【実施例1】
【0018】
図1(a)は、実施例1に係る弾性波デバイス100の上面図、
図1(b)は、
図1(a)のA−A間の断面図である。
図1(a)及び
図1(b)のように、実施例1の弾性波デバイス100は、支持基板10の上面の一部に圧電基板20が接合されている。支持基板10と圧電基板20とは、例えばその境界において支持基板10を構成する原子と圧電基板20を構成する原子とがアモルファス層を形成することにより強固に接合されている。支持基板10は、例えばサファイア基板である。支持基板10の厚さは、例えば75μm〜240μmである。圧電基板20は、例えば42°回転YカットX伝搬のタンタル酸リチウム(LT)基板である。圧電基板20の厚さは、例えば2μm〜4μmである。
【0019】
圧電基板20上に、共振器30が形成されている。共振器30は、例えば弾性表面波共振器である。共振器30は、IDT(Interdigital Transducer)32と、IDT32の両側に設けられた反射器34と、を有する。IDT32は、一対の櫛型電極36を備える。一対の櫛型電極36はそれぞれ、複数の電極指38と複数の電極指38を共通に接続するバスバー40とを有する。IDT32は、圧電基板20内又は表面に弾性波を励振する。反射器34は、弾性波を反射する。すなわち、IDT32で励振される弾性波の主要波は、複数の電極指38が並んだ方向に伝搬する。IDT32及び反射器34は、例えばアルミニウム(Al)、銅(Cu)、又は銅が添加されたアルミニウムなどの金属で形成される。なお、以下において、複数の電極指38が並んで弾性波の主要波が伝搬する方向を第1方向とし、圧電基板20の上面に平行な方向において第1方向に交差(例えば直交)する方向を第2方向とする。
【0020】
支持基板10の上面のうちの圧電基板20が接合されていない非接合領域12にパッド50が設けられている。パッド50は、例えば80μm×80μm程度の大きさで、厚さが2.5μm〜5μm程度である。パッド50は、支持基板10を上面から下面に貫通する貫通配線52を介して、支持基板10の下面に設けられた端子電極54に電気的に接続されている。貫通配線52は、例えば銅又は銀などの金属で形成されていて、直径が40μm〜55μm程度の円柱形状をしている。なお、貫通配線52は、楕円形形状や矩形形状である場合でもよい。圧電基板20は脆いため、クラックなどの発生を抑制する点から、貫通配線52は圧電基板20を貫通せずに支持基板10のみを貫通する場合が好ましく、支持基板10の非接合領域12に設けられる場合が好ましい。
【0021】
パッド50は、支持基板10の非接合領域12から圧電基板20上に延在する配線56を介して、共振器30に電気的に接続されている。配線56は、第1方向で支持基板10の非接合領域12から圧電基板20上に延在している。言い換えると、配線56は、圧電基板20の結晶方位のX軸方向で支持基板10の非接合領域12から圧電基板20上に延在している。配線56は、第2方向で支持基板10の非接合領域12から圧電基板20上には延在していない。配線56は、例えば金(Au)で形成されていて、厚さが2.5μm〜5μm程度、幅が5μm〜10μm程度である。支持基板10上及び圧電基板20上における配線56の厚さは、例えば圧電基板20の厚さよりも厚くなっている。
【0022】
次に、実施例1に係る弾性波デバイスの製造方法について説明する。
図2(a)から
図2(f)は、実施例1に係る弾性波デバイス100の製造方法を示す断面図である。
図2(a)のように、支持基板10の平坦上面に圧電基板20の平坦下面を例えば直接接合によって接合させる。直接接合は、例えば100℃以下の常温での表面活性化接合で行ってもよい。なお、支持基板10と圧電基板20とを接着剤を用いて接合してもよい。その後、圧電基板20を貫通し且つ支持基板10の途中まで掘り込まれた凹部を形成し、当該凹部に金属膜60を埋め込む。凹部は例えばエッチング法又はブラスト法で形成することができ、金属膜60は例えばメッキ法で形成することができる。
【0023】
図2(b)のように、圧電基板20上に、共振器30を形成する。共振器30は一般的な方法を用いて形成することができる。共振器30を覆う保護膜62を形成する。保護膜62としては、例えば酸化シリコン膜を用いることができる。
【0024】
図2(c)のように、共振器30が形成された領域以外の領域において、圧電基板20と金属膜60とを、例えばエッチング法又はブラスト法によって除去する。これにより、支持基板10の上面に、圧電基板20が接合されていない非接合領域12が形成される。
【0025】
図2(d)のように、支持基板10上及び圧電基板20上であって、配線56及びパッド50が形成されない領域を覆ってレジスト膜64を形成する。
図2(e)のように、例えば蒸着法及びリフトオフ法を用いて、配線56及びパッド50を形成する。
【0026】
図2(f)のように、金属膜60が露出するまで支持基板10の下面に対して研磨(例えばバックグラインド)を施して、支持基板10を薄くする。これにより、支持基板10を貫通する金属膜60からなる貫通配線52が形成される。その後、支持基板10の下面に、例えば蒸着法及びリフトオフ法を用いて、端子電極54を形成する。これにより、実施例1の弾性波デバイス100が形成される。
【0027】
ここで、
図3(a)及び
図3(b)を用いて、実施例1の弾性波デバイス100の効果を説明する。
図3(a)は、実施例1の弾性波デバイス100における配線56の形成部分を拡大した断面図である。
図3(b)は、比較例1の弾性波デバイス1000における配線56の形成部分を拡大した断面図である。なお、
図3(a)及び
図3(b)では、圧電基板20の厚さT1が2.0μm、配線56の支持基板10上の厚さT2及び圧電基板20上の厚さT3が2.5μm、圧電基板20の側面での幅Wが1.2μmであるとする。また、
図3(a)及び
図3(b)では、サファイア基板である支持基板10、42°回転YカットX伝搬LT基板である圧電基板20、及びAuからなる配線56の線膨張係数の数値を矢印と共に示している。
【0028】
図3(b)のように、比較例1の弾性波デバイス1000では、配線56は、圧電基板20の結晶方位のZ軸方向で支持基板10の非接合領域12から圧電基板20上に延在している。42°回転YカットX伝搬LT基板である圧電基板20の結晶方位のZ軸方向の線膨張係数は4.1ppm/℃であることから、配線56の線膨張係数(Au:14.2ppm/℃)との差が比較的大きい。この場合、温度サイクル試験(例えば−40℃〜+125℃)のような温度変化が大きい環境において、配線56と圧電基板20との間の熱膨張差及び熱収縮差に伴う応力が圧電基板20の側面部分に集中し、その結果、圧電基板20の側面での配線56が比較的薄い箇所で断線が起こり易くなる。
【0029】
一方、実施例1の弾性波デバイス100では、配線56は、第1方向(圧電基板20の結晶方位のX軸方向)で支持基板10の非接合領域12から圧電基板20上に延在している。この場合、
図3(a)のように、42°回転YカットX伝搬LT基板である圧電基板20の結晶方位のX軸方向の線膨張係数は16.1ppm/℃であることから、配線56の線膨張係数(Au:14.2ppm/℃)との差が比較的小さい。このため、温度サイクル試験のような温度変化が大きい環境に曝された場合でも、配線56と圧電基板20との間の熱膨張差及び熱収縮差が小さく、その結果、熱膨張差及び熱収縮差に伴う応力が小さくなり、圧電基板20の側面での配線56の断線を抑制できる。
【0030】
図4は、42°回転YカットX伝搬LT基板のウエハ状態の上面図である。なお、
図4の点線は基板のへき開方向を示している。
図4のように、オリエンテーションフラット66に直交する方向を結晶方位のX軸方向(線膨張係数:16.1ppm/℃)とすると、オリエンテーションフラット66に平行な方向の線膨張係数は11ppm/℃となる。つまり、圧電基板20に42°回転YカットX伝搬LT基板を用いた実施例1の弾性波デバイス100では、圧電基板20の第1方向の線膨張係数は16.1ppm/℃で、第2方向の線膨張係数は11ppm/℃となる。この場合、第1方向で支持基板10の非接合領域12から圧電基板20上に配線56を延在させることで、第2方向で延在させる場合に比べて、配線56と圧電基板20との間の線膨張係数の差が小さくなる。このため、配線56の断線を抑制できる。
【0031】
以上のように、実施例1によれば、配線56は、第1方向(複数の電極指38が並んだ方向)で支持基板10の非接合領域12から圧電基板20上に延在している。これにより、配線56が断線することを抑制できる。
【0032】
表1は、各種の圧電基板における第1方向及び第2方向の線膨張係数を示している。表1のように、36°回転YカットX伝搬LT基板、41°回転YカットX伝搬ニオブ酸リチウム(LN)基板、及び64°回転YカットX伝搬LN基板においても、42°回転YカットX伝搬LT基板と同様に、第1方向の線膨張係数が、第2方向の線膨張係数よりも、配線56の線膨張係数(Au:14.2ppm/℃)に近い。したがって、配線56の断線を抑制する点から、圧電基板20が回転YカットX伝搬LT基板又は回転YカットX伝搬LN基板である場合に、配線56を第1方向で支持基板10の非接合領域12から圧電基板20上に延在させることが好ましい。また、表1から、圧電基板20としては、36°〜42°YカットX伝搬LT基板又は41°〜64°YカットX伝搬LN基板を用いることが好ましい。
【表1】
【0033】
表2は、各種の金属における線膨張係数を示している。表2のように、金(Au)と銅(Cu)とニッケル(Ni)は、線膨張係数が互いに近い。したがって、配線56は、金(Au)で形成される場合に限らず、銅(Cu)又はニッケル(Ni)で形成される場合でもよい。
【表2】
【0034】
なお、圧電基板20は回転YカットX伝搬LT基板又は回転YカットX伝搬LN基板である場合に限られず、圧電基板20の第1方向の線膨張係数と配線56の線膨張係数との差が、圧電基板20の第2方向の線膨張係数と配線56の線膨張係数との差よりも小さい基板であればよい。また、支持基板10は、サファイア基板以外の基板であってもよく、例えばシリコン基板、スピネル基板、ガラス基板、及び酸化アルミニウム基板などの絶縁基板であってもよい。各基板の線膨張係数は、サファイア基板が7.7ppm/℃、シリコン基板が3.4ppm/℃、スピネル基板が5.0ppm/℃、ガラス基板が0.5ppm/℃、酸化アルミニウム基板が7.1ppm/℃である。
【0035】
また、実施例1では、支持基板10の非接合領域12における配線56が圧電基板20よりも厚い場合を例に示したが、この場合に限られない。
図5は、実施例1の変形例1に係る弾性波デバイス110の断面図である。
図5のように、支持基板10の非接合領域12における配線56が圧電基板20よりも薄い場合でもよい。しかしながら、配線56が圧電基板20よりも薄い場合では、圧電基板20の側方に空間68が形成されるのに対し、配線56が圧電基板20よりも厚い場合では、
図1(b)及び
図3(a)のように、圧電基板20の側方に空間が形成されずに配線56が存在するようになる。この場合、圧電基板20の側方に存在する配線56によって、圧電基板20の側面上部にかかる応力が大きくなり、配線56に断線が生じ易くなる。したがって、支持基板10の非接合領域12における配線56が、圧電基板20よりも厚い場合に、第1方向で支持基板10の非接合領域12から圧電基板20上に配線56を延在させて、配線56の断線を抑制させることが好ましい。
【0036】
また、圧電基板20の側面における配線56が薄い場合に、圧電基板20の側面で配線56の断線が発生し易くなる。したがって、圧電基板20の側面における配線56が、支持基板10上及び圧電基板20上における配線56よりも薄い場合に、第1方向で支持基板10の非接合領域12から圧電基板20上に配線56を延在させて、配線56の断線を抑制させることが好ましい。