【実施例】
【0032】
次に、具体的に実施した例について説明する。シボ模様30の凹凸部31の高さが平均100μm、微細な微細凹凸面32の深さが平均3μmとなる射出成形用のシボ板作製金型を使用して、PP樹脂の成形品を得た。このときのシボ板は厚さ3mmのものを射出成形で作製して、内装成形品のサンプル(縦:10cm、横:10cm、厚さ:3mm)を用意した。
【0033】
タッチアップ塗装は、タッチアップ専用の塗料もあるが、本実施例では、既存のタッチアップ塗料として、カシュー株式会社製の商品名「マイクロンTXL(トルエン・キシレンレス塗料)」を使用した。溶剤にフッ素樹脂を3.6重量%溶かしたフッ素樹脂含有の溶液を作製した。フッ素樹脂含有の溶液10重量%をカシュー株式会社製塗料に混ぜて、塗布塗料を作製した。塗布する噴射機は、アネスト岩田社製の商品名W−101−102Pを使用し、30cm離れた位置から塗出圧0.4Mpa、速度50mm/sで噴射機を横に移動させて、塗布した。
【0034】
そのときの、タッチアップ塗装の塗膜厚さは、部品やぼかす対象によって差異はあるが、薄い部分で0.05μm〜1.5μm、厚い部分で通常7μm〜10μmの範囲に収まるようにした。
【0035】
図8に示すように、上記フッ素樹脂の混合割合を変えて、これらの塗料を被覆したものを、実施例1〜6とした。また、フッ素樹脂を混合してないタッチアップ塗料を上記実施例と同様に塗装したものを比較例とした。
【0036】
<耐傷付き性評価>
本実施形態では、自動車用内装樹脂部品の使用環境下で発生する可能性が高い引掻き傷を取り上げて、耐傷付き性の評価を行った。
【0037】
図4は、耐傷付き性試験方法に使用する試験機を示す図である。本実施形態では、試験機として、株式会社安田精機製作所製の自動クロスカット試験機No.331−AUTOを使用した。試験機50は、試料Wを載置する試料台51、試料Wに引掻き傷を発生させる引掻き針52、引掻き針52を試験機50に取り付ける取付治具53、引掻き針52を一定の荷重で試料Wに押し付けるための分銅54を備えている。
図5は、引掻き針52の形状を説明するための図である。引掻き針52は、サファイア製であって、直径3mmの針の先端が角度60°に形成され、R0.3mmの面取りが施されている。
【0038】
図6及び
図7は、試験機50によりテストした場合の試料Wの表面状態を説明するための図である。
【0039】
テストは、上記試験機50に各試料Wを載せ、200g/cm2の圧力で押し付けて、30mm/秒の速度で水平横方向に30mm引いた。なお、同じ試料Wに対して、縦方向に10mm間隔を開けて5本引いた。
【0040】
図7に示すように、引掻き針52は、シボ模様に倣って横に移動すると共に、部分的には、表面を押しつぶして移動すると推測される。
【0041】
試験機50によりテストピースに引掻き針52を押し当てて横に引いた場合の引っ掻きキズの発生有無・発生状態に対して、目視評価を行った。その結果を、
図8に示す。
【0042】
等級として、5級は、全くキズの発生が見られなかった、4.5級は、0.5mm以下の傷が1コ以上、4級は、長さ:0.5mm以上のキズが、平均1本のラインに1コ以下、3級は、長さ:0.5mm〜1.0mmのキズが、平均1本のラインに2コ〜3コ、2級は、1.0mm以上のキズが、平均1本のラインに1コ以上、1級は、1.0mm以上のキズが、平均1本のラインに2コ以上を、評価基準とした。
【0043】
図8に示すように、実施例1〜6のフッ素樹脂を含むタッチアップ塗料を塗装した場合には、引っ掻きキズが短く且つ浅いとともに、引っ掻きキズが一本の線状に繋がったように見えないので、引っ掻きキズが目立たなくなる。
【0044】
また、引掻き針52を押し当てて横に引いた場合の引っ掻きキズの発生有無・発生状態を、
図9の顕微鏡写真に示す。
【0045】
図9において、左上の写真は比較例の30倍写真であって、写真の中央に縦方向に白く光って見えるのが、引っ掻きキズである。右上の写真は実施例1の30倍写真であって、写真の中央に薄く縦方向に白く光って見えるのが、引っ掻きキズである。左下の写真は、比較例の白く光った部分を100倍に拡大した写真であり、右下の写真は、実施例1の薄白く光った部分を100倍に拡大した写真で有る。フッ素樹脂を含まないタッチアップ塗料では、左上及び左下の写真からも解るように、シボ模様30の凹凸部31の突出部34に、比較的長く且つ深い引っ掻きキズができるので、目立つ引っ掻きキズとなり、これらの引っ掻きキズが連続した1本のラインのように見える。フッ素樹脂を含むタッチアップ塗料では、右上及び右下の写真からも解るように、シボ模様30の凹凸部31の突出部34には、うっすらと部分的な引っ掻きキズが見られるだけであり、引っ掻きキズが短く且つ浅いので、これらの引っ掻きキズは連続した1本のラインのように見えない。そのために、引っ掻きキズが目立たない結果となっている。その結果、耐傷付き性は、タッチアップ塗料にフッ素樹脂を含んだ実施例1〜6では、比較例に対して優れており、傷が目立たなくなった。
【0046】
図6は、微細凹凸面32に引掻き針52が接触して、横に移動する前の状態のイメージを示す。そして、
図7に、引掻き針52が微細凹凸面32に接触して横に移動した場合の表面状態を説明する図である。
【0047】
実施例1に示すようにフッ素樹脂を含むタッチアップ塗装を施して、引掻き針52を微細凹凸面32に接触して横に移動したときには、実線で示すように、
図6の微細凹凸面32の一部が削られて、部分的にキズになるが、僅かなキズで済む。なお、引掻き針52を横に移動する前の状態、即ち、
図6の微細凹凸面32の状態を、点線で示す。
【0048】
それに対して、比較例のようにフッ素樹脂を含まないタッチアップ塗装を施した場合には、微細凹凸面32が長く且つ深く削られて、引っ掻きキズが目立って、引っ掻きキズが1本のライン状に繋がって見える結果となっている。この状態が
図9に示す写真の結果として、見られるものである。
【0049】
なお、タッチアップ塗料にフッ素樹脂を含むと、フッ素樹脂を含まないタッチアップ塗料に比較して、引掻きキズが目立たなくなる理由は明確に把握できてない。但し、微細凹凸面32が押しつぶされて、引掻き針52が横に移動する際に、フッ素樹脂を含むタッチアップ塗料では、微細凹凸面32のタッチアップ塗料が剥がれずに付着したままで残っており、キズが少なくなるか、及び/またはフッ素樹脂によって横に滑りやすくなるから、大きく押しつぶされない結果になっていると推測できる。