特許第6431351号(P6431351)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6431351
(24)【登録日】2018年11月9日
(45)【発行日】2018年11月28日
(54)【発明の名称】車両の内装用樹脂成形品
(51)【国際特許分類】
   B60R 13/02 20060101AFI20181119BHJP
   B29C 33/42 20060101ALI20181119BHJP
   B60K 37/00 20060101ALI20181119BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20181119BHJP
【FI】
   B60R13/02 B
   B29C33/42
   B60K37/00 A
   B32B27/30 D
【請求項の数】3
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2014-245047(P2014-245047)
(22)【出願日】2014年12月3日
(65)【公開番号】特開2016-107708(P2016-107708A)
(43)【公開日】2016年6月20日
【審査請求日】2017年10月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】000225728
【氏名又は名称】南条装備工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】特許業務法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 祐介
(72)【発明者】
【氏名】武田 浩史
(72)【発明者】
【氏名】日和 禎二
【審査官】 小河 了一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−351190(JP,A)
【文献】 特開2010−174198(JP,A)
【文献】 特開2014−000770(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 13/02
B29C 33/42
B32B 27/30
B60K 37/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリプロピレン樹脂からなる基材を成形して得られる車両の内装用樹脂成形品であって、
該基材の表面には、複数の凹凸部からなるシボ模様が形成されており、
該シボ模様の該凹凸部の表面には該凹凸部の凹凸形状よりも微細なデコボコ模様の微細凹凸面が形成されており、
該微細凹凸面の表面には、フッ素樹脂を含むタッチアップ塗料が被覆されており、
該シボ模様の該凹凸部の深さが、平均30μm〜100μmであり、
該微細凹凸面の高さが、平均1μm〜5μmであり、
該タッチアップ塗料による塗膜の厚さが、0.05μm〜10μmである
いることを特徴とする車両の内装用樹脂成形品。
【請求項2】
請求項1において、
該フッ素樹脂を含む該タッチアップ塗料が、アクリル系ラッカー塗料であり、
該アクリル系ラッカー塗料に対して、該フッ素樹脂が2重量%〜10重量%含まれることを特徴とする車両の内装用樹脂成形品。
【請求項3】
請求項において、
該フッ素樹脂が、溶剤に溶かされて液状になったフッ素樹脂溶液であり、
該フッ素樹脂溶液が、アクリル系ラッカー塗料に対して、5重量%〜30重量%含まれることを特徴とする車両の内装用樹脂成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面にシボ模様を形成してなる車両の内装用樹脂成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車業界においては、車両の内装用樹脂成形品に対するユーザのニーズが多様化し、特に内装樹脂部品を中心にして加飾が施されるようになってきている。例えば、車両のインストルメントパネルやドアトリム等に使用される樹脂成形品の表面に、皮革模様、木目模様、又は梨地模様等の立体的な質感を付与するシボ模様(凹凸部)を形成したものが知られている。
【0003】
このシボ模様に形成される凹凸部の形状としては、これまでにも様々なバリエーションが提案されている。例えば、特許文献1に示す樹脂成形品では、ポリプロピレン複合樹脂材料(PP樹脂)、ABS樹脂等の表面に複数の凹凸部からなるシボ模様を形成した後に、凹凸部の表面には該凹凸部の凹凸形状よりも微細なデコボコ模様の微細凹凸面が形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−160637号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1のように、複数の凹凸部の上に、更に微細なデコボコ模様を形成することで、立体感に富んだものが得られる。また、内装材として、PP樹脂とした場合には、ABS樹脂と比較して、耐候(光)性や耐薬品性に優れるため、自動車の苛酷な長期使用環境下での耐久性において有利な点が多い。特に、比較的艶性が低く立体感に優れるとともに、耐割れ性が高く衝突対応性能に優れるので、内装用樹脂部品に適している。
【0006】
ただし、PP樹脂はABS樹脂と比較してその材料硬度や表面特性の観点から耐傷付き性能に劣る不具合を有する。この樹脂部品の耐傷付き性を向上させる(傷が付きにくい、目立ちにくい)手段としては、
(a)比較的高硬度のフィルムを貼る、
(b)比較的高硬度な塗膜を被覆する、
(c)樹脂材料の硬度を増加させる
などが挙げられる。
【0007】
しかし、(a)や(b)の手段は、余分な工程が増えると共にコストアップになる。また、(c)の手段は、本来必要とされる性能、即ち、比較的艶性が低く立体感に優れるとともに、耐割れ性が高く衝突対応性能に優れる点の性能が損なわれてしまう問題点がある。
【0008】
そこで、本発明はPP樹脂からなる内装用成形品であって、使用環境下で発生する傷を抑制できる耐傷付き性を高めるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明において、第1の発明は、ポリプロピレン樹脂からなる基材を成形して得られる車両の内装用樹脂成形品であって、該基材の表面には、複数の凹凸部からなるシボ模様が形成されており、該シボ模様の該凹凸部の表面には該凹凸部の凹凸形状よりも微細なデコボコ模様の微細凹凸面が形成されており、該微細凹凸面の表面には、フッ素樹脂を含むタッチアップ塗料が被覆されており、該シボ模様の該凹凸部の深さが、平均30μm〜100μmであり、該微細凹凸面の高さが、平均1μm〜5μmであり、該タッチアップ塗料による塗膜の厚さが、0.05μm〜10μmであることを特徴とする。
【0010】
第2の発明は、第1の発明において、該フッ素樹脂を含む該タッチアップ塗料が、アクリル系ラッカー塗料であり、該アクリル系ラッカー塗料に対して、該フッ素樹脂が2重量%〜10重量%含まれることを特徴とする。
【0011】
第3の発明は、第2の発明において、該フッ素樹脂が、溶剤に溶かされて液状になったフッ素樹脂溶液であり、該フッ素樹脂溶液が、アクリル系ラッカー塗料に対して、5重量%〜30重量%含まれることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
第1の発明によれば、比較的艶性が低く立体感及び質感に優れるとともに、耐割れ性が高く衝突対応性能に優れる。これらの効果と共に、同時に耐傷付き性に優れ、表面のぼかしを良好に維持できる車両の内装用樹脂成形品を得られる。
【0013】
第2の発明によれば、更に優れた耐傷付き性を得られる。
【0014】
第3の発明によれば、フッ素樹脂を均一に分散した塗膜を得られ易い。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、本発明の実施形態1に係る内装用樹脂成形品としてのドアトリム及びインストルメントパネルを備えた車両の車室前部を車両後方斜め左側から見て示す斜視図である。
図2図2は、実施形態1に係る樹脂成形品におけるシボ模様の拡大断面図である。
図3図3は、本発明の実施形態2に係る内装用樹脂成形品としてのドアトリムを示す図である。
図4図4は、耐傷付き性試験方法に使用する試験機を示す図である。
図5図5は、耐傷付き性試験方法に使用する引掻き針を示す図である。
図6図6は、シボ模様の各デコボコ部を引掻き針でひっかく場合のイメージを説明するための模式図である。
図7図7は、フッ素樹脂を含むタッチアップ塗装を施した場合の引掻き針の移動状態を、フッ素樹脂を含まないタッチアップ塗装を施した場合と併せて説明する為の拡大断面図である。
図8図8は、シボ加工面の耐傷付き性を測定した測定結果を示す表である。
図9図9は、実施例1と比較例とを示す顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態を説明する。
【0017】
(実施形態1)
図1は、本発明の実施形態1に係る車両の内装用樹脂成形品としてのドアトリム1及びインストルメントパネル2を備えた車両の車室前部を示し、このドアトリム1(図では運転席右側のサイドドアのドアトリムのみを示す)及びインストルメントパネル2はそれぞれ、樹脂材(例えばポリプロピレン(PP)等)を使用した一体成形品からなる。インストルメントパネル2及びドアトリム1の車室内側面(車室内に臨む面)には略全面に亘って、図2に示すように、現実の皮革が持つ皮革模様に近似したシボ模様30が形成されている。尚、シボ模様としては、皮革模様に限らず、例えば、木目模様や梨地模様等を採用するようにしてもよい。
【0018】
シボ模様30として、表面に皮革模様に近似した複数の凹凸部31が形成されている。シボ模様30の凹凸部31上に、表面のギラツキや過度の艶を抑制するために凹凸部31の凹凸形状よりも微細な微細凹凸面32(図2参照)が形成されている。
【0019】
なお、シボ模様30の凹凸部31は、図2に示すように、大きな凹凸断面形状の基面部33と、この基面部33から突出する複数の突出部34とを有している。シボの深さは、基面部33と突出面34との高さの差であり、平均高さは例えば100μm程度である。この基面部33と突出部34との表面に、平均深さが例えば3μmの微細凹凸面32が形成されている。
【0020】
本発明では、平均高さが100μm程度の基面部33と突出部34とからなる凹凸形状をシボ模様と称し、シボ模様の凹凸形状よりも微細な凹凸形状で、このシボ模様に描かれた凹凸形状を微細凹凸面32と称す。この基面部33と突出部34とで、皮革模様の縞模様を形成して、高級感や高品質感を醸し出している。この微細凹凸面32によって、更に、高級感や高品質感を醸し出している。即ち、微細凹凸面32は、シボ模様30の各凹凸部31の表面に、微細なデコボコ模様からなる一種の微細な皺のようなイメージで形成されている。微細凹凸面32の深さは、例えば平均深さ3μmである。
【0021】
シボ模様30は、図1に示すように、インストルメントパネル2のパネル上面部3から、パネル上面部3とパネル2の側面部4とが交わる部分にて車室側に膨出するパネルコーナ部5に掛けて形成されると同様に、ドアトリム1の側面部7及び側面部7の上端部にて車室側に膨出するトリムコーナ部8に形成されている。
【0022】
シボ模様30の凹凸部31及び微細凹凸面32は、詳細な説明は省略するが、知られているように、成形金型で成形品が成形された場合に形成されるようになっている。
【0023】
<シボ模様について>
シボ模様30の凹凸の深さは、平均30μm〜120μmが好ましい。凹凸が深すぎると、デコボコ形状が目立ちすぎて、シボ模様として見えなくなり、逆に浅すぎると、立体感に欠けて、高級感が乏しくなる。従って、上記範囲とすることが好ましい。
【0024】
微細な微細凹凸面32の深さは、平均1μm〜5μmが好ましい。微細凹凸面32の深さが深すぎると、シボ模様と近くなり、シボ模様との差異が目立たなくなり、微細な皺のような表面形状を演出できなくなり、逆に浅すぎると、立体感に欠けて、高級感が乏しくなる。従って、上記範囲とすることが好ましい。
【0025】
<タッチアップ塗装>
シボ模様30の表面、即ち、基面部33及び突出部34に形成された微細凹凸面32の表面には、タッチアップ塗装が施されている。一般的に、タッチアップ塗装とは、塗装が仕上がった後の塗装面に傷や塗り残しがあった場合に修正処理の塗装を行うことである。本発明では、塗装面の修正ではないが、PP樹脂の成形品の表面のウエルドライン、色むら等をぼかして目立たなくする簡易塗装のことである。本発明では、キズを修正する塗装として使用するものではないが、塗装面をぼかす塗装という意味では共通であり、タッチアップ塗装と称する。タッチアップ塗装は、0.05μm〜10μmの範囲に収まっている。ぼかしたい部分に集中的に塗布するので、部分によって厚さに差異があり、一様な厚さになっていない。そのために、微細な微細凹凸面32に沿った厚さになった部分もあれば、微細凹凸面32の間を埋めるような厚さで被覆される部分もある。しかし、微細凹凸面32にタッチアップ塗装を施した場合に、タッチアップ塗装の厚さで差異があっても、タッチアップ塗料は透明であり、表面上透けて見えるので、立体的に見えるシボ模様の効果・機能は、劣化すること無く維持できている。
【0026】
なお、タッチアップ塗料としては、一般的に使用されているアクリル系のラッカー塗料が使われている。タッチアップ塗料は、上記塗料に限られるものではなく、PP樹脂からなる車両の内装成形品のフローラインやムラ等をぼかすことができれば良い。
【0027】
<フッ素の含有量>
タッチアップ塗料にはフッ素樹脂が、タッチアップ塗料100重量部に対して2重量部〜10重量部、特に3重量部〜7重量部含まれている。溶媒に溶かしたフッ素溶液としては、7重量部〜35重量部、特に10重量部〜21重量部が好ましい。フッ素樹脂は、粉体である場合には、沈殿が起こり易く、一旦溶媒に溶かしているほうが好ましい。フッ素樹脂が少なすぎると、フッ素樹脂による、耐傷つき性が効果的に発揮できない。一方、多すぎると、分散性が悪くなり、溶媒にとけないで沈殿する傾向になり、コストアップになるので、上記範囲とすることが好ましい。
【0028】
(実施形態2)
図3は、本発明の実施形態2を示し、ドアトリム1の構成を上記実施形態1とは異ならせたものである。尚、図1と実質的に同じ構成要素については同じ符号を付してその詳細な説明を適宜省略する。また、以下の説明において、前側、後側はそれぞれ、車両前側、車両後側を意味するものとする。
【0029】
すなわち、実施形態1では、ドアトリム1全体を樹脂材により一体成形したのに対して、本実施形態では、ドア本体の車室側にはドアトリム11が設けられている。ドアトリム11は、下側の第1ドアトリム基材11aと上下方向中間の第2ドアトリム基材11bと上側の第3ドアトリム基材11cとに複数分割されて構成されている。第1ドアトリム基材11aの前部に設けられたスピーカー収容部には、スピーカー(図示省略)が収容されると共に、スピーカーの車室側はカバー部材20で覆われている。第2ドアトリム基材11bの前部に設けられた棚部21には、ウインドガラス開閉操作用のスイッチ(図示省略)などが配設されている。
【0030】
第1ドアトリム基材11aと第2ドアトリム基材11bとの間には、ドアアームレスト部22が形成されている。このドアアームレスト部22は、第1ドアトリム基材11a及び第2ドアトリム基材11bとは別体であって、第1ドアトリム基材11aと第2ドアトリム基材11bの開口部(図示せず)を覆うアームレスト蓋体部で形成されている。
【0031】
そして、実施形態2では、第1ドアトリム基材11a、第2ドアトリム基材11b及び第3ドアトリム基材11cの車室側面全体がシボ模様30とされ、このシボ模様30に、実施形態1で説明したのと同様の凹凸部31と微細凹凸面32とが形成されている(図2参照)。そして、これらのドアトリム基材11a,11b,11cの微細凹凸面32に、タッチアップ塗装が施されている。
【実施例】
【0032】
次に、具体的に実施した例について説明する。シボ模様30の凹凸部31の高さが平均100μm、微細な微細凹凸面32の深さが平均3μmとなる射出成形用のシボ板作製金型を使用して、PP樹脂の成形品を得た。このときのシボ板は厚さ3mmのものを射出成形で作製して、内装成形品のサンプル(縦:10cm、横:10cm、厚さ:3mm)を用意した。
【0033】
タッチアップ塗装は、タッチアップ専用の塗料もあるが、本実施例では、既存のタッチアップ塗料として、カシュー株式会社製の商品名「マイクロンTXL(トルエン・キシレンレス塗料)」を使用した。溶剤にフッ素樹脂を3.6重量%溶かしたフッ素樹脂含有の溶液を作製した。フッ素樹脂含有の溶液10重量%をカシュー株式会社製塗料に混ぜて、塗布塗料を作製した。塗布する噴射機は、アネスト岩田社製の商品名W−101−102Pを使用し、30cm離れた位置から塗出圧0.4Mpa、速度50mm/sで噴射機を横に移動させて、塗布した。
【0034】
そのときの、タッチアップ塗装の塗膜厚さは、部品やぼかす対象によって差異はあるが、薄い部分で0.05μm〜1.5μm、厚い部分で通常7μm〜10μmの範囲に収まるようにした。
【0035】
図8に示すように、上記フッ素樹脂の混合割合を変えて、これらの塗料を被覆したものを、実施例1〜6とした。また、フッ素樹脂を混合してないタッチアップ塗料を上記実施例と同様に塗装したものを比較例とした。
【0036】
<耐傷付き性評価>
本実施形態では、自動車用内装樹脂部品の使用環境下で発生する可能性が高い引掻き傷を取り上げて、耐傷付き性の評価を行った。
【0037】
図4は、耐傷付き性試験方法に使用する試験機を示す図である。本実施形態では、試験機として、株式会社安田精機製作所製の自動クロスカット試験機No.331−AUTOを使用した。試験機50は、試料Wを載置する試料台51、試料Wに引掻き傷を発生させる引掻き針52、引掻き針52を試験機50に取り付ける取付治具53、引掻き針52を一定の荷重で試料Wに押し付けるための分銅54を備えている。図5は、引掻き針52の形状を説明するための図である。引掻き針52は、サファイア製であって、直径3mmの針の先端が角度60°に形成され、R0.3mmの面取りが施されている。
【0038】
図6及び図7は、試験機50によりテストした場合の試料Wの表面状態を説明するための図である。
【0039】
テストは、上記試験機50に各試料Wを載せ、200g/cm2の圧力で押し付けて、30mm/秒の速度で水平横方向に30mm引いた。なお、同じ試料Wに対して、縦方向に10mm間隔を開けて5本引いた。
【0040】
図7に示すように、引掻き針52は、シボ模様に倣って横に移動すると共に、部分的には、表面を押しつぶして移動すると推測される。
【0041】
試験機50によりテストピースに引掻き針52を押し当てて横に引いた場合の引っ掻きキズの発生有無・発生状態に対して、目視評価を行った。その結果を、図8に示す。
【0042】
等級として、5級は、全くキズの発生が見られなかった、4.5級は、0.5mm以下の傷が1コ以上、4級は、長さ:0.5mm以上のキズが、平均1本のラインに1コ以下、3級は、長さ:0.5mm〜1.0mmのキズが、平均1本のラインに2コ〜3コ、2級は、1.0mm以上のキズが、平均1本のラインに1コ以上、1級は、1.0mm以上のキズが、平均1本のラインに2コ以上を、評価基準とした。
【0043】
図8に示すように、実施例1〜6のフッ素樹脂を含むタッチアップ塗料を塗装した場合には、引っ掻きキズが短く且つ浅いとともに、引っ掻きキズが一本の線状に繋がったように見えないので、引っ掻きキズが目立たなくなる。
【0044】
また、引掻き針52を押し当てて横に引いた場合の引っ掻きキズの発生有無・発生状態を、図9の顕微鏡写真に示す。
【0045】
図9において、左上の写真は比較例の30倍写真であって、写真の中央に縦方向に白く光って見えるのが、引っ掻きキズである。右上の写真は実施例1の30倍写真であって、写真の中央に薄く縦方向に白く光って見えるのが、引っ掻きキズである。左下の写真は、比較例の白く光った部分を100倍に拡大した写真であり、右下の写真は、実施例1の薄白く光った部分を100倍に拡大した写真で有る。フッ素樹脂を含まないタッチアップ塗料では、左上及び左下の写真からも解るように、シボ模様30の凹凸部31の突出部34に、比較的長く且つ深い引っ掻きキズができるので、目立つ引っ掻きキズとなり、これらの引っ掻きキズが連続した1本のラインのように見える。フッ素樹脂を含むタッチアップ塗料では、右上及び右下の写真からも解るように、シボ模様30の凹凸部31の突出部34には、うっすらと部分的な引っ掻きキズが見られるだけであり、引っ掻きキズが短く且つ浅いので、これらの引っ掻きキズは連続した1本のラインのように見えない。そのために、引っ掻きキズが目立たない結果となっている。その結果、耐傷付き性は、タッチアップ塗料にフッ素樹脂を含んだ実施例1〜6では、比較例に対して優れており、傷が目立たなくなった。
【0046】
図6は、微細凹凸面32に引掻き針52が接触して、横に移動する前の状態のイメージを示す。そして、図7に、引掻き針52が微細凹凸面32に接触して横に移動した場合の表面状態を説明する図である。
【0047】
実施例1に示すようにフッ素樹脂を含むタッチアップ塗装を施して、引掻き針52を微細凹凸面32に接触して横に移動したときには、実線で示すように、図6の微細凹凸面32の一部が削られて、部分的にキズになるが、僅かなキズで済む。なお、引掻き針52を横に移動する前の状態、即ち、図6の微細凹凸面32の状態を、点線で示す。
【0048】
それに対して、比較例のようにフッ素樹脂を含まないタッチアップ塗装を施した場合には、微細凹凸面32が長く且つ深く削られて、引っ掻きキズが目立って、引っ掻きキズが1本のライン状に繋がって見える結果となっている。この状態が図9に示す写真の結果として、見られるものである。
【0049】
なお、タッチアップ塗料にフッ素樹脂を含むと、フッ素樹脂を含まないタッチアップ塗料に比較して、引掻きキズが目立たなくなる理由は明確に把握できてない。但し、微細凹凸面32が押しつぶされて、引掻き針52が横に移動する際に、フッ素樹脂を含むタッチアップ塗料では、微細凹凸面32のタッチアップ塗料が剥がれずに付着したままで残っており、キズが少なくなるか、及び/またはフッ素樹脂によって横に滑りやすくなるから、大きく押しつぶされない結果になっていると推測できる。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明は、比較的艶性が低く立体感に優れ、耐割れ性が高く衝突対応性能に優れるとともに、耐傷付き性に優れた車両の内装用樹脂成形品が得られるので、極めて有用である。
【符号の説明】
【0051】
1 ドアトリム
11 ドアトリム
2 インストルメントパネル
3 パネル上面部
7 側面部ドアトリム
8 トリムコーナ部
20 カバー部材
21 棚部
22 ドアアームレスト部(アームレスト蓋体部)
30 シボ模様
31 凹凸部
32 微細凹凸面
33 基面部
34 突出部
W 資料
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9