(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第2の操作量演算要素は、前記原水のアンモニア態窒素濃度の単位時間当たりの変化量に応じた先行目標操作量を算出し、当該先行目標操作量の減少が所定の期間抑制されるような前記先行目標操作量信号を生成するよう構成される、
請求項1に記載の水処理システム。
前記第2の操作量演算要素は、前記原水のアンモニア態窒素濃度の単位時間当たりの変化量に応じた先行目標操作量を算出し、当該先行目標操作量の時間的変化を示す基準波形から時間軸方向に所定の第1単位期間ずつずらした少なくとも1つの複製波形を生成し、前記所定の期間に応じて前記基準波形および前記複製波形のうちの少なくとも2つの波形を選択し、選択した波形のうち前記先行目標操作量が最も大きい値を選択することによって前記先行目標操作量信号を生成するよう構成される、
請求項2または3に記載の水処理システム。
曝気装置を備えた好気槽と、該好気槽の上流側に設けられた少なくとも1以上の嫌気槽または無酸素槽とを有し、活性汚泥法に基づいて水処理を行う一連の生物反応槽を備えた水処理システムの曝気風量制御方法であって、
前記曝気装置の曝気風量の目標値である目標操作量に基づいて前記曝気装置の曝気風量を制御する風量制御工程と、
前記目標操作量を生成する目標操作量演算工程と、を有し、
前記目標操作量演算工程は、
前記好気槽の活性汚泥混合液のアンモニア態窒素濃度を計測する混合液計測工程と、
前記一連の生物反応槽に流入する原水のアンモニア態窒素濃度を計測する原水計測工程と、
前記好気槽の活性汚泥混合液のアンモニア態窒素濃度とその設定値との偏差に基づいて帰還目標操作量信号を生成する帰還信号生成工程と、
前記原水のアンモニア態窒素濃度の単位時間当たりの変化量に応じて先行目標操作量信号を生成する先行信号生成工程と、
前記帰還目標操作量信号および前記先行目標操作量信号を加算して前記目標操作量を生成する操作量生成工程と、を有する
水処理システムの曝気風量制御方法。
前記先行信号生成工程は、前記原水のアンモニア態窒素濃度の単位時間当たりの変化量に応じた先行目標操作量を算出し、当該先行目標操作量の減少が所定の期間抑制されるような前記先行目標操作量信号を生成する、
請求項5に記載の水処理システムの曝気風量制御方法。
【発明を実施するための形態】
【0018】
[本発明に係る一形態を得るに至った経緯]
本発明の発明者らは、好気槽内の活性汚泥混合液のアンモニア態窒素濃度に基づいて曝気風量を制御するフィードバック制御に加えて一連の生物反応槽に流入する原水のアンモニア態窒素濃度に基づいて曝気風量を制御するフィードフォワード制御する従来の構成(特許文献2の構成)において、好気槽の混合液へ供給される空気量を適切に制御できない場合があることについて、その原因を検討した。その結果、本発明の発明者らは、上記従来の構成において以下のような課題があることを見出した。
【0019】
まず、従来の構成では、原水のアンモニア態窒素濃度の値自体に応じて曝気風量を制御している。原水のアンモニア態窒素濃度の上昇が速い場合には、生物反応槽での反応遅れが発生するため、このような場合においても処理水のアンモニア態窒素濃度を規制値以下に抑制できるように、曝気風量に対する操作量が大きめに設定される。しかし、原水のアンモニア態窒素濃度の上昇が緩やかな場合には、生物反応槽での反応遅れが発生しないため、このような大きめに設定された操作量により、同じ原水のアンモニア態窒素濃度であっても過剰な曝気風量となってしまう。
【0020】
そこで、本発明の発明者らは、鋭意研究の末、フィードバック制御においては、好気槽内の活性汚泥混合液のアンモニア態窒素濃度の値自体に基づいて曝気風量を制御する一方で、フィードフォワード制御においては一連の生物反応槽に流入する原水のアンモニア態窒素濃度の単位時間当たりの変化量に応じて曝気風量を制御することにより、迅速な応答が要求されるアンモニア態窒素濃度の変化の立ち上がりに曝気風量を追従させつつ、アンモニア態窒素濃度の変化が緩やかな場合に過剰な曝気風量の変化を抑えることができることを想到した。
【0021】
さらに、本発明の発明者らは、上記従来の構成において、一連の生物反応槽における活性汚泥混合液の滞留時間が長い場合には、曝気処理にかかる時間が長くなるため、十分にフィードフォワード制御の効果が得られない場合があるという課題があることを見出した。
【0022】
そこで、本発明の発明者らは、活性汚泥混合液の滞留時間に応じて曝気風量の減少を抑制する期間を変化させることにより、好気槽における曝気処理を確実に行って処理後のアンモニア態窒素濃度を確実に低減させることができることを想到した。
【0023】
[実施の形態]
以下、本発明を実施するための形態について、図面を参照しながら、詳細に説明する。なお、以下では全ての図を通じて同一又は相当する要素には同一の参照符号を付して、その重複する説明を省略する。
【0024】
図1は本発明の一実施の形態に係る再生水製造システムの概略構成を示す図である。同図に示す再生水製造システム1は、標準活性汚泥法を利用して下水を浄化するための水処理システムである。再生水製造システム1は、上流側から順番に、原水槽2と、嫌気槽3、無酸素槽4および好気槽5から成る一連の生物反応槽10と、沈殿槽6とを備えている。
【0025】
原水槽2は、流入した下水を一時的に貯えるバッファタンクとして機能する。原水槽2の流出側は、一連の生物反応槽10の最も上流側に位置する嫌気槽3の流入側と配管52によって接続されている。配管52には、原水槽2に貯えられた原水を嫌気槽3へ圧送する供給ポンプ51が設けられている。原水槽2の流出側には、原水槽2から一連の生物反応槽10(ここでは、最も上流側の嫌気槽3)へ流入する原水のアンモニア態窒素濃度(以下、「原水NH
4濃度」という)を計測するための、原水アンモニア計31(第2のアンモニア計)が設けられている。
【0026】
生物反応槽10は、上流側から嫌気槽3、無酸素槽4および好気槽5の順に設けられており、生物反応槽10へ流入した原水は活性汚泥との活性汚泥混合液(以下、単に「混合液」ともいう)として存在している。本実施の形態において、嫌気槽3と無酸素槽4とは一つの反応槽を2つに仕切ることにより形成されており、仕切りを介して嫌気槽3と無酸素槽4とは連通している。よって、嫌気槽3の混合液は、無酸素槽4へ移動することができる。無酸素槽4の流出側は、好気槽5の流入側と配管53により接続されている。さらに、好気槽5の流出側は、沈殿槽6の流入側と配管54により接続されている。
【0027】
好気槽5には、混合液をエアレーションするための曝気装置9が設けられている。本実施の形態に係る曝気装置9は散気式のものであって、送風機(図示略)から送られた圧縮空気を微細な気泡状にして好気槽5の底部から混合液中に吹き込むように構成されている。好気槽5の混合液中に吹き込まれた空気が気泡となって水面に上昇するときに、混合液の撹絆および混合が行われるとともに、活性汚泥微生物による窒素、リンおよび有機物除去の際に必要となる酸素が混合液中に供給される。曝気装置9によって好気槽5の混合液に供給される空気量(以下、「曝気風量」という)は、後述する制御装置40により制御される。
【0028】
また、好気槽5には、好気槽5の混合液のアンモニア態窒素濃度(以下、「好気槽NH
4濃度」という)を計測する好気槽アンモニア計32(第1のアンモニア計)が設けられている。なお、好気槽アンモニア計32は、好気槽5から流出しようとする混合液の成分を測定する観点から何れも好気槽5の流出側に設けられることが望ましいが、好気槽5内の混合液は完全混合していると考えられるので、これらの配置は特に限定されない。
【0029】
沈殿槽6では、好気槽5から流入した処理液のうちの汚泥が沈殿して処理液と汚泥とに分離される。汚泥は、汚泥返送ポンプ64を備えた汚泥返送配管63を通じて嫌気槽3へ返送される。
【0030】
次に、再生水製造システム1の制御構成を説明する。
図2は再生水製造システムの制御構成を示すブロック図である。同図では、特に曝気装置9の制御に関して詳細に示し、余を省略している。
【0031】
図2に示すように、制御装置40は主に、再生水製造システム1全体の制御を司る運転制御部42、曝気装置9の目標操作量(すなわち、好気槽5の曝気風量の目標値)を生成する曝気風量演算部41、目標操作量に基づいて曝気装置9を制御する曝気風量制御部91等の機能部を有している。なお、本実施の形態において、曝気風量制御部91は制御装置40に備えているが、曝気装置9に備えられていてもかまわない。制御装置40は、1又は複数のコンピュータからなり、各コンピュータはCPU(中央処理装置)、CPUが実行するプログラムやプログラムで使用されるデータを書き替え可能に記憶する主記憶装置、CPUがプログラム実行時にデータを一時的に記憶する副記憶装置、CPUと外部機器を接続するためのインターフェース、並びこれらを接続する内部経路等を備えている(何れも不図示)。そして、CPUで所定のプログラムが実行されることにより、
図2に示す制御装置40の各機能部が実現される。
【0032】
制御装置40と再生水製造システム1が備える各ポンプ、すなわち、供給ポンプ51、および汚泥返送ポンプ64の駆動部とは有線または無線で接続されており、各ポンプ51,64の動作は制御装置40の運転制御部42により制御されている。また、制御装置40と曝気装置9において曝気風量を変化させる送風機(図示略)とは有線または無線で接続されており、曝気装置9の動作は制御装置40の曝気風量制御部91により制御されている。さらに、制御装置40と各アンモニア計31,32は通信可能に接続されており、これらのアンモニア計31,32の計測信号が制御装置40へ送信される。そして、制御装置40は、アンモニア計31,32の計測信号に基づいて、各ポンプ51,64および曝気装置9を動作させる。これにより、制御装置40は、濾過水槽7の処理水の窒素、リンおよび有機物がそれぞれの規制値を超えないように、原水の流入量、処理水の放流量、循環液の流量、返送汚泥の流量、余剰汚泥の引抜量および曝気風量を適正な値に管理および制御している。
【0033】
上記構成の再生水製造システム1による再生水製造プロセスでは、以下に示すように混合液(原水)に含まれる有機物、窒素およびリン等の除去が行われる。
【0034】
再生水製造プロセスにおいて、混合液に含まれる炭素系の有機物は、活性汚泥中の好気性および通性嫌気性の従属栄養細菌の作用により分解されるか、あるいは活性汚泥として系外へ排出される。具体的には、混合液中の有機物は、活性汚泥と接触して活性汚泥の表面に吸着(凝縮)され、活性汚泥に吸着された有機物は、嫌気槽3および無酸素槽4の嫌気条件下で、活性汚泥中の通性嫌気性の従属栄養細菌に摂取され、分解される。また、活性汚泥に吸着された有機物は、好気槽5の好気条件下で、活性汚泥中の好気性および通性嫌気性の従属栄養細菌によって生体の維持や細胞合成等に必要なエネルギーを得るために分解(酸化)される。さらに、この従属栄養細菌は酸化によって得たエネルギーを利用して、有機物を新しい細胞物質に合成(同化)する。このようにして、混合液に含まれる有機物の大部分は、活性汚泥に吸着されたのち、活性汚泥微生物の酸化および同化に利用され、混合液中より除去される。なお、酸化および同化されない有機物は系内に貯留され、活性汚泥微生物の内生呼吸により酸化されない細胞物質とともに最終的に余剰汚泥として系外へ排出される。
【0035】
また、再生水製造プロセスにおいて、混合液に含まれるリンは、活性汚泥中のリン蓄積細菌の作用により活性汚泥に蓄積された状態で系外へ排出される。具体的には、活性汚泥中のリン蓄積細菌は、嫌気槽3の嫌気条件下で、原水槽2から嫌気槽3へ流入した原水に含まれている酢酸などの有機物を体内に取り込み、保持していたリン酸(PO
4)を放出する。そして、活性汚泥中のリン蓄積細菌は、好気槽5の好気条件下でリンを過剰摂取し、嫌気槽3で放出された以上のリン酸態のリンを取り込む。このようにして混合液中のリンが活性汚泥に蓄積され、リンが蓄積された活性汚泥は余剰汚泥として系外へ排出される。
【0036】
また、再生水製造プロセスにおいて、窒素は無酸素槽4から系外へ放出される。詳細には、原水槽2から嫌気槽3へ流入した原水には、アンモニア態窒素(NH
4+-N)と有機態窒素とが含まれている。混合液に含まれる有機態窒素は、嫌気槽3、無酸素槽4および好気槽5で、アンモニア態窒素に変化する。混合液中のアンモニア態窒素は、好気槽5で硝化細菌の作用により酸化して、亜硝酸態窒素(NO
2-N)または硝酸態窒素(NO
3-N)となる。したがって、循環ポンプ62により膜分離槽6から無酸素槽4に送り込まれる循環水には、亜硝酸態窒素および/または硝酸態窒素が含まれている。混合液中の亜硝酸態窒素および硝酸態窒素は、無酸素槽4の無酸素条件下で原水中の有機物を栄養源とする脱窒細菌による硝酸性呼吸あるいは亜硝酸性呼吸により窒素ガス(N
2)へと還元されて、無酸素槽4から系外へ放出される。
【0037】
ここで、
図3を参照しながら、制御装置40の曝気風量演算部41による曝気装置9の目標操作量、すなわち、好気槽5の曝気風量の目標値の生成方法について説明する。曝気風量演算部41で生成された目標操作量に基づいて、曝気風量制御部91は曝気装置9が具備する送風機(図示略)の回転速度の操作量、および、曝気装置9から好気槽5内へ供給される空気の供給経路に設けられた調節用アクチュエータ(図示略)の操作量のうち少なくとも一方を調整する。
【0038】
図3は曝気風量演算部の信号の流れを示すブロック線図である。同図に示すように、曝気風量演算部41は、原水NH
4濃度の単位時間当たりの変化量に基づいて先行目標操作量(以下、単にFF操作量ともいう)を生成し、先行目標操作量信号として出力するフィードフォワード制御系(以下、FF制御系48という)と、好気槽NH
4濃度を制御量として帰還目標操作量(以下、単にFB操作量ともいう)を生成し、帰還目標操作量信号として出力するフィードバック制御系(以下、FB制御系49という)とを備えている。FF制御系48とFB制御系49とは協動して機能し、FF制御系48で生成されたFF操作量と、FB制御系49で生成されたFB操作量とが加算演算要素70で加算されて、曝気装置9の目標操作量が生成される。
【0039】
まず、FB制御系49について説明する。FB制御系49は、予め設定される好気槽5の混合液のアンモニア態窒素濃度設定値(以下、「好気槽NH
4濃度設定値」ともいう)と好気槽アンモニア計32で計測された好気槽NH
4濃度との偏差を算出する偏差演算要素71と、この偏差からFB操作量を生成するFB操作量演算要素(第1の操作量演算要素)72とを備えている。FB操作量演算要素72は、例えば、PID制御方法、P制御方法又はPI制御方法を用いてFB操作量を算出する演算要素である。FB制御系49の出力信号(FB操作量)は、加算演算要素70に入力される。
【0040】
好気槽NH
4濃度設定値は、処理水のアンモニア態窒素濃度(処理水NH
4濃度)の規制値(目標値)に基づいて適宜定められる値である。ただし、好気槽NH
4濃度設定値は、処理水NH
4濃度の規制値に加えて、混合液の水温等の他の因子に基づいて定められてもよい。
【0041】
次に、FF制御系48について説明する。FF制御系48は、微分演算要素73と、FF操作量関数要素74と、期間設定要素75と、フィードフォワードゲイン要素76とを含み、FF操作量を生成する第2の操作量演算要素を備えている。FF制御系48の出力信号(FF操作量)は、加算演算要素70に入力される。本実施の形態において、FF制御系48は、
図3に示すように、FF操作量関数要素74を実行してから期間設定要素75を実行するように構成されているが、期間設定要素75の後にFF操作量関数要素74を実行するような構成としてもよい。
【0042】
微分演算要素73は、原水アンモニア計31で計測された原水NH
4濃度xを微分することで原水NH
4濃度の単位時間当たりの変化量Δxを演算する。FF操作量関数F
1(Δx)は、原水NH
4濃度の単位時間当たりの変化量Δxに基づいて処理水のアンモニア態窒素濃度(処理水NH
4濃度)を制御するために、原水NH
4濃度の単位時間当たりの変化量Δxと曝気風量操作量(特に、FF操作量)との静特性の関係を関数化したものである。なお、原水NH
4濃度xは、本実施の形態では、原水槽2に設けられた原水アンモニア計31の測定値であるが、嫌気槽3へ流入する原水のアンモニア態窒素濃度であればよいのでその測定位置は限定されない。
【0043】
図4はFF操作量関数F
1(Δx)の特性を示すグラフであって、縦軸yはFF操作量(L/min)を示し、横軸Δxは原水NH
4濃度の単位時間当たりの変化量(mg/L)を示している。
図4においては変化量Δxにおいて原水NH
4濃度が増える場合を正にとっている。FF操作量(L/min)は、すなわち、好気槽5の曝気風量を表している。FF操作量yの最低風量Y
1は、システム全体を維持するために最低限必要な風量である。システム全体を維持するために最低限必要な風量とは、好気槽5の混合液を攪拌し、かつ、好気槽5の好気的条件下で炭素系有機物を利用して増殖する従属栄養生物、アンモニア態窒素を硝化する硝化細菌などの活性汚泥微生物が生体を維持するために必要な酸素を提供する最低限の曝気風量である。最低風量Y
1は、好気槽5の活性汚泥微生物の数や好気槽5の容量に応じて適宜定められる。
【0044】
FF操作量yは、原水NH
4濃度の単位時間当たりの変化量Δxが負の値(濃度減少状態)から所定の第1変化量ΔX
1までの範囲において、FF操作量yは、最低風量Y
1で一定である。第1変化量ΔX
1以上の範囲において、FF操作量yは、変化量Δxの増加に伴って増加する。第1変化量ΔX
1は正の値であってもよいし、0であってもよいし、負の値であってもよい。例えば、
図4の破線で示すように、負の値であるΔX
1’以下の領域で最低風量Y
2となるように設定されてもよい。
【0045】
原水NH
4濃度が減少する場合にはフィードバック制御だけで十分対応できるため、FF操作量yとしては一定値の最低風量Y
1としている。このように設定することにより、FF操作量関数F
1(Δx)要素74は、原水のアンモニア態窒素濃度の単位時間当たりの変化量Δxが原水のアンモニア態窒素濃度xの上昇を示す場合に曝気風量yを増大させ、原水のアンモニア態窒素濃度の単位時間当たりの変化量Δxが原水のアンモニア態窒素濃度xの減少を示す場合に曝気風量yを変化させないような先行目標操作量(後述する基準波形)を生成するよう構成される。
【0046】
これによれば、アンモニア態窒素濃度の上昇時には、好気槽の活性汚泥混合液におけるアンモニア態窒素濃度の上昇に追従した曝気風量の増加制御を迅速に行うとともに、アンモニア態窒素濃度の減少時には、フィードフォワード制御による過剰な曝気風量の変化を抑えることにより、好気槽における曝気処理を確実に行って処理後のアンモニア態窒素濃度を確実に低減させることができる。
【0047】
さらに、第1変化量ΔX
1が正の値である場合(0でない場合)、原水NH
4濃度の微小な変化によって頻繁にFF操作量yが変化することを防止することができる。
【0048】
期間設定要素75は、上記FF操作量yに動特性を付加するために、FF操作量関数F
1(Δx)で得られたFF操作量yの効果発揮期間を設定する。効果発揮期間は、無駄時間(シフト時間とも呼ばれる)および減少抑制時間(保持時間とも呼ばれる)を含んでいる。
【0049】
無駄時間は、原則として、原水アンモニア計31でアンモニア態窒素濃度が計測された原水が、一連の生物反応槽10に流入して活性汚泥と混合された混合液となって、好気槽5に流入するまでに要する時間である。ただし、好気槽5においてアンモニア態窒素を硝化する硝化細菌の増殖速度は、通常の活性汚泥中にいる従属栄養細菌より遅いので、混合液のアンモニア態窒素濃度の不連続面が好気槽5に到達するよりも前に曝気風量を増加させ、その不連続面が好気槽5に到達したときにはアンモニア態窒素濃度の急激な増加に対応しうるように活性汚泥微生物を活性化させておくことが望ましい。つまり、無駄時間は、原水アンモニア計31でアンモニア態窒素濃度が計測された原水が好気槽5に流入するまでに要する時間よりも短い時間に設定されることが望ましい。
【0050】
さらに、減少抑制時間は、好気槽5に流入した混合液中のアンモニア態窒素が、曝気装置9により酸化されるまでの時間、すなわち、一連の生物反応槽10における活性汚泥混合液の滞留時間である。言い換えると、原水のアンモニア態窒素濃度が上昇し出してから一連の生物反応槽10における混合液中のアンモニア態窒素が目標値を超えないような時間を減少抑制時間として設定する。一連の生物反応槽10における活性汚泥混合液の滞留時間に応じて曝気処理にかかる時間が変化するため、活性汚泥混合液の滞留時間に応じて曝気風量の減少を抑制する期間を変化させることにより、好気槽5における曝気処理を確実に行って処理後のアンモニア態窒素濃度を確実に低減させることができる。
【0051】
このため、第2の操作量演算要素の期間設定要素75は、原水のアンモニア態窒素濃度の単位時間当たりの変化量Δxに応じたFF操作量を算出し、当該FF操作量の減少が所定の期間(減少抑制時間)抑制されるような先行目標操作量信号を生成する。より具体的には、第2の操作量演算要素は、原水のアンモニア態窒素濃度の単位時間当たりの変化量Δxに応じたFF操作量を算出し、当該FF操作量の時間的変化を示す基準波形を生成する。さらに、第2の操作量演算要素は、生成した基準波形から時間軸方向に所定の第1単位期間ずつずらした少なくとも1つの複製波形を生成する。基準波形および少なくとも1つの複製波形は、第1単位期間に応じて互いに重なり合いが生じる。第2の操作量演算要素は、無駄時間および減少抑制期間に応じて基準波形および複製波形のうちの少なくとも1つの波形を選択する。選択した波形が複数ある場合には、第2の操作量演算要素は、単位時間ごとに選択された複数の波形のうちFF操作量が最も大きい値を選択することによって先行目標操作量信号を生成する。すなわち、選択された複数の波形において互いに重なり合いが生じている箇所においては、FF操作量が最も大きい値が選択される。選択した波形が1つである場合には、第2の操作量演算要素は、当該選択した1つの波形を有する先行目標操作量を先行目標操作量信号として出力する。
【0052】
図5は原水のアンモニア態窒素濃度の時間的変化を例示するグラフおよびこれに基づいて生成される先行目標操作量信号に含まれるFF操作量の時間的変化を例示するグラフである。
図5の上のグラフは、原水のアンモニア態窒素濃度の時間的変化を例示するグラフであり、
図5の下のグラフは、原水のアンモニア態窒素濃度に対して生成される先行目標操作量信号に含まれるFF操作量の時間的変化を例示するグラフである。
【0053】
図5の上のグラフに示すように、原水のアンモニア態窒素濃度が単調増加した後、単調減少した場合、原水のアンモニア態窒素濃度の単位時間当たりの変化量Δxは、原水のアンモニア態窒素濃度が単調増加してピークに達するまでの間に単調増加してピークを迎え、当該ピークから原水のアンモニア態窒素濃度がピークに達するまでの間は単調減少する。
【0054】
図5のグラフでは、原水のアンモニア態窒素濃度が単調減少している間は、単位時間当たりの変化量Δxは0となる。例えば、第1変化量がΔX
1=0に設定され、変化量がΔX
1以下の領域において最低風量Y
1(≧0)に設定される。
【0055】
このような単位時間当たりの変化量Δxの時間的変化を示す波形は、0hで示される波形(基準波形)となる。なお、
図5においては0h,1h,…等の標記は、当該標記位置にピークが来る波形に対応している。
【0056】
第2の操作量演算要素は、0hの波形から時間軸方向に所定の第1単位期間ずつずらした波形を算出する。本例においては第1単位期間は1時間(1h)に設定されている。第2の操作量演算要素が算出するFF操作量の波形は、
図5の下のグラフに示すように、1時間ごとに0hの波形が時間軸方向に平行移動した波形(1h,2h,3h,4hの波形:複製波形)となる。そして、算出された0hから4hまでの波形のうちの少なくとも1つが設定される無駄時間Aおよび減少抑制期間Bに応じて選択される。例えば無駄時間Aを設けない場合には少なくとも0hの波形が選択される。減少抑制期間Bが第1単位期間(1時間)のみである場合には無駄時間Aに応じて何れか1つの波形のみが選択される。例えば、無駄時間Aが2時間で減少抑制期間Bが第1単位期間のみであれば2hの波形のみが選択される。なお、無駄時間Aおよび減少抑制期間Bの設定は、オペレータによって設定入力されるものであってもよい。これに代えて、制御装置40が季節や時間帯に応じて無駄時間Aおよび減少抑制期間Bを自動的に設定するよう構成されてもよい。
【0057】
また、例えば複数の波形が選択された場合、選択された複数の波形のうち単位時間ごとにFF操作量が最も大きい値が選択される。例えば
図5の下のグラフの例では、1hから3hまでの波形が互いに重ねられた状態で選択されている。これは、無駄時間Aが1時間に設定され、減少抑制期間Bが3時間に設定されていることを意味する。1hから3hまでの波形のうち単位時間ごとにFF操作量が最も大きい値を選択することによって先行目標操作量信号に含まれるFF操作量が生成される。すなわち、
図5の下のグラフにおいて実線で示されるように、生成されるFF操作量は、1hから3hまでの波形の稜線をたどるような波形を有する。このようにして定められたFF操作量の時間的変化が先行目標操作量信号として出力される。なお、
図5の下のグラフでは、無駄時間Aおよび減少抑制期間Bを各波形のピーク地点を基準に標記しているが、各波形において互いに対応する点同士を基準とする限り何れの点を基準にしてもよい。
【0058】
これによれば、原水のアンモニア態窒素濃度の単位時間当たりの変化量Δxが原水のアンモニア態窒素濃度の上昇を示す場合に、曝気風量の目標操作量を当該変化量に応じたFF操作量とした後、原水のアンモニア態窒素濃度の単位時間当たりの変化量が原水のアンモニア態窒素濃度の減少を示した場合であっても、所定の期間、FF操作量の減少が抑制される。したがって、アンモニア態窒素濃度の上昇時には、好気槽の活性汚泥混合液におけるアンモニア態窒素濃度の上昇に追従した曝気風量の増加制御を迅速に行うとともに、アンモニア態窒素濃度の減少時には、フィードフォワード制御による過剰な曝気風量の変化を抑えることにより、好気槽における曝気処理を確実に行って処理後のアンモニア態窒素濃度を確実に低減させることができる。しかも、減少抑制期間BにおいてFF操作量の減少が抑制されるという処理を、基準波形を複製して重ねることにより実現することができる。したがって、当該処理を比較的簡単な演算処理とすることができる。
【0059】
なお、本明細書および特許請求の範囲の記載において、「先行目標操作量(FF操作量)の減少が抑制される」という用語は、単位時間当たりの変化量Δxに応じたFF操作量の基準波形(0hの波形)においてFF操作量が減少する期間の当該FF操作量の値に比べて、FF操作量が大きい時間帯を少なくとも一部に含んでいることを意味する。
【0060】
無駄時間Aおよび減少抑制期間Bは、原水が嫌気槽3へ流入してから無酸素槽4より流出し、好気槽5において曝気されるまでの滞留時間を含めた時間として、実験的または計算的に求めることができる。
【0061】
また、フィードフォワードゲイン要素76も、FF操作量yの動特性を付与する要素として機能する。フィードフォワードゲインK
fは、入力値である原水NH
4濃度の単位時間当たりの変化量Δxの変化幅に対する出力値であるFF操作量yの変化幅の比であり、適宜設定される。
【0062】
本実施の形態において、最終的に得られるFF操作量yは、
図5の下の実線で示されるグラフのように、負の値を取らないように設定される。このためには、前述のように、第1変化量をΔX
1=0に設定し、変化量がΔX
1以下の領域において最低風量がY
1(>0)であるように設定してもよい。これに代えて、FF操作量の基準波形を複製して重ねることによりFF操作量の時間的変化の値を生成する際(
図5の下の実線で示されるグラフを生成する際)に、FF操作量が負の値を取らない(最低風量以下とならない)ように演算処理してもよい。これにより、第1変化量ΔX
1が負の場合でもFF操作量が負の値を取らないようにすることができる。
【0063】
以上の通り、FF制御系48で原水NH
4濃度の単位時間当たりの変化量Δxに基づいてFF操作量が算出され、FB制御系49で好気槽NH
4濃度に基づいてFB操作量が算出され、これらのFF操作量とFB操作量とを足し合わせて曝気装置9の目標操作量が生成される。
【0064】
図6は本実施の形態を適用した再生水製造システムにおける各槽のアンモニア態窒素濃度および曝気風量の時間的変化を示すグラフである。
図6においては横軸を共通の時間軸とし、原水NH
4濃度、好気槽NH
4濃度、膜分離槽6で濾過された処理水のアンモニア態窒素濃度(
図6および以下では処理水NH
4濃度と表記する)、処理水NH
4濃度の規制値(
図6および以下では処理水規制値と表記する)、および曝気風量の時間的変化を示すグラフが示されている。なお、処理水NH
4濃度は、例えば濾過水槽7に貯留される処理水のアンモニア態窒素濃度を計測するアンモニア計(不図示)により計測される。
【0065】
本実施の形態においては、上述したように、好気槽NH
4濃度に基づいてフィードバック制御を行いつつ、原水NH
4濃度の単位時間当たりの変化量Δxに応じたフィードフォワード制御を行う。これにより、原水NH
4濃度の変化の立ち上がりからそれに合わせて曝気風量を変化させることができる。
図6の例においては無駄時間Aが設定されており、時刻t1における原水NH
4濃度の立ち上がり時から無駄時間A経過後すぐの時刻t2においてフィードフォワード制御による曝気風量の増大が生じている。このため、フィードバック制御では追従し難いアンモニア態窒素濃度の急激な変化に対しても適切な曝気風量に制御することができる。
【0066】
さらに、
図6の例においては減少抑制期間Bが設定されており、原水NH
4濃度の減少が生じても(無駄時間Aを差し引いても)原水NH
4濃度の増加期間(ピークに至るまでの期間)より長い期間、フィードフォワード制御による曝気風量の増大が維持されている。
【0067】
この結果、その後の期間C(時刻t3と時刻t4との間の期間)においても好気槽NH
4濃度の増大が抑えられ、処理水NH
4濃度も処理水規制値を超えない値に制御されている。
【0068】
また、期間D(時刻t4と時刻t5との間の期間)のように、原水のアンモニア態窒素濃度の値自体が高くても単位時間当たりの変化量が小さい場合には、フィードフォワード制御による曝気風量の変化を小さくすることができる。
図6に示されるように、期間Dにおいては原水NH
4濃度は緩やかに上昇するため、曝気風量が急激に上昇していない。すなわち、期間Dにおける曝気風量の変化はフィードバック制御が支配的になっている。このように、フィードバック制御だけで十分対応できる期間においては、フィードフォワード制御による過剰な曝気風量の変化を抑えることにより、適切な曝気風量に制御しつつ省電力化を図ることができる。
【0069】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良、変更、修正が可能である。
【0070】
例えば、再生水製造システム1の具体的な構造は、上記実施の形態に限定されない。本実施の形態に係る再生水製造システム1は、好気槽5の後に沈殿槽6を備えた構成を例示しているが、好気槽5の後に、好気槽5より流入した混合液から汚泥等を分離するための膜分離槽を備えた膜分離活性汚泥法(MBR:Membrane Bio-Reactor)を利用した水処理システムにも上記実施の形態の態様を適用可能である。また、本実施の形態に係る再生水製造システム1は、嫌気槽3と無酸素槽4とをともに備えているが、嫌気槽3と無酸素槽4とのうち少なくとも一方を備えていてもよい。さらに、本実施の形態に係る曝気装置9は、送風機の回転数の操作量または調節アクチュエータの操作量により曝気風量を調整するように構成されているが、送風機の回転数の操作量および調節アクチュエータの操作量の両方で曝気風量を調整するように構成されていてもよい。
【0071】
また、例えば、本実施の形態においてアンモニア計31,32は、それぞれ原水および混合液のアンモニア態窒素濃度を連続的に計測する濃度計であるが、定期的または不定期にサンプリングを行って任意の方法でアンモニア態窒素濃度を測定する方法とすることもできる。
【0072】
また、原水アンモニア態窒素濃度の単位時間当たりの変化量Δxに基づく先行目標操作量の生成において、減少抑制期間Bにおける先行目標操作量の減少抑制を確保するための構成は、上述したような0hの波形を第1単位期間ずつずらして重ね合わせる態様に限られない。例えば、第2の操作量演算要素が、0hの波形のピーク(または単位時間当たりの変化量Δxの減少)を検出し、減少抑制期間に応じて当該ピークの値を維持する、または緩やかに減少するような先行目標操作量を生成するように構成してもよい。また、例えば、第2の操作量演算要素が、減少抑制期間に応じて0hの波形を時間軸方向に広がるように拡大させることにより先行目標操作量を生成するように構成してもよい。