特許第6431207号(P6431207)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6431207
(24)【登録日】2018年11月9日
(45)【発行日】2018年11月28日
(54)【発明の名称】燃料噴射装置
(51)【国際特許分類】
   F02M 51/06 20060101AFI20181119BHJP
   F02M 61/04 20060101ALI20181119BHJP
   F02M 61/06 20060101ALI20181119BHJP
【FI】
   F02M51/06 R
   F02M51/06 A
   F02M51/06 K
   F02M51/06 U
   F02M61/04 B
   F02M61/06 H
   F02M51/06 S
【請求項の数】11
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2017-545132(P2017-545132)
(86)(22)【出願日】2016年9月23日
(86)【国際出願番号】JP2016077924
(87)【国際公開番号】WO2017064986
(87)【国際公開日】20170420
【審査請求日】2018年1月12日
(31)【優先権主張番号】特願2015-201703(P2015-201703)
(32)【優先日】2015年10月13日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】509186579
【氏名又は名称】日立オートモティブシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】小倉 清隆
(72)【発明者】
【氏名】三宅 威生
(72)【発明者】
【氏名】飯塚 貴敏
(72)【発明者】
【氏名】菅谷 真士
(72)【発明者】
【氏名】飯塚 智
【審査官】 木村 麻乃
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−090628(JP,A)
【文献】 特開平08−028407(JP,A)
【文献】 特開2006−002636(JP,A)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シート部材と接触して燃料をシールする弁体と、
前記弁体と接合されて前記弁体と一体形成される可動子と、
前記可動子を駆動する可動コアと、を備えた燃料噴射装置において、
前記可動子と前記可動コアとは相互に摺動可能であり、
前記弁体及び前記シート部材の硬度は前記可動コアの硬度よりも大きく、
前記可動子の硬度が前記弁体及び前記シート部材の硬度に対し、前記可動コアの硬度に近くなるように前記可動子、前記弁体、及び前記可動コア構成されたことを特徴とする燃料噴射装置。
【請求項2】
請求項1に記載の燃料噴射装置において、
前記可動子の硬度は、前記弁体及び前記シート部材の硬度の略半分以下であることを特徴とする燃料噴射装置。
【請求項3】
請求項1に記載の燃料噴射装置において、
前記可動子の外周部は研磨加工がされない部位を有することを特徴とする燃料噴射装置。
【請求項4】
請求項1に記載の燃料噴射装置において、
前記可動子の外周部に研磨加工がされない部位を有し、前記部位は切削加工されることを特徴とする燃料噴射装置。
【請求項5】
請求項1に記載の燃料噴射装置において、
前記可動子の硬度は、Hv180〜300程度であることを特徴とする燃料噴射装置。
【請求項6】
請求項1または5に記載の燃料噴射装置において、
前記可動コアの硬度は、Hv150〜360程度であることを特徴とする燃料噴射装置。
【請求項7】
請求項1または5に記載の燃料噴射装置において、
前記弁体及び前記シート部材の硬度は、Hv540〜650程度であることを特徴とする燃料噴射装置。
【請求項8】
請求項1に記載の燃料噴射装置において、
前記弁体は前記可動子とは別部材で構成されることを特徴とする燃料噴射装置。
【請求項9】
請求項8に記載の燃料噴射装置において、
前記弁体は球形状で構成されることを特徴とする燃料噴射装置。
【請求項10】
請求項8又は9に記載の燃料噴射装置において、
別部材で構成される前記弁体と前記可動子は溶接で接合されることを特徴とする燃料噴射装置。
【請求項11】
請求項1に記載の燃料噴射装置において、
前記可動コアの硬度より前記可動子の硬度の方が大きく、前記可動子の硬度よりも前記弁体及び前記シート部材の硬度の方が大きいことを特徴とする燃料噴射装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料噴射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
燃焼室内部に燃料を直接噴射する直接噴射式のエンジンでは、通常、エンジン制御ユニットにより制御されている噴射タイミング以外では燃料噴射弁(燃料噴射装置)は閉じた状態で作動しない(これを非作動期間と呼ぶ)。しかし、非作動期間において燃料噴射弁内部の燃料圧力は高圧に保持されたままであるため、シート部の油密性能が悪いと燃焼室内へ燃料が漏れ出す。そのため、燃料噴射弁のシート部における油密性能の向上が求められる。
【0003】
一方、排気性能の規制値が厳しくなるなか、混合気燃焼の向上のため更なる微粒化が求められ、燃料圧力が年々高まる傾向にある。そのためシート部への弁体衝撃力が増加し耐久性能も考慮しなくてはならない。このような状況下、シート油密性能向上と安価に燃料噴射弁を提供する要求が高まりつつあるなか、この二つのパラーメータは一般に相反する関係にある。
そこで、可動部材の機能を必要最小限に絞り込み、相反するふたつの関係を解決することが必要である。
【0004】
これに関し、可動子のストローク調整を簡単にすることができる燃料噴射弁が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007-218205号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の構造では、可動コアの動作により先端に弁体を設けた可動子を往復動作動し可動コアと可動子はお互いに摺動部材である記載があるが、可動コアと可動子の硬度については特に記述がない。可動子の材料は耐食性の良いSUS420J2を使用する記載があるが、この場合耐食性向上のために熱処理工程が新たに必要となり、燃料噴射弁として高価な構成となりうる。
【0007】
本発明の目的は、弁体とシート部によるシール信頼性を向上しつつ、製造コストを低減することができる燃料噴射装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明は、シート部材と接触して燃料をシールする弁体と、前記弁体と接合されて前記弁体と一体形成される可動子と、前記可動子を駆動する可動コアと、を備えた燃料噴射装置において、前記可動子と前記可動コアとは相互に摺動可能であり、前記弁体及び前記シート部材の硬度は前記可動コアの硬度よりも大きく、前記可動子の硬度が前記弁体及び前記シート部材の硬度に対し、前記可動コアの硬度に近くなるように前記可動子、前記弁体、及び前記可動コア構成されたものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、弁体とシート部によるシール信頼性を向上しつつ、製造コストを低減することができる。上記した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の一実施形態に係る燃料噴射弁の全体構成を示す縦断面図である。
図2】弁体の周辺の構成を示す略図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を用いて、本発明の実施形態による燃料噴射弁(燃料噴射装置)の構成及び作用効果について説明する。なお、各図において、同一符号は同一部分を示す。
【0012】
図1は、本発明の一実施形態に係る燃料噴射弁の全体構成を示す縦断面図である。本実施形態の燃料噴射弁は、ガソリン等の燃料をエンジンの気筒(燃焼室)内に直接噴射する燃料噴射弁である。
【0013】
燃料噴射弁本体1は、中空の固定コア2、ハウジングを兼ねるヨーク3、可動コア4、可動子40(プランジャ)、ノズルボディ5を有する。ヨーク3の内側には電磁コイル6が組み込まれる。電磁コイル6は、ヨーク3と樹脂カバー23とノズルボディ5の一部によって、シール性を保って覆われている。
【0014】
ノズルボディ5の内部には、可動コア4が移動可能に組み込まれている。ノズルボディ5の先端には、ノズルボディの一部となるオリフィスカップ7が固定されている。
【0015】
固定コア2の内部には、可動コア4をシート部7Bに押し付けるばね8と、このばね8のばね力を調整するアジャスタ9とフィルタ10とが組み込まれている。
【0016】
本実施形態の弁体41は、先端が先細りのニードルタイプもしくは球体形状のものでも良く、オリフィスカップ7の内側に設けられた円錐面7A上にあるシート部7Bと接触可能な形状である。
【0017】
換言すれば、弁体41は、オリフィスカップ7(シート部材)と接触してシールする。なお、図1の例では、弁体41は、ニードル状(略円錐状)で構成されるが、図2の例では、弁体41は、球形状で構成される。
【0018】
図1に示すように、燃料噴射弁内の燃料通路は、固定コア2の内部と、可動コア4に設けた複数の孔13と、ガイド部材11に設けた複数の孔14と、ノズルボディ5の内部と、シート部7Bを含む円錐面7Aとで構成される。
【0019】
樹脂カバー23には、電磁コイル6に励磁電流(パルス電流)を供給するコネクタ部23Aが設けられ、樹脂カバー23により絶縁されたリード端子18の一部がコネクタ部23Aに位置する。
【0020】
このリード端子18を介して、外部駆動回路(図示せず)によりヨーク3に収納された電磁コイル6を励磁すると、固定コア2、ヨーク3及び可動コア4が磁気回路を形成し、可動コア4は固定コア2側にばね8の力に抗して磁気吸引される。この時、可動子40及び弁体41はシート部7Bから離れ開弁状態になり、外部高圧ポンプ(図示せず)で予め昇圧(1MPa以上)されている燃料噴射弁本体1内の燃料が、噴孔70から噴射される。
【0021】
換言すれば、可動コア4は、可動子40を駆動する。
【0022】
電磁コイル6の励磁をオフすると、ばね8の力で可動子40及び弁体41がシート部7B側に押し付けられ閉弁状態になる。
【0023】
次に図2を用いて本実施形態を説明する。図2は、弁体の周辺の構成を模式的に示す略図である。すなわち、図2は、可動コア4、可動子40、弁体41及びオリフィスカップ7のシート部7B近傍の略図を示す。
【0024】
前述のように弁体41はニードルタイプもしくは球体形状のものでも良いが、ここでは球体形状のものを示す。可動コア4と可動子40はお互いに摺動可動であり、可動コア摺動部内径4Aと可動子摺動部外径40Aは略同等か可動子摺動部外径40Aがわずかに小さく設定されている。この時、可動コア4の硬度と可動子40の硬度よりも、弁体41の硬度が大きくなるように構成される。
【0025】
一般に可動コア4は磁気回路を構成する上で軟磁性ステンレスを使用することが多いが、この軟磁性ステンレスの硬度(ビッカース硬さ)はHv150〜200程度であるがフェライト系ステンレスを使用してもよく、噴射弁の使用環境に応じ選択可能である。一方、可動子40に使用される材料はSUS420J2など高硬度材料(例 Hv540〜650)を使うことがあるが、摺動部の局所面圧(ヘルツ応力)を考慮すれば軟磁性ステンレスの硬度相当であれば摺動部は磨耗することはなく信頼性が損なわれることはない。
【0026】
一方、弁体41は閉弁状態でオリフィスカップ7のシート部7Bと接触し油密を維持する必要があるが、閉弁時の衝撃力に対する強度を確保するため、弁体41及びオリフィスカップ7のシート部7Bの材料硬度は高硬度材料が用いられる。この場合の硬度はHv540〜650程度が用いられ、例えばマルテンサイト系ステンレス鋼の熱処理したものとしてSUS420J2やSUS440Cなど用いても良い。
【0027】
換言すれば、オリフィスカップ7(シート部材)の硬度は、Hv540〜650程度である。これにより、衝撃力に対する強度及び耐久性を確保でき、シール信頼性を向上することができる。
【0028】
しかしながら、可動子40の硬度はHv180〜300程度と弁体41の硬度(Hv540〜650)に対して半分以下であれば十分である。そのため、可動子40に用いる材料は、例えばオーステナイト系ステンレス鋼(SUS304など)などが使用可能である。マルテンサイト系ステンレス鋼でも熱処理(高硬度処理)することなく使用しても良い。
【0029】
これより、可動子40の硬度は弁体41よりも可動コア4に近く構成され、さらに弁体41の硬度の半分以下で構成されても良い。
【0030】
換言すれば、可動子40の硬度が弁体41又はオリフィスカップ7(シート部材)の硬度に対し、可動コア4の硬度に近くなるように可動子40、弁体41、及び可動コア4を構成する。可動子40の硬度を高めるため熱処理をする必要がないので、製造コストを低減することができる。ここで、可動子40の硬度は、弁体41又はオリフィスカップ7の硬度の略半分以下である。これにより、例えば、可動子40の加工が容易となる。
【0031】
また可動子40は前述の熱処理(高硬度処理)も必要としないことから、可動子摺動部外径40A(外周部)は研磨加工が不要であり、例えば切削加工で構成されても良い。
【0032】
換言すれば、可動子40の外周部は研磨加工がされない部位を有し、この部位は切削加工される。これにより、可動子40の製造コストを低減することができる。詳細には、研磨加工が不要な部位は切削加工のみで対応できることから、研磨加工前の熱処理、研磨加工設備と加工費用を抑制することが可能となり、可動子40の製作コストを大幅に削減することが可能となる。
【0033】
可動コア4の使用材料例として軟磁性ステンレス鋼(Hv150〜200)を示したが、比較的硬度の高い材料(〜Hv360)についても使用可能である。
【0034】
換言すれば、可動コア4の硬度は、Hv150〜360程度であってもよい。また、可動コア4の硬度より可動子40の硬度の方が大きく、可動子40の硬度よりも弁体41又はオリフィスカップ7(シート部材)の硬度の方が大きい。これにより、弁体41とオリフィスカップ7との衝撃力により発生する応力に応じて硬度を設定することができる。そのため、熱処理(高硬度処理)を最小限にすることができ、シール信頼性を向上しつつ製造コストを低減することができる。
【0035】
弁体41は可動子40先端付近で結合されており、カシメや圧入、もしくは焼き嵌めなどで構成されていてもよく、溶接結合でもよい。換言すれば、可動子40は、弁体41と接合されて一体で形成される。弁体41は可動子40とは別部材で構成される。これにより、オリフィスカップ7の形状が変更された場合、弁体41のみを変更するだけでよい。また、別部材で構成される弁体41と可動子40は、例えば、溶接接合で構成される。これにより、容易に弁体41と可動子40を固定することができる。
【0036】
以上説明したように、本実施形態によれば、弁体とシート部によるシール信頼性を向上しつつ、製造コストを低減することができる。すなわち、可動コア及び可動子がお互いに摺動可能である構造をもち、摺動部の信頼性を損なうことなく安価な燃料噴射弁を提供することができる。また弁体が固定コア及び可動子よりも高硬度材料を使用することで、シート部の信頼性ならびにシート油密性能を向上することが可能となる。
【0037】
なお、本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上述した実施形態は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることも可能である。また、各実施形態の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【符号の説明】
【0038】
1…燃料噴射弁本体
2…固定コア
3…ヨーク
4…可動コア
40…可動子(プランジャ)
41…弁体
5…ノズルボディ
6…電磁コイル
7…オリフィスカップ
70…噴孔(オリフィス)
7A…円錐面
7B…シート部
8…ばね
9…アジャスタ
10…フィルタ
11、12…ガイド部材
13…可動コアに設けた複数の孔
14…ガイド部材に設けた複数の孔
18…リード端子
23…樹脂カバー
図1
図2