(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1及び
図2を用いて船舶100について説明する。本実施形態の船舶100は、いわゆる二軸推進方式の船舶を示しているが、推進軸の数はこれに限定されるものではなく、複数の軸を有するものであればよい。
【0012】
船舶100は、船体1に二機のエンジン10及び二台のアウトドライブ装置20を備える。推進装置である各アウトドライブ装置20はエンジン10によって駆動され、アウトドライブ装置20の推進用プロペラ25を回転させることで船体1に推進力を発生させる。船体1には、船舶100を操作するための操作具としてアクセルレバー2、ステアリング3、ジョイスティックレバー4、及び、シフトレバー5等が具備される。これらの操作具の操作に応じて、エンジン10の運転状態、及び、アウトドライブ装置20による推進力及びその作用方向が制御される。
【0013】
なお、本実施形態において、船舶100は二機のエンジン10及び二台のアウトドライブ装置20を具備するスタンドライブ船としているがこれに限定されるものではなく、例えば、複数の推進軸を有し、かつ、補助的な推進装置としてのバウスラスタやスタンスラスタといったスラスタ装置を備えるシャフト船でもよい。
【0014】
船体1のステアリング3又はジョイスティックレバー4を操作することによってアウトドライブ装置20の出力方向を変更して船舶100の進路変更を行うことが可能である。そして、船体1には、船舶100の操船制御を行うための操船制御装置30が備えられている。
【0015】
船体1には、アウトドライブ装置20を制御して操船するための操作手段として、ステアリング3、ジョイスティックレバー4、及び、シフトレバー5、並びに、船体1の現在位置、船首方向及び移動速度を検出する検出手段6として、船体1の現在位置及び移動速度を検出するGNSS装置6a、方位を検出するヘディングセンサ6bが具備される。GNSS装置6aは、衛星測位システムによって所定時間毎の船体1の現在位置を取得することで、船体1の現在位置に加えて、位置移動に基づいた移動速度及び移動方向を検出する。また、ヘディングセンサ6bによって検出される方位の時間あたりの変化量に基づいて回頭速度が検出される。さらに、船体1には、ステアリング3等の近傍に操作具の操作状況や検出手段5による検出結果等を表示するモニタ7が設置される。
【0016】
なお、本実施形態において、GNSS装置6aとヘディングセンサ6bからなる検出手段6によって船体1の現在位置、方位、移動速度等を検出しているがこれに限定されるものではない。例えば、船体の現在位置を検出するためのGNSS装置と、船体の方位を検出するジャイロセンサと、船体の対水速度を検出する電磁式ログと、を用いて別々に検出する構成としてもよいし、GNSS装置のみで現在位置、方位、移動速度等の全てを検出する構成としてもよい。
【0017】
ECU15は、エンジン10を制御するものであり、各エンジン10に設けられる。ECU15には、エンジン10の制御を行うための種々のプログラムやデータが格納される。ECU15は、CPU、ROM、RAM、HDD等がバスで接続される構成であってもよく、あるいはワンチップのLSI等からなる構成であってもよい。
【0018】
ECU15は、エンジン10の図示しない燃料供給ポンプの燃料調量弁、燃料噴射弁、及び、各種機器の運転状況を検出する各種センサと電気的に接続される。ECU15は、燃料調量弁の供給量、燃料噴射弁の開閉を制御するとともに、各種センサが検出した情報を取得する。
【0019】
アウトドライブ装置20は、推進用プロペラ25を回転させることによって船体1に推進力を発生させるものである。アウトドライブ装置20は、入力軸21、切換クラッチ22、駆動軸23、出力軸24及び推進用プロペラ25を具備する。本実施形態では、一機のエンジン10に対して一台のアウトドライブ装置20が連動連結されている。なお、エンジン10に対するアウトドライブ装置20の台数は、本実施形態に限定されるものではない。また、ドライブ装置は、本実施形態のアウトドライブ装置20に限定されるものではなく、エンジンによって直接的又は間接的にプロペラが駆動されるものやPOD式のものでもよい。
【0020】
入力軸21は、エンジン10の回転動力を切換クラッチ22に伝達する。入力軸21の一端部は、エンジン10の出力軸10aに取り付けられたユニバーサルジョイントと連結され、その他端部は、アッパーハウジング20Uの内部に配置された切換クラッチ22と連結される。
【0021】
切換クラッチ22は、入力軸21等を介して伝達されたエンジン10の回転動力を正回転方向又は逆回転方向に切り換え可能である。切換クラッチ22は、ディスクプレートを備えるインナードラムと連結された正回転用ベベルギア、及び、逆回転用ベベルギアを有する。切換クラッチ22は、入力軸21に連結されたアウタードラムのプレッシャープレートをいずれかのディスクプレートに押し付けて動力を伝達する。また、切換クラッチ22は、プレッシャープレートをいずれかのディスクプレートに不完全に押し付ける半クラッチ状態とすることで、エンジン10の回転動力の一部を推進用プロペラ25に伝達可能に構成されるとともに、プレッシャープレートをいずれのディスクプレートにも押し付けない中立位置とすることでエンジン10の回転動力を推進用プロペラ25に伝達不能に構成される。
【0022】
駆動軸23は、切換クラッチ22等を介して伝達されたエンジン10の回転動力を出力軸24に伝達する。駆動軸23の一端に設けられたベベルギアは、切換クラッチ22の正回転用ベベルギア及び逆回転用ベベルギアと歯合し、他端に設けられたベベルギアは、ロアハウジング20Rの内部に配置された出力軸24のベベルギアと歯合する。
【0023】
出力軸24は、駆動軸23等を介して伝達されたエンジン10の回転動力を推進用プロペラ25に伝達する。出力軸24の一端に設けられたベベルギアは、上述したように駆動軸23のベベルギアと歯合し、他端には推進用プロペラ25が取り付けられている。
【0024】
推進用プロペラ25は、回転することによって推進力を発生させる。推進用プロペラ25は、出力軸24等を介して伝達されたエンジン10の回転動力によって駆動され、回転軸25a周りに配置された複数枚のブレード25bが周囲の水をかくことによって推進力を発生させる。
【0025】
アウトドライブ装置20は、船体1の船尾板(トランサムボード)に取り付けられたジンバルハウジング1aに支持されている。具体的には、アウトドライブ装置20は、その回動支点軸であるジンバルリング26が喫水線wlから略垂直方向となるようにジンバルハウジング1aに支持されている。
【0026】
ジンバルリング26の上部は、ジンバルハウジング1a(船体1)の内部に延設され、その上端に操舵アーム29が取り付けられている。そして、操舵アーム29を回動させることでジンバルリング26が回動し、ジンバルリング26を中心にアウトドライブ装置20が回動する。操舵アーム29は、ステアリング3やジョイスティックレバー4の操作に連動して作動する油圧アクチュエータ27によって駆動される。油圧アクチュエータ27は、ステアリング3やジョイスティックレバー4の操作に応じて作動油の流れ方向を切り換える電磁比例制御弁28によって制御されている。
【0027】
以上のように、船舶100の船体1には、エンジン10、アウトドライブ装置20、船体1の操船状態を検出する検出手段6、各種操作具、後述するキャリブレーションを開始するための操作手段としてのキャリブレーションスイッチ8、及び、これらの各装置と接続され、適宜の制御方法によって船舶100の操船制御を行う操船制御装置30が船舶の操船装置として備えられている。
【0028】
以下、
図3を用いて、操船制御装置による船舶の操船制御構成について説明する。
図3に示すように、操船制御装置30は、アクセルレバー2、ステアリング3、ジョイスティックレバー4、及びシフトレバー5等の操作具からの検出信号に基づいてエンジン10及びアウトドライブ装置20を制御する。また、操船制御装置30は、検出手段6(GNSS装置6a・ヘディングセンサ6b)から船体1の現在位置、移動速度、移動方向、船首方向及び回頭量に関する情報を取得する。そして、操船制御装置30は、検出手段6による検出結果と各操作具の操作とに基づいて船舶100を操船制御する。
【0029】
操船制御装置30は、エンジン10及びアウトドライブ装置20の制御を行うための種々のプログラムやデータが格納される。操船制御装置30は、CPU、ROM、RAM、HDD等がバスで接続される構成であってもよく、あるいはワンチップのLSI等からなる構成であってもよい。
【0030】
操船制御装置30は、アクセルレバー2、ステアリング3、ジョイスティックレバー4、及びシフトレバー5等と接続され、これらの操作具を操作した際に各種センサによって生成される検出信号を取得する。
【0031】
具体的には、
図3に示すように、操船制御装置30は、アクセルレバー2の操作量を検出するアクセルセンサ51、ステアリング3の操作量である回動角を検出するステアリングセンサ52、ジョイスティックレバー4の操作角度・操作量・ひねり等を検出するセンサ53、及び、シフトレバー5の操作位置を検出するレバーセンサ54と電気的に接続されており、これらのセンサから送信される検出信号に基づいた検出値をそれぞれの操作量として取得している。
【0032】
そして、操船制御装置30は、アクセルセンサ51によって取得したアクセルレバー2の操作量(傾倒角度)に基づいて、エンジン10の回転数を変更し、船体1の移動速度を制御する。操船制御装置30は、ステアリングセンサ52によって取得したステアリング3の操作量(回動角)に基づいて、アウトドライブ装置20の回動角を変更し、船体1の進行方向を制御する。操船制御装置30は、センサ53によって取得したジョイスティックレバー4の操作量(傾倒方向、傾倒角度、ねじり方向、ねじり量)に基づいて、エンジン10の回転数及びアウトドライブ装置20の推進力・推進方向・回動角を変更し、船体1の進行方向、移動速度、回頭方向、回頭速度を制御する。操船制御装置30は、レバーセンサ54によって取得したシフトレバー5の操作位置に基づいて、エンジン10の回転数及びアウトドライブ装置20の推進力・推進方向を変更し、船体1の進行方向及び移動速度を制御する。
【0033】
操船制御装置30は、各エンジン10のECU15と電気的に接続され、ECU15が取得するエンジン10の運転状況に関する各種検出信号を取得する。他方、操船制御装置30は、ECU15に各エンジン10(ECU15)の電源の入り切りするための信号、燃料供給ポンプの燃料調量弁、及び、その他エンジン10の各種機器を制御するための制御信号を送信する。操船制御装置30は、各アウトドライブ装置20の電磁比例制御弁28と電気的に接続され、各操作具からの制御信号に基づいて電磁比例制御弁28を制御して、操舵する。
【0034】
本実施形態では、操船制御装置30にキャリブレーションスイッチ8が接続されている。キャリブレーションスイッチ8は、船舶100のキャリブレーションを開始するための操作手段であり、例えばジョイスティックレバー4やステアリング3の近傍に配置されている。なお、キャリブレーションスイッチ8をタッチパネル式のモニタ7上に表示することも可能である。
【0035】
ここで、本実施形態における「船舶100のキャリブレーション」とは、アクセルレバー2、ステアリング3、ジョイスティックレバー4、及び、シフトレバー5等の各種操作手段に実施される操作を操船制御装置30によって模擬し、各種操作手段の仮想的な操作量に基づいて、エンジン10の運転状況、アウトドライブ装置20の推進力の出力及び作用方向を制御しつつ、その制御値に基づいた実際の船体1の所定方向への移動量及び移動速度若しくは回頭量及び回頭速度と意図する移動量及び移動速度若しくは回頭量及び回頭速度との差がしきい値を超えた場合に、制御値を補正することを意味する。つまり、船舶100のキャリブレーションを実行する際、オペレータによる操作手段の操作なしに、操船制御装置30によって操作手段の操作を模擬することで自動的にキャリブレーションを実施するものである。
【0036】
以下、
図4から
図6を用いて、船舶の自動キャリブレーションのフローについて説明する。
【0037】
図4は自動キャリブレーションの全体フローを示す。まず、ステップS10において、キャリブレーションスイッチ8がオン(入り状態)に操作されたことを検出する。キャリブレーションスイッチ8は、船舶100をキャリブレーション開始可能な位置、例えば凪いでいて最低半径100m移動可能な場所に移動させ、周囲に他船がいない状況で操作することが望ましい。また、最低限必要な距離を移動可能な場所に移動させることを示唆する表示をモニタ7に表示させてもよい。
【0038】
ステップS20において、コントロールヘッド操作のキャリブレーションが実行される。コントロールヘッド操作とは、アクセルレバー2の操作、ステアリング3の操作、ジョイスティックレバー4の前後傾倒操作、シフトレバー5の操作等を示し、コントロールヘッド操作のキャリブレーションとは、主にこれら操作手段の操作量と船体1の移動量、移動速度、回頭量及び回頭速度との相関から、エンジン10及びアウトドライブ装置20によって船体1に発生する推進力の出力、発生のタイミング及び加速度、並びに、アウトドライブ装置20の回動角等について校正することを示す。
【0039】
次に、ステップS30において、ジョイスティックレバー操作のキャリブレーションが実行される。ここでは、ジョイスティックレバー4による横移動のキャリブレーションに次いで斜め移動のキャリブレーションが実行される。また、ステップS20のコントロールヘッド操作のキャリブレーションにおいてジョイスティックレバー4の前後移動のキャリブレーションが実行されていることから、ステップS30において、ジョイスティックレバー4の操作方向と船体1の移動方向の割当マップを作成し、操船制御装置30に記憶させることも可能である。
【0040】
ステップS40では、ポジショニングキャリブレーションが実行される。ここでは、船舶100の定点保持に関するキャリブレーションが実行され、具体的には、その場回頭のP制御補正値算出キャリブレーション、その場回頭のD制御補正値算出キャリブレーション、前後移動のP制御補正値算出キャリブレーション、前後移動のD制御補正値算出キャリブレーション、横移動のP制御補正値算出キャリブレーション、横移動のD制御補正値算出キャリブレーション、及び、移動+回頭のθ制御補正値算出キャリブレーションが実行される。なお、これらのキャリブレーションについても、同様に操船制御装置30によって模擬的に各種操作手段を操作することによって行われる。
【0041】
ステップS50では、船舶100がオートパイロットを含むか否かが判定される。オートパイロット有りの場合(S50:Y)、ステップS55においてオートパイロットキャリブレーションを実施する必要がある旨を通知する。オートパイロットキャリブレーションは、長距離の航行が必要であるため、一連の自動キャリブレーションに含めないことが好ましいからである。オートパイロット無しの場合(S50:N)、ステップS60に移行する。
【0042】
ステップS60では、キャリブレーションの再実施が必要か否かを判定する。ステップS20からステップS40におけるキャリブレーションが規定時間内に完了しない場合を想定しているものであり、キャリブレーションの再実施が必要な場合(S60:Y)、ステップS65において、対象となるキャリブレーションにおける設定値又はしきい値を再調整した後に、当該キャリブレーションを実施する。例えば、ジョイスティックレバー4による操船時の移動速度が速過ぎる場合は、ジョイスティックレバー4の最大回転数設定を下げる調整を行う、アクセルレバー2による操船時にショックが発生する場合は、スロットルディレイを長くする等である。
【0043】
図5は、コントロールヘッド操作のキャリブレーションS20のフローの一例を示す。ステップS21において、操船制御装置30によってアクセルレバー2の操作を模擬して、船体1を移動させる。「アクセルレバー2の操作を模擬する」とは、例えば、アクセルレバー2を所定量傾倒させる操作が行われた場合の制御値を各エンジン10のECU15及びアウトドライブ装置20に制御信号として送信することを示す。ステップS22において、そのときの船体1の移動量及び移動速度を検出手段6によって検出する。
【0044】
次に、ステップS23において、アクセルレバー2の模擬操作量と検出された移動量及び移動速度との相関に基づいて、船体1に発生するショックの有無を判定して、エンジン10(ECU15)に送信する制御値を補正する。例えば、移動速度が所定のしきい値を超えた場合は、船体1にショックが生じたと判定してスロットルディレイを長く設定し、しきい値以下の場合は、船体1にショックが生じていないと判定して次のステップに移行する。
【0045】
ステップS24において、各エンジン10の回転数を検出する。ステップS25において、アクセルレバー2の模擬操作量と検出されたエンジン回転数との相関に基づいて、スロットルの上がり方を判定する。
【0046】
次に、ステップS26において、操船制御装置30によってジョイスティックレバー4の前後操作を模擬して、船体1に推進力を発生させて前後移動させる。「ジョイスティックレバー4の操作を模擬する」とは、例えば、ジョイスティックレバー4を所定方向に所定量傾倒させる操作が行われた場合の制御値を各エンジン10のECU15及びアウトドライブ装置20に制御信号として送信することを示す。ステップS27において、その時の船体1の移動量、移動速度及び回頭量を検出手段6によって検出する。ステップS27において、船体1の回頭成分が検出された場合は、ステップS28において、各エンジン10の出力及び/又はアウトドライブ装置20の回動角に関する制御値を補正し、ジョイスティックレバー4の前後操作を模擬して船体1の回頭成分が所定値内に収まるまで繰り返す。なお、ステップS27において、船体1の回頭成分が検出されない場合は、船体1の移動量及び移動速度がジョイスティックレバー4の模擬操作量の意図する移動量及び移動速度となるまで、エンジン10及びアウトドライブ装置20の制御値を補正する。
【0047】
ステップS29において、ステアリング3、シフトレバー5等のその他の操作手段の操作に関するキャリブレーションを実行する。
【0048】
コントロールヘッド操作のキャリブレーションS20において実行されるキャリブレーションは、従来船舶の出荷前に適合検査として実行されるものであり、オペレータによるキャリブレーションは実装されていなかった。本実施形態では、そのようなコントロールヘッド操作のキャリブレーションを実行可能とすることで、エンジン、トランスミッション、推進装置等の装備が異なる船舶についても、出荷後、つまりオペレータが操船可能な状態でのキャリブレーションを自動的に実行することが可能である。
【0049】
図6は、ジョイスティックレバー操作のキャリブレーションS30のフローを示す。ステップS31において、ジョイスティックレバー4の設定値(例えばジョイスティックレバー4の最大回転量)を確認する。
【0050】
ステップS32において、横移動キャリブレーションを実行する。ステップS33において、操船制御装置30によってジョイスティックレバー4の横倒し時の操作を模擬して、船体1に横方向の推進力を発生させて横移動させる。
【0051】
次に、ステップS34において、横移動模擬操作時の制御値を補正する。具体的には、ステップS341において、検出手段6が船体1の回頭が検出されたか否かを判定する。船体1の回頭成分を検出した場合(S341:Y)は、ステップS342において、回頭補正を増減させて再度船体1に横方向の推進力を発生させる。具体的には、アウトドライブ装置20による推進力の出力及びその作用方向に関する制御値を変更して再度船体1に横方向の推進力を発生させる。そして、ステップS343において、その際の回頭成分が所定のしきい値よりも小さいか否かを判定する。
【0052】
回頭成分がしきい値以上の場合(S343:N)は、ステップS344において、キャリブレーション開始時から規定時間が経過したか否かを判定する。規定時間内の場合(S344:N)は、再度ステップS342に戻り、船体1の回頭成分が所定のしきい値内に収まるまでステップS342,S343を繰り返す。他方、規定時間を経過している場合(S344:Y)は、横移動キャリブレーションを終了し、キャリブレーションの再実施が必要な旨を通知し、ステップS35に移行する。また、回頭成分がしきい値よりも小さい場合(S343:Y)もステップS35に移行する。
【0053】
次に、ステップS35において、斜め移動キャリブレーションを実行する。ステップS36において、操船制御装置30によってジョイスティックレバー4の斜め倒し時の操作を模擬して、船体1に斜め方向の推進力を発生させて斜め移動させる。次に、ステップS37において、ステップS34における横移動模擬操作時の制御値補正と同様に、斜め移動模擬操作時の制御値を補正する。
【0054】
なお、制御値を補正して再度模擬操作により操船する場合は、船体1に生じる惰性動作がキャリブレーションに影響を与えないように、試行毎に船舶100を静止状態にしてから行うものとする。
【0055】
以上のように、本実施形態によれば、オペレータは、キャリブレーションスイッチ8をオンにする操作のみで、実際にアクセルレバー2、ステアリング3、ジョイスティックレバー4、シフトレバー5等の操作手段を操作することなく、自動的に船舶100のキャリブレーションを実行することが可能である。
【0056】
さらに、船舶100の前後・横・斜め移動といった移動量を、オペレータの感覚に頼らず検出手段6(GNSS装置6a)を用いて検出し、なおかつキャリブレーションの適正判定を自動で行うことで、船体1の形状による挙動の違いなど、オペレータ自身が把握し難い要素をも考慮できる汎用性の高い操船装置を提供することが可能である。
【0057】
また、本実施形態では、船体1の現在位置及び方位を検出する検出手段6及びキャリブレーションを開始するキャリブレーションスイッチ8を備えるとともに、操船制御装置30に各種キャリブレーションを実行させる構成としているが、船舶100の初期設定時、又は、船舶100のキャリブレーションを実行するとき毎にこれらの構成を別途用意して後付けで備えてもよい。その場合は、キャリブレーションスイッチ8を備え、かつ、キャリブレーションを実行する制御装置を操船制御装置30に外部接続する構成(プラグアンドプレイ方式)を採用できる。