(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6431408
(24)【登録日】2018年11月9日
(45)【発行日】2018年11月28日
(54)【発明の名称】摩擦板及び摩擦板を備えた湿式多板クラッチ
(51)【国際特許分類】
F16D 13/62 20060101AFI20181119BHJP
F16D 25/0638 20060101ALI20181119BHJP
F16D 69/00 20060101ALI20181119BHJP
【FI】
F16D13/62 A
F16D13/62 B
F16D25/0638
F16D69/00 G
【請求項の数】11
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2015-42084(P2015-42084)
(22)【出願日】2015年3月4日
(65)【公開番号】特開2016-161089(P2016-161089A)
(43)【公開日】2016年9月5日
【審査請求日】2017年6月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000102784
【氏名又は名称】NSKワーナー株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094112
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 讓
(74)【代理人】
【識別番号】100101498
【弁理士】
【氏名又は名称】越智 隆夫
(74)【代理人】
【識別番号】100107401
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 誠一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100120064
【弁理士】
【氏名又は名称】松井 孝夫
(74)【代理人】
【識別番号】100154162
【弁理士】
【氏名又は名称】内田 浩輔
(72)【発明者】
【氏名】小林 将人
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 知之
(72)【発明者】
【氏名】棗田 伸一
【審査官】
中島 亮
(56)【参考文献】
【文献】
特開2006−118647(JP,A)
【文献】
特開平04−136524(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 11/00 − 23/14
F16D 25/00 − 39/00
F16D 49/00 − 71/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状のコアプレートに複数の摩擦材セグメントを環状に固定して形成された摩擦板であって、
前記摩擦材セグメント間には前記摩擦板の内径側から外径側へと貫通する通路が画成され、該通路の底面にエアを滞留させる突起が設けられており、
前記突起の大きさは半径が0.1〜1mm、高さが0.01〜0.3mm、前記通路に対する面積率が10〜50%であることを特徴とする摩擦板。
【請求項2】
前記突起の形状は、円柱状、円錐状、または三角錐状のいずれか一つ、またはこれらの組み合わせであることを特徴とする請求項1に記載の摩擦板。
【請求項3】
前記コアプレートと前記摩擦材セグメントの間に接着剤が設けられ、前記突起は前記接着剤の表面に設けられていることを特徴とする請求項1又は2に記載の摩擦板。
【請求項4】
前記突起は、前記コアプレートの表面に設けられていることを特徴とする請求項1又は2に記載の摩擦板。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の摩擦板と、前記摩擦板と軸方向で交互に配置されたセパレータプレートとを備えた湿式多板クラッチ。
【請求項6】
環状のコアプレートに複数の摩擦材セグメントを環状に固定して形成された摩擦板であって、
前記摩擦材セグメント間には前記摩擦板の内径側から外径側へと貫通する通路が画成され、該通路の底面にエアを滞留させる形状部が設けられており、
前記形状部は、前記コアプレートの表面上に塗布した接着剤の表面に設けられていることを特徴とする摩擦板。
【請求項7】
前記形状部は、溝であり、前記溝の幅は50〜500μm、深さは10〜500μmであることを特徴とする請求項6に記載の摩擦板。
【請求項8】
前記形状部は、凹凸部であり、前記凹凸部の表面粗さの大きさは、Ra(算術平均粗さ)で0.1〜10μmであることを特徴とする請求項6に記載の摩擦板。
【請求項9】
前記形状部は、突起であり、前記突起の大きさは半径が0.1〜1mm、高さが0.01〜0.3mm、前記通路に対する面積率が10〜50%であることを特徴とする請求項6に記載の摩擦板。
【請求項10】
前記突起の形状は、円柱状、円錐状、または三角錐状のいずれか一つ、またはこれらの組み合わせであることを特徴とする請求項9に記載の摩擦板。
【請求項11】
請求項6乃至10のいずれか1項に記載の摩擦板と、前記摩擦板と軸方向で交互に配置されたセパレータプレートとを備えた湿式多板クラッチ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車における自動変速機のクラッチやブレーキに用いられる摩擦板及び摩擦板を備えた湿式多板クラッチに関する。
【背景技術】
【0002】
自動変速機用の湿式多板クラッチにおける空転時の摩擦板と相手プレートとの引きずりトルクは、自動車の燃費に関わる駆動抵抗分の一部であり、それらを低減させることは自動車の燃費
向上や
CO2排出規制に対して大きく貢献することになる。これまで、摩擦板の引きずりトルク低減は摩擦板の摩擦面における溝や摩擦材間の油路を経由した油の排出効果(引き離し等)によって、摩擦板と相手プレートとの引きずりトルクを低減させる効果を得てきた。それらは特許文献1及び特許文献2に記載されている。
【0003】
また、近年における摩擦板への引きずりトルクの低減要求は、特に低回転領域における流体潤滑の粘性抵抗をいかに低減できるかが課題解決のカギである。これについては、特許文献3に記載のように、摩擦材セグメント形状の表面に溝を施すことにより、相対回転数が1000rpm以下で一定の低減効果を得ている。
【0004】
【特許文献1】特開2005−076759号公報
【特許文献2】特開2008−180314号公報
【特許文献3】特願2014−149484号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、自動車への燃費
向上や
CO2排出規制の強化は年々高まってきており、特に現状の課題である摩擦板の引きずりトルク損失の大きい相対回転数500rpm付近の低回転領域における流体潤滑の粘性抵抗低減が可能となれば、自動変速機用の湿式多板クラッチの摩擦板として、自動車の燃費
向上や
CO2排出規制の基準達成に向けて貢献できるものとなる。しかし、現状(上記特許文献)では、摩擦板の低回転領域における流体潤滑の粘性抵抗を低減させる方法を見出すには至っていなかった。
【0006】
また、引きずりトルクを低減させる目的をもつ、油の排出力を利用した摩擦板間の引き離し効果や、摩擦材の溝による油の排出性を向上させた流体潤滑の粘性抵抗を下げる効果は、回転を上げることによって成立するため、低回転領域ではそれらの効果を発揮できなかった。
【0007】
従って、本発明の目的は、湿式多板クラッチの摩擦板において、摩擦材セグメント間に気泡を滞留させる形状部を設けることで、気泡の滞留を促すことができ、低回転領域の引きずりトルクを大幅に低減させることができる摩擦板を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明の摩擦板は、
環状のコアプレートに複数の摩擦材セグメントを環状に固定して形成された摩擦板であって、摩擦材セグメント間には摩擦板の内径側から外径側へと貫通する通路が画成され、通路の底面にエアを滞留させる形状部が設けられていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0009】
摩擦板の摩擦材セグメント間に設けた気泡を滞留させる形状部(微細溝、突起、凹凸)が、摩擦板の停止状態及び回転状態において存在するエア(油中の気泡)を滞留させることができ、回転初期から気泡の滞留が増加、もしくは発生していくことで、流体潤滑から気液混相流の状態を回転初期に作り出すことが可能となる。
【0010】
これによって、油が満たされている流体潤滑における粘性抵抗が大きい低回転領域に効果を発揮し、特に相対回転数が500rpm付近の引きずりトルクを大幅に低減させることができる。
【0011】
摩擦材セグメント間に気泡を滞留させる形状部を形成することで、エアの発生を促すだけでなく、エアが滞留しやすくなり、それらが摩擦材表面に乗り上げられ、摩擦板と相手プレート間における油のせん断抵抗が減少するために低回転領域(特に相対回転数が500rpm付近)の引きずりトルクを大幅に低減させることができる。
【0012】
外側に開口を有する摩擦材セグメントの形状は、開放溝の回転方向に対して前方方向の通路間に微細溝や突起、凹凸を配置することでエアの滞留または発生が起こり、回転によって負圧になる摩擦材の開放溝形状に滞留するため、より効果が大きくなる。
【0013】
単純なラジアル(放射)溝は、遠心力で油と共にエアも排出されてしまうが、通路が微細溝や突起、凹凸の形状を有することで回転方向の負圧発生により外に出たエアが留まる、もしくは通路へ押し戻されることになる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、本発明の摩擦板を備えた湿式多板クラッチの軸方向部分断面図である。
【
図2】本発明の各実施例が適用できる摩擦板の部分正面図である。
【
図3】本発明の第1実施例の形状部を示す上面図である。
【
図4】本発明の第1実施例の形状部を示す、
図2のA−A線に沿った断面図である。
【
図5】本発明の第2実施例の形状部を示す上面図である。
【
図6】本発明の第2実施例の形状部を示す、
図2のA−A線に沿った断面図である。
【
図7】本発明の第3実施例の形状部を示す上面図である。
【
図8】本発明の第3実施例の形状部を示す、
図2のA−A線に沿った断面図である。
【
図9】本発明の各実施例と比較例(従来例)の効果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、添付図面を参照して本発明の各実施例を詳細に説明する。尚、以下説明する各実施例は、本発明を例示するものであり、本発明は各実施例に限定されるものではないことは言うまでもない。また、図面において同一部分は同一符号で示してある。
【0016】
本明細書中で使用する用語「エア」は、一般に潤滑油中に存在する空気を含むが、潤滑油の蒸気またはその他の気体も含むことができる。また、エアは潤滑油中に気体として存在するが、一般的には気泡として存在している。
【0017】
図1は、本発明の摩擦板を備えた湿式多板クラッチ10の軸方向部分断面図である。本発明の各実施例の摩擦板が適用可能である。
【0018】
湿式多板クラッチ10は、軸方向の一端部で開放したほぼ円筒形のクラッチドラム1と、クラッチドラム1の内周に配置され、同軸上で相対回転するハブ4と、クラッチドラム1の内周に設けられたスプライン8に軸方向で移動自在に配置された環状のセパレータプレート2と、ハブ4の外周に設けられたスプライン5にセパレータプレート2と軸方向で交互に配置され、摩擦材セグメントが接着剤などで固定された摩擦面を有する環状の摩擦板3とからなっている。セパレータプレート2はスプライン8に係合するスプライン部2aを、また摩擦板3は、スプライン5に係合するスプライン部3aをそれぞれ備えている。摩擦板3とセパレータプレート2はそれぞれ複数個設けられている。
【0019】
湿式多板クラッチ10は、セパレータプレート2と摩擦板3とを押圧し締結させるピストン6と、セパレータプレート2及び摩擦板3を軸方向の一端で固定状態に保持するため、クラッチドラム1の内周に設けられたバッキングプレート7とそれを保持する止め輪17とを備えている。
【0020】
図1に示すように、ピストン6は、クラッチドラム1の閉口端内で軸方向摺動自在に配置されている。ピストン6の外周面とクラッチドラム1の内面との間にはOリング9が介装されている。また、ピストン6の内周面とクラッチドラム1の内周円筒部(不図示)の外周面との間にもシール部材(不図示)が介装されている。従って、クラッチドラム1の閉口端の内面とピストン6との間に油密状態の油圧室11が画成される。
【0021】
ハブ4に軸方向摺動自在に保持された摩擦板3は、その両面に所定の摩擦係数を有する摩擦材セグメント12及び13が固定されている。しかしながら、摩擦材セグメント12及び13は、摩擦板3の片面のみに設けることもできる。また、ハブ4には径方向に貫通した潤滑油供給口15が設けられ、この潤滑油供給口15を介して湿式多板クラッチ10の内径側から外径側へと潤滑油が供給されている。
【0022】
以上のように構成された湿式多板クラッチ10は、次のようにクラッチの係合(締結)及び解除をする。
図1の状態は、クラッチ解除状態を示しておりセパレータプレート2と摩擦板3とはそれぞれ離れている。解除状態では、不図示のリターンスプリングの付勢力により、ピストン6はクラッチドラム1の閉口端側に当接している。
【0023】
この状態で湿式多板クラッチ10を係合させるには、ピストン6とクラッチドラム1との間に画成された油圧室11に油圧を供給する。油圧の上昇に伴い、リターンスプリング(不図示)の付勢力に抗して、ピストン6は、
図1において軸方向右に移動し、セパレータプレート2と摩擦板3とを密着させる。これにより湿式多板クラッチ10が係合される。
【0024】
湿式多板クラッチ10の係合後、湿式多板クラッチ10を再度解除するには、油圧室11の油圧を解除する。油圧が解除されると、ピストン6はリターンスプリング(不図示)の付勢力により、クラッチ
ドラム1の閉口端に当接する位置まで移動する。すなわち、湿式多板クラッチ10が解除される。
【0025】
図2は、本発明の各実施例が適用できる摩擦板3の部分正面図である。摩擦板3は、ほぼ環状のコアプレート20の軸方向の表面に、それぞれ同一で複数の摩擦材セグメント12を接着剤などで環状に固定し形成された摩擦面25を備えている。コアプレート20は、ハブ4のスプライン5に係合するスプライン20aを内周に備えている。
図2では、摩擦板3を部分的に示しているが、図示を省略した部分においても、
図2に示したのと同様に摩擦材セグメント12は環状かつ等配にコアプレート20に固定されている。
【0026】
摩擦材セグメント12には、内径側に開口し、外径側であって摩擦材セグメント12内で終端する油溝12aと、外径側に開口し、内径側であって摩擦材セグメント12内で終端する油溝12bとが形成されている。
【0027】
油溝12aは、摩擦材セグメント12の周方向のほぼ中央に形成されている。また、油溝12bは、油溝12aを挟んで周方向の両側に2箇所形成されている。外径側のみに開口する油溝12bを設けたことで、油通路21から摩擦面25に引き込まれた油がスムースに外径側に排出され、空転時において、引きずりトルクの低減が可能となる。特に低回転領域においては、引きずりトルク低減の効果は大きい。
【0028】
摩擦材セグメント12と摩擦材セグメント12との間には、摩擦板3の内径側から外径側へと貫通する油通路21が画成されている。従って、摩擦材セグメント12と油通路21とが交互に周方向に配置されている。
【0029】
(第1実施例)
図3は、本発明の第1実施例の形状部を示す上面図であり、
図4は、本発明の第1実施例の形状部を示す、
図2のA−A線に沿った断面図である。
図3に示すように、摩擦材セグメント12間の油通路(通路)21の底面21aに、形状部として摩擦板3の内径側から外径側へと延在する複数の微細な溝31が形成されている。実施例1では3本の溝31が形成されているが、本数は任意であり、例えば2本または4本などその他の本数でも良い。
【0030】
図4から分かるように、コアプレート20の上に塗布した接着剤22の表面から突出する3個の突出部30が設けられている。突出部30は軸方向に突出し、摩擦板3の内径側から外径側へと直線状に延在している。突出部30と摩擦材セグメント12の壁との間、突出部30の間に溝31が画成されている。突出部30の周方向の断面は矩形であるが、その他の形状に形成することもできる。
【0031】
溝31は、機械加工(切削など)、成形加工(型押しなど)、レーザ加工などで形成することができる。また、同様の加工方法で、接着剤22ではなく、通路21に露出したコアプレート20の表面に直接形成することも可能である。
【0032】
溝31は不図示の加工機を用いて、上記の加工方法で、微細な溝として摩擦材セグメント12間に100μmの間隔で形成する。溝31の径方向の長さは、摩擦板3の外径側から内径側まで、摩擦材セグメント
12の径方向の長さと同じに設定すれば良い。しかしながら、溝31の径方向の長さは任意であり、摩擦材セグメント12の径方向の長さより短くすることも、長くすることも可能である。
【0033】
溝31の幅は50〜500μm、深さは10〜500μmであることが好ましい。溝31の幅が50μm以下であると効果がなく、500μm以上であるとエア(気泡)が流出しやすくなるため効果がなくなる。また、溝31の深さが10μm以下だと効果がなく、500μm以上だとコアプレート20の強度が低下する。
【0034】
(第2実施例)
図5は、本発明の第2実施例の形状部を示す上面図であり、
図6は、本発明の第2実施例の形状部を示す、
図2のA−A線に沿った断面図である。
図5に示すように、摩擦材セグメント12間の油通路(通路)21の底面21aに、形状部として複数の微小な凹凸部32が形成されている。凹凸部32は、コアプレート20の表面に形成されているが、接着剤22の表面に形成することもできる。また、凹凸部32は、油通路21の底面21aに波形でかつ直線状に設けたが、間欠的にかつ曲線状に設けることもできる。
【0035】
凹凸部32は、油通路21の底面21aに、規則的または不規則に設けられている。凹凸部32は、コアプレート20に接着剤22を塗布した後、摩擦材セグメント12間の油通路21の底面21aにショットブラストを用いて表面を粗くし、Ra(算術平均粗さ)で5μmとなるように形成する。
【0036】
凹凸部32の表面粗さの大きさは、Ra(算術平均粗さ)で0.1〜10μmが好ましい。これは、0.1μm以下であると効果がなく、10μm以上であると油の排出性を悪くするからである。
【0037】
凹凸部32は、部分的に設けることもできるが、油通路21の全域に設けることが好ましい。
【0038】
(第3実施例)
図7は、本発明の第3実施例の形状部を示す上面図であり、
図8は、本発明の第3実施例の形状部を示す、
図2のA−A線に沿った断面図である。
図7に示すように、摩擦材セグメント12間の油通路(通路)21の底面21aに、形状部として複数の微小な突起33が形成されている。突起33は、ここでは接着剤22の表面に形成されているが、コアプレート20の表面に形成することも可能である。
【0039】
突起33は、コアプレート20に接着剤22を塗布した後、摩擦材セグメント12間の油通路へ直径200μm、深さ200μmの微細な穴が形成してある金型に一定の圧力で押し付けることで、層状の接着剤22の表面またはコアプレート20へ突起33を形成する。
【0040】
突起33の形状は、円柱状、円錐状、三角錐状などが可能である。円柱状、円錐状、または三角錐状のいずれか一つ、またはこれらの組み合わせにすることが可能である。大きさは半径が0.1〜1mm、高さが0.01〜0.3mm、油通路21の底面21aに対する面積率は10〜50%が好ましい。また、大きさは不規則であり均一ではない。
【0041】
突起33の半径が0.1mm以下であると効果がなく、1mm以上であると油の排出性に悪影響があるため好ましくない。また、高さが0.01mm以下であると効果がなく、0.3mm以上であると相手プレートへの接触可能性があり、係合特性を悪くするため好ましくない。また、高さは均一でなくてもよい。面積率が10%以下であると効果がなく、50%以上であると油の排出性に影響するため好ましくない。
【0042】
上述の各実施例において、形状部による効果が十分得られるように、摩擦材セグメント12には、外径側のみに開口する油溝12bを設けてあることが好ましい。これは油通路21から摩擦面25に引き込まれた油がスムースに外径側に排出され、空転時において、引きずりトルクの低減が可能となるからである。特に低回転領域においては、引きずりトルク低減の効果は大きい。
【0043】
摩擦材セグメント12の形状によっては、全ての摩擦材セグメント12間にエアを滞留させる形状部を設ける必要はない。また、油の排出性が悪化し、効果を狙っている低回転領域で引きずりトルクが大きくなる形状を有する摩擦材セグメントの場合、部分的に形状部の形成箇所を減少させたほうが良い。
【0044】
摩擦材セグメント12がセグメント形状ではなく、リングタイプ(環状)の摩擦材の場合は、油通路21となる部分に対応して、成形金型に微細な穴、凹凸部などを形成した上で、油通路21の底面21aへ転写することによって、微細な溝、凹凸部、突起を形成することができ、前述と同様の効果が得られる。
【0045】
上記各実施例では、コアプレート20の表面、または接着剤22に形状部としての微細な溝、凹凸部、突起を形成した。しかしながら、微細な溝や凹凸部または突起を備えたシート状の部材をコアプレート20の表面、または接着剤22に貼り付けて、形状部を形成することもできる。
【0046】
(評価試験結果)
以下、本発明の各実施例と比較例(従来例)の摩擦板の評価試験の結果を示している。表1は評価条件、
図9に示すグラフは本発明の各実施例と比較例の効果を示している。
【0047】
評価試験は、引きずりドラグ測定試験機にて表1に記載の試験条件で実施した。
【表1】
【0048】
図9のグラフにおいて縦軸は引きずりトルク(Nm)、横軸は相対回転数(rpm)である。
図9において、曲線Aは比較例(従来の平滑な底面を備えた油通路を有するもの)、曲線Bは実施例1(微細な溝31)、曲線Cは、実施例2(凹凸部32)
を示している。
【0049】
図9から分かるように、本発明の各実施例の摩擦板3は、比較例に比べて、低い相対回転数で、引きずりトルクが低減できている。
特に、要求の高い相対回転数が500rpm付近の低回転域で大幅に低減している。
【0050】
以上説明した本発明は、上記実施例に限定するものではなく、摩擦材セグメントの形状は、図示の形状以外のものも可能である。また油溝の構成が異なる摩擦材セグメント、または油溝の形成されていない摩擦材セグメントにも適用可能である。尚、溝、凹凸部、突起は、実際の大きさではなく、説明の便宜上、誇張して示していることは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0051】
以上説明した本発明は、自動変速機を搭載する車両などにおいて利用できる。
【符号の説明】
【0052】
1 クラッチドラム
2 セパレータプレート
3 摩擦板
4 ハブ
5 スプライン
6 ピストン
8 スプライン
10 湿式多板クラッチ
12 摩擦材セグメント
12a、12b 油溝
20 コアプレート
21 油通路(通路)
22 接着剤
25 摩擦面
30 突出部
31 微細な溝
32 凹凸部
33 突起