(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
所定位置に設置され、各衛星から放送される測位用信号を受信する基準局と、監視対象範囲内に設置され、衛星からの測位用信号を受信する複数の観測局と、前記観測局の位置変位を監視する監視部とを備えると共に、前記基準局を複数個選出して選択基準局とし、前記選択基準局のうちから順番に1局ずつ基準局を決定する基準局選出手段を備え、
前記基準局は、自局で受信した前記測位用信号を前記複数の観測局に送信する基準側通信手段を含み、
前記観測局は、自局で受信した測位用信号及び前記基準局で受信した測位用信号から、キネマティック基線解析によって自局の測位結果を求める測位演算手段と、前記基準局の測位用信号を受信すると共に、自局の測位結果を前記監視部に送信する観測側通信手段とを含み、
前記基準局選出手段は、前記選択基準局のうちからの基準局の決定を所定期間毎に変更することを特徴とする変位監視システム。
前記測位演算手段は、時系列方向に得られた直前の複数個分の測位結果を平均化し、その結果を前記測位結果とする平均化処理手段を備える請求項1に記載の変位監視システム。
前記監視部は、時系列的な測位結果の経時方向の差分及び各局間の相対的な差分の少なくとも一方を求める差分算出手段を備えることを特徴とする請求項2又は3に記載の変位監視システム。
所定位置に設置され、各衛星から放送される測位用信号を受信する基準局と、監視対象範囲内に設置され、衛星からの測位用信号を受信する複数の観測局と、前記観測局の位置変位を監視する監視部とを備えると共に、前記基準局を複数個選出して選択基準局とし、前記選択基準局のうちから順番に1局ずつ基準局を決定する基準局選出手段を備え、
前記基準局で受信した前記測位用信号を前記複数の観測局に送信する工程と、
前記各観測局で受信した測位用信号及び前記基準局から送信された測位用信号から、前記観測局においてキネマティック基線解析によって前記各観測局の測位結果を求める工程と、
前記各観測局の測位結果を前記監視部に送信する工程と、
所定期間毎に、前記基準局選出手段により前記選択基準局のうちからの基準局の決定を変更する工程とを含む変位監視方法。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
測位用電波としてL1波(1575.42MHzのキャリア)を用いた場合におけるRTK測位方法での計測精度は、特許文献1によれば、スタティック測位方法が一般的に数mm(1時間の計測間隔)の高精度とされているのに比べて、数cm(1秒間の計測間隔)とされている。従って、地盤変動が閾値を超えた場合のように、短時間間隔で計測を繰り返す必要がある場合、現状のRTK測位方法での測位精度では適用に一定の制限がある。
【0006】
また、測位を行うために必要な、擬似距離、搬送波位相などの観測データ、及び航法メッセージのデータは、最も民間用に利用されているGPSのL1C/Aコードの場合、400〜800Byteが必要で、特許文献1,2のように、観測局数が増大すると、これらの情報を監視センタへ送信する様態では、局数に比例してデータ量が増大して伝送に長時間を要することとなり、また、同時に監視センタにおける測位演算処理の負担が大きくなる。
【0007】
本発明は、短時間でかつデータ処理及びデータ伝送に対する負担を軽減しつつ所要の精度で複数の観測局からの測位結果を得る変位監視システム及びその方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る変位監視システムは、所定位置に設置され、各衛星から放送される測位用信号を受信する基準局と、監視対象範囲内に設置され、衛星からの測位用信号を受信する観測局と、前記複数の観測局の位置変位を監視する監視部とを備え、前記基準局は、自局で受信した前記測位用信号を前記複数の観測局に送信する基準側通信手段を含み、前記観測局は、自局で受信した測位用信号及び前記基準局で受信した測位用信号から、キネマティック基線解析によって自局の測位結果を求める測位演算手段と、前記基準局の測位用信号を受信すると共に、自局の測位結果を前記監視部に送信する観測側通信手段とを含むものである。
【0009】
また、本発明に係る変位監視方法は、所定位置に設置され、各衛星から放送される測位用信号を受信する基準局と、監視対象範囲内に設置され、衛星からの測位用信号を受信する複数の観測局と、前記観測局の位置変位を監視する監視部とを備え、前記基準局で受信した前記測位用信号を前記複数の観測局に送信する行程と、前記各観測局で受信した測位用信号及び前記基準局から送信された測位用信号から、前記観測局においてキネマティック基線解析によって前記各観測局の測位結果を求める行程と、前記各観測局の測位結果を前記監視部に送信する行程とを含むものである。
【0010】
これらの発明によれば、基準局で受信した測位用信号は観測局に送信され、観測局で受信した測位用信号及び前記基準局から送信された測位用信号から、観測局においてキネマティック基線解析によって各観測局の測位結果が求められる。そして、各観測局の測位結果は前記監視部に送信される。従って、基準局から観測局への測位用信号の送信の負担はあるものの、観測局においてそれぞれ測位結果を求め、それらのデータを少ないデータ容量で監視部に送信するようにしたので、全体として、短時間でかつデータ処理及びデータ伝送に対する負担が軽減された状態で所要の精度で観測局からの測位結果が得られる。なお、各観測局の測位結果の前記監視部への送信は、監視部へ直接送信される態様でもよいし、基準局を経由して送信される態様でもよい。
【0011】
また、前記測位演算手段は、時系列方向に得られた直前の複数個分の測位結果を平均化し、その結果を前記測位結果とする平均化処理手段を備えるものである。この構成によれば、比較的短時間周期でより高精度の測位結果が得られる。
【0012】
また、前記基準局及び観測局は、使用する衛星を選択する衛星選定手段を備えるものである。この構成によれば、マルチパス等の障害を生じない衛星を、単純に選択して使用し、乃至は重み付けによって選択的に使用することで、測位精度をより高めることが可能となる。
【0013】
また、前記監視部は、時系列的な測位結果の経時方向の差分及び各局間の相対的な差分の少なくとも一方を求める差分算出手段を備えることを特徴とする。この構成によれば、位置の変位や局間の相対的な変位が監視され、災害等からの被災を未然に排除することが可能となる。
【0014】
また、前記監視部は、前記差分が閾値を超えた場合に警報を出力する監視手段を備えることを特徴とする。この構成によれば、避難等を報知する警報によって災害等からの被災を未然に排除することが可能となる。
【0015】
また、前記観測側通信部は、上流側の観測局から測位結果を受信し、当該受信した前記上流側の観測局の測位結果と共に自己の測位結果を下流側の観測局に送信し、最下流の観測局の観測側通信部は、受信した前記上流側の全ての観測局の測位結果と共に自己の測位結果を前記監視部に送信することを特徴とする。この構成によれば、観測局の設置箇所が起伏等によって直接基準局に電波が届きにくい場合に有効となる。
【0016】
また、前記基準局を複数個選出して選択基準局とし、前記選択基準局のうちから順番に基準局を決定する基準局選出手段を備え、前記基準局選出手段は、前記選択基準局のうちからの基準局の決定を所定期間毎に変更することを特徴とする。この構成によれば、
基準局を複数個設けることで、仮にある基準局での測位時に測定誤差が大きくなったとしても、他の基準局に切換えられることで全体として測定精度の維持確保が図れる。なお、基準局選出手段は、監視部に備えられていてもよく、あるいは各局に共通して備えられていてもよい。また、選択基準局を選択する機能部分と、その内から基準局を決定する機能部分とを分けて備えてもよい。例えば選択基準局を選択する機能部分を監視部に備え、その内から基準局を決定する機能部分を各局に備えればよい。
【0017】
また、前記基準局選出手段は、前記複数個の基準局の組合わせのそれぞれについで測位精度評価を行い、評価結果から前記選択基準局を選出することを特徴とする。この構成によれば、1個の基準局では誤差有無の評価が容易ではないが、選択基準局の組合わせの設定に際して測位精度評価を行うことで、常に測定精度が維持されることになる。
【0018】
また、前記基準局選出手段は、前記測位精度評価を所定期間毎及び所定タイミングの少なくとも一方の時点で行うことを特徴とする。この構成によれば、周期的に乃至は誤差が生じたりバラツキが大きくなった時点(タイミング)で測位精度評価を行って選択基準局の組合わせを変更可能にしたので、全体として測位精度が維持される。
【0019】
また、前記選択基準局は2個の基準局とすることで、効率的に精度の維持確保が図れる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、短時間でかつデータ処理及びデータ伝送に対する負担を軽減しつつ所要の精度で複数の観測局からの測位結果を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
図1は、本発明に係る変位監視システムの概要図である。
図1において、Sat…は、人工衛星、例えばGPS(Global Positioning System)衛星で、公知の軌道上で地球を周回している。GPS衛星Sat…は、公知のように、それぞれ異なる周波数の電波(L1波、L2波、L5波等)を測位用信号として送信(放送)している。本実施形態では、一例としてL1波(1575.42MHz、波長19.03cmのキャリア)の電波を用いた場合の測位処理について説明する。電波は、コードと呼ばれる測位符号が所定のデータ列として配列された搬送波からなり、L1波には、衛星識別情報、GPS時刻、軌道情報を含む測位符号としてC/Aコードを有し、他にエメリフェス情報や電離層遅延に関する情報からなる航法メッセージが含まれている。より詳細には、電波は、搬送波がコードと呼ばれる主に衛星と受信機間の距離を測定するために用いられる。コードは、長さ1023chip、周期1msの擬似雑音符号で二相位相変調(BPSK:Bi-Phase Shift Keying)され、さらにGPS時刻や軌道情報(エフェメリス)、電離層遅延などに関する情報を含む航法メッセージが重畳されたものである。
【0023】
センサ部1は、GPS受信装置である基準局10及び観測局20を備え、それぞれGPS衛星Sat…から放送される測位用信号を受信するものである。基準局10は、監視対象域乃至は近傍に設置されたものである。観測局20は、監視対象域内に分散して、観測点として設置されたものである。基準局10及び観測局20は、一般的には4機以上のGPS衛星Sat…からの放送電波を利用して測位処理を行う。基準局10及び観測局20は、それぞれ自局の識別のためのID情報を設定されており、後述するように信号やデータを送信する場合には、送信内容に自己のID情報を送信元情報として添付する。
【0024】
基準局10と観測局20とは全て無線で通信可能にしてもよいが、必要に応じて全部又は一部を有線で通信可能に接続してもよい。本実施形態では、
図1に示すように、基準局10は、一部の観測局20(ID=01〜ID=i)との間では無線で通信可能にされ、一方、残りの観測局20(ID=n−1,ID=n)に対しては、後述するデータ集約部31を経由して有線で通信可能にされている。なお、観測局20(ID=n−1,ID=n)は、シリアルに接続されて、上流側の観測局20(ID=n−1)から下流側の観測局20(ID=n)を経由して、測位結果が監視部3側に送信されるようにしてもよい。観測局20(ID=01〜ID=i)についても同様である。有線式では、例えばRS−485の通信規約を利用することができる。監視対象域内においては、基本的に無線式としつつ、斜面に起伏があって無線電波の回り込みが期待できない(受信感度が低い)箇所は有線式とするようにしている。
【0025】
監視部3は、データ集約部31と監視処理部32とを備えている。監視部3は、センサ部1の近傍又は所定箇所に配置される。データ集約部31は、好ましくはセンサ部1の近傍に設置され、主としてセンサ部1から送られてくるデータの受信を行って、受信したデータの集約処理を実行すると共に、ファイルデータを監視処理部32からの要求に応じて出力する処理を行う。監視処理部32は、データ集約部31でファイルされたデータを用いて変位情報処理を行うと共に、必要に応じて監視主体やユーザに対して処理結果の配信を行う。
【0026】
図2は、センサ部の構成を示す図で、(A)は基準局の機能ブロックの一例を示す構成図、(B)は観測局の機能ブロックの一例を示す構成図である。基準局10及び観測局20は、基準局としての機能及び観測局としての機能を実行する構成を有する。なお、基準局10と観測局20とを汎用性のある同一構成として製造し、使用に際していずれか側の機能が選択的に実行可能にされる態様でもよい。
【0027】
基準局10は、制御部11及びGPS受信部12を備えている。制御部11には、メモリ部112、通信部113及び電源部114が接続されている。GPS受信部12はGPS衛星Sat…から周期的に放送される測位用信号を受信するアンテナ121を備えている。基準局10は、これらの各部が
図1に示す略円筒状の筐体に内装された形で構成されている。なお、筐体の適所には、外部より操作可能な電源スイッチ(図略)が設けられている。通信部113は、観測局20及び監視部3との間で信号やデータの送受信を行うものである。電源部114は、基準局10の各部を稼働させるもので、二次電池の他、太陽電池等の再生可能エネルギーを利用したものでもよい。
【0028】
メモリ部112は、基準局10としての処理を実行する処理プログラム等を記憶するプログラムデータメモリ部1121、GPS衛星Satからの測位用信号を自局で受信した受信信号として記憶する受信信号メモリ部1122、基準局10が設置された位置データ(緯度、経度、高さ)を基準局位置データとして記憶する基準局位置データメモリ部1123を備えている。また、メモリ部112は、測位処理に使用するGPS衛星の内、測位精度面から推奨する(あるいは間引く)衛星のリストを記憶する衛星選択リストメモリ部1124を備えている。基準局位置データメモリ部1123の基準局位置データは、地図から取得する方法の他、基準局10で事前に単独測位処理を所定期間実行して高精度の位置情報を得る方法でもよい。
【0029】
また、衛星選択リストメモリ部1124に記憶される衛星選択情報は、例えば以下のようにして得られる。測位精度は、主にマルチパス等に左右されることから、測位時に仰角が小さい、地平線に近い衛星を除くことが好ましい。各GPS衛星は軌道情報を放送することから、基準局10の設置位置との関係を利用して、時間帯に対応して推奨度の低いGPS衛星を事前に特定することは可能である。また、マルチパスは、地形や建造物の影響を受けることから、マルチパスの原因となる反射波を生じる位置を飛行するGPS衛星を推奨度の低いGPS衛星として事前に特定することができる。GPS衛星Satは、公転周期を有し、23時間56分で地球を2周する。従って、マルチパス等の影響が発生するときのGPS衛星の位置(あるいは時間帯)を事前に、少なくとも1日分の試験を経て情報を取得しておくことで、以後のマルチパスの発生時刻と該当する衛星とを知ることが可能となり、かかる情報を衛星選択リストメモリ部1124に記憶することで、時間情報を含めて推奨度の低いGPS衛星を不使用とすることができる。なお、衛星選択リストメモリ部1124に登録された情報は、1日経過する毎に4分ずらして使用することが精度上好ましい。これら各事情は、NGSS衛星でも同様であり、各衛星を利用する態様でも、同様なリストを作成し、適用することができる。
【0030】
制御部11は、処理プログラムを実行することによって、受信信号処理部1101及び通信処理部1102として機能する。受信信号処理部1101は、複数のGPS衛星Satからの所定(1パケット分)の測位用信号を受信する処理を行うと共に、受信信号を受信信号メモリ部1122に一時的に記憶する処理を行う。なお、制御部11は、GPS時刻と衛星選択リストメモリ部1124に登録されたGPS衛星とから不使用のGPS衛星からの測位常信号を除く処理を行ってもよい。あるいは制御部11は、受信したGPS衛星の測位用信号を推奨情報と関連付けて観測局20に送信し、各観測局20側で、当該観測局20の衛星選択リストメモリ部2124と照合して、双方で推奨度の高いGPS衛星の測位用信号のみを利用するようにしてもよい。
【0031】
通信処理部1102は、受信信号メモリ部1122に記憶された1パケット分の受信信号をエポック毎に全ての観測局20に一斉送信する処理及び、各観測局20から受信した測位結果を監視部3に送信する処理を行う。なお、一斉送信においては、前述した、有線で接続されている観測局20(
図1参照)には、データ集約部31を経由してRS−485の通信規約で送信される。また、通信処理部1102は、基準局位置データを起動後に少なくとも1回だけ全ての観測局20に送信すれば足りるが、本実施形態では後述するように、所定周期で、例えば数エポック毎に全ての観測局20に一斉送信するようにしている。
【0032】
観測局20は、制御部21及びGPS受信部22を備えている。制御部21には、メモリ部212、通信部213及び電源部214が接続されている。GPS受信部22はGPS衛星Sat…から周期的に放送される測位用信号を受信するアンテナ221を備えている。観測局20は、これらの各部が
図1に示す略円筒状の筐体に内装された形で構成されている。なお、筐体の適所には、外部より操作可能な電源スイッチ(図略)が設けられている。通信部213は、基準局1との間で信号やデータの送受信を行うものである。電源部214は、観測局20の各部を稼働させるもので、二次電池の他、太陽電池等の再生可能エネルギーを利用したものでもよい。
【0033】
メモリ部212は、観測局20としての処理を実行する処理プログラム等を記憶するプログラムデータメモリ部2121、GPS衛星Satからの測位用信号を自局で受信し、受信信号として記憶する受信信号メモリ部2122、RTK測位処理の結果を一時的に記憶する測位結果メモリ部2123、及び測位処理に使用するGPS衛星の内、測位精度面から推奨するGPS衛星のリストを記憶する衛星選択リストメモリ部1124とを備えている。衛星選択情報は、基準局10の場合と同様にして得ればよいが、各観測局20の設置箇所によって、異なるGPS衛星がリストアップされる場合があり得る。
【0034】
制御部21は、処理プログラムを実行することによって、受信信号処理部2101、RTK測位演算部2102、平均化処理部2103、及び通信処理部2104として機能する。受信信号処理部2101は、GPS衛星Satからの所定(1パケット分)の測位用信号を放送の度に受信する処理を行うと共に、受信信号を受信信号メモリ部1122に一時的に記憶する処理を行う。
【0035】
RTK測位演算部2102は、基準局10から送信されてきた各GPS衛星Satの受信信号及び自局での各GPS衛星Satの受信信号を用いてキネマティック基線解析を行うRTK測位処理を実行し、測位結果(C/Aコードデータ及びキャリア位相データ)、例えば基準局に対する相対的な位置データ(緯度経度及び高さの各方向の値)を得、この測位結果を時系列方向に対応付けて(バッファリングして)保管する処理を実行する。なお、基準局位置データを利用して絶対位置を算出するようにしてもよく、以上をまとめて測位結果という。
【0036】
平均化処理部2103は、バッファリングされた複数の測位結果の平均値を求める計算を実行するものである。平均値は加重平均でもよいし、単純平均でもよい。また、例えば標準偏差σのある閾値以上にバラツキのある、測定精度の悪い測位結果を間引く処理を加味してもよい。通信処理部2104は、基準局10からの配信信号を受信したり、算出後の測位結果を返送したりする処理を行う。
【0037】
図3は、監視部の機能ブロックの一例を示す構成図である。データ集約部31は、通信処理部311及び測位結果記憶部312を備えている。通信処理部311は、基準局10及び観測局20との間でそれぞれ信号やデータの送受信を行うと共に、監視処理部32に測位結果の送信を行う。測位結果記憶部312は、必要に応じてデータ集約部31における各種のデータの記憶部として機能するもので、主には、全ての観測局20の測位結果を記憶する。なお、基準局選出部314は、後述する第2実施形態で使用される。
【0038】
監視処理部32は、時系列的な各観測局20からの測位結果からそれぞれの設置箇所の位置変位、乃至は位置変位と閾値とを比較し、その他必要に応じて、また適用用途に応じて種々の変動分析を行って、地盤異常の有無を監視する監視情報生成部321と、監視情報を必要とする監視主体やユーザ等に配信するデータ配信部322とを備えている。監視情報生成部321は、より具体的には、時系列的に送り込まれてくる各観測局20の測位結果から、各観測局20が位置ずれを生じているか否か、さらに位置ずれがどの程度の大きさで生じているか、また各局間の相対的な位置ずれを監視するもので、時系列方向の差分を算出する差分算出手段として機能する。監視情報生成部321は、差分値の算出の他、各観測局20の変位量、変位時間情報などから、地盤異常のさらなる解析を行うものでもよい。データ配信部322は、算出された差分値や解析情報をそのまま配信し、あるいは差分値が所定の閾値を超えた場合に、警報情報と共に配信する態様、さらには両方の態様によるデータ配信が採用可能である。データ集約部31と監視処理部32との間は、所定のネットワーク、例えFOMA(Freedom Of Mobilemultimedia Access)等の電話回線(無線又は有線)を利用している。
【0039】
図4は、基準局と観測局での信号の受信と送信のタイミングの一例を示すタームチャートである。なお、図中、P−ID0は、基準局10の処理タイミングを示し、P−IDn(n>1)は、n個のうちの最後の観測局20での処理タイミングを示している。また、
図4では、n=9、すなわち1台の基準局と9台の観測局20の場合の例である。受信のエポックは1秒毎であり、後述するように、0.5秒(500ms)までの前半と、それ以降の後半とで処理を振り分けている。
【0040】
基準局10では、P−ID0に示すように、1秒周期のそれぞれで、ハイレベルで示す0秒〜0.5秒の間に、自局でのSat衛星からの測位用信号を受信し、1パケット受信の判断と格納処理とを行い、さらに基準局10の受信信号を全ての観測局20へ一斉送信する。さらに、基準局10は、ローレベルで示す後半の0.5秒〜1秒の間で、観測局20から返送された測位結果を受信し、監視部3へ送信する。
【0041】
1番目の観測局20は、P−ID1に示すように、1秒周期のそれぞれの前半で、基準局10と同様に、自局でのSat衛星からの測位用信号を受信し、さらに基準局10から配信された受信信号とを用いてPTK測位演算を実行して、その結果を測位結果メモリ部2123に格納する。後半の時間では、後述する所定の平均化処理を実行し、その結果としての測位結果を基準局10(を介して監視部3)に返送する。各観測局20、すなわち2番目以降の観測局20は、上記のうちの前半の処理を各エポック毎に実行すると共に、後半の処理は自己の測位結果メモリ部2123に10回数分の測位結果が格納された時のエポックに対応して実行する。例えば、P−ID1の観測局20では、1.5秒〜2.0秒で、測位結果が送信され、P−ID2の観測局20では、2.5秒〜3.0秒で、測位結果が送信され、P−IDnの観測局20では、9.5秒〜10秒(=0秒)で、測位結果が送信される。すなわち、本実施形態では、9台の観測局20は、エポック周期1秒として、10秒間の平均値を測位結果として監視部3へ送る。なお、最初のエポックでの、0.5秒〜1.0秒では、後述するように、基準局位置データの一斉送信が行われる。
【0042】
図5は、測位結果のバッファリング処理を説明するメモリマップの図である。各観測局20のRTK測位演算部2102は、10秒間の(10個の)時系列的な測位結果をファイル箇所と対応付けて測位結果メモリ部2123に格納する。なお、測位結果は最も古いファイル箇所のデータに最新のデータが更新されるようにして直近の10個のデータが常に残るようにされている。
【0043】
次に、
図6〜
図10のフローチャートを用いて、各部が実行する処理について説明する。
図6は、センサ部1(基準局及び観測局)に対する電源投入後の処理を示している。センサ部1は、電源投入を受けると、まず、システムの初期化が開始される(ステップS1)。システムの初期化では、IDの設定、出力周期(平均化の周期)の設定、各種のバッファ(RAM)のクリア処理等が行われる。なお、IDや出力周期は、監視対象域に設置時あるいは事前(現地搬入時など)に作業者によって設定され、あるいはデファクトにより製造乃至は出荷段階で設定されている。
【0044】
次いで、IDが0か否か、すなわち基準局か否かが判断される(ステップS3)。IDが0、すなわち基準局であれば、基準局としての処理が開始され(ステップS5)、IDが0以外、すなわち観測局であれば、IDに従った観測局としての処理が開始される(ステップS7)。かかる処理によって、電源投入されたセンサ部1が全て稼働状態にされる。
【0045】
図7は、基準局10の制御部11において実行される処理を示している。まず、複数のGPS衛星Satからの測位用信号を受信し、その取り込みが行われる(ステップS11)。そして、それぞれ所定のデータ量(400〜800Byte)である1パケット分が取り込まれたか否かが判断される(ステップS13)。1パケット分が取り込まれると、今回受信した1パケット分の受信信号を全ての観測局20に向けて一斉に送信する(ステップS15)。本実施形態では、ここまでの処理を、1エポックの前半で行うようにしている。一方、1パケット分が取り込まれない場合、ステップS15はスキップされる。この場合、基準局10から前回の受信信号を再送してもよいし、あるいは観測局20で前回に基準局10から送られてきた受信信号を利用してもよい。
【0046】
次いで、順番に従った、ある観測局20から送信された(平均化後の)測位結果の取り込みが行われる(ステップS17)。そして、所定のデータ量(48〜50Byte)である1パケット分が取り込まれたか否かが判断され(ステップS19)、1パケット分が取り込まれると、この1パケット分の測位結果が監視部3に送信される(ステップS15)。一方、1パケット分が取り込まれない場合、ステップS21はスキップされる。この場合、基準局10から当該観測局20の前回の測位結果を再送してもよいし、あるいは監視部3で前回に基準局10から送られてきた当該観測局20の測位結果を利用する態様としてもよい。そして、処理はステップS11に戻り、周期的に放送されるGPS衛星Satの測位用信号を受信する毎に同様の処理が繰り返し実行される。
【0047】
図8は、観測局20の制御部21において実行される測位演算のための処理を示している。まず、自局で、複数のGPS衛星Satからの測位用信号を受信し、その取り込みが行われる(ステップS31)。続いて、基準局10からデータ量(400〜800Byte)の受信信号の取り込みが行われる(ステップS33)。そして、自局での受信信号が取り込まれたか否か、また基準局10から1パケット分の受信信号が取り込まれたか否かが判断される(ステップS35)。両方の信号が取り込まれていると、基準局10及び自局での受信信号からRTK測位演算が実行される(ステップS37)。次いで、計時用のTDMA用カウンタが0にリセットされる(ステップS39)。
【0048】
なお、TDMA(Time Division Multiple Access )とは、無線通信に使われる方式の一つで、1つの周波数を短時間ずつ交代で複数の発信者で共有する時分割多元接続をいう。次いで、測位結果のバッファリング、すなわちメモリアドレスとの対応付けを行って、測位結果メモリ部313に格納する(ステップS41)。そして、処理はステップS31に戻り、周期的に放送されるGPS衛星Satの測位用信号を受信する毎に同様の処理が繰り返し実行される。
【0049】
図9は、基準局及び観測局の制御部において実行されるタイマ処理を示している。まず、出力タイミングの値tを求める計算が行われる(ステップS51)。すなわち、測位用信号に含まれるGPS時刻(例えば、秒)を出力周期(本実施形態では、10秒)で除算し、その「余り」を求める。この計算によって、エポック1秒毎に、「余り」の値が、「0,1,2,…9,0,1,…」のように順番に繰り返し得られる。この「余り」を値tとする。そうすると、値tを、基準局及び観測局を識別するID(=0〜10)と対応付けすることが可能となる。
【0050】
タイマ処理は、エポック周期に比べて短周期、ここでは10ms毎にコールが発生するように設定している。
【0051】
ステップS51で、あるエポックにおいて、値tが決まると、t=IDか否かが判断される(ステップS53)。すなわち、自局のIDと一致するか否かが判断される。一致しなければ、自局ではないとして、本フローをExitする。
【0052】
一方、自局のIDと一致すると、TDMA用カウンタが1だけインクリメントされ(ステップS55)、ここで、TDMA用カウンタのカウント値が50、すなわち500ms(=10ms毎のコール×50回)に達したか否かが判断される(ステップS57)。500msに達するまでは、本フローをExitする。これは、エポック1秒のうちの前半では、各局は測位用信号の受信、また基準局で受信信号の一斉送信処理を行うことから、かかる処理時間(処理の正常動作確保)を考慮して待機し、後半で、後述の処理を行うようにしている。ステップS57の判断は、エポック周期の前半側において実行される処理時間を考慮して、時間を設定すればよく、500msに限定されない。ただし、本実施形態では、1エポックの1/2以上の時間に設定して、後半にステップS57が2度Yesとならないようすることが好ましい。
【0053】
一方、ステップS57において、500msを経過すると、ID=0か否かが判断される(ステップS59)。これは、自局が基準局か観測局かを判断するものである。そして、自局が基準局である場合、基準局位置データが全ての観測局に一斉送信される(ステップS61)。そして、TDMA用カウンタが0にリセットされて(ステップS67)、本フローをExitする。
【0054】
一方、自局が観測局である場合、平均化処理が実行され(ステップS63)、次いで、平均結果が測位結果として基準局へ出力される(ステップS65)。平均結果は前述したように、基準局10を経由して監視部3に送信される。そして、TDMA用カウンタが0にリセットされて(ステップS67)、本フローをExitする。
【0055】
以上によれば、観測局20が9台ある場合、エポック10回毎に、各観測局20から順番に、それぞれの直近の10回分の測位結果が平均化された測位結果が監視部3に送信されることになる。なお、基準局位置データを、起動直後に1回だけの一斉送信で済ます態様では、ステップS59,S61を省略してもよい。この場合、9台の観測局20による平均化処理は9回となり、かつ平均化後の測位結果の送信周期も1秒早くなる。
【0056】
図10は、観測局が実行する平均化処理(ステップS63)を示している。まず、平均化用カウンタがクリアされる(ステップS71)。次いで、バッファリングデータの有無が判断される(ステップS73)。バッファリングデータがあれば、測位ステータスがFixかどうかが判断される(ステップS75)。測位ステータスとは該当するバッファに格納されているデータが所定の精度を有する状態のものかどうかを示すもので、Fixとは、所定の精度を有する(正常である)ことを意味する。
【0057】
バッファリングデータの測位ステータスがFixの場合、先頭のバッファの測位結果が取り込まれ(ステップS77)、次いで、平均化用カウンタが1だけインクリメントされて(ステップS79)、ステップS73に戻り、順次次のバッファの、最終的には10回分の測位結果が累積加算されるまで、ステップS75〜S79が繰り返される。なお、測位ステータスがFixでない場合には、不用意に誤差の増大を招き兼ねないことから、当該バッファの測位結果は平均化処理対象から外される。
【0058】
Fixされたバッファリングデータが全て累積加算されると、平均化用カウンタが0か否かが判断される(ステップS81)。平均化用カウンタが0でない場合、データ加算された値を回数で除算する平均計算が実行される(ステップS83)。一方、平均化用カウンタが0の場合、計算不能として、本フローをExitする。そして、平均化処理が終了すると、ステップS65に進み、平均化処理済みの測位結果が基準局10を中継して監視部3へ送信される。
【0059】
図11は、本システムに適用されるセンサ部1(GPS受信機)を用いて実験した結果をまとめたもので、(a)は緯度方向、(b)は経度方向、(c)は高さ方向における各平均回数と標準偏差との関係を示す図表である。本実験は、2台のGPS受信機を10m離して設置した位置関係で行った。スタティック測位処理は、エポック30秒毎、60分間のセッションで行った測位処理の平均値を示す。RTK測位処理は、0.5分、10分、30分及び60分でそれぞれ行った測位処理の平均値を示す。
図11(a)(b)から、緯度経度に関しては、RTK測位処理における0.5分平均処理での標準偏差σは、スタティック測位処理における標準偏差に比して2倍程度あることが判る。また、高さ方向においては、
図11(c)に示すように5倍程度ある。
【0060】
一方、RTK測位処理においては、0.5分から10分までの間の標準偏差の変化状況は、10分から30分、30分から60分までの対応する変化状況と比べると、母数比率が相対的に小さいにも関わらず、
図11(a)(b)に示す各線分の傾斜にみられるように、さほど差がないことが判る。具体的には、0.5分平均では測定データ30個の平均処理であり、10分平均では600個、30分平均では1800個、60分平均では3600個となる。従って、60分と30分との母数比率は1/2倍、30分と10分とでは1/3倍、これに対して10分と0.5分とでは1/20と相対的に小さい。このように、0.5分、すなわち30秒辺りでは、標準偏差σが線形的な変化ではなく、非線形的によりバラツキの少ない傾向を示しているということができる。従って、30秒程度の短い時間であっても高い測位精度が期待できる。
【0061】
なお、本発明は、以下の態様を採用することが可能であり、例えば、本実施形態では、センサ部1の通信部113,213を基準局10と観測局20との間の通信としたが、これに代えて、メッシュ型の他、ツリー型、スター型、リング型、それらの混合型(ハイブリッド)等のネットワーク通信が採用可能である。
【0062】
本実施形態では斜面の崩落や地滑りの監視用としたが、さらにダム等の大型構造物の形状変化の監視用にも適用可能である。
【0063】
また、本実施形態は、米国が運用するGPS衛星航法システムを含めて説明したが、さらに欧州のGALILEO、ロシアのGLONASS等の衛星航法システム(Global Navigation Satellite System)を含めてGNSS衛星航法システム対応としてもよい。
【0064】
また、衛星選択リストメモリ部1124,2124について、選択可能な衛星のリストとして説明したが、さらに推奨度に応じて測位結果に重み付けを行うようにしてもよい。
【0065】
また、平均化処理部2103では、単純平均としたが、さらに測位結果のバラツキや標準偏差σとの比較から重み付けを行うようにしてもよい。係る重み付けを施すことで、測位結果の精度をより高めることが可能なる。
【0066】
また、本実施形態では、監視部3をセンサ部1と分けて配置したが、例えば、監視部3の機能部を基準局10内に設けてもよい。これによれば、目的、用途等に応じて好適な態様が採用可能となる。
【0067】
(第2実施形態)
以下、
図12〜
図18を用いて、第2実施形態を説明する。前記実施形態では、基準局10を1個とした態様としたが、第2実施形態では、基準局を動的に変更する態様としたものである。基準局を動的に変更することで、測位結果の信頼性を確保(精度を維持)することが可能となる。
【0068】
RTK測位においては、搬送波のサイクルスリップをなくすため数分〜数十分をかけて初期化処理を行っている。例えば、
図12(A)に示すRTK測位システムにおいて、基準局(#0)としたときの観測できる基線ベクトルは、0−#1,0−#2,…,0−#nのn本である。これらn本の基線ベクトルは互いに独立であり、観測局における初期化が誤っていた場合でも、基線ベクトルの情報からは、その不当性を判断することはできない。
図12(B)は、基準局を観測局(#1)に変更したときの観測できるn本の基線ベクトル1−#0,1−#2,…,1−#nである。
図12(C)は両者の基線ベクトルを対応付けて表したもので、基準局を変更することで、全く独立した初期化による基線ベクトルを2組得ることができる。2組の各局(#0,…#n)の測位結果の1個にでも不一致がある場合、いずれの組の初期化が失敗したかは分からない。1組での初期化成功率を一般的な95%とした場合、2組の初期化の成功率は99.75%まで向上する。
【0069】
なお、以降において、観測局20が基準局として選択され、基準局として動作することから、第2実施形態では、特に断らない限り、基準局及び観測局を局(#0,#1,…,#n)と呼び、さらに、選択された基準局を選択基準局と呼び、それ以外の局を他局と呼ぶ。
【0070】
図13は、基準局と観測局の両方の機能を備えた局20aの機能ブロック図である。局20aは、
図2(A)及び
図2(B)の機能ブロックを備えている。
図2(A)及び
図2(B)は構造的には同一であり、機能は、基準局10としての処理を実行する処理プログラム及び観測局20としての処理を実行する処理プログラムを、メモリ部212aのプログラムデータメモリ部2121aに持つことで実現される。また、プログラムデータメモリ部2121aには、必要に応じて基準局と観測局とを動的に変更する変更プログラムを記憶する。なお、変更プログラムは、選択基準局から一斉送信された受信信号を受信する他局側のためのプログラムも含む。
【0071】
受信信号メモリ部2122aは、自局で受信した受信信号を記憶する。測位結果メモリ部2123aは、RTK測位処理の結果を一時的に記憶する。衛星選択リストメモリ部2124aは、測位精度面から推奨するなどの衛星のリストを記憶する。
【0072】
制御部21aは、処理プログラムを実行することによって、受信信号処理部2101a、RTK測位演算部2102a、必要に応じて設けられる平均化処理部2103a、及び通信処理部2104aとして機能する。
【0073】
受信信号処理部2101aは、測位用信号を放送の毎に受信する処理と、受信信号を受信信号メモリ部2122aに一時的に記憶する処理を行う。RTK測位演算部2102aは、自局が選択基準局以外(他局)の場合に機能するもので、選択基準局10から送信されてきた各GPS衛星Satの受信信号及び自局での各GPS衛星Satの受信信号を用いてキネマティック基線解析を行うRTK測位処理を実行し、測位結果を測位結果メモリ部2123aに記憶する。平均化処理部2103aは、必要に応じて採用されるもので、前記実施例で説明したように複数回分の測位結果の平均化処理を実行する。通信処理部2104aは、自局が選択基準局になった場合、受信信号メモリ部2122aに記憶された受信信号をエポック毎に他局に一斉送信する処理、及び各他局から受信した測位結果を監視部3に送信する処理を行う。また、通信処理部2104aは、自局が観測局(他局)の場合、選択基準局から一斉送信された受信信号を受信したり、算出後の測位結果を返送したりする処理を行う。
【0074】
基準局選出部2105aは、実施の態様によって用いられるもので、以下に示す監視部3の基準局選出部314が行う処理の一部を各局側で実行する場合の機能部である。
【0075】
図14は、監視部3の基準局選出部314が行う基準局の選択処理の一例を示すフローチャートである。この処理は、初期化の時点で行われ、また、好ましくは所定期間毎乃至はその他のタイミングで行われる。選択基準局は複数(2個以上の個数)の組合わせであればよく、以下では、説明の便宜上、2個の場合で説明する。基準選択局の2個ずつの組合わせは、候補リストとして、あるいは組合わせ演算式として予め測位結果記憶部312等の記憶部に格納されており、ステップS101で最初の組合わせ候補が設定される。
【0076】
次いで、ステップS103,S105では、最初に選択された組の第1候補基準局と第2候補基準局とに対する測位処理が実行される。すなわち、ステップS103では第1候補基準局に対してそれ以外の他局で得られた測位結果の受信が行われ、ステップS105では第2候補基準局に対してそれ以外の他局で得られた測位結果の受信が行われる。
【0077】
次いで、ステップS103,S105で得た測位結果から、対応する観測局同士の測位結果の照合、すなわち対応する位置情報の一致、不一致の処理が行われる(ステップS107)。なお、一致、不一致を判断する閾値は、信頼性の点からある範囲内として設定されており、例えばL1波を使用している場合であれば、その波長(19cm)の1/4(約5cm)以内であればよい。
【0078】
対応位置の測位結果が一致と判断されると(ステップS109)、この時の第1候補基準局及び第2候補基準局が、第1、第2の選択基準局として登録される(ステップS111)。登録内容は、通信処理部311を経て、各局(#0〜#n)に送信される。一方、ステップS109で不一致と判断されると、他の組合わせ候補に変更されて(ステップS113)、ステップS103に戻って、同様の処理が実行される。
【0079】
図15は、監視部3の基準局選出部314によって実行される基準局を決定する処理の一例を示すフローチャートである。選択基準局のうち、エポック毎にいずれを基準局とするかを決定する必要がある。ステップS121では、選択基準局のうちからエポック毎に、いずれを基準局とするかを決定する。選択基準局が本実施形態のように2個の場合、例えば予め設定された回数分のエポック毎に交互に切換える処理でよい。切換える期間は、例えば10分間というように時間幅で設定してもよく、また固定でなくてもよい。基準局が決定されると、例えば局番号の情報が各局に送信される(ステップS123)。その結果、各局は、今回のエポックにおいて自局が基準局か、他局かを認識できる。
【0080】
なお、監視部3の基準局選出部314から選択基準局の情報のみが通知送信される態様でもよく、この場合、各局に予め共通して記憶されている選択基準局からエポック毎の基準局を決定する決定プロセス(決定プログラム)を利用して、各局の基準局選出部2105aで基準局が決定されるようにしてもよい。これにより、各局は、自局が基準局か観測局(他局)かが識別可能となる。
【0081】
図16は、選択された基準局の受信信号の一斉送信タイミングの一例を示すタイムチャートである。
図16(A)は、局(#0)と局(#1)とが選択基準局として選択されており、それぞれ予め設定された時間、例えば共に10分間ずつ交互に基準局として機能する状態を示している。すなわち、0秒前の過去時点から1秒目までの間は局(#0)が基準局として機能して受信信号を一斉送信し、1秒目から次の10分間は局(#1)が基準局として機能して受信信号を一斉送信し、その後、局(#0)に切り替わっている状態を示している。なお、測位用信号の受信から一斉送信までの時間は、前述したような前半(T1)の500msに対してより高速、例えば前半の短時間で、例えば250msで行うようにしてもよい。
【0082】
また、
図16(B)は、本来の基準局である局(#0)は選択基準局の一方として固定とされ、残りの1個の選択基準局を局(#1)〜局(#n)から選出する態様の場合である。
図16(B)では、選択基準局として局(#0)と局(#1)とが選択されている。また、一斉送信の時間幅は、
図16(A)と同様に250msで行っている。
【0083】
図16(B)では、局(#0)は、前半の短時間の250msで、常時、基準局としての受信信号の一斉送信を行っている。一方、局(#1)が基準局となる期間(例えば10分)には、局(#1)からの受信信号の一斉送信は、1エポックの後半(T2)の短時間、例えば250msで行っている。これにより、局(#1)は、10分間隔で基準局と他局との機能を交互に切り替えている。このようにすれば、局(#0)が基準局として固定されるものの、局(#0)での一斉送信動作を周期的(10分間隔)に切換える処理が不要となる分、局(#0)の動作制御の負担が軽減される。なお、
図16(B)の場合、観測局となる他局は、一斉送信が前半のみ行われた場合には、局(#0)が基準局であると認識して受信し、一方、一斉送信が前半と後半の双方で行われた場合には、局(#0)とは異なる他の選択基準局(この例では、局(#1))が基準局であると認識して、後半の受信信号を受信することで、エポック毎に基準局から一斉送信された信号を区別して取り込むことが可能となる。この場合、観測局からの測位結果の送信は、後半(T2)内の750ms〜1000msの間に行えばよい。
【0084】
図17は、決定された基準局に対する、観測局におけるRTK測位演算処理の一例を示すフローチャートである。まず、いずれの局が今回のエポックにおける基準局かの識別処理が実行される(ステップS131)。次いで、今回のエポックにおける自局での測位用信号の取り込みが行われ(ステップS133)、さらに、識別された基準局から一斉送信された受信信号の取込みが行われる(ステップS135)。そして、1パケット分が取り込まれると(ステップS137)、基準局及び自局での受信信号からRTK測位演算が実行される(ステップS139)。なお、1パケット分が取り込まれない場合には、測位結果の演算はスルーされる。
【0085】
図18は、各局で行われる基準局の選択処理の他の例を示すフローチャートである。前記の例では、選択基準局を2個としたが、
図18では、汎用性を持たせて、任意の数の選択基準局のうちから、所定周期毎に基準局を決定するようにしている。なお、選択基準局の個数をn(>=2)で表す。
【0086】
まず、現在時刻の分への換算計算が行われる(ステップS141)。例えば、毎日の午前0時を基準にして現在時刻を、例えば(分)に換算する。次いで、監視部3から受信した情報である選択基準局のうち、今回のエポックにおいて、所定時間、例えば10分毎にいずれを基準局とするかの決定処理を行う(ステップS143)。決定処理の計算は、演算子modを採用した式(1)で行う。すなわち、
出力値=mod{(現在時刻(分)/10),n} …式(1)
式(1)の演算子modは、カッコ内の第1項の値を第2項の値nで除算した余りの1桁目の値を出力するものである。例えば、n=5とするとき、現在時刻(分)が0分から9分までは、出力値=0となる。現在時刻(分)が10分から19分までは、出力値=1となる。さらに、現在時刻(分)が40分から49分までは、出力値=4となる。そして、現在時刻(分)が50分から59分までは、出力値=0に戻る。従って、出力値は10分毎に0,1,2,3,4をサイクリックに繰り返す。そこで、出力値に5個の選択基準局を、予め共通したルールで、例えば局番号の小さい方から順番に対応付けて(割り当てて)おけば、選択基準局のうちから10分毎にサイクリックに基準局を決めることが可能となる。
【0087】
次いで、対応付けられた番号が自身の局番号か否かが判断され(ステップS145)、一致すれば、自局が今回の基準局として受信信号の一斉送信を行うなどする(ステップS147)。一方、自局の局番号と不一致であれば、他局(観測局)であるとして処理(ステップS147)をスルーし、観測局としての処理を行う。
【0088】
なお、選択基準局が、動的に変更されるため、各局で得た測位結果を、元々の基準局#0を経由して監視部3へ返送する固定的な態様に代えて、決定された基準局を経由して監視部3へ返送する態様としてもよい。また、
図18は、各局での処理に代えて監視部3の基準局選出部314で処理し、ステップS143の結果を用いて、対応する基準局を決定し、その決定結果を各局に通知送信する態様としてもよい。
【0089】
また、選択基準局の選出処理は、周期的に、あるいは現在の選択基準局を利用した変位監視において、少なくとも一方を基準局とした時の測位結果にバラツキが発生する等の信頼性の低下を生じた場合に行われることが好ましい。例えば、
図14に示すように、前述した決定プログラムによって、変位監視動作に代えて、複数の局(#0〜#n)のうちから、順次組合わせを変更しながら選択基準局を選出する。処理を行う。
【0090】
また、各局(#0〜#n)は固設タイプとしたが、制限された領域内を、例えば走行する複数のトラクタ等の車両を含む移動体に装備して、それらの位置変位を監視するシステムにも適用可能である。