200℃から300℃に変更した以外は実施例1と同様にして接合体を得た。得られた接合体の接合強度は、28.0MPaであった。実施例3において、熱処理前後の金属材料の金メッキ層表面(570μm×570μm)を、FE−AES分析(JEOL社製:JAMP−7830F)にて、下記原子について調べた。FE−AES分析では、金メッキ層の最表面から数nm程度の深さまで分析できる。
図2に、ニッケル(Ni)原子についての熱処理前(
図2(a))及び熱処理後(
図2(b))の表面分析結果を示す。
図2(a)及び
図2(b)より、熱処理前には、金メッキ層表面にはニッケル原子は存在していなかったが、金属材料を熱処理することで、金メッキ層表面にニッケルが出現したことが確認された。
図3に、金(Au)原子についての熱処理前(
図3(a))及び熱処理後(
図3(b))の表面分析結果を示す。
図3(a)及び
図3(b)より、熱処理前には、金メッキ層表面には金原子が存在していたが、金属材料を熱処理することで、金メッキ層表面から金原子が減少したことが確認された。
図4に、リン(P)原子についての熱処理前(
図4(a))及び熱処理後(
図4(b))の表面分析結果を示す。
図4(a)及び
図4(b)より、金属材料の熱処理前後のいずれの場合においても、金メッキ層表面にリン原子は存在しなかったことが確認された。
図5に、酸素(O)原子についての熱処理前(
図5(a))及び熱処理後(
図5(b))の表面分析結果を示す。
図5(a)及び
図5(b)より、熱処理前には、金メッキ層表面には酸素原子は存在していなかったが、金属材料を熱処理することで、金メッキ層表面に酸素原子が出現し、金メッキ層表面のニッケル原子が酸化又は水酸化されていることが確認された。
【0046】
(実施例4)
金属材料の熱処理温度を200℃から400℃に変更した以外は実施例1と同様にして接合体を得た。得られた接合体の接合強度は、24.0MPaであった。
【0047】
(比較例)
金属材料を熱処理しなかった以外は実施例1と同様にして接合体を得た。得られた接合体の接合強度は、4.5MPaであった。
【0048】
実施例1−4及び比較例の接合体の接合強度を
図6に示す。
図6より、金属材料を熱処理した実施例1−4の接合体は、金属材料の熱処理を行わなかった比較例の接合体と比較して、接合強度が高かったことが示された。実施例1−4の中でも、実施例2−4の接合体の接合強度がより高かった。